説明

建設機械における旋回装置の給脂・給油構造

【課題】メンテナンス頻度の低い旋回装置用の給脂配管への給脂作業と比較的メンテナンス頻度の高い作業装置用の給脂配管への給脂作業を間違えることなく確実に行うことができるようにする建設機械における旋回装置の給脂・給油構造を提供する。
【解決手段】旋回ユニットにグリース給脂ポートと給油ポートを備える建設機械における旋回装置の給脂・給油構造において、グリース給脂ポートが給脂頻度の高い機構部にグリースを供給する第1給脂ポート24と給脂頻度の低い機構部にグリースを供給する第2給脂ポートで形成され、第1給脂配管24bの給脂口を容易に点検できる位置、例えば、グランドアクセス可能な位置に配設し、第2給脂配管の給脂口と給油配管の給油口を容易に点検できない位置、例えば、機械上面に登ってアクセスする位置に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械における旋回装置の給脂・給油構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば油圧ショベルは、下部走行体と、この下部走行体上に旋回自在に装着された上部旋回体とを備えている。
【0003】
前記上部旋回体には、該上部旋回体を旋回駆動する旋回装置(旋回減速機ともいう)と、運転室及び作業装置等が設けられている。旋回装置は、油圧モータ、歯車減速機構等を備え、歯車減速機構の部分には潤滑油が収容されている。この潤滑油は、旋回装置が駆動されることにより消耗することから定期的に潤滑油を給油する必要がある(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。
【0004】
また、前記下部走行体上に配設されている旋回装置には、旋回軸受を介して上部旋回体を旋回自在に装着しており、また、旋回軸受内には上部旋回体を旋回駆動するためのピニオン及び該ピニオンに噛み合う内歯のリングギアを備えている。そして、該ピニオンを、例えば油圧モータによって回転駆動すると、上部旋回体はリングギアのリングの中心を旋回中心として下部走行体上を旋回する。また、ピニオンの軸受及びピニオンリングとギアとの噛み合い歯面には、摩擦による作動不良や摩耗の発生を防止するのに、定期的にグリースのような油脂(以下、単にグリースという)を給脂する必要がある。
【0005】
一方、前記作業装置は、ブーム,アーム,バケット、及びこれらを駆動する各種シリンダで構成されている。そして、該作業装置の各連結部にも、摩擦による作動不良や摩耗の発生を防止するために、定期的にグリースを給脂する必要がある。
【0006】
このため、油圧ショベル等の建設機械における旋回装置には、潤滑油を供給する給油ポート及び該給油ポートに接続された給油ニップル付の給油配管と、旋回装置内の各機構部にグリースを供給するグリース供給ポート及び該グリース供給ポートに接続されたグリースニップル付の給脂配管と、作業装置内の各機構部にグリースを供給するグリース供給ポート及び該グリース供給ポートに接続されたグリースニップル付の給脂配管とが設けられている。
【0007】
また、これらの各配管は、作業者が上部旋回体の上に登らずに地上で作業が可能な位置(以下、この位置を「グランドアクセス可能な位置」という)に集約されており、このグランドアクセス可能な位置において給油及び給脂を行うことができるように配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−207184号公報。
【特許文献2】特開2000−110197号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の給油・給脂の配管は、全てグランドアクセス可能な位置に集約して設けられていた。しかしながら、同じグリースを使用する部分であっても、旋回装置
内の機構部に対してグリースを給脂する頻度と作業装置の各機構部に対してグリースを給脂する頻度とでは大きく異なる。そして、例えば、旋回装置内の機構部にグリースを入れ過ぎると旋回モータの破損事故、例えばギアオイル封入用のオイルシールを傷めて、オイルが流出してギアが焼け付くというような事故が危惧される。しかし、このように給油・給脂の各配管が全てグランドアクセス可能な位置に集約して設けられている構造では、メンテナンスを行う作業者が、旋回装置用の給脂配管と作業装置用の給脂配管とを間違えて給脂をしてしまう危惧があるという問題点があった。
【0010】
そこで、例えば、比較的メンテナンス頻度の低い旋回装置用の給脂配管への給脂作業と比較的メンテナンス頻度の高い作業装置用の給脂配管への給脂作業を間違えることなく確実に行うことができるようにするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、上部旋回体に配設された旋回ユニットにグリース供給用の給脂ポートと潤滑油供給用の給油ポートを備える建設機械における旋回装置の給脂・給油構造において、前記グリース給脂ポートが給脂頻度の高い機構部にグリースを供給する第1給脂ポートと給脂頻度の低い機構部にグリースを供給する第2給脂ポートで形成され、かつ、前記第1給脂ポートに連結された第1給脂配管と、前記第2給脂ポートに連結された第2給脂配管と、前記給油ポートに連結された給油配管とを備えるとともに、前記第1給脂配管の前記給脂口を日常点検している個所であって、且つ、グランドアクセス可能な位置に配設し、更に、前記第2給脂配管の前記給脂口と、前記給油配管の前記給油口を機械上部内部に配設して成ることを特徴とする建設機械における旋回装置の給脂・給油構造を提供する。
【0012】
この構成によれば、例えば給脂頻度の高い第1給脂配管をグランドアクセス可能な位置に配設し、給脂頻度の低い第2給脂配管は機械上部でアクセスする位置、例えば、機械上面に登ってアクセスする位置に配設したことにより、第1給脂配管と第2給脂配管を視覚的に区別することができ、給脂配管を間違えることが無くなる。しかも、給脂頻度の高い第1給脂配管はグランドアクセス可能な位置に配設しているのでメンテナンス作業の支障になることもない。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、上記第2給脂配管の前記給脂口と上記給油配管の前記給油口を近接して配置してなることを特徴とする建設機械における旋回装置の給脂・給油構造を提供する。
【0014】
この構成によれば、第2給脂配管への給脂と給油配管の給油を、機械上面に登って同じ位置で作業を行うことができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の構成において、上記第1給脂配管が作業装置に給脂する給脂配管であり、上記第2給脂配管が旋回軸受に給脂する給脂配管である建設機械における旋回装置の給脂・給油構造を提供する。
【0016】
この構成によれば、給脂頻度の高い作業装置に第1給脂配管を使用して給脂を行うことができるとともに、給脂頻度の低い旋回軸受に第2給脂配管を使用して給脂を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明は、同じグリースを供給する給脂配管のうち、給脂頻度の高い第1給脂配管はグランドアクセス可能な位置、給脂頻度の低い第2給脂配管は機械上面に登っ
てアクセスする位置と、それぞれ2つの給脂配管を異なる位置に分けて配置しているので、第1給脂配管と第2給脂配管とを視覚的に容易に区別することができ、間違えて給脂することを確実に無くすことができる。また、給脂頻度の高い第1給脂配管をグランドアクセス可能な位置に配設しているので、その都度、機械上面に登らなくても済み、メンテナンス作業も楽でスムーズに給脂作業を行うことができる。
【0018】
請求項2記載の発明は、第2給脂配管へのグリースの給脂と給油配管への潤滑油の給油を、機械上面に登って同じ位置で同時に作業することができるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、第2脂配管へのグリースの給脂と給油配管への潤滑油の給油をスムーズに行うことができる。
【0019】
請求項3記載の発明は、給脂頻度の高い作業装置にグランドアクセス可能な位置において給脂を行うことができるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、作業装置への給脂作業をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の旋回装置の給脂・給油構造を適用した油圧ショベルの側面図。
【図2】(a)は第1図に示す油圧ショベルのブーム、アーム等に設けられた給脂構造を示す側面図、(b)はアームシリンダの給脂ポートの平面図。
【図3】図1に示す油圧ショベルの上部旋回体における給脂構造及び機器類の配置を側面側より見て示す斜視図。
【図4】図1に示す油圧ショベルの上部旋回体における給脂構造及び機器類の配置を背面側より見て示す斜視図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、例えば比較的メンテナンス頻度の低い旋回装置用の給脂配管への給脂作業と比較的メンテナンス頻度の高い作業装置用の給脂配管への給脂作業を間違えることなく確実に行うことができるようにするという目的を達成するために、上部旋回体に配設された旋回ユニットにグリース供給用の給脂ポートと潤滑油供給用の給油ポートを備える建設機械における旋回装置の給脂・給油構造において、前記グリース給脂ポートが給脂頻度の高い機構部にグリースを供給する第1給脂ポートと給脂頻度の低い機構部にグリースを供給する第2給脂ポートで形成され、かつ、前記第1給脂ポートに連結された第1給脂配管と、前記第2給脂ポートに連結された第2給脂配管と、前記給油ポートに連結された給油配管とを備えるとともに、前記第1給脂配管の前記給脂口をグランドアクセス可能な位置に配設し、前記第2給脂配管の前記給脂口と前記給油配管の前記給油口を機械上面に登ってアクセスする位置に配設したことにより実現した。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の建設機械における旋回装置の給脂・給油構造について、好適な実施例を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1は本発明に係る旋回装置の給脂・給油構造を適用した建設機械として示す油圧ショベルの全体側面図である。同図において、油圧ショベル10は、下部走行体11と、旋回軸受12を介して該下部走行体11上に旋回自在に搭載された上部旋回体13と、該上部旋回体13に俯仰動可能に設けられた作業装置14とから大略構成されている。また、上部旋回体13のフレーム15上には、運転室を画成するキャブ16及び旋回ユニット17等が設置されている。
【0024】
前記旋回軸受12には、上部旋回体13を旋回自在に装着し、該上部旋回体13を旋回駆動するためのピニオン(図示せず)及び該ピニオンに噛み合う内歯のリングギア(図示せず)を備えている。
【0025】
図2(a)及び(b)並びに図3及び図4は、油圧ショベル10の上部旋回体13上に設けられた主要の給油構造及び機器類を示す。
【0026】
先ず、図2(a)及び(b)において、上部旋回体13の前方に俯仰自在に設けられたブーム14aには該ブーム14aを上下動させるためのブームシリンダ14b及びアーム14cを上下動させるためのアームシリンダ14dが設けられている。而して、該ブーム14aは前記ブームシリンダ14bにて作業位置と下降位置まで自在に上下動させることができる。また、該ブームシリンダ14bとアームシリンダ14d等の枢着部は磨耗・摩擦を防止するためのグリースが給油されるのであるが、本実施例では前記アームシリンダ14dの枢着部に設けた第1給脂ポート24について述べる。従って、前記ブームシリンダ14b、その他バケットシリンダ14e等についても全く同様の構成が採択されることは当然である。
【0027】
而して、該第1給脂ポート24は頻度の高い給脂が行われる個所であるが、該第1給脂ポート24から給脂する場合は、前記ブームシリンダ14bにてブーム14aを給脂ができる位置、例えば、グランドまで下降させ、そして、該第1給脂ポート24に設けたグリースニップル24aを介して第1給脂配管24bから給脂できるように構成されている。
【0028】
次に、図3及び図4は、油圧ショベル10の上部旋回体13上における主要の給脂構造及び機器類を示す。同図において、上部旋回体13上に配設されている旋回ユニット17は、油圧モータ17a、及び、該油圧モータ17aの回転出力を減速する歯車減速機17b等を備えている。また、該歯車減速機17b内には潤滑油が収容されている。
【0029】
前記旋回ユニット17には、前記旋回軸受12内のピニオン及びリングギア等に摩耗・摩擦を防止するグリースを給脂する給脂ポート19(以下、「第2給脂ポート19」という)と、前記減速機17b内に潤滑油を給油する給油ポート20が設けられている。該第2給脂ポート19には給脂口にグリースニップル19aを設けた第2給脂配管19bが取り付けられている。また、給油ポート20には給脂口に給油ニップル20aを設けた給脂配管20bが取り付けられている。
【0030】
なお、前記旋回軸受12に給脂を行うための前記第2給脂配管19bの給脂口であるグリースニップル19a、及び、前記減速機17bに潤滑油を給油するための前記給油配管20bの給油口である給油ニップル20aは、例えば、作業者が上部旋回体13の上に乗らないと給脂及び給油作業が行えない位置となるように、上部旋回体13上に設置された取付フレーム21にブラケット23を介してそれぞれ脱着自在に取り付けられ、また、互いに隣接し集約された状態で設置されている。
【0031】
次に、このように構成された給脂・給油構造の動作を説明する。まず、アームシリンダ14cに給脂を行う場合、作業者はグランドアクセス可能な位置に配設されているグリースニップル24aからグリースを供給することができる。アームシリンダ14cへの給脂では、比較的頻繁に給脂を行うことになるが、作業者は機械、すなわち上部旋回体13の上に登らずに、前述したようにブーム14aをグランド位置まで下降させ、グランドアクセス可能な位置に立って簡単に給脂を行うことができる。
【0032】
一方、前記旋回軸受12に給脂を行う場合、あるいは前記減速機17bに潤滑油を給油する場合、作業者は上部旋回体13の上に登り、取付フレーム21に配設されている給油ニップル20aから給油、あるいは、グリースニップル19aからグリースをそれぞれ供
給することができる。この場合、旋回軸受12へのグリースの供給は、作業装置14への
給脂の場合とは異なり、作業者は上部旋回体13の上に登っての作業となるので、視覚的にも区別され、間違えて作業装置14への給脂を行うことはない。なお、この上部旋回体13の上に登って行う給油作業あるいは給脂作業は、作業頻度が少ないので、作業者に対してさほど負担になるものではない。
【0033】
したがって、本実施形態による油圧ショベル10によれば、給脂頻度の高い第1給脂配管24bと給脂頻度の低い第2給脂配管19bをそれぞれグランドアクセス可能な位置と上部旋回体13(機械)の上面に登ってアクセスする位置とに分けて配設しているので、第1給脂配管24bと第2給脂配管19bとを視覚的に区別することができ、間違えて給脂するのを確実に無くすことができる。また、給脂頻度の高い第1給脂配管18bをグランドアクセス可能な位置に配設しているのでメンテナンス作業も楽になり、スムーズに給脂作業を行うことができることになる。
【0034】
なお、符号18はドレンポート、18aはドレンニップル、18bはドレンホースである。
【0035】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は油圧ショベルにおける旋回装置の給脂・給油構造に適用したが、これ以外のリフティングマシンやクレーン等の給脂・給油構造にも応用できる。
【符号の説明】
【0037】
10 油圧ショベル(建設機械)
11 下部走行体
12 旋回軸受
13 上部旋回体
14 作業装置
14a ブーム
14b ブームシリンダ
14c アーム
14d アームシリンダ
14e バケットシリンダ
15 フレーム
16 キャブ
17 旋回ユニット
18 ドレンポート
18a ドレンニップル
18b ドレンホース
19 第2給脂ポート
19a 給脂ニップル
19b 第2給脂配管
20 給油ポート
20a 給油ニップル
20b 給油配管
21 取付フレーム
22 ブラケット
23 ブラケット
24 第1給脂ポート
24a 給脂ニップル
24b 第1給脂配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体に配設された旋回ユニットにグリース供給用の給脂ポートと潤滑油供給用の給油ポートを備える建設機械における旋回装置の給脂・給油構造において、
前記グリース給脂ポートが給脂頻度の高い機構部にグリースを供給する第1給脂ポートと給脂頻度の低い機構部にグリースを供給する第2給脂ポートで形成され、かつ、前記第1給脂ポートに連結された第1給脂配管と、前記第2給脂ポートに連結された第2給脂配管と、前記給油ポートに連結された給油配管とを備えるとともに、
前記第1給脂配管の前記給脂口を日常点検している個所であって、且つ、グランドアクセス可能な位置に配設し、更に、前記第2給脂配管の前記給脂口と、前記給油配管の前記給油口を機械上部内部に配設して成ることを特徴とする建設機械における旋回装置の給脂・給油構造。
【請求項2】
上記第2給脂配管の前記給脂口と上記給油配管の前記給油口を近接配置してなることを特徴とする請求項1記載の建設機械における旋回装置の給脂・給油構造。
【請求項3】
上記第1給脂配管が作業装置に給脂する給脂配管であり、上記第2給脂配管が旋回軸受に給脂する給脂配管であることを特徴とする請求項1または2記載の建設機械における旋回装置の給脂・給油構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−157736(P2011−157736A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20680(P2010−20680)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(502246528)住友建機株式会社 (346)
【Fターム(参考)】