説明

弾性表面波デバイス

【課題】小型化、低背化を図りつつ、周波数をより大きな可変幅で効率良く可変制御し得るSAWデバイスを提供する。
【解決手段】SAWデバイス1は、圧電基板4の主面にSAWを励振するためのIDT5を有するSAW素子3と、SAW素子を圧電基板のSAW伝搬方向の一方の端部4aで片持ちに支持固定するベース2と、印加電圧に応じて自由端部9aを長さ方向に変位させるアクチュエータ9とを備える。アクチュエータの自由端部は、圧電基板のSAW伝搬方向にIDTよりも他方の端部4b側においてその裏面4cに、該アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度で当接し、圧電基板をその他方の端部を押し上げて撓ませる。アクチュエータの自由端部が、圧電基板裏面に摺接しつつ印加電圧により長さ方向に変位して圧電基板の撓み量を変化させ、SAWデバイスの周波数を線形に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に弾性表面波(SAW)を励振するIDT(すだれ状トランスデューサ)を形成した弾性表面波素子を備える弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、情報通信機器等の様々な電子機器に、SAW素子を用いた共振子、フィルタ、発振器等のSAWデバイスが広く使用されている。SAWデバイスの周波数は、IDTを構成する交差指電極の電極指ピッチによって決定される。SAWデバイスの周波数を変えたい場合は、別個の可変容量素子や回路等の追加手段を設けるのが一般的である。
【0003】
SAWデバイスの周波数は、IDTを形成した圧電基板に撓み等の変形を加えて、電極指ピッチを狭く又は広く変化させると、それに対応して高く又は低く変化する。この特性を利用することにより、追加手段を設けることなく周波数を可変化したSAW装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このSAW装置は、互いに逆極性に分極された2枚の圧電セラミックを貼着したバイモルフ型又は積層型の圧電アクチュエータの上面にSAW素子を接着し、外部電圧により圧電アクチュエータと共に圧電基板を屈曲させて、SAW素子の周波数を変化させる。
【0004】
また、印加電圧に応じて少なくとも一方向の長さが変化するような圧電アクチュエータを用いて圧電基板に歪を与え、印加電圧に応じて周波数特性を可変できるようにした圧電デバイスが知られている(例えば、特許文献2を参照)。この圧電アクチュエータは、複数の板状の圧電素子を上下方向に積層しかつこれらの間にプラス電極及びマイナス電極を交互に介在させたもので、これと支持体とに圧電基板の両端を固着させ、圧電アクチュエータの長さを印加電圧に応じて上下方向に変化させることにより、圧電基板を撓ませるようにした圧電デバイスが開示されている。
【0005】
特許文献2記載の圧電デバイスは、印加電圧の単位変化量に対する周波数特性の可変量が必ずしも大きくない。そのため、周波数特性を効率的に可変し得るSAWデバイスが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。このSAWデバイスは、圧電薄膜の多層構造からなる圧電アクチュエータの、薄膜積層方向の側方に圧電基板を固着し、かつ圧電基板を圧電アクチュエータよりも十分薄くすることによって、圧電アクチュエータへの印加電圧に応じて圧電基板を効果的に伸縮させ得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平1−119214号公報(実願昭63−14032号明細書)
【特許文献2】特開平5−63251号公報
【特許文献3】特開平5−251985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の周波数可変SAWデバイスは、圧電アクチュエータへの印加電圧に対する圧電基板の変形量が少ないため、周波数を十分に大きく変化させることができない、という問題があった。この問題を解消するために、特許文献3記載のSAWデバイスは、圧電アクチュエータを圧電基板よりも十分大きくして、印加電圧に対する圧電アクチュエータの長さ変化をより大きくしている。特許文献2記載の圧電デバイスも、圧電基板の端部に固着した圧電アクチュエータの高さを十分に大きくすれば、その印加電圧に対する高さの変化量を大きくすることができる。
【0008】
しかしながら、いずれの場合も、圧電アクチュエータを大型化するので、これに伴ってデバイス全体が大型化、高背化する。そのため、SAWデバイスに対する小型化、薄型化の要求には、十分に対応することができない。
【0009】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型化、低背化を図りつつ、周波数をより大きな可変幅で効率良く可変制御し得るSAWデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のSAWデバイスは、上記目的を達成するために、例えば周波数温度特性が良好で安定性に優れた水晶からなる圧電基板及び該圧電基板の主面に形成されてSAWを励振するためのIDTを有するSAW素子と、該SAW素子を圧電基板のSAW伝搬方向の一方の端部で固定しかつ他方の端部を圧電基板の撓み方向に変位可能に浮かせて片持ちに支持するベースと、印加電圧に応じて長さ方向に変位可能な自由端部を有するアクチュエータとを備え、
アクチュエータの自由端部が、圧電基板の裏面にIDTよりも他方の端部側においてアクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度で摺接しつつ、該圧電基板の他方の端部を撓み方向に変位させるように長さ方向に変位することを特徴とする。
【0011】
このように圧電基板の裏面に45°より小さい角度をもたせて摺接させることにより、アクチュエータの自由端部を変位させてSAW素子の圧電基板を押し上げ、その撓み量に応じてSAWデバイスの周波数を高くするように変化させることができる。アクチュエータの自由端部と圧電基板裏面との摺接角度を小さくするほど、圧電基板をより円滑に押し上げて撓ませることができ、かつアクチュエータの長さ方向を圧電基板の平面に対してより平行に配置できるので、デバイス全体を高背化させることなく、アクチュエータを長くすることができる。従って、SAWデバイスの低背化を図りつつ、アクチュエータを十分に長くしてその長さ方向の変位幅を拡大し、アクチュエータへの印加電圧に対する圧電基板の撓み量をより大きくすることができる。その結果、SAWデバイスの周波数可変幅をより大きくし、かつ周波数を効率良く可変制御することができる。
【0012】
或る実施例では、SAW素子の圧電基板が、IDTを形成した領域にSAW伝搬方向に沿って少なくとも部分的に薄板部を有する。圧電基板の薄板部は、他の部分よりも応力が集中するので、アクチュエータの長さ変位に対する撓み量が大きくなる。従って、SAWデバイスの周波数可変幅をより広くすることができ、アクチュエータへの印加電圧に対して周波数を効率良くかつより大きく変化させることができる。更に、圧電基板薄板部の同じ撓み量に対するアクチュエータの長さ変位を小さくできるので、アクチュエータの長さ寸法を小さくでき、SAWデバイスの小型化を図ることができる。
【0013】
別の実施例では、アクチュエータの自由端部を当接させる圧電基板の裏面が、アクチュエータの自由端部と対向するように圧電基板の主面に対して傾斜している。この傾斜角度を選択することによって、アクチュエータの長さ変位即ち印加電圧に対する圧電基板の撓み量をより自由に設定することができる。
【0014】
圧電基板の裏面がその主面に対して傾斜するように、或る実施例では、圧電基板が一体化した斜面部材を有する。これによって、圧電基板裏面の傾斜を必要に応じて簡単にかつ自由な角度に設けることができる。別の実施例では、圧電基板の裏面が、該圧電基板の主面に対して傾斜するように加工される。
【0015】
また、このような圧電基板裏面の傾斜が設けられている場合に、或る実施例では、アクチュエータがその自由端部を、圧電基板のSAW伝搬方向にその一方の端部側から他方の端部側に向けて変位するように配置される。これにより、アクチュエータとSAW素子とがSAW伝搬方向にオーバーラップする長さが大きくなるので、SAWデバイスの低背化と同時に、その長さ寸法を小型化することができる。
【0016】
別の実施例では、アクチュエータがその自由端部を、圧電基板のSAW伝搬方向にその他方の端部側から一方の端部側に向けて変位させるように配置される。これにより、アクチュエータを長くしても、SAWデバイスを高背化する虞が無いから、アクチュエータの長さの変位幅及びそれに応じたアクチュエータの長さ寸法を自由に選択することができる。従って、SAWデバイスの低背化を図りつつ、その周波数を効率良くかつより大きく変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)図は本発明によるSAWデバイスの第1実施例を示す平面図、(B)図はその側面図。
【図2】第1実施例の動作を示す側面図。
【図3】(A)図は本発明によるSAWデバイスの第2実施例を示す平面図、(B)図はその側面図。
【図4】第2実施例のアクチュエータ出力と周波数変動量との関係を示す線図。
【図5】第1実施例の変形例を示す部分拡大側面部。
【図6】第1実施例の別の変形例を示す部分拡大側面部。
【図7】(A)図は本発明によるSAWデバイスの第3実施例を示す平面図、(B)図はその側面図。
【図8】第3実施例の動作を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。尚、添付図面において、同一又は類似の構成要素は同一又は類似の参照符号を付して説明する。
【0019】
図1(A)(B)は、本発明を適用したSAWデバイスの第1実施例を示している。本実施例のSAWデバイス1は、水平なベース2に支持されたSAW素子3を備える。SAW素子3は、水晶からなる矩形平板の圧電基板4を有する。圧電基板4の主面には、長手方向の略中央に1対の交差指電極5a,5bからなるIDT5が、SAWを励振するために形成されている。IDT5のSAW伝搬方向の両側には、それぞれ各1個の反射器6,6が配置されている。
【0020】
各交差指電極5a,5bは、それぞれバスバーから引き出した配線を介して、圧電基板4の一方の長さ方向端部4aに設けられた電極パッド7a,7bに接続されている。SAW素子3は、圧電基板4の一方の長さ方向端部4aを接着剤8でベース2に固定することにより、他方の長さ方向端部4bをベース2から浮かせた状態で、片持ちに概ね水平に支持されている。
【0021】
ベース2上には、印加電圧に応じて長さを変化させるアクチュエータ9が、圧電基板4の他方の長さ方向端部4b側に配置されている。アクチュエータ9は、その長さ方向にSAW素子3から遠い側の端部が、接着剤10によりベース2上に固定されている。前記アクチュエータは、その長さ方向にSAW素子3に隣接する側に配置された自由端部9aを有する。自由端部9aは、アクチュエータ9への印加電圧に応じて該アクチュエータの長さ方向にベース2表面に沿って変位する。
【0022】
図1(B)に示すように、アクチュエータ9は、電圧を印加していない非動作状態で、自由端部9aを圧電基板4の長さ方向端部4bの下側に突入させた位置に配置する。SAW素子3のベース2からの高さH、即ち圧電基板4裏面とベース2表面との間隔は、アクチュエータ9の厚さTaよりも小さい。このため、前記アクチュエータの自由端部9aは、前記圧電基板のSAW伝搬方向に見てIDT5よりも長さ方向端部4b側においてその裏面4cに対して、前記アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度θで当接している。その結果、前記圧電基板は、長さ方向端部4bが水平位置よりも僅かに押し上げられ、上向きに撓んだ状態で保持される。この状態では、圧電基板4主面のIDT5が形成されている領域に圧縮応力が作用しているので、SAWデバイス1の周波数は、SAW素子3が水平に無応力の状態で保持されている場合よりも僅かに高い。
【0023】
SAWデバイス1の周波数を変える場合、アクチュエータ9に所定の電圧を印加して、自由端部9aを長さ方向にベース2表面に沿って伸出又は後退するように変位させる。図2は、自由端部9aを伸出方向に図中左方へ変位させた場合を示している。前記自由端部は、上述したように圧電基板4の長さ方向端部4bの裏面4cに45°より小さい角度で摺接し、長さ方向端部4bを押し上げて前記圧電基板を撓ませながら変位する。自由端部9aと圧電基板裏面4cとが接する角度を小さくするほど、前記自由端部はより円滑に変位しかつ圧電基板4を押し上げることができる。更に、アクチュエータ9をその長さ方向に圧電基板4の平面に対してより平行に配置することができ、SAWデバイス1を高背化させることなく、前記アクチュエータを十分に長くすることができる。
【0024】
圧電基板4は、前記アクチュエータの自由端部9aが伸出するほど、長さ方向端部4bがより高く押し上げられる。これにより、圧電基板4のIDT5形成面に作用する圧縮応力が大きくなるので、SAWデバイス1の周波数は高くなる。前記アクチュエータに逆向きの電圧を印加すると、自由端部9aは長さ方向に後退する。これにより、長さ方向端部4bが下がるので、圧電基板4のIDT5形成面に作用する圧縮応力が小さくなり、周波数は低くなる。
【0025】
アクチュエータ9の自由端部9aを圧電基板4の裏面に摺接させる範囲は、前記圧電基板のSAW伝搬方向に見てIDT5よりも長さ方向端部4b側の反射器6が形成されている領域に制限される。この範囲では、前記アクチュエータへの印加電力、それによる前記自由端部の変位、それによって撓む圧電基板4のIDT5形成面に作用する圧縮応力の増減に対応して、周波数が線形に変化する。
【0026】
このように本実施例によれば、SAWデバイス1の低背化を図りつつ、アクチュエータ9を十分に長くし、その長さ方向の変位幅を拡大して、該アクチュエータへの印加電圧に対する圧電基板4の撓み量をより大きくすることができる。その結果、SAWデバイスの周波数可変幅を十分に大きくし、かつ周波数を効率良く可変制御することができる。
【0027】
図3(A)(B)は、本発明によるSAWデバイスの第2実施例を示している。本実施例のSAWデバイス11は、SAW素子12の圧電基板13がSAW伝搬方向に沿って、ベース2に固定される一方の長さ方向端部4a側の厚板部13aと、自由端である他方の長さ方向端部4b側の厚板部13bと、それらの間に中央領域の薄板部13cとを有する点において、第1実施例と異なる。薄板部13cは、圧電基板13のIDT5形成領域の略全範囲に亘って設けられている。前記薄板部は、圧電基板13の裏面に凹部14を設けることによって容易に、例えば約10μmの一様な厚さに形成することができる。本実施例では、長さ方向端部4b側の厚板部13bにおいて圧電基板13の裏面にアクチュエータ9の自由端部9aを、該アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度θで摺接させる。
【0028】
薄板部13cは、前記厚板部よりも応力が集中して作用する。従って薄板部13cは、アクチュエータ9の自由端部9aの変位に対して、より大きく撓ませることができる。その結果、アクチュエータ9への印加電圧の変化に対して、第1実施例の場合よりも、SAWデバイス11の周波数を効率良く、かつより大きく変化させることができ、周波数可変幅をより広くすることができる。更に、第1実施例と比較して、前記薄板部に同じ大きさの撓みを生じさせるのに必要なアクチュエータの長さ変位を小さくできるので、アクチュエータの長さ寸法を小さくでき、SAWデバイスの小型化を図ることができる。
【0029】
別の実施例において、薄板部13cは、圧電基板13のIDT5形成領域にSAW伝搬方向に沿って部分的にのみ設けることができる。この場合も、前記厚板部よりも薄板部13cに応力が集中するので、圧電基板13をより大きく撓ませることができる。従って、同様に第1実施例の場合よりも、アクチュエータ9への印加電圧に対してSAWデバイス11の周波数を効率良く、かつより大きく変化させることができ、周波数可変幅をより広くすることができる。
【0030】
図4は、第2実施例のSAWデバイス11において、アクチュエータ9の出力(単位:N)に対する周波数変動量の変化をシミュレーションした結果である。同図において、実線は圧電基板13の薄板部13cの厚さT=30μmの場合を、破線はT=15μmの場合をそれぞれ示している。アクチュエータ9の出力は、それへの印加電力に比例する。図4からSAWデバイス11の周波数変動量は、アクチュエータ出力に対して線形に変化することが分かる。従って、SAWデバイス11の周波数変化は、アクチュエータ9への印加電力に対して優れた線形性を有する。
【0031】
図5は、第1実施例のSAWデバイス1の変形例を、その要部を拡大して部分的に示している。本実施例は、圧電基板4の長手方向端部4b側の裏面に突起部15が設けられている。突起部15は、前記圧電基板のSAW伝搬方向にIDT5よりも長さ方向端部4b側に反射器6が形成されている領域に設けられる。本実施例では、前記突起部が、前記圧電基板の長手方向端部4a側に向いた傾斜面15aを有する。前記突起部は、圧電基板4を加工する際に一体に形成することができ、又は別個の部材を圧電基板4の裏面に一体化することによって設けられる。
【0032】
アクチュエータ16は、自由端部16aがベース2表面に沿って上記各実施例とは反対向きに、即ち圧電基板4のベース2に固定される長手方向端部4a側から長手方向端部4b側に向けて変位し、該自由端部16aと傾斜面15aが対向するように配置される。これにより、アクチュエータ16とSAW素子3とがSAW伝搬方向にオーバーラップする長さが大きくなるので、SAWデバイスの低背化と同時に、その長さ寸法を小型化することができる。
【0033】
本実施例では、SAW素子3のベース2からの高さ即ち圧電基板4裏面とベース2表面との間隔が、アクチュエータ16の厚さよりも大きい。アクチュエータ16は、電圧を印加していない非動作状態で、自由端部16aを突起部15の下側に突入させ、かつ傾斜面15aに前記アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度θで当接するように配置される。第1実施例と同様に、圧電基板4は、長さ方向端部4bが前記アクチュエータの自由端部16aにより突起部15を介して水平位置から僅かに押し上げられ、上向きに撓んだ状態で保持される。
【0034】
アクチュエータ16に所定の電圧を印加すると、自由端部16aが突起部15の斜面15aに摺接しつつ、長さ方向にベース2表面に沿って伸出又は後退する向きに変位する。自由端部16aが伸出すると、圧電基板4は、長さ方向端部4bが押し上げられて撓み量が増え、IDT5形成面の圧縮応力が大きくなるので、SAWデバイスの周波数は高くなる。自由端部16aが後退すると、圧電基板4は、長さ方向端部4bが下がるので撓み量が減り、IDT5形成面の圧縮応力が小さくなって、周波数は低くなる。アクチュエータ16の長さ方向の変位即ち印加電圧の変化に対する圧電基板4の撓み量は、突起部15の傾斜面15aの傾斜角度を選択することによってより自由に設定することができる。
【0035】
図6は、第1実施例のSAWデバイス1の別の変形例を、その要部を拡大して部分的に示している。本実施例は、図5と同様に、圧電基板4の長手方向端部4bの裏面に突起部17が設けられている。本実施例の突起部17は、その傾斜面17aが圧電基板4の長手方向端部4aとは反対側を向けて配置されている点において、図5の実施例と異なる。アクチュエータ9は、第1実施例と同様に、自由端部9aを突起部17の下側に突入させ、かつ傾斜面17aと対向させて前記アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度θで当接させ、圧電基板4の長手方向端部4b側から長手方向端部4a側に向けて変位するように配置される。圧電基板4は、長さ方向端部4bが前記アクチュエータの自由端部9aにより突起部17を介して水平位置から僅かに押し上げられ、上向きに撓んだ状態で保持される。
【0036】
アクチュエータ9に所望の電圧を印加すると、自由端部9aが突起部17の傾斜面17aに摺接しつつ、長さ方向に伸出又は後退し、圧電基板4の長さ方向端部4bを押し上げて周波数を高くし、又は長さ方向端部4bを下げさせて周波数を低くする。アクチュエータ9の長さ方向の変位即ち印加電圧の変化に対する圧電基板4の撓み量は、突起部17の傾斜面17aの傾斜角度を選択することによってより自由に設定することができる。
【0037】
上記第1,第2実施例では、圧電基板4が、アクチュエータ9に電圧を印加しない非動作状態でその自由端部9aにより長さ方向端部4bが押し上げられて撓んだ状態に保持されている。別の実施例では、圧電基板4がアクチュエータ9の非動作状態で撓みの無い状態で保持されるようにすることができる。この場合、圧電基板4は、ベース2表面に対して水平ではなく、その裏面4cが僅かに傾いた状態に、前記アクチュエータの自由端部9aと該アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度θで対向するように保持される。アクチュエータ9に電圧を印加すると、自由端部9aは圧電基板裏面4cに該アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度θで摺接しつつ長さ方向に変位して、長さ方向端部4bを押し上げて圧電基板4を撓ませ、前記SAWデバイスの周波数を変化させる。
【0038】
図7(A)(B)は、デバイス全体をより低背化し得るSAWデバイスの実施例を示している。本実施例のSAWデバイス21は、ベース2上に片持ちに支持したSAW素子12の圧電基板13の自由端側の長さ方向端部4bに隣接させて、アクチュエータ22が配置されている。アクチュエータ22はベース2上に固定され、かつその上端が、圧電基板13の長さ方向端部4bの辺縁に接着剤23で結合されている。アクチュエータ22は、印加電圧に応じてベース2表面に対して垂直方向に変位する。SAW素子12の圧電基板13は、図3の実施例と同様に、SAW伝搬方向に中央のIDT5形成領域に薄板部13cを有する。
【0039】
SAW素子12の圧電基板13は、アクチュエータ22に電圧を印加していない非動作状態で、略水平に保持される。SAWデバイス21の周波数を変える場合、アクチュエータ22に所定の電圧を印加して、その上端部を上下方向に変位させる。図8は、アクチュエータ22の前記上端部を上昇させた場合を示している。圧電基板13は、前記アクチュエータの上端部を上昇させるほど、長さ方向端部4bがより高く押し上げられ、圧電基板13は上向きの撓み量が大きくなるので、周波数が高くなる。アクチュエータ22に逆向きの電圧を印加して前記上端部を下降させると、圧電基板13は上向きの撓み量がが減り又は下向きに撓み、周波数が低くなる。
【0040】
本実施例のSAWデバイス21は、圧電基板13とベース2との間に、上記各実施例のようにアクチュエータを配置するためのスペースを必要としないので、より低背化することができる。他方、圧電基板13の長さ方向端部4bが上下方向に変位可能な範囲は、上記各実施例よりも狭い。しかしながら、圧電基板13の薄板部13cを設けたIDT5形成領域は、応力が集中するので、アクチュエータ22への印加電圧の変化に対して、周波数を効率良く、より大きく変化させることができる。
【0041】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、上記実施例のSAWデバイスは一端子対共振子であるが、二端子対共振子や、IDTに対してSAW伝搬方向の両側に反射器を有する他の様々な構造のSAWデバイスについても、本発明を同様に適用することができる。また、SAW素子の圧電基板には、水晶以外に、リチウムタンタレート、リチウムナイオベート、四硼酸リチウム等の公知の様々な圧電材料を用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1,11…SAWデバイス、2…ベース、3,12…SAW素子、4,13…圧電基板、4a,4b…長さ方向端部、4c…裏面、5…IDT、5a,5b…交差指電極、6…反射器、7a,7b…電極パッド、8,10,23…接着剤、9,16,22…アクチュエータ、9a,16a,…自由端部、13a,13b…厚板部、13c…薄板部、14…凹部、15,17…突起部、15a,17a…傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板及び前記圧電基板の主面に形成されてSAWを励振するためのIDTを有するSAW素子と、前記SAW素子を前記圧電基板のSAW伝搬方向の一方の端部で固定しかつ他方の端部を該圧電基板の撓み方向に変位可能に浮かせて片持ちに支持するベースと、印加電圧に応じて長さ方向に変位可能な自由端部を有するアクチュエータとを備え、
前記アクチュエータの前記自由端部が、前記圧電基板の裏面に前記IDTよりも前記他方の端部側において前記アクチュエータの長さ方向に関して45°より小さい角度で摺接しつつ、前記圧電基板の前記他方の端部を前記撓み方向に変位させるように前記長さ方向に変位することを特徴とするSAWデバイス。
【請求項2】
前記圧電基板が、前記IDTを形成した領域にSAW伝搬方向に沿って少なくとも部分的に薄板部を有することを特徴とする請求項1記載のSAWデバイス。
【請求項3】
前記アクチュエータの前記自由端部を摺接させる前記圧電基板の裏面が、前記アクチュエータの前記自由端部と対向するように前記圧電基板の主面に対して傾斜していることを特徴とする請求項2記載のSAWデバイス。
【請求項4】
前記圧電基板が、その裏面が該圧電基板の主面に対して傾斜するように一体化した斜面部材を有することを特徴とする請求項3記載のSAWデバイス。
【請求項5】
前記圧電基板の裏面が、該圧電基板の主面に対して傾斜するように加工されていることを特徴とする請求項2記載のSAWデバイス。
【請求項6】
前記アクチュエータが前記自由端部を、前記圧電基板のSAW伝搬方向に前記一方の端部側から前記他方の端部側に向けて変位するように配置されることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか記載のSAWデバイス。
【請求項7】
前記アクチュエータが前記自由端部を、前記圧電基板のSAW伝搬方向に前記他方の端部側から前記一方の端部側に向けて変位させるように配置されることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか記載のSAWデバイス。
【請求項8】
前記圧電基板が水晶基板であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか記載のSAWデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−263431(P2010−263431A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112939(P2009−112939)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】