説明

希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法

【課題】希土類系磁石合金材料からの希土類元素等の金属元素の分離回収に際し、煩雑な制御や操作等を不要と為し得る、簡便で且つ小スケールからでも実施可能な希土類元素を含む金属元素の回収方法を提供する。
【解決手段】所定温度に加温した硫酸水溶液において、磁石構成元素の硫酸塩を、その温度でそれ以上溶けない状態まで溶解させ、そこへ希土類系磁石合金材料を供給するようにして、希土類系磁石合金材料を硫酸と反応溶解させると共に、磁石構成元素の硫酸塩を析出せしめた後、かかる析出した硫酸塩を焼成して、鉄の硫酸塩を酸化鉄に変え、次いでその焼成残渣を水に浸漬して、他の磁石構成元素の硫酸塩を溶解せしめて、酸化鉄から分離した後、その得られた硫酸塩の水溶液から、抽出処理及び/又は沈殿処理により、他の磁石構成元素を分離、回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法に係り、特に、希土類系磁石合金のスクラップから、希土類元素や鉄、その他の有用金属元素を再利用し得る形態において、分離回収する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石やモーター、電極、ガラス研磨剤等の様々な分野において、希土類元素が利用されており、そこでは、それらのスクラップ又は製造工程からの合金屑等として、希土類元素を含有した排出物乃至は廃棄物が発生している。而して、希土類元素は希少資源であるところから、その有効利用を図るべく、そのような排出物乃至は廃棄物から、希土類元素を回収する手法や再利用するための手法に関して、技術開発や検討が盛んに行われている。
【0003】
また、最近では、希土類元素の需要拡大に加えて、産出国の政策や政情不安等によって希土類元素の市場価格が大きな影響を受け、その変動が著しくなってきている。そして、これを受けて、従来からの希土類元素の回収技術に加え、更に実用上において有用な種々の回収方法の検討、開発が進められている。
【0004】
ところで、希土類元素含有合金から希土類元素を回収する方法としては、従来から、強酸中において完全溶解させる手法が知られている。この方法によれば、希土類元素含有合金の全量を、適量の強酸水溶液に完全に溶解させた後、シュウ酸、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化アルカリ、酸化剤、還元剤等を適切に組み合わせて添加し、pHや酸化還元電位を制御することにより、かかる希土類元素の強酸溶解液から希土類元素が分離回収され得ることとなる。
【0005】
しかしながら、かかる強酸溶解液からの分離回収方法にあっては、希土類元素含有合金の溶解速度が速くなり過ぎるため、発生する水素を安全に逃がすにあたっての制御が煩雑になることに加えて、pHや酸化還元電位の細かな調整が必要となるのであり、そのために、酸化剤や還元剤等の取扱いが必要となる上に、希土類元素を回収した後の、シュウ酸やアンモニア、酸化還元剤及び鉄、その他の金属等を多量に含んだ酸廃液が発生することとなる。そこで、かかる酸廃液を中和するために多量のアルカリが必要となるのであり、また、その中和排水及び析出する多量の水酸化物の処理や、そのための設備が必要となる等の問題が内在し、このため、経済性等の観点から、より安価で、簡便な希土類元素の回収法の開発が検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、希土類元素−鉄合金の粉体を空気酸化して、鉄等の成分を酸難溶性の酸化物とした上で、強酸中へ希土類元素を選択的に浸出させる方法が、明らかにされている。また、特許文献2には、希土類元素含有合金スクラップを、水素化処理を繰り返すことによって、均一に粉砕した後、これを加熱して酸化させ、次いで強酸中へ浸漬して、pHや酸添加量を制御しながら、希土類元素を選択的に浸出させる方法が、提案されている。
これらの方法によれば、鉄等の成分が、先に、酸難溶性の酸化物に変換されることとなるところから、酸溶液の使用量を著しく少なくすることが出来るという利点はあるが、鉄等の成分の溶出を抑えつつ、希土類元素の溶出率を高く保つためには、回収対象合金の粉砕、酸化処理、pH等の制御が適宜に必要となり、また、粉砕のための専用の設備や安全管理が必要になる等の問題を内在しているのである。更に、鉄、その他の成分を全て酸化物に変えてしまうものであるところから、後工程において、ニッケルやコバルト等の有用金属元素を、その酸化物から分離回収するには、含有量が少ない上に、手間が多くかかることとなり、工業的に実施するのは困難となるものであった。
【0007】
また、別の希土類元素の回収法として、特許文献3には、希土類磁石の屑を硫酸溶液中に溶解させる一方、その不溶解成分を除去し、そして鉄が析出しない条件下で希土類元素の硫酸塩を選択的に析出させて、その硫酸塩を焼成することにより、希土類元素の酸化物を回収する技術が明らかにされている。
【0008】
そして、この回収技術によれば、希土類元素の硫酸塩と硫酸鉄を別々に析出させて分離回収することが可能となり、更に、残りの溶解液を再び希土類元素の溶解工程に使用することが出来るところから、廃酸溶液が発生しないという利点が得られるのであるが、そこでは、希土類磁石の屑を溶解させる際に、硫酸塩が析出しないようにするために、ある程度の硫酸溶液の液量が必要とされ、そのために、装置スケールが大きくなると言う問題がある。加えて、晶析工程では、鉄を析出させずに希土類元素の硫酸塩を選択的に析出させるために、液量や硫酸濃度、晶析剤の添加量、酸化還元電位、pH等の制約があり、これらを適宜に調整する必要があって、煩雑となり、実用上において、充分なものではなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平5−14777号公報
【特許文献2】特許3777226号公報
【特許文献3】特開2007−231379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、希土類系磁石合金材料からの希土類元素等の金属元素の実用的な分離回収方法を提供することにあり、また、他の課題とするところは、希土類系磁石スクラップの粉砕や、そのための専用設備、更には、煩雑な制御や操作等を不要と為し得る、簡便で且つ小スケールからでも実施可能な、コンパクトな希土類元素を含む金属元素の回収方法を提供することにあり、更に、別の課題とすることろは、希土類元素だけでなく、鉄やその他の有用金属元素をも安価に再利用することの出来る形で分離回収する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題の解決のために、(a)希土類系磁石合金材料を構成する希土類元素を含む金属元素の硫酸塩を、飽和状態で含む硫酸水溶液を用いて、該硫酸水溶液中に前記希土類系磁石合金材料を存在せしめた状態下において、該硫酸水溶液を50℃〜100℃の温度に加温することにより、該希土類系磁石合金材料の溶解を進行せしめる一方、前記金属元素の硫酸塩を析出せしめる第一の工程と、(b)該第一の工程で析出した金属元素の硫酸塩を、前記硫酸水溶液から取り出して、480〜735℃の温度で焼成することにより、該金属元素の硫酸塩中の鉄の硫酸塩を熱分解させて、酸化鉄に変える第二の工程と、(c)該第二の工程において得られた、前記酸化鉄を含む焼成残渣を、水に浸漬して、鉄以外の残余の金属元素の硫酸塩を溶解せしめた後、該残余の金属元素の硫酸塩の水溶液と、水には溶解されなかった酸化鉄とを分離する第三の工程と、(d)該第三の工程において分離された前記残余の金属元素の硫酸塩の水溶液から、抽出処理及び/又は沈殿処理により、希土類元素及びその他の有用金属元素を分離、回収する第四の工程と、を含むことを特徴とする希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法を、その要旨とするものである。
【0012】
なお、このような本発明に従う希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法においては、有利には、前記希土類系磁石合金材料として、ネオジム−鉄−ボロン系磁石合金材料が対象とされることとなる。
【0013】
また、かかる本発明に従う分離回収方法の望ましい態様の一つによれば、前記第四の工程における抽出処理を、抽出剤として酸性リン酸エステルを用いて実施した後、その得られた抽出液を、抽出される希土類元素の硫酸塩を飽和状態で含む硫酸水溶液にて逆抽出することにより、該希土類元素を硫酸塩の固体形態において取り出す工程が、有利に採用されることとなる。そして、そのようにして取り出された希土類元素の硫酸塩を、強アルカリ水溶液に混合することにより、かかる希土類元素の水酸化物を生成せしめ、更に、その水酸化物を分離した後、焼成して、該希土類元素の酸化物を回収することも、有利に行なわれるのである。なお、このような工程において抽出される希土類元素としては、一般に、ジスプロシウムが対象とされることとなる。
【0014】
さらに、本発明に従う分離回収方法の別の望ましい態様の一つによれば、前記第四の工程における抽出処理を、抽出剤として酸性リン酸エステルを用いて実施して、その生じた抽出残液を用い、該抽出残液中に存在する希土類元素を、沈殿剤により沈殿物として取り出す工程が、有利に採用される。なお、そこでは、沈殿剤として、炭酸ナトリウムが好適に用いられて、前記抽出残液中の希土類元素が、塩形態において、換言すれば塩形態の沈殿物として取り出されることとなる。そして、そのようにして取り出された希土類元素の沈殿物は、強アルカリ水溶液にて、かかる希土類元素の水酸化物に変換され、更に、その水酸化物を固液分離した後、焼成して、該希土類元素の酸化物を回収するようにすることも、有利に採用されるのである。また、そのような抽出残液中に存在する希土類元素としては、有利には、ネオジムが対象とされる。
【発明の効果】
【0015】
そして、このような本発明に従う希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法によれば、そのような希土類系磁石合金材料を構成する、希土類元素を含む金属元素の硫酸塩を、飽和状態で含む硫酸水溶液を用いて、この硫酸水溶液中において、かかる希土類系磁石合金材料の溶解を進行せしめる一方、希土類系磁石合金材料と構成する各種金属元素の硫酸塩が効果的に析出せしめられ得ることとなったのであり、また、その析出した金属元素の硫酸塩を所定の温度で焼成して、鉄の硫酸塩のみを熱分解させて、酸化鉄として分離する一方、残余の金属元素の硫酸塩を水溶液として、それを、抽出処理及び/又は沈殿処理することによって、目的とする希土類元素やその他の有用金属元素を効果的に分離回収することが出来るのである。
【0016】
従って、本発明に係る分離回収方法は、希土類元素を強酸溶液として取り出す従来の酸溶解法と比べて、より少ない液量で、希土類系磁石合金材料を溶解することが出来、且つそのような磁石合金材料の粉砕や、そのための専用設備も不要となるのであり、更には、煩雑な制御や操作も一切不要となるところから、簡便で、小スケールにおいても、分離回収操作を容易に行うことが出来る特徴があり、また、希土類元素だけでなく、従来法では含有量が少ないために軽視されていた鉄やその他の有用金属元素をも、安価に再利用し得る形において、分離回収することが出来る特徴を有しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】希土類系磁石スクラップとして、ネオジム−鉄−ボロン系磁石材料を用いて、それに、本発明を適用した一例に係る工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明に従う工程において得られた希土類元素の硫酸塩(沈殿物)から、希土類酸化物を得る工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例において得られた希土類系磁石スクラップの未溶解残分の重量と経過時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明に従う分離回収方法において対象とされる希土類系磁石合金材料は、希土類元素を構成成分として含有する希土類系磁石合金の製造工程で発生する磁石屑乃至はスクラップや、そのような磁石合金を用いた製品から回収された磁石屑乃至はスクラップであり、希土類元素を含む公知の各種の磁石合金からなるものであって、例えば、ネオジム−鉄−ボロン系やサマリウム−コバルト系等の磁石合金を挙げることが出来る。また、それらの磁石合金には、必要な機能に合わせて、ジスプロシウム、テルビウム、セリウム、プラセオジム等の希土類元素が適宜に添加含有せしめられている他、鉄、コバルト、ニッケル等の有用金属元素も含有せしめられている。中でも、本発明は、希土類元素−鉄系、特にネオジム−鉄−ボロン系の磁石合金材料に対して、有利に適用されることとなる。なお、そのような磁石合金材料は、その製造工程から排出された材料や、製品から回収された材料を、その状態のままで用いることが可能であって、特別に粉末化する必要はないが、それが大きな塊状形態の場合には、必要に応じて、粗砕や粉砕等によって適当な大きさとした後、用いることが出来ることも言うまでもないところである。
【0019】
ところで、通常、希土類系磁石スクラップを硫酸溶液に溶解させるに際しては、かかる希土類系磁石スクラップの構成元素が全て溶解されるに足る当モル量以上の硫酸と、硫酸塩の析出が起こらない量の水が確保されるようにして、行われることとなる。そして、このような方法で、希土類系磁石スクラップの溶解を行う場合においては、希土類系磁石スクラップの1kgに対して、6〜10Lの硫酸溶液が必要とされている(特許文献3参照)。なお、そこにおいて、硫酸溶液に含まれる水の量が不足した状態で、希土類系磁石スクラップの溶解を行うと、それら硫酸溶液やスクラップの供給直後は、かかるスクラップの溶解が進行するものの、硫酸塩が析出するようになると、程なくして、スクラップ表面が析出する硫酸塩に覆われて、スクラップの溶解が停止するようになるのである。
【0020】
このため、本発明にあっては、先ず、希土類系の磁石合金材料である磁石スクラップを構成する各種金属元素の硫酸塩が飽和状態にある硫酸水溶液中において、その溶液の温度を、50℃以上、100℃以下の温度に加温して、そのような希土類系磁石スクラップの溶解を進行せしめる一方、それら磁石構成元素を硫酸塩の固体として析出せしめる第一の工程が、採用されることとなる。ここで、飽和状態とは、希土類系磁石スクラップの溶解と同時に、かかるスクラップの溶解量に見合った量のスクラップ構成元素の硫酸塩が析出する状態を表している。なお、そのようなスクラップ構成元素の硫酸塩が飽和状態にある硫酸水溶液には、希土類系磁石スクラップが溶解されて、その構成元素の各種硫酸塩の水和物を生成するに足る量以上の硫酸(H2SO4)と水(H2O)が含まれておればよく、一般に、重量基準で、50%〜70%程度の濃度の硫酸水溶液の状態において、飽和状態とされている。
【0021】
また、かかる第一の工程では、各種の磁石構成元素(金属元素)の硫酸塩が飽和状態にある硫酸水溶液には、それが50℃以上、好ましくは60℃以上、特に好ましくは65℃以上に加温された状態において、希土類系磁石スクラップが供給されるようにすると、硫酸鉄7水和物の結晶が磁石スクラップの表面に成長し難くなって、かかる磁石スクラップの溶解が有利に進行せしめられ得るのである。ここで、硫酸鉄7水和物の結晶は、液面や壁面、スクラップ表面への析出、成長が著しく、かかるスクラップの溶解を阻害する要因となっているのであるが、50℃以上、好ましくは60℃以上では、硫酸鉄7水和物に代わって、硫酸鉄4水和物の結晶が析出し、65℃以上では、硫酸鉄1水和物の結晶が析出するようになって、磁石スクラップの溶解が、より早く進行するようになるのである。なお、そのような硫酸水溶液の加温温度の上限としては、一般に、水分の蒸発を回避すると共に、装置材質や省エネルギ等の観点から、100℃以下、好ましくは80℃以下とされることとなる。
【0022】
そして、そのような第一の工程では、磁石構成元素の硫酸塩を飽和状態で含む硫酸水溶液が、希土類系磁石スクラップの1kgに対して、一般に、2L以上、好ましくは3〜10L程度、特に好ましくは4〜6L程度の割合で用いられ、これによって、磁石構成元素の硫酸塩が充分に析出した後においても、かかる硫酸塩を含む硫酸水溶液の流動性が効果的に維持され、析出した硫酸塩が濾別、回収され易くなると共に、そのような処理に関わる装置スケールを小さくすることが出来るのである。なお、この第一の工程は、回分方式又は連続方式の何れの方式でも実施可能であるが、連続方式を採用した場合には、析出する硫酸塩として消費される硫酸分や水分が、連続的に或いは断続的に系内に供給されることとなる。
【0023】
次いで、かかる第一の工程で析出した磁石構成元素の硫酸塩(混合物)は、硫酸水溶液から取り出された後、480℃以上、735℃以下の温度で焼成されて、磁石構成元素の硫酸塩の中の鉄の硫酸塩が熱分解されて、酸化鉄に転化せしめられ、以て、酸化鉄を含む焼成残渣が形成される(第二の工程)。
【0024】
この第二の工程における、各種の磁石構成元素の硫酸塩(混合物)の焼成は、大気中において、例えば、電気炉等の公知の加熱炉を用いて実施することが出来、その際、各種硫酸塩の混合物中の鉄の硫酸塩(硫酸鉄)は、480℃以上の温度で熱分解して、水に対して難溶性の酸化鉄に変化していく。これに対して、希土類元素の硫酸塩やコバルト、ニッケル等の有用金属の硫酸塩は、硫酸鉄よりも遙かに高温で熱分解されるものであるところから、この第二の工程における焼成温度の上限としては、735℃とすることが望ましく、それよりも高い焼成温度が採用されると、他の磁石構成元素の硫酸塩、中でも硫酸コバルトが熱分解して、水に対して難溶性の酸化コバルトに変化して、酸化鉄との分離回収が困難となる問題を惹起する。なお、この第二の工程における焼成温度としては、特に、600〜708℃の温度が好適に採用されることとなる。
【0025】
そして、かかる第二の工程で得られる焼成残渣を構成する、酸化鉄と残余の磁石構成元素の硫酸塩とは、それらの水に対する溶解性が異なり、水に対する難溶性の酸化鉄に対して、残余の磁石構成元素の硫酸塩である希土類元素の硫酸塩や、コバルト、ニッケル等の金属元素の硫酸塩は、水に対して易溶性であるところから、その特性を利用して、両者が、第三の工程において容易に分離せしめられるのである。即ち、この第三の工程においては、前記第二の工程で得られた焼成残渣を水に浸漬して、残余の磁石構成元素のそれぞれの硫酸塩を水に溶解させる一方、水には溶解されなかった酸化鉄の粒子を濾別する等して、酸化鉄のスラッジと残余の磁石構成元素の硫酸塩の溶解液(水溶液)とに分離せしめられるのである。
【0026】
なお、そのような焼成残渣の浸漬に必要な水の量は、残余の磁石構成元素の硫酸塩の量及び組成から、計算により又は実験値から把握することが出来、ここでは、そのような硫酸塩の全量が室温で充分に溶解するに足る量の水が用いられることとなる。また、酸化鉄の粒子と残余の磁石構成元素の硫酸塩の溶解液との分離は、公知の濾過方式が採用される他、単なる沈降分離方式によっても行うことが可能である。更に、酸化鉄スラッジの精製や、残余の磁石構成元素の収率低下を抑制する観点から、分離して得られる酸化鉄スラッジの水洗を行ない、その洗液も濾液等として、分離される残余の磁石構成元素の硫酸塩の溶解液と併せて回収することが好適に採用されることとなる。なお、ここで得られる酸化鉄スラッジは、酸化鉄成分として有効利用されることとなる。
【0027】
その後、かかる第三の工程で分離された、残余の磁石構成元素の硫酸塩の溶解液(水溶液)からは、抽出処理若しくは沈殿処理、又はそれらを組み合わせて用いて、残余の磁石構成元素である希土類元素やコバルト、ニッケル等の他の有用金属元素が、分離され又精製され、そして回収される第四の工程が実施される。
【0028】
なお、この第四の工程において採用される抽出処理や沈殿処理には、公知の各種の手法が適宜に採用されて、目的とする希土類元素やコバルト、ニッケル等の他の有用金属元素が分離・回収・精製せしめられるところであって、例えば、特開昭60−122718号公報や特開平2−80530号公報等に明らかにされている如く、ジアルキルリン酸エステル等の各種の酸性リン酸エステルを抽出剤として使用して、前記した残余の磁石構成元素の硫酸塩の溶解液から、所定の希土類元素の抽出、相互分離及び精製を行うことが出来、また、希土類元素の沈殿剤として、公知のフッ酸、シュウ酸、重炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等を添加することにより、そのような硫酸塩の溶解液から、希土類元素を所定の沈殿物として回収することが出来、更には、それら抽出分離と沈殿分離の2つを組み合わせて、目的とする希土類元素等の有用金属元素を所定の抽出成分乃至は沈殿物として取り出すことが出来る。
【0029】
また、かかる第四の工程において、抽出処理及び/又は沈殿処理による抽出及び/又は沈殿物の生成によって、希土類元素を分離回収した後、更に、上記した硫酸塩の溶解液中に残ったコバルトやニッケル等の有用金属元素を、例えば、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウム等を添加してpH調整することにより、例えば、かかる溶解液のpHを7超のアルカリ性とすることによって、水酸化物の沈殿として回収するようにすることも、可能である。その他、上記の第四の工程における、目的とする金属元素の分離、回収、精製には、他の公知の各種の沈殿剤や抽出剤を用いることが可能であり、また、そのような第四の工程で分離回収された金属元素の抽出物や沈殿物を、焼成等の方法により、酸化物として回収することも可能である。
【0030】
そして、本発明にあっては、上記した第四の工程において、抽出処理を、抽出剤として酸性リン酸エステルを用いて実施した後、その得られた抽出液を、そこで抽出される希土類元素の硫酸塩を飽和状態で含む硫酸水溶液にて逆抽出を行うことにより、かかる希土類元素を硫酸塩の固体形態において取り出すことが可能である。なお、そこで用いられるジアルキルリン酸エステル等の酸性リン酸エステルは、希土類元素の逆抽出を行う際に供される硫酸の濃度が高いほど、希土類元素の分配が水相側に大きく偏る性質があり、これによって、少量・少接触回数での逆抽出が可能となっている。そして、このような逆抽出操作において、硫酸濃度が10重量%以上、好ましくは20〜50重量%の硫酸水溶液を用いるようにすることによって、目的とする希土類元素を硫酸塩の固体として取り出し、その時に消費された硫酸分を補充するようにすることによって、かかる逆抽出操作に使用される硫酸水溶液の再使用を可能とすることが出来るのである。なお、そのような硫酸水溶液の硫酸濃度が10重量%未満となっても、前記した逆抽出操作を行うことは可能であるが、その場合には希土類元素の分配の偏りが油相側に大きくなって、逆抽出を充分に行うことが困難となり、希土類元素の収率低下や他の有用金属元素の回収純度の低下が惹起され易くなる。
【0031】
また、本発明にあっては、上述の如くして得られた希土類元素の硫酸塩を、強アルカリ水溶液に混合せしめることにより、かかる希土類元素の水酸化物を生成、析出せしめ、そして、この水酸化物を分離し、水洗した後に、焼成することにより、希土類元素の酸化物として回収することも、有利に採用されることとなる。なお、そこで用いられる強アルカリ水溶液としては、例えば、25重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液が使用される。また、そのような強アルカリ水溶液は、それが使用された後に、その時消費されたアルカリ分を補充することによって、上記した希土類元素の水酸化物の生成工程に再使用することが可能である。
【0032】
なお、希土類元素の硫酸塩を強アルカリ水溶液と混合すると、希土類元素の水酸化物の結晶と硫酸アルカリが生成するが、その水酸化物の結晶は溶液中において析出することとなるために、公知の方法で分離し、水洗した後に、比較的に低温で焼成して、かかる希土類元素の酸化物として容易に回収することが出来るのである。これに対して、希土類元素の硫酸塩からも、それを単に焼成することにより、酸化物とすることが出来るが、その酸化には、1380℃以上の高温条件と専用の加熱炉(焼成炉)が必要となるものであるところ、上述のように、水酸化物の形態とすることにより、比較的低温の焼成操作にて、希土類元素の酸化物を容易に取り出すことが出来るのである。
【0033】
また、本発明にあっては、前記した第四の工程における抽出処理を、抽出剤として酸性リン酸エステルを用いて実施することにより、そこで生じた抽出残液に含まれる希土類元素を回収することも、有利に実施されることとなる。そこでは、その抽出残液中に存在する希土類元素を、沈殿剤により、沈殿物として取り出す手法が好適に採用され、更に、その沈殿剤としては、炭酸ナトリウムが有利に用いられて、抽出残液中の希土類元素が、硫酸塩や炭酸塩、更には、その複塩の如き塩形態において析出せしめられて、取り出されることとなる。なお、そのような塩形態においての析出は、一般に、抽出残液のpHを、炭酸ナトリウムを加えて、pH4〜7程度にpH調整することによって実現され、特に、抽出残液中に存在する希土類元素がネオジムである場合において、好適に採用されることとなる。
【0034】
ところで、このような本発明に従う希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法の具体的な一例が、フローチャートの形態において、図1に示されている。そこでは、希土類系磁石合金材料として、ネオジム−鉄−ボロン系磁石材料が用いられて、それが、磁石構成元素の硫酸塩の飽和溶液(硫酸水溶液)に対して、消費される硫酸分や水分の補充のための硫酸水溶液を追加しつつ、連続的に溶解せしめられる一方、かかる磁石構成元素の硫酸塩が析出せしめられるようになっている。そして、そのような第一の工程において得られた析出物は、第二の工程において焼成され、硫酸鉄が酸化鉄とされた後、第三の工程では、水には溶解されない酸化鉄が分離回収されることとなる。
【0035】
その後、第三の工程において水に溶解された残余の磁石構成元素の硫酸塩は、まず、抽出操作にて希土類元素の一つであるジスプロシウムが取り出され、更に、硫酸塩の飽和硫酸水溶液を用いた逆抽出操作にて有機相からジスプロシウム硫酸塩として取り出される一方、濾過により分離された液体は、分液操作にて有機相(抽出剤)と水相とに分離されて、水相には消費された硫酸水溶液が補充されて、逆抽出操作に再びりようされるようになっている。一方、前記抽出操作にて分離された水相中に存在するネオジムやコバルトの硫酸塩は、炭酸ナトリウムを順次加えて、液pHを上昇せしめることにより、先ず、ネオジムの硫酸塩(複塩)を析出せしめ、更に、炭酸ナトリウムを加えてpHを上昇せしめて、アルカリ性とすることにより、コバルトの水酸化物を析出させ、そしてそれを焼成することによって、酸化コバルトが取り出されるようになっている。
【0036】
また、上述の如き金属元素の分離回収方法において、取り出される希土類元素の硫酸塩は、その複塩等の沈殿物をも含んで、強アルカリ水溶液にて、希土類元素の水酸化物を生成せしめ、そして、その水酸化物を分離した後、焼成することにより、かかる希土類元素の酸化物として回収することも、有利に採用されるところであり、その工程の一例に係るフローチャートが、図2に示されている。そこにおいて、希土類元素の硫酸塩は、上記した第四の工程において、抽出と逆抽出と濾過とによって取り出されたジスプロシウムの硫酸塩や、抽出操作にて得られた水相に対する沈殿剤:炭酸ナトリウムの添加によって析出せしめられて、濾過により取り出された沈殿物たるネオジムの硫酸塩(複塩)が、その対象とされている。そして、そこでは、それらの硫酸塩が、循環せしめられる硫酸ナトリウムの飽和溶液(水溶液)に対して、補充される強アルカリとしての水酸化ナトリウムと共に、添加されることにより、希土類元素の水酸化物として析出、沈殿せしめられ、濾過によって取り出された後、焼成されて、目的とする希土類の酸化物として、取り出されるようになっているのである。
【0037】
かくの如く、本発明に従う希土類系磁石スクラップからの希土類元素等の有用な金属元素の分離回収方法によれば、かかる希土類元素を溶液として取り出す従来の酸溶解法と比べて、より少ない液量にて、かかる磁石スクラップを溶解することが出来、且つそのような磁石スクラップの粉砕や、そのための専用設備、更には、煩雑な制御等が一切不要となるのであり、それによって、簡便で小スケールからでも容易に実施することが出来る特徴を有しているのである。また、希土類元素だけでなく、従来法では含有量が少ないために軽視されていた、鉄やその他の有用金属元素をも、安価に再利用することが出来る形において分離回収することが出来ることとなったのである。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0039】
先ず、ネオジム:22.1重量%、ジスプロシウム:6.3重量%、鉄:69.2重量%、コバルト:1.5重量%、ボロン:1.0重量%なる組成を有する、ネオジム−鉄−ボロン系の希土類系磁石スクラップを用いて、この磁石スクラップを構成する各種金属元素の硫酸塩が飽和状態にある硫酸溶液を、次のようにして調製した。
【0040】
すなわち、60重量%の硫酸水溶液を、温水浴によって60℃に加温しつつ、且つ消費される硫酸分と水分とを適宜に補充しつつ、かかる硫酸水溶液に対して、上記の希土類系磁石スクラップを次々と溶解させ、このスクラップを構成する金属元素の硫酸塩が飽和状態に到達した時点で、濾過して、濾液を回収することにより、それぞれの磁石構成元素の硫酸塩を全て飽和状態で含む硫酸溶液を得た。
【0041】
次いで、かかる調製された各種硫酸塩を飽和状態で含む硫酸溶液の2Lに対して、前記希土類系磁石スクラップの385gを投入し、温水浴によって、60℃に加温しながら、攪拌することにより、かかる希土類系磁石スクラップの溶解を進行せしめ、所定の時間毎に、硫酸溶液中の磁石スクラップの未溶解残分の重量を測定し、その結果を、図3に示した。
【0042】
同様にして、温水浴による加温温度を45℃、55℃、65℃又は75℃として、上記の希土類系磁石スクラップの溶解を進行せしめ、所定時間毎に、かかる磁石スクラップの未溶解残分の重量を測定し、それぞれの結果を、図3に併せ示した。
【0043】
図3に示される結果より明らかな如く、各種の磁石構成元素の硫酸塩を、それぞれ飽和濃度で含む硫酸溶液中において、希土類系磁石スクラップの溶解を行う場合において、かかる硫酸溶液の温度が、50℃よりも低い、45℃の温度に加温されている場合には、希土類系磁石スクラップの溶解は殆ど進行していないのに対して、50℃を超える温度に加温された場合にあっては、その加温温度が高くなる程、希土類系磁石スクラップが迅速に溶解され、その未溶解残分の重量が少なくなっていることが、認められるのである。
【0044】
その後、上記で得られた磁石構成元素の硫酸塩を飽和状態で含む硫酸溶液に、前記した希土類系磁石スクラップの385gを投入して、温水浴によって60℃に加温しつつ、攪拌することにより、かかる希土類系磁石スクラップの溶解を進行させる一方、磁石構成元素の硫酸塩を析出せしめた。そして、かかる希土類系磁石スクラップの溶解の開始から140時間の後、磁石スクラップの未溶解部分を取り出す一方、硫酸溶液中に析出した各種磁石構成元素の硫酸塩の混合物を濾別して、回収した。その得られた硫酸塩の混合物は、ICP−AES分析により、ネオジム:84.7g、ジスプロシウム:24.1g、鉄:265.7g、コバルト:5.4g、ボロン:0.4gを含んでおり、溶解せしめた希土類系磁石スクラップに含まれていた量に対して、ネオジム:99.8%、ジスプロシウム:99.1%、鉄:99.7%、コバルト:95.1%、ボロン:10.6%を含むものであった。
【0045】
次いで、かかる濾別された硫酸塩の混合物の全量を、空気中において、680℃の温度で6時間の間焼成して、そのような硫酸塩混合物中の硫酸鉄を酸化鉄に変化させた後、その焼成残渣(酸化鉄+残余の硫酸塩)を、4.8Lの水に10時間浸漬することにより、残余の硫酸塩を、水に溶解せしめた。更に、そのようにして得られた水溶液を濾過することにより、水に溶けなかった酸化鉄の粒子を分離し、水洗して、酸化鉄のスラッジを得る一方、残余の硫酸塩の溶解液を、濾液として、回収した。
【0046】
なお、かかる得られた酸化鉄のスラッジは、鉄:264.8gを含んでおり、溶解させた希土類系磁石スクラップに含まれていた量に対して、鉄:99.4%を含むものであった。一方、得られた残余の硫酸塩の溶解液は、ネオジム:84.5g、ジスプロシウム:23.9g、鉄:1.2g、コバルト:5.3g、ボロン:0.4gを含んでおり、溶解させた希土類系磁石スクラップに含まれていた量に対して、ネオジム:99.5%、ジスプロシウム:98.5%、鉄:0.5%、コバルト:93.3%、ボロン:10.5%を含むものであった。なお、これら金属元素の含有量は、ICP−AES分析にて求められたものである。
【0047】
かくして得られた残余の硫酸塩の溶解液(水溶液)を抽出原料として用い、それに対して、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト/n−ドデカン=30/70(体積比)の組成からなる酸性リン酸エステル系の抽出剤と、通常の向流多段抽出装置とを用いて、ジスプロシウムの分離・精製を実施した。また、ジスプロシウムの精製には、10重量%の硫酸水溶液が用いられた。なお、上記の抽出剤を構成する、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイトには、SC有機化学社製の「A208」(商品名)を用い、n−ドデカンには、ジャパンエナジー社製の「N12D」(商品名)を用いた。
【0048】
ここで、上記の向流多段抽出には、全12段を用い、その1段目からは、抽出剤を50mL/分の割合で供給し、また、12段目からは10%硫酸水溶液を5mL/分の割合で供給して、それぞれ向流方式において流し、更に、4段目からは抽出原料を45mL/分の割合で供給するようにして、行った。そして、向流多段抽出装置の各出口から、抽出残液(水相:ネオジム、コバルト含有)及び抽出剤(油相:ジスプロシウム、鉄含有)を、それぞれ、回収した。
【0049】
かくして得られた抽出残液、抽出剤及び供給した抽出原料中の金属成分(ネオジム、ジスプロシウム、鉄、コバルト、ボロン)の含有量を、ICP−AES分析にて測定し、その結果を、下記表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
かかる表1の結果から明らかなように、酸性リン酸エステル系抽出剤を用いることにより、ジスプロシウムが高効率にて抽出される一方、抽出残液には、抽出原料中のネオジムやコバルトがそのまま残存していることが、認められるのである。
【0052】
次いで、上記で得られた抽出剤(油相:ジスプロシウム、鉄含有)の1Lに対して、ジスプロシウムの硫酸塩が飽和状態にある、硫酸濃度が40重量%相当の硫酸水溶液1Lにて逆抽出を行うことにより、ジスプロシウムを硫酸塩の固体として析出させた。そして、この析出した硫酸塩を濾過により取り出した後、静置分離して、抽出剤(逆抽出済みのもの)と硫酸水溶液とを分離回収した。
【0053】
このようにして得られたジスプロシウムの硫酸塩は、ジスプロシウム:4.2gを含んでおり、先の抽出剤(油相:ジスプロシウム、鉄含有)に含まれる量に対して、ジスプロシウム:96.6%を含むものであった。また、鉄は検出されなかった。一方、得られた抽出剤(逆抽出済み)は、ジスプロシウム:0.15g、鉄:0.04gを含んでおり、先の抽出剤(油相:ジスプロシウム、鉄含有)に含まれる量に対して、ジスプロシウム:3.5%、鉄:18.2%を含むものであった。
【0054】
一方、先の酸性リン酸エステル系抽出剤(ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト/n−ドデカン=30/70)を用いた抽出操作において分離された抽出残液(水相:ネオジム、コバルト含有)の1Lに対して、攪拌しながら、20重量%の炭酸ナトリウム水溶液を滴下して、pH6.2に調整することにより、ネオジムの硫酸塩(炭酸と硫酸との複塩)を析出せしめた。次いで、この析出したネオジムの硫酸塩を、濾別、水洗して、硫酸塩と濾液とを分離回収した。
【0055】
このようにして得られたネオジムの硫酸塩は、ネオジム:15.4gを含んでおり、先の抽出残液(水相:ネオジム、コバルト含有)に含まれる量に対して、ネオジム:99.9%以上含むものであった。また、ジスプロシウム、鉄、コバルトは、何れも、検出されなかった。一方得られた濾液は、コバルト:0.96gを含んでおり、上記の抽出残液(水相:ネオジム、コバルト含有)に含まれる量に対して、コバルト:99.9%を含むものであった。また、そのような濾液中には、ネオジム、ジスプロシウム、及び鉄は、何れも、検出されなかった。
【0056】
その後、かかる濾液(コバルト含有)の全量に対して、攪拌しながら、20重量%炭酸ナトリウム水溶液を滴下して、pH8.5に調整することにより、コバルトの水酸化物を析出せしめた。そして、その析出したコバルトの水酸化物を、濾別、水洗して、回収した。なお、この得られたコバルトの水酸化物は、コバルト:0.96gを含んでおり、先の濾液(コバルト含有)に含まれる量に対して、コバルト:99.9%以上を含むものであった。
【0057】
また、前記したジスプロシウムの硫酸塩の5.2gを、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液の0.1Lに投入して、攪拌し、30分間接触させることにより、ジスプロシウムの水酸化物を生成させて、析出せしめた。しかる後、そのジスプロシウムの水酸化物を濾別、水洗することにより、回収した。また、この得られたジスプロシウムの水酸化物の全量を、600℃×5時間の条件にて、焼成することにより、酸化ジスプロシウムの3.2gを回収した。
【0058】
また、先に抽出残液から炭酸ナトリウム水溶液にて析出させて得られたネオジムの硫酸塩を用い、その9.4gを、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液の0.1Lに投入して攪拌し、30分間接触させることにより、ネオジムの水酸化物を生成せしめた後、濾別、水洗することにより、回収した。その後、その得られたネオジムの水酸化物の全量を、600℃×5時間の条件で、焼成することにより、酸化ネオジムの5.5gを回収した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類系磁石合金材料を構成する希土類元素を含む金属元素の硫酸塩を、飽和状態で含む硫酸水溶液を用いて、該硫酸水溶液中に前記希土類系磁石合金材料を存在せしめた状態下において、該硫酸水溶液を50℃〜100℃の温度に加温することにより、該希土類系磁石合金材料の溶解を進行せしめる一方、前記金属元素の硫酸塩を析出せしめる第一の工程と、
該第一の工程で析出した金属元素の硫酸塩を、前記硫酸水溶液から取り出して、480〜735℃の温度で焼成することにより、該金属元素の硫酸塩中の鉄の硫酸塩を熱分解させて、酸化鉄に変える第二の工程と、
該第二の工程において得られた、前記酸化鉄を含む焼成残渣を、水に浸漬して、鉄以外の残余の金属元素の硫酸塩を溶解せしめた後、該残余の金属元素の硫酸塩の水溶液と、水には溶解されなかった酸化鉄とを分離する第三の工程と、
該第三の工程において分離された前記残余の金属元素の硫酸塩の水溶液から、抽出処理及び/又は沈殿処理により、希土類元素及びその他の有用金属元素を分離、回収する第四の工程と、
を含むことを特徴とする希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項2】
前記希土類系磁石合金材料が、ネオジム−鉄−ボロン系磁石合金材料である請求項1に記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項3】
前記第四の工程における抽出処理を、抽出剤として酸性リン酸エステルを用いて実施した後、その得られた抽出液を、抽出される希土類元素の硫酸塩を飽和状態で含む硫酸水溶液にて逆抽出することにより、該希土類元素を硫酸塩の固体形態において取り出すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項4】
前記取り出された希土類元素の硫酸塩を強アルカリ水溶液に混合することにより、該希土類元素の水酸化物を生成せしめ、そしてこの水酸化物を分離した後、焼成して、該希土類元素の酸化物を回収することを特徴とする請求項3に記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項5】
前記抽出される希土類元素が、ジスプロシウムである請求項3又は請求項4に記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項6】
前記第四の工程における抽出処理を、抽出剤として酸性リン酸エステルを用いて実施して、生じた抽出残液を用い、該抽出残液中に存在する希土類元素を、沈殿剤により沈殿物として取り出すことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項7】
前記沈殿剤として炭酸ナトリウムを用いて、前記抽出残液中の希土類元素が、塩形態において取り出される請求項6に記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項8】
前記取り出された希土類元素の沈殿物を強アルカリ水溶液に混合することにより、該希土類元素の水酸化物を生成せしめ、そしてこの水酸化物を分離した後、焼成して、該希土類元素の酸化物を回収することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。
【請求項9】
前記抽出残液中に存在する希土類元素が、ネオジムである請求項6乃至請求項8の何れか1つに記載の希土類系磁石合金材料からの金属元素の分離回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−167345(P2012−167345A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30442(P2011−30442)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(591089855)三和油化工業株式会社 (34)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】