説明

微調整式切削工具

【課題】切刃数を多くする場合でも工具本体の製作に時間や労力を要することなく容易に対応が可能で、確実かつ安定して切刃の位置および突出量の微調整を行うことができる微調整式切削工具を提供する。
【解決手段】軸線O回りに回転させられる円盤状の工具本体1の先端部外周に複数のチップポケット4が周方向に間隔をあけて形成されるとともに、このうち周方向に隣接する少なくとも2つのチップポケット4の間には、これらのチップポケット4に連通するスリット8が軸線O回りに延設されて、これらチップポケット4とスリット8との間に可撓部9が工具本体1と一体に形成されており、この可撓部9の先端には工具本体1の先端側に突出する切刃3が設けられるとともに、可撓部9を傾動させることにより切刃3の突出量を調整する調整手段10が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転させられる工具本体の先端部外周に形成された複数のチップポケットの工具回転方向を向く壁部に、工具本体先端側に突出するように切刃がそれぞれ配設されて、これらの切刃の上記軸線方向の位置(正面振れ精度)が微調整可能とされた正面フライス等の微調整式切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような切刃の突出量が微調整可能とされた切削工具としては、例えば特許文献1に、インサート取付座に連絡して工具本体にあけられた穴に取り付けられたスロット付きのブッシュと、このブッシュに受容される調節ネジとを備えて、ブッシュの上部分と穴に連絡される工具本体の支持表面とが接触させられ、調整ネジをブッシュの雌ネジにねじ込むことによってブッシュ上部分のスロットを挟んで支持表面とは反対側の部分を弾性変形させて、インサート取付座に取り付けられた切削インサートをせり出させることにより、切削インサートの切刃の位置を調整するようにしたものが提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、本体部と、先端部にチップ座が設けられ、さらに本体部との間にスリットが設けられたチップ支持部と、そのチップ支持部を本体部につなぐ連結部と、チップ支持部から延び出た入力部と、反力を本体部で受けながら入力部に力を加えて連結部を弾性変形させる調整ネジとを有し、スリットの非開放端側でチップ支持部が連結部を介して本体部に連なり、スリットの開放端側に入力部が配置されていて、チップ座に取り付けられた切削インサートの切刃の位置を調整ネジによる連結部の弾性変形によって調整するようにしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−501781号公報
【特許文献2】特開2009−095894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、調整ネジによってブッシュの上部分を弾性変形させて切削インサートの切刃の位置を調整するようにしたものでは、切削時に切刃に作用する負荷を調整ネジやブッシュが直接受け止めることになるため、安定した切削インサートの取り付け状態を得難く、これに伴い調整された切刃の位置を安定して維持することも困難となる。
【0006】
また、特許文献2に記載されているように、本体部とチップ支持部とを間にスリットを介して連結部でつないで、調整ネジによって弾性変形させるようにしたものをユニット化して工具本体に取り付ける場合には、ユニットの工具本体への取り付けに多少なりともがたつきが生じることが避けられず、やはり切刃の位置を安定して維持することができないとともに正確な微調整も困難となる。また、切刃の数分だけユニットを用意しなければならないのでコスト高となるとともに、ユニットを取り付ける凹部を工具本体に形成しなければならず、工具本体に配設可能な切刃の数も少なくなってしまう。
【0007】
一方、特許文献2には、本体部やチップ支持部、連結部、さらには入力部を工具本体と一体に形成することも記載されているが、その場合に、この特許文献2に記載の切削工具では、スリットを、チップ支持部が設けられた工具本体の切屑ポケット(チップポケット)から工具回転方向後方側に向けて、入力部の工具本体後端側と工具本体内周側とに形成しなければならず、切刃数が多くなると工具本体の製作に多大な時間と労力を要することになる。しかも、切屑ポケットの工具回転方向後方側に隣接する切屑ポケットとスリットとの間の連結部の肉厚が大きくなるため、調整ネジによって連結部を弾性変形させて切刃位置を調整すること自体、困難となるおそれもある。
【0008】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切刃数を多くする場合でも工具本体の製作に時間や労力を要することなく容易に対応が可能で、確実かつ安定して切刃の位置および突出量の微調整を行うことができる微調整式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転させられる円盤状の工具本体の先端部外周に複数のチップポケットが周方向に間隔をあけて形成されるとともに、このうち周方向に隣接する少なくとも2つの上記チップポケットの間には、これらのチップポケットに連通するスリットが上記軸線回りに延設されて、これらチップポケットとスリットとの間に可撓部が上記工具本体と一体に形成されており、この可撓部の先端には上記工具本体の先端側に突出する切刃が設けられるとともに、該可撓部を傾動させることにより上記切刃の突出量を調整する調整手段が備えられていることを特徴とする。
【0010】
このように構成された微調整式切削工具においては、周方向に隣接する少なくとも2つのチップポケットの間にスリットが上記軸線回りに延設されることにより、工具本体にはこれらのチップポケットとスリットによって区画されつつ、スリットの溝底とこれと反対側の工具本体表面の間で該工具本体と一体とされた可撓部が形成され、この可撓部はスリットの幅が広げられるように工具本体に対して弾性変形させられることにより、その先端が工具本体の先端側に突出するように傾動可能とされる。そして、この可撓部の先端には切刃が設けられており、上記調整手段によって可撓部をこのように傾動させることによって切刃の位置が変位させられて軸線方向先端側への突出量が微調整される。
【0011】
従って、こうして切刃が設けられた工具本体と一体の可撓部が傾動して切刃の突出量が微調整させられることにより、切刃の位置が切削時の負荷等によって不安定となることはなく、またユニット化によるがたつきが生じるようなこともない。さらに、1つの切刃に対して隣接するチップポケット間に周方向に延びるスリットを1条形成するだけで、容易に傾動可能な可撓部を形成することができるので、切刃の数が多くても工具本体の製作に時間や労力を要することがなく、低コストでありながらも安定した切刃の位置の微調整および維持を図ることが可能となる。
【0012】
勿論、上記スリットを、上記工具本体の全周に亙って延設すれば、すべての切刃に対してその突出量を微調整可能な可撓部を形成することができる。また、上記調整手段としては、上記スリットの対向する一対の壁面のうち、一方の壁面に開口するようにネジ孔を形成して、このネジ孔に、他方の壁面に向けて出没可能に調整ネジをねじ込んだ構成として、突出した調整ネジによって他方の壁面を押圧することによりスリットを押し広げるようにして可撓部を傾動させるのが、突出量の微調整の容易さと、こうして微調整された突出量のより確実な維持のためには望ましい。
【0013】
ここで、上記スリットは、上記工具本体の上記軸線に沿った断面において該軸線に垂直な方向に延びていてもよい。この場合には、周方向に隣接する2つのチップポケットの間の、スリットよりも工具本体先端側の部分が可撓部とされる。また、上記スリットは、同じく上記工具本体の上記軸線に沿った断面において該軸線に平行に延びていてもよい。この場合には、周方向に隣接する2つのチップポケットの間の、スリットよりも工具本体外周側の部分が可撓部とされる。こうしてスリットを軸線に垂直または平行な方向に延設させれば、特に上述のように全周に亙ってスリットを形成する場合の工具本体の製作が一層容易となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、隣接するチップポケット間に亙ってスリットを延設することにより、工具本体の製作に時間や労力を要することなく可撓部を形成することができて切刃の数が多い場合でも容易に対応が可能となり、しかも確実かつ安定的な切刃の位置および突出量の微調整とその維持を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示す実施形態を工具本体先端側から見た底面図である。
【図3】図1に示す実施形態の部分側面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す断面図である。
【図5】図4に示す実施形態を工具本体先端側から見た底面図である。
【図6】図4に示す実施形態の部分側面図である。
【図7】図6における矢線A方向視の部分底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし図3は、本発明の第1の実施形態を示すものである。本実施形態において、工具本体1は、鋼材等の金属材料により形成されて、その先端部(図1および図3において下側部分)が後端部(図1および図3において上側部分)よりも一段大径とされた軸線Oを中心とする外形略多段円柱の円盤状をなしており、この工具本体1には、当該工具本体1を工作機械の主軸に取り付けるための取付孔2が軸線Oに沿って貫通するように形成されている。なお、この取付孔2の先端側の開口部は、先端側に向かうに従い漸次拡径するように軸線Oに沿った断面が等脚台形状とされている。
【0017】
このような工具本体1を備えた本実施形態の微調整式切削工具は、上述のように取付孔2によって工作機械の主軸に取り付けられ、軸線O回りに工具回転方向Tに回転させられつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出されて、工具本体1の上記先端部の外周に軸線O方向先端側に突出させられた切刃3により、被削材の加工面を軸線Oに垂直な平面に仕上げてゆく。すなわち、本実施形態の微調整式切削工具は、切刃3の突出量(先端側への振れ)が微調整可能な正面フライスとされている。
【0018】
工具本体1の先端部外周には、周方向に間隔をあけて複数のチップポケット4が形成されており、本実施形態では8つのチップポケット4が周方向に等間隔に形成されている。これらのチップポケット4は、本実施形態では軸線Oに直交する断面においてV字状をなして工具本体1の外周側に開口するように形成され、ただしその内周側の底面は凹曲面によって滑らかに連続させられている。
【0019】
なお、本実施形態におけるチップポケット4は、工具本体1の一段大径とされた先端部の後端面に開口することなく、後端側に向かうに従い、外周側を向く溝底部分が、軸線Oに沿った断面が凹曲線をなして外周側に切れ上がるように、また工具回転方向T後方側を向く壁面が側面視にやはり凹曲面をなして工具回転方向T側を向く壁面に近づくように形成されている。また、このチップポケット4の工具回転方向T側を向く壁面は、後端側に向かうに従い僅かに工具回転方向T後方側に向かうように傾斜している。
【0020】
さらに、このチップポケット4の工具回転方向T側を向く壁面には、その先端外周側にインサート取付座5が形成されて切削インサート6が着脱可能に取り付けられており、上記切刃3はこの切削インサート6に形成されている。すなわち、本実施形態の微調整式切削工具は、刃先交換式の切削工具(正面フライス)でもある。
【0021】
インサート取付座5は、工具本体1の外周側を向く底面5Aと工具回転方向T側を向く壁面5Bおよび工具本体1先端側を向く壁面5Cとを有する凹部として、チップポケット4の工具回転方向T側を向く上記壁面の先端外周側に開口するように形成されている。また、底面5Aには軸線Oに対する径方向に延びる第1の実施形態では図示されないクランプネジ孔が形成されている。
【0022】
このインサート取付座5に取り付けられる上記切削インサート6は、そのインサート本体が超硬合金等の硬質材料により多角形平板状、より詳しくは台形平板状をなし、一対の多角形面(台形面)には、インサート本体を厚さ方向に貫通するクランプ孔が開口させられていて、このクランプ孔に挿通されたクランプネジ7が上記クランプネジ孔にねじ込まれることによって切削インサート6は、その厚さ方向を工具本体1の軸線Oに対する径方向に向けて上記底面5Aと壁面5B、5Cに密着、当接させられ、インサート取付座5に取り付けられる。
【0023】
こうして取り付けられる切削インサート6の工具回転方向Tに向けられる側面はすくい面とされ、このすくい面の工具本体1先端外周側に向けられるコーナ部にはダイヤモンド焼結体またはCBN焼結体等の超硬硬度焼結体よりなる切刃チップが接合されており、上記切刃3は切削インサート6のうちでもこの切刃チップ上に、軸線O方向先端側に向けられるように形成されている。切刃3は、軸線Oに垂直な平面上に位置する直線状あるいは曲率半径の大きな凸曲線状とされ、切削インサート6のインサート本体よりも僅かに工具本体1の先端側に突出するようにされている。
【0024】
そして、本実施形態では、工具本体1の一段大径とされた先端部の周方向に隣接する少なくとも2つのチップポケット4の間に、これらのチップポケット4に連通する溝状のスリット8が軸線O回りに延設されており、このスリット8と隣接する2つのチップポケット4とによって工具本体1には傾動可能な可撓部9が工具本体1と一体に形成されている。ここで、本実施形態では、このスリット8は工具本体1先端部の全周に亙って形成されてすべてのチップポケット4に連通するようにされており、従って周方向に隣接するすべてのチップポケット4間に可撓部9が形成される。
【0025】
本実施形態におけるスリット8は、周方向に隣接するチップポケット4間に、工具本体1の先端部外周面から切刃3の位置よりも内周側に向けてチップポケット4より僅かに深い一定の径方向の深さ、および軸線O方向に一定の幅で、該軸線Oに垂直な1つの平面に沿って全周に亙って延びるように形成されており、工具本体1の先端部においてこのスリット8よりも先端側の部分が、工具本体1との連結部を介して先端側に傾動可能とされた可撓部9とされている。また、スリット8の溝底は軸線Oに沿った断面において凹円弧状とされている。なお、工具本体1の先端部においてスリット8よりも先端側の部分は後端側の部分よりも軸線O方向の厚さが薄くされている。
【0026】
さらに、工具本体1には、上記可撓部9を傾動させることにより、切刃3の軸線O方向における突出量を調整する調整手段10が各可撓部9に対応して備えられている。本実施形態における調整手段10は、スリット8の対向する一対の壁面のうち、一方の壁面に垂直に開口するように形成されたネジ孔10Aにねじ込まれて他方の壁面に向けて出没可能とされた調整ネジ10Bであり、この調整ネジ10Bをねじ込んで他方の壁面に当接させ、さらに押圧することにより、可撓部9が傾動させられる。
【0027】
この調整手段10としての調整ねじ10Bは、本実施形態では工具本体1の先端部において可撓部9とは反対側にねじ込まれており、すなわちネジ孔10Aは、工具本体1の先端部の後端面から軸線Oに平行に先端側に延びて、インサート取付座5の直ぐ後端側においてスリット8の可撓部9とは反対側の壁面に開口させられている。従って、調整ネジ10Bは工具本体1後端側からねじ込まれてスリット8の先端側を向く壁面から突出し、スリット8の後端側を向く壁面に向けて出没可能とされ、この後端側を向く壁面に当接して該壁面を押圧し、上記連結部を弾性変形させて可撓部9をその外周側が先端側に傾くように傾動させる。
【0028】
このように可撓部9が傾動させられることにより、各可撓部9の工具本体1先端外周側に配設された切刃3も上記連結部を中心に僅かに傾動させられて工具本体1の先端側に突出させられ、その突出量(正面振れ)が微調整させられる。従って、各可撓部9に取り付けられた切削インサート6の切刃3の軸線O方向の位置が該軸線Oに垂直な1つの平面上に一致するようにこの突出量を調整することにより、被削材の加工面をこの平面に沿って平滑に仕上げることができる。
【0029】
上記構成の微調整式切削工具においては、工具本体1に形成されたチップポケット4とスリット8とによって可撓部9が画成されて傾動可能とされているため、工具本体に取り付けたブッシュを弾性変形させる場合のように切削時の負荷によって切刃3の位置が不安定となることはなく、また微調整機構をユニット化して取り付けた場合のようにユニットにがたつきが生じることもない。さらに、1つの切刃3に対して1条のスリット8を隣接するチップポケット4間に延設するだけで可撓部9を形成することができるので、切刃3の数が多くても容易に対応可能であり、このような可撓部9を形成するのに多くの時間や労力を要することもない。
【0030】
また、本実施形態では、スリット8が工具本体1の全周に亙って延設されており、このためすべてのチップポケット4間に可撓部9を形成することができて、すなわちすべての切刃3の突出量を微調整することができる。ただし、このようにスリット8を工具本体1の全周に延設することなく、例えば隣接する一対のチップポケット4間にはスリット8を形成せずに、これらのチップポケット4間に位置する切刃3は予め他の切刃3よりも突出量が大きくなるようにしておいて、この切刃3を基準に他の切刃3の突出量を微調整するようにしてもよい。
【0031】
さらに、本実施形態では、可撓部9を傾動させて切刃3の突出量を微調整する調整手段10が、スリット8の対向する一対の壁面のうち一方の壁面に開口するネジ孔10Aに、他方の壁面に向けて出没可能に調整ネジ10Bがねじ込まれた構成とされており、突出量の微調整が容易であるとともに、微調整された切刃3の位置も切削負荷等によらずに確実に維持することができる。なお、本実施形態では可撓部9の軸線O方向の厚さが先端部の後端側よりも薄くされ、またチップポケット4が工具本体1先端部の後端面に開口せずに該先端部の後端側部分が連続しているので、この後端側部分が調整ネジ10Bのねじ込みや切削負荷等によって撓んで切刃3の位置が不安定となるようなことはない。
【0032】
さらにまた、本実施形態では、スリット8が工具本体1の軸線Oに沿った断面において該軸線Oに垂直になるように形成されている。ここで、このような軸線Oに垂直な1つの平面に沿って工具本体1の全周に亙って延びるスリット8を形成するには、円板状のカッタ本体の外周面に切刃が設けられたサイドカッタや、同じく円板状の砥石本体の外周面に砥粒層が形成された研削砥石を、その中心線が軸線Oと平行になるように保持して回転させ、工具本体1の先端部に外周側から切り込みを加えるようにすればよく、スリット8を一度に形成することができるので、工具本体1の製作が一層容易となる。
【0033】
ただし、上述のようにすべてのチップポケット4間にスリット8を形成することなく、部分的にスリット8を延設して可撓部9を形成するような場合には、例えば小径長尺のボールエンドミルを用いて、可撓部9を設けない部分を除いて個々のチップポケット4間に順にスリット8を形成するようにしてもよい。
【0034】
次に、図4ないし図7は、本発明の第2の実施形態を示すものであり、図1ないし図3に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。本実施形態におけるチップポケット4は、周方向の幅および軸線Oに対する径方向の深さが軸線O方向に亙って略一定とされて、ただし軸線Oからチップポケット4の溝底までの間隔は、工具本体1の一段小径となる後端部までの軸線Oからの半径より大きくされている。また、チップポケット4は図6に示すように工具本体1の先端から後端側に向かうに従い全体的に工具回転方向Tの後方側に向かうように僅かに傾斜して延び、工具本体1の後端部よりも一段大径とされた先端部の後端面に開口させられている。
【0035】
さらに、本実施形態におけるスリット8は、軸線Oを中心とした1つの円筒面に沿って工具本体1の先端部に、その後端面から先端側に向けて先端部の軸線O方向の厚さの1/2を越える一定の深さで、かつ径方向に一定の幅で形成されており、ただしこの深さは、軸線O方向において図7に示す上記クランプネジ孔5Dの位置には達しないようにされている。従って、軸線Oに沿った断面においてスリット8は図4に示すように軸線Oに平行に延び、可撓部9は軸線O方向先端側の工具本体1との連結部を中心に弾性変形して径方向に傾動可能とされ、インサート取付座5は可撓部8に形成される。また、スリット8は、図5に示すようにチップポケット4の凹曲面とされた溝底よりも僅かに外周側に形成されている。
【0036】
さらにまた、本実施形態における調整手段10としての調整ネジ10Bは可撓部9側にねじ込まれており、すなわちネジ孔10Aは、可撓部9のインサート取付座5よりも工具本体1の後端側に離れた位置に、スリット8に対して垂直となるように軸線Oに対する径方向に形成されている。そして、調整ネジ10Bは工具本体1外周側からねじ込まれてスリット8の外周側の壁面(一方の壁面)から突出し、内周側の壁面(他方の壁面)に向けて出没可能とされ、この内周側の壁面に当接して該壁面を押圧し、その反力で連結部を弾性変形させて可撓部9をその後端側が径方向外周側に傾くように傾動させられるので、切刃3の突出量が微調整される。
【0037】
従って、このような第2の実施形態においても、切刃3の数が多い場合に工具本体1の製作に時間や労力を要することなく、確実にその突出量を微調整することが可能であるとともに、微調整された切刃3の位置が不安定となったりするのを防ぐことができる。また、本実施形態ではネジ孔10Aおよび調整ネジ10Bの位置が上記連結部から離れた工具本体1先端部の後端側であるので、調整ネジ10Bの1回転当たりの可撓部9の傾動量が小さく、より微妙な突出量の調整が可能である。
【0038】
なお、本実施形態のような工具本体1の軸線Oに沿った断面において該軸線Oに平行となるスリット8を上述のように工具本体1の全周に亙って形成するには、例えばスリット8が形成される上記1つの円筒面と等しい直径を有する円筒状のカッタ本体の先端面に切刃が設けられたカッタ、あるいは同じく円筒状の砥石本体の先端面に砥粒層が形成された研削砥石を、その中心線が軸線Oと同軸となるように保持して中心線回りに回転させつつ工具本体1の先端部に切り込んでゆけばよく、スリット8を一度に形成することができるので、工具本体1の製作が一層容易となる。
【0039】
ただし、本実施形態においても、上述のようにすべてのチップポケット4間にスリット8を形成することなく、部分的にスリット8を延設して可撓部9を形成するような場合には、例えば小径長尺のボールエンドミルを用いて、可撓部9を設けない部分を除いて個々のチップポケット4間に順にスリット8を形成するようにしてもよい。また、特にこのようにしてスリット8を形成する場合には、スリット8は1つの円筒面上に位置することなく、例えばこの円筒面に接する平面上に延びるようにされていてもよい。
【0040】
なお、第2の実施形態ではこのようにスリット8が軸線Oに沿った断面において該軸線Oに平行な方向に、また第1の実施形態ではスリット8が軸線Oに沿った断面において該軸線Oに垂直な方向に、それぞれ形成されているが、同断面においてスリットを軸線Oに斜交する方向に形成してもよい。ただし、この場合には、上記カッタや研削砥石でスリットを形成するのは困難となるため、上述したようなボールエンドミルを用いてスリットを形成するのが望ましい。
【0041】
また、これら第1、第2の実施形態では、切刃3がインサート取付座5に着脱可能に取り付けられる切削インサート6に形成された、刃先交換式の正面フライスに本発明を適用した場合について説明したが、本発明はソリッドやロウ付け式の切削工具に適用することも可能であるし、正面フライス以外の複数のチップポケットが形成された切削工具(転削工具)に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 工具本体
3 切刃
4 チップポケット
8 スリット
9 可撓部
10 調整手段
10A ネジ孔
10B 調整ネジ
O 工具本体1の軸線
T 工具回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転させられる円盤状の工具本体の先端部外周に複数のチップポケットが周方向に間隔をあけて形成されるとともに、このうち周方向に隣接する少なくとも2つの上記チップポケットの間には、これらのチップポケットに連通するスリットが上記軸線回りに延設されて、これらチップポケットとスリットとの間に可撓部が上記工具本体と一体に形成されており、この可撓部の先端には上記工具本体の先端側に突出する切刃が設けられるとともに、該可撓部を傾動させることにより上記切刃の突出量を調整する調整手段が備えられていることを特徴とする微調整式切削工具。
【請求項2】
上記スリットは、上記工具本体の全周に亙って延設されていることを特徴とする請求項1に記載の微調整式切削工具。
【請求項3】
上記スリットの対向する一対の壁面のうち、一方の壁面にはネジ孔が開口させられていて、上記調整手段は、このネジ孔にねじ込まれて他方の壁面に向けて出没可能とされた調整ネジであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微調整式切削工具。
【請求項4】
上記スリットは、上記工具本体の上記軸線に沿った断面において該軸線に垂直な方向に延びていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の微調整式切削工具。
【請求項5】
上記スリットは、上記工具本体の上記軸線に沿った断面において該軸線に平行に延びていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の微調整式切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111699(P2013−111699A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260048(P2011−260048)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】