説明

強酸性水生成装置

【課題】安定した品質の強酸性水を必要に応じて供給することができ、空気中へ塩素ガスが放散するのを防止する機能を有する強酸性水生成装置を提供する。
【解決手段】強酸性水生成装置100は、給水源から供給される水へ塩水タンク11内の塩水SWを添加して形成された被電解水を収容するためイオン透過性隔膜12で区画された陰極室13及び陽極室14を有する電解槽15と、陰極室13内に配置された陰電極13a及び陽極室14内に配置された陽電極14aと、陰電極13aと陽電極14aとの間に直流電圧を印加する電源部16と、を有する強酸性水生成部10と、強酸性水生成部10で生成された強酸性水EOWを貯留する強酸性水タンク30と、操作レバー41を操作すると、強酸性水タンク30内の強酸性水EOWが流出する注水口40と、を備え、強酸性水タンク30内と連通する排気経路51に塩素ガスを捕捉する活性炭フィルタ50が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食塩水を電解処理して生成した強酸性水をタンクに貯留し、所定の手動操作を行うことにより、タンク内の強酸性水を注水口から取り出すことができる機能を備えた強酸性水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質が添加された水を電解処理することによって生成される強酸性水は優れた殺菌作用を有するため、医療現場や厨房設備などにおいては、必要に応じて強酸性水を取り出すことのできる強酸性水生成装置を設置する事例が増えている。このような強酸性水生成装置としては、イオン透過性隔膜で区画された陰極室及び陽極室を有する電解槽に収容した希薄食塩水に直流電圧を印加して強酸性水を生成する方式のものが多用されている。
【0003】
しかしながら、従来の強酸性水生成装置においては、生成された強酸性水あるいは使用後の強酸性水から揮発した塩素ガスが空気中に飛散して、当該強酸性水生成装置の周囲に存在する金属機器に錆を発生させるという問題がある。
【0004】
一方、有隔膜式の電解水生成装置にて生成される電解生成アルカリ性水を洗浄水とする食器洗浄機において、電解生成アルカリ性水と同期して生成される電解生成酸性水を炭酸カルシウムや寒水石などの中和剤で中和処理して排水する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−57756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の食器洗浄機は、電解生成酸性水を中和処理して排出するための中和槽及び中和剤を必要とするため、構造が複雑であり、取り扱いも面倒である。
【0007】
また、特許文献1に記載されているのは、洗浄水として使用されることなく排出される電解生成酸性水を中和処理して塩素ガスの発生を防止する技術であるため、本発明に係る強酸性水生成装置、即ち、電解処理よって生成される強酸性水をタンク内に常時貯留し、所定の手動操作により、タンク内の強酸性水を取り出し可能な機能を必要とする強酸性水生成装置に前記技術を使用することは困難である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、安定した品質の強酸性水を必要に応じて供給することができ、空気中への塩素ガスの放散を防止する機能を有する強酸性水生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の強酸性水生成装置は、給水源から供給される水に塩水タンクに貯留された塩水を添加して形成された被電解水を収容するためイオン透過性隔膜で区画された陰極室及び陽極室を有する電解槽と、前記陰極室内に配置された陰電極及び前記陽極室内に配置された陽電極と、前記陰電極と前記陽電極との間に直流電圧を印加する電源部と、を有する強酸性水生成部と、
前記強酸性水生成部で生成された強酸性水を貯留する強酸性水タンクと、
所定の手動操作に基づいて、前記強酸性水タンク内に貯留された強酸性水を流出させる注水口と、
前記強酸性水生成部と前記強酸性水タンクとの間の送水経路若しくは前記強酸性水タンクと前記注水口との間の送水経路の少なくとも一方に配置された酸化還元電位計と、を備え、
前記強酸性水タンク内と連通して配設された排気経路に塩素ガスを捕捉する塩素除去手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
このような構成とすれば、強酸性水生成部で生成された強酸性水の酸化還元電位を酸化還元電位計によって常時監視することができるので、安定した品質の強酸性水を必要に応じて供給することができる。また、電解槽中での電解反応中に発生し、強酸性水に伴って強酸性水タンク内に移動した塩素ガスは、強酸性水タンクと連通する排気経路に設けられた塩素除去手段によって捕捉されるので、空気中への塩素ガス放散を防止することができる。このため、当該強酸性水生成装置の周辺に存在する金属機器が塩素ガスで発錆するのを防止することができる。
【0011】
本発明に係る強酸性水生成装置において、陽極室内での強酸性水生成に伴って陰極室内で生成されるアルカリ水は、別途設けられた排水経路を経由して所定の場所へ排出されるが、稼働時間の経過につれて、アルカリ水の排水経路内に徐々にカルシウム系のスケールが付着してくることがある。この場合、アルカリ水の排水経路に強酸性水を流すことにより、スケールを溶解除去することができる。
【0012】
そこで、前記電源部から前記陰電極及び前記陽電極に印加される直流電圧の極性を転換する切替手段を設けることが望ましい。このような構成とすれば、アルカリ水の排水経路にスケールが付着したとき、電解槽の陰電極及び陽電極に印加される直流電圧の極性を前記切替手段で転換し、陰電極にプラス、陽電極にマイナスの直流電圧を印加して電解し、元の陰極室内に強酸性水を生成させ、この強酸性水をアルカリ水の排水経路に流すことによって、スケールを容易に除去することができる。なお、スケール除去が完了した後は、前記切替手段により、印加される直流電圧の極性を元の状態に戻すことにより、通常の強酸性水生成運転を再開することができる。
【0013】
また、本発明に係る強酸性水生成装置を構成する酸化還元電位計の測定対象物は送水経路内を流れる強酸性水に限定されているので、前記酸化還元電位計測手段として、前記送水経路内に配置された白金電極及び塩化銀電極を有するORPセンサを用いることができる。このような構成とすれば、従来の酸化還元電位計で使用されている電極保存用のKCl溶液などが不要となるため、取り扱いが容易となる。
【0014】
一方、前記切替手段で極性が転換された直流電圧の印加により、元の陽極室にて生成されるアルカリ水を排出する排水経路を設けることが望ましい。このような構成とすれば、アルカリ水が強酸性タンクへ流入したり、強酸性水の送水経路に配置された酸化還元電位計に悪影響を与えたりするのを防止することができる。
【0015】
さらに、前記塩素除去手段として、活性炭フィルタを用いれば、強酸性水タンク内で発生する塩素ガスを効率的に捕捉、除去することができる。なお、塩素除去手段は活性炭フィルタに限定しないので、塩素ガス吸着機能を有する物質を用いた各種フィルタを使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、安定した品質の強酸性水を必要に応じて供給することができ、空気中への塩素ガスの放散を防止する機能を有する強酸性水生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態である強酸性水生成装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す強酸性水生成装置のフロー図である。
【図3】図2中に示すORPセンサの一部省略断面図である。
【図4】図3に示すORPセンサの一部省略平面図である。
【図5】図4に示すORPセンサを矢線A方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1,図2に示すように、本実施形態の強酸性水生成装置100は、上水道などの給水源(図示せず)から供給される水に塩水タンク11に貯留された塩水SWを添加して形成された被電解水を収容するためイオン透過性隔膜12で区画された陰極室13及び陽極室14を有する電解槽15と、陰極室13内に配置された陰電極13a及び陽極室14内に配置された陽電極14aと、陰電極13aと陽電極14aとの間に直流電圧を印加する電源部16と、を有する強酸性水生成部10と、強酸性水生成部10で生成された強酸性水EOWを貯留する強酸性水タンク30と、操作レバー41を手動で押圧操作すると強酸性水タンク30内に貯留された強酸性水EOWが流出する注水口40と、を備えている。
【0019】
また、強酸性水タンク30内と連通して配設された排気経路51には、強酸性水生成部10の陽極室14内における電解工程で発生し、強酸性水とともに強酸性水タンク30内に流入し、その空洞部分に滞留する塩素ガスを捕捉するための塩素除去手段である活性炭フィルタ50が着脱可能に設けられている。
【0020】
電源部16と、陰電極13a及び陽電極14aと、の間には、電源部16から陰電極13a及び陽電極14aに印加される直流電圧の極性(プラス・マイナス)を転換する切替手段26が設けられている。また、切替手段26と、後述する切替弁19,24と、を連携して作動させるための制御手段27が設けられている。
【0021】
図2に示すように、給水源から供給される水を電解槽15に送り込む給水経路5には、減圧弁1、給水弁2、定量弁3及び流量計4が配置され、流量計4より下流側の分岐部6で二つの分岐経路6a,6bに分かれ、これらの分岐経路6a,6bがそれぞれ陰極室13及び陽極室14に連通されている。塩水タンク11内の塩水SWは、塩水ポンプP1により、塩水経路7を経由して、合流部8において給水経路5に送り込まれる。合流部8は、給水経路5途中の流量計4と分岐部6との間に配置されている。塩水経路7の途中には逆止弁9が配置されている。
【0022】
電解槽15の陽極室14内に生成された強酸性水EOWは、送水経路18a,18b,18cを経由して強酸性水タンク30内へ送り込まれ、その中に貯留される。送水経路18a,18bの間には切替弁19が配置され、送水経路18b,18cの間には送水経路18b,18cを通過する強酸性水EOWの酸化還元電位を測定するためのORPセンサ20が配置されている。また、強酸性タンク30内に貯留されている強酸性水EOWを、ポンプP2を介して、注水口40まで供給するための送水経路25の途中にもORPセンサ20が配置されている。
【0023】
図3〜図5に示すように、ORPセンサ20は、強酸性水EOWが通過する直管状の流路20aを有する本体部20bと、流路20a内に先端部を露出させた状態で流路20a内の水流方向に沿って直列状に配置された白金電極20c及び塩化銀電極20dと、を備え、本体部20の外周面に露出した白金電極20c及び塩化銀電極20dの基端部に電位計20eが接続されている。
【0024】
電解槽15の陽極室14における強酸性水の生成に伴って陰極室13内に生成される強アルカリ性水を所定場所へ排出するための排水経路21a,21bが設けられ、排水経路21aの途中には、排水経路21a内を通過する強アルカリ性水の流量を調整するための流量制限ノズル22が配置されている。
【0025】
切替弁19の上流に位置する送水経路18aと、流量制限ノズル22の下流に位置する排水経路21aと、の間には排水経路23が設けられ、排水経路23の途中に切替弁24が配置されている。
【0026】
強酸性水EOWを必要とする場合、図1に示すように、注水口40の直下に受水容器(図示せず)を近づけ、注水口40近傍に設けられた操作レバー41を受水容器で押圧すると、ポンプP2が作動し、強酸性タンク30内に貯留されている強酸性水EOWが送水経路25を経由して注水口40から流出し、受水容器に注ぎ込まれる。この場合、注水口40から流出する強酸性水EOWの酸化還元電位はORPセンサ20によって確認することができるので、安定した品質の強酸性水EOWを得ることができる。
【0027】
前述したように、強酸性水生成装置100においては、強酸性水タンク30内と連通して配設された排気経路51に活性炭フィルタ50を設けているため、強酸性水EOWに伴って強酸性水タンク30内に流入し、当該強酸性水タンク30内に滞留している塩素ガスを活性炭フィルタ50で捕捉し、空気中への放散を防止することができる。このため、強酸性水生成装置100の設置場所周辺に存在する金属機器が塩素ガスによって発錆するのを防止することができる。
【0028】
強酸性水生成装置100においては、陽極室14内での強酸性水生成に伴って陰極室13内にて生成されるアルカリ水は、排水経路21a,21bを経由して所定の場所へ排出されるが、稼働時間の経過につれて、排水経路21a,21b内に徐々にカルシウム系のスケールが付着してくることがある。このような場合、切替手段26を操作して、電源部16から陰電極13a及び陽電極14aに印加される直流電圧の極性をプラス・マイナス逆に転換して電解を行う。
【0029】
これにより、陰電極13aにプラス、陽電極14aにマイナスの直流電圧が印加された状態で電解が行われ、元の陰極室13内で強酸性水が生成し、この強酸性水が流量制限ノズル22及びアルカリ水の排水経路21a,21b内を流れるので、排水経路21a,21b内に付着したスケールを容易に溶解除去することができる。
【0030】
一方、切替手段26で逆極性に転換すると、制御手段27により、切替弁19が閉止され、切替弁24が開放されるので、逆極性で電解を行っているときに元の陽極室14内で生成するアルカリ性水は、送水経路18aの途中から排水経路23へ流れ込み、排水経路21aの下流側にて合流し、排水経路21bを経由して所定場所へ排出される。
【0031】
このように、切替手段26で逆極性に転換された直流電圧の印加により、元の陽極室14にて生成されるアルカリ水は排水経路23を経由して所定場所へ排出されるので、アルカリ水が強酸性タンク30内へ流入したり、強酸性水の送水経路18bの下流側に配置されたORセンサ20に悪影響を与えたりする弊害を防止することができる。なお、スケール除去が完了した後は、切替手段26を操作して元の極性に戻せば、制御手段27により、切替弁19が開放され、切替弁24が閉止されるので、通常の強酸性水生成運転を再開することができる。
【0032】
また、本発明に係る強酸性水生成装置においては、強酸性水タンク30に流入する強酸性水EOW及び注水口40から流出する強酸性水EOWの酸化還元電位を測定する手段として、それぞれ図3〜図5に示すORPセンサ20を用いているため、従来の酸化還元電位計で使用される電極保存用のKCl溶液などが不要であり、取り扱いが容易である。
【0033】
なお、図1,図2に基づいて説明した強酸性水生成装置100は、本発明に係る強酸性水生成装置の一例を示すものであり、本発明は強酸性水生成装置100に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の強酸性水生成装置は、医療用機材や厨房用器具などの除菌・滅菌用の強酸性水を生成する装置として、医療現場や厨房設備などにおいて広く利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 減圧弁
2 給水弁
3 定量弁
4 流量計
5 給水経路
6 分岐部
6a,6b 分岐経路
7 塩水経路
8 合流部
9 逆止弁
10 強酸性水生成部
11 塩水タンク
12 イオン透過性隔膜
13 陰極室
13a 陰電極
14 陽極室
14a 陽電極
15 電解槽
16 電源部
18a,18b,18c 送水経路
19,24 切替弁
20 ORPセンサ
20a 流路
20b 本体部
20c 白金電極
20d 塩化銀電極
20e 電位計
21a,21b,23 排水経路
22 流量制限ノズル
25 強酸性水供給経路
26 切替手段
27 制御手段
30 強酸性水タンク
40 注水口
41 操作レバー
50 活性炭フィルタ
51 排気経路
EOW 強酸性水
P1 塩水ポンプ
P2 給水ポンプ
SW 塩水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水源から供給される水に塩水タンクに貯留された塩水を添加して形成された被電解水を収容するためイオン透過性隔膜で区画された陰極室及び陽極室を有する電解槽と、前記陰極室内に配置された陰電極及び前記陽極室内に配置された陽電極と、前記陰電極と前記陽電極との間に直流電圧を印加する電源部と、を有する強酸性水生成部と、
前記強酸性水生成部で生成された強酸性水を貯留する強酸性水タンクと、
所定の手動操作に基づいて、前記強酸性水タンク内に貯留された強酸性水を流出させる注水口と、
前記強酸性水生成部と前記強酸性水タンクとの間の送水経路若しくは前記強酸性水タンクと前記注水口との間の送水経路の少なくとも一方に配置された酸化還元電位計と、を備え、
前記強酸性水タンク内と連通して配設された排気経路に塩素ガスを捕捉する塩素除去手段を設けたことを特徴とする強酸性水生成装置。
【請求項2】
前記電源部から前記陰電極及び前記陽電極に印加される直流電圧の極性を転換する切替手段を設けた請求項1記載の強酸性水生成装置。
【請求項3】
前記酸化還元電位計として、前記送水経路内に配置された白金電極及び塩化銀電極を有するORPセンサを用いた請求項1または2記載の強酸性水生成装置。
【請求項4】
前記切替手段で極性が転換された直流電圧の印加により、元の陽極室にて生成されるアルカリ水を排出する排水経路を設けた請求項2または3記載の強酸性水生成装置。
【請求項5】
前記塩素除去手段として、活性炭フィルタを用いた請求項1〜4のいずれかに記載の強酸性水生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−91039(P2013−91039A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235300(P2011−235300)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(399102839)博多港管理株式会社 (16)
【出願人】(398018777)株式会社弁天 (15)
【Fターム(参考)】