説明

微生物の検出方法

【課題】検体中に夾雑物等が含まれる場合であっても、検体中の対象微生物を迅速に検出する方法の提供。
【解決手段】増殖培地を用いた検体中の対象微生物検出方法であって、培養工程における検体中の検出阻害因子を低減し、当該対象微生物の増殖コロニーを検出することを特徴とする対象微生物検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の対象微生物検出方法及び当該検出方法を利用する検体の品質判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中の対象微生物の検出は、食品検査、臨床検査、環境検査など種々の分野の検査に利用されている。当該検出の方法としては、例えば、検体を一定時間、適当な寒天平板培地で培養して出現してきたコロニー数を検出・計測する方法、蛍光色素で微生物を特異的に染色してフローサイトメトリーや顕微鏡で検出・計測する方法、微生物数は直接カウントできないものの微生物の代謝産物から間接的にその存在を検出する方法などが知られている。
【0003】
当該検出方法のうち、死菌と生菌を判別して菌数を計測する方法としては、対象微生物を培養して検出する寒天平板法が有用とされている。当該寒天平板法は、食品衛生検査指針や微生物検査必携で微生物検出の公定法として広く用いられている。
しかしながら、この方法は、培養後に寒天平板上に出現してきたコロニーを検出することから、培地を濁らせるような夾雑物を含む検体の場合、コロニーと夾雑物の判別に時間を要すること、検出が不正確になること等の問題がある。具体的には、乳製品中の微生物の検出においては、乳蛋白質が存在することにより、微小コロニーと蛋白質顆粒の判別が困難で、寒天平板を長時間培養して夾雑物と区別できるまでコロニーが十分に大きくなってから判断しなければならず、培養時間は一般細菌で2日程度、真菌(カビ、酵母)で3〜7日必要であること、長時間培養したとしても、コロニーと夾雑物を正確かつ迅速に判別するには、高度な熟練技術が必要であること等の問題がある。
【0004】
かかる問題を解決するため、夾雑物の影響を低減する技術として、蛍光色素で微生物を特異的に染色してフローサイトメトリーや顕微鏡で検出・計測する方法が知られている(特許文献1及び2)。しかしながら、煩雑な操作が必要であること、検出コストが高価であること、検出感度が低いこと等の問題があり、寒天平板法に適用できるものではなく、医療現場や食品産業における日常検査等で実用的に利用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3406608号
【特許文献2】特許第4127846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明は、検体中に夾雑物等が含まれる場合であっても、検体中の対象微生物を迅速に検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、検体中に含まれる検出阻害因子を低減し、対象微生物の増殖コロニーを検出することにより、検体中の対象微生物を迅速に検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、増殖培地を用いた検体中の対象微生物検出方法であって、培養工程における検体中の検出阻害因子を低減し、当該対象微生物の増殖コロニーを検出することを特徴とする対象微生物検出方法を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、前記検出方法を利用することを特徴とする検体の品質判定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の検出方法によれば、検体中の対象微生物を迅速、高感度かつ簡便に検出することができる。従って、本発明の品質判定方法は、検体、特に飲食品中の汚染微生物の有無を極めて迅速かつ高感度に判定できるものであり、飲食品の品質判定をする際等において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】0.1%のプロテアーゼで乳製品を処理したときの濁度の経時変化を示すグラフである。
【図2】0.5%のプロテアーゼで乳製品を処理したときの濁度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、増殖培地を用いた検体中の対象微生物検出方法であって、培養工程における検体中の検出阻害因子を低減し、当該対象微生物の増殖コロニーを検出することを特徴とするものである。
【0013】
本発明において、検体としては、微生物を含有する可能性があるものであれば特に限定されないが、例えば、結膜ぬぐい液、歯石、歯垢、喀痰、咽頭ぬぐい液、唾液、鼻汁、肺胞洗浄液、胸水、胃液、胃洗浄液、尿、子宮頸管粘液、膣分泌物、皮膚病巣、糞便、血液、腹水、組織、髄液、関節液、患部ぬぐい液などの生体由来試料、乳製品などの飲食品、医薬品、化粧品、微生物培養液、植物、土壌、活性汚泥、排水等が挙げられ、飲食品が好ましく、乳製品が特に好ましい。ここで、乳製品としては、乳由来成分を含むものであれば特に限定されず、例えば、牛乳、加工乳、乳飲料、クリーム、発酵乳、乳酸菌飲料、練乳、濃縮乳、粉乳、バター、チーズ、アイスクリーム、バターミルク等が挙げられ、最終製品のみならず、カゼイン、ホエー蛋白質、乳ペプチド、ラクトフェリン等の乳由来原料、乳酸菌による培養物等の中間加工処理物等も含まれる。
【0014】
本発明において、対象微生物としては、特に限定されないが、例えば、アエロモナス(Aeromonas)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、イサチェンキア(Issatchenkia)属、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、エルシニア(Yersinia)属、エンテロコッカス(Enteroccocus)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、オエノコッカス(Oenococcus)属、ガードネレラ(Gardnerella)属、カンジダ(Candida)属、キャンピロバクター(Campylobacter)属、クラビスポラ(Clavispora)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、クリベロミセス(Kluyveromyces)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、クロストリジウム(Clostridium)属、サルモネラ(Salmonella)属、シトロバクター(Citrobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、セラチア(Serratia)属、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、テトラジェノコッカス(Tetragenococcus)属、
【0015】
デバリオミセス(Debaryomyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、ナイセリア(Neisseria)属、ノカルディア(Nocardia)属、パエニバチルス(Paenibacillus)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、バークホールデリア(Burkholderia)属、バチルス(Bacillus)属、ピキア(Pichia)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ビブリオ(Vibrio)属、フゾバクテリウム(Fusobacterium)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、プレボテラ(Prevotella)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、プロテウス(Proteus)属、ヘリコバクター(Helicobacter)属、ベイロネラ(Veillonella)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属、ヘモフィルス(Haemophilus)属、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属、モラキセラ(Moraxella)属、ユーバクテリウム(Eubacterium)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、リステリア(Listeria)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属、レジオネラ(Legionella)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ワイセラ(Weissella)属などの微生物が挙げられる。
【0016】
このうち、当該対象微生物を増殖させることができる増殖培地が確立されている点で、トルラスポラ・デルブルエキ(Torulaspora delbruekii)、トルラスポラ・グロボーサ(Torulaspora globosa)等のトルラスポラ属;クラビスポラ・ルシタニア(Clavispora lusitaniae)、クラビスポラ・オクンティア(Clavispora opuntiae)等のクラビスポラ属;ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ピキア・グイリエルモンディ(Pichia guilliermondii)等のピキア属;カンジダ・スパンドベンシス(Candida spandovensis)、カンジダ・ボイデニ(Candida boidinii)等のカンジダ属;デバリオミセス・ハンゼニ(Debaryomyces hansenii)、デバリオミセス・ロベルチエ(Debaryomyces robertsiae)等のデバリオミセス属;イサチェンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)、イサチェンキア・テリコラ(Issatchenkia terricola)等のイサチェンキア属;チゴサッカロミセス ハンゼニ(Zygosaccharomyces hansenii)、チゴサッカロミセス ロキシ(Zygosaccharomyces rouxii)等のチゴサッカロミセス属;ロドトルラ・ムシラジナーサ(Rhodotorula mucilaginosa)等のロドトルラ属;スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・アガラクティア(Staphylococcus agalactiae)等のスタフィロコッカス属;シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・アルカリジェネス(Pseudomonas alkaligenes)等のシュードモナス属;サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、サルモネラ・コレラスイス(Salmonella cholerasuis)等のサルモネラ属;クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)等のクロストリジウム属などの微生物が好ましく、トルラスポラ属、クラビスポラ属、ピキア属、カンジダ属、デバリオミセス属などの微生物がより好ましい。このうち、具体的には、トルラスポラ・デルブルエキ、クラビスポラ・ルシタニア、ピキア・アノマラ、ピキア・グイリエルモンディ、カンジダ・スパンドベンシス、カンジダ・ボイデニ、デバリオミセス・ハンゼニが好ましい。
【0017】
また、上記対象微生物のうち、検体の品質や性状に対して望ましくない作用を有する微生物(汚染微生物)に対しても、本発明の方法を好適に利用することができる。当該汚染微生物としては、例えば、検体が血液の場合は、スタフィロコッカス・アウレウス、シュードモナス・エルギノーザ等、検体が食肉類の場合はサルモネラ・エンテリカ、クロストリジウム・パーフリンジェンス等、検体が乳製品の場合は、大腸菌群、真菌(カビ、酵母)等が挙げられる。
【0018】
また、増殖培地としては、対象微生物を増殖させることができるものであれば特に限定されないが、対象微生物を特異的に増殖させることができるものが好ましい。対象微生物が、トルラスポラ属、クラビスポラ属、ピキア属、カンジダ属等の酵母やアスペルギルス・フラバス等のカビ等の場合は、YC培地、クロラムフェニコール添加YM培地、クロラムフェニコール添加ポテトデキストロース培地が好ましく、ビブリオ属の場合は、2%食塩コリスチンブイヨン培地が好ましく、スタフィロコッカス属の場合は、マンニット食塩培地が好ましく、エシェリキア・コリ等の大腸菌群の場合は、デソキシコーレイト培地が好ましく、ラクトバチルス・カゼイ等の乳酸菌の場合は、BCP培地が好ましく、ビフィドバクテリウム・ブレーベ等のビフィズス菌の場合は、TOSプロピオン酸培地が好ましい。
【0019】
本発明において、「検出阻害因子」とは、増殖培地を用いて検体中の対象微生物を培養し、増殖コロニーを検出する際、目視や顕微鏡による増殖コロニーの検出を物理的に阻害する因子をいう。検出阻害因子は、検体に元来含まれる因子であり、増殖コロニーの検出を物理的に阻害する因子であれば特に制限はないが、具体的には検体中に存在する蛋白質、脂質、多糖類、果汁・果皮・種子等の果実由来成分、体細胞等の生体由来成分等を含む夾雑物等が挙げられ、より具体的には、蛋白質、脂質、多糖類等が挙げられる。
【0020】
本発明において、「検出阻害因子の低減」としては、当該検出阻害因子の性質に応じて、当該検出阻害因子を低減できる公知の方法を適宜適用すればよく、例えば、ろ過、デカンテーション、遠心分離、酵素分解等が挙げられる。
具体的には、検出阻害因子が果実の種子等のある程度の大きさを有するものである場合は、ろ過、遠心分離等をするのが好ましく、検出阻害因子が、蛋白質、脂質、或いは多糖類等である場合は、これらの検出阻害因子分解酵素を検体に作用させるのが好ましい。当該酵素としては、具体的には、検出阻害因子が蛋白質である場合は、蛋白質分解酵素、検出阻害因子が脂質である場合は、リパーゼ、ホスホリパーゼ等の脂質分解酵素、検出阻害因子が多糖類である場合は、セルラーゼ、アミラーゼ等の多糖類分解酵素が好ましい。
【0021】
上記の蛋白質分解酵素としては、検体中の蛋白質の種類に応じて適宜選択すればよいが、対象微生物の増殖を阻害しない酵素が好ましい。蛋白質分解酵素の具体例としては、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、パパイン、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼ等が挙げられ、アルカリ性領域、中性領域又は酸性領域で反応至適pHを示すいずれの蛋白質分解酵素であってもよいが、中性領域で反応至適pHを示す蛋白質分解酵素が好ましい。
また、力価(U/g)とは、カゼインを基質とし、酵素の反応至適pH・温度において、1分間に1μmolのチロシンを遊離する活性をいい、当該蛋白質分解酵素の力価としては、増殖コロニーの検出の点で、90(U/g)以上が好ましく、1000(U/g)以上がより好ましい。
【0022】
上記検出阻害因子分解酵素は、溶媒に希釈して使用してもよく、当該溶媒としては、例えば、水、希薄塩溶液、一般的な緩衝液が挙げられる。当該緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MOPS緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液等が挙げられるが、検出阻害因子分解酵素が蛋白質分解酵素の場合は、トリス−塩酸緩衝液が好ましい。
なお、緩衝液のpHは2〜10が好ましく、検出阻害因子分解酵素が蛋白質分解酵素、検体が乳製品である場合は、中性付近のpHが好ましい。緩衝液の濃度は0.1〜10Mが好ましく、0.5〜2Mがより好ましい。
【0023】
検出阻害因子分解酵素の検体への作用は、検体中の検出阻害因子に検出阻害因子分解酵素が作用できれば特に限定されるものではない。当該検出阻害因子分解酵素の検体への作用は、培養工程の前、培養工程中、いずれにおいて行ってもよく、双方行なってもよい。
【0024】
検出阻害因子分解酵素の検体への作用が培養工程中である場合において、検出阻害因子分解酵素の検体への作用方法の具体例としては、検出阻害因子分解酵素を培養工程に添加すればよいが、培養工程の初期段階から検出阻害因子分解酵素を作用させることが好ましく、迅速に対象微生物の増殖コロニーを検出可能な点で、検体、増殖培地及び検出阻害因子分解酵素を混釈することがより好ましい。
ここで、混釈とは、培養工程前に、希釈しないか或いは適宜希釈した検体を、増殖培地及び検出阻害因子分解酵素と混合することをいい、増殖培地中の寒天が固化するまでを含む。なお、検体、増殖培地及び検出阻害因子分解酵素を同時に混合してもよく、予め検出阻害因子分解酵素を添加した増殖培地に検体を添加して混合してもよい。検出阻害因子分解酵素を培養工程に添加した後、pH調整等の煩雑な操作は必要なく、通常の培養工程を行なえばよい。
【0025】
また、検出阻害因子分解酵素の検体への作用が、培養工程の前である場合は、培養工程開始前の検体に検出阻害因子分解酵素を添加すればよい。
【0026】
また、検出阻害因子分解酵素の使用量は、検体に対し、0.001〜20容量%程度である。
検体が乳製品、対象微生物が酵母、検出阻害因子分解酵素が蛋白質分解酵素であり、検出阻害因子分解酵素の検体への作用を培養工程中に行う場合は、酵素の使用量は、0.001〜10容量%程度であり、0.01〜1容量%が好ましく、0.1〜1容量%がより好ましい。また、検出阻害因子分解酵素の検体への作用を培養工程の前に行う場合は、0.1〜1容量%程度であり、0.1〜0.5容量%が好ましい。
【0027】
処理温度、処理時間は、特に限定されるものではなく、検出阻害因子分解酵素の検体への作用を培養工程中に行う場合は、通常の培養工程で用いられる培養温度、培養時間を、そのまま検出阻害因子分解酵素の処理温度、処理時間とすればよい。また、検出阻害因子分解酵素の検体への作用を培養工程の前に行う場合は、例えば、25〜60℃、10分〜24時間等であり、好適な組み合わせとしては、酵素を0.1容量%使用する場合は、37℃、30分、酵素を0.3容量%使用する場合は、37℃、25分、酵素を0.5容量%使用する場合は、37℃、20分が挙げられ、特に酵素0.1容量%、37℃、30分処理が好ましい。
【0028】
また、上記検体としては、濃縮処理をしたものを用いてもよく、濃縮処理の手段としては遠心分離、ろ過等の公知の方法を適用すればよい。
特に、培養工程の前に検出阻害因子分解酵素を作用させて検出阻害因子を低減させた検体に濃縮処理を施すことにより、より多くの検体量を反映した対象微生物の検出が可能となる。
検出阻害因子分解酵素が蛋白質分解酵素、検体が乳製品、対象微生物が酵母である場合、遠心分離の条件としては500〜3000×g、5〜30分が好ましく、1000〜2000×g 、10〜15分がより好ましい。遠心分離後の沈殿物(濃縮検体)をそのまま、あるいは適宜、水や一般的な緩衝液に懸濁して増殖培地に添加して、対象微生物の増殖コロニーの検出をすればよい。
【0029】
ろ過としてはフィルターろ過が好適に用いられ、対象微生物を通過させず、検体による目詰まりを起こさない程度のポアサイズを有するフィルターを適宜選択することが好ましい。フィルターの種類としては混合セルロース製、ポリカーボネート製などが挙げられるが、目的に合わせてどちらを使用してもよい。検出阻害因子分解酵素が蛋白質分解酵素、検体が乳製品、対象微生物が酵母である場合、フィルター処理の条件としてはポアサイズ0.22〜0.8μmが好ましく、特に0.8μmが好ましい。フィルターろ過して濃縮した検体(ろ過後フィルター)をそのまま増殖培地上に載せて、対象微生物の増殖コロニーの検出をすればよい。
【0030】
また、微生物の「検出」とは、検体中に対象微生物が存在することを確認すること又は検体中に対象微生物が存在しないことを確認することをいい、検体中の対象微生物の同定、定量を含む。
【0031】
対象微生物の増殖コロニーの検出は、目視あるいは市販の実体顕微鏡やディジタル光学顕微鏡の使用により行えばよいが、微小なコロニーの検出が容易になること点で、ディジタル光学顕微鏡の使用が好ましい。本発明の方法を適用することで、従来の寒天平板培養法では検出までに長時間を要していた対象微生物の検出をより短時間で行なうことができる。例えば、対象微生物が酵母の場合、クラビスポラ・ルシタニアは培養工程開始から16時間、ピキア・アノマラは18時間、カンジダ・ボイデニは18時間、トルラスポラ・デルブルエキは20時間等で、大部分の酵母は20時間以内に検出が終了できる。また、従来の寒天平板培養法の培養時間が比較的短い微生物(一般細菌、大腸菌群)の場合でも、増殖コロニーの検出までの時間を短縮することができる。対象微生物によって異なるが、本発明の方法により、従来の寒天平板培養法で増殖コロニーの検出までに要していた時間を、半分以下に短縮することが可能となる。
【0032】
また、本発明の方法は、従来の寒天平板培養法と比較して対象微生物を高感度に検出でき、検体1mL当たりの対象微生物が1個未満でも検出可能である。例えば、対象微生物が酵母の場合、従来の寒天平板培養法では検体1mL当たりの対象微生物が1個以上で検出可能であったが、本発明の方法では検体1mL当たりの対象微生物が1個未満、さらに検体10mL当たりの対象微生物が1個未満、さらに検体65mL当たりの対象微生物が1個未満でも検出可能であり、また、製品に限らず発酵タンクにおける汚染菌の検出も可能であり、従来の寒天平板培養法と比較して格段に優れた検出感度を有する。
【0033】
本発明の方法は、従来の寒天平板培養法と比較して、検体中の対象微生物を迅速、高感度に検出することができるため、検体、特に飲食品の品質判定方法として好適に利用できる。本発明の方法を利用することで、飲食品中の汚染微生物の有無やその個数を極めて迅速かつ高感度に判定できるため、例えば、飲食品の製造後、短時間で品質判定を実施することができ、飲食品の品質判定において有用である。また、飲食品が乳製品、汚染微生物が酵母である場合、本発明の方法で24時間以内に検出できない酵母がまれに存在する。詳細な理由は不明であるが、本発明の方法で24時間以内に検出できない酵母は、保存中の乳製品中で増殖しないことが明らかとなっているため、乳製品の品質に影響を及ぼす可能性のある酵母は全て24時間以内に検出可能となり、乳製品の品質判定に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0035】
実施例1 蛋白質分解酵素処理が乳製品中の酵母の検出に及ぼす影響
トルラスポラ・デルブルエキを26℃、24時間、YM斜面培地(1Lあたりの組成:酵母エキス3g、麦芽エキス3g、ペプトン5g、ブドウ糖10g、寒天20g)を用いて培養後、その菌体の1白金耳分をYM液体培地に接種して26℃、24時間、ロータリーシェイカー(20rpm、タイテック社 ROTOR RT50)を用いて培養した。
この培養菌液を0.85%NaClを用いて希釈し、表1のa〜hの条件で、YC寒天平板(1Lあたりの組成:酵母エキス10g、ブドウ糖10g、クロラムフェニコール0.1g、寒天20g)に塗布もしくは混釈した。試験試料として、酵母のコロニー検出の障害となる果皮や乳蛋白質を含む市販の発酵乳製品であるジョアブルーベリー(無脂乳固形分8.2%、乳脂肪分0.1%、ヤクルト本社製)を用いた。プロテアーゼ処理は、ジョアブルーベリーに0.45μmのポアサイズのフィルターでろ過除菌したプロテアーゼN(天野エンザイム社製、1381U/g、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で溶解、表4参照)を0.1%となるように無菌的に添加し、37℃、30分保温して行った(表1:条件e及び条件f)。あるいは、混釈する検体に対して0.1%(表1:条件g)、1%(表1:条件h)となるようにプロテアーゼNをYC寒天平板に添加してから検体を混釈して、28℃で保温することにより、培養とプロテアーゼ処理を並行して行う方法も実施した。
次に、上記した実施例1の作動を説明する。
【0036】
【表1】

【0037】
条件a〜hで検体をプレーティングしたYC寒天平板を、市販のディジタル顕微鏡装置(マイクロバイオ社製)を用いて28℃で培養し、酵母の検出時間を比較した。表2に各条件における酵母の検出開始時間、検出終了時間および検出終了時の菌数を示した。検出開始時間は、酵母のコロニーが検出され始めた時間で、検出終了時間は、出現コロニーのカウントを完了した時間である。
ジョアブルーベリーを混釈培養した場合、トルラスポラ・デルブルエキの純粋培養菌株を表面塗抹培養した場合(条件a)に比べコロニーの検出時間は、プロテアーゼ処理を行わない従来法(条件c、d)では、検出開始で2〜3時間(約20%)、検出終了時間で7〜8時間(約40%)遅延し、検出終了に24時間以上(26.7時間〜27.7時間)を要した。しかし、培養前(条件e、f)或いは培養中(条件g、h)にプロテアーゼ処理を行うことで混釈培地の透明度が高まり、ジョアブルーベリー中のトルラスポラ・デルブルエキは、純培養菌液を表面塗抹した場合と同様の20時間程度で検出を終了することが可能となった。また、ろ過工程はコロニー検出の障害となる大きな夾雑物を除くのに有効であり、この工程が酵母の検出に悪影響を与えることはなく、検出菌数は、すべての処理条件でほぼ同じであった。
【0038】
【表2】

【0039】
以上、トルラスポラ・デルブルエキについて検討結果を例示したが、さらに18属77種83株の酵母について、同様に検討したところ、クラビスポラ・ルシタニアは16時間、ピキア・アノマラは18時間、カンジダ・ボイデニは18時間等で、大部分の酵母は20時間以内に検出が終了した。しかし、少数ながら24時間以内に検出されない菌株も確認された。
【0040】
そこで、24時間以内に検出されなかった酵母6菌株について、乳製品中での消長を確認した。乳製品には市販のヤクルト(無脂乳固形分3.1%、乳脂肪分0.1%、ヤクルト本社製)を使用した。各酵母がヤクルト65mLあたり10cfu程度となるように添加し、10℃14日間保存した際の酵母菌数変化を確認した。その結果、表3に示したようにディジタル顕微鏡で24時間以内に検出されない酵母は、乳製品(ヤクルト)中でも増殖は認められなかった。以上から、検出に24時間以上を要する酵母は、製品中でも増殖せず、乳製品の品質には影響を及ぼさないものと考えられる。
【0041】
【表3】

【0042】
実施例2 蛋白質分解酵素の処理条件の検討
ヤクルト3.3mLに対し、表4に示したアロアーゼNP−10(ヤクルト薬品工業)、パンチダーゼMP(ヤクルト薬品工業)、ニューラーゼF3G(天野エンザイム)、プロテアーゼM(天野エンザイム)、プロテアーゼA(天野エンザイム)、プロテアーゼN(天野エンザイム)、プロテアーゼP(天野エンザイム)、あるいはプロテアーゼP7026(シグマ)を0.1あるいは0.5%添加して、37℃で保温し、クレット値(濁度)の変化から可溶化の進行を測定した。酸性プロテアーゼは水に、中性プロテアーゼは1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解し、0.45μmポアサイズのフィルターでろ過除菌して用いた。
【0043】
【表4】

【0044】
1)カタログ値
2)カゼインを基質とし、pH7〜8、50〜55℃、1分間に1μgのチロシンを遊離する活性を1Uとする。
3)カゼインを基質とし、pH7.0、45〜50℃、1分間に1μgのチロシンを遊離する活性を1Uとする。
4)カゼインを基質とし、pH3.0、37℃、60分間に100μgのチロシンを遊離する活性を1Uとする。
5)カゼインを基質とし、pH7.0、37℃、60分間に100μgのチロシンを遊離する活性を1Uとする。
6)カゼインを基質とし、pH7.5、37℃、1分間に1μmol(181μg)のチロシンを遊離する活性を1Uとする。
7)本発明の力価への換算値(カゼインを基質とし、酵素の反応至適pH・温度において、1分間に1μmolのチロシンを遊離する活性)
【0045】
その結果、図1、図2に示したように平板寒天培地におけるコロニー検出の障害となる蛋白質の白濁は大幅に低減された。特に中性領域で反応至適pHを示すプロテアーゼが良好で、0.5%添加、20分の処理で十分可溶化した。特にプロテアーゼNが良好であった。
104cfuの酵母を添加し、プロテアーゼP7026あるいはプロテアーゼNを0.5%となるように添加し、それぞれ37℃で60分処理した。結果を表5に例示するが、プロテアーゼ処理を行っても酵母の菌数に影響を与えないことが確認された。
【0046】
【表5】

【0047】
実施例3 濃縮処理検体からの酵母の検出
ピキア・グイリエルモンディ Y 50938を 156cfu添加したヤクルト65mLに、検体に対して0.1%となるようにプロテアーゼN溶液(1Mトリス緩衝液(pH8.0)に溶解後、0.45μmのフィルターろ過したもの)を加え、37℃、30分処理した。1,100 ×g、10分間、遠心分離後、上清を除去し、沈殿を0.1mLの生理食塩水で懸濁し、0.01%クロラムフェニコールを含むYM寒天平板に塗布し、培養後のコロニーをカウントした。その結果、94%の高い回収率で酵母が検出された(表6)。
【0048】
【表6】

【0049】
ピキア・グイリエルモンディ Y 50938を23cfu添加したヤクルト30mLに、検体に対して0.3%となるようにプロテアーゼP7026溶液(1Mトリス緩衝液(pH8.0)に溶解後、0.45μmのフィルターろ過したもの)を加え、37℃、30分処理した。処理後の溶液を滅菌済み混合セルロースフィルター(ADVANTEC製、ポアサイズ0.8μm)でろ過した。ろ過後のフィルターを0.01%クロラムフェニコールを含むYM寒天平板にのせ、培養後のフィルター上のコロニーをカウントした。その結果、100%の高い回収率で酵母が検出された(表7)。
【0050】
【表7】

【0051】
本発明は、増殖培地を用いた寒天平板培養法において、検出阻害因子を低減し、対象微生物の増殖コロニーを検出するものであるため、新たな設備等を要せず簡便に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖培地を用いた検体中の対象微生物検出方法であって、培養工程における検体中の検出阻害因子を低減し、当該対象微生物の増殖コロニーを検出することを特徴とする対象微生物検出方法。
【請求項2】
検出阻害因子の低減が、検出阻害因子分解酵素を検体に作用させるものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
検出阻害因子分解酵素の検体への作用が、検体、増殖培地及び検出阻害因子分解酵素を混釈して行なうものである請求項2記載の方法。
【請求項4】
検出阻害因子が蛋白質であり、検出阻害因子分解酵素が蛋白質分解酵素である請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
蛋白質分解酵素が、90(U/g)以上の力価を有するものである請求項4記載の方法。
【請求項6】
対象微生物が酵母である請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の方法を利用することを特徴とする検体の品質判定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−200668(P2010−200668A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49193(P2009−49193)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】