説明

微粒子製造装置及び微粒子製造方法

【課題】エネルギー効率が良く、粒子の劣化や粒子径の変化が生じにくい微粒子の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】加圧部2の作動により、流路部材3の微小流路に間欠的に圧送される原料液L中の粒子は、流路部材3を通過する際に発生する流体エネルギーにより粉砕されて微粒化される。同時に、原料液Lは流路部材3を通過する際の粘性発熱により、温度が上昇する。流路部材3を通過した原料液Lは、管路を通って真空乾燥室4に導入され、真空乾燥室4内で液分が蒸発して微粒子が分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、農薬、食品、電池材料等に用いられる粒子径の小さな微粒子、例えばナノレベルの粒子径を有する微粒子の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば薬物粒子の微粒化は溶出性の改善とバイオアベイラビリティの改善に寄与するが、特に難溶性薬物については溶出性改善の点から微粒化の要請が強い。
【0003】
微粒子を製造する手段として、乾式粉砕法、湿式粉砕法、エアージェット粉砕法が知られているが、近時では流体エネルギーを利用した微粒子製造技術が実用化されている。例えば、下記の特許文献1〜3には、微小流路を有する流路部材を原料液が通過する際の流体エネルギーにより、原料液中に分散した粒子を粉砕し、あるいは、原料液中に溶解した結晶粒子を析出させて、微粒子を製造する技術が記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献4には、被結晶物質を溶剤中に溶解させ、該原液を直管状の加熱管に供給して蒸発乾燥させた後、蒸気と共に固気分離室内に噴出させることにより、結晶物質を析出させて微粒子化する技術が記載されている。
【0005】
また、下記の特許文献5には、噴霧乾燥室内に固体粒子分散溶液を噴霧して乾燥させることにより、固体粒子が凝集した粉体を得る技術(噴霧乾燥、噴霧造粒)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6159442号明細書
【特許文献2】米国特許第6221332号明細書
【特許文献3】国際公開公報WO2009/132171号
【特許文献4】特開平4−161201号公報
【特許文献5】特開2004−82005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載された技術によれば、微粒子を効率良く連続的に製造することが可能である。一方、特許文献1〜3に記載された技術では、微粒子を含む原料液(懸濁液)が流路部材から排出されるので、微粒子を粉末形態にする場合、原料液から液分を分離して微粒子を取り出す必要がある。微粒子の取り出しは、例えば特許文献5に記載されている噴霧乾燥機や、流動層乾燥機を用いて行うことができるが、微粒子を含む原料液を生成し冷却した後、噴霧乾燥機や流動層乾燥機に導入して乾燥温度まで加熱するので、エネルギー効率が良くないという問題がある。
【0008】
また、粉砕又は晶析により生成された微粒子を含む原料液は、その後に加熱や冷却をできるだけ行わないようにすることが、粒子径や分散安定性の点で好ましい。例えば、結晶性薬物を含む原料液では、加熱/冷却によって溶解と析出が起こり、粒子径の変化(粒子径の増大)が生じる。
【0009】
この点、特許文献4に記載された技術は、被結晶物質を溶解させた溶剤原液を直管状の加熱管に供給し、加熱管内で溶剤原液の蒸発を進行させて固気分離室内に噴出させる構成であるため、加熱管での局所的な管壁部の過熱により、管路スケーリングや結晶析出が起こり、粒子の劣化や粒子径の変化が生じ易いという問題がある。
【0010】
本発明の課題は、エネルギー効率が良く、粒子の劣化や粒子径の変化が生じにくい微粒子の製造装置及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、直径が50〜300μmの微小流路を有する流路部材と、粒子を分散又は溶解させた原料液を加圧して流路部材に圧送する加圧部と、流路部材を通過した原料液を導入して乾燥させる真空乾燥室とを備えた微粒子製造装置を提供する。
【0012】
本発明における流路部材では、例えば次のような態様の処理が行われる。第1の態様では、粒子を分散させた原料液が加圧部で加圧されて流路部材に圧送される。そして、原料液が流路部材の微小流路を通過する際の流速増大に起因して発生する流体エネルギー(剪断エネルギーや衝撃エネルギー等)により原料液中の粒子が粉砕されて粒子径が低減される。第2の形態では、粒子を良溶媒に溶解させた第1溶液と、貧溶媒からなる第2溶液とが流路部材の上流側で合流され、この合流液からなる原料液が加圧部で加圧されて流路部材に圧送される。そして、原料液が流路部材の微小流路を通過する際の流速増大に起因して発生する流体エネルギー(剪断エネルギーや衝撃エネルギー等)により原料液が混合されて微小結晶粒子が析出する(多くの場合、析出粒子の全部又は一部は流体エネルギーにより粉砕されて粒子径が低減される)。また、本発明において、原料液は流路部材を通過する際の粘性発熱(原料液と流路壁面との間の摩擦、粒子同士の接触による摩擦等に起因する)により、温度が上昇する。
【0013】
上記のようにして、微粒子を含みかつ温度が高められた状態で流路部材から流出した原料液は、冷却されることなく、真空乾燥室に導入され、真空乾燥室内の負圧による急激な圧力降下と沸点の低下により液分が蒸発して、微粒子が分離される。流路部材を通過する際に生じた原料液の温度上昇の熱量を真空乾燥室での乾燥に有効利用できるので、エネルギーの無駄を省くことができる。また、流路部材から流出した原料液の冷却、再加熱を行わないので、粒子の劣化や粒子径の変化が生じにくく、粒度分布がシャープで安定した品質の粉末状の微粒子を収率よく製造することができる。
【0014】
例えば、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)といった高沸点・低蒸気圧の溶液中に分散した粒子を分離する場合、流路部材を通過する際の温度上昇だけでは、真空乾燥室での乾燥が不十分になり場合がある。このような場合、流路部材よりも上流側に予備加熱部を配置し、流路部材よりも上流側の部位で原料液を加熱する構成とするのが好ましい。これにより、高沸点・低蒸気圧の溶液中に分散した粒子を分離する場合でも、流路部材を通過した後の原料液を加熱することなく真空乾燥室に導入して、真空乾燥室内で十分に乾燥させることが可能となる。
【0015】
上記構成において、流路部材を通過した原料液の減圧速度(kpa/s)を調整して真空乾燥室に導入する減圧速度調整手段を設けても良い。流路部材を通過した原料液は、真空乾燥室に至る管路内を通過する際の管路抵抗等により、真空乾燥室に近づく従って圧力が低下する。そして、原料液の圧力が原料液の飽和蒸気圧と同じかそれ以下になると、原料液の沸騰が起こる。従って、原料液の減圧速度を減圧速度調整手段で調整することにより、上記管路内での原料液の沸騰状態をコントロールすることができる。例えば、上記管路内を通過する原料液が所定位置、例えば真空乾燥室への導入口に近い位置で沸騰するように減圧速度を調整することにより、原料液を気層流又は気液混層流の状態で加速して真空乾燥室内に噴出させることができ、これにより、原料液を真空乾燥室でより効果的に乾燥させることができる。
【0016】
また、本発明は、上記課題を解決するため、直径が50〜300μmの微小流路を有する流路部材に、粒子を分散又は溶解させた原料液を加圧して圧送し、流路部材を通過した原料液を真空乾燥室に導入して乾燥させて粉末状の微粒子を製造する微粒子製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エネルギー効率が良く、粒子の劣化や粒子径の変化が生じにくい微粒子の製造装置及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る微粒子製造装置の全体構成を示す図である。
【図2】流路部材の微小流路内での原料液の流れを概念的に示す断面斜視図である。
【図3】第2の実施形態に係る微粒子製造装置の全体構成を示す図である。
【図4】第3の実施形態に係る微粒子製造装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0020】
図1は、第1の実施形態に係る微粒子製造装置の全体構成を示している。この実施形態の微粒子製造装置は、粒子を分散させた原料液Lが貯留される貯留容器1と、貯留容器1の下流に接続された加圧部2と、加圧部2に接続された流路部材3と、流路部材3の下流に接続された真空乾燥室4とを主要な要素として構成される。
【0021】
図2に模式的に示すように、流路部材3は、直径が50〜300μmの微小流路3aを備えている。加圧部2は、例えばシリンダポンプで構成され、ピストンの往復作動によって所定量の原料液Lを貯留容器1から吸引すると共に、吸引した所定量の原料液Lを加圧して流路部材3の微小流路3aに間欠的に圧送する。また、この実施形態において、流路部材3の微小流路3aは、途中部分から二股状に分岐し、出口OUT附近で再び合流する構造になっている。さらに、微小流路3aは、入口IN側から出口OUT側に向かって漸次狭くなっている。
【0022】
加圧部2の作動により、流路部材3の微小流路3aに間欠的に圧送される原料液L中の粒子は、微小流路3aを通過する際に発生する流体の剪断エネルギー(主に図2に示す高剪断ゾーンSで発生)と流体の衝突エネルギー(主に図2に示す高インパクトゾーンIで発生)により粉砕されて、例えばナノレベルの粒子径まで微粒化される(ナノ粒子)。同時に、原料液Lは微小流路3aを通過する際の粘性発熱(原料液Lと微小流路3aの壁面との間の摩擦、粒子同士の接触による摩擦等に起因する)により、温度が上昇する(例えば、貯留容器1に貯留されている原料液Lの温度が20℃の場合は、流路部材3から流出する原料液体Lの温度は60〜70℃程度まで上昇する)。従って、流路部材3からは、微粒子を含みかつ温度が高められた原料液L(懸濁液)が流出する。
【0023】
流路部材3を通過した原料液Lは、管路を通って真空乾燥室4に導入され、管路の先端から真空乾燥室4に噴出する。真空乾燥室4内は真空ポンプにより所定の負圧に保たれており、また、80℃程度の所定温度に加温されている。真空乾燥室4内に噴出した原料液Lは、真空乾燥室4内の負圧による急激な圧力降下と沸点の低下、さらには室内の加温により液分が蒸発する。これにより、原料液L(懸濁液)から微粒子が分離される。
【0024】
真空乾燥室4内で分離された粉末状の微粒子は、そのまま回収して微粒子製品としても良いし、図1に示すように、解砕機構5により整粒して微粒子製品としても良い。また、真空乾燥室4内で蒸発した液分は凝縮器6で凝縮させて、溶剤回収タンクに回収しても良い。
【0025】
尚、晶析により微粒子を製造する場合は、粒子を良溶媒に溶解させた第1溶液を貯留容器1に貯留すると共に、貧溶媒からなる第2溶液を貯留容器11に貯留し、貯留容器1に貯留された第1溶液と貯留容器11に貯留された第2溶液とを加圧部2の上流側で合流させて原料液とする。この原料液は、加圧部2の作動により、流路部材3の微小流路3aに間欠的に圧送され、微小流路3aを通過する際に発生する流体エネルギーにより混合されて微小結晶粒子を析出させる。同時に、原料液は微小流路3aを通過する際の粘性発熱により、温度が上昇する。そして、流路部材3を通過した原料液は真空乾燥室4に導入され、真空乾燥室4内で乾燥されて、微粒子が分離される。
【0026】
図3は、第2の実施形態に係る微粒子製造装置の全体構成を示している。この実施形態の微粒子製造装置が、第1の実施形態の微粒子製造装置と異なる点は、流路部材3から真空乾燥室4に至る管路に減圧速度調整手段7を設けた点にある。減圧速度調整手段7は、バルブ(絞り調整弁)や1流体ノズルなどの絞り機構により構成することができるが、流体の減圧速度(kPa/s)を調整できるものであればその種類は特に問わない。例えば、流路部材3から真空乾燥室4に至る管路よりも小さな又は大きな断面積を有する流路部材を減圧速度調整手段7として用いても良い。この実施形態では、絞り調整弁又は1流体ノズルからなる減圧速度調整手段7を、流路部材3から真空乾燥室4に至る管路の先端(真空乾燥室4の導入口)に接続し、減圧速度調整手段7により、上記管路を通過する原料液の圧力が上記管路内の所定位置、例えば上記管路内の先端部附近(真空乾燥室4の導入口附近)で原料液の飽和蒸気圧以下の圧力になるように、原料液の減圧速度を調整している。これにより、上記管路内の所定位置(先端部附近)で沸騰した原料液が気層流又は気液混層流の状態で真空乾燥室4内に噴出し、真空乾燥室4内でより効果的に乾燥される。その他の事項は第1の実施形態に準じるので、重複する説明を省略する。
【0027】
図4は、第3の実施形態に係る微粒子製造装置の全体構成を示している。この実施形態の微粒子製造装置が、第2の実施形態の微粒子製造装置と異なる点は、流路部材3よりも上流側の部位、例えば同図に示すP1〜P3(及びP4)の部位のうち、少なくとも1以上の部位に予備加熱部8を設けた点にある(同図ではP2の部位に予備加熱部8を設けている)。これにより、高沸点・低蒸気圧の溶液中に分散した粒子を分離する場合でも、流路部材3を通過した後の原料液を加熱することなく真空乾燥室4に導入して、真空乾燥室4内で十分に乾燥させることが可能となる。その他の事項は第1及び第2の実施形態に準じるので、重複する説明を省略する。
【符号の説明】
【0028】
1 貯留容器
2 加圧部
3 流路部材
4 真空乾燥室
7 減圧速度調整手段
8 予備加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が50〜300μmの微小流路を有する流路部材と、粒子を分散又は溶解させた原料液を加圧して前記流路部材に圧送する加圧部と、前記流路部材を通過した原料液を導入して乾燥させる真空乾燥室とを備えた微粒子製造装置。
【請求項2】
前記流路部材よりも上流側に予備加熱部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の微粒子製造装置。
【請求項3】
前記流路部材を通過した原料液の減圧速度を調整して前記真空乾燥室に導入する減圧速度調整手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の微粒子製造装置。
【請求項4】
直径が50〜300μmの微小流路を有する流路部材に、粒子を分散又は溶解させた原料液を加圧して圧送し、前記流路部材を通過した原料液を真空乾燥室に導入して乾燥させて粉末状の微粒子を製造する微粒子製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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