説明

建設機械のステアリング装置

【課題】ステアリングコラムのチルト角調整、コラム長さ調整を保持した状態で、ステアリングコラムの跳上げ操作を行うことができるようにする。
【解決手段】ステアリングコラム13の上部コラム16を運転位置から跳上げ位置に跳上げる跳上げ機構25を、チルト角調整機構33およびコラム長さ調整機構37とは独立した構成とする。運転席に乗降するオペレータは、跳上げ機構25のペダル44を踏込み操作すると、跳上げ部材26に対するロックピン40の係合状態が解除される。跳上げスプリング47は跳上げ部材26を支持軸31,32の廻りで回動するように付勢することにより、上部コラム16をハンドルと一緒に運転席から離れる方向に跳上げる。このときに、チルト角とコラム長さを予め調整した位置に保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホイールローダまたはホイール式油圧ショベルのようにハンドル操作によりステアリングを行う構成とした建設機械のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ホイールローダまたはホイール式油圧ショベルとして知られているホイール式建設機械には、運転席の前側に配置されたステアリングコラムをハンドルより舵取り操作するステアリング装置が搭載されている。この種の従来技術による建設機械のステアリング装置には、オペレータが運転席に乗降するときにハンドルが邪魔にならないようにステアリングコラムを前,後に傾転させる機構が設けられている。
【0003】
この機構は、例えばチルト角調整機構と呼ばれ、前記ステアリングコラムを運転席に近付ける方向と前記運転席から離れる方向とに傾転して前記ステアリングコラムのチルト角を調整するものである。また、前記ステアリングコラムのコラム長さを上,下方向で調整するコラム長さ調整機構を備えたものもある。運転席に着座したオペレータは、チルト角調整機構とコラム長さ調整機構とを手動で操作することにより、ハンドルの位置を好みに応じて可変に調整することができる(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−27524号公報
【特許文献2】特開2007−120220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術によるステアリングコラムは、チルト角調整機構により前記チルト角の調整が行われ、コラム長さ調整機構によりコラム長さが調整される。この状態で単一の手動レバーを一方向に操作することにより、前記チルト角調整機構とコラム長さ調整機構とが一緒にロックされる。また、前記手動レバーを他方向に操作したときには、前記チルト角調整機構とコラム長さ調整機構とが一緒にロック状態から解除される。
【0006】
一方、オペレータが運転席に乗降するときにはハンドルが邪魔になるので、前記手動レバーを他方向に操作してロック状態を解除し、前記チルト角調整機構によりステアリングコラムを運転席から離れる方向にチルトさせる場合が多い。しかし、ステアリングコラムを運転席から離れる方向にチルトさせると、前回の調整位置が失われてしまう。
【0007】
このため、オペレータは、次に運転席に乗込んだときに、前記チルト角の調整作業を最初からやり直す必要があり、ステアリングコラムのチルト角調整に手間が掛かるという問題がある。また、ステアリングコラムのコラム長さ調整機構についても、前記手動レバーを解除方向に操作したときに、チルト角調整機構の動きに影響されて、コラム長さの調整位置が変化することがある。この結果、運転席に乗込んだオペレータは、その度毎にチルト角の調整作業とコラム長さの調整作業とを行う必要が生じ、乗降時における作業性を向上することができないという問題がある。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ステアリングコラムのチルト角調整機構、コラム長さ調整機構とは別にステアリングコラムの跳上げ機構を設けることにより、運転席への乗降を容易に行うことができ、チルト角の調整作業とコラム長さの調整作業とを簡素化することができるようにした建設機械のステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、請求項1の発明による建設機械のステアリング装置は、建設機械の運転席の前側に配置されハンドルにより舵取り操作されるステアリングコラムと、該ステアリングコラムを前記ハンドルと一緒に前記運転席に近い運転位置に対して前記運転席から離れた跳上げ位置へと跳上げる跳上げ機構と、前記ステアリングコラムのチルト角を調整するチルト角調整機構と、前記ステアリングコラムのコラム長さを調整するコラム長さ調整機構とを備え、前記跳上げ機構は、前記チルト角調整機構およびコラム長さ調整機構とは独立して設けられ、前記チルト角の調整位置および前記コラム長さの調整位置を保持した状態で前記ステアリングコラムの跳上げ操作を行う構成としている。
【0010】
また、請求項2の発明によると、前記跳上げ機構は、前記運転席に着座したオペレータによって操作されるペダルを備え、該ペダルの操作に従って前記ステアリングコラムを前記運転位置から跳上げ位置へと跳上げる構成としている。
【0011】
一方、請求項3の発明によると、前記跳上げ機構は、前記ステアリングコラムの上端に設けられる前記ハンドルをオペレータが手前に引く操作を行うことにより、前記ステアリングコラムが前記跳上げ位置から前記運転位置に復帰するのを許す構成としている。
【0012】
また、請求項4の発明によると、前記ステアリングコラムは、下端側が前記運転席の床面側に固定され上,下方向に延びるステアリング用の下部シャフトを収容した下部コラムと、該下部コラムの上部側に前,後方向と上,下方向とに移動可能に取付けられ上,下方向に延びるステアリング用の上部シャフトを収容した上部コラムと、前記下部シャフトと上部シャフトとの間に設けられ前記ハンドルの舵取り操作を前記シャフト間で伝える継手部材とにより構成し、前記チルト角調整機構は、前記下部コラムに対して前記上部コラムを前,後方向に傾転させることにより前記チルト角の調整を行い、前記コラム長さ調整機構は、前記下部コラムに対して前記上部コラムを上,下方向に移動させることにより前記コラム長さの調整を行う構成としている。
【0013】
また、請求項5の発明によると、前記ステアリングコラムの下部コラムと上部コラムとの間には、両者の間を上,下方向に延び前記跳上げ機構の一部を構成する跳上げ部材を設け、該跳上げ部材には、長さ方向の中間に位置し前記下部コラムに回動可能に取付けられる枢着部と、該枢着部よりも上側に配置され前記上部コラムがチルト角を調整可能に連結されるチルト角調整用の長穴部とを設け、前記チルト角調整機構は、前記跳上げ部材の長穴部に対して前記上部コラムを締結し前記チルト角の調整位置を保持する締結部材と、該締結部材を外側から回動操作して締結状態を解除することにより前記チルト角の調整を行うため前記上部コラムが跳上げ部材の長穴部に沿って相対移動するのを許すチルトレバーとを含んで構成している。
【0014】
また、請求項6の発明によると、前記コラム長さ調整機構は、前記上部コラムに形成され上,下方向に延びた長さ調整部を有し、該長さ調整部は、前記チルトレバーにより前記締結部材の締結状態を解除したときに前記上部コラムが前記下部コラムに対して上,下方向に移動するのを許し、前記チルトレバーにより前記締結部材を締結状態に戻したときには、前記下部コラムに対して前記上部コラムが上,下方向に移動するのを規制し前記コラム長さを任意の調整位置に保持する構成としている。
【発明の効果】
【0015】
上述の如く、請求項1の発明によれば、チルト角調整機構およびコラム長さ調整機構とは独立した跳上げ機構を採用しているので、前記チルト角調整機構によりステアリングコラムのチルト角調整を行い、コラム長さ調整機構によりコラム長さの調整を一旦行えば、その後はそれぞれの調整位置を保持し続けることができる。これによって、運転席に乗降するオペレータは、跳上げ機構を操作するだけで、ステアリングコラムをハンドルと一緒に運転席から離れる方向に跳上げることができ、このときにも前記チルト角とコラム長さを予め調整した位置に保持することができる。このため、運転席に次に乗込んだときに、前記チルト角とコラム長さの調整作業を再び行う必要がなくなり、乗降時の作業性を大幅に向上することができる。
【0016】
また、前回とは異なるオペレータが運転席に乗込むような場合には、このオペレータがハンドルと一緒にステアリングコラムを跳上げ位置から運転位置に戻した状態で、チルト角調整機構とコラム長さ調整機構とを手動で操作することにより、ハンドルの位置を自身の体格、好みに応じて調整することができる。その後の乗降時には、跳上げ機構を操作するだけでステアリングコラムを跳上げ位置と運転位置とに傾転することができ、前回の調整位置を保持したままで跳上げ操作を繰り返すことができる。
【0017】
また、請求項2の発明によれば、運転席に着座したオペレータがペダルを操作することにより、跳上げ機構はハンドルと一緒にステアリングコラムを運転席に近い運転位置に対し運転席から離れた跳上げ位置へと跳上げることができる。
【0018】
一方、請求項3の発明によると、ステアリングコラムの上端に設けたハンドルをオペレータが手前に引く操作を行うことにより、跳上げ機構は前記ステアリングコラムが跳上げ位置から運転位置に復帰するのを許すことができる。
【0019】
また、請求項4の発明によると、運転席に着座したオペレータがステアリングコラムを跳上げ位置から運転席に近い運転位置に戻した状態で、ハンドルの位置を自身の体格、好みに応じて調整するときには、チルト角調整機構とコラム長さ調整機構とを手動で操作することができる。そして、チルト角調整機構は、上部コラムを下部コラムに対して前,後方向に傾転させることにより、ステアリングコラムのチルト角を調整することができる。また、コラム長さ調整機構は、前記下部コラムに対して前記上部コラムを上,下方向に移動させることにより、ステアリングコラムのコラム長さを調整することができる。
【0020】
また、請求項5の発明は、チルト角調整機構のチルトレバーを操作すれば、これにより締結部材を外側から回動して締結状態を解除することができ、この状態で上部コラムを跳上げ部材の長穴部に沿って相対移動することができる。これにより、上部コラムを前記長穴部の範囲内で下部コラムに対して前,後方向に傾転でき、ステアリングコラムのチルト角を調整することができる。チルト角の調整後には、前記チルトレバーを逆方向に操作することにより、締結部材を外側から回動して前記上部コラムを締結状態とすることができ、前記チルト角を調整位置に保持することができる。
【0021】
さらに、請求項6の発明は、チルトレバーを操作して締結部材の締結状態を解除すれば、上部コラムが下部コラムに対して上,下方向に移動するのを長さ調整部により許すことができ、ステアリングコラムのコラム長さを調整することができる。その後は、前記チルトレバーを逆向きに操作して前記締結部材を締結状態に戻すことにより、前記下部コラムに対する前記上部コラムの相対移動を規制でき、前記コラム長さを任意の調整位置に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態によるステアリング装置が搭載されたホイールローダを示す正面図である。
【図2】図1中のステアリング装置を拡大して示す斜視図である。
【図3】図2に示すステアリング装置の正面図である。
【図4】図3に示すステアリング装置の左側面図である。
【図5】ステアリング装置のチルトレバー、跳上げ部材等を図3中の矢示V−V方向から拡大してみた断面図である。
【図6】ステアリング装置の跳上げ機構、チルト角調整機構およびコラム長さ調整機構等を図4中の矢示VI−VI方向から拡大してみた断面図である。
【図7】跳上げ機構により上部コラムを跳上げ部材と一緒に跳上げた状態を示す図6と同様位置での断面図である。
【図8】ステアリング装置の上部コラム、下部コラム、跳上げ機構、チルト角調整機構およびコラム長さ調整機構等を示す分解斜視図である。
【図9】図8中の揺動プレートおよび折曲プレートを跳上げ部材として組立てた状態を示す分解斜視図である。
【図10】ステアリング装置の下部コラムおよび跳上げ機構等を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態による建設機械のステアリング装置を、ホイールローダに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0024】
ここで、図1ないし図10は本発明の実施の形態を示している。図中、1は本実施の形態で採用した建設機械としてのホイールローダである。このホイールローダ1は、後述の前輪5および後輪6により自走可能となった車体2を有している。ホイールローダ1の車体2は、後部車体3と、該後部車体3の前側に連結された前部車体4とにより構成されている。ホイールローダ1をステアリング操作するときには、前部車体4が後部車体3に対して左,右方向に揺動され、これにより走行方向が操舵される。
【0025】
前部車体4には左,右の前輪5が設けられ、後部車体3には左,右の後輪6が設けられている。これらの前輪5および後輪6は、ホイールローダ1の車輪を構成し、例えば油圧閉回路(HST)を用いた走行用の油圧モータ(図示せず)等により4輪駆動されるものである。なお、本発明で採用した建設機械としてのホイールローダ1は、4輪駆動に限るものではなく、例えば前輪5または後輪6のみを駆動する構成とした車両であってもよい。
【0026】
7は車体2の前部側に設けられた作業装置で、該作業装置7は、前部車体4に俯仰動可能に取付けられたブーム7Aと、該ブーム7Aの先端側に回動可能に取付けられたローダバケット7Bと、ブーム7Aを上,下に昇降駆動する左,右一対のブームシリンダ(図示せず)と、ローダバケット7Bを上,下に回動するバケットシリンダ7Cとにより構成されている。作業装置7は、例えば土砂の掘起こし作業、すくい採り作業等をローダバケット7Bを用いて行うものである。
【0027】
8は後部車体3の前側に設けられた床板で、該床板8は、その上側に運転席9が設置される床面を構成している。床板8の上方には、運転席9を上方から覆うキャノピ10が設けられている。また、床板8の上面側には、運転席9の前側に位置して後述のステアリング装置11が設けられると共に、走行ペダル、操作レバー(いずれも図示せず)が設けられている。
【0028】
運転席9に着座したオペレータは、後述のハンドル12を操舵して前部車体4を左,右方向に揺動させることにより、車体2の走行方向を制御する。また、オペレータは、前記操作レバーを操作することにより作業装置7を作動させるものである。また、後部車体3の後側には、ホイールローダ1の原動機となるエンジンが油圧ポンプ(いずれも図示せず)と共に搭載されている。
【0029】
11は本実施の形態で採用したステアリング装置で、該ステアリング装置11は、ハンドル12により舵取り操作される後述のステアリングコラム13と、跳上げ機構25、チルト角調整機構33およびコラム長さ調整機構37とを含んで構成されている。
【0030】
13は床板8上に位置して運転席9の前側に配置されたステアリングコラムである。このステアリングコラム13は、図2〜図10に示すように、下端側が運転席9の前側で床板8上に固定された下部コラム14と、該下部コラム14の上部側に前,後方向と上,下方向とに移動可能に取付けられた後述の上部コラム16とを含んで構成されている。ステアリングコラム13は、上部コラム16が下部コラム14に対して車両の前,後方向(図2、図3中の矢示A,B方向)に首振りされることにより、図3中に実線で示す運転位置と二点鎖線で示す跳上げ位置との間で傾転されるものである。
【0031】
下部コラム14は、図2〜図4に示すように、床板8上に着脱可能に設置される設置板14Aを下端側に有している。下部コラム14は、下端側の設置板14Aを介して床板8上に立設された固定スタンドを構成している。下部コラム14の上端側には、筒状のブッシュからなる左,右一対の軸支持部14Bが設けられている。該各軸支持部14Bには、後述の支持軸31,32により上部コラム16が跳上げ部材26を介して車両の前,後方向に回動可能に連結されている。
【0032】
下部コラム14には、軸支持部14Bよりも下側に位置して切欠き穴14Cが設けられ、この切欠き穴14Cには、図10に示すように後述の跳上げスプリング47が装入される。また、下部コラム14内に収容された後述の下部シャフト15と跳上げスプリング47とが接触、干渉するのを避けるため、切欠き穴14Cは下部コラム14の左,右両側のうち一側(例えば、左側)に片寄せて配置されている。
【0033】
15は下部コラム14内に回転自在に設けられた下部シャフトで、該下部シャフト15は、ハンドル12の舵取り操作を油圧シリンダからなるステアリングシリンダ(図示せず)に伝えるため、後述の上部シャフト21に継手部材22を介して連結されている。ハンドル12の舵取り操作は、上部シャフト21から継手部材22を介して下部シャフト15に伝えられる。
【0034】
16は下部コラム14の上側に設けられた上部コラムで、この上部コラム16は、下部コラム14に対し後述の支持軸31,32を回動中心として、図3中に実線で示す運転位置と二点鎖線で示す跳上げ位置とに傾転される。また、後述のチルト角調整機構33を用いるときには、下部コラム14に対する上部コラム16のチルト角(即ち、図2、図3中の矢示A,B方向における傾斜角度)が調整される。後述のコラム長さ調整機構37を用いるときには、下部コラム14に対する上部コラム16の高さ位置が上,下方向(即ち、コラム長さが図2、図3中の矢示C方向)で調整される。
【0035】
このため、上部コラム16は、図8、図9に示すように下側のコラム枠体17と、該コラム枠体17の上側に搭載される搭載ポスト18とを含んで構成され、その内側には後述の上部シャフト21が回転可能に収容される。コラム枠体17は、前板部17A、後板部17Bおよび左,右の側板部17C,17Dにより四角形状の枠体として構成され、その内側には上部シャフト21が隙間をもって上,下方向に挿入される空間部17Eが形成されている。
【0036】
左,右の側板部17C,17Dは、空間部17Eを挟んで左,右方向で対向し、前板部17Aおよび後板部17Bよりも上,下方向に長く延びる脚部として形成されている。左,右の側板部17C,17Dには、上,下方向に延びて下端が開口したU字状スリット17C1 、17D1 が形成されている。また、左側の側板部17Cには、U字状スリット17C1 の上側に離間してI字状スリット17C2 が形成され、このI字状スリット17C2 は、図6、図7に示すようにU字状スリット17C1 とほぼ同一の直線上に、同じスリット幅をもって配置されている。
【0037】
側板部17CのI字状スリット17C2 には、後述の締結ボルト34が図9に示すように挿通され、側板部17C,17DのU字状スリット17C1 、17D1 には、後述の支持軸31,32がそれぞれ挿通される。コラム枠体17の側板部17Cに形成したU字状スリット17C1 、I字状スリット17C2 と側板部17Dに形成したU字状スリット17D1 とは、後述するコラム長さ調整機構37の長さ調整部を構成するものである。
【0038】
搭載ポスト18の下端側には、固定板18Aが下向きに垂下して設けられ、この固定板18Aは、コラム枠体17の前板部17Aに複数のボルト19を用いて固定される。これにより、搭載ポスト18は、コラム枠体17の上側に搭載した状態で一体化される。また、搭載ポスト18の内側には、図5に示すように軸受20を介して上部シャフト21が回転可能に取付けられている。一方、搭載ポスト18の上端側には、図2〜図4、図8、図9に示すように、後述する上部シャフト21との間をシールする筒状のキャップ18Bが着脱可能に設けられる。
【0039】
21は上部コラム16の一部を構成するステアリング用の上部シャフトで、該上部シャフト21は、コラム枠体17の空間部17E内に下側から挿入され、搭載ポスト18内を上,下方向に貫通して配置される。上部シャフト21の上端側は、搭載ポスト18から上向きに突出する突出部21Aとなり、この突出部21Aにはハンドル12が取付けられる(図2参照)。また、上部シャフト21の下端側には、図5に示すように嵌合穴21Bが軸方向に形成され、この嵌合穴21Bには、後述する継手部材22の軸部22Bがセレーション22Cにより廻止め状態で挿嵌されている。
【0040】
22は下部シャフト15と上部シャフト21との間に設けられた継手部材で、該継手部材22は、図5に示すように下部シャフト15の上端側に取付けられる継手部22Aと、該継手部22Aに対して前,後方向と左,右方向に揺動可能に連結され上向きに延びた軸部22Bとから構成されている。継手部材22は、軸部22Bの回転を継手部22Aを介して下部シャフト15に伝える自在継手により構成されている。
【0041】
継手部材22には、軸部22Bの上部側に予め決められた長さをもってセレーション22Cが形成されている。このセレーション22Cは、上部シャフト21の嵌合穴21Bと継手部材22の軸部22Bとの相対回転を規制し、軸方向の相対変位を許すものである。後述のコラム長さ調整機構37により下部コラム14に対する上部コラム16の高さ位置を図5中の矢示C方向で調整するときには、上部シャフト21が軸部22Bに対して軸方向に相対変位するのをセレーション22Cにより補償することができる。
【0042】
23はコラム枠体17の側板部17Cに取付けられるレバー支持体で、該レバー支持体23は、下向きに垂下された略長方形状の支持板23Aを有し、該支持板23Aには、後述の締結ボルト34を介して筒状ナット24が取付けられる。筒状ナット24は、締結ボルト34と共に締結部材を構成し、筒状ナット24の先端側には後述のチルトレバー35が固定される。チルトレバー35をオペレータが回動操作することにより、筒状ナット24は締結ボルト34に対して相対回転され、筒状ナット24と締結ボルト34との締結,解除が行われる。
【0043】
25は本実施の形態で採用した跳上げ機構で、該跳上げ機構25は、下部コラム14と上部コラム16との間を上,下方向に延びて設けられ、上部コラム16を下部コラム14に対して跳上げる跳上げ部材26と、後述のピン保持体38、ロックピン40、ロックスプリング41、ピン操作部材42、ペダル44および跳上げスプリング47を含んで構成される。
【0044】
跳上げ部材26は、コラム枠体17の側板部17Cとレバー支持体23との間を上,下方向に延び下端側が下部コラム14内に挿入される平板状の揺動プレート27と、該揺動プレート27に複数のボルト28で固定される折曲プレート29と、揺動プレート27の下端側に設けられ後述のピン保持体38、ロックピン40と下部コラム14内の上,下方向で対向するカム板30とにより構成されている。
【0045】
上,下方向に延びる揺動プレート27は、長さ方向の中間部に枢着部27Aが設けられ、該枢着部27Aは、下部コラム14の軸支持部14Bに後述の支持軸31を介して回動可能に取付けられる。また、揺動プレート27には、枢着部27Aよりも上側となる位置にチルト角調整用の長穴部27Bが穿設され、該長穴部27Bは、枢着部27Aを中心として車両の前,後方向に円弧状に延びる長穴として形成されている。
【0046】
揺動プレート27の上部側(長穴部27Bの周囲部分)は、後述のチルトレバー35により筒状ナット24と締結ボルト34の締結状態を解除するまで、上部コラム16のコラム枠体17に締結ボルト34を介して固定した状態におかれ、跳上げ部材26全体が上部コラム16に対して固定された状態となる。一方、揺動プレート27の下部側には、その表面側と裏面側とに一対の突部27Cが左,右方向に突出して設けられ、該各突部27Cには、後述の各跳上げスプリング47が掛止めされる。
【0047】
折曲プレート29は、図8、図9に示す如く左,右の折曲げ部29A,29Bを有し、左側の折曲げ部29Aは、揺動プレート27の枢着部27Aと長穴部27Bとの間に各ボルト28により固定されている。右側の折曲げ部29Bには、揺動プレート27の枢着部27Aと左,右方向で対向する位置に他の枢着部29Cが設けられ、この枢着部29Cは、下部コラム14の軸支持部14Bに後述の支持軸32を介して回動可能に取付けられる。
【0048】
跳上げ部材26は、揺動プレート27と折曲プレート29の折曲げ部29Bとの間でコラム枠体17の側板部17C,17Dを左,右方向から挟むように配置される。この状態で、跳上げ部材26の枢着部27A,29Cは、支持軸31,32によりコラム枠体17のU字状スリット17C1 ,17D1 と下部コラム14の各軸支持部14Bとに連結される(図5参照)。
【0049】
ここで、支持軸31,32は、跳上げ機構25の回動支点を構成し、左,右方向で互いに対向する同一の高さ位置に配置される。支持軸31は、コラム枠体17のU字状スリット17C1 、揺動プレート27の枢着部27Aおよび下部コラム14の左側の軸支持部14Bに挿入され、この軸支持部14Bから突出する先端側にはナット31Aが螺着される。また、支持軸32は、コラム枠体17のU字状スリット17D1 、折曲プレート29の枢着部29Cおよび下部コラム14の右側の軸支持部14Bに挿入され、この軸支持部14Bから突出する先端側にはナット32Aが螺着される。
【0050】
揺動プレート27の下端側に設けたカム板30には、図6、図7に示すようにテーパ状の係合穴30Aが穿設され、この係合穴30Aには、後述するロックピン40のテーパ部40Aが進退可能に係合される。また、カム板30の下面側には傾斜面30Bが形成されている。この傾斜面30Bは、後述するロックピン40の先端面を図7に示す離脱位置から図6に示す係合位置へと滑らかに案内するものである。
【0051】
33は本実施の形態で採用したチルト角調整機構で、該チルト角調整機構33は、揺動プレート27に穿設したチルト角調整用の長穴部27Bと、この長穴部27Bに対して上部コラム16のコラム枠体17をレバー支持体23との間で締結しチルト角の調整位置を保持する締結ボルト34と、該締結ボルト34の締結状態を外側からの回動操作により解除する手動レバーとしてのチルトレバー35とを含んで構成されている。
【0052】
締結ボルト34は、チルト角調整機構33の締結部材を筒状ナット24と共に構成している。チルトレバー35は、筒状ナット24の先端側にボルト35Aを用いて固定され、筒状ナット24を締結ボルト34に対して正,逆方向に回転させる。これにより、筒状ナット24は締結ボルト34に対する締結方向と緩み方向とに選択的に回転される。
【0053】
締結ボルト34は、図8に示すように基端側に一対の面取り部34Aが形成され、該各面取り部34Aは、コラム枠体17のI字状スリット17C2 に係合される。これにより、締結ボルト34は、コラム枠体17の側板部17Cに対して廻止め状態で取付けられる。締結ボルト34の先端側は、ワッシャ36を介して揺動プレート27の長穴部27B内に挿通され、支持板23Aの裏面側から筒状ナット24に螺着して取付けられる。締結ボルト34は、コラム枠体17の側板部17Cと支持板23Aとの間で揺動プレート27の長穴部27B周囲を挟持することにより、上部コラム16のコラム枠体17を跳上げ部材26の揺動プレート27に対して締結する。
【0054】
しかし、オペレータがチルトレバー35を上向きに回動したときには、筒状ナット24が締結ボルト34に対して緩み方向に回転され、締結ボルト34と筒状ナット24とによる揺動プレート27への締結状態が解除される。このために、上部コラム16のコラム枠体17は、揺動プレート27の長穴部27Bに沿ってレバー支持体23、締結ボルト34と一緒に相対移動できるようになり、下部コラム14に対する上部コラム16のチルト角を前,後方向で調整することができる。このとき、上部コラム16は、下部コラム14に対し支持軸31,32を中心にして傾転され、チルト角の調整は長穴部27Bの円弧範囲内で行われる。
【0055】
37は本実施の形態で採用したコラム長さ調整機構で、該コラム長さ調整機構37は、コラム枠体17の側板部17C,17Dに形成した長さ調整部としてのU字状スリット17C1 ,17D1 、I字状スリット17C2 と、筒状ナット24、締結ボルト34およびチルトレバー35とを含んで構成されている。コラム長さ調整機構37は、チルトレバー35により筒状ナット24と締結ボルト34との締結状態を解除したときに、下部コラム14に対する上部コラム16の高さ位置をU字状スリット17C1 、17D1 とI字状スリット17C2 との長さ方向に沿って上,下方向、即ち図5、図6中の矢示C方向で調整することが可能となる。
【0056】
38は下部コラム14に複数のボルト39を介して固定されたピン保持体で、該ピン保持体38は、図10に示すように中空なボックス形状に形成され、その上,下面側には筒状のピンガイド38A,38Bが設けられている(図6、図7参照)。ピン保持体38には、ピンガイド38A,38B間に位置して後述のロックピン40が摺動変位可能に保持されている。また、ピン保持体38には、ピンガイド38A,38Bよりも下部コラム14の後側となる位置に取付筒部38Cが設けられ、この取付筒部38Cには、後述するペダル44のバー取付部44Bが挿嵌される。
【0057】
ここで、ピン保持体38は、図4に示すように揺動プレート27の下側に位置し、下部コラム14の左,右両側のうち一側(例えば、車両の後側からみて左側)に片寄せて配置されている。即ち、ピン保持体38は、下部コラム14内に収容された下部シャフト15との接触、干渉するのを避けるため、下部シャフト15の径方向外側となる位置で下部コラム14内に固定して設けられている。
【0058】
40は跳上げ機構25の一部を構成するテーパ状のロックピンで、該ロックピン40は、図6、図7に示すように、ピン保持体38内にピンガイド38A,38Bを介して摺動可能に設けられている。ロックピン40の長さ方向一側は、先細り状のテーパ部40Aとして形成され、このテーパ部40A側は、ピンガイド38Aにより摺動可能に支持されている。ロックピン40の長さ方向他側は、外径寸法の等しい平行ピンとして形成され、ピンガイド38Bにより摺動可能に支持されている。
【0059】
ロックピン40の長さ方向中間部には、ピンガイド38A,38Bの内径よりも大径に形成された環状のばね受部40Bと、該ばね受部40Bの外周面から径方向外向きに突出した一対の突起部40Cとが設けられている。一対の突起部40Cは、ばね受部40Bの径方向で互いに対向する位置に配置されている。一対の突起部40Cには、後述するピン操作部材42の各把持部42Aが上,下方向から挟込むように着脱可能に係合される。
【0060】
ピン保持体38内には、ロックピン40の外周側に位置して付勢部材としてのロックスプリング41が設けられ、このロックスプリング41は、ロックピン40のばね受部40Bとピンガイド38Bとの間に配設されている。ロックスプリング41は、ロックピン40のテーパ部40Aをピンガイド38Aから外側に突出する方向に常時付勢している。これにより、ロックピン40のテーパ部40Aは、図6、図7に示すように、カム板30の係合穴30Aに対して進退可能に係合される。
【0061】
図6に示すように、ロックピン40のテーパ部40Aがカム板30の係合穴30Aに係合している間は、跳上げ部材26の揺動プレート27がピン保持体38、ロックピン40を介して下部コラム14にロックされる。これにより、上部コラム16は下部コラム14に対して図3中に実線で示す運転位置に位置決めされた状態に保持される。一方、図7に示すように、ロックピン40のテーパ部40Aがカム板30の係合穴30Aから離脱したときには、跳上げ部材26の揺動プレート27が後述の跳上げスプリング47により図7中の矢示A方向に回動される。これにより、上部コラム16は下部コラム14に対して図3中に二点鎖線で示す跳上げ位置に跳上げられる。
【0062】
42はロックピン40をロックスプリング41に抗して操作するピン操作部材で、該ピン操作部材42は、ロックピン40のばね受部40Bの外径よりも左,右方向に離間して形成された一対の把持部42Aを有している。該各把持部42Aは、ロックピン40の各突起部40Cを上,下から挟込むように把持する。また、ピン操作部材42は、ピン保持体38内に後方から挿入された状態で後述するペダル44のバー取付部44Bにボルト43を用いて連結し固定される。これにより、ピン操作部材42は、ピン保持体38内で取付筒部38Cの位置を中心にして上,下に回動するように組立てられる。
【0063】
44は跳上げ機構25を足踏み操作するためのペダルで、該ペダル44は、図10に示すように折曲げて形成されたペダルバー44Aと、該ペダルバー44Aの基端側に設けられピン保持体38の取付筒部38C内に回動可能に挿嵌されるバー取付部44Bと、ペダルバー44Aの先端側に設けられオペレータが足踏み操作する足踏み板44Cとにより構成されている。
【0064】
ペダル44のペダルバー44Aは、図2、図3に示すように、ピン保持体38の位置から下部コラム14の左側方を斜めに下向きに横切るように延び、足踏み板44Cは、運転席9に座ったオペレータの足元近傍となる位置に配置されている。オペレータがペダル44を足踏み操作すると、ピン操作部材42がピン保持体38内で取付筒部38Cの位置を中心にして回動される。この結果、ピン操作部材42は、各把持部42Aによりロックピン40の各突起部40Cを下向きに押動し、ロックピン40はロックスプリング41に抗して図6に示す係合位置から図7に示す離脱位置へと移動される。これにより、カム板30の係合穴30Aに対するロックピン40の係合状態が解除される。
【0065】
一方、ペダル44の足踏み操作を解除したときには、ロックピン40がロックスプリング41によりピンガイド38A,38Bに沿って上向きに付勢される。このため、オペレータがハンドル12を運転席9側へと手前に引く動作を行うことにより、上部コラム16と跳上げ部材26とが一緒に支持軸31,32の位置を中心にして矢示B方向に回動されると、ロックピン40のテーパ部40Aが図6に示すように、カム板30の係合穴30Aに対して係合するものである。
【0066】
45は下部コラム14の前面側にボルト46により着脱可能に固定されたばね受部材で、該ばね受部材45は、図10に示すように左,右方向に延びるピン部45Aを有し、これらのピン部45Aは、下部コラム14の切欠き穴14Cと対応した位置に配置される。ばね受部材45の各ピン部45Aには、後述の跳上げスプリング47が掛止めされる。
【0067】
47は跳上げ機構25の一部を構成するばね部材としての2本の跳上げスプリングで、該各跳上げスプリング47は、図6、図7および図10に示すように、長さ方向の一側がばね受部材45の各ピン部45Aに掛止めされ、他側は揺動プレート27の各突部27Cに掛止めされる。跳上げスプリング47は、支持軸31,32を中心にして揺動可能な跳上げ部材26の揺動プレート27を下部コラム14の前面側に向けて矢示A方向に付勢する。
【0068】
ここで、ロックピン40が図6に示す係合位置から図7に示す離脱位置へと移動され、カム板30の係合穴30Aに対するロックピン40の係合状態が解除されたときには、跳上げスプリング47により跳上げ部材26の揺動プレート27が矢示A方向に付勢されて揺動する。この結果、上部コラム16は下部コラム14に対して図3中に二点鎖線で示す跳上げ位置に跳上げられる。
【0069】
48は下部コラム14の前面側に取付けられた2個のクッション部材で、該各クッション部材48は、跳上げ部材26のカム板30と前,後方向で対向する位置に配置され、カム板30が下部コラム14の前面側に衝突するのを緩衝するものである。即ち、上部コラム16を跳上げ位置に跳上げるときに、クッション部材48は跳上げ部材26のカム板30に当接して弾性変形し、この状態で揺動プレート27の矢示A方向に向けた動きを規制することができる。
【0070】
本実施の形態によるホイールローダ1のステアリング装置11は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0071】
まず、ホイールローダ1のオペレータが車体2の運転席9に乗込むときには、ステアリングコラム13がハンドル12と一緒に跳上げ位置(図3中に二点鎖線で示す位置)に跳上げられている。このため、運転席9の前側には、ハンドル12との間に比較的大きなスペースを形成することができ、運転席9に乗込むオペレータにとって運転席9の前側でハンドル12が邪魔になるのを防ぐことができる。
【0072】
次に、運転席9に着座したオペレータは、ハンドル12を手前に引く動作を行う。これにより、ステアリングコラム13を図2、図3中の矢示B方向へと運転席9に近い運転位置に動かすことができる。即ち、上部コラム16を下部コラム14に対して図3中に二点鎖線で示す跳上げ位置から実線で示す運転位置へと、手動により傾転することができる。
【0073】
この状態で、オペレータがステアリングコラム13のチルト角、コラム長さを自身の体格、好みに応じて調整するときには、チルトレバー35を上向きに回動するように操作する。これにより、チルト角調整機構33の筒状ナット24が締結ボルト34に対して緩み方向に回転され、締結ボルト34と筒状ナット24とによる揺動プレート27への締結状態が解除される。
【0074】
そこで、オペレータは、例えばハンドル12を把持して前,後方向に動かすことにより、上部コラム16のコラム枠体17が揺動プレート27の長穴部27Bに沿ってレバー支持体23、締結ボルト34と一緒に相対移動するようになる。これにより、下部コラム14に対する上部コラム16のチルト角を車両の前,後方向、即ち図2、図3中の矢示A,B方向で微調整するように可変に調節することができる。
【0075】
このとき、揺動プレート27、折曲プレート29およびカム板30からなる跳上げ部材26は、下部コラム14側にロックピン40(図6参照)を介して固定されている。このため、オペレータの手動操作により上部コラム16を、跳上げ部材26の揺動プレート27に対し長穴部27Bの円弧範囲内で相対移動することができ、下部コラム14に対し支持軸31,32を中心にして矢示A,B方向に傾転することができる。即ち、チルト角の調整は長穴部27Bの円弧範囲内で行われるものである。
【0076】
また、この状態でコラム長さを調整するときには、オペレータがハンドル12を把持して上,下方向に動かすことによりコラム長さ調整機構37を手動で操作する。即ち、前述の如く、チルトレバー35により筒状ナット24と締結ボルト34との締結状態を解除した状態で、ハンドル12と一緒に上部コラム16を上,下方向に動かす。これにより、下部コラム14に対する上部コラム16の高さ位置をU字状スリット17C1 、17D1 とI字状スリット17C2 との長さ方向に沿って上,下方向、即ち図5、図6中の矢示C方向で調整することができ、コラム長さを適宜に調節できる。
【0077】
また、下部シャフト15と上部シャフト21との間に設けた継手部材22は、図5に示すように軸部22Bがセレーション22Cを介して上部シャフト21の嵌合穴21Bに連結されている。このため、コラム長さ調整機構37により下部コラム14に対する上部コラム16の高さ位置を図5中の矢示C方向で調整するときには、上部シャフト21が継手部材22の軸部22Bに対して軸方向に相対変位するのをセレーション22Cにより補償することができる。
【0078】
次に、前述の如き調整作業が完了したときには、オペレータがチルトレバー35を下向きに回動することにより、筒状ナット24がチルトレバー35と一緒に締結ボルト34の締結方向に回転される。これにより、跳上げ部材26の揺動プレート27は、支持板23Aと一緒に締結ボルト34と筒状ナット24との間で再び締結状態におかれる。このため、上部コラム16は、下部コラム14に対してチルト角とコラム長さとが調整された調整位置に保持され、この状態が固定される。なお、ステアリングコラム13のチルト角調整とコラム長さ調整とは、いずれか一方または両方をオペレータの判断で選択的に行えばよいものである。
【0079】
オペレータがホイールローダ1を運転して路上走行する場合、ハンドル12を舵取り操作すると、このときの操作力が上部シャフト21から継手部材22を介して下部シャフト15へと伝えられる。このとき、下部シャフト15は、ハンドル12の舵取り操作を油圧シリンダからなるステアリングシリンダ(図示せず)に伝える。これにより、ホイールローダ1は前部車体4が後部車体3に対して左,右方向に揺動され、その走行方向が操舵される。
【0080】
一方、ホイールローダ1の作業装置7による作業が終了し、オペレータが運転席9から降りるときには、ハンドル12が運転席9に座ったオペレータの膝上近傍に位置しているため、オペレータが運転席9から立ち上がって離れようとするときにハンドル12が邪魔になることがある。
【0081】
そこで、オペレータが跳上げ機構25のペダル44を足踏み操作すると、跳上げ部材26のカム板30に対するロックピン40の係合状態が解除され、跳上げ部材26の揺動プレート27が跳上げスプリング47により枢着部27A,29Cを中心にして矢示A方向に揺動される。このため、上部コラム16は、跳上げ部材26と一緒に下部コラム14の各軸支持部14Bを中心にして傾転され、図3中に実線で示す運転位置から二点鎖線で示す跳上げ位置へと自動的に跳上げられる。
【0082】
この場合、下部コラム14側に設けたピン保持体38内では、ペダル44の足踏み操作によりピン操作部材42が取付筒部38Cの位置を中心にして回動される。この結果、ピン保持体38に設けたロックピン40は、ピン操作部材42の各把持部42Aによりピンガイド38A,38Bに対して下向きに摺動変位するようにロックスプリング41に抗して移動される。
【0083】
即ち、ロックピン40はロックスプリング41に抗して図6に示す係合位置から図7に示す離脱位置へと移動されることにより、カム板30の係合穴30Aに対するロックピン40の係合状態が解除される。このため、跳上げ部材26の揺動プレート27は、支持軸31,32を中心にして跳上げスプリング47により図7中の矢示A方向に付勢され、上部コラム16は下部コラム14に対して図3中に二点鎖線で示す跳上げ位置まで跳上げられる。
【0084】
このように、上部コラム16を下部コラム14に対して矢示A方向に跳上げておくことにより、オペレータはハンドル12に邪魔されることなく、運転席9から立ち上がって離れることができる。一方、ペダル44の足踏み操作を解除したときには、ロックピン40がロックスプリング41によりピンガイド38A,38Bに沿って上向きに付勢される。このとき、ロックピン40の先端面は、カム板30の下面側に形成した傾斜面30Bに当接した状態におかれる。
【0085】
次に、オペレータが運転席9に再び乗込むときには、ステアリングコラム13がハンドル12と一緒に跳上げ位置に予め跳上げられているので、オペレータはハンドル12に邪魔されることなく、運転席9に余裕をもって着座することができる。この状態で、オペレータは、ハンドル12を運転席9側へと手前に引く動作を行うことにより、上部コラム16と跳上げ部材26とを一緒に支持軸31,32の位置を中心にして矢示B方向に回動することができる。
【0086】
このとき、カム板30の傾斜面30Bは、ロックピン40の先端面を図7に示す離脱位置から図6に示す係合位置へと滑らかに案内することができ、ロックピン40のテーパ部40Aを図6に示すように、カム板30の係合穴30Aに対して係合することができる。この結果、ステアリングコラム13の上部コラム16を、図3中に二点鎖線で示す跳上げ位置から実線で示す運転位置へと戻すことができ、跳上げ部材26をロックピン40により係合位置にロックしておくことができる。
【0087】
かくして、本実施の形態によれば、ステアリングコラム13の上部コラム16を運転位置から跳上げ位置に跳上げる跳上げ機構25を、チルト角調整機構33およびコラム長さ調整機構37とは独立した構成としているので、チルト角調整機構33によりステアリングコラム13のチルト角調整を行い、コラム長さ調整機構37によりコラム長さの調整を一旦行えば、その後はそれぞれの調整位置を保持し続けることができる。
【0088】
これにより、運転席9に乗降するオペレータは、跳上げ機構25のペダル44を操作するだけで、ステアリングコラム13をハンドル12と一緒に運転席9から離れる方向に跳上げることができ、このときにも前記チルト角とコラム長さを予め調整した位置に保持することができる。このため、運転席9に次に乗込んだときに、前記チルト角とコラム長さの調整作業を再び行う必要がなくなり、乗降時の作業性を大幅に向上することができる。
【0089】
また、前回とは異なるオペレータが運転席9に乗込むような場合には、このオペレータがハンドル12と一緒にステアリングコラム13を跳上げ位置から運転位置に戻した状態で、チルトレバー35を上向きに回動すればよい。これにより、支持板23A、筒状ナット24と締結ボルト34とによる跳上げ部材26の揺動プレート27に対する締結状態を解除でき、チルト角調整機構33とコラム長さ調整機構37とのロック(保持状態)を手動で解除することができる。
【0090】
このため、オペレータは、ハンドル12を手動で動かすようにチルト角調整機構33とコラム長さ調整機構37とを操作することができ、ハンドル12の位置を自身の体格、好みに応じて調整することができる。そして、その後の乗降時には、跳上げ機構25のペダル44を操作するだけで、オペレータにとって楽な姿勢でステアリングコラム13を跳上げ位置と運転位置とに傾転することができ、前回の調整位置を保持したままで跳上げ操作を繰り返すことができる。
【0091】
また、運転席9に着座したオペレータは、ステアリングコラム13と一緒にハンドル12を手前側に引く操作を行うことによって、跳上げ機構25のロックピン40が跳上げ部材26のカム板30に設けた係合穴30Aに係合するようになり、ステアリングコラム13の上部コラム16を下部コラム14に対して前側に傾転した運転位置に復帰させることができ、この場合もオペレータは楽な姿勢でステアリングコラム13を運転位置に戻すことができる。
【0092】
また、前回とは異なるオペレータが運転席9に着座して作業装置7の操作を行うような場合には、このオペレータがステアリングコラム13を跳上げ位置から運転席に近い運転位置に戻した状態で、チルト角調整機構33とコラム長さ調整機構37とを手動で操作することにより、ハンドル12の位置を自身の体格、好みに応じて適宜に調整することができる。
【0093】
即ち、チルト角調整機構33は、上部コラム16を下部コラム14に対して前,後方向に傾転させることにより、ステアリングコラム13(上部コラム16)のチルト角を調整することができる。また、コラム長さ調整機構37は、下部コラム14に対して上部コラム16を上,下方向に移動させることにより、ステアリングコラム13のコラム長さを調整することができる。
【0094】
この場合、チルト角調整機構33は、チルトレバー35を手動で回動操作することにより、外側から筒状ナット24を締結ボルト34に対し緩み方向に相対回動して両者の締結状態を解除することができる。この状態で、上部コラム16を跳上げ部材26(揺動プレート27)の長穴部27Bに沿って相対移動することができる。これにより、上部コラム16を長穴部27Bの円弧範囲内で下部コラム14に対して前,後方向に傾転でき、ステアリングコラム13のチルト角を微調整することができる。
【0095】
また、チルト角の調整と一緒にコラム長さの調整を行うときには、コラム長さ調整機構37により上部コラム16を下部コラム14に対して上,下方向に移動することができ、ステアリングコラム13のコラム長さを手動で微調整することができる。このように、チルト角および/またはコラム長さを調整した後には、チルトレバー35を逆方向に操作することにより、締結ボルト34を筒状ナット24に対して外側から回動して上部コラム16を締結状態とすることができ、前記チルト角とコラム長さとを調整した位置に保持することができる。
【0096】
なお、前記実施の形態では、跳上げ部材26を、揺動プレート27、複数のボルト28、折曲プレート29およびカム板30により構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図9、図10に示すように跳上げ部材26を予め単一の部材として形成する構成としてもよい。
【0097】
また、前記実施の形態では、2本の跳上げスプリング47を用いてステアリングコラム13の上部コラム16を跳上げ部材26と一緒に跳上げる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばガススプリングまたはその他の弾性体からなるばね部材を用いて上部コラムを跳上げ部材と一緒に跳上げる構成としてもよい。
【0098】
また、前記実施の形態では、ペダル44を足踏み操作することによってステアリングコラム13の上部コラム16を跳上げる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばチルトレバー35とは別の手動レバーまたは押しボタン等を手動操作することにより、上部コラム16の跳上げ操作を行う構成としてもよい。
【0099】
また、前記実施の形態では、運転席9の上側にキャノピ10を設ける構成としたホイールローダ1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、内部に運転室を画成するキャブを備える構成としたホイールローダ、ホイール式油圧ショベルまたはクレーン等の建設機械にも適用することができる。
【0100】
さらに、前記実施の形態では、ステアリング装置11を備えた建設機械としてホイールローダ1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばホイール式の走行体を備えた油圧ショベル、ホークリフト、クレーン等の建設機械にも広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0101】
1 ホイールローダ(建設機械)
2 車体
7 作業装置
8 床板(床面)
9 運転席
11 ステアリング装置
12 ハンドル
13 ステアリングコラム
14 下部コラム
14B 軸支持部
15 下部シャフト
16 上部コラム
17 コラム枠体
17C,17D 側板部
17C1 、17D1 U字状スリット(長さ調整部)
17C2 I字状スリット(長さ調整部)
18 搭載ポスト
21 上部シャフト
22 継手部材
23 レバー支持体
23A 支持板
24 筒状ナット(締結部材)
25 跳上げ機構
26 跳上げ部材
27 揺動プレート
27A,29C 枢着部
27B 長穴部
29 折曲プレート
30 カム板
30A 係合穴
30B 傾斜面
31,32 支持軸
33 チルト角調整機構
34 締結ボルト(締結部材)
35 チルトレバー
37 コラム長さ調整機構
38 ピン保持体
38A,38B ピンガイド
38C 取付筒部
40 ロックピン
40A テーパ部
41 ロックスプリング(付勢部材)
42 ピン操作部材
42A 把持部
44 ペダル
45 ばね受部材
47 跳上げスプリング(ばね部材)
48 クッション部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の運転席の前側に配置されハンドルにより舵取り操作されるステアリングコラムと、該ステアリングコラムを前記ハンドルと一緒に前記運転席に近い運転位置に対して前記運転席から離れた跳上げ位置へと跳上げる跳上げ機構と、前記ステアリングコラムのチルト角を調整するチルト角調整機構と、前記ステアリングコラムのコラム長さを調整するコラム長さ調整機構とを備え、
前記跳上げ機構は、前記チルト角調整機構およびコラム長さ調整機構とは独立して設けられ、前記チルト角の調整位置および前記コラム長さの調整位置を保持した状態で前記ステアリングコラムの跳上げ操作を行う構成としてなる建設機械のステアリング装置。
【請求項2】
前記跳上げ機構は、前記運転席に着座したオペレータによって操作されるペダルを備え、該ペダルの操作に従って前記ステアリングコラムを前記運転位置から跳上げ位置へと跳上げる構成としてなる請求項1に記載の建設機械のステアリング装置。
【請求項3】
前記跳上げ機構は、前記ステアリングコラムの上端に設けられる前記ハンドルをオペレータが手前に引く操作を行うことにより、前記ステアリングコラムが前記跳上げ位置から前記運転位置に復帰するのを許す構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械のステアリング装置。
【請求項4】
前記ステアリングコラムは、下端側が前記運転席の床面側に固定され上,下方向に延びるステアリング用の下部シャフトを収容した下部コラムと、該下部コラムの上部側に前,後方向と上,下方向とに移動可能に取付けられ上,下方向に延びるステアリング用の上部シャフトを収容した上部コラムと、前記下部シャフトと上部シャフトとの間に設けられ前記ハンドルの舵取り操作を前記シャフト間で伝える継手部材とにより構成し、
前記チルト角調整機構は、前記下部コラムに対して前記上部コラムを前,後方向に傾転させることにより前記チルト角の調整を行い、前記コラム長さ調整機構は、前記下部コラムに対して前記上部コラムを上,下方向に移動させることにより前記コラム長さの調整を行う構成としてなる請求項1,2または3に記載の建設機械のステアリング装置。
【請求項5】
前記ステアリングコラムの下部コラムと上部コラムとの間には、両者の間を上,下方向に延び前記跳上げ機構の一部を構成する跳上げ部材を設け、該跳上げ部材には、長さ方向の中間に位置し前記下部コラムに回動可能に取付けられる枢着部と、該枢着部よりも上側に配置され前記上部コラムがチルト角を調整可能に連結されるチルト角調整用の長穴部とを設け、
前記チルト角調整機構は、前記跳上げ部材の長穴部に対して前記上部コラムを締結し前記チルト角の調整位置を保持する締結部材と、該締結部材を外側から回動操作して締結状態を解除することにより前記チルト角の調整を行うため前記上部コラムが跳上げ部材の長穴部に沿って相対移動するのを許すチルトレバーとを含んで構成してなる請求項4に記載の建設機械のステアリング装置。
【請求項6】
前記コラム長さ調整機構は、前記上部コラムに形成され上,下方向に延びた長さ調整部を有し、該長さ調整部は、前記チルトレバーにより前記締結部材の締結状態を解除したときに前記上部コラムが前記下部コラムに対して上,下方向に移動するのを許し、前記チルトレバーにより前記締結部材を締結状態に戻したときには、前記下部コラムに対して前記上部コラムが上,下方向に移動するのを規制し前記コラム長さを任意の調整位置に保持する構成としてなる請求項5に記載の建設機械のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−144105(P2012−144105A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2606(P2011−2606)
【出願日】平成23年1月10日(2011.1.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【出願人】(511008735)株式会社北上製作所 (2)
【Fターム(参考)】