説明

帯電部材、その製造方法、プロセスカートリッジ及び電子写真装置

【課題】比誘電率が高くかつ表面自由エネルギーが小さい帯電部材であってその高い比誘電率が長期間に亘って維持可能な帯電部材を提供する。印刷の高速化及び電子写真装置の高寿命化に有効なプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供する。
【解決手段】支持体101と弾性層102と表面層103とを有する帯電部材3であって、該表面層が加水分解性シラン化合物と表面に存在する水酸基量が0.7質量%以上35質量%以下である酸化チタン粒子との反応生成物を含むコーティング剤の硬化物層である帯電部材。前記帯電部材を有する電子写真装置及びプロセスカートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真装置に用いられる帯電部材及びプロセスカートリッジ等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体の表面を帯電するための帯電部材としては、電子写真感光体と帯電部材との当接ニップを十分に確保する観点から、支持体、該支持体上に設けられた弾性層(導電性弾性層)および、該弾性層上に設けられた表面層を有するものが一般的である。
【0003】
特許文献1は、低温低湿環境における帯電不良の発生を防止し得る帯電部材として、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの金属酸化物やチタン酸バリウムなどの複合酸化物などをバインダーに分散させてなる表面層を備えた帯電部材を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、帯電部材の表面への汚れの付着を抑制し、長期間安定した帯電性能を維持し得る帯電部材として、フッ化アルキル基およびオキシアルキレン基を有するポリシロキサンを含有する表面層を備えた帯電部材を開示している。
【0005】
このように帯電部材の表面層には、帯電部材の帯電性能の改善、および表面特性の改善といった種々の機能を担持させることが行われている。
【0006】
ところで、近年の電子写真装置が多様な環境下で用いられる中で、高温高湿環境から低温低湿環境に至るまで、安定して高い帯電性能を発揮する帯電部材が求められてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−159349号公報
【特許文献2】特開2007−004102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下、本発明者らは、帯電部材の帯電性能の向上を図るために、表面層の比誘電率を高めることについて検討を行った。特許文献1にかかる表面層に含有されている酸化チタンの比誘電率は約100であり、二酸化ケイ素の比誘電率(約4.0)と比較しても高い。そのため、比誘電率の高い表面層を得るためには、酸化チタン粒子を含有させることが好ましいとも思われた。しかし、酸化チタン粒子が均一に分散して存在してなる表面層を形成するためには、表面層の形成に用いるコーティング剤(塗工液)中で、酸化チタン粒子を物理的に高度に分散させる必要がある。かかるコーティング剤の調製にはコストがかかり、また、得られたコーティング剤も長期間の保存には適さない。
【0009】
また、例え、表面層中に酸化チタン粒子を均一に分散させ得たとしても、表面層中のバインダーによる固定が必ずしも十分でないため、長期間の使用により酸化チタン粒子が表面層から脱落し易いという課題があった。
【0010】
更に、酸化チタン粒子が分散されてなる表面層は、その表面自由エネルギーが上昇する傾向にあり、表面への汚付着の抑制の観点からは、改善の余地があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、比誘電率が高く、かつ、表面自由エネルギーが小さい表面層を備えることにより、高い帯電性能を長期間に亘って維持可能な帯電部材およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
また本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像を長期間に亘って形成し得るプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題は以下の本発明〔1〕、〔2〕、〔3〕及び〔4〕によって解決される。
〔1〕支持体と弾性層と表面層とを有する帯電部材であって、該表面層が加水分解性シラン化合物と表面に存在する水酸基量が0.7質量%以上35質量%以下である酸化チタン粒子との反応生成物を含むコーティング剤の硬化物層である帯電部材。
〔2〕支持体と弾性層と表面層とを有する帯電部材の製造方法であって、加水分解性シラン化合物と表面に存在する水酸基量が0.7質量%以上35質量%以下である酸化チタン粒子との反応生成物を含むコーティング剤を該弾性層の上に塗布した後、活性化エネルギー線を照射することにより該コーティング剤を硬化させて該表面層を形成することを特徴とする前記帯電部材の製造方法。
〔3〕電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている前記〔1〕に記載の帯電部材とを有することを特徴とする電子写真装置。
〔4〕電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている前記〔1〕に記載の帯電部材とを有し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【発明の効果】
【0014】
本発明の帯電部材は、比誘電率が高い酸化チタンが加水分解性シラン化合物との反応生成物(硬化物)として表面層中に強固に保持されているので、その高い比誘電率を長期間にわたって維持することができる。また、この表面層は表面自由エネルギーが小さいので汚れ成分の付着を抑制できる。この帯電部材を備えたプロセスカートリッジ及び電子写真装置は、印刷の高速化及び電子写真装置の高寿命化に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る帯電部材の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る電子写真装置の説明図である。
【図3】本発明に係る表面層の形成時の化学反応の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示した本発明に係る帯電部材は、支持体101、導電性弾性層102及び表面層103がこの順で積層されている。これを基本構造として、支持体と導電性弾性層との間や導電性弾性層と表面層との間に別の層を1つまたは2つ以上設けてもよい。
【0017】
〔支持体〕
支持体としては、鉄、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金又はニッケルで形成されている金属性(合金製)の支持体を用いることができる。
【0018】
〔弾性層〕
導電性弾性層には、従来の帯電部材の弾性層(導電性弾性層)に用いられているゴムや熱可塑性エラストマーの如き弾性体を1種または2種以上用いることができる。
【0019】
ゴムとしては以下のものが挙げられる。ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリロニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴムおよびアルキルエーテルゴム等。
【0020】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマーおよびオレフィン系エラストマーなどが挙げられる。スチレン系エラストマーの市販品としては、例えば、三菱化学(株)製の商品名「ラバロン」、クラレ(株)製の商品名「セプトンコンパウンド」などが挙げられる。オレフィン系エラストマーの市販品としては、例えば、三菱化学(株)製の商品名「サーモラン」、三井化学(株)製の商品名「ミラストマー」、住友化学工業(株)製の商品名「住友TPE」、アドバンストエラストマーシステムズ社製の商品名「サントプレーン」などが挙げられる。
【0021】
また、弾性層は、導電剤を含むことによって所定の導電性を有するように構成されている。弾性層の電気抵抗値としては、10Ω以上10Ω以下、特には10Ω以上10Ω以下が好ましい。弾性層に用いられる導電剤としては、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、帯電防止剤、電解質などが挙げられる。
【0022】
陽イオン性界面活性剤としては以下のものが挙げられる。第四級アンモニウム塩(ラウリルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムおよび変性脂肪酸・ジメチルエチルアンモニウムの如き第四級アンモニウム塩)、過塩素酸塩、塩素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、エトサルフェート塩およびハロゲン化ベンジル塩(臭化ベンジル塩や塩化ベンジル塩など)が挙げられる。
【0023】
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸エステル塩、高級アルコール燐酸エステル塩および高級アルコールエチレンオキサイド付加燐酸エステル塩が挙げられる。
【0024】
帯電防止剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルおよび多価アルコール脂肪酸エステルの如き非イオン性帯電防止剤が挙げられる。
【0025】
電解質としては、例えば、周期律表第1族の金属(Li、Na、Kなど)の塩(第四級アンモニウム塩など)が挙げられる。周期律表第1族の金属の塩としては、具体的には、LiCFSO、NaClO、LiAsF、LiBF、NaSCN、KSCNおよびNaClなどが挙げられる。
【0026】
また、弾性層用の導電剤として、周期律表第2族の金属(Ca、Baなど)の塩(Ca(ClOなど)やこれから誘導される帯電防止剤を用いることもできる。また、これらと多価アルコール(1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)又はその誘導体との錯体、これらとモノオール(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等)との錯体の如きイオン導電性導電剤を用い得る。
【0027】
また、弾性層用の導電剤として炭素系材料(導電性カーボンブラック、グラファイト等)、金属酸化物(酸化スズ、酸化チタン及び酸化亜鉛等)、金属(ニッケル、銅、銀及びゲルマニウム等)を用いることもできる。
【0028】
導電性弾性層の硬度は、帯電部材と被帯電体である電子写真感光体とを当接させた際の帯電部材の変形を抑制する観点から、MD−1で60度以上85度以下、特には70度以上80度以下であることがより好ましい。また、感光体と幅方向で均一に当接させるために、幅方向の中央部の層厚が端部の層厚よりも厚い、いわゆるクラウン形状とすることが好ましい。
【0029】
〔表面層〕
帯電部材の表面層は加水分解性シラン化合物と表面に存在する水酸基量が0.7質量%以上35質量%以下である酸化チタン粒子との反応生成物を含むコーティング剤の硬化物層によって形成される。
【0030】
この水酸基量を上記範囲内とすることによって、酸化チタン粒子と加水分解性シラン化合物とを十分に結合させることができる。その結果、表面層形成用のコーティング剤中における酸化チタン微粒子の分離や沈殿などが生じにくい。また、得られる表面層の表面自由エネルギーをより確実に低減させることができる。
【0031】
なお、水酸基量が35質量%を超える場合は、すなわちTi−O−Ti結合の減少であり、酸化チタンの結晶構造が保持されず、比誘電率を増加させる効果が少ない。
【0032】
〔酸化チタン微粒子の表面処理〕
酸化チタン微粒子に対してアルカリ処理及び酸処理、または酸処理を施すことによって酸化チタン微粒子の表面に水酸基を導入することができる。表面処理を施す酸化チタン微粒子の粒子径の目安としては、0.050μm以上0.600μm以下である。
【0033】
以下に、酸化チタン微粒子の具体例を示す。
(T−1)MT−150A(テイカ(株))、
(T−2)MT−500B(テイカ(株))、
(T−3)MT−600B(テイカ(株))、
(T−4)TTO−55N(石原産業(株))、
(T−5)TTO−51N(石原産業(株))、
(T−6)STR−60N(堺化学工業(株))、
(T−7)STR−100N(堺化学工業(株))。
【0034】
アルカリ処理に使用する試薬としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などのアルカリ性水溶液が好ましい。使用する液の濃度は0.005モル/L以上が望ましく、特に0.01モル/L以上1.00モル/L以下がより望ましい。アルカリ水溶液を酸化チタン微粒子が十分に浸る程度に加え、攪拌により分散させる。アルカリ処理の際はウォーターバス、オイルバス等を用いて加熱することが好ましく、特に40℃以上100℃以下に温度を設定することがより好ましい。処理時間は1時間以上が好ましい。アルカリ処理をした後は水で洗浄する。
【0035】
酸処理に使用する試薬としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、などの酸性水溶液から選択することが好ましい。使用する液の濃度は0.01モル/L以上が望ましく、特に0.1モル/L以上3モル/L以下がより望ましい。酸化チタン微粒子またはアルカリ処理を施した酸化チタン微粒子が十分に浸る程度に酸水溶液を加え、攪拌により分散させる。酸処理の際はウォーターバス、オイルバス等を用いて加熱することが好ましく、特に40℃以上100℃以下に温度を設定することがより好ましい。処理時間は1時間以上が好ましく、処理後は水で洗浄する。酸処理および水洗浄は複数回行うことが好ましく、特に2回から4回行うことがより好ましい。
【0036】
このようにアルカリ処理と酸処理、または酸処理を施した酸化チタン微粒子を風乾させ、メノウ乳鉢等で粉砕する。
【0037】
〔加水分解・縮合反応〕
次に加水分解性シラン化合物に対して、前記の表面処理を施すことにより表面に水酸基を導入した酸化チタン微粒子、水、およびアルコールを加え、加熱還流しながら攪拌する。これによって、加水分解性シラン化合物を加水分解せしめてアルコキシル基を水酸基に変化させ、当該水酸基を、酸化チタン微粒子の表面の水酸基と反応させる。
【0038】
ここで、Si原子とTi原子との原子数比Si/Tiは、0.5以上10以下であることが好ましい。特に0.5以上2.0以下がより好ましい。0.5以上であれば酸化チタン微粒子が加水分解性シランと十分に反応するので、摺擦により微粒子が剥離するおそれがない。また10以下であれば酸化チタンによる比誘電率の上昇効果が十分に達成可能である。
【0039】
加水分解性シラン化合物としては、以下の式(1)及び(2)で表されるものから選ばれる1種もしくは複数種を用い、そのうち少なくとも1種は式(1)の加水分解性シランを用いることが好ましい。
【0040】
【化1】

【0041】
上記式(1)又は(2)中、Rはカチオン重合可能な有機基、Zは2価の有機基、R及びRはそれぞれ独立に飽和または不飽和の炭化水素基、Rは置換または非置換のアルキル基、アリール基を示す。
【0042】
式(1)中のRのカチオン重合可能な有機基とは、開裂によってオキシアルキレン基を生成するカチオン重合可能な有機基を意味し、エポキシ基やオキセタン基の如き環状エーテル基、および、ビニルエーテル基が挙げられる。これらの中でも、入手の容易性および反応制御の容易性の観点から、エポキシ基が好ましい。
【0043】
式(1)中のZの2価の有機基としては、アルキレン基およびアリーレン基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、さらにはエチレン基がより好ましい。
【0044】
式(1)又は(2)中のR及びRの飽和もしくは不飽和の1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基およびアリール基などが挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基が好ましく、更にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基がより好ましい。
【0045】
以下に、式(1)で示される構造を有する加水分解性シラン化合物の具体例を示す。
(1−1):グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
(1−2):グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、
(1−3):エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、
(1−4):エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン。
【0046】
式(2)中のRのアリール基置換のアルキル基もしくは無置換のアルキル基としては、炭素数1〜21の直鎖状のアルキル基が好ましく、更には炭素数6〜10のものが好ましい。式(2)中のRのアルキル基置換のアリール基もしくは無置換のアリール基としては、フェニル基が好ましい。
【0047】
以下に、式(2)で示される構造を有する加水分解性シラン化合物の具体例を示す。
(2−1):メチルトリメトキシシラン、
(2−2):メチルトリエトキシシラン、
(2−3):メチルトリプロポキシシラン、
(2−4):エチルトリメトキシシラン、
(2−5):エチルトリエトキシシラン、
(2−6):エチルトリプロポキシシラン、
(2−7):プロピルトリメトキシシラン、
(2−8):プロピルトリエトキシシラン、
(2−9):プロピルトリプロポキシシラン、
(2−10):ヘキシルトリメトキシシラン、
(2−11):ヘキシルトリエトキシシラン、
(2−12):ヘキシルトリプロポキシシラン、
(2−13):デシルトリメトキシシラン、
(2−14):デシルトリエトキシシラン、
(2−15):デシルトリプロポキシシラン、
(2−16):フェニルトリメトキシシラン、
(2−17):フェニルトリエトキシシラン、
(2−18):フェニルトリプロポキシシラン。
【0048】
式(2)で示される構造を有する加水分解性シラン化合物を併用する際、Rがフェニル基の加水分解性シラン化合物と、Rが炭素数6〜10の直鎖状のアルキル基の加水分解性シラン化合物とを組み合わせると、加水分解・縮合反応によりモノマー構造が変化しても溶媒への相溶性が良好となるので更に好ましい。
【0049】
また水の添加量(モル)は、添加する加水分解性シランのモル数に対して、3.0倍以上9.0倍以下が好ましい。特に3.5倍以上6.0倍以下がより好ましい。この範囲内であれば、未反応のモノマーが残存しにくく、過度な反応進行がおこらず均一な透明液を得ることができる。また、水が多いとアルコールと縮合物との相溶性が悪くなる為、同様に白濁化や沈殿が生じ易くなる方向となる。
【0050】
またアルコールとして、第1級アルコール、もしくは第2級アルコール、もしくは第3級アルコール、もしくは第1級アルコールと第2級アルコールの混合系、もしくは第1級アルコールと第3級アルコールの混合系を用いることが好ましい。特にエタノール、メタノールと2−ブタノールの混合液、エタノールと2−ブタノールの混合液の使用が好ましい。
【0051】
〔コーティング剤の調製〕
以上のように合成された反応生成物(加水分解・縮合物)に光重合開始剤を添加してコーティング剤を調製する。コーティング剤は塗布性向上のために、適当な溶剤を用いて濃度調整される。溶剤としては、例えば、エタノールおよび2−ブタノールなどのアルコールや、酢酸エチルや、メチルエチルケトンなど、あるいは、これらを混合したものが挙げられる。
【0052】
光重合開始剤としては、ルイス酸あるいはブレンステッド酸のオニウム塩を用いることが好ましい。その他のカチオン重合触媒としては、例えば、ボレート塩、イミド構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、アゾ化合物、過酸化物が挙げられる。
【0053】
尚、光重合開始剤は加水分解・縮合物との相溶性を向上させるために事前にアルコールやケトンなどの溶媒に希釈して添加することができる。例えばメタノール、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0054】
各種カチオン重合触媒の中でも、感度、安定性および反応性の観点から、芳香族スルホニウム塩や芳香族ヨードニウム塩が好ましい。特には、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム塩や、下記式(3)で示される構造を有する化合物(商品名:アデカオプトマ−SP150、旭電化工業(株)製)や、下記式(4)で示される構造を有する化合物(商品名:イルガキュア261、チバスペシャルティーケミカルズ社製)が好ましい。
【0055】
【化2】

【0056】
【化3】

【0057】
〔表面層の形成〕
このようにして調製されたコーティング剤は、ロールコーターを用いた塗布、浸漬塗布、リング塗布などによって、導電性弾性層の上に塗布されコーティング層が形成される。コーティング層に活性化エネルギー線を照射すると、コーティング剤に含まれるシラン加水分解性縮合物中のカチオン重合可能な基が開裂し、重合する。これによって、該シラン加水分解性縮合物同士が架橋して硬化し、表面層が形成される。
【0058】
活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。表面層の硬化を紫外線で行うことで、余分な熱が発生しにくく、熱硬化のような溶剤の揮発中における相分離やシワが生じにくく、非常に均一な膜状態が得られる。このため、感光体へ均一で安定した電位を与えることができる。
【0059】
帯電部材の置かれる環境が温湿度の変化が急激な環境である場合、その温湿度の変化による導電性弾性層の膨張、収縮に表面層が十分に追従しないと、表面層にシワやクラックが発生することがある。しかしながら、架橋反応を熱の発生が少ない紫外線によって行えば、導電性弾性層と表面層との密着性が高まり、導電性弾性層の膨張・収縮に表面層が十分に追従できるようになるため、環境の温湿度の変化による表面層のシワやクラックも抑制することができる。
【0060】
また、架橋反応を紫外線によって行えば、熱履歴による導電性弾性層の劣化を抑制することができるため、導電性弾性層の電気的特性の低下を抑制することもできる。
【0061】
紫外線の照射には、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、エキシマUVランプなどを用いることができ、これらのうち、紫外線の波長が150nm以上480nm以下の光を豊富に含む紫外線源が用いられる。
【0062】
なお、紫外線の積算光量は、以下のように定義される。
紫外線積算光量[mJ/cm]=紫外線強度[mW/cm]×照射時間[s]
紫外線の積算光量の調節は、照射時間や、ランプ出力や、ランプと被照射体との距離で行うことが可能である。また、照射時間内で積算光量に勾配をつけてもよい。
【0063】
低圧水銀ランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、紫外線積算光量計UIT−150−AやUVD−S254(いずれも商品名、ウシオ電機(株)製)を用いて測定することができる。また、エキシマUVランプを用いる場合、紫外線の積算光量は、紫外線積算光量計UIT−150−AやVUV−S172(いずれも商品名、ウシオ電機(株)製)を用いて測定することができる。
【0064】
図3に表面層の形成工程における反応スキームを示す。
弾性層の表面に塗布されたコーティング液中には、加水分解縮合物として、カチオン重合可能な基としてグリシドキシプロピル基を有し、かつ、酸化チタン粒子と化学結合したシラン化合物が含まれている。このような加水分解縮合物のグリシドキシプロピル基は、カチオン重合触媒(図3中、Rと記載)の存在下で、エポキシ環が開環し、連鎖的に重合していく。その結果、酸化チタン微粒子が結合してなるポリシロキサンからなる表面層が形成される。なお、図3中、nは1以上の整数を示す。
【0065】
このように、本発明に係る表面層においては、酸化チタン微粒子が単にバインダー中に分散して存在しているのではなく、ポリシロキサンに化学的に結合させられている。そのため、酸化チタン微粒子は、表面層から脱落し難い。
【0066】
電子写真感光体との当接ニップを十分に確保するために設けた導電性弾性層の機能を十分に発揮させる観点から、帯電部材の表面層の弾性率は10GPa以下であることが好ましい。一方、一般的に、層の弾性率を小さくするほど架橋密度が低下する傾向にあるため、帯電部材の表面にブリードアウトした低分子量成分による電子写真感光体の表面の汚染を抑制する観点から、帯電部材の表面層の弾性率は0.1GPa以上であることが好ましい。
【0067】
また、表面層の層厚は、厚いほど上記の低分子量成分のブリードアウトの抑制効果が大きい。その一方で、表面層の層厚が厚いと、帯電部材の帯電能が低下していく。そのため、表面層の層厚の目安としては、0.005μm以上1.000μm以下、特には0.010μm以上0.600μm以下が好ましい。
【0068】
表面層の層厚を上記範囲内とすることで、表面層の形成の際のコーティング剤中の溶剤の揮発を早くすることができるため、表面層への層厚や物性へのムラの発生の抑制効果もある。さらには、非相溶状態の混合物を含む厚膜の乾燥の際に生じうる、相分離が生じにくい。
【0069】
表面層の層厚の確認には、帯電部材の表面部位をカミソリで削ぎ、液体窒素につけ、破断させた後に、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)製)で約20000倍の倍率で確認できる。
【0070】
また、帯電部材の表面へのトナーや外添剤の固着を抑制する観点から、帯電部材の表面(表面層の表面)の十点平均粗さ(Rzjis)は10μm以下、特には、7μm以下、更には、3μm以上5μm以下が好ましい。
【0071】
帯電部材の長期間の使用、もしくはプロセススピードを速くして使用した場合、トナーやトナーに含まれる外添剤が表面に固着しやすくなる。それにより帯電ムラが発生し、画像を出力した際に細かいスジ状の画像不良が現れる。
【0072】
固着を防ぐには該固着成分との親和性がない表面層を形成することが有効であり、その指標として本発明においては表面自由エネルギーを使用している。前述の特許文献2のように表面自由エネルギーを下げるとトナーなどが固着しにくいことがわかっており、その値は低いほど良い。具体的には30mJ/m以下、特には、25mJ/m以下が好ましい。
【0073】
ただし、固着成分と帯電部材の親和性により固着の程度が変わってくるため、トナーの種類を変更した際にはこの範囲の限りではない。本発明において評価用のカートリッジに使用したトナーの表面自由エネルギーが約40mJ/mであることから前述の範囲を好ましいとしたものである。
【0074】
本発明に係る帯電部材の比誘電率の下限としては、8以上、特には10以上が好ましい。また、上限値は、酸化チタンの比誘電率(100)以下である。
【0075】
〔プロセスカートリッジ及び電子写真装置〕
図2に、本発明の帯電部材を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。図2において、円筒状の電子写真感光体1は、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体としては、支持体および支持体上に形成された無機感光層もしくは有機感光層を有するものが一般的である。また、電子写真感光体は表面層として電荷注入層を有するものであってもよい。電子写真感光体1の表面は、本発明の帯電部材3(図2においてはローラ形状の帯電部材)が接触して配置されているので、正または負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光の如き露光手段(不図示)から出力される露光光(画像露光光)4を受けることで、電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成される。
【0076】
帯電部材3による電子写真感光体1の表面帯電の際、帯電部材3には、電圧印加手段(不図示)から直流電圧のみの電圧あるいは直流電圧に交流電圧を重畳した電圧が印加される。後述の実施例においては、帯電部材には直流電圧のみの電圧(−1000V)を印加した。また、後述の実施例において、暗部電位は−500V、明部電位は−100Vとした。
【0077】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーにより現像(反転現像もしくは正規現像)されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて給送される。
【0078】
現像手段としては、例えば、ジャンピング現像手段、接触現像手段および磁気ブラシ手段などが挙げられるが、トナーの飛散性改善の観点から、接触現像手段が好ましく、後述の実施例においては、接触現像手段を採用した。また、転写ローラとしては、支持体上に中抵抗に調整された弾性樹脂層を被覆してなるものが例示される。トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へプリントアウトされる。両面画像形成モードや多重画像形成モードの場合、この画像形成物は、不図示の再循環搬送機構に導入されて転写部へ再導入される。トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(トナー)の除去を受けて清浄面化される。さらに、前露光手段(不図示)からの前露光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、帯電手段が接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。上述の電子写真感光体1、帯電部材3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段7などの構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に結合して構成することができる。そして、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターの如き電子写真装置本体に対して着脱可能に構成してもよい。図2では、電子写真感光体1、帯電部材3、現像手段5およびクリーニング手段7を一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールの如き案内手段10を用いて、電子写真装置の本体に着脱可能なプロセスカートリッジ9としている。
【実施例】
【0079】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0080】
合成例1;酸化チタン粒子の製造例
(合成例1−1)
0.02モル/Lに調整した水酸化ナトリウム水溶液300gに酸化チタン微粒子(MT−500B、テイカ(株)、平均粒子径35nm)7gを添加した。70℃で12時間攪拌した後に室温まで冷却し蒸留水で洗浄した。ろ過後100℃オーブン内にて一晩乾燥させ、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。続いて1モル/L硝酸水溶液150gに対して前述のアルカリ処理をした酸化チタン微粒子を5g添加した。70℃で2時間攪拌し、室温まで冷却し蒸留水で洗浄した。この酸処理を3回繰り返し、ろ過した後に100℃オーブン内にて一晩乾燥させ、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。この酸処理後の酸化チタン微粒子を酸化チタン粒子No.1と称する。
【0081】
[評価a1]結晶性
得られた酸化チタン粒子No.1について、X線回折装置(商品名;RINT TTRII、株式会社リガク(RIGAKU Corporation)製)を用いて結晶性の評価を行った。アルカリまたは酸による処理後も結晶構造を維持しているか否かを、ルチル型結晶のX線回折パターンの強度から、未処理の酸化チタン微粒子と比較し、下記の基準で評価した。
A;検出強度80〜100%維持。
B;検出強度40〜79%維持。
C;検出強度0〜39%維持。
【0082】
[評価a2]酸化チタン粒子の表面水酸基量の測定
酸化チタン粒子No.1について、熱分析装置(商品名;Thermo plus TG8120、株式会社リガク製)を用いて、酸化チタン粒子No.1を加熱したときの重量減少を測定し、150℃以上での重量減少が水酸基の脱水縮合に起因する水の脱離として、水酸基量を計算した。
【0083】
測定は、窒素雰囲気下で、温度150℃までは、毎分10℃で昇温し、温度150℃で1時間保持し、次いで、温度150℃から温度500℃までは、毎分5℃で昇温し、温度500℃で1時間保持した。
【0084】
(合成例1−2)
上記合成例1−1において、アルカリ処理および酸処理の条件を水酸化ナトリウム水溶液1.0モル/L、および硝酸水溶液3.0モル/Lに替え、その他の条件は合成例1−1と同様にして酸化チタン粒子No.2を合成し、評価した。
【0085】
(合成例1−3)
上記合成例1−1において、アルカリ処理および酸処理の各々を、水酸化ナトリウム水溶液0.01モル/L、および硝酸水溶液0.1モル/Lに替えた以外は合成例1−1と同じ操作を行って酸化チタン粒子No.3を合成し、評価した。
【0086】
(合成例1−4)
上記合成例1−1において、酸化チタン微粒子(MT−500B)の代わりに酸化チタン微粒子(MT−150、テイカ(株)、平均粒子径15nm)用いた。それ以外は、合成例1−1と同様にして酸化チタン粒子No.4を合成し、評価した。
【0087】
(合成例1−5)
上記合成例1−1において、酸化チタン微粒子(MT−500B)の代わりに酸化チタン微粒子(STR−100N、堺工業化学(株)、平均粒子径100nm)用いた。それ以外は、合成例1−1と同様にして酸化チタン粒子No.5を合成し、評価した。
【0088】
(合成例1−6)
上記合成例1−1において、アルカリ処理は行わない以外は、合成例1−1と同様にして酸化チタン粒子No.6を合成し、評価した。
【0089】
酸化チタン粒子No.1〜6の評価結果を下記表1に示す。また、レファレンスとして、酸化チタン粒子No.1の原料として用いた酸化チタン粒子(商品名:MT−500B、テイカ(株)製)を評価した結果も併せて表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
(合成例2)加水分解縮合物の合成
(合成例2−1)
下記表2に示す成分を100mlのナスフラスコ中で混合した後、室温で30分攪拌した。
【0092】
【表2】

【0093】
続いて120℃に設定したオイルバスの中で20時間加熱還流を行いながら攪拌することによって、加水分解性シラン化合物と酸化チタンNo.1を反応させて、加水分解縮合物2−1を得た。一連の攪拌は500rpmで行った。Ti/Si=1.0であった。
【0094】
加水分解縮合物2−1の理論固形分(加水分解性シラン化合物が全て脱水縮合したと仮定した時のポリシロキサン重合物+酸化チタンの、溶液全質量に対する質量比率)は28.0質量%である。なお、イオン交換水は、それ以外の材料を全て混合し攪拌している中に滴下して加えた。
【0095】
加水分解縮合物2−1の実質固形分は29.1質量%であった。実質固形分は、数gの加水分解縮合物2−1を200℃のオーブンで30分加熱することにより測定する。この加熱により得られる実質固形分と理論固形分の差より加水分解縮合物2−1に残存している未反応のモノマー(残モノマー)量を算出することができる。
【0096】
〔評価b〕縮合物の液外観の評価
加水分解縮合物2−1を室温で1ヶ月静置し、その外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。ここで、酸化チタンが加水分解性シラン化合物と十分に反応した場合、加水分解縮合物中における酸化チタンの分散性が保たれるため、沈殿が生じにくい。一方、酸化チタンと加水分解性シラン化合物との反応が不十分であった場合、相分離が進み、また、酸化チタン粒子の沈殿が生じる。したがって静置後の加水分解縮合物の外観を観察することでシラン化合物と酸化チタンとの反応の程度を簡易に判断できる。結果を表4−1に示す。
A;沈殿なし、液は均一に白濁。
B;沈殿あり、液は均一に白濁。
C;沈殿あり、液は不均一に白濁(上部は透明度が高い)。
【0097】
(合成例2−4、2−6、2−7、及び2−12〜2−14)
下記表3に示した組成とした以外は、上記合成例2−1と同様にして加水分解縮合物2−4、2−6、2−7、及び2−12〜2−14を調製し、評価した。
【0098】
【表3】

【0099】
(合成例2−2及び2−3)
合成例2−1において、酸化チタン粒子No.1を、酸化チタン粒子No.2または酸化チタン粒子No.3に替えた以外は、合成例2−1と同じ操作により、加水分解縮合物2−2及び2−3を調製し、評価した。
【0100】
(合成例2−5)
合成例2−4において、酸化チタン粒子No.2を、酸化チタン粒子No.3に替えた以外は合成例2−4と同じ操作を行って加水分解縮合物2−5を調製し、評価した。
【0101】
(合成例2−8)
合成例2−7において、酸化チタン粒子No.2を、酸化チタン粒子No.3に替えた以外は合成例2−7と同じ操作を行って加水分解縮合物2−8を調製し、評価した。
【0102】
(合成例2−9〜2−11)
合成例2−1において、酸化チタン粒子No.1を、酸化チタン粒子No.4、酸化チタン粒子No.5または酸化チタン粒子No.6に替えた以外は合成例2−1と同じ操作を行って加水分解縮合物2−9〜2−11を調製し、評価した。
【0103】
加水分解性縮合物2−1〜2−14の評価結果を下記表4−1および表4−2に示す。
【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
(合成例3−1)
合成例2−1において、酸化チタン粒子No.1に代えて、表面処理を行わない酸化チタン粒子(商品名:MT−500B、テイカ(株)製)を用いた以外は、合成例2−1と同じ操作を行って加水分解縮合物3−1を調製し、評価した。
【0107】
(合成例3−2)
合成例2−4において、酸化チタン粒子No.2に代えて、表面処理を行わない酸化チタン粒子(商品名:MT−500B、テイカ(株)製)を用いた以外は、合成例2−1と同じ操作を行って加水分解縮合物3−2を調製し、評価した。
【0108】
(合成例3−3)
合成例2−7において、酸化チタン粒子No.2に代えて、表面処理を行わない酸化チタン粒子(商品名:MT−500B、テイカ(株)製)を用いた以外は、合成例2−1と同じ操作を行って加水分解縮合物3−3を調製し、評価した。
【0109】
加水分解性縮合物3−1〜3−3の評価結果を下記表4−3に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
(実施例1)
〔1〕導電性弾性層の形成及び評価
【0112】
【表7】

【0113】
上記表5に示した材料を6リットルの加圧ニーダー(商品名:TD6−15MDX、トーシン社製)にて、充填率70体積%、ブレード回転数30rpmで24分間混合して、未加硫ゴム組成物を得た。
【0114】
この未加硫ゴム組成物174部に対して、加硫促進剤としてのテトラベンジルチウラムジスルフィド[商品名:サンセラーTBZTD、三新化学工業(株)製]4.5部、加硫剤としての硫黄1.2部を加えた。そして、ロール径12インチのオープンロールで、前ロール回転数8rpm、後ロール回転数10rpm、ロール間隙2mmで、左右の切り返しを合計20回実施した。その後、ロール間隙を0.5mmとして薄通し10回を行い、弾性体層用の混練物Iを得た。
【0115】
次に、直径6mm、長さ252mmの円柱形の鋼製の支持体の表面をニッケルメッキ加工したものを軸芯体として用意した。この軸芯体の、円柱面軸方向中央を挟んで両側115.5mmまでの領域(あわせて軸方向幅231mmの領域)に、金属およびゴムを含む熱硬化性接着剤(商品名:メタロックU−20、(株)東洋化学研究所製)を塗布した。これを30分間温度80℃で乾燥させた後、さらに1時間温度120℃で乾燥させた。
【0116】
混練物Iを、クロスヘッドを用いた押出成形によって、上記接着層付き支持体を中心として、同軸状に外径8.75〜8.90mmの円筒形に同時に押出し、端部を切断して、支持体の外周に未加硫の導電性弾性層を積層した導電性弾性ローラを作製した。押出機はシリンダー径70mm、L/D=20の押出機を使用し、押出時の温調はヘッドの温度を90℃とし、シリンダーの温度を90℃とし、スクリューの温度を90℃とした。
【0117】
次に上記ローラを異なる温度設定にした2つのゾーンをもつ連続加熱炉を用いて加硫した。第1ゾーンを温度80℃に設定し、30分で通過させ、第2ゾーンを温度160℃に設定し、こちらも30分通過させ、加硫されたゴムローラを得た。
【0118】
次に、上記ゴムローラの弾性層の幅方向両端部を切断し、弾性層の幅を232mmとした。その後、弾性層の表面を回転砥石で研磨した。研磨条件は、ゴムローラの回転数を333rpmとし、砥石の回転数を2080rpmとした。また、研磨時間は12secであった。これにより、端部直径8.26mm、中央部直径8.50mmのクラウン形状を有し、振れが18μmの弾性ローラ−1を得た。
【0119】
なお、弾性層の表面の十点平均粗さ(Rzjiis)は5.5μm、マイクロゴム硬度は、73度であった。マイクロゴム硬度は、マイクロゴム硬度計(商品名:MD−1 capa タイプA、高分子計器(株)製)を用いて、測定環境25℃、55%RHにて、ピークホールドモードで測定した値である。また、十点平均粗さ(Rzjis)は、日本工業規格(JIS)B0601に準拠して測定した。
【0120】
更に、振れの測定は、高精度レーザー測定機(商品名:LSM−430v、ミツトヨ(株)製)を用いて、弾性ローラ−1の弾性層部分の外径を測定し、最大外径値と最小外径値の差を外径差振れとした。この測定を、弾性ローラの弾性層の幅方向の任意の5点にて行い、各点における外径差振れの算術平均値を弾性ローラ−1の振れとした。
【0121】
〔2〕表面層の形成及び評価
100gの加水分解縮合物2−1に、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩[商品名:アデカオプトマーSP−150、旭電化工業(株)製]をメタノールで10質量%に希釈したものを5.21g添加した。さらにエタノールで、固形分濃度が1.3質量%となるように希釈して表面層形成用塗料−1を調製した。
【0122】
次に、弾性ローラ−1の弾性層上に、表面層形成用塗料−1を、内周の全周に吐出口を備えたドーナツ形状のリング塗工ヘッドを用いて塗布した。
【0123】
具体的には、弾性ローラ−1を、リング塗工ヘッドの内周部に同軸になるように保持し、リング塗工ヘッドから、表面層形成用塗料−1を、0.020ml/sのレートで吐出させつつ、弾性ローラ−1に対してリング塗工ヘッドを移動させた。移動スピードは85mm/sとし、また、表面層形成用塗料−1の総吐出量は0.065mlとした。
【0124】
塗布終了後、弾性層上に塗布した表面層形成用塗料−1に、波長254nmの紫外線を、積算光量が9000mJ/cmとなるように照射して硬化させて表面層を形成した。紫外線の照射には低圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング(株)製)を用いた。
【0125】
以上のようにして作製した帯電ローラ−1を用いて下記の評価(評価c−1〜c−3)を行った。
【0126】
〔評価c−1〕表面層の表面自由エネルギーの算出
接触角測定装置(商品名;接触角計CA−X ROLL型 協和界面科学(株)製)を用いて帯電ローラ−1の表面層の表面に、純水、ジヨードメタンおよびエチレングリコールに対する接触角を測定した。具体的には、各液体を、協和界面化学(株)製の注射針を用いて、帯電ローラ−1の表面の10ヶ所に滴下させ、表面に付着して10秒経過後の接触角を測定した。なお、滴下方向の液滴径は1.5mmとした。また、測定環境は、温度23℃、相対湿度65%とした。各液体について、10点の接触角の値のうち、最大値および最小値を除く8点の接触角の算術平均値を帯電ローラ−1の表面の各液体に対する接触角とした。
【0127】
次に、各液体に対する表面層の接触角を用いて、北崎・畑理論に基づいて表面自由エネルギーを算出した。なお、算出には、解析ソフトウェア(商品名:FAMAS、協和界面科学(株)製)を用いた。
【0128】
〔評価c−2〕誘電率の測定
1296型誘電率測定用インターフェース(商品名:1296型、ソーラトロン(Solartorn)社製)およびインピーダンスアナライザー(商品名:1260型、ソーラトロン社製)を併用して帯電ローラ−1の誘電率を測定した。印加電圧3V、測定周波数0.1Hz〜1MHzとして、10Hz時の静電容量から、製膜時の膜厚を用い誘電率を算出した。
【0129】
〔評価c−3〕画像評価
帯電ローラ−1を用いて、電子写真画像を形成し、得られた画像について評価した。すなわち、帯電ローラ−1と電子写真感光体ドラムとを、これらを一体に支持するプロセスカートリッジに組み込み、このプロセスカートリッジをA4紙縦出力用のレーザービームプリンター(商品名:HP Color LaserJet 4700 Printer、HP社製)に装着した。このレーザービームプリンターの現像方式は反転現像方式であり、転写材の出力スピードは164mm/sであり、画像解像度は600dpiである。
【0130】
なお、電子写真感光体ドラムは、支持体上に層厚19.0μmの有機感光層を形成してなる有機電子写真感光体ドラムである。また、この有機感光層は、支持体側から電荷発生層と変性ポリカーボネート(結着樹脂)を含有する電荷輸送層とを積層してなる積層型感光層であり、この電荷輸送層は電子写真感光体ドラムの表面層となっている。
【0131】
また、画像形成に用いたトナーとしては、ガラス転移温度が63℃、体積平均粒子径が6μmである重合トナーを用いた。この重合トナーは、ワックス、荷電制御剤、色素、スチレン、ブチルアクリレートおよびエステルモノマーを含む重合性単量体系を水系媒体中で懸濁重合して得られた粒子に、シリカ微粒子および酸化チタン微粒子を外添してあるトナー粒子を含んでいる。
【0132】
出力した電子写真画像としては、A4サイズの紙上に、サイズが4ポイントのアルファベットの「E」の文字が、印字率が1%となるように形成されるものとした。また、電子写真画像の形成は、間欠的に行った。具体的には、上記の電子写真画像を2枚出力する毎に、電子写真画像の出力を行うことなく電子写真感光体ドラムを4秒間回転させ、その後に再び2枚の電子写真画像を出力するという動作を繰り返した。このようにして、合計8000枚の電子写真画像を出力した。ここで、間欠的に電子写真画像を出力することは、連続的に画像出力を行う場合と比較して、出力枚数が同じであっても、帯電ローラと電子写真感光体ドラムとの摺擦回数が多いため、帯電ローラの表面は、より汚れ易くなる。
【0133】
なお、プロセススピードは、164mm/sとし、電子写真画像の形成は、常温常湿環境(温度25℃/湿度50%RH)、及び、高温高湿環境(温度30℃/湿度80%RH)にて行った。
【0134】
出力した画像の評価は、2000枚ごとに目視にて観察し、下記表6の基準にて評価した。
【0135】
【表8】

【0136】
(実施例2〜12)
実施例1の表面層の形成に用いた表面層形成用塗料−1中の加水分解縮合物2−1を、加水分解縮合物2−2〜2−12に替えた以外は、実施例1と同じ操作を行って表面層形成用塗料を調製した。そして、これらの表面層形成用塗料を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って帯電ローラ−2〜12を得た。
【0137】
(実施例13)
実施例1の表面層形成用塗料−1の調製の際に、エタノールによる希釈を、固形分濃度が3.0質量%となるように調整した表面層形成用塗料を調製した。この表面層形成用塗料を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って帯電ローラ−13を得た。
【0138】
(実施例14及び15)
実施例1の表面層の形成に用いた表面層形成用塗料−1中の加水分解縮合物2−1を、加水分解縮合物2−13または2−14に替えた以外は、実施例1と同じ操作を行って表面層形成用塗料を調製した。そして、これらの表面層形成用塗料を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って帯電ローラ14および帯電ローラ−15を得た。
【0139】
実施例1〜15に係る帯電ローラの評価結果を下記表7に示す。
【0140】
【表9】

【0141】
(比較例1〜3)
実施例1の表面層の形成に用いた表面層形成用塗料−1中の加水分解縮合物2−1を、加水分解縮合物3−1〜3−3に替えた以外は、実施例1と同じ操作を行って表面層形成用塗料を調製した。そして、これらの表面層形成用塗料を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って帯電ローラ−16〜18を得た。評価結果を表8に示す。
【0142】
【表10】

【符号の説明】
【0143】
101 支持体
102 導電性弾性層
103 表面層
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電部材
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 クリーニング手段
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
P 転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と弾性層と表面層とを有する帯電部材であって、該表面層が加水分解性シラン化合物と表面に存在する水酸基量が0.7質量%以上35質量%以下である酸化チタン粒子との反応生成物を含むコーティング剤の硬化物層である帯電部材。
【請求項2】
前記加水分解性シラン化合物のSi原子と前記酸化チタン粒子のTi原子との原子数比Si/Tiが0.5以上10以下である請求項1に記載の帯電部材。
【請求項3】
前記酸化チタン粒子が、アルカリ処理及び酸処理、または酸処理を施したものである、請求項1または2に記載の帯電部材。
【請求項4】
前記加水分解性シラン化合物は、以下の式(1)及び(2)で表されるものから選ばれる1種もしくは複数種であって、そのうち少なくとも1種は式(1)の化合物である請求項1〜3のいずれかの一項に記載の帯電部材:
【化1】

〔ここでRはカチオン重合可能な有機基、Zは2価の有機基、R及びRはそれぞれ独立に飽和または不飽和の炭化水素基、Rは置換または非置換のアルキル基、アリール基を示す。〕。
【請求項5】
支持体と弾性層と表面層とを有する帯電部材の製造方法であって、加水分解性シラン化合物と表面に存在する水酸基量が0.7質量%以上35質量%以下である酸化チタン粒子との反応生成物を含むコーティング剤を該弾性層の上に塗布した後、活性化エネルギー線を照射することにより該コーティング剤を硬化させて該表面層を形成することを特徴とする帯電部材の製造方法。
【請求項6】
電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている請求項1〜4の何れかの一項に記載の帯電部材とを有することを特徴とする電子写真装置。
【請求項7】
電子写真感光体と、該電子写真感光体に接触して配置されている請求項1〜4の何れかの一項に記載の帯電部材とを有し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−58726(P2012−58726A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156894(P2011−156894)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】