説明

成型触媒の製造方法

【目的】 気孔を有し成型性に優れ機械的強度の高い成型触媒の製造。
【構成】 触媒原料組成物、ポリビニールアルコール、吸水能140重量倍以下の樹脂及び水を混練した後、押出し成型する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は気孔を有し、成型性に優れ、かつ機械的強度の高い成型触媒の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、工業的に用いられる成型触媒は、触媒原料組成物と成型助剤とを混合し、成型した後に熱処理して使用されるが、これを輸送したり、反応器に充填する際に粉化・崩壊することがない機械的強度を有する必要がある。
【0003】成型触媒の機械的強度を上げる方法としては、触媒原料組成物に成型助剤を添加した乾式打錠成型法が挙げられる。例えば、特公昭56−38261号公報にはタルクとグラファイトを添加成型する方法が提案されている。しかし、乾式打錠成型法は、触媒に強度を持たせるために成型圧力を上げると、反応やガスの拡散に有効な細孔を潰し易いという欠点を有する。
【0004】これを解決する方法として押出成型法が挙げられる。押出成型するに際しては、種々の成型助剤が用いられており、例えば、特開昭60−150834号公報には成型助剤としてグラファイトを添加する方法、特公平2−36296号公報にはウィスカを添加する方法が提案されている。これらの成型助剤を添加したものは、押出成型を行うことにより機械的強度に優れた成型触媒が得られることを報告している。
【0005】しかしながら、これらの公報には成型性についての記載は見られない。また、特公昭63−22187号公報には吸水能が150重量倍以上の樹脂と珪藻土を含有させて押出成型し、成型性に優れた触媒を得る方法を提案しているが、機械的強度の向上に対しての記載は見られない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、気孔を有し、成型性に優れかつ機械的強度の高い成型触媒の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、触媒原料組成物、ポリビニールアルコール及び吸水能が140重量倍以下の樹脂からなる成型助剤並びに水とを混練した後、押出成型することを特徴とする成型触媒の製造方法にある。
【0008】本発明に用いられる触媒原料組成物の種類については特に限定されるものではない。例えば、公知の不飽和アルデヒドを気相接触酸化して不飽和カルボン酸を製造する際の触媒、例えば、メタクロレインを酸化してメタクリル酸を製造する際の触媒として用いられる、リン、モリブデン、バナジウムを含むヘテロポリ酸をベースとした触媒や、また、アクロレインを酸化してアクリル酸を製造する際に用いられるモリブデン、バナジウムを含む触媒などが挙げられる。
【0009】本発明は成型助剤として、ポリビニールアルコールと吸水能が140重量倍以下の樹脂を用いる。ポリビニールアルコールとしては、水に溶解した形で使用されるので水溶性であれば特に限定はなく、例えば、ナカライテスク(株)製商品番号283−10,283−11、和光純薬(株)製160−03055等が挙げられる。
【0010】吸水能を持つ樹脂とは、水に溶解せず、水中(脱イオン水)において自重の最大140重量倍の水を吸収して膨潤するものである。吸水能を持つ樹脂には多くの種類が存在し、例えばポリアクリル酸ソーダ、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体ケン化物、澱粉−アクリル酸グラフト重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合架橋物、澱粉−アクリロニトリルグラフト共重合体などがある。
【0011】これらの中には吸水能が自重の1000重量倍以上になるものもあるが、本発明においては、特に吸水能が比較的小さい140重量倍以下の樹脂からなるものが必要である。吸水能が140重量倍を超えると成型触媒の機械的強度の点で好ましくない。吸水能の下限としては自重の70重量倍程度のものまで使用できる。
【0012】本発明においては成型助剤の添加量は特に制限はなく、目的に応じて任意に選択することができるが、触媒原料組成物100重量部に対して0.5〜10重量部の範囲、特に1〜5重量部の範囲で添加するのが好ましい。0.5重量部未満では押出時の成型性が悪くなる傾向にあり、また、10重量部を超えると成型触媒の機械的強度が低下する傾向にある。
【0013】本発明において、触媒原料組成物と成型助剤を混練する際に添加する水の量は、特に限定はなく、押出成型がスムーズにおこなえる範囲で適当量を添加すれば良い。
【0014】次いで混練物は、押出造粒機、真空押出機等の一般粒体用成型機を用いて、リング状、円柱状、円筒状、星型状等の任意の形状の触媒に押出成型する。
【0015】このようにして得られた押出成型触媒は次いで熱処理される。本発明においては熱処理条件には特に限定はなく、公知の処理条件を適用することができる。通常熱処理条件としては60〜150℃の温度で乾燥後、300〜500℃の温度で窒素や空気気流中で焼成される。このような熱処理により、反応に有効な気孔が形成されるものと予想される。
【0016】なお、本発明は上記混合の際に、従来公知の成型助剤をさらに添加しても差し支えない。ただしその添加量は、本発明が特定する成型助剤の効果を損なうほどにしてはならない。
【0017】以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。文中「部」とあるのは重量部を意味する。なお、成型触媒の機械的強度の測定は次の方法で行なった。圧壊強度:成型触媒一個の縦軸方向および縦軸垂直方向に荷重をかけ、ひび割れを生じたときの荷重を測定した。落下粉化率:垂直に立てた内径27mmで長さが5000mmの鉄パイプの上部から成型触媒2000g(a)を落下させ8メッシュの篩で受け止め、篩上に残った触媒の重量(b)を計り、次の式により落下粉化率を測定した。
【0018】
【数1】


【0019】また、成型触媒は外径5mm、内径2mm、平均長さ5mmとなるように切断し、各測定に用いた。
【0020】
【実施例】
[実施例1]パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム3.3部及び硝酸セシウム9.2部を純水100部に溶解した。これに85%リン酸8.2部を純水30部に溶解した溶液を加え、混合液を加熱しながら蒸発乾固した。得られた固形物を粉末状に粉砕し、この粉末100部にポリビニールアルコール(ナカライテスク製283−11)2部、吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダ3部と適量の水を加え、十分に混練した後、押出成型機より押出し切断した。この成型品を100℃で乾燥後、空気気流中380℃で5時間焼成して完成触媒を得た。この触媒原料組成物の押出時の成型性は表1に示すように極めて良好であり、また成型触媒の機械的強度も優れていた。
【0021】[実施例2]実施例1においてポリビニールアルコール、吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダの使用量をそれぞれ0.5部、1.5部にする外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0022】[実施例3]実施例1においてポリビニールアルコール、吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダの使用量をそれぞれ5.0部、4.0部にする外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0023】[実施例4]実施例1においてポリビニールアルコール、吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダの使用量をそれぞれ0.2部、0.5部にする外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0024】[実施例5]実施例1においてポリビニールアルコール、吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダの使用量をそれぞれ5.0部、6.0部にする外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0025】[実施例6]実施例1においてポリビニールアルコール、吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダの使用量をともに0.2部にする外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0026】[実施例7]パラモリブデン酸アンモニウム100部およびメタバナジン酸アンモニウム16.6部を純水1000部に溶解した。これに硝酸第二鉄21.0部を純水200部に溶解した溶液を加え、更に酸化ゲルマニウム1.0部を加えた。次に20%シリカゲル61.0部を加え、混合液を加熱撹拌しながら蒸発乾固した。得られた固形物を粉末状に粉砕し、この粉末100部にポリビニールアルコール(和光純薬製160−03055)2部、吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダ3部と適量の水を加え、十分に混練した後、押出成型機より押出し切断した。この成型品を130℃で乾燥後、空気気流中380℃で5時間焼成して完成触媒を得た。得られた結果を表1に示す。
【0027】[実施例8]実施例7において吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダの代わりに、吸水能が120重量倍のポリ酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体ケン化物を用いる外は同様にして押出成型を行なった。
【0028】
【表1】


【0029】[比較例1]実施例1においてポリビニールアルコールと吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダを共に用いない外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0030】[比較例2]実施例1においてポリビニールアルコールを用いない外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0031】[比較例3]実施例1において吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダを用いない外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0032】[比較例4]実施例1においてポリビニールアルコールの代わりに水溶性デンプンを用いる外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0033】[比較例5]実施例1においてポリビニールアルコールの代わりにヒドロキシプロピルセルロースを用いる外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0034】[比較例6]実施例1において吸水能が70重量倍のポリアクリル酸ソーダの代わりに吸水能が300重量倍のポリアクリル酸ソーダを用いる外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0035】[比較例7]実施例8において吸水能が120重量倍のポリ酢酸ビニル−アクリル酸エステルの代わりに吸水能が重量1000倍のポリ酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体ケン化物を用いる外は同様にして押出成型を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0036】
【表2】


【0037】表1、表2における成型性のランクづけの目安は次の通りである。
○ 押し出しがスムーズで歩留りが良い。
△ 押し出しがスムーズでなく、歩留りがやや悪く、混練物と水との分離が見られる。
× 押し出しが出来ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 触媒原料組成物、ポリビニールアルコール及び吸水能が140重量倍以下の樹脂からなる成型助剤並びに水とを混練した後、押出成型することを特徴とする成型触媒の製造方法。

【公開番号】特開平5−96183
【公開日】平成5年(1993)4月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−244363
【出願日】平成3年(1991)8月29日
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)