説明

患者の骨領域内における骨形成を誘発する方法及び装置

【課題】 患者の骨領域内における骨形成を誘発する方法及び装置を提供する。
【解決手段】 上記方法および装置により少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) が発生せしめられ、集束され、かつビーム (3, 4) の焦点を同一骨領域 (1) の1点に正確に一致せしめながら該骨領域 (1) に指向せしめられ;上記骨領域 (1) に照射される超音波ビーム (3, 4) の出力、及び該骨領域 (1) に対する[照射による]作用の持続時間は、骨領域 (1) 自体内に、血腫 (haematoma) 及び/または局所の炎症及び/または一連の微小骨折が発生し、それに続いて骨形成のメカニズムが賦活されるように選定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の骨領域内における骨形成を誘発する方法及び装置に関する。
【0002】
骨粗しょう症被検者(osteoporotic subjects) における、特に大腿骨に関する骨折の問題は、社会、健康及び人間的分野では非常に重要である。
過去30年間に、世界的な人口の高齢化と生活様式の変化のために、指数関数的な臨床例の増加と、その結果である社会的コストの増大が記録されている。
かかる現象は、かつては特に西洋ならびに北米諸国に関するものであった(経済的な豊かさが共有されていた故に)が、いまや東洋諸国にも蔓延しつつある。
さらに、かつては圧倒的多数が女性に関係していた大腿骨骨折が、今日では広く男性人口をも侵しつつある。
【背景技術】
【0003】
医学分野における予防的な試み(骨粗しょう症防止、及びカルシウム再沈着に関する内容の)が幾つかあるものの、大腿骨骨折の統計データの改善に成功したものはない。
問題の範囲を縮小させる試みとして、最も特発性大腿骨骨折 (spontaneous femural fracture) を起こし易い骨領域を補強する「支持器 (support)」システムが提案されている。このシステムは、[骨粗しょう症の]結果として大腿骨骨折が起こったものか否かを骨密度測定 (bone densitometry estimation) によって評価した後に、予防目的で金属製の「釘 (nail)」を[上記骨領域内に]導入することで構成されている。
前記の方法は、極度に侵襲性(invasive) であり、医療上及び法規上のリスクが伴うため、追随されていない。
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、患者の、特に大腿骨頚部に関連する骨領域における骨形成を誘発する方法及び装置を提供することであり、この領域(ウォード三角)は、骨粗しょう症に起因する特発性骨折を起こす頻度が最も高い部位である。
本発明は、請求項1、または直接もしくは間接に請求項1に従属する各従属請求項に記載されている、患者のある骨領域に骨形成を誘発する方法に関する。
また本発明は、請求項6、または直接もしくは間接に請求項6に従属する各従属請求項に記載されている、患者のある骨領域に骨形成を誘発する装置に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
図中の (1) は、治療を施されるべき患者の骨の部分であり、この例は大腿骨の上部(大腿骨頚部)を示す。
(2) は、少なくとも2本の集束された超音波ビーム (3, 4) を放射する装置を示す。超音波ビームは、図示されていない態様で相補的に結合されている放射エレメント (5, 6) のそれぞれにより、周知の方法で放射され、集束される。
【0006】
放射エレメント(5, 6) は、周知形式のパワーエレメント (7) の操作によって任意の方向に移動することができ、上記パワーエレメントはコンピュータ化されたユニット (8) を操作する施術医 (operator) によって、周知の、後に明らかにされるモードで活性化される。
放射エレメント (5, 6) を移動させる代わりに、パワーエレメント (7) によって、集束された超音波ビーム (3, 4) の焦点位置を修正 (modify) する能力を有する何等かの機械的または光学的手段の位置を変えることもできることは明らかであろう。
【0007】
最近の[複数の]研究により、骨の再生プロセスは二つのタイプの骨形成から成ることが習得され、例証されている。第1は静的タイプ、第2は動的タイプであり、本発明によれば、装置 (2) の使用によって、患者の骨領域内、特に統計上骨粗しょう症による特発性大腿骨骨折 (spontaneous femural fracture) を最も起こし易い区域内にある、大腿骨頚部 (1) と呼ばれる領域(ウォード三角)内に、局部的な微細損傷を誘発させると判断され、また骨の再生プロセスは実質的に通常の骨組織発生 (bone histogenesis) の事象の連続 (event sequence) に応答することが実証されていると考えられている。
【0008】
骨形成プロセスは、静的骨形成と動的骨形成の2種の体系に従う。
骨損傷[が起こった部位]の周辺ならびに内部には、血腫期 (haemathoma phase) 及び炎症プロセスの後に、血管に富む結合組織の存在が認められる。その後、血管周囲の領域内に安定な骨芽細胞の索状構造体 (osteoblast cords) が認められる。これら骨芽細胞の索状構造体は移動せず、それらが分化したと同一の部位で骨細胞に変化し、骨細胞索 (bone trabecula) の起源となる。これが静的骨形成である。
【0009】
一方、典型的な遊走性骨芽細胞 (floating osteoblast) は、静的骨形成によって生成する骨細胞索の表面に層を形成し、細胞索を太くする。これが動的骨形成である。
これら骨形成の両方のタイプでは、正常な状態と病的な状態に影響を及ぼす作用原因 (signal) も因子も異なることが評価できる。
静的骨形成は誘導的な諸因子に依存し、動的骨形成は主として機械的な刺激に依存する。
【0010】
大腿骨頚部 (1) 内のある部分(例えば部分 (9))を、装置 (2) を用い、集束されてそれ自体が焦点近傍の上記部分に向かって収斂する超音波ビーム (3, 4) で「加撃する (hit)」ことによって、大腿骨頚部領域 (1) 内に計算された一連の「微細骨折 (micro-fractures)」を誘発することが可能であり、該領域の近傍では上に述べた2種の骨形成メカニズムが賦活されるであろう。
集束された[2本の]超音波ビーム (3, 4) は、施術医 (operator) によって選択された正確なポイントに到達して重なり合う時、共鳴効果と共に熱効果を発生させ、それらによって血腫及び局所的な炎症が誘発される。
【0011】
このプロセスは、コンピュータ化されたユニット (8) によってチェックされ得ることが好ましい。このユニットは、集束されたビーム (3, 4) の出力をきわめて精密に調節し、大腿骨頚部の特発的骨折を起こすに至るような抵抗力の弱い領域 (less-resistance zones) の発生を回避する。
骨粗しょう症に罹っている大腿骨を超音波による「射撃 (firing)」の相次ぐ複数回のセッションに曝すならば、罹患部分は支持骨 (bearing bone) としての、その強靭な超微細構造を回復するであろう。
【0012】
骨領域 (1) は、装置 (2) を活性化させる施術医が集束された超音波ビーム (3, 4) の作用を受ける骨部分を明瞭に視認することができるように、X線透視法 (radioscopy) によって画像表示されることが好ましい。
また、それに代わる一例として、MRI装置を用いて骨領域 (1) を画像表示することもできるであろう。
【0013】
好ましくは、X線透視システムまたはMRI装置の画像表示は周知の方法で、参照[データ]を供給されているコンピュータ化されたユニット (8) にフィードされる。これは、コンピュータ化されたユニット (8) 自体に画像表示されているポイントそれぞれの座標を「認知」し、X線透視またはMRIの結果をヴィデオ端末 (11) によって示す能力を持たせるためである。同様に、超音波ビーム (3, 4) の焦点が一致する位置が同じヴィデオ端末 (11) 上で1秒ごとに明瞭に確認され、視覚化されることも有利であろう。
【0014】
ビーム (3, 4) に加撃されるべき点と領域の座標も、収束されたビーム (3, 4)が交差する1点 (10) の座標も、それらは装置 (2) の寸法に特異的な値 (dimensional features) である故に既知であり、かつ上記点と領域[訳注:原文は the points and zones で、ビームが交差する the point (10) は含まれないと解されます]がヴィデオ端末 (11) に画像表示されるならば、コンピュータ化されたユニット (8) に連結された操作レバー (joystick) のような操作エレメント(図示されていない)によって作業を行う施術医にとって、パワーエレメント (7) を介して放射エレメント (5, 6) の移動を調整し、[ビームが交差する]点 (10) を大腿骨頚部 (1) 内の、ビーム (3, 4) が作用を及ぼさねばならない[複数個所の]点に合致せしめることは容易であろう。
そのような仕方によって、大腿骨頚部 (1) 内に上述の計算された一連の微小骨折を発生せしめるべく、適切に決定された出力を有する超音波ビーム (3, 4) を発生させることが可能であろうし、微小骨折に続いて先に述べた骨形成メカニズムが賦活されるであろう。
所望により、装置 (2) は1本だけのビーム (3, 4) 、あるいは2本よりも多い任意の数の集束された超音波ビームを1点に収斂せしめるように準備することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明を、添付の図面をもとに説明する。添付図面は、限定的ではない一実施例を模式的に説明したものである。
【符号の説明】
【0016】
1 骨領域
2 装置
3,4 超音波ビーム
5,6 放射エレメント
7 パワーエレメント
8 コンピュータ化されたユニット
9 部分
10 [ビームが交差する]点
11 ヴィデオ
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の骨領域内における骨形成を誘発する方法であって、
− 少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) を発生せしめる段階と;
− 上記超音波ビーム (3, 4) を集束せしめる段階と;
− 上記超音波ビーム (3, 4) を患者の骨領域 (1) に指向させ、該ビーム (3, 4) の焦点自体を計算された骨領域 (1) に一致せしめる段階と;を含んで成り、かつ
− 上記骨領域 (1) に照射される上記超音波ビーム (3, 4) の出力、及び上記骨領域 (1) に対する[超音波ビーム照射による]作用の持続時間は、骨領域 (1) 自体内に、血腫及び/または局所の炎症及び/または一連の微小骨折が発生し、それに続いて骨形成のメカニズムが賦活されるように選定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
2本の集束された超音波ビーム (3, 4) を発生させ、前記計算された骨領域 (1) に収斂せしめることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
骨領域 (1) がX線透視され、そのX線透視の結果が参照データを供給されているコンピュータ化されたユニット (8) に連結されているヴィデオ端末 (11) によって画像表示される結果、上記コンピュータ化されたユニット (8) 自体がX線透視それ自体によって視覚化されるポイントそれぞれの座標を認知する能力を有しており、かつ前記少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) の焦点位置が1秒ごとに明瞭に確認され、同一ヴィデオ (11) 画像内に表示されることを特徴とする請求項1 又は2に記載の方法。
【請求項4】
骨領域 (1) がMRI装置によって診査 (explore) され、その診査の結果が参照[データ]を供給されているコンピュータ化されたユニット (8) に連結されているヴィデオ (11) によって画像表示され、而して画像表示の仕方は同一のコンピュータ化されたユニット (8) が画像表示されるポイントそれぞれの座標を認知し、かつ前記少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) の焦点位置1秒ごとにが明瞭に確認され、同一ヴィデオ (11) 画像内に視覚化されるものであることを特徴とする請求項1又は 2に記載の方法。
【請求項5】
1人の施術医が、前記少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) の焦点位置を修正 (modify) し、前記骨領域 (1) 内の前記計算されたポイントと一致させることができることを特徴とする請求項3 又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記施術医が、前記少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) の伝播方向を、コンピュータ化されたユニット (8) に連結されている1個の操作レバーを動かして修正(modify) できることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
患者のある骨領域内における骨形成を誘発するための装置であって、
− 少なくとも1本の集束された超音波ビーム (3, 4) を発生させ、該超音波ビーム (3, 4) を上記骨領域 (1) に指向させ、ビーム (3, 4) 自体の焦点を上記骨領域 (1) 自体の計算された1点と一致させるための放射器手段 (emitter means) (5, 6) を含んで成り;かつ
− 上記骨領域 (1) に照射される上記超音波ビーム (3, 4) の出力、及び上記骨領域 (1) に対する[超音波ビーム照射による]作用の持続時間は、上記骨領域 (1) 自体内に血腫及び/または局所の炎症及び/または一連の微小骨折が発生し、それに続いて骨形成のメカニズムが賦活されるように選定されることを特徴とする装置。
【請求項8】
前記少なくとも1本の集束された超音波ビーム (3, 4) の伝播方向を修正するためのパワー手段 (7) を含んで成ることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記骨領域 (1) の計算された1点に向かって収斂する前記集束された超音波ビーム (3, 4) の数が2本であることを特徴とする請求項7 〜 8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
請求項7 〜 9のいずれか1項に記載の装置であって、
− 1基のコンピュータ化されたユニット (8) を含んでおり、それに1基のヴィデオ (11) が連結されていること;
− 使用中に、前記骨領域 (1) がX線透視に付されること;
− X線透視の結果が参照[データ]を供給されている上記ヴィデオ (11) によって画像表示され、その結果、コンピュータ化されたユニット (8) が自力でX線透視法自体を介して画像表示されるそれぞれのポイントの座標を確認すること;及び
− 前記少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) の焦点位置が1秒ごとに明瞭に確認され、上記ヴィデオ (11) 上に画像表示されることを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項7 〜 9のいずれか1項に記載の装置であって、
− 1基のコンピュータ化されたユニット (8) を含んでおり、それに1基のヴィデオ (11) が連結されていること;
− 使用中に、前記骨領域 (1) がMRI装置によって診査されること;
− MRI診査の結果が参照[データ]を供給されている上記ヴィデオ (11) によって画像表示され、その結果、コンピュータ化されたユニット (8) が自力で、画像表示されるそれぞれのポイントの座標を認知すること;及び
− 前記少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) の焦点位置が1秒ごとに明瞭に確認され、画像表示されることを特徴とする装置。
【請求項12】
使用中に、前記少なくとも1本の超音波ビーム (3, 4) の焦点位置を修正し、前記骨領域 (1) 内の計算された1点に重ねるための制御手段を含むことを特徴とする請求項10 〜 11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記制御手段が、前記コンピュータ化されたユニット (8) に結合され、1人の施術医によって動かされる操作レバー (joystick) を含むことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
患者のある骨領域に骨形成を誘発するための、請求項1 〜 6のいずれか1項に記載の方法であって、上記骨領域 (1) が大腿骨頚部(ウォード三角)であることを特徴とする方法。
【請求項15】
患者のある骨領域に骨形成を誘発するための、請求項7 〜 13のいずれか1項に記載の装置であって、上記骨領域 (1) が大腿骨頚部(ウォード三角)であることを特徴とする装置。

【公表番号】特表2009−531103(P2009−531103A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502059(P2009−502059)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052881
【国際公開番号】WO2007/113161
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508291641)
【Fターム(参考)】