説明

帽子

【課題】暑い時期には着用者の頭部を快適に冷却しながら着用できるだけでなく、寒い時期には通常の帽子として快適に着用することができる帽子を提供する。
【解決手段】クラウン表地11とクラウン裏地12との間に、クラウン10の下縁に開口部αを有するポケットPを形成し、ポケットPに、吸湿性を有する不織布で形成された冷却シート40を抜き取り可能な状態で収容した。冷却シート40がポケットPに収容された状態にあっては、冷却シート40に吸収された水分が蒸発する際の気化熱により着用者の頭部を冷却することが可能となり、開口部αから冷却シート40を抜き取った際には、冷却シート40による冷却効果がない帽子として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の頭部を冷却する機能を有する帽子に関する。
【背景技術】
【0002】
炎天下でのゴルフや野球などの運動や作業を行う際は、熱射病の危険があり、帽子を着用して頭部を守ることが重要である。このような実状に鑑みて、これまでには、吸水性を有する不織布を素材として使用することにより、該不織布に吸収された水分が蒸発する際の気化熱により、着用者の頭部を冷却するようにした帽子も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、クラウンを構成する生地が通気性を有する材料で構成されるとともに、生地を繋ぎ合せる帯板状部材が吸水性を有する材料で構成され、クラウン部を構成する生地の内の前頭部に接触する生地の裏面に、シート状の第一吸収体が設けられ、帯板状部材の生地側表面に、シート状の第二吸収体が第一吸収体と水分の受け渡しが可能な状態で設けられた帽子が記載されている。特許文献1には、第一吸収体や第二吸収体として、ポリアクリル酸ナトリウム塩を主成分とするポリマーを直接紡糸したものからなる不織布を用いることも記載されている。
【0004】
特許文献1の帽子は、従来の帽子と比較して、着用者の頭部を冷却できるものではあったが、以下のような欠点を有していた。すなわち、特許文献1の帽子は、吸水性を有する不織布(第一吸収体や第二吸収体など)を帽子に対して一体的に縫着したものであったため、該不織布による冷却効果を当初から得ようとすると、帽子全体を水で濡らさなければならず、帽子から水が滴るおそれがあった。この場合には、着用者が不快感を感じたり、見た目が悪くなるという問題がある。また、吸水性を有する不織布が汚れると、帽子全体を洗濯しなければならず、洗濯の際にクラウンや庇の部分が型崩れするおそれがあった。さらに、特許文献1の帽子は、寒い時期に着用するものとしては適していなかった。
【0005】
ところで、特許文献2には、クラウンの内面に、吸水性の繊維又はスポンジよりなる吸水パットを面ファスナにより着脱自在に設けた帽子が記載されている。この帽子は、吸水パットを帽子本体から取り外すことが可能であるため、吸水パットのみを水で湿らせた後、クラウンの内面に取り付けて使用することが可能である。したがって、上述した問題を解決することができる。しかし、特許文献2の帽子は、吸水パットが着用者の頭部に直接触れる構造のものであったため、着用者が違和感を感じるおそれがあった。また、着用時に吸水パットがクラウンから外れるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−042258号公報
【特許文献2】実開平05−089417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、暑い時期には着用者の頭部を快適に冷却できるだけでなく、寒い時期には通常の帽子(冷却機能を有さない帽子)として快適に着用することができる帽子を提供するものである。また、清潔に保つことが容易で、型崩れを防いで見た目を良好に保つことも可能な帽子を提供することも本発明の目的である。さらに、着用者が激しく動いても、帽子における着用者の頭部の冷却に寄与する部分が脱落しにくい帽子を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、着用者の頭部を覆うための半球状のクラウンを備えた帽子であって、クラウンが、その外面を形成するクラウン表地と、クラウン表地の裏面側に配されたメッシュ素材からなるクラウン裏地とで構成され、クラウン裏地がクラウン表地に対してクラウンの下縁と頂部とを結ぶ経線方向に沿って縫着されるとともに、クラウン裏地の下縁がクラウン表地の下縁に沿って縫着されないことにより、クラウン表地とクラウン裏地との間に、クラウンの下縁に開口部を有するポケットが形成され、該ポケットには、吸湿性を有する不織布で形成された冷却シートが抜き取り可能な状態で収容され、冷却シートが前記ポケットに収容された状態にあっては、冷却シートに吸収された水分が蒸発する際の気化熱により着用者の頭部を冷却することを可能とし、前記開口部から冷却シートを抜き取った際には、冷却シートによる冷却効果がない帽子として使用できるようにしたことを特徴とする帽子を提供することによって解決される。
【0009】
本発明の帽子は、冷却シートを抜き取ることができるので、オールシーズン快適に使用することができる。また、冷却シートのみを取り外して洗濯することができるので、冷却シートを清潔に保つことも容易であるだけでなく、クラウンなどの型崩れを防ぐことも可能である。さらに、冷却シートは、前記ポケットに収容された状態となるので、着用者が激しく動いた場合であっても脱落しにくい。さらにまた、本発明の帽子は、メッシュ素材からなるクラウン裏地によって冷却シートが着用者の直接触れないようにしたので、着用者が頭部に違和感を感じにくく、快適に着用することができるものとなっている。
【0010】
本発明の帽子は、クラウンの内側でクラウンの下縁に沿って設けられて着用者の頭部の汗を吸収する帯状のビン皮を備えたものとし、該ビン皮が、その下縁をクラウン表地の下縁に沿って縫着されて上縁側がクラウン表地に縫着されずにふらされた状態とされ、前記ポケットの前記開口部をビン皮の上縁側で覆うことにより前記開口部を閉塞可能なものとするとより好ましい。これにより、着用者の快適性をさらに向上させるだけでなく、前記ポケットに収容された冷却シートを前記開口部からさらに抜け落ちにくくすることが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によって、暑い時期には着用者の頭部を快適に冷却しながら着用できるだけでなく、寒い時期には通常の帽子(冷却機能を有さない帽子)として快適に着用することができる帽子を提供することが可能になる。また、清潔に保つことが容易で、型崩れを防いで見た目を良好に保つことも可能な帽子を提供することも可能になる。さらに、着用者が運動などで激しく動いても、帽子における着用者の頭部の冷却に寄与する部分が脱落しにくい帽子を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】クラウン表地とクラウン裏地との間のポケットに冷却シートを収容した状態における本発明の帽子をクラウン下側から見た底面図である。
【図2】図1に示す帽子からクラウン裏地とビン皮と冷却シートを取り除いた状態を示した底面図である。
【図3】クラウン表地とクラウン裏地との間のポケットに冷却シートを挿入している途中の状態における本発明の帽子をクラウン下側から見た底面図である。
【図4】クラウン表地とクラウン裏地との間のポケットに冷却シートを収容した状態における本発明の帽子を鉛直面で切断してクラウンの前部周辺を拡大した断面図である。
【図5】クラウン表地とクラウン裏地との間のポケットに冷却シートを挿入している途中の状態における本発明の帽子を鉛直面で切断してクラウンの前部周辺を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の帽子の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、クラウン表地11とクラウン裏地12との間のポケットP(図4を参照)に冷却シート40を収容した状態における本発明の帽子をクラウン10の下側から見た底面図である。また、図2は、図1に示す帽子からクラウン裏地12とビン皮20と冷却シート40を取り除いた状態を示した底面図である。さらに、図3は、クラウン表地11とクラウン裏地12との間のポケットP(図4を参照)に冷却シート40を挿入している途中の状態における本発明の帽子をクラウン10の下側から見た底面図である。図3においては、図示の便宜上、ビン皮20を描いていない。さらにまた、図4は、クラウン表地11とクラウン裏地12との間のポケットPに冷却シート40を収容した状態における本発明の帽子を鉛直面(クラウン10の前端点及び頂点を通る鉛直面)で切断してクラウン10の前部周辺を拡大した断面図である。そして、図5は、クラウン表地11とクラウン裏地12との間のポケットPに冷却シート40を挿入している途中の状態における本発明の帽子を鉛直面(クラウン10の前端点及び頂点を通る鉛直面)で切断してクラウン10の前部周辺を拡大した断面図である。
【0014】
0.帽子の概要
本実施態様の帽子は、図1〜5に示すように、着用者の頭部を覆うための半球状のクラウン10と、クラウン10の内側でクラウン10の下縁に沿って設けられた帯状のビン皮20(図1,4,5を参照)と、クラウン10の下縁から前方へ付き出して設けられた庇30と、クラウン10に設けられたポケットP(図4,5を参照)に収容された冷却シート40(図1,3,4,5を参照)を備えている。
【0015】
1.クラウン
クラウン10は、図1に示すように、クラウン10の外面を形成するクラウン表地11と、クラウン表地11の裏面側(クラウン10の内側となる側)に配されたメッシュ素材からなるクラウン裏地12(図1において網掛けハッチングで示した部分)とで構成されている。
【0016】
1.1 クラウン表地
本実施態様の帽子において、クラウン表地11は、図2に示すように、複数枚の三角形状の表地用分割片11a,11b,11c,11d,11e,11f(いわゆる「表地用れんげ」)の側縁同士を縫着することにより構成している。クラウン表地11を形成する表地用れんげの枚数や配置は、特に限定されないが、通常4枚以上、好ましくは5枚以上、より好ましくは6枚以上の表地用れんげをクラウン10において左右対称となるように配置する。これにより、クラウン10を綺麗な半球状とすることが可能になる。一方、クラウン表地11を形成する表地用れんげの枚数を多くしすぎると、縫着工程が多くなって帽子の製造コストが増大するため、クラウン表地11を形成する表地用れんげの枚数は、通常、10枚以下、好ましくは、8枚以下とされる。本実施態様の帽子においては、同一な二等辺三角形状を有する6枚の表地用れんげ11a〜11fでクラウン表地11を形成している。
【0017】
本実施態様の帽子において、表地用れんげ11a〜11fのそれぞれの側縁に重なる部分であってクラウン表地11の裏側となる部分には、図2に示すように、裏打ち用帯材13a,13b,13c,13d,13e,13fが配されている。裏打ち用帯材13a〜13fは、クラウン10の下縁における所定点(クラウン10の下縁上の点であって隣り合う表地用れんげとの境界を形成する点)と頂点とを結ぶ経線方向に沿って配されている。表地用れんげ11a〜11fは、その側縁同士が互いに縫着されているが、それぞれの側縁は、この裏打ち用帯材13a〜13fに対しても縫着されている。これにより、表地用れんげ11a〜11fの縫着部を補強することができる。本実施態様において、表地用れんげ11aと表地用れんげ11bの境界部に配される裏打ち用帯材13aと、表地用れんげ11eと表地用れんげ11fの境界部に配される裏打ち用帯材13fを、共通な1本の帯材により形成している。同様に、裏打ち用帯材13bと裏打ち用帯材13eも、共通な1本の帯材により形成し、裏打ち用帯材13cと裏打ち用帯材13dも、共通な1本の帯材により形成している。
【0018】
クラウン表地11の素材は、特に限定されない。本実施態様の帽子において、クラウン表地11は、ポリエステル繊維の編地(ポリエステルニット)を使用している。クラウン表地11には、ナイロン繊維の編地(ナイロンメッシュ)など、他の合成繊維を使用したものや、綿などの天然繊維を使用した生地を使用することもできる。クラウン表地11は、通気性に優れたものであると好ましい。これにより、冷却シート40に吸収された水分が気化する際に熱がクラウン10の外部へと放出されやすくして、着用者の頭部の冷却効果を高めることが可能になる。具体的には、クラウン表地11の通気性は、通常、JIS−L−1096「一般織物試験方法」における8.27A法(フラジール形法)に基づいて測定した通気度で10cm/cm・s以上とされる。クラウン表地11の通気度は、30cm/cm・s以上とすると好ましく、50cm/cm・s以上とするとより好ましい。一方、クラウン表地11の通気性を高くしすぎると、クラウン10の外部から冷却シート40が透けて見え、帽子の見た目が悪くなるおそれがある。このため、クラウン表地11の通気性は、通常、300cm/cm・s以下、好ましくは、200cm/cm・s以下とされる。
【0019】
1.2 クラウン裏地
本実施態様の帽子において、クラウン裏地12は、図3に示すように、複数枚の三角形状の裏地用分割片12a,12b,12c,12d(いわゆる「裏地用れんげ」)によって構成している。クラウン裏地12を形成する裏地用れんげの枚数や配置は、特に限定されない。裏地用れんげは、クラウン表地11の裏側における少なくともポケットP(図4を参照)する箇所に配置すればよい。しかし、クラウン裏地12をクラウン表地11に対して縫着する箇所と、隣り合うクラウン表地11同士を縫着する箇所とを一致させて縫着工程をできるだけ簡素化することを考慮すると、裏地用れんげの形状を表地用れんげの形状に一致させ、裏地用れんげの枚数を表地用れんげの枚数と同じにする(クラウン表地11の裏面の全体をクラウン裏地12で覆う場合)か、それより少なくする(クラウン表地11の裏面の一部をクラウン裏地12で覆う場合)と好ましい。
【0020】
本実施態様の帽子においては、図3に示すように、表地用れんげ11a,11b,11e,11f(図2を参照)のそれぞれと同一な三角形状の4枚の裏地用れんげ12a,12b,12c,12dを使用している。裏地用れんげ12aは、クラウン表地11の左前部を形成する表地用れんげ11aに重ねられ、裏地用れんげ12bは、クラウン表地11の右前部を形成する表地用れんげ11bに重ねられ、裏地用れんげ12cは、クラウン表地11の左後部を形成する表地用れんげ11eに重ねられ、裏地用れんげ12dは、クラウン表地11の右後部を形成する表地用れんげ11fに重ねられている。このため、クラウン10の前頭部(着用者の前頭部を覆う部分)の裏側と、後頭部(着用者の後頭部を覆う部分)の裏側に、ポケットPが形成されている。本実施態様の帽子においては、クラウン表地11の左右両側部を形成する表地用れんげ11c,11dの裏面側には裏地用れんげを配していないが、必要に応じて表地用れんげ11c,11dの裏面側にも裏地用れんげを配し、当該部分にポケットPと同様の機能及び構造を有するポケットを形成してもよい。
【0021】
ところで、本実施態様の帽子においては、図3に示すように、裏地用れんげ12aの内寄りの側縁(裏地用れんげの一対の側縁のうち、クラウン10を左右に二等分する中心線に近い側の側縁。以下同じ。)と裏地用れんげ12bの内寄りの側縁、及び裏地用れんげ12cの内寄りの側縁と裏地用れんげ12dの内寄りの側縁は、それぞれ互いに縫着されている。裏地用れんげ12aと裏地用れんげ12bの境界部であってクラウン裏地12の裏側となる部分と、裏地用れんげ12cと裏地用れんげ12dの境界部であってクラウン裏地12の裏側となる部分には、図3に示すように、それぞれ裏打ち用帯材14aと裏打ち用帯材14bが配されている。裏地用れんげ12a〜12dは、この裏打ち用帯材14a,14bに対しても縫着されている。これにより、裏地用れんげ12a〜12dの縫着部を補強することができる。裏打ち用帯材14aと裏打ち用帯材14bは、共通な1本の帯材により形成してもよい。
【0022】
裏打ち用帯材14a,14bは、それぞれ裏打ち用帯材13a,13f(図2を参照)に重なるように配される。裏打ち用帯材14a,14bは、それぞれ裏打ち用帯材13a,13fと共通にし、クラウン裏地12をクラウン表地11に対して裏打ち用帯材13a,13fが設けられた部分で縫着してもよい。しかし、本実施態様の帽子においては、裏打ち用帯材14a,14bと裏打ち用帯材13a,13fとを別な帯材としており、裏打ち用帯材14a,14bの部分(クラウン10の頂点周辺を除く。)でクラウン裏地12をクラウン表地11に対して縫着していない。これにより、裏地用れんげ12aで形成されるポケットと裏地用れんげ12bで形成されるポケットとを、あるいは裏地用れんげ12cで形成されるポケットと裏地用れんげ12dで形成されるポケットとをそれぞれ連続させることが可能になり、冷却シート40を収容するためのポケットP(図4を参照)を大きく確保することができる。
【0023】
これに対し、裏地用れんげ12a,12b,12c,12dの外寄りの側縁(裏地用れんげの一対の側縁のうち、クラウン10を左右に二等分する中心線から遠い側の側縁。以下同じ。)は、それぞれ、裏打ち用帯材13b,13c,13d,13eが設けられた部分で裏打ち用帯材13b,13c,13d,13e及びクラウン表地11に対して縫着されている。一方、裏地用れんげ12a,12b,12c,12dの下縁に沿った箇所は、クラウン表地11の下縁に沿って縫着されずにふらされた状態となっている。すなわち、クラウン表地11とクラウン裏地12は、図3における点Pと点Pを結ぶ経線Pに沿った箇所と、点Pと点Pを結ぶ経線Pに沿った箇所と、点Pと点Pを結ぶ経線Pに沿った箇所と、点Pと点Pを結ぶ経線Pに沿った箇所のみで互いに縫着され、点Pと点Pと点Pを結ぶ円弧状の緯線Pに沿った箇所と、点Pと点Pと点Pを結ぶ円弧状の緯線Pに沿った箇所では互いに縫着されていない。このため、クラウン表地11とクラウン裏地12との間には、クラウン10の下縁に開口部αを有するポケットP(図4を参照)が形成されている。
【0024】
クラウン裏地12は、メッシュ素材で形成されたものであれば、それを形成する具体的な素材の種類を特に限定されない。しかし、クラウン裏地12は、通常、ポリエステル繊維やナイロン繊維などの合成繊維からなるメッシュ状の編地や織地が採用される。これにより、着用者が頭部に汗をかいてもクラウン裏地12がべたつかないようにして、着用者の快適性を向上させることができる。また、クラウン裏地12に保形性を付与して、クラウン10の形態を綺麗な半球状に保ちやすくすることも可能になる。クラウン裏地12の通気度は、特に限定されないが、通常、JIS−L−1096「一般織物試験方法」における8.27A法(フラジール形法)に基づいて測定した通気度で150cm/cm・s以上とされる。これにより、着用者の頭部の熱を冷却シート40で効果的に冷却することが可能になる。クラウン裏地11の通気度は、200cm/cm・s以上とすると好ましく、300cm/cm・s以上とするとより好ましい。クラウン裏地12は、実質的にクラウン裏地12の表裏への流れを阻害しない素材で形成することができ、クラウン裏地12の通気度に特に上限はない。
【0025】
2.ビン皮
ビン皮20は、図1に示すように、クラウン10の内側でクラウン10の下縁に沿って設けられた帯状の素材となっている。図4に示すように、ビン皮20の下縁は、クラウン表地11の下縁に沿って縫着されているものの、ビン皮20の上縁側は、クラウン表地11に対して縫着されておらずふらされた状態となっている。このため、ビン皮20は、図4に示す状態(帽子使用時)にあっては、その上縁側でポケットPの開口部αを覆って冷却シート40がポケットPから抜け落ちないようにする蓋としての機能を有しながらも、その上縁側に指を掛けるなどして図5に示す矢印Cの向きへ引き下ろすことができるようになっている。図5に示す状態にあっては、冷却シート40を開口部αからポケットPの内部へ矢印Aの向きで挿入することができる。また、開口部αから冷却シート40を抜き取ることも可能である。冷却シート40をポケットPへ収容する際、あるいはポケットPから冷却シート40を抜き取る際には、クラウン裏地12の下縁を矢印Dの向きへ引っ張って開口部αを広げると作業を容易に行える。
【0026】
このビン皮20は、着用者の頭部の汗を吸収する機能を有するほか、上述したように、ポケットPの開口部α(図4を参照)を覆う機能をも有するものとなっている。このため、ビン皮20は、クラウン10の下縁における少なくともポケットPの開口部α(図4を参照)に重なる箇所に設けられていればよいが、本実施態様の帽子においては、図1に示すように、クラウン10の下縁における全周部に沿って設けている。これにより、着用者の頭部の全周部に亘って汗を吸収するだけでなく、ビン皮20の保形性を高めて、意識的にビン皮20の上縁側を引き下ろさない限りは、ビン皮20が図5に示す状態にならないようにすることも可能になる。ビン皮20の素材は、特に限定されないが、吸水性と速乾性に優れた素材を選択すると好ましい。本実施態様の帽子においては、内側の面(着用者の頭部に接触する側の面)に太い繊維を用い、外側の面に細い繊維を用いた織物を用いている。この織物は、毛細管現象により頭部の汗を速やかに吸収することのできるものとなっている。
【0027】
3.庇
本実施態様の帽子は、図1〜5に示すように、庇30を有するものとなっている。庇30を設ける場合には、本実施態様の帽子のように、クラウン10の下縁における前周部から前方へ付き出して設ける形態のもの(前鍔)に限定されず、クラウン10の下縁における全周部から外方に付き出して庇30を設けてもよい。庇30の具体的な構成は、特に限定されないが、通常、図4に示すように、庇芯材31と、庇芯材31の表面(上面)を覆う庇表地32と、庇芯材31の裏面(下面)を覆う庇裏地33とで構成される。本実施態様の帽子において、庇30は、図4に示すように、その基端縁をクラウン表地11の下縁及びビン皮20の下縁に対して縫着されている。
【0028】
4.冷却シート
冷却シート40は、吸湿性を有する不織布で形成されたものとなっている。冷却シート40の吸水能は、特に限定されないが、少なすぎると、気化熱により着用者の頭部を冷却する効果が低下するおそれがある。このため、冷却シート40には、通常、その吸水量が冷却シート40の自重の20倍以上の素材が使用される。冷却シート40の吸水量は、その自重の30倍以上であると好ましく、40倍以上であるとより好ましく、50倍以上であるとさらに好ましい。冷却シート40の吸水能は、高ければ高いほど好ましく、冷却シート40の吸水量の上限は、特に限定されないが、現在の技術上の理由で、冷却シート40の自重の100倍、通常、80倍以下とされる。
【0029】
冷却シート40は、不織布であれば特に限定されず、天然繊維からなる不織布であってもよいが、上述したような高い吸水能を実現するためには、親水性の強い合成樹脂繊維からなる不織布を使用すると好ましい。親水性の強い合成樹脂繊維としては、架橋ポリアクリル酸ナトリウム塩系繊維、アクリル繊維を後加工によりその表面を加水分解させた繊維などがあげられる。架橋ポリアクリル酸ナトリウム塩系繊維の例としては、カルボン酸基を持つビニルモノマーとカルボン酸基と反応してエステル架橋結合を形成し得るヒドロキシル基を持つビニルモノマーの共重合体からなり、カルボン酸基の一部がナトリウム塩を形成しているポリマーからなる繊維(例えば、特開昭63−159405号公報を参照。)が例示される。また、アクリル繊維を後加工によりその表面を加水分解させた繊維としては、特開平1−183515号公報に記載されたものなどが例示される。
【0030】
これらの合成樹脂繊維は、単独でまたは2種以上を併用してもよい。これらの合成樹脂繊維の市販品としては、例えば帝人ファイバー株式会社製の商品名「ベルオアシス(登録商標)」や、東洋紡績株式会社製の商品名「ランシール」(登録商標)などがあげられる。特に「ベルオアシス(登録商標)」は架橋ポリアクリル酸ナトリウム塩系繊維であり、自重の50倍もの純水を吸収できるために好ましい。「ベルオアシス(登録商標)」は、吸水速度が速く素早く保水させることができることや、加工が容易であることなどからも好ましい。冷却シート40の表面は、必要に応じて、通水性を有するメッシュ素材などで覆ってもよい。これにより、冷却シート40の吸水能を低下させることなく、冷却シート40の耐洗濯性や耐久性を向上することも可能になる。
【0031】
冷却シート40は、クラウン表地11とクラウン裏地12との間に形成されたポケットP(図4を参照。)に収容可能であれば、その形態は特に限定されない。冷却シート40は、ポケットPに折り畳んだ状態で収容するようにしてもよいが、クラウン10の表面を綺麗に見せるためには、冷却シート40を折り畳まないでポケットPに収容できるようにすると好ましい。また、冷却シート40で着用者の頭部のより広い範囲を冷却できるようにするためには、冷却シート40の形状は、ポケットPに倣った形状(特定の表地用れんげの形状、又は隣り合う複数枚の表地用れんげを繋ぎ合せた形状に倣った形状)とすると好ましい。このため、本実施態様の帽子においては、図3に示すように、冷却シート40を、その3辺が外側に凸な曲線で形成された三角形状としている。これにより、図1に示すように、冷却シート40をより広い範囲に収容することが可能になる。
【0032】
5.帽子の使用方法
以上で説明した本発明の帽子は、以下のように使用することができる。例えば、帽子を炎天下で着用する場合など、頭部の冷却を行いたい場合には、図4に示すように、クラウン表地11とクラウン裏地12との間に形成されるポケットPに冷却シート40を収容した状態で帽子を着用する。冷却シート40は、ポケットPに容易に挿入することができる。冷却シート40は、乾燥した状態でポケットPに収容していても、着用者の頭部から発せられる汗を吸収し、その吸収した汗が気化する際の熱で着用者の頭部を冷却することができるため、予め湿潤状態にしておく必要はない。しかし、帽子の着用直後から冷却効果を得たい場合や、頭部をより効果的に冷却したい場合などには、水道水などで冷却シート40を湿潤状態にしておくと好ましい。帽子の着用時において、冷却シート40の冷却効果が低下してきたことが認められる場合などには、ポケットPから冷却シート40を取り出し、水道水などで再び冷却シート40を濡らしてから収容すると、冷却シート40の冷却能を回復することができる。冷却シート40は、ポケットPから容易に抜き取ることができる。使用後の冷却シート40は、次に帽子を被る機会に再び利用することができる。冷却シート40を清潔に保つためには、使用後の冷却シート40を洗濯すると好ましい。冷却シート40の洗濯は、冷却シート40をポケットPに収容したまま帽子ごと行うこともできるが、ポケットPから取り出して洗濯すると冷却シート40をより効果的に洗濯することが可能である。一方、寒い時期に帽子を着用するなど、頭部の冷却を行う必要が無い場合には、冷却シート40をポケットPから取り出した状態で帽子を着用する。このように、本発明の帽子は、状況に応じて臨機応変にその使用態様を変えることができ、オールシーズン着用することが可能なものとなっている。
【0033】
6.用途
以上で述べた本発明の帽子は、半球状のクラウン10を有する帽子であれば、その種類を特に限定されない。各種帽子として採用することができる。本発明の帽子は、ファッション性の高い帽子にも採用することができるが、その冷却機能をより効果的に発揮させるためには、炎天下で着用することの多い野球帽やゴルフ帽などの運動帽や、作業帽や、通学帽などとして好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 クラウン
11 クラウン表地
11a 着用者の頭部の左前部に配される表地用れんげ(表地用分割片)
11b 着用者の頭部の右前部に配される表地用れんげ(表地用分割片)
11c 着用者の頭部の左側部に配される表地用れんげ(表地用分割片)
11d 着用者の頭部の右前部に配される表地用れんげ(表地用分割片)
11e 着用者の頭部の左後部に配される表地用れんげ(表地用分割片)
11f 着用者の頭部の右後部に配される表地用れんげ(表地用分割片)
12 クラウン裏地
12a 着用者の頭部の左前部に配される裏地用れんげ(裏地用分割片)
12b 着用者の頭部の右前部に配される裏地用れんげ(裏地用分割片)
12c 着用者の頭部の左後部に配される裏地用れんげ(裏地用分割片)
12d 着用者の頭部の右後部に配される裏地用れんげ(裏地用分割片)
13a 裏打ち帯材
13b 裏打ち帯材
13c 裏打ち帯材
13d 裏打ち帯材
13e 裏打ち帯材
13f 裏打ち帯材
14a 裏打ち帯材
14b 裏打ち帯材
20 ビン皮
30 庇
31 庇芯材
32 庇表地
33 庇裏地
40 冷却シート
A 前側の冷却シートを挿入する向き
B 後側の冷却シートを挿入する向き
P ポケット
α ポケットの開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の頭部を覆うための半球状のクラウンを備えた帽子であって、
クラウンが、その外面を形成するクラウン表地と、クラウン表地の裏面側に配されたメッシュ素材からなるクラウン裏地とで構成され、
クラウン裏地がクラウン表地に対してクラウンの下縁と頂部とを結ぶ経線方向に沿って縫着されるとともに、クラウン裏地の下縁がクラウン表地の下縁に沿って縫着されないことにより、クラウン表地とクラウン裏地との間に、クラウンの下縁に開口部を有するポケットが形成され、
該ポケットには、吸湿性を有する不織布で形成された冷却シートが抜き取り可能な状態で収容され、
冷却シートが前記ポケットに収容された状態にあっては、冷却シートに吸収された水分が蒸発する際の気化熱により着用者の頭部を冷却することを可能とし、
前記開口部から冷却シートを抜き取った際には、冷却シートによる冷却効果がない帽子として使用できるようにしたことを特徴とする帽子。
【請求項2】
クラウンの内側でクラウンの下縁に沿って設けられて着用者の頭部の汗を吸収する帯状のビン皮を備え、
該ビン皮は、その下縁をクラウン表地の下縁に沿って縫着されて上縁側がクラウン表地に縫着されずにふらされた状態とされ、
前記ポケットの前記開口部をビン皮の上縁側で覆うことにより前記開口部を閉塞可能とした請求項1記載の帽子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2004(P2013−2004A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131101(P2011−131101)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(597093115)株式会社シオジリ製帽 (12)