説明

微細加工処理剤、及び微細加工処理方法

【課題】少なくともシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が積層された積層膜を微細加工する際に、シリコン酸化膜を選択的に微細加工することが可能な微細加工処理剤、及びそれを用いた微細加工処理方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る微細加工処理剤は、(a)0.01%〜15重量%のフッ化水素、又は0.1〜40重量%のフッ化アンモニウムの少なくとも何れか1種類と、(b)水と、(c)0.001%〜10重量%のスチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸アンモニウム、及びスチレンスルホン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種類の水溶性重合体とを含み、少なくともシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が積層された積層膜を微細加工する際に、シリコン酸化膜を選択的に微細加工することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、液晶表示装置、マイクロマシン(micro electro mechanical systems;MEMS)デバイス等の製造に於いて、微細加工や洗浄処理等に用いる微細加工処理剤、及びそれを用いた微細加工処理方法に関し、特にシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が少なくとも積層された積層膜の微細加工に用いる微細加工処理剤、及びそれを用いた微細加工処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造プロセスに於いて、ウエハ表面に成膜されたシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、ポリシリコン膜、金属膜等を所望の形状にパターニングし、エッチングすることは最も重要なプロセスの一つである。そのエッチング技術の一種であるウェットエッチングに対しては、エッチング対象となる膜のみを選択的にエッチングすることが可能な微細加工処理剤が求められている。
【0003】
前記微細加工処理剤に於いてシリコン酸化膜をエッチング対象とするものとしては、例えば、バッファードフッ酸やフッ化水素酸が挙げられる。しかし、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜が積層された積層膜に対し、前記バッファードフッ酸やフッ化水素酸を微細加工処理剤として用いると、シリコン窒化膜も同時にエッチングされる。その結果、所望の形状にパターニングすることが困難になる。
【0004】
この様な問題を解決し、シリコン酸化膜のみを選択的にエッチングすることが可能な微細加工処理剤としては、例えばフッ化水素酸にラウリル硫酸アンモニウム等の陰イオン性界面活性剤を添加したものが挙げられる(下記特許文献1参照)。しかし、前記微細加工処理剤では起泡性が極めて大きく、これにより半導体素子の製造プロセスに用いる微細加工処理剤としては適さない。
【0005】
一方、微細加工処理剤を用いてウェットエッチングを行う半導体素子としては、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)が挙げられる。DRAMセルはトランジスタ1個とキャパシタ1個で構成されたものである。このDRAMは過去3年で約4倍の高集積化が進められている。DRAMの高集積化は、主にキャパシタの高集積化によるものである。よって、キャパシタの占有面積を縮小しながら、安定した記憶動作に必要な容量値を確保すべく、キャパシタ面積の増大、キャパシタ絶縁膜の薄膜化及び高誘電率膜の導入が行われている。
【0006】
前記キャパシタ絶縁膜としてはシリコン酸化膜が用いられており、これまではその薄膜化が検討されてきた。しかし、キャパシタの絶縁膜としてのシリコン酸化膜の薄膜化が、1MビットのDRAMで限界に達した。そのため、4MビットのDRAMでは、絶縁膜としてシリコン窒化膜が用いられている。更に高集積化が進むにつれてタンタル酸化膜の適用も開始されている。
【0007】
64Mビット世代のDRAMのキャパシタ構造はシリンダ型である。シリンダ型のキャパシタ下部電極を形成した後、キャパシタ形成のため、成膜されたシリコン酸化膜をウェットエッチングによって除去する場合、従来のエッチング液を使用すると次に述べる問題が生じる。
【0008】
即ち、キャパシタ下部電極を形成した後に、成膜されたシリコン酸化膜をウェットエッチングにより除去する。更に、超純水によるリンスを行い、乾燥させる。この乾燥させる工程で、キャパシタ下部電極の間に存在する水の表面張力により、該下部電極が傾いて互いに付着する"リーニング(leaning)"現象が多発して、2−ビットフェイルを誘発するという問題がある。この為、下記特許文献2では、キャパシタ下部電極間にシリコン窒化膜からなる支持膜を形成する技術が開示されている。また、下記特許文献3には、ビットラインとの絶縁特性を向上させるためにシリコン窒化膜を絶縁膜として成膜する技術が開示され、更に、下記特許文献4には、シリコン窒化膜を後続のシリコン酸化膜のエッチング工程のエッチング停止膜として成膜する技術が開示されている。
【0009】
これらの半導体素子の製造プロセスに於いて、従来のエッチング液を用いると、前記特許文献1に於ける支持膜としてのシリコン酸化膜や特許文献2のシリコン窒化膜、特許文献3のエッチング停止膜としてのシリコン酸化膜がエッチング対象と共にエッチングされるという問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開2005−328067号公報
【特許文献2】特開2003−297952号公報
【特許文献3】特開平10−98155号公報
【特許文献4】特開2000−22112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、少なくともシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が積層された積層膜を微細加工する際に、シリコン酸化膜を選択的に微細加工することが可能な微細加工処理剤、及びそれを用いた微細加工処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、微細加工処理剤、及びそれを用いた微細加工処理方法について鋭意検討した。その結果、所定の水溶性重合体が添加された微細加工処理剤であると、シリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が積層された積層膜に対し、シリコン酸化膜のみを選択的に微細加工できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明に係る微細加工処理剤は、前記の課題を解決する為に、(a)0.01〜15重量%のフッ化水素、又は0.1〜40重量%のフッ化アンモニウムの少なくとも何れか1種類と、(b)水と、(c)0.001〜10重量%のアクリル酸、アクリル酸アンモニウム、アクリル酸エステル、アクリルアミド、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸アンモニウム、及びスチレンスルホン酸エステルからなる群より選択される少なくとも何れか1種の水溶性重合体とを含むことを特徴とする。
【0014】
前記構成によれば、本発明の微細加工処理剤は前記水溶性重合体の含有により、シリコン酸化膜に対するエッチング効果を損なうことなく、シリコン窒化膜に対するエッチング効果の低減が図れる。その結果、例えばシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜が積層された積層膜の微細加工に本発明の微細加工処理剤を適用すると、シリコン窒化膜のエッチングを抑制しつつシリコン酸化膜の選択的な微細加工が可能になる。これにより、半導体素子の製造プロセスに於ける歩留まりの低減が図れる。
【0015】
ここで、前記水溶性重合体の含有量は0.001〜10重量%の範囲内にする。下限値を0.001重量%にすることにより、水溶性重合体の添加効果を発揮させることができ、シリコン窒化膜に対するエッチングの抑制が図れる。また、上限値を10重量%にすることにより、微細加工処理剤中の金属不純物の増加を抑制できる。また、粘度の上昇も抑え、これにより超純水等のリンス剤による微細加工処理剤のリンス除去性能の低減も防止することができる。尚、本発明に於ける「微細加工」とは、加工対象となる膜のエッチングや表面のクリーニングを含むことを意味する。また、「水溶性重合体」とは、前記(a)成分及び(b)成分を含む混合溶液に対し、常温で1質量%以上(10g/L)溶解する重合体を意味する。
【0016】
前記構成に於いては、前記水溶性重合体がアクリル酸アンモニウムとアクリル酸メチルの共重合体であることが好ましい。
【0017】
また、前記構成に於いては、前記水溶性重合体がポリアクリルアミドであることが好ましい。
【0018】
更に、前記構成に於いては、前記水溶性重合体の重量平均分子量が1000〜100万の範囲内であることが好ましい。水溶性重合体の重量平均分子量を1000以上にすることにより、水溶性重合体の製造の際に、重合阻止剤となる安定剤を低減できる。その結果、水溶性重合体が金属汚染されるのを防止することができる。その一方、前記重量平均分子量を100万以下にすることにより、微細加工処理剤の粘度上昇を抑制できるので取り扱い性の向上が図れる。また、超純水等のリンス剤による微細加工処理剤のリンス除去性能の低減も防止できる。
【0019】
また、前記構成に於いては、シリコン酸化膜に対する25℃でのエッチレートが1〜5000nm/分の範囲内であることが好ましい。これにより、シリコン酸化膜に対する微細加工処理の処理時間が長時間となるのを防止して生産効率の向上が図れると共に、微細加工後のシリコン酸化膜の膜厚及び表面粗度の制御を容易にする。
【0020】
本発明に係る微細加工処理方法は、前記の課題を解決する為に、前記に記載の微細加工処理剤を用いて、少なくともシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が積層された積層膜を微細加工することを特徴とする。
【0021】
前記方法に於いては、前記水溶性重合体の添加により、シリコン酸化膜に対するエッチング効果を損なうことなくシリコン窒化膜に対するエッチング効果の低減が図れる微細加工処理剤を、少なくともシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜が積層された積層膜に対し適用するので、シリコン窒化膜のエッチングを抑制しつつシリコン酸化膜の選択的な微細加工が可能になる。その結果、半導体素子の製造プロセスに於ける歩留まりの低減も図れる。
【0022】
前記シリコン酸化膜は、自然酸化膜、熱シリコン酸化膜、ノンドープシリケートガラス膜、リンドープシリケートガラス膜、ボロンドープシリケートガラス膜、リンボロンドープシリケートガラス膜、TEOS膜、又はフッ素含有シリコン酸化膜の何れかであることが好ましい。
【0023】
前記シリコン窒化膜は、シリコン窒化膜、又はシリコン酸窒化膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜が少なくとも積層された積層膜に対し、シリコン酸化膜のみを選択的に微細加工処理することができるので、例えば半導体装置、液晶表示装置、マイクロマシンデバイス等の製造に於いて好適な微細加工を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。
本実施の形態に係る本発明に係る微細加工処理剤は、(a)フッ化水素又はフッ化アンモニウムの少なくとも何れか1種類と、(b)水と、(c)水溶性重合体とを含む。
【0026】
前記(a)成分に於けるフッ化水素の含有量は、0.01〜15重量%の範囲内であることが好適であり、0.05〜10重量%の範囲内であることがより好適である。フッ化水素の含有量が0.01重量%未満であると、フッ化水素の濃度制御が困難である為、シリコン酸化膜に対するエッチレートのバラツキが大きくなる場合がある。またフッ化水素の含有量が15重量%を超えると、シリコン酸化膜に対するエッチレートが大きくなり過ぎ、エッチングの制御性が低下する。
【0027】
また、前記フッ化アンモニウムの含有量は0.1〜40重量%の範囲内であることが好適であり、5〜25重量%の範囲内であることがより好適である。フッ化アンモニウムの含有量が0.1重量%未満であると、フッ化アンモニウムの濃度制御が困難である為、シリコン酸化膜に対するエッチレートのバラツキが大きくなる場合がある。またフッ化アンモニウムの含有量が40重量%を超えると、フッ化アンモニウムの飽和溶解度に近づいているため、微細加工処理剤の液温が低下すると微細加工処理剤が飽和溶解度に達し、液中に結晶が析出する恐れがある。
【0028】
本実施の形態においては、前記(a)成分を含むことによりシリコン窒化膜に対するエッチレートを選択的に抑制して、エッチング選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を大きくすることができる。より具体的には、例えば、シリコン窒化膜に対するエッチレートが前記(a)成分を添加しない場合と比べて8割以下に抑制可能になる。
【0029】
前記(a)成分はフッ化水素又はフッ化アンモニウムの単独でもよく混合物でもよい。また、第3成分が含有されていてもよい。第3成分としては、例えば、界面活性剤や無機酸が挙げられる。但し、ギ酸等の有機酸を添加する場合、シリコン窒化膜に対するエッチングを選択的に抑制する効果が低減するので好ましくない。
【0030】
前記界面活性剤としては特に限定されず、例えば、(a)成分がフッ化水素酸単独の場合は、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤が好適に例示される。また、(a)成分がフッ化水素酸とフッ化アンモニウム混合物、またはフッ化アンモニウム単独の場合は、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸、ハイドロフルオロアルキルアルコール、ハイドロフルオロアクキルカルボン酸及びその塩、或いは脂肪族アミン塩及び脂肪族スルホン酸の一種又は二種以上の混合系で使用されても良く、その形態としては固体のまま或いは液状で良い。
【0031】
前記界面活性剤の添加量は、0.001〜0.1重量%の範囲内であることが好適であり、0.003〜0.05重量%の範囲内であることがより好適である。界面活性剤を添加することにより、エッチング処理を施したシリコン窒化膜や半導体基板等の表面の荒れを抑制することができる。更に、従来のエッチング液であると、超高集積化に伴い微細パターンが施された半導体基板表面に局部的に残留しやすく、レジスト間隔が0.5μm程度あるいはそれ以下になると均一的にエッチングすることがより困難となる。しかし、界面活性剤を添加した本発明の微細加工処理剤をエッチング液として使用した場合、半導体基板表面への濡れ性が改善され、エッチングの基板面内に於ける均一性が改善される。但し、前記添加量が0.001重量%未満であると、微細加工処理剤の表面張力が十分に低下しない為に、濡れ性の向上効果が不十分になる場合がある。また、前記添加量が0.1重量%を超えると、それに見合う効果が得られないだけでなく、消泡性が悪化してエッチング面に泡が付着し、エッチングむらが生じたり、微細間隙に泡が入り込んでエッチング不良を生じる場合がある。
【0032】
前記無機酸としては特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等が例示できる。前記無機酸の添加量は0.01〜30重量%の範囲内であることが好適であり、0.05〜10重量%の範囲内であることがより好適である。前記添加量が0.01重量%未満であると、無機酸の濃度制御が困難である為、シリコン酸化膜に対するエッチレートのバラツキが大きくなるという不都合がある。その一方、30重量%を超えると、例えば塩酸を用いた場合、蒸気圧が大きくなるため、蒸発に対する薬液組成が安定しないという不都合がある。
【0033】
前記(c)成分に於ける水溶性重合体は、アクリル酸、アクリル酸アンモニウム、アクリル酸エステル、アクリルアミド、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸アンモニウム、及びスチレンスルホン酸エステルからなる群より選択される少なくとも何れか1種である。
【0034】
前記に列挙した水溶性重合体のうち、アクリル酸アンモニウムとアクリル酸メチルの共重合体は、前記(a)成分がフッ化水素単独からなる場合や、フッ化水素とフッ化アンモニウムを併用した場合に特に、シリコン窒化膜に対するエッチングの抑制効果が高い。尚、アクリル酸アンモニウムとアクリル酸メチルの重合比は9.9:0.1〜5:5の範囲内であることが好ましい。前記数値範囲よりアクリル酸メチルの重合比が大きくなるとアクリル酸アンモニウムとアクリル酸メチルの共重合体の溶解度が小さくなるという不都合を生じる場合がある。また、ポリアクリルアミドは、前記(a)成分がフッ化水素とフッ化アンモニウムを併用した場合や、フッ化水素と塩酸を併用した場合に特に、シリコン窒化膜に対するエッチングの抑制効果が高い。
【0035】
前記(c)成分に於ける水溶性重合体の含有量は、0.001〜10重量%の範囲内であることが好適であり、0.1〜5重量%の範囲内であることがより好適である。含有量が0.001重量%未満であると、水溶性重合体の添加効果が低下し、シリコン窒化膜に対するエッチレートの抑制効果が不十分になるため好ましくない。また含有量が10重量%を超えると、微細加工処理剤中の金属不純物が増加し、また粘度も高くなるため超純水等のリンス剤による微細加工処理剤のリンス除去性能が低下する。その結果、半導体装置の製造プロセスに用いる微細加工処理剤としては適さない。
【0036】
水溶性重合体の重量平均分子量は1000〜100万の範囲内であることが好適であり、1000〜1万の範囲内であることがより好適である。重量平均分子量が1000未満であると、重合阻止剤となる安定剤を使用量が多くなる。その結果、微細加工処理剤に対する金属汚染等の原因となり得る場合がある。重量平均分子量が100万を超えると、微細加工処理剤の粘度が大きくなるため取り扱い性が低下する場合がある。また、超純水等のリンス剤による微細加工処理剤のリンス除去性能も低減する場合がある。
【0037】
本実施の形態の微細加工処理剤は、その効果を阻害しない範囲内に於いて、界面活性剤以外の添加剤を混合することも可能である。前記添加剤としては、例えば、過酸化水素、キレート剤等が例示できる。
【0038】
求められる微細加工表面処理剤の純度によっては、添加する水溶性重合体を蒸留、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析、濾過等を用いて精製してもよく、また微細加工処理剤の循環濾過等を行って精製してもよい。
【0039】
次に、本実施の形態に係る微細加工処理剤を用いた微細加工処理方法について、ウェットエッチングを例にして説明する。
【0040】
本実施の形態の微細加工処理剤は、種々のウェットエッチング法に採用される。エッチング方法としては、浸漬式やスプレー式等があるが、いずれの方法にも本発明の微細加工処理剤は採用され得る。浸漬式は、エッチング工程での蒸発により微細加工処理剤の組成変化が少ないので好適である。
【0041】
微細加工処理剤をエッチング液として使用した場合のエッチング温度は、5〜50℃の範囲内であることが好適であり、15〜35℃の範囲内であることがより好適であり、20〜30℃の範囲内であることが更に好適である。前記範囲内であると、微細加工処理剤の蒸発を抑制することができ、組成変化を防止することができる。また、高温度では微細加工処理剤の蒸発によりエッチレートの制御が困難になり、低温度では微細加工処理剤中の成分が結晶化しやすくなり、エッチレートの低下、液中粒子の増加するというデメリットを回避できる。尚、エッチング温度によっては膜毎にエッチレートが変化するので、シリコン酸化膜に対するエッチレートとシリコン窒化膜に対するエッチレートとの差も影響を受ける場合がある。
【0042】
また、本実施の形態の微細加工処理剤は、25℃に於けるシリコン酸化膜に対するエッチレートは、1〜5000nm/分の範囲内であることが好適であり、15〜1000nm/分の範囲内であることがより好適である。エッチレートが1nm/分未満であると、エッチング等の微細加工処理に時間を要し、生産効率の低下を招来する場合がある。また、5000nm/分を超えると、エッチング後の膜厚の制御性の低下や基板表面(シリコン酸化膜等の形成面とは反対側の面)の荒れが顕著になり、歩留まりが低下する場合がある。
【実施例】
【0043】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0044】
(シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート)
光学式膜厚測定装置(ナノメトリクスジャパン(株)社製、Nanospec6100)を用いてエッチング前後のシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜の膜厚を測定し、エッチングによる膜厚の変化を測定した。3つの異なるエッチング時間に於いて前記測定を繰り返し実施し、エッチレートを算出した。
【0045】
(水溶性重合体)
後述する各実施例において使用した水溶性重合体、及び各比較例において使用した添加剤は下記表1に示す通りである。
【0046】
【表1】

【0047】
(実施例1)
フッ化水素(ステラケミファ(株)製、半導体用高純度グレード、濃度50重量%)7.0重量部と、フッ化アンモニウム(ステラケミファ(株)製、半導体用高純度グレード、濃度40重量%)50.0重量部と、超純水40.5重量部とを混合した溶液に、水溶性重合体としてのポリアクリル酸アンモニウム(濃度40重量%、重量平均分子量6000)2.5重量部を添加し、攪拌混合した後、混合液を25℃に調温し3時間静置した。これにより、フッ化水素3.5重量%、フッ化アンモニウム20.0重量%、ポリアクリル酸アンモニウム1重量%のエッチング液(微細加工処理剤)を調製した。
【0048】
次に、シリコン酸化膜としてのTEOS膜、及びシリコン窒化膜に対するエッチレートを測定した。更に、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表2に示す。
【0049】
(実施例2〜10)
実施例2〜10に於いては、表1に示す通りにフッ化水素及びフッ化アンモニウムの含有量と、水溶性重合体の含有量及び種類を変更したこと以外は、前記実施例1と同様にしてエッチング液を調製した。更に、各実施例で得られたエッチング液を用いて、TEOS膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表2に示す。
【0050】
(比較例1、2)
比較例1〜2に於いては、表1に示す通りにフッ化水素及びフッ化アンモニウムの含有量を変更し、かつ水溶性重合体を添加しなかったこと以外は、前記実施例1と同様にしてエッチング液を調製した。更に、各比較例で得られたエッチング液を用いて、TEOS膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表2に示す。
【0051】
(比較例3〜7)
比較例3〜7に於いては、表1に示す通りにフッ化水素及びフッ化アンモニウムの含有量を変更し、水溶性重合体に代えて、表1に示す添加剤を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にしてエッチング液を調製した。更に、各比較例で得られたエッチング液を用いて、TEOS膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
前記表2からも明らかな通り、比較例3〜7に係るエッチング液に添加した添加剤では、シリコン窒化膜に対するエッチレートを選択的に抑制し、シリコン窒化膜に対するシリコン酸化膜のエッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を大きくすることができなかった。
【0054】
一方、実施例1〜10に係る微細加工表面処理剤では、水溶性重合体を添加することにより、シリコン窒化膜に対するエッチレートを選択的に抑制し、シリコン窒化膜に対するシリコン酸化膜のエッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)が大きくなることが確認された。
【0055】
(実施例11)
フッ化水素(ステラケミファ(株)製、半導体用高純度グレード、濃度50重量%)20.0重量部と、塩酸(林純薬工業(株)製、電子工業グレード、濃度36重量%)27.8重量部と、超純水51.2重量部とを混合した溶液に、水溶性重合体としてのポリアクリルアミド(濃度50重量%、重量平均分子量10000)1.0重量部を添加し、攪拌混合した後、混合液を25℃に調温し3時間静置した。これにより、フッ化水素10重量%、塩酸10重量%、ポリアクリルアミド0.5重量%のエッチング液(微細加工処理剤)を調製した。
【0056】
次に、シリコン酸化膜としてのBPSG膜、及びシリコン窒化膜に対するエッチレートを測定した。更に、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表3に示す。
【0057】
(実施例12)
実施例12に於いては、表3に示す通りにポリアクリルアミドの含有量を変更したこと以外は、前記実施例11と同様にしてエッチング液を調製した。更に、本実施例で得られたエッチング液を用いて、BPSG膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表3に示す。
【0058】
(比較例8)
比較例8に於いては、表3に示す通りに水溶性重合体を添加しなかったこと以外は、前記実施例12と同様にしてエッチング液を調製した。更に、本比較例で得られたエッチング液を用いて、BPSG膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
前記表3から明らかな通り、実施例11〜12に係るエッチング液では、いずれも水溶性重合体としてポリアクリルアミドを添加することにより、シリコン窒化膜に対するエッチレートを選択的に抑制し、シリコン窒化膜に対するシリコン酸化膜のエッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)が大きくなることが確認された。
【0061】
(実施例13)
フッ化アンモニウム(ステラケミファ(株)製、半導体用高純度グレード、濃度40重量%)25.0重量部と、塩酸(林純薬工業(株)製、電子工業グレード、濃度36重量%)27.8重量部と、超純水45.2重量部とを混合した溶液に、水溶性重合体としてのポリアクリルアミド(濃度50重量%、重量平均分子量10000)2.0重量部を添加し、撹拌混合した後、混合液を25℃に調温し3時間静置した。これにより、フッ化アンモニウム10重量%、塩酸10重量%、ポリアクリルアミド1重量%のエッチング液(微細加工処理剤)を調製した。
【0062】
次に、シリコン酸化膜としてTEOS膜、及びシリコン窒化膜に対するエッチレートを測定した。更に、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表4に示す。
【0063】
(比較例9)
比較例9に於いては、表4に示す通りに水溶性重合体を添加しなかったこと以外は、前記実施例13と同様にしてエッチング液を調製した。更に、本比較例で得られたエッチング液を用いて、TEOS膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表4に示す。
【0064】
(実施例14)
フッ化アンモニウム(ステラケミファ(株)製、半導体用高純度グレード、濃度40重量%)25.0重量部と、リン酸(キシダ化学(株)製、電子工業グレード、濃度85重量%)23.5重量部と、超純水49.5重量部とを混合した溶液に、水溶性重合体としてのポリアクリルアミド(濃度50重量%、重量平均分子量10000)2.0重量部を添加し、撹拌混合した後、混合液を25℃に調温し3時間静置した。これにより、フッ化アンモニウム10重量%、リン酸20重量%、ポリアクリルアミド1重量%のエッチング液(微細加工処理剤)を調製した。
【0065】
次に、シリコン酸化膜としてTEOS膜、及びシリコン窒化膜に対するエッチレートを測定した。更に、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表4に示す。
【0066】
(比較例10)
比較例10に於いては、表4に示す通り、水溶性重合体を添加しなかったこと以外は、前記実施例14と同様にしてエッチング液を調製した。更に、本比較例で得られたエッチング液を用いて、TEOS膜及びシリコン窒化膜に対するエッチレート、エッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)を評価した。結果を下記表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
前記表4から明らかな通り、実施例13〜14に係るエッチング液では、いずれも水溶性重合体としてポリアクリルアミドを添加することにより、シリコン窒化膜に対するエッチレートを選択的に抑制し、シリコン窒化膜に対するシリコン酸化膜のエッチレートの選択比(シリコン酸化膜/シリコン窒化膜)が大きくなることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)0.01%〜15重量%のフッ化水素、又は0.1〜40重量%のフッ化アンモニウムの少なくとも何れか1種類と、
(b)水と、
(c)0.001%〜10重量%のスチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸アンモニウム、及びスチレンスルホン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種類の水溶性重合体とを含み、少なくともシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が積層された積層膜を微細加工する際に、シリコン酸化膜を選択的に微細加工することを特徴とする、微細加工処理剤。
【請求項2】
前記水溶性重合体の重量平均分子量が1000〜100万の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の微細加工処理剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微細加工処理剤を用いて、少なくともシリコン酸化膜、及びシリコン窒化膜が積層された積層膜を微細加工することを特徴とする微細加工処理方法。


【公開番号】特開2012−227558(P2012−227558A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183459(P2012−183459)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2008−54736(P2008−54736)の分割
【原出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】