説明

微粉炭生成方法及びフライアッシュ判定方法。

【課題】 フライアッシュに外部からの添加物を混合することなく、製造コストを抑えた簡便な方法により、フライアッシュの凝集固結を抑制することで、居着きを抑制できる耐凝集固結フライアッシュを提供する。
【解決手段】 耐凝集固結フライアッシュは、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、フライアッシュに対して、質量基準で3.5%以上の濃度の範囲で作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰であるフライアッシュに関し、特に、吸湿による凝集固結に対する耐性を向上させた耐凝集固結フライアッシュ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュ(FA)は、主に、石炭火力発電所で、微粉砕した石炭をボイラ内で燃焼させることにより生じる石炭灰である。フライアッシュは、混合させた各種の物質の性質を改善することから、セメント原料及びボード等の混和材などの多くの分野で幅広く利用されている。
また、フライアッシュは、循環型社会実現の観点から、再生資源として利用促進する社会的な要請があり、フライアッシュが活用される機会は、量質ともにさらに増している。
【0003】
このようなフライアッシュの輸送手段としては、船舶による海上輸送及びトラック(ジェットパック(登録商標)車)による陸上輸送がある。特に、主要な輸送手段である船舶輸送中に、フライアッシュが凝集固結した場合には、搬出不良事故(以下、居着きという)が発生することがある。
【0004】
居着きは、フライアッシュが吸湿することにより、その表面が溶出し、フライアッシュの粉末同士が結合することが原因と考えられている。さらに詳細には、フライアッシュの居着きの原因は、フライアッシュ表面の可溶性カルシウムと亜硫酸イオンの吸湿による二水石膏生成による粒子架橋であることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0005】
居着きが発生した場合には、多大な滞船料及び処理費用が必要となることから、運搬コストが増大してしまうために問題化している。
このような問題があるため、従来のフライアッシュの吸湿による凝集固結の防止方法としては、フライアッシュに、セメントの水和硬化反応に害を及ぼさず、且つ吸い取り紙効果を有する非水溶性の無機質微粉末を、0.1〜10重量%添加混合する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000―53456号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】太平洋セメント研究報告 第151号 石炭灰固結生成メカニズムの解明
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のフライアッシュの吸湿による凝集固結の防止方法は、一旦生成されたフライアッシュに、外部から添加物を混合することから、作業工程が増えるとともに添加物の費用も追加で必要なこととなり、結果的に製造コストが増大するという課題がある。
【0009】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、フライアッシュに外部からの添加物を混合することなく、製造コストを抑えた簡便な方法により、フライアッシュの凝集固結を抑制することで、居着きを抑制できる耐凝集固結フライアッシュ、耐凝集固結フライ
アッシュ判定方法及び耐凝集固結フライアッシュ混合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)を所定の割合で調合し、さらには、フライアッシュに含まれる酸化鉄(Fe)を所定の割合で調合させることにより、フライアッシュの凝集固結が顕著に抑制されることを見出し、本発明を導き出した。
【0011】
すなわち、本発明は、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、フライアッシュに対して、質量基準で3.5%以上の濃度を有するように含有成分が異なる複数種類の石炭を混炭して微粉炭を生成することを特徴とするものである。さらに、本発明は、フライアッシュに含まれる酸化鉄(Fe)の前記酸化カルシウム(CaO)に対する質量比(Fe/CaO)が、2以下となるように含有成分が異なる複数種類の石炭を混炭して微粉炭を生成する。
【0012】
また、本発明の耐凝集固結フライアッシュを判定する耐凝集固結フライアッシュ判定方法は、所定の炭種のフライアッシュを純水で攪拌されたフライアッシュ水溶液であって、質量比がフライアッシュ1に対して純水10であるフライアッシュ水溶液が、pH12より大きい場合に、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、フライアッシュに対して、質量基準で3.5%以上の濃度を有し、フライアッシュに含まれる酸化鉄(Fe)の前記酸化カルシウム(CaO)に対する質量比(Fe/CaO)が2以下であると判定するものである。このように、本発明の耐凝集固結フライアッシュ判定方法は、フライアッシュ水溶液がpH12より大きいか否かで耐凝集固結フライアッシュと判定することから、フライアッシュ水溶液のpHのみで、耐凝集固結を有するフライアッシュを判定できることとなり、耐凝集固結を有するか否かの指標を簡易化することにより、作業効率を高めることができる。
【0013】
また、本発明の耐凝集固結フライアッシュを混合する耐凝集固結フライアッシュ混合方法は、フライアッシュが複数の場合を対象として、各々のフライアッシュ水溶液のpHを検出し、各フライアッシュのpHに基づいて、各炭種の配合比率を決定するものである。
【0014】
このように、本発明の耐凝集固結フライアッシュ混合方法は、各々のフライアッシュ水溶液のpHを検出し、各フライアッシュのpHに基づいて、各炭種の配合比率を決定することから、フライアッシュ水溶液のpHのみに基づいて、複数の炭種を混合して耐凝集固結を有するフライアッシュを作成できることとなり、耐凝集固結を有するフライアッシュを、外部から添加物を添加すること無く、容易に作成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフライアッシュは、耐凝集固結の特性に優れることから、居着きの抑制が必要とされる場面で、広く利用されることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの恒湿PSIの測定結果を示すプロット図を示す。
【図2】本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの恒湿PSIの測定結果を一部抽出した表を示す。
【図3】本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの中の酸化カルシウム濃度を示すグラフを示す。
【図4】本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの中の酸化鉄濃度を示すグラフを示す。
【図5】本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの炭種の配合割合とその特性を示す。
【図6】本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの水溶液pHとの相関図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の耐凝集固結フライアッシュは、火力発電所などで微粉炭を燃焼する際に副生されるガラス質で5〜250μm程度の球状に近い粒子で、円相当径の平均としては、10μm程度であり、主に、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、酸化鉄が含まれる。
【0018】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、フライアッシュに含まれる酸化カルシウムを所定の割合とすることにより、凝集固結に対する耐性が高まることを見出して、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明に従えば、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、フライアッシュに対して、質量基準で3.5%以上の割合とする。本発明のこの酸化カルシウムの割合により、酸化カルシウムの乾燥作用を有効化させることとなり、凝集固結に対する耐性を高めることができる。また、フライアッシュに含まれる酸化鉄(Fe)は、好ましくは、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)に対する質量比(Fe/CaO)を、2以下とするものである。この質量比により、酸化鉄が酸化カルシウムの吸湿を阻害する作用を効果的に抑えることとなり、酸化カルシウムの乾燥作用を強める(保つ)ことができる。
【0020】
(恒湿PSI指標を用いた確認試験)
本発明のフライアッシュの凝集固結に対する耐性を調べるため、フライアッシュの居着きの可能性を表す指標として、フライアッシュの恒湿PSI(Pack Set Index)を測定した結果を、図1及び図2に基づいて説明する。図1は、本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの恒湿PSIの測定結果を示すプロット図であり、図2は、本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの恒湿PSIの測定結果を一部抽出した表である。
恒湿PSI(Pack Set Index)とは、灰固着性指標とも呼ばれ、居着きを模擬した指標として広く使用されている。次の手順で恒湿PSIを計測した。
【0021】
1.石炭灰を、相対湿度66%、温度32℃の恒温恒湿槽で18時間放置し、十分に吸湿させた。
2.三角フラスコに石炭灰を入れ、最大20秒まで振動させ、締め固めた。
3.次に、底部に固着した石炭灰の入った三角フラスコを横向きに戴置し、回転させた。
4.固着した石炭灰が崩壊した回数を、恒湿PSIとして計測した。
【0022】
図1(a)から、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、フライアッシュに対して、質量基準で3.5%以上の割合の場合には、恒湿PSIは、10以下を示した。恒湿PSI値は、50以下の場合には居着きの可能性が低いとみなされることから、本発明のフライアッシュは、居着きの可能性が極めて低いことが示された。
【0023】
また、同図(b)から、フライアッシュに含まれる酸化鉄(Fe)は、好ましくは、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)に対する質量比(Fe/CaO)が2以下の場合には、恒湿PSIは、大部分が10以下を示した。上記と同様に、恒湿PSI値は、50以下の場合には居着きの可能性が低いとみなされることから、本発明のフライアッシュは、居着きの可能性が極めて低いことが示された。
【0024】
また、同図中の測定結果Aは、恒湿PSI値が100であることから居着きの可能性が高いことを示している。この測定結果Aは、図2におけるフライアッシュAであり、フライアッシュA中の酸化カルシウムが質量基準で3.33%であり、3.5%に達していなかった。このように、フライアッシュにおいて、フライアッシュに含まれる酸化鉄の酸化カルシウムに対する質量比(Fe/CaO)が2以下の条件と、フライアッシュが質量基準で3.5%以上の酸化カルシウムを含有する条件とが、相乗作用により、居着きを抑制する作用が強められると考えられる。
【0025】
また、本発明者らは、図3及び図4に示すように、プラントA及びプラントBにおいて、燃焼前の微粉炭に含まれるカルシウム量及び鉄量と、燃焼後のフライアッシュ中のカルシウム濃度及び鉄濃度との関係を調査した。図3は、本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの中の酸化カルシウム濃度を示すグラフであり、図4は、本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの中の酸化鉄濃度を示すグラフである。
【0026】
図3に示すように、フライアッシュ(石炭灰)中の酸化カルシウム濃度と、石炭中のカルシウム濃度とは、燃焼前の微粉炭中のカルシウムが多い場合には、フライアッシュ中のカルシウムも多くなるとの正の相関関係を有していた。また、図4に示すように、フライアッシュ(石炭灰)中の酸化鉄濃度と、石炭中の鉄濃度は、燃焼前の微粉炭中の鉄が多い場合には、フライアッシュ中の鉄も多くなるとの正の相関関係を有していた。
【0027】
このことから、本発明者らは、プラントA及びプラントBの両プラント共に、微粉炭中のカルシウム及び鉄が多い場合には、フライアッシュ中のカルシウム及び鉄も多くなるとの正の相関関係を見出した。
【0028】
従って、排出されるフライアッシュ中の酸化カルシウム濃度及び酸化鉄濃度は、石炭を燃焼させる前に、石炭中のカルシウム濃度及び鉄濃度を混炭して調整することにより制御することが可能となる。
【0029】
石炭の燃焼後に成分調整するという従来から提案されている方法では、石炭の燃焼後に生成されるフライアッシュの規模が大きいことから、成分調整の精度が低いことのみならず実施が困難であったが、本発明では、燃焼前に成分調整するという手法を新たに用いることで、フライアッシュの成分を容易かつ高精度に調整することができる。
【0030】
また、本発明の耐凝集固結フライアッシュは、前記酸化カルシウム(CaO)の含有比率が異なる複数の炭種のフライアッシュと、前記酸化鉄(Fe)の含有比率が異なる複数の炭種のフライアッシュとを組み合わせて生成することができる。
【0031】
この生成により、本発明の耐凝集固結フライアッシュは、炭種を組み合わせることのみで、炭種に含まれる成分が調整されることから、上述した従来技術のように耐凝集固結の作用を有する添加物を外部から混合することが不要なこととなり、混合プロセスを簡易化するとともにコストを削減することができる。
図5は、本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの炭種の配合割合とその特性を示す。
【0032】
この生成に関しては、例えば、図5に示すように、項番1の炭種が、炭種aを60%、炭種bを40%組み合せて配合させることで生成されたもので、燃焼前の酸化カルシウム濃度が3.33%、酸化鉄濃度が5.29%である炭種であることが示される。このように、異なる複数の炭種のフライアッシュとを組み合わせてフライアッシュを生成することで、酸化カルシウム濃度及び酸化鉄濃度を容易且つ高精度に制御することができ、居着きを防止するフライアッシュを、外部から添加剤を添加することなく、組み合わせて配合させるのみで作成することができる。
【0033】
また、本発明は、フライアッシュを純水で攪拌されたフライアッシュ水溶液を、当該水溶液のpHに基づいて、本発明の耐凝集固結フライアッシュと判定する耐凝集固結フライアッシュ判定方法を提供する。
【0034】
図6は、本発明に係る耐凝集固結フライアッシュの水溶液pHとの相関図を示す。
図6に示すように、フライアッシュ1に純水10を加えて6時間攪拌した場合のフライアッシュ水溶液のpHが12より大きい場合には、フライアッシュ中の酸化鉄および酸化カルシウムの質量比(Fe2O3/CaO)は、2以下を示す。さらに、当該水溶液は、フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、フライアッシュに対して、質量比で3.5%以上を示す。
【0035】
このことから、本発明者らは、フライアッシュを純水で攪拌されたフライアッシュ水溶液であって、質量比がフライアッシュ1に対して純水10であるフライアッシュ水溶液が、pH12より大きい場合に、本発明の耐凝集固結フライアッシュと判定することを見出した。
【0036】
さらに、本発明は、耐凝集固結フライアッシュ混合方法として、この耐凝集固結フライアッシュ判定方法を利用して、各々のフライアッシュ水溶液のpHを検出し、各フライアッシュのpHに基づいて、各炭種の配合比率を決定することができる。
【0037】
例えば、図5に示すように、項番11の炭種gは、その水溶液pHが5.6であり、水溶液pHが12に達していないことから、上記の耐凝集固結フライアッシュ判定方法に従い、本発明の耐凝集固結フライアッシュに達していないと判定することができる。
【0038】
そこで、項番4の炭種aの水溶液pHが12.8を示していることから、この炭種aと炭種gとを、各水溶液pHに基づいて組み合わせ、本発明の耐凝集固結フライアッシュとすることができる。例えば、項番10に示すように、この炭種aを60%、この炭種gを40%配合することで、水溶液pHが12より大きい本発明の耐凝集固結フライアッシュとして、水溶液pHが12.7となるフライアッシュが得られる。
【0039】
このように、フライアッシュ水溶液のpHのみに基づいて、複数の炭種を混合して耐凝集固結を有するフライアッシュを作成できることとなり、耐凝集固結を有するフライアッシュを、外部から添加物を添加すること無く、水溶液pHのみを指標として容易に作成することができる。このように、居着きやすいフライアッシュと居着きにくいフライアッシュとを混合することで、居着きを解消することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有成分が異なる複数種類の石炭を混炭して微粉炭を生成する微粉炭生成方法であって、
前記石炭に含まれるカルシウム(Ca)濃度及び鉄(Fe)濃度に基づいて、前記微粉炭の燃焼後に副生されるフライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、前記フライアッシュに対して質量基準で3.5%以上の濃度を有し、且つ、前記フライアッシュに含まれる酸化鉄(Fe)の前記酸化カルシウムに対する質量比(Fe/CaO)が2以下となるように複数種類の前記石炭を混炭して前記微粉炭を生成することを特徴とする微粉炭生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微粉炭生成方法により生成された微粉炭を燃焼して副生されたフライアッシュが所定の条件を満たすかどうかを判定するフライアッシュ判定方法であって、
質量比が前記フライアッシュ1に対して純水10であるフライアッシュ水溶液が、pH12より大きい場合に、前記フライアッシュに含まれる酸化カルシウム(CaO)が、前記フライアッシュに対して質量基準で3.5%以上の濃度を有し、且つ、前記フライアッシュに含まれる酸化鉄(Fe)の前記酸化カルシウムに対する質量比(Fe/CaO)が2以下であるという条件を満たすと判定することを特徴とするフライアッシュ判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126913(P2012−126913A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−39814(P2012−39814)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【分割の表示】特願2010−6042(P2010−6042)の分割
【原出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】