説明

廃油中のPCBの分離方法

【課題】鉱物油中の微量PCBを鉱物油成分および着色成分から分離して取り出して、ECD検出器付ガスクロマトグラフによって正確に分析することを可能とすること。
【解決手段】微量のPCBを含む鉱物油中からPCBを分離する方法において、鉱物油をヘキサン等の非極性溶媒に溶解して溶液となし、これを活性アルミナ吸着剤等の固形吸着剤を充填した抽出容器に供給し、次に非極性溶媒を抽出容器に供給し、排出する。この操作において、鉱物油中のPCBおよび着色成分は吸着剤に吸着され保持され、一方鉱物油成分全量が非極性溶媒に抽出されて排出される。さらにジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒等の抽出溶媒を抽出容器に供給し、排出する。この操作において、着色成分を吸着剤に吸着して保持したままで、PCBのみを抽出溶媒中に抽出分離することを特徴としたPCBの分離方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉱物油に含まれているPCB(ポリ塩化ビフェニル)を分離する方法に関するものである。さらに詳しく言うと、鉱物油、特に絶縁油中に含まれる微量のPCBを分離して、電子捕獲型検出器付きガスクロマトグラフ(以下ECDガスクロと称す)を用いて正確に定量分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱物油等に含まれる微量PCB濃度を正確に分析するためには、PCBを分析妨害物質から分離しなければならない。分離方法として、国が定めた公定法によるものがあるが、分離操作が煩雑であり長時間を要し、さらに多額の費用を必要とする。そのために、これに変わる迅速分離方法が研究されてきている。
【0003】
特許公開2000−88825の方法は、絶縁油に極性溶媒を加えてPCBを抽出し、抽出液をC8シリカ等を充填した固相抽出器に流入させて、PCB画分を流出させ、さらに揮発性溶媒を加えてPCBを転溶させることによってPCBを分離する方法である。そして分離したPCB試料を四重極型質量分析器付きガスクロマトグラフによってPCBを定量分析している。この方法においてはECDガスクロによってPCBを正確に定量分析することはできない。その理由は使用済みの絶縁油中には分析妨害物質として鉱物油成分と着色成分があり、前記の分離操作によってはこれらの妨害物質を充分に分離できない。そのため、ECDガスクロによって正確に分析することができない。
【0004】
特許公開2003−114222の方法は、絶縁油をシリカゲルを充填したプレカラムに流入し、次いでn−ヘキサンを展開溶媒として流入させ、絶縁油中の測定妨害成分(主に鉱油成分)を粗く分離する。このときはじめのうちは妨害成分(鉱油成分およびn−アルカン等)のみが流出するので、妨害成分が流出し終わってから、流出液をアミノプロピルシラン等を充填したメインカラムに流入させる。次いでn−ヘキサンを展開溶媒としてメインカラムに流入させ、流出させる。この時はじめのうちは妨害成分のみが流出するので、妨害成分が流出し終わってから、流出液を採取する。そして流出液中のPCBを質量分析計付きガスクロマトグラフによって定量分析する方法である。この方法においては妨害成分を99.995%除去することができたとされている。しかしそれでもECDガスクロによってPCBを正確に定量分析することができない。つまり、使用済みの絶縁油中の分析妨害物質、特に着色成分が微量残留しており、これが妨害作用をするのである。着色成分の正体は明確ではないが、これが残存しているとECDガスクロでPCBを正確に分析することは困難である。
【0005】
PCBを迅速に且つ安価に分析するためには、質量分析計付きガスクロマトグラフを用いるのでなく、ECDガスクロを用いて分析することが望まれるのである。従って使用済み絶縁油から妨害物質として鉱物油成分以外に着色成分も分離除去する方法が望まれるのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉱物油中のPCBを正確に定量分析する際、高価で操作も難しい質量分析計付きガスクロマトグラフを用いるのでなく、すでに広く実用されているECDガスクロを用いて分析することを目指すものである。本発明は鉱物油中のPCBを、鉱物油成分および着色成分から分離してから取り出すことを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意研究した結果、固形吸着剤を充填した抽出容器に鉱物油を流入し、非極性溶媒を展開溶媒として流入することによって鉱物油成分を分離することができることを見出した。そしてその時PCBと着色成分は固形吸着剤に吸着保持されていることを見出した。次に抽出容器に抽出溶媒を展開溶媒として流入させることによって、PCB成分のみを分画分離することができることを発見し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち微量のPCBを含む鉱物油中からPCBを分離する方法において、該鉱物油を非極性溶媒に溶解して溶液となし、固形吸着剤を充填した抽出容器に該溶液を供給し、さらに該非極性溶媒を該抽出容器に供給し、排出する。次いで抽出溶媒を該抽出容器に供給し、該抽出容器から排出する該抽出溶媒中にPCBを抽出して分離することを特徴としたPCBの分離方法である。
【発明の効果】
【0009】
鉱物油中のPCB基準濃度を分析測定する公定法はPCBを分離精製してから測定する方法であるため、時間と費用が多く掛かっていた。またそれに変わる方法においては鉱物油中の着色成分を分離することができないために、質量分析計付きガスクロマトグラフを用いてPCBを定量分析しなければならない。
【0010】
本発明の方法によると鉱物油中成分をPCBと鉱物油成分および着色成分の3種類に分離することができる。しかもこの分離操作は1つの抽出容器を使って、2回の抽出操作によって実施できるため、非常に簡単である。
【0011】
そしてPCBは抽出溶媒中に取り出すことができ、これを蒸発乾燥して再度ヘキサンに溶解して分析試料となすことによって分析することができる。この操作も容易に実施できる。
【0012】
さらにこの試料の定量分析においては、ECDガスクロによって実施することが可能であり、分析精度も高く、これまでは分析精度が低く実用不可能とされてきたECDガスクロを使用することができるのである。ECDガスクロはすでに広く普及して実用されているため、今後のPCB分析作業を容易にし、大きな効果が期待できる。結局、本発明の方法によると絶縁油等の鉱物油中の微量PCB分析を迅速に、安価に、簡単な操作によって実施することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明をさらに詳細に説明する。本発明が対象とする鉱物油は100mg/kg程度以下の微量PCBを含んでいる、鉱物油成分を主体とするものである。通常トランス等に使用されている絶縁油中には微量PCBが含まれていることがしばしばであり、そのPCB分離に適した方法である。絶縁油中には鉱物油成分の他に、使用中に変質して生成したと考えられる正体不明の着色成分がある。本発明は絶縁油等の鉱物油中のPCBを鉱物油成分から分離しさらに着色成分からも分離して取り出すものである。
【0014】
まず絶縁油を非極性溶媒に溶解して溶液となす。非極性溶媒としてはパラフィン系炭化水素および芳香族系炭化水素が実施可能である。通常の分析操作においてはヘキサンが実用的であり好ましい。鉱物油と揮発性溶媒の混合量割合に関して特に制約はない。極端には、絶縁油を溶解せずに抽出容器に供給しても実施可能である。しかし通常の分析操作においては、絶縁油とヘキサン溶液の粘度が低くなりさらさらした状態とすることが望ましい。その場合、絶縁油1gに対してヘキサンの場合1〜5ml程度が適当である。
【0015】
抽出容器の構造形状は通常の分析操作に使用する円筒充填カラムで実施可能であるが、他の構造形式のものも実施可能である。固形吸着剤としては活性アルミナ系吸着剤、活性アルミナシリカゲル系吸着剤、ゼオライト系吸着剤、活性けい酸マグネシウム系吸着剤が実施可能である。通常の分析操作においては活性塩基性アルミナを使用する方法が実用的であり好ましい。吸着剤の量は抽出容器に流入させる試料溶液の量に対応した量とする。分析操作の前処理の場合または絶縁油からPCBを分離する場合等のそれぞれに応じた量とする。通常の分析操作においては、活性塩基性アルミナの場合、1〜5g程度を充填する。
【0016】
抽出容器に分析試料として絶縁油と非極性溶媒の溶液を定容量供給する。抽出容器に供給する溶液量に関し、特に制約はないが、抽出容器中の吸着剤を充満する量とする。通常の分析操作の場合、1〜10ml程度を定量して供給する。この時、溶液中の着色成分およびPCBは抽出容器内の吸着剤に吸着され、鉱物油成分は吸着されず溶液中に在る。
【0017】
次に抽出容器に非極性溶媒を充分な量を供給し、そして抽出容器から非極性溶媒を排出させる。非極性溶媒としては、絶縁油溶解に使用したものと同一のものとすることが適当である。この操作は抽出容器内の溶液を排出し、同時に鉱物油成分を排出させるものである。抽出容器内の絶縁油溶液の量に対し、1〜5倍程度の非極性溶媒量を供給すると、鉱物油のほぼ全量を抽出分離することができる。
【0018】
抽出容器から排出された溶媒は非極性溶媒と鉱物油成分の2成分溶液である。この溶液を蒸発乾燥すると、非極性溶媒は蒸発し、鉱物油成分は残留する。従って、容易に非極性溶媒と鉱物油成分を分離することができる。
【0019】
次に抽出容器に抽出溶媒を充分な量を供給し、そして抽出容器から抽出溶媒を排出させる。この操作は吸着剤に吸着している成分を展開し、PCB成分のみを抽出分離して排出させるものである。即ち、この操作において排出される抽出溶媒中にはPCBのみが抽出分離されるのである。抽出溶媒は極性溶媒或いは極性溶媒と非極性溶媒の混合溶媒である。極性溶媒としてはクロロメタン類、クロロエチレン類が実施可能である。非極性溶媒としては、絶縁油溶解に使用したものと同一のもとすることが適当である。通常の分析操作においては、極性溶媒としてジクロロメタンが実用的であり、非極性溶媒としてはヘキサンが実用的である。そして抽出溶媒としてはジクロロメタン或いはジクロロメタン−ヘキサン溶液を使用することが実用的であり好ましい。抽出溶媒の供給量は抽出容器内の溶液量の1〜5倍とする。これ以下の量ではPCB分離操作が不十分である。またこれ以上の量とする場合、PCB分離操作は可能であるが、その様に大量とする必要はない。
【0020】
抽出容器から排出された抽出溶媒中には、分析妨害物である鉱物油成分および着色成分を含まないPCB成分のみが含まれている。即ち、この時点において着色成分は抽出容器内の吸着剤に吸着され保持されたままである。従って以上の操作によって絶縁油中成分を鉱物油成分とPCB成分および着色成分に分離することができるのである。
【0021】
そこで、抽出容器から排出された抽出溶媒をビーカーに入れて、窒素気流によって乾燥固化処理すると、底部にPCBが残留する。これをn−ヘキサンに溶解して分析試料となし、ECDガスクロによってPCBを正確に定量分析することができる。この場合、分析試料中には妨害物質がほとんどないために、正確に分析測定することができる。
【0022】
本発明の方法は絶縁油等の廃油中のPCB分析のための前処理として非常に有効であるが、その他に絶縁油等の鉱物油中から微量のPCBおよび着色成分を分離する方法として実用することもできる。
【実施例1】
【0023】
本発明の方法を実施例に基づいてさらに詳しく説明する。
図ー1に本実施例の手順を示す。試料として使用済みの絶縁油1gを分析試料とした。試料は黄褐色に着色した粘性のある液体である。これに非極性溶媒としてヘキサンを加えて攪拌混合して溶液とした。この溶液から分析試料溶液として10mlを、ピペットを用いて分取した。抽出容器として直径が約8mm高さ300mmのガラスカラムを採用した。上部にロート状の受け口があり下部は直径約3mmに絞った出口が付いている。内部に吸着剤として活性塩基性アルミナを5g充填した。吸着剤の下部および上部には多孔質の栓を設置して充填剤が流出しない様にしている。抽出容器の上部から前記溶液を流下した。この時溶液は抽出容器内に充満して滞留している状態である。
【0024】
次に、非極性溶媒としてヘキサン50mlを抽出容器の上部から流入させ、同時に抽出容器の下部からヘキサンが流下させ、これをビーカーに採取した。採取方法として、5つのビーカーを準備し、流出開始から10mlずつ分別して採取した。採取液は目視観察したところ、無色透明な液体であった。この観察結果から、試料中の着色成分は分離されたことが分かる。
【0025】
ビーカーに採取した5つの採取液を取り出し、本件発明と別の乾燥装置に移した。乾燥装置において、採取液を窒素気流中においてヘキサンを蒸発させて乾燥した。そして残留物の成分を分析した。まず鉱物油に着目して分析した結果を図ー2に示す。この結果によると抽出容器から流出した鉱物油は合計で406mgである。一方、10mlの分析試料溶液中に含まれていた鉱物油は400mgであった。このことから分析試料溶液中の鉱物油の全量がヘキサン溶液として流出したことが分かる。次に残留物中のPCBをECDガスクロおよび公定法によって分析したところ、その結果は両者ともに検出限界以下であった。
【0026】
これらの目視観察および分析結果から、前記抽出操作によって試料溶液中から、鉱物油のみが分離され、PCBと着色成分は抽出容器内の吸着剤に吸着されていることが分かる。
【0027】
次に、抽出溶媒として10%ジクロロメタンと90%ヘキサンとの混合溶液を採用して、抽出容器の上部より流入させて、吸着剤内部を展開させた。抽出溶媒の流入量として、50mlとした。抽出容器の下部から抽出溶媒が流下するので、これを採取した。採取方法として、5つのビーカーを準備し、流出開始から10mlずつ分別して採取した。採取液を目視観察したところ、採取液は無色透明な液体であった。この観察により、分析試料溶液中の着色成分は採取した抽出溶媒中には存在しないことがわかる。つまり、着色成分は抽出容器内に吸着されたままである。
【0028】
ビーカーに採取した5つの採取液を取り出し、本件発明と別の乾燥装置に移した。乾燥装置において、採取液を窒素気流中において抽出溶媒を蒸発させて乾燥した。そして残留物をn−ヘキサンに溶解してガスクロ分析試料とした。PCBに関してECDガスクロによって分析した結果を図ー3に示す。この結果によると、抽出溶媒中に抽出されて流出したPCB量は110μgである。一方、分析試料溶液中に含まれていたPCB濃度は9.5 μg/ml、即ちPCB量として95μgであった。従って、分析試料溶液中のPCBの全量が抽出溶媒中に抽出され流出したことが分かる。またこのPCBに関して質量分析計付きガスクロマトグラフによって測定したところ、ほぼ同一の値であった。さらに図―4にECDガスクロによる測定結果に関し、平成4年厚生省告示第192号に定める検定方法(ECD法)で指定している前処理を行って分析した場合と本発明の方法を行って分析した場合の結果を示す。図より本発明の方法を実施して分析する場合、夾雑物によるピークの重なりがなくなりPCBのみによるピークがシャープにでている。そのために、微量のPCBを正確に分析することができることが分かる。
【0029】
以上のことをまとめると、実施例の方法によって絶縁油試料は鉱物油とPCBと着色成分に分離され、PCBを抽出溶媒液として取り出すことができた。そしてECDガスクロによって正確に定量分析することができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のPCB分離方法の手順を示す工程図
【図2】ヘキサンに抽出分離された鉱物油の分析結果
【図3】10%ジクロロメタン−ヘキサンに抽出分離されたPCBの分析結果
【図4】ECDガスクロによる分析結果のチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量のPCBを含む鉱物油中からPCBを分離する方法において、該鉱物油を非極性溶媒に溶解して溶液となし、固形吸着剤を充填した抽出容器に該溶液を供給し、さらに該非極性溶媒を該抽出容器に供給し、排出後、抽出溶媒を該抽出容器に供給し、該抽出容器から排出する該抽出溶媒中にPCBを抽出して分離することを特徴としたPCBの分離方法である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−329843(P2006−329843A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154828(P2005−154828)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(300064320)株式会社エコアップ (7)