説明

意匠シートの製造方法及び意匠シート

【課題】エンボス形状が崩れることを抑制することにより、優れたエンボス形状を有するエンボス内包タイプの意匠シートの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】凹凸表面を有するエンボスシートに、塗膜表面が前記凹凸表面の複数の凸部の頂を含む仮想平面と略同一面になるように塩化ビニル系樹脂ペーストゾルを塗布する塗布工程と、塗布された前記ペーストゾルを、気相中において加熱することにより、完全ゲル化せず、かつ、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化させる不完全ゲル化工程と、前記ゲル化されたペーストゾルの表面に光透過性塩化ビニル系樹脂シートを積層し、加熱加圧成形することにより、前記光透過性塩化ビニル系樹脂シートを圧着するとともに、前記不完全ゲル化されたペーストゾルを完全ゲル化させる加熱加圧工程と、を備えることを特徴とする意匠シートの製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材、天井材、壁面材等の内装建材や、家具表面材、電子機器等のハウジング材等として好ましく用いられる、エンボス調の意匠が付与された意匠シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表面に凹凸が形成されたエンボスローラで樹脂シートの表面をエンボス加工することにより得られる、表面が加飾された意匠シートが知られている。
【0003】
このようなエンボス加工された意匠シートを床材として用いた場合、床材の表面を人が通行することによりエンボス柄が磨耗するという問題があった。このような問題を解決するために、エンボス加工された表面に、エンボス加工面の保護層として透明樹脂層を設けた、エンボス内包タイプ(インナーエンボス)の床材が、従来から知られている。
【0004】
エンボス内包タイプの床材を製造する方法としては、エンボスシートのエンボス加工面に透明な樹脂シートを加熱圧着させることにより、透明な表層を形成してエンボスを内包させる方法が知られている。上記方法においては、熱硬化性樹脂から形成されるエンボスシート表面に、透明な樹脂シートを加熱圧着させる方法が広く知られている。
【0005】
しかしながら、熱硬化性樹脂によりエンボスシートを製造するには、未硬化の熱硬化性樹脂にエンボス版を用いて1枚ずつ、圧熱硬化させる必要があるために量産効率が悪く、また、熱硬化性樹脂を用いるために、柔軟なエンボスシートが得られず、得られた製品を巻回して保存する場合に巻回しにくくなる等のハンドリング性の問題や、後加工性が悪いという問題があった。
【0006】
上記のような問題点を解決するために、熱可塑性樹脂から形成されるエンボスシート表面に、透明な樹脂シートを加熱圧着させる方法も試みられている。しかし、このような方法によれば、熱可塑性樹脂から形成されるエンボスシート表面に、透明な樹脂シートを加熱圧着させる際に、その余熱によりエンボスシートが軟化してしまい、エンボス面が崩壊してしまうために、シャープなエンボス形状を保った、エンボス内包タイプの床材は得られなかった。
【0007】
上記問題点を解決する方法として、塩化ビニル樹脂からなるエンボスシート表面に透明性の塩化ビニルのペーストゾル(プラスチゾル)を塗布した後、該ペーストゾルをゲル化させることによりエンボス面に透明な樹脂層を形成させる方法も知られている。しかしながら、このような方法を用いてエンボス面を保護するための充分な厚みの樹脂層を形成する場合、ゲル化に多量の熱量が必要になる。特に、エンボスの凹凸差が大きい、例えば0.3mmを超えるようなエンボスが形成された塩化ビニル樹脂からなるエンボスシートに、塩化ビニルペーストゾルを塗布した後、凹部の深い部分に位置する塩化ビニルペーストゾルまで完全にゲル化させるためには、より多量の熱量が必要になる。そして、この場合には、ゲル化させる際の熱により表層の塩化ビニルが変色したり、エンボスの凹凸形状が熱により崩れてしまうという問題があった。また、凹凸差が小さい微細なエンボスが形成されたエンボスシートを用いる場合、細かな部分の凹凸が熱により崩れ易くなり、その形状を正確に維持することが困難であるという問題があった。
【0008】
また、例えば、下記特許文献1には、塩化ビニル樹脂からなるエンボスシート表面にウレタン系やエポキシ系の硬化型の耐熱樹脂シートからなるドライラミネート接着剤を貼り合わせ、さらに、その表面に塩化ビニルシートを張り合わせたのち、加熱加圧成形する方法が知られている。この方法によれば、エンボス形状がドライラミネート接着剤により保護されるために、エンボス形状の変形を抑制することができる。しかしながら、このように、ドライラミネート接着剤によりエンボス形状を保護する方法によれば、例えば0.3mmを超えるような深いエンボスが形成されたエンボスシートを用いた場合には、ラミネート状の接着剤を用いているために凹部の深部にまで接着剤が浸入せず、エンボス形状を充分に保護することができず、また、ドライラミネート接着剤が硬化性樹脂であるために柔軟なエンボスシートが得られないという問題もあった。
【特許文献1】実開昭62−170796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、塩化ビニル系樹脂からなるエンボスシートを用いた、シャープなエンボス形状を有するエンボス内包タイプの意匠シートの製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の意匠シートの製造方法は、塩化ビニル系樹脂シートから形成された、凹凸表面を有するエンボスシートに、塗膜表面が前記凹凸表面の複数の凸部の頂を含む仮想平面と略同一面になるように塩化ビニル系樹脂のペーストゾルを塗布する塗布工程と、塗布された前記塩化ビニル系樹脂ペーストゾルを、気相中において加熱することにより、完全ゲル化せず、かつ、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化させる不完全ゲル化工程と、前記ゲル化されたペーストゾルの表面に光透過性塩化ビニル系樹脂シートを積層し、加熱加圧成形することにより、前記光透過性塩化ビニル系樹脂シートを圧着するとともに、前記不完全ゲル化されたペーストゾルを完全ゲル化させる加熱加圧工程と、を備えるものである。このような製造方法によれば、ペーストゾルを必要最小限の厚みに塗布した後、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化させ、その後、積層される塩化ビニル系樹脂シートの加熱加圧成形時に、その熱を用いてペーストゾルを完全にゲル化させるために、ゲル化させる熱量を少なくすることができる。従って、エンボス形状の凹凸の高低差が大きい場合であっても、ペーストゾルのゲル化の際のエンボスの熱による崩れを引き起こすことがなく、エンボス形状の輪郭をシャープに保った外観性に優れたエンボス内包タイプの意匠シートが得られる。
【0011】
前記エンボスシート層は、メタリック調に着色されたものであることが、エンボス形状を立体的に見せる視覚的な効果が高い点から好ましい。
【0012】
また、前記ペーストゾルが酢酸ビニル単位を1〜10モル%含有する酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体と可塑剤とを主体とする塩化ビニル系樹脂ペーストゾルであることが低温ゲル化性に優れている点から製造が容易であり、また、ゲル化物の光透過性が高いために、外観性に優れた意匠シートが得られる点から好ましい。
【0013】
また、本発明の意匠シートは、塩化ビニル系樹脂シートから形成された、凹凸表面を有するエンボスシート層と、前記凹凸表面に、表面が前記凹凸表面の複数の凸部の頂を含む仮想平面と略同一面になるような厚みに形成された、可塑剤を含有する塩化ビニル系樹脂からなる光透過性のエンボス保護層と、前記エンボス保護層表面に形成され、光透過性塩化ビニル系樹脂シートから形成される表面保護層と、を備えるものである。このような意匠シートによれば、エンボス形状の凹凸の高低差が大きい場合であっても、エンボス形状の輪郭をシャープに保った外観性に優れたエンボス内包タイプの意匠シートが得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の意匠シートの製造方法によれば、エンボス形状を崩さずに、そのシャープな形状を維持したまま、エンボス形状を内包することができるために、優れた外観のエンボス内包タイプの意匠シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
はじめに、本実施形態の意匠シート1の構成の一例を図1を参照して説明する。
【0016】
本実施形態の意匠シート1は、基材2上に、塩化ビニル系樹脂シートから形成された、凹凸表面を有するエンボスシート層3と、前記凹凸表面に、表面が前記凹凸表面の複数の凸部の頂を含む仮想平面6と略同一面になるような厚みに形成された、可塑剤を含有する塩化ビニル系樹脂からなる光透過性のエンボス保護層4と、エンボス保護層4表面に形成され、光透過性塩化ビニル系樹脂シートから形成される表面保護層5と、を備えるものである。エンボスシート層3は、例えば所定の色に着色された塩化ビニル系樹脂シート層3aと、パール顔料が分散されたメタリック調の色調を有する塩化ビニル系樹脂シート層3bとの積層体とから構成されている。
【0017】
本実施形態の意匠シートの製造方法について、図2及び図3を参照して説明する。
【0018】
本実施形態において使用されるエンボスシート11は、厚み0.1〜0.5μm程度の塩化ビニル系樹脂シート、または、紙、織布、不織布、合板等の基材上に前記塩化ビニル系樹脂シートを張り合わせた構造の基材に支持された塩化ビニル系樹脂シートをエンボス加工することにより得られる。
【0019】
エンボス加工の方法は、特に限定されず、エンボス版を用いたバッチ処理方式により1枚ずつエンボス加工しても、表面にエンボス模様が形成されたエンボスロールを用いて連続処理してもよい。生産性の観点からは、エンボスロールを用いた連続処理が好ましい。エンボスロールを用いてエンボス加工する方法としては、エンボスロールと加圧ゴムロールとの間に、予め軟化処理された塩化ビニル系樹脂シートを通過させることによる、公知の方法が用いられる。
【0020】
エンボスシートに形成されるエンボス形状は、特に限定されず、その、柄や深さは、求める意匠に応じて設定される。エンボス形状としては、1mm以下、さらには、0.01〜1mm、とくには、0.1〜0.5mm程度の凹凸深さを有するものが好ましく用いられる。なお、本製造方法によれば、エンボス形状が塩化ビニル系樹脂のペーストゾルから形成されるエンボス保護層により保護されるために、0.3mmを超えるような深い凹凸形状を有するような場合でも、その形状が崩れにくく、そのためにエンボス形状のシャープな輪郭を保つことができる。
【0021】
エンボス加工される塩化ビニル系樹脂シートは、単層のものに限られず、複層の塩化ビニル系樹脂シートであってもよい。具体的には、例えば、意匠性を高めるために、それぞれ異なる着色が施された複数の塩化ビニル系樹脂シートを積層してなる複層の塩化ビニル系樹脂シートであってもよい。
【0022】
また、塩化ビニル系樹脂シートは、エンボス形状の視認性の観点から着色されていることが好ましく、特に、その最表層にパール顔料を分散させたメタリック調に着色された層を有する複層の塩化ビニル系樹脂シートが、エンボス形状を立体的に見せる視覚的な効果が高い点から好ましい。
【0023】
次に本製造方法における塗布工程を図2を参照しながら説明する。
【0024】
図2中、11は凸部14を有するエンボスシート、12は塩化ビニル系樹脂のペーストゾル、12aは不完全ゲル化されたペーストゾル、13はナイフコーター、15は加熱炉を示し、また、6は複数の凸部14の頂を含む仮想平面を示す。
【0025】
塗布工程においては、エンボスシート11に、エンボス形状を保護するためのエンボス保護層を形成するために、ペーストゾル12を塗布する。
【0026】
このとき、ペーストゾル12は、形成される塗膜の表面がエンボスシート11の有する複数の凸部14の頂を含む仮想平面6と略同一面になるように、例えば、ナイフコーター13により厚みを制御しながら塗布される。このように、塗布されるペーストゾル12の塗膜表面が、仮想平面6と略同一面となるように塗布することにより、エンボス形状を保護するために必要な最低限の厚みを維持することができる。また、このような厚みで塗膜を形成することにより、塗布されたペーストゾル12をゲル化させるための熱量が少なくすみ、そのために、エンボス形状が熱により崩壊することを抑制でき、また過熱による樹脂成分の変色等を抑制することができる。従って、エンボス形状の凹凸の高低差(深さ)が大きい場合であっても、エンボス形状を崩さす、また、厚みが厚すぎないために、深い部分の塩化ビニル系樹脂ペーストゾルも充分にゲル化させることができる。
【0027】
なお、仮想平面6と略同一面になるように塗布するとは、仮想平面6から、0.1mmの高さの範囲内程度の厚みになるように塗布することを意味する。塗布される厚みが厚すぎる場合には、ペーストゾル12を加熱してゲル化させる際に必要な熱量が大きくなり、エンボス形状が崩れやすくなり、また、樹脂成分が変色しやすくなる。また、塗布される厚みが薄すぎる場合には、エンボス形状を充分に保護できない。
【0028】
エンボスシートに、ペーストゾルを塗布する方法は、ナイフコーターに限定されず、例えばロールコーターを用いた公知の塗布手段等も用いることができる。
【0029】
ペーストゾル12としては、塩化ビニル系樹脂と可塑剤やその他安定剤等を含有するプラスチゾルや、さらに、溶剤で希釈して粘度調整されたオルガノゾル等、従来から、塩化ビニル系樹脂のペーストゾルとして知られたものが特に限定なく用いられる。
【0030】
ペーストゾルに含有される塩化ビニル系樹脂は、特に限定されないが、光透過性及び、低温ゲル化性に優れている点から、酢酸ビニル単位を1〜10モル%含有する酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体が好ましく用いられる。
【0031】
また、ペーストゾルに含有される可塑剤も特に限定されず、例えば、DOP、DBP等のフタル酸エステル等、従来から、塩化ビニル系樹脂ペーストの調製に用いられているものが特に限定なく用いられる。
【0032】
ペーストゾルに含有される可塑剤の量は特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、30〜70質量部含有されていることが、塗布時の粘度が高すぎず、また、形成されるエンボス保護層の柔軟性にも優れている点から好ましい。
【0033】
塩化ビニル系樹脂のペーストゾルは、加熱によりゲル化させたときに光透過性を有し、このようなペーストゾルを用いてエンボス保護層を形成することにより、外部からエンボス形状を視認することができる。
【0034】
このような、ペーストゾルの具体例としては、例えば、(株)カネカ製の酢酸ビニル共重合塩化ビニルペースト樹脂PCH−12や、東ソー(株)製の酢酸ビニル共重合塩化ビニルペースト樹脂リューロンペースト等が挙げられる。
【0035】
次に、図2に示すように、ペーストゾル12が塗布されたエンボスシート11を、加熱炉15内で加熱することにより、ペーストゾルを完全にゲル化せず、かつ、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化させる。
【0036】
このような不完全ゲル化工程は、塗布されたペーストゾル12を完全にゲル化させることを目的とするものではなく、塗布されたペーストゾル12が少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化させることを目的とするものである。
【0037】
塗布されたペーストゾルを完全にゲル化させるためには、多量の熱が必要になるために、ゲル化工程でエンボスシート表面の凹凸の輪郭が熱により崩れてしまい、正確にエンボス形状を保つことができなくなる。特に、深いエンボス形状を有するエンボスシートを用いる場合には、凹部の深部までゲル化させようとすると、特に多量の熱が必要になり、エンボス形状を正確に保つことが困難になる。
【0038】
本製造方法においては、塗布されたペーストゾルが、完全にゲル化せず、かつ、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化するように、気相中で加熱するために、加熱のしすぎによるエンボス形状の崩壊等の問題を抑制することができる。
【0039】
完全ゲル化せず、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化するための条件は、塩化ビニル系樹脂ペーストの種類や、エンボス形状等により最適化されるために、一義的に特定できないが、加熱の目安としては、塩化ビニル系樹脂のペーストゾルが白濁した状態になって、その表面の粘着性(タック)がなくなって固化する程度に加熱することが好ましい。その温度条件としては、100〜200℃、好ましくは、130〜160℃程度の温度で、1〜5分間程度加熱する条件が挙げられる。さらに、具体的には、例えば、加熱温度を145〜155℃程度に設定した場合においては、1〜3分程度、好ましくは2分程度の加熱条件が特に好ましい範囲として挙げられる。このような、不完全ゲル化工程は、気相中で行われ、通常、所定の温度に設定された流動式加熱炉等の加熱炉内に、所定の時間保持する手段等により行われる。
【0040】
次に、加熱加圧工程について図3を参照しながら説明する。
【0041】
図3中、11はエンボスシート、12aは不完全ゲル化されたペーストゾル、22は光透過性塩化ビニル系樹脂シート、23は基材となる塩化ビニル系樹脂シート、24は鏡面仕上げされた金属板、25は加熱プレス金型を示す。塩化ビニル樹脂シート23は、得られる意匠シートに厚みを付与する基材として必要に応じて積層されるものである。
【0042】
加熱加圧工程は、図3に示すように、不完全ゲル化されたペーストゾル12aの表面に、光透過性塩化ビニル系樹脂シート22を載置し、加熱加圧成形する工程である。この工程は、不完全ゲル化されたペーストゾル12aを加熱して完全にゲル化させてエンボス保護層を形成するとともに、形成されるエンボス保護層の表面に光透過性塩化ビニル系樹脂シート22を圧着するための工程である。
【0043】
光透過性塩化ビニル系樹脂シート22としては、内包されるエンボス形状を視認できる程度に光を透過させる材質及び厚みの塩化ビニル系樹脂シートであれば、特に限定なく用いることができる。具体的な厚みとしては、例えば0.1〜1mm程度の厚みが挙げられる。
【0044】
光透過性塩化ビニル系樹脂シート22は、得られる意匠シートの表面に物理的特性、化学的特性、生物学的特性、外観特性等の各種特性を付与するような処理が施されているものであってもよい。具体的には、抗菌性を付与するためにシート中に抗菌剤を含有させたり、帯電防止性を改良するためにシート中に各種帯電防止剤を含有させたり、耐汚染性を付与するために、フッ素系樹脂でコーティングしたりすること等により、機能性が付与されたものであってもよい。
【0045】
加熱加圧成形の方法としては、不完全ゲル化されたペーストゾル12aの表面に、光透過性塩化ビニル系樹脂シート22を載置する。そして、加熱プレス金型25を用いて、加熱加圧成形する。この加熱加圧工程においては、不完全ゲル化されたペーストゾル12aがその形状を充分に維持することができる程度にゲル化されているために、加熱加圧成形の際にエンボス形状が保護され、エンボス形状が崩壊することを抑制する。
【0046】
加熱加圧成形による加熱は、不完全ゲル化工程における、流動式加熱炉を用いるような気相中での加熱方式に比べて、温度制御が安定的である点からも好ましい。すなわち、流動式加熱炉を用いたような加熱方式においては、加熱媒体が気体であるために、温度制御が難しく、塗布されたペーストゾルを加熱炉のみで完全にゲル化させようとすると、加熱しすぎて、表面に変色が生じたり、エンボスが崩れることがある。このために、本製造方法においては、塗布されたペーストゾルを、予め気相中で加熱することにより、完全にゲル化せず、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化させておき、さらに、加熱加圧成形により完全にゲル化させる。加熱加圧工程による加熱によれば、プレス板が熱媒体になるために温度制御がしやすく、加熱しすぎることがない。従って、塩化ビニル系樹脂の熱劣化を抑制しながらペーストゾルを完全にゲル化することができる温度、具体的には、130〜160℃、好ましくは145〜155℃のような比較的低い温度を安定的に維持できる。このために、深いエンボスを有するエンボスシートを用いた場合であっても、温度を高めすぎずに、加熱時間を長くすることで、エンボスの深い部分にも熱を供給することができる。
【0047】
このように、加熱加圧工程は、光透過性塩化ビニル系樹脂シートを張り合わせるための工程であるとともに、不完全ゲル化工程で不完全にゲル化された塩化ビニル系樹脂のペーストゾルの2次加熱の工程でもある。すなわち、光透過性塩化ビニル系樹脂シートを張り合わせる際の熱を利用して、ペーストゾルを完全にゲル化させるものである。
【0048】
このような加熱加圧工程により、光透過性塩化ビニル系樹脂シートが張り合わせるとともに、ペーストゾルを完全にゲル化させて透明なエンボス保護層が形成され、内包されたエンボス形状が透けて見える、立体感のあるエンボス形状を視認できる意匠シートが得られる。
【0049】
このようにして得られる意匠シートは、床材、天井材、壁面材等の内装建材や、家具表面材、電子機器等のハウジング材等として好ましく用いられる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
ガラス不織布で補強された厚み0.75mmの塩化ビニルシート(再生塩化ビニルシート)と、着色を施した厚み0.2mmの塩化ビニルシートと、パール顔料を含有する厚み0.1mmのメタリック調塩化ビニルシートとを順に積層した積層体を形成し、150℃に設定されたヒートドラムロールに上流側からその積層体を供給して加熱加圧成形することにより張り合わせ、引き続き、ヒートドラムロールの下流側に設けられた深さ0.3〜0.5mmのエンボス形状が表面に形成されたエンボスロールに供給することによりエンボスシート11を作成した。
【0051】
次に、図2に示すように、エンボスシート11表面に塩化ビニル樹脂のペーストゾル12を、塗膜表面の高さがエンボスの凸部の頂を含む仮想平面6と略同一面の高さになるように、ナイフコーター13の刃先がエンボスの凸部14に当接するように調整して塗布した後、150℃に設定された加熱炉15に2分間通過させることにより部分的にゲル化させた。なお、塩化ビニル樹脂ペーストゾル12は、酢酸ビニル共重合塩化ビニルペースト樹脂((株)カネカ製のPCH−12)100質量部とDOP45質量部とを混練することにより調製したものを用いた。
【0052】
なお、塗布され、部分的にゲル化されたペーストゾル12aは、流動せずにその形状を充分に維持しており、その表層部は粘着性を有さないゲル化された状態で、その内層部は完全にゲル化されていないために白濁が認められた。
【0053】
そして、得られたシートを冷却後、所定の寸法にカットした。そして、図3に示すように、カットされたエンボスシート11上に厚み0.2mmの透明塩化ビニル樹脂シート22(大洋化学製)を配置し、またエンボスシート11の下に、さらに、厚み1.25mmの再生塩化ビニルシート23を配置し、また、透明塩化ビニル樹脂シート22の表面に鏡面仕上げされた金属板24を介在させて、プレス圧4Kgf/cm、加熱温度150℃の条件で単板プレス成形することにより、総厚2.5mmのエンボス内包タイプの意匠シートが得られた。
【0054】
得られた意匠シートには、シャープなエンボス形状が観察された。このエンボス形状は、エンボスシート11のシャープなエンボス形状がほぼそのまま維持された、立体感と深みのある表情を備えた美感に優れた意匠であり、床材等に好ましく用いられる質感が認められた。
【0055】
(比較例1)
実施例1の意匠シートの製造において、厚み0.2mmの透明塩化ビニル樹脂シートを表面に圧着させる代わりに、塩化ビニル樹脂ペーストゾルを0.2mm分厚みを増して塗布し、完全にゲル化させた以外は、同様にして意匠シートを得た。なお、塩化ビニル樹脂ペーストゾルによる樹脂層の形成は、次のように行った。すなわち、エンボスシート表面に塩化ビニル樹脂ペーストゾルを塗布する際に、塗膜表面がエンボスの凸部の頂を含む仮想平面から0.2mmの高さに位置するように、ナイフコーターの刃先をエンボスの凸部から0.2mmの隙間ができるようにクリアランスを調整して塗布した後、180℃に設定された加熱炉に3分間通過させることにより完全にゲル化させた。なお、塩化ビニル樹脂ペーストゾルを完全にゲル化することにより、透明な樹脂層が形成された。
【0056】
得られた意匠シートには、エンボスシート11が有していたシャープな形状が維持されず、熱によりその輪郭が大きく崩れており、シャープなエンボス形状は観察されなかった。また、エンボス形状の立体感は乏しかった。
【0057】
(比較例2)
比較例1において、加熱炉の温度を150℃、加熱時間を5分にした以外は、比較例1の意匠シートの製造と同様にして意匠シートを製造した。
【0058】
得られた意匠シートは、エンボスの形状は崩れていないものの、塗布された塩化ビニル樹脂ペーストゾルが完全にゲル化しておらず、白濁していた。従って、外部から、内部のエンボス形状が明瞭に視認できなかったために、エンボス形状の立体感が乏しいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態の意匠シートの構成の一例を示す断面模式図である。
【図2】本実施形態の塗布工程を説明するための模式図である。
【図3】本実施形態の加熱加圧工程を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1 意匠シート
2 基材
3 エンボスシート層
3a 着色された塩化ビニル系樹脂シート層
3b メタリック調の色調を有する塩化ビニル系樹脂シート層
4 エンボス保護層
5 表面保護層
6 仮想平面
11 エンボスシート
12 ペーストゾル
12a 不完全ゲル化されたペーストゾル
13 ナイフコーター
14 凸部
15 加熱炉
22 光透過性塩化ビニル系樹脂シート(透明塩化ビニル樹脂シート)
23 塩化ビニル樹脂シート(再生塩化ビニルシート)
24 金属板
25 加熱プレス金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂シートから形成された、凹凸表面を有するエンボスシートに、塗膜表面が前記凹凸表面の複数の凸部の頂を含む仮想平面と略同一面になるように塩化ビニル系樹脂のペーストゾルを塗布する塗布工程と、
塗布された前記ペーストゾルを、気相中において加熱することにより、完全ゲル化せず、かつ、少なくとも流動せずにその形状を充分に維持することができる程度にゲル化させる不完全ゲル化工程と、
前記不完全ゲル化されたペーストゾルの表面に光透過性塩化ビニル系樹脂シートを積層し、加熱加圧成形することにより、前記光透過性塩化ビニル系樹脂シートを圧着するとともに、前記不完全ゲル化されたペーストゾルを完全ゲル化させる加熱加圧工程と、を備えることを特徴とする意匠シートの製造方法。
【請求項2】
前記エンボスシートがメタリック調に着色されたものである請求項1に記載の意匠シートの製造方法。
【請求項3】
前記ペーストゾルが酢酸ビニル単位を1〜10モル%含有する酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体と可塑剤とを主体とする塩化ビニル系樹脂ペーストゾルである請求項1または2に記載の意匠シートの製造方法。
【請求項4】
塩化ビニル系樹脂シートから形成された、凹凸表面を有するエンボスシート層と、
前記凹凸表面に、表面が前記凹凸表面の複数の凸部の頂を含む仮想平面と略同一面になるような厚みに形成された、可塑剤を含有する塩化ビニル系樹脂からなる光透過性のエンボス保護層と、
前記エンボス保護層表面に形成され、光透過性塩化ビニル系樹脂シートから形成される表面保護層と、を備えることを特徴とする意匠シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−307734(P2008−307734A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156116(P2007−156116)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】