説明

建設機械

【課題】 狭隘なタンク室内にグリースガンを収納する。
【解決手段】 燃料タンク12及び作動油タンク13と運転席8との間を仕切るインナカバー15を設け、インナカバー15とアウタカバー16との間には、上面18Bが前側に向けて下向きに傾斜し、タンク室17を開,閉するタンクカバー18を設ける。インナカバー15の内面15Bのうち燃料タンク12及び作動油タンク13よりも上側位置には、グリースガン保持部材20を設ける。グリースガン保持部材20は、グリースガン19をインナカバー15の上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾けて保持する。これにより、燃料タンク12、作動油タンク13や種々の配管等が錯綜する狭隘なタンク室17内にグリースガン19をコンパクトに収容することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル、ホイールローダ等の建設機械に関し、特に給脂作業に用いるグリースガンを搭載した建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械の代表例である油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とによって構成されている。
【0003】
また、上部旋回体は、支持構造体をなす旋回フレームと、該旋回フレームの後側に搭載されたエンジンと、前記作業装置の左側に添うように前記旋回フレームの左前側に設けられたキャブとを備え、該キャブ内には、オペレータが着座する運転席等が設けられている。
【0004】
また、旋回フレームには、作業装置の右側に位置して前記エンジンに供給する燃料を貯える燃料タンクが設けられ、該燃料タンクの前側には、通常、工具、グリースガン、各種消耗品等の物品を収容する工具箱が設けられている。
【0005】
一方、市街地等の狭隘な作業現場に用いられる小旋回型の油圧ショベルは、上部旋回体を旋回動作したときの旋回半径が小さくなるように、上側からみてほぼ円形に近い形状になっている。これにより、上部旋回体は、カウンタウエイトを前側に配置して、全体をコンパクトにする必要があるから、旋回フレーム上にエンジン、タンク等を搭載するためのスペースが小さくなってしまう。従って、一般的な工具類の収納場所となっていた旋回フレームの右前部には、グリースガン等の工具類を収納するための容量の大きな工具箱を設置することができない。
【0006】
そこで、従来技術による油圧ショベルでは、運転席の座席の側方に収納ボックスを設け、この収納ボックスにグリースガンを収納している(例えば、特許文献1参照)。また、他の従来技術による油圧ショベルでは、運転席が搭載される運手席台座(シートマウント)と旋回フレームとの間に設けられた補強部材を利用してグリースガンを保持している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−64355号公報
【特許文献2】特開2002−21118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した特許文献1による油圧ショベルでは、運転席の座席の側方に収納ボックスを設けていることから、グリースガンを収納した際にグリースの臭いが運転席の周囲に充満し、オペレータが不快感を受け、その作業環境が損なわれるという問題がある。
【0009】
また、上述した特許文献2による油圧ショベルでは、運転席台座と旋回フレームとの間に設けた補強部材にグリースガンを保持していることから、グリースガンが外部に露出している。このため、グリースガンに対するいたずらや盗難の被害を受け易いという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、上部旋回体の前部側の狭隘なスペースを有効に利用してグリースガンを搭載することができるようにした建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による建設機械は、下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前部に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、前記上部旋回体は、支持構造体をなす旋回フレームと、該旋回フレームの後部側に搭載され油圧ポンプを駆動するエンジンと、前記旋回フレームの左,右方向の一側に設けられた運転席と、前記旋回フレームの左,右方向の他側に配置され前記エンジンに供給される燃料または油圧アクチュエータに供給される作動油を貯える貯油タンクと、該貯油タンクと前記運転席との間を仕切るため上,下方向に延びると共に前,後方向に延び、かつ上端が前側に向けて下向きに傾斜して形成されたインナカバーと、前記貯油タンクの外側面を覆って前,後方向に延び、前記インナカバーの上端に沿って前部側に向けて下向きに傾斜して配置されたタンクカバーとを備えている。
【0012】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記インナカバーのうち前記貯油タンクと対面する内面側であって前記貯油タンクよりも上側位置には、給脂作業に用いるグリースガンを保持するグリースガン保持部材を設け、該グリースガン保持部材は、前記グリースガンを前記インナカバーの上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾けて保持するように取り付ける構成としたことにある。
【0013】
請求項2の発明は、前記グリースガンは、内部にグリースが収容される筒部と、該筒部に設けられグリースを給脂対象に注入する注入ノズルと、前記筒部に設けられ当該筒部に収容されたグリースを注入ノズル側に押し出すハンドル部とにより構成し、前記グリースガン保持部材は、前記グリースガンの筒部を把持するホルダ部と、該ホルダ部よりも前側に位置し前記グリースガンのハンドル部に係合するストッパ部と、該ストッパ部よりも前側でかつ下側に位置し前記注入ノズルの先端を受けるノズル受け部とにより構成したことにある。
【0014】
請求項3の発明は、前記インナカバーの上端には、前記貯油タンク側に向けて折り曲げられ前記タンクカバーを支持するフランジ部を設け、前記グリースガンは、前記グリースガン保持部材に保持された状態で前記インナカバーのフランジ部よりも下側に収まる構成としたことにある。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、グリースガンを、インナカバーのうち貯油タンクよりも上側に設けたグリースガン保持部材によって保持し、インナカバーの上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾けることにより、貯油タンクや種々の配管等が錯綜する旋回フレームの前部側の狭隘なスペースを有効に利用してグリースガンを収容することができる。また、貯油タンクと運転席とを仕切るインナカバーの内面側にグリースガンを保持する構成としているので、グリースの臭いが運転席の周囲に充満することがなく、油圧ショベルを操作するオペレータの作業環境を良好に保つことができる。また、グリースガンは、貯油タンクの外側面を覆うタンクカバーによって覆うことができるので、グリースガンに対するいたずらや盗難を確実に防止することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、グリースガンの筒部をグリースガン保持部材のホルダ部に保持すると共に、グリースガンのハンドル部をグリースガン保持部材のストッパ部に係合させることにより、油圧ショベルの作業中等における振動により、グリースガンがグリースガン保持部材から脱落するのを防止することができる。また、グリースガン保持部材のノズル受け部が、グリースガンの注入ノズルの先端を受けることにより、当該注入ノズルからグリースが液だれしても当該ノズル受け部で受け止めることができる。この結果、グリースガンの周囲を常に清浄な状態に保つことができ、給脂作業の作業性を高めることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、グリースガン保持部材に対してグリースガンが正しく取り付けられていない場合には、グリースガンの一部がインナカバーのフランジ部よりも上方に突出してタンクカバーと干渉し、グリースガンが正しく取り付けられた場合には、グリースガンをインナカバーのフランジ部よりも下側に収めることができる。従って、グリースガンとタンクカバーとの干渉を避けることにより、グリースガン保持部材の適正な位置にグリースガンを取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に適用される油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】タンクカバーを開いた状態の油圧ショベルを示す正面図である。
【図3】タンクカバー、アウタカバー等を取り外した状態を示す要部拡大の正面図である。
【図4】旋回フレーム、作動油タンク、燃料タンク、インナカバー、グリースガン保持部材、グリースガン等を示す上部旋回体の拡大正面図である。
【図5】旋回フレーム、作動油タンク、燃料タンク、インナカバー、グリースガン保持部材、グリースガン等を示す外観斜視図である。
【図6】インナカバー、グリースガン保持部材、グリースガンを示す分解斜視図である。
【図7】タンクカバーを開いた状態の油圧ショベルを示す斜視図である。
【図8】グリースガンの収容手順の第1段階を示す要部拡大の斜視図である。
【図9】グリースガンの収容手順の第2段階を示す要部拡大の斜視図である。
【図10】グリースガンの収容手順の第3段階を示す要部拡大の斜視図である。
【図11】グリースガンの収容手順の第4段階を示す要部拡大の斜視図である。
【図12】第2の実施の形態による油圧ショベルをタンクカバーを開いた状態で示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械として、小型の油圧ショベルを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0020】
図1において、1は土砂の掘削作業等に用いられる建設機械としての油圧ショベルである。この油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載され、該下部走行体2と共に走行体を構成する上部旋回体3と、該上部旋回体3の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置4とにより大略構成されている。
【0021】
ここで、上部旋回体3は、図7に示すように、下部走行体2の車幅とほぼ等しい左,右方向の幅寸法を有し、かつ上方からみてほぼ円形状に形成されている。これにより、油圧ショベル1は、上部旋回体3が下部走行体2上で旋回したときに、後述するカウンタウエイト11の後面がほぼ下部走行体2の車幅内に収まる後方小旋回型の油圧ショベルとして構成されている。また、上部旋回体3は、後述の旋回フレーム5、エンジン6、キャブ10、カウンタウエイト11、燃料タンク12、作動油タンク13等により大略構成されている。
【0022】
5は支持構造体としての旋回フレームである。この旋回フレーム5は、図5に示すように、前,後方向に延びる厚肉な底板5Aと、該底板5A上に立設され、左,右方向に所定の間隔をもって前,後方向に延びた左縦板5B,右縦板5Cと、該各縦板5B,5Cの前端部に設けられ、作業装置4を支持する支持ブラケット5Dと、前端側に位置して左,右方向に延びた前梁5E等により大略構成されている。
【0023】
6は旋回フレーム5の後部側に搭載されたエンジン(図1参照)で、該エンジン6は、油圧ポンプ(図示せず)を駆動するものである。ここで、エンジン6は、ディーゼルエンジンとして構成され、旋回フレーム5上に左,右方向に延びる横置き状態で搭載されている。また、エンジン6の右側には、ラジエータ、オイルクーラ等の熱交換器7が配設されている。
【0024】
8は旋回フレーム5の左,右方向の一側(左側)に設けられた運転席を示している。この運転席8は、オペレータが着座するものである。また、運転席8の周囲には、操作レバー9等の操作機器が設けられ、これら運転席8、各種の操作機器類は、キャブ10により覆われている。
【0025】
11は旋回フレーム5の後端部に取り付けられたカウンタウエイトで、該カウンタウエイト11は、作業装置4との重量バランスをとるものである。ここで、油圧ショベル1は、カウンタウエイト11の後面の旋回半径を小さくした後方小旋回型の油圧ショベルとして形成されている。このため、カウンタウエイト11は、上部旋回体3の旋回中心に接近して配置されている。
【0026】
12は旋回フレーム5の前部側で左,右方向の他側(右側)に配置された貯油タンクとしての燃料タンクを示し、該燃料タンク12は、エンジン6に供給される燃料を貯えるものである。この燃料タンク12は、前面12A,後面12B,左側面,右側面12C,上面12D及び下面12Eによって囲まれた上,下方向に延びる直方体状の耐圧タンクとして形成されている。また、燃料タンク12の上面12Dには、給油口12Fが設けられている。
【0027】
13は旋回フレーム5の前部側で左,右方向の他側(右側)に配置された貯油タンクとしての作動油タンクを示し、該作動油タンク13は、油圧アクチュエータに供給される作動油を貯えるものである。この作動油タンク13は、燃料タンク12の後側に隣接して配設され、前面13A,後面13B,左側面,右側面13C,上面13D及び下面13Eによって囲まれた上,下方向に延びる直方体状の耐圧タンクとして形成されている。
【0028】
14は作動油タンク13の後側に位置して旋回フレーム5に立設された仕切板を示し、該仕切板14は、作動油タンク13と熱交換器7との間に上,下方向に延び、両者間を仕切っている。そして、仕切板14は、熱交換器7に対し作動油タンク13の熱を遮蔽するものである。
【0029】
15は燃料タンク12及び作動油タンク13と運転席8との間を仕切るため旋回フレーム5上に設けられたインナカバーを示している。このインナカバー15は、上,下方向に延びると共に前,後方向に延び、その上端は前側に向けて徐々に下向きに傾斜している。そして、インナカバー15は、旋回フレーム5上に立設され、図7に示すように、キャブ10の右側面10Aと僅かな間隔をもって対面している。また、インナカバー15の上端には、燃料タンク12及び作動油タンク13側に向けて折り曲げられたフランジ部15Aが設けられ、このフランジ部15Aによって、後述のタンクカバー18を支持する構成となっている。そして、インナカバー15のうち燃料タンク12及び作動油タンク13と対面する内面15Bの上側位置には、後述するグリースガン保持部材20が設けられている。
【0030】
16は上部旋回体3の右側面を構成するアウタカバーを示し、該アウタカバー16は、燃料タンク12及び作動油タンク13を挟んでインナカバー15と対面している。そして、アウタカバー16は、旋回フレーム5に沿うように全体として凸湾曲状に形成され、仕切板14の右端部からキャブ10の前端部まで延在し、燃料タンク12及び作動油タンク13を右側方から覆っている。
【0031】
17は燃料タンク12及び作動油タンク13を収容するタンク室を示している。このタンク室17は、上述の仕切板14、インナカバー15、アウタカバー16等によって囲まれ、後述のタンクカバー18によって開,閉されるものである。
【0032】
18は燃料タンク12及び作動油タンク13の外側面を覆うタンクカバーを示している。このタンクカバー18は、インナカバー15の上端とアウタカバー16の上端との間に配置され、仕切板14からアウタカバー16の前端部に亘って前,後方向に延びている。タンクカバー18の上面18Bは、インナカバー15の上端に沿って前部側に向けて徐々に下向きに傾斜するように配置されている。
【0033】
そして、タンクカバー18の後端側は、ヒンジ部材(図示せず)を介して旋回フレーム5に支持されており、タンクカバー18は、このヒンジ部材を中心としてタンク室17を開く開位置(図2の位置)と閉じる閉位置(図1の位置)との間で回動する。そして、タンク室17を開放することにより燃料タンク12及び作動油タンク13への給油を行う構成となっている。ここで、タンクカバー18は、インナカバー15の上端に沿うように全体として後側から前側に向けて下側に傾斜した円弧状に形成されている。これにより運転席に着座したオペレータは、広い右前方視野を確保することができるので作業性を向上することができる。一方、タンクカバー18の前端側には、当該タンクカバー18を開,閉するときにオペレータが手を引っかける凹陥状の把手部18Aが設けられている。また、当該把手部18Aには、タンクカバー18を閉位置に施錠できるように鍵部(図示せず)が設けられている。
【0034】
19は作業装置4等の給脂部位にグリースを給脂するためのグリースガンを示している。該グリースガン19は、図6等に示すように、内部にグリースが収容される筒部19Aと、該筒部19Aの先端部に設けられグリースを給脂対象に注入する注入ノズル19Bと、筒部19Aに設けられ当該筒部19Aに収容されたグリースを注入ノズル19B側に押し出すハンドル部19Cとにより構成されている。ここで、ハンドル部19Cは、筒部19Aの先端側に支点19C1を有し、この支点19C1を中心としてハンドル部19Cの自由端19C2側を筒部19Aから離れる方向および近づける方向に回動させることができる。そして、オペレータが、作業装置4等の給脂部位にグリースを給脂する場合には、注入ノズル19Bの先端部19B1を当該給脂部位に嵌め込み、ハンドル部19Cを筒部19Aから離れる方向に回動させることにより、注入ノズル19Bにグリースが導入され、ハンドル部19Cを筒部19Aに近づける方向に回動させることにより、導入されたグリースが注入ノズル19Bの先端部19B1から給脂部位に吐出されるものである。
【0035】
20はインナカバー15のうち燃料タンク12及び作動油タンク13と対面する内面15B側に設けられたグリースガン保持部材を示している。該グリースガン保持部材20は、インナカバー15の内面15Bのうち燃料タンク12及び作動油タンク13よりも上側位置に配置され、グリースガン19をインナカバー15の上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾けて保持するように取り付けられている。ここで、図6等に示すように、グリースガン保持部材20は、後述のホルダ部21と、ストッパ部23と、ノズル受け部24とにより大略構成されている。
【0036】
21はグリースガン19の筒部19Aを把持するホルダ部を示している。該ホルダ部21は、インナカバー15の内面15Bにボルト22を用いて固定される薄板状の取付部21Aと、該取付部21Aの上端側から燃料タンク12及び作動油タンク13の上部に向けて略L字状に延びる支持部21Bと、略U字型に折り曲げられた板体からなり、ボルト21Cを用いて支持部21Bに取り付けられた2個の把持部21Dとにより大略構成され、これら各把持部21Dによってグリースガン19の筒部19Aを着脱可能に保持するものである。
【0037】
ここで、グリースガン保持部材20が配置されるタンク室17内は、燃料タンク12,作動油タンク13の他、種々の配管等が配置されており、また、タンク室17の上部を閉塞するタンクカバー18の上面18Bは、運転席8に着座したオペレータの右側前方への視認性を確保するために後方から前方下側に向けて円弧状に形成されている。このため、タンク室17内は、狭隘なスペースとなっている。
【0038】
そこで、ホルダ部21の取付部21Aは、インナカバー15の内面15Bに、当該インナカバー15の上端に沿うように前方に向けて斜め下向きに傾けた状態でボルト22により固定されている。これにより、ホルダ部21の把持部21Dにグリースガン19を固定したときには、グリースガン19は、インナカバー15の上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに保持されることになり、タンク室17の狭隘なスペース内にグリースガン19を効率良く収納することができる。
【0039】
23はホルダ部21よりも前側に位置してインナカバー15の内面15Bに設けられたストッパ部を示し、該ストッパ部23は、グリースガン19のハンドル部19Cに係合するものである。ここで、ストッパ部23は、薄板材に折り曲げ加工を施すことにより形成されており、インナカバー15のフランジ部15Aと内面15Bとが交わる角隅部にボルト等により取り付けられる取付部23Aと、該取付部23Aから燃料タンク12及び作動油タンク13の上側に向けて延出する抜け落ち規制片23Bと、該抜け落ち規制片23Bの先端側からホルダ部21に向けて延出する回動規制片23Cとにより構成されている。そして、グリースガン19をホルダ部21の各把持部21Dによって保持した場合においては、前述のとおり、グリースガン19は、前方に向けて斜め下向きに傾いた姿勢で保持されることになるが、ストッパ部23が、グリースガン19のハンドル部19Cに係合することによりグリースガン19がホルダ部21から脱落するのを防止し、グリースガン19を確実に保持することができる構成となっている。
【0040】
また、ストッパ部23は、ホルダ部21に対するグリースガン19の位置決めを行っている。つまり、ストッパ部23にグリースガン19のハンドル部19Cに設けられた支点19C1側を係合させたときに、当該ハンドル部19Cの自由端19C2側は、インナカバー15のフランジ部15Aの下側に収納される構成となっている。具体的には、ストッパ部23の抜け落ち規制片23Bと回動規制片23Cは、略L字状に形成されており、回動規制片23Cは、グリースガン19のハンドル部19Cの側面と当接するように抜け落ち規制片23Bの先端側から屈曲している。これにより、グリースガン19のハンドル部19Cに設けられた支点19C1をストッパ部23に係合させると、必然的にハンドル部19Cの自由端19C2側がインナカバー15のフランジ部15Aの下側に収まることになる。
【0041】
これにより、タンクカバー18を閉位置としたときに、インナカバー15のフランジ部15Aによってタンクカバー18を支持することができるので、インナカバー15とグリースガン19との干渉を防止することができる。また、グリースガン19のハンドル部19Cは、インナカバー15に設けられたフランジ部15Aの下面に押さえつけられて固定されるので、油圧ショベル1の作業中における振動等により、当該ハンドル部19Cの不要な回動を規制することができ、グリースガン19の収納時における不用意なグリースの吐出を防止することができる。
【0042】
24はストッパ部23よりも前側に位置してインナカバー15の内面15Bに設けられたノズル受け部を示し、該ノズル受け部24は、グリースガン19に設けられた注入ノズル19Bの先端部19B1を受けるものである。ここで、ノズル受け部24は、インナカバー15の内面15Bにボルト等により取り付けられる取付部24Aと、インナカバー15から燃料タンク12及び作動油タンク13の上側に向けて延出する受皿24Bとにより構成されている。この受皿24Bは、前面24B1、後面24B2、左側面24B3、右側面24B4、下面24B5とによって囲まれ、上側が開口した箱型形状を成している。そして、このノズル受け部24は、グリースガン19をホルダ部21に保持した状態で、注入ノズル19Bの先端部19B1がノズル受け部24の受皿24Bの上方に位置するように配設されるものである。これにより、注入ノズル19Bの先端部19B1からグリースが液だれしても、ノズル受け部24の受皿24Bによって液だれしたグリースを受け止めることにより、タンク室17内を清浄な状態に保つことができる構成となっている。
【0043】
第1の実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0044】
まず、オペレータは、キャブ10に搭乗し、エンジン6を始動して油圧ポンプ(図示ぜず)を駆動する。そして、走行用のレバー(図示せず)等を操作することにより、下部走行体2を前進または後退させ、操作レバー9を操作することにより、作業装置4を俯仰動させて土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0045】
ここで、油圧ショベル1に対するメンテナンス作業として、作業装置4の給脂部位にグリースを給脂する場合には、グリースガン19の注入ノズル19Bの先端部19B1を当該給脂部位に嵌め込み、グリースガン19のハンドル部19Cを筒部19Aより離れる方向に回動させる。これにより、グリースガン19の筒部19Aに収容されたグリースが注入ノズル19Bに導入され、ハンドル部19Cを筒部19Aに近づける方向に回動させることにより、注入ノズル19Bに導入されたグリースが注入ノズル19Bの先端部19B1から吐出され、作業装置4の給脂部位にグリースを給脂することができる。
【0046】
そして、給脂作業が終了した後には、タンクカバー18を開位置へと移動させ、タンク室17内にグリースガン19を収容する。
【0047】
この場合、タンク室17は、燃料タンク12,作動油タンク13および種々の配管等が混在した狭隘な空間となっている。そこで、本実施の形態においては、インナカバー15の内面15Bのうち燃料タンク12及び作動油タンク13の上側位置にグリースガン保持部材20を設け、このグリースガン保持部材20によって、グリースガン19を保持している。これにより、グリースガン19を、インナカバー15の上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾いた姿勢に保持することができ、燃料タンク12,作動油タンク13および種々の配管等をかわしつつ、狭隘なタンク室17内にコンパクトにグリースガン19を収容することができる。
【0048】
次に、グリースガン19をタンク室17内に収容する際の手順について図8ないし図11を参照して説明する。なお、図8ないし図11では、タンクカバー18を省略している。
【0049】
まず、図7に示すようにタンクカバー18を開位置に移動させ、タンク室17を開放する。そして、インナカバー15に設けられたグリースガン保持部材20を構成するホルダ部21の各把持部21Dに、グリースガン19の筒部19Aを嵌め込む。この把持部21Dは、グリースガン19の筒部19Aの長手方向に2個設けられており、上方が開放している。これにより、グリースガン19を安定して保持することができ、かつグリースガン19の着脱作業を容易に行うことができる。
【0050】
ここで、グリースガン19をホルダ部21の各把持部21Dに嵌め込んだ状態(図9の状態)では、インナカバー15のフランジ部15Aよりも上方にグリースガン19のハンドル部19Cが突出し、タンクカバー18を閉塞位置に移動させたときに、グリースガン19のハンドル部19Cが、タンクカバー18に干渉してタンクカバー18が閉まらないようになっている。
【0051】
そこで、図9に示すように、ホルダ部21の各把持部21Dに保持されたグリースガン19を矢印A方向に回転させ、グリースガン19のハンドル部19Cを、インナカバー15のフランジ部15Aの下側に位置するように移動させる。これにより、グリースガン19全体を、インナカバー15のフランジ部15Aよりも下側に収めることができる。次に、図10に示すように、グリースガン19をホルダ部21に沿って矢印B方向に移動させる。これにより、グリースガン19は、ハンドル部19Cの支点19C1がストッパ部23の抜け落ち規制片23Bに当接するまで斜め下方向にスライドし、図11に示すように、支点19C1が抜け落ち規制片23Bに当接すると共に、ハンドル部19Cの側面が、ストッパ部23の回動規制片23Cに当接した位置に位置決めされる。これにより、グリースガン19をインナカバー15の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾けて保持した場合でも、ストッパ部23の抜け落ち規制片23Bによりグリースガン19の斜め下向きへの移動を規制することができ、グリースガン19がホルダ部21によって確実に保持することができる。
【0052】
また、グリースガン19のハンドル部19Cの側面側には、ストッパ部23の回動規制片23Cが当接しているので、グリースガン19が回動するのも防止することができる。また、図11に示すように、グリースガン19のハンドル部19Cの自由端19C2側は、インナカバー15のフランジ部15Aの下面に当接した状態で収容されている。これにより、ハンドル部19Cの上方への回動が規制されているので、油圧ショベル1の作業中の振動等によりグリースガン19から不要にグリースが抽出するのを防止することができる。
【0053】
さらに、グリースガン19の注入ノズル19Bの先端部19B1を、ノズル受け部24の受皿24B上に位置決めすることができる。これにより、グリースガン19の注入ノズル19Bからグリースが液だれしても、ノズル受け部24の受皿24Bによって液だれしたグリースを受け止めることができるので、液だれしたグリースによりタンク室17内を汚すことがなく、タンク室17内を清浄な状態に保つことができる。
【0054】
このようにして、インナカバー15に設けたグリースガン保持部材20によってグリースガン19を保持し、該グリースガン19全体をインナカバー15のフランジ部15Aよりも下側に収めることにより、タンクカバー18を閉位置へと移動させ、タンク室17を確実に閉塞することができる。
【0055】
この場合、タンクカバー18の前部側には、タンクカバー18を開,閉する際にオペレータが把持する把手部18Aが設けられ、当該把手部18Aには、タンクカバー18を閉位置に施錠する鍵部が設けられている。これにより、特定の者しかタンクカバー18を開放することができないので、タンク室17内に収容されたグリースガン19に対する盗難やいたずらを確実に防止することができる。
【0056】
かくして、第1の実施の形態によれば、インナカバー15の内面15Bのうち燃料タンク12及び作動油タンク13よりも上側位置にグリースガン保持部材20を設けることにより、このグリースガン保持部材20によって、グリースガン19をインナカバー15の上端に沿って斜め下向きに傾いた姿勢に保持することができる。この結果、燃料タンク12,作動油タンク13や種々の配管等が錯綜する狭隘なタンク室17内にグリースガン19をコンパクトに収容することができる。
【0057】
この場合、グリースガン保持部材20は、運転席8と燃料タンク12及び作動油タンク13との間を仕切るインナカバー15のうち、運転席8とは反対側となる内面15B側に設けている。このため、グリースガン保持部材20にグリースガン19を保持した場合でも、グリースの臭いが運転席8の周囲に充満することがなく、油圧ショベル1を操作するオペレータの作業環境を良好に保つことができる。また、タンク室17を覆うタンクカバー18を施錠することにより、グリースガン19に対する盗難やいたずらを防止することができる。
【0058】
次に、図12は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、タンクカバーの開閉支点を前部側に設け、タンクカバーを前,後方向に開閉する構成としたことにある。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0059】
31は第1の実施の形態によるタンクカバー18に代えて用いられた第2の実施の形態によるタンクカバーを示している。このタンクカバー31は、第1の実施の形態によるタンクカバー18と同様に、燃料タンク12及び作動油タンク13の外側面を覆って前,後方向に延び、インナカバー15の上端に沿って前部側に向けて下向きに傾斜して配置されたものである。
【0060】
ここで、タンクカバー31の前端部下側には、開閉支点(図示せず)が設けられ、タンクカバー31は、この開閉支点を中心として前,後方向に回動することにより、タンク室17を開,閉するものである。また、タンクカバー31の後部側には、凹陥状の把手部31Aが設けられ、当該把手部31Aには、タンクカバー31を閉位置に施錠できるように鍵部(図示せず)が設けられている。
【0061】
第2の実施の形態は、上述の如きタンクカバー31を有するもので、本実施の形態においても第1の実施の形態と同様に、インナカバー15の内面15Bのうち燃料タンク12及び作動油タンク13よりも上側位置にグリースガン保持部材20を設ける構成としている。これにより、グリースガン19をインナカバー15の上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾けて保持することができる。
【0062】
この結果、前述の第1の実施の形態と同様に燃料タンク12,作動油タンク13や種々の配管等が錯綜する狭隘なタンク室17内にグリースガン19をコンパクトに収容することができる。また、運転席8に着座したオペレータの周囲にグリースの臭いが充満することがなく、オペレータの作業環境を良好に保つことができる。さらに、タンクカバー31を閉位置に施錠することができるので、タンク室17内に収容されたグリースガン19に対する盗難やいたずらを防止することができる。
【0063】
なお、前述した第1の実施の形態においては、インナカバー15の上端とアウタカバー16の上端との間にタンクカバー18を開,閉可能に設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば、アウタカバー16とタンクカバー18とが一体となった大きなタンクカバーを形成してもよい。このことは、第2の実施の形態についても同様である。
【0064】
また、各実施の形態では、建設機械として、キャブ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、キャノピ式の油圧ショベルに適用してもよい。それ以外にも、ホイール式の油圧ショベル等の他の建設機械にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 下部走行体
3 上部旋回体
5 旋回フレーム(支持構造体)
6 エンジン
8 運転席
12 燃料タンク(貯油タンク)
13 作動油タンク(貯油タンク)
15 インナカバー
15A フランジ部
17 タンク室
18,31 タンクカバー
19 グリースガン
19A 筒部
19B 注入ノズル
19C ハンドル部
20 グリースガン保持部材
21 ホルダ部
23 ストッパ部
24 ノズル受け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前部に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、
前記上部旋回体は、支持構造体をなす旋回フレームと、該旋回フレームの後部側に搭載され油圧ポンプを駆動するエンジンと、前記旋回フレームの左,右方向の一側に設けられた運転席と、前記旋回フレームの左,右方向の他側に配置され前記エンジンに供給される燃料または油圧アクチュエータに供給される作動油を貯える貯油タンクと、該貯油タンクと前記運転席との間を仕切るため上,下方向に延びると共に前,後方向に延び、かつ上端が前側に向けて下向きに傾斜して形成されたインナカバーと、前記貯油タンクの外側面を覆って前,後方向に延び、前記インナカバーの上端に沿って前部側に向けて下向きに傾斜して配置されたタンクカバーとを備えてなる建設機械において、
前記インナカバーのうち前記貯油タンクと対面する内面側であって前記貯油タンクよりも上側位置には、給脂作業に用いるグリースガンを保持するグリースガン保持部材を設け、
該グリースガン保持部材は、前記グリースガンを前記インナカバーの上端の下向き傾斜に沿って斜め下向きに傾けて保持するように取り付ける構成としたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記グリースガンは、内部にグリースが収容される筒部と、該筒部に設けられグリースを給脂対象に注入する注入ノズルと、前記筒部に設けられ当該筒部に収容されたグリースを注入ノズル側に押し出すハンドル部とにより構成し、
前記グリースガン保持部材は、前記グリースガンの筒部を把持するホルダ部と、該ホルダ部よりも前側に位置し前記グリースガンのハンドル部に係合するストッパ部と、該ストッパ部よりも前側でかつ下側に位置し前記注入ノズルの先端を受けるノズル受け部とにより構成してなる請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記インナカバーの上端には、前記貯油タンク側に向けて折り曲げられ前記タンクカバーを支持するフランジ部を設け、
前記グリースガンは、前記グリースガン保持部材に保持された状態で前記インナカバーのフランジ部よりも下側に収まる構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−57179(P2013−57179A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194858(P2011−194858)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】