説明

成形方法および成形装置

【課題】耐力が大きく、かつ、延性に乏しいチタン合金材を、しごき加工ではなく、絞り加工によって、格別な熟練技術が無くても、成形できる技術を提供することである。
【解決手段】工具を用いた絞りスピニング成形によってチタン合金材が成形される絞りスピニング成形加工方法であって、高周波誘導加熱によって、前記工具による前記チタン合金材に対する作用点が、局所的に、加熱される加熱工程と、前記チタン合金材の外周側から内周側に向けての前記工具の移動により該チタン合金材の絞り変形が行われる変形工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、チタン合金材の絞りスピニング成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
純チタン材は、耐力が小さく、かつ、延性に富むことから、しごきスピニング成形(回転しごき加工をも含む)や絞りスピニング成形と言ったスピニング成形によって、加工することが行なわれて来た。
【0003】
しかしながら、チタン合金は、耐力が大きく、かつ、延性に乏しいことから、スピニング成形による加工は困難であると言われて来た。例えば、チタン合金材の絞りスピニングは、冷間では、不可能とさえ言われて来た。そこで、例えばTi−6Al−4V合金では、バーナー等の加熱手段でチタン合金材の全体を800℃程度にまで加熱し、この環境下で成形が行われて来た。ところが、このような技術では、チタン合金材のみならず、装置までもが高温に曝されてしまい、装置の寿命は短く、コストが高く付いていた。更には、作業性も悪い。かつ、チタン合金と他の材料との複合材の場合には、高温に加熱することが不可能なこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−38525号公報
【特許文献2】特開平5−104160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、「成形装置、特に成形ステップの前またはその間または後に板金を熱処理するスピニング装置において板金から加工物を成形する方法であって、前記熱処理が加工物の誘導加熱により前記成形装置で実施される方法」「本装置に次のように動作される。すなわち、加工物2を締め付けた後、直ちに熱処理を実施するかまたはスピニングローラー(図略)を用いて通常通りスピニングを実施するかのいずれかを行うことができる。熱処理を実施するときは、誘導加熱コイル5および急冷ノズル6は所定の方法により加工物2に向けて移動される。加工物はそのスピニング工程回転速度を維持するか異なる回転速度で駆動される。誘導加熱コイル5は開閉装置(図略)を介して作動され、さらに急冷ノズル6に対する給水(図略)が開放される。加工物2が誘導加熱コイル5の下方を通過するとき、加工物2は断面方向に要求された温度まで加熱され、次に引き続いて急冷ノズル6を通過させることにより直ちに急冷される。この工程は、加工物2が少なくとも1回転するまで実施される。このようにして、一部成形された加工物は、十分な変形または仕上げスピニングにおける所望の程度の歪硬化を実現するために溶体化処理が可能になる。完成した加工物は溶液熱処理が可能になり、さらに熱処理に起因するゆがみを除去するために他のスピニングステップが行われる。完成した成品は歪解放または球状化処理に課される。」の開示が有る。
【0006】
この特許文献1より、チタン合金材のスピニング成形を行う場合に、誘導加熱により加熱することを想像することが出来る。しかしながら、誘導加熱によって如何なる加熱が行われるかは不明である。更に、引用文献1の記載を参照して、絞りスピニング成形を行おうとしても、どうすれば良いかは判らない。
【0007】
特許文献2には、「素材板を二次成形品に、特に容器底部に金属スピニングする方法であって、前記素材板をその周囲で締め付けると共に仕上げ寸法が得られるまでクリアランス中に押し込める方法」「スピニングのための高温動作温度は二段加熱による素材板の再結晶化温度以下であり、全体の素材板は基本的には前記動作温度以下の第一温度に加熱されると共にその温度に保持され、さらに素材板の一部のみがスピニングの前に前記動作温度に加熱される上記素材板を二次成形品に金属スピニングする方法」「素材板は熱風を循環させることにより前記第一温度に加熱される上記の方法」「前記個々の部分は非コヒーレント光またはコヒーレント光(赤外)には動作温度に加熱される上記の方法」の開示が有る。但し、特許文献2に記載の有る金属材はAl合金のみである。チタン合金についての開示は皆無である。
【0008】
ところで、この特許文献2に開示の装置を用いて、チタン合金板でダクト類などを構成することは出来なかった。例えば、チタン合金板に亀裂と言った損傷が起きていた。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、耐力が大きく、かつ、延性に乏しいチタン合金材を、格別な熟練技術が無くても、絞り加工によって、成形できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
チタン合金をスピニング成形する場合の困難性についての検討が、本願発明者によって、鋭意、推し進められて行った。その結果、チタン合金は、耐力が大きく、かつ、延性に乏しいことに起因するからであることが判って来た。そこで、耐力を小さく、かつ、延性に富ませる為に、チタン合金を加熱した状態にてスピニング成形を試みた。ところが、予想に反して、出来た成形品には損傷が大きく認められた。この原因についての検討が更に推し進められて行った結果、チタン合金を全般的に加熱しているからであることが判って来た。すなわち、スピニング成形済みの個所も高温に加熱していた為、この成形済みの個所も耐力が小さくなっており、それ故、加工に伴うストレスによって損傷が起きていることが判った。そして、チタン合金材を加熱するにしても、成形済みの個所は出来るだけ速く加熱状態から開放されることが好ましいことが判った。つまり、加熱部位は、スピニング成形装置の工具が作用する作用点(作用点近傍)の局所的なものであることが大事であることが判った。
【0011】
このような知見に基づいて、本発明者により、次の発明が提案された。
すなわち、「棒状工具を用いたスピニング成形によってチタン合金材を成形する方法であって、スピニング成形に際して、高周波誘導加熱によって、前記棒状工具による前記チタン合金材に対する作用点を局所的に加熱して成形する加熱成形工程を具備することを特徴とするチタン合金材スピニング成形方法」「棒状工具および成形型を用いたスピニング成形によってチタン合金材を成形する方法であって、スピニング成形に際して、高周波誘導加熱によって、前記棒状工具による前記チタン合金材に対する作用点を局所的に加熱して成形する加熱成形工程と、前記加熱成形工程による成形済個所が前記成形型に当接して該成形型からの放熱により該成形済個所が冷却される冷却工程とを具備することを特徴とするチタン合金材スピニング成形方法」「スピニング成形によってチタン合金材を成形するチタン合金材スピニング成形装置であって、前記成形装置は、所定形状の成形型と、棒状工具と、高周波誘導加熱装置とを具備してなり、前記成形型に配された前記チタン合金材に対して前記棒状工具を作用せしめる際、前記高周波誘導加熱装置によって前記棒状工具による前記チタン合金材に対する作用点が局所的に加熱されるよう構成されてなることを特徴とするチタン合金材スピニング成形装置」が提案された。
【0012】
この提案を基にして更なる検討が続行された結果、本発明が達成されるに至った。
【0013】
すなわち、前記の課題は、
工具を用いた絞りスピニング成形によってチタン合金材が成形される絞りスピニング成形加工方法であって、
高周波誘導加熱によって、前記工具による前記チタン合金材に対する作用点が、局所的に、加熱される加熱工程と、
前記チタン合金材の外周側から内周側に向けての前記工具の移動により該チタン合金材の絞り変形が行われる変形工程
とを具備することを特徴とするチタン合金材絞りスピニング成形加工方法によって解決される。
【0014】
又、前記チタン合金材絞りスピニング成形加工方法であって、好ましくは、工具がチタン合金材の面に対して交差する方向において所定の送りピッチで移動せしめられて変形工程が繰り返して行われることを特徴とするチタン合金材絞りスピニング成形加工方法によって解決される。
【0015】
又、前記チタン合金材絞りスピニング成形加工方法であって、好ましくは、チタン合金材は内周側においてマンドレルに当接していて該マンドレルからの放熱により該内周側のチタン合金材は冷却される冷却工程を具備することを特徴とするチタン合金材絞りスピニング成形加工方法によって解決される。
【0016】
又、前記チタン合金材絞りスピニング成形加工方法であって、好ましくは、工具の移動に伴って高周波誘導加熱用コイルが移動する移動工程を具備することを特徴とするチタン合金材絞りスピニング成形加工方法によって解決される。
【0017】
又、前記チタン合金材絞りスピニング成形加工方法であって、好ましくは、チタン合金材は高周波誘導加熱以外には加熱が行われないことを特徴とするチタン合金材絞りスピニング成形加工方法によって解決される。
【0018】
前記の課題は、
前記のチタン合金材絞りスピニング成形加工方法が実施される装置であって、
前記絞りスピニング成形加工装置は、
マンドレルと、
工具と、
高周波誘導加熱装置と、
チタン合金材の内周側において該チタン合金材を前記マンドレルに当接せしめた状態で該チタン合金材を回転させる手段と、
前記工具をチタン合金材の外周側から内周側に向けて移動させる手段
とを具備することを特徴とするチタン合金材の絞りスピニング成形加工装置によって解決される。
【0019】
前記の課題は、
絞りスピニング成形によってチタン合金材の絞りスピニング成形加工が行われる装置であって、
前記絞りスピニング成形加工装置は、
マンドレルと、
工具と、
高周波誘導加熱装置と、
チタン合金材の内周側において該チタン合金材を前記マンドレルに当接せしめた状態で該チタン合金材を回転させる手段と、
前記工具をチタン合金材の外周側から内周側に向けて移動させる手段
とを具備することを特徴とするチタン合金材の絞りスピニング成形加工装置によって解決される。
【発明の効果】
【0020】
高耐力チタン合金材が絞りスピニング成形により成形加工できるようになった。チタン合金材を絞りスピニング成形することは、これまで、困難とされて来た訳であるが、コストが嵩まない絞りスピニング成形技術が利用できるようになり、安価なコストでチタン合金製品が得られるようになった。
【0021】
本発明が採用した高周波誘導加熱にあっては、チタン合金材に発生する発熱量が誘導コイルとチタン合金材との距離の二乗に反比例するから、誘導コイルとの距離が近い個所では高い温度に加熱され、誘導コイルとの距離が遠い個所では殆ど加熱されなくなる。従って、誘導コイルを、チタン合金材の加工近傍位置に近接させて位置させたならば、絞りスピニング成形が行われる位置が局所的に加熱されるようになる。それ以外の部位での温度は比較的低いものとなる。この結果、加工済みの個所では、温度低下に伴って、チタン合金材の耐力は回復しており、損傷が起き難い。
【0022】
本発明では、チタン合金材に絞り成形加工を行う為のチタン合金材に当接する工具を、チタン合金材の外周側から内周側に向けて移動するようにした。絞り成形加工に際しては、図3に示される通り、これまで、被成形材の内周側から外周側に向けて移動させられるのが常であった。外周側から内周側に向けて移動させる例は、これまで、聴いたことが無い。ところが、本発明の如くにすることによって、チタン合金材に座屈などが起こり難く、皺なども起き難いものであった。
【0023】
これまでの絞りスピニング成形は、図3に示される通り、被加工材を空中で変形させ、型(マンドレル)に、徐々に、接近させ、最終的にマンドレルに沿った形状を作り上げるものであった。この空中での塑性変形は非常に不安定で、この為にヘラ(工具)絞りは職人技と言われて来た。しかしながら、本発明にあっては、格別な職人技が無くても、絞りスピニング成形が可能になった。
【0024】
チタン合金材を局所的に加熱する為には、誘導加熱方式の他にも、熱風吹付技術が考えられる。しかしながら、熱風吹付技術では、熱風吹付個所が局所的であっても、吹き付けられた熱風は四方に拡がってしまい、局所的な加熱が得られ難い。この為、本願発明が奏する特長が得られない。
【0025】
局所的な加熱方式としては、レーザービームのスポット照射も考えられる。しかしながら、工具(ヘラ)に邪魔されること無く、回転するマンドレルと共に回転するチタン合金材にレーザービームをスポット照射するのは、大変であり、更にはTi合金板における内層部までの加熱は行われ難く、従って耐力が低下し難く、加工特性は考えられる程には余り良く無く、実用化は程遠い。
【0026】
本発明は高価な設備を必要としない。簡単な設備によって、簡単、かつ、低廉なコストでチタン合金材の製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明になる絞りスピニング成形加工装置の概略図
【図2】本発明になるチタン合金材絞りスピニング成形加工工程での概略図
【図3】従来の絞りスピニング成形加工工程の概略図
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1の発明は成形加工方法である。特に、工具(例えば、へら:加工ローラ:ローラ部材)を用いた絞りスピニング成形によってチタン合金材(チタン合金板)が加工される絞りスピニング成形加工方法である。或いは、工具(例えば、へら:加工ローラ:ローラ部材)とマンドレル(型)とを用いた絞りスピニング成形によってチタン合金材が加工される絞りスピニング成形加工方法である。チタン合金は、好ましくは、高耐力チタン合金である。例えば、耐力が340MPa以上(特に、900MPa以上。1500MPa以下:前記値は25℃における値)のチタン合金である。ここで、高耐力チタン合金が好ましいとしたのは、高耐力チタン合金でなければ、本発明が採用されなくても、容易に成形加工できるからである。本方法は加熱工程を有する。加熱には高周波誘導加熱が採用される。すなわち、高周波誘導加熱によって、工具によるチタン合金材に対する作用点が、局所的に、加熱される。これにより、絞りスピニング成形加工に際して、チタン合金材の耐力が小さくなっているから、加工が行われ易い。かつ、加工が進行していない個所は高温でないことから、耐力が大きく、加工に際して、座屈なとが起こり難い。本方法は変形工程を有する。変形は工具の移動による。工具の移動は、チタン合金材の外周側から内周側に向けて行われる。これにより、チタン合金材の絞り変形が行われる。この絞り変形は、1回の変形工程で可能な場合もある。しかしながら、従来の絞りスピニング成形の場合と同様、何回も繰り返される。すなわち、チタン合金材の面(主面:平坦面)に対して交差(直交)する方向において、工具が所定の送りピッチで移動せしめられ、そして、前記と同様に、チタン合金材の外周側から内周側に向けて工具は移動させられる。本発明において、マンドレルが用いられる場合、好ましくは、チタン合金材は内周側においてマンドレルに当接している。そして、マンドレルからの放熱により内周側のチタン合金材は冷却されるようになっている。これにより、チタン合金材の外周側から内周側に向けて工具が移動させられる場合でも、内周側におけるチタン合金材の耐力が大きく、座屈が起き難い。すなわち、絞りスピニング成形加工に支障が起き難い。本発明においては、加熱は高周波誘導加熱によって行われる。加熱個所は工具による成形加工が行われる個所(成形加工が行われる近傍の個所:特に、これから、成形加工が行われようとする個所(近傍個所))である。と言うことは、加工(工具の移動)に伴って、加熱されるべき位置は変化する。従って、高周波誘導加熱用コイルが工具の移動に伴って移動(好ましくは、先に移動)するように構成させておくことが好ましい。すなわち、高周波誘導加熱用コイルが工具の移動に伴って移動する移動工程を具備することが好ましい。高周波誘導加熱用コイルは、例えばチタン合金材の未成形個所と工具との間に配置(セット)されることが好ましい。つまり、加工が終わった後側の個所よりも、これから加工が行われる前側の位置に対応して高周波誘導加熱用コイルが配置(セット)されていることが好ましい。本発明は、局所的な加熱を要件とすることから、基本的に、チタン合金材は高周波誘導加熱以外による加熱は行われない。
【0029】
第2の発明は成形加工装置である。好ましくは、前記チタン合金材絞りスピニング成形加工方法が実施される成形加工装置である。本装置はマンドレルを具備する。本装置は工具を具備する。この工具は、所謂、ヘラと称される工具である。或いは、加工ローラ(ローラ部材)であったりする。本装置は高周波誘導加熱装置を具備する。この高周波誘導加熱装置の誘導コイルによってチタン合金材は局所的な加熱が行われる。本装置はチタン合金材を回転させる回転手段を具備する。この回転手段は、チタン合金材の内周側において該チタン合金材を前記マンドレルに当接せしめた状態で該チタン合金材を回転させる。本装置は移動手段を具備する。この移動手段により、チタン合金材の外周側から内周側に向けて前記工具は移動させられる。これにより、絞りスピニングが行われる。
【0030】
前記本発明が用いられることにより、絞り加工が行われたチタン合金製品が得られる。例えば、ダクト類(径の変化、軸の非直線の異形ダクトなど)、容器類(円筒、楕円筒、多角形の容器、或いは段付き容器など)、バルクヘッド(浅い絞り容器、フランジ付きリブ等)が、簡単、低廉なコストで得られる。
【0031】
以下、本発明について、更に具体的に説明する。
【0032】
図1は、本発明になる絞りスピニング成形加工装置の概略図である。図2(a)(b)(c)(d)(e)(f)は、本発明になる絞りスピニング成形加工における工程図である。
【0033】
各図中、1は、マンドレル(金属製の型)である。
【0034】
2は、高耐力チタン合金(例えば、Ti−6Al−4V)板である。高耐力チタン合金板2の中央部(中心部)が、マンドレル1上に載置されている。そして、所定の回転駆動装置によるマンドレル1の主軸の回転に伴って、マンドレル1上に載置・挟持(高耐力チタン合金板2はマンドレル1と対向軸1bとで挟持)されている高耐力チタン合金板2は回転するようになっている。又、この挟持力によって、高耐力チタン合金板2の外側から内側に向かう力が作用しても、高耐力チタン合金板2にズレが起きることは無い。尚、図2では、マンドレル1と高耐力チタン合金板2とは離れて図示されているが、これは実際には当接している。
【0035】
3は、円錐台形状部3aを有する成形ローラである。この成形ローラ3には駆動装置(図示せず)が取り付けられている。すなわち、前記駆動装置により、成形ローラ3は、絞りスピニング成形に伴って移動する。例えば、前記駆動装置により、成形ローラ3は、高耐力チタン合金板2の面内において、その外周側から内周側に向けて(動径方向の中心に向けて)移動できるようになっている。かつ、前記動径方向の移動方向に対して垂直な方向(高耐力チタン合金板2の主面に対して、垂直な方向)にも移動できるようになっている。尚、図2では、高耐力チタン合金板2と成形ローラ3とは離れて図示されているが、これは実際には当接している。

【0036】
4は、高周波誘導加熱コイルである。この高周波誘導加熱コイル4は、成形ローラ3が取り付けられているアームから延在するアーム(図示せず)に取り付けられている。従って、成形ローラ3の前記移動(動径方向の移動、及びこれに垂直な方向の移動)に伴って、高周波誘導加熱コイル4も移動する。特に、成形ローラ3の位置の移動方向における向側位置(成形ローラ3が高耐力チタン合金板2に、これから(何秒か後に)、当接する位置)に高周波誘導加熱コイル4が位置しているようになっている。すなわち、成形ローラ3による絞りスピニング成形が行われるに前以て、高耐力チタン合金板2に対して、局所的な加熱が行われるよう高周波誘導加熱コイル4が配置されている。
【0037】
上記の如くに構成させた絞りスピニング成形加工装置による絞りスピニング成形加工について説明する。
【0038】
マンドレル1は軸芯の回りで回転している。従って、マンドレル1と対向軸1bとで挟持されている高耐力チタン合金板2も、マンドレル1の回転に伴って、回転している。この時、図2に示される如く、成形ローラ3(円錐台形状部3a)の側面が高耐力チタン合金板2に当接せしめられる。すなわち、先ず、図2(a)に示される如く、成形ローラ3(円錐台形状部3a)の側面が高耐力チタン合金板2の端部に当接せしめられる。そして、マンドレル1の軸芯側に向けて(図2(a)中、左側に向けて)、徐々に(ゆっくり)、移動させられる。この状態が図2(b)(c)(d)に示される。図2(d)は、成形ローラ3が高耐力チタン合金板2を間に挟んでマンドレル1に当接した時点である。そして、図2(d)の時点に到達すると、成形ローラ3は、駆動装置により、元の位置(図2(a)の位置)に復帰する。復帰後、高耐力チタン合金板2の主面に対して垂直方向(マンドレル1の軸芯方向)に所定のステップ長(図2(a)〜(d)の工程で高耐力チタン合金板2が変形した変形長)で成形ローラ3が移動させられる。この後、マンドレル1の軸芯側に向けて成形ローラ3は移動せしめられ、成形ローラ3(円錐台形状部3a)の側面が高耐力チタン合金板2に当接せしめられる(図2(e)参照)。この後、更に、成形ローラ3はマンドレル1の軸芯側に向けて移動せしめられる(図2(f)参照)。この後、前記工程(図2(b)〜(d)の工程)と同様な工程が繰り返して行われる。このようなステップで行われる本発明の絞りスピニング加工においては、図3に示される従来の絞りスピニング加工における空中での不安定な塑性変形が無く、従って格別な熟練技術が無くても実施できる。すなわち、絞りスピニング加工が非常に簡単に行える。
【0039】
本実施形態では、絞りスピニング加工に際して、特に、高周波誘導加熱用コイル4に高周波電流が流されており、高耐力チタン合金板2に対して局所的な加熱(誘導加熱)が行われている。すなわち、成形ローラ3(円錐台形状部3a)の側面が圧接している高耐力チタン合金板2が局所的に加熱される。ここで、局所的とは、円錐台形状部3aによる作用点(圧接点)の近傍個所である。尚、作用点近傍と謂えども、主として、作用点(圧接点)から高耐力チタン合金板2における未成形側の個所である。高耐力チタン合金板2における成形済側の個所と未成形側の個所とを対比すると、成形済側の個所は高周波誘導加熱用コイル4から相対的に遠くなっており、成形済側の個所が高周波誘導加熱により加熱される程度は相対的に低い。言い換えるならば、作用点(圧接点)及び未成形側の個所でも作用点に近い個所が、誘導加熱により、加熱されており、それ以外の個所は加熱されていないと言うことも出来る。
【0040】
そして、成形ローラ3(円錐台形状部3a)は、誘導加熱による高温によって耐力が低下し、かつ、延性が向上した個所(作用点:圧接点))に圧力(荷重)を与えることから、小さな力でも変形(成形)が引き起こされる。すなわち、小さな荷重で成形が行われる。そして、成形ローラ3荷重の低減は、高耐力チタン合金板2の表面荒れを押さえる結果となり、表面性が良い高品質な製品が得られた。
【0041】
さて、成形ローラ3(円錐台形状部3a)による荷重が掛かって高耐力チタン合金板2に加工が行なわれた後では、成形済側の個所は、成形の進行(成形ローラ3の移動)に伴って、高周波誘導加熱用コイル4から遠ざかって行く。この結果、成形済側の個所は加熱が行われなくなる。この結果、成形済側の個所の耐力は回復し、高耐力なものとなっている。そして、少々のストレスが加わっても、亀裂などの損傷は起こらない。
【符号の説明】
【0042】
1 マンドレル
2 チタン合金板
3 成形ローラ
4 高周波誘導加熱コイル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を用いた絞りスピニング成形によってチタン合金材が成形される絞りスピニング成形加工方法であって、
高周波誘導加熱によって、前記工具による前記チタン合金材に対する作用点が、局所的に、加熱される加熱工程と、
前記チタン合金材の外周側から内周側に向けての前記工具の移動により該チタン合金材の絞り変形が行われる変形工程
とを具備することを特徴とするチタン合金材絞りスピニング成形加工方法。
【請求項2】
工具がチタン合金材の面に対して交差する方向において所定の送りピッチで移動せしめられて変形工程が繰り返して行われる
ことを特徴とする請求項1のチタン合金材絞りスピニング成形加工方法。
【請求項3】
チタン合金材は内周側においてマンドレルに当接していて該マンドレルからの放熱により該内周側のチタン合金材は冷却される冷却工程
を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2のチタン合金材絞りスピニング成形加工方法。
【請求項4】
工具の移動に伴って高周波誘導加熱用コイルが移動する移動工程
を具備することを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかのチタン合金材絞りスピニング成形加工方法。
【請求項5】
チタン合金材は高周波誘導加熱以外には加熱が行われない
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかのチタン合金材絞りスピニング成形加工方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5いずれかのチタン合金材絞りスピニング成形加工方法が実施される装置であって、
前記絞りスピニング成形加工装置は、
マンドレルと、
工具と、
高周波誘導加熱装置と、
チタン合金材の内周側において該チタン合金材を前記マンドレルに当接せしめた状態で該チタン合金材を回転させる手段と、
前記工具をチタン合金材の外周側から内周側に向けて移動させる手段
とを具備することを特徴とするチタン合金材の絞りスピニング成形加工装置。
【請求項7】
絞りスピニング成形によってチタン合金材の絞りスピニング成形加工が行われる装置であって、
前記絞りスピニング成形加工装置は、
マンドレルと、
工具と、
高周波誘導加熱装置と、
チタン合金材の内周側において該チタン合金材を前記マンドレルに当接せしめた状態で該チタン合金材を回転させる手段と、
前記工具をチタン合金材の外周側から内周側に向けて移動させる手段
とを具備することを特徴とするチタン合金材の絞りスピニング成形加工装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192414(P2012−192414A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56171(P2011−56171)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(391006234)一般社団法人日本航空宇宙工業会 (45)
【出願人】(000232645)日本飛行機株式会社 (16)