説明

打抜機の打抜位置調整方法

【課題】稼動中における抜型の打抜荷重が適正範囲にあるよう保つことのできる打抜機の打抜位置調整方法を提供する。
【解決手段】抜型を取り付けた上部定盤1に対して面板を取り付けた下部定盤2を上下動させることにより、面板上を流すシート材を所定形状に打ち抜く打抜機の打抜位置調整方法であって、打抜毎にその時の打抜荷重の最大値をモニタし、下部定盤を上下動させて打抜位置を調整するための制御盤10を設けておき、その制御盤10に抜型の適正荷重範囲を入力することで自動で打抜位置を最適な位置に設定し、稼動中の打抜荷重が適正荷重の範囲を維持するように抜型の打抜位置をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブ状の紙やフィルムなどのシート材を製品形状に打抜加工するための打抜機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紙箱などを組み立てるためのブランクをシート材から打ち抜くときに打抜機が使用されている。この種の打抜機は、上下に相対する抜型と面板とを有し、面板の上にシート材を載置してその上から抜型を圧接することによってシート材からブランクを打ち抜くようになっている。
【0003】
上記の如き打抜機を使用してシート材からブランクを打ち抜く際、打抜ムラと呼ばれる打抜領域での切れ残しが生じることがあり、このような切れ残しは製品の品質に影響するとともに稼動効率を低下させる要因ともなっている。この打抜ムラの原因としては、抜型を取り付ける上部定盤と面板を取り付ける下部定盤の平行度や面精度の劣化、打抜位置の設定不良による荷重不足、抜型の刃潰れなどが挙げられる。そこで、従来は上部定盤及び下部定盤の面精度劣化対策としていわゆる「ムラ取り」が行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−71198号公報
【特許文献2】特開2005−23280号公報
【特許文献3】特開昭62−94297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は従来の打抜機の概略構成図、図2はその打抜機の要部を示す断面図である。これらの図に示すように、打抜機は、上部定盤1と下部定盤2を有し、固定された上部定盤1に対して下部定盤2がクランク機構3によって上下動するようになっている。上部定盤1の下面にはムラ取り台紙4を介して抜型5が取り付けられ、下部定盤2の上面にはクッション材6を介して面板7が取り付けられている。抜型5はベースプレートに切断刃と押罫が所定の配置で固定されたものであり、面板6は平坦な受け面となっているが、抜型5の押罫に対応する部分には溝が形成される。
【0006】
上記の打抜機を稼動させるに際しては、作業者がハンドル8を操作してクサビをずらすことでクランク機構4とともに下部定盤2を昇降させ、これによって最適と思われる打抜位置を予め設定する。しかしながら、打抜位置を正確に設定したとしても、稼動中に上部定盤1と下部定盤2の間に介在するムラ取り台紙4やクッション材6などが徐々に劣化して抜型5と面板7との間隔が広がり、打抜荷重が小さくなることで打抜ムラが生じる。また、作業者の位置設定ミスによる過負荷での稼動を行った場合、抜型の刃潰れを引き起こす。そのため、作業者には、抜型の打抜荷重に最適な打抜位置を設定するスキルが要求される。
【0007】
一方、サーボプレス機における下死点位置調整に関しては、プレス荷重及びスライダ移動量の検出器より、スライダの下死点位置をサーボモータで補正する機構が提案されている(例えば、特許第3692261号公報参照)。しかし、打抜機は、図1のようにクランク機構3にて一定の移動量で下部定盤2が上下動するようになっており、しかも1時間当たりの打抜速度が5000〜9000ショットと高速であることから、このサーボプレス機の技術を転用することはできない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、稼動中における抜型の打抜荷重が適正範囲にあるよう保つことのできる打抜機の打抜位置調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、抜型を取り付けた上部定盤に対して面板を取り付けた下部定盤を上下動させることにより、面板上を流すシート材を所定形状に打ち抜く打抜機の打抜位置調整方法であって、打抜毎にその時の打抜荷重の最大値をモニタし、下部定盤を上下動させて打抜位置を調整するための制御盤を設けておき、その制御盤に抜型の適正荷重範囲を入力することで自動で打抜位置を最適な位置に設定し、稼動中の打抜荷重が適正荷重の範囲を維持するように抜型の打抜位置をフィードバック制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業者が打抜位置を設定及び管理する必要がないため、作業負荷を軽減できるとともに作業者のスキルレス化を実現することができる。また、稼動中におけるムラ取り台紙やクッション材などの介在物劣化による適正荷重不足や、作業者による打抜位置設定ミスも防ぐため、打抜ムラや抜型の刃潰れの発生を防止することが可能となるため、製品品質や生産効率の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図3は本発明を実施する打抜機の一例を示す概略構成図である。この打抜機は、機構上は図1の打抜機と同様のもので、上部定盤1と下部定盤2を有し、固定された上部定盤1に対して下部定盤2がクランク機構3によって上下動するようになっている。また、図2と同様に、上部定盤1の下面にはムラ取り台紙4を介して抜型5が取り付けられ、下部定盤2の上面にはクッション材6を介して面板7が取り付けられている。抜型5はベースプレートに切断刃と押罫が所定の配置で固定されたものであり、面板7は平坦な受け面となっているが、抜型5の押罫に対応する部分には溝が形成される。
【0013】
そして、この打抜機には、図3に示すように、抜型5の適正荷重を入力するための制御盤10と、稼動中の打抜荷重をモニタするための荷重計11と、打抜位置を調整するための調整機構12とが設けられている。荷重計11は上部定盤1に取り付けられており、稼動中の打抜荷重は、打抜毎にその時の最大値として制御盤10からモニタするようになっている。また、調整機構12はモータを内蔵したもので、クランク機構3に取り付けられており、制御盤10からの指示により下部定盤2を上下動させることで打抜位置を調整する。
【0014】
この打抜機を使用してシート材を打ち抜く際に行われる打抜位置の設定手順を以下に述べる。
【0015】
まず、打抜機に抜型5を設置した後、その抜型5の情報を制御盤10へ入力する。ここでは、別システムにて試算した抜型5の適正荷重の範囲を入力するが、抜型5の情報(形状、刃長、CADデータなど)から適正荷重を試算するシステムを制御盤10に搭載してもよい。適正荷重は、図4(a)のように、抜型に掛かる「最大荷重:M」と「最小荷重:N」をそれぞれ設定するか、あるいは図4(b)のように、抜型に掛かる「適正荷重:A」と「許容範囲:±B」を設定する。また、この時点での打抜位置は、運転開始時の過負荷を防止するため、上部定盤1と下部定盤2の間隔が最大となる位置に自動的に回避させる。
【0016】
抜型情報の入力が完了した後、面板7の上にシート材を流さない状態で運転(空運転)を開始し、調整機構12により下部定盤2を上昇させながら、打抜荷重が適正荷重範囲の最小値となる位置に到達させる。その理由は次のとおりである。
【0017】
図5のXからYへと示すように、面板7上にあるシート材Sを打ち抜く場合、上部定盤1と下部定盤2の間隔が最小になる前にシート材Sが打ち抜かれ、上部定盤1と下部定盤2の間隔が最小となる時点ではシート材Sがない状態と同じになる。この打抜工程を図6のように変位−荷重曲線で表すと、シート材Sの実打抜荷重が1番目の極大値P1 として現れ、その後に上部定盤1と下部定盤2の間隔が最小となった時の抜型5と面板7との押付け荷重が2番目の極大値P2 として現れる。この1番目の極大値P1 と2番目の極大値P2 の大小関係は、打抜位置の設定に依存する。すなわち、上部定盤1と下部定盤2の間隔が狭い場合は、P1 >P2 となり、上部定盤1と下部定盤2の間隔が広い場合は、P1 <P2 となる。そのため、シート材Sを流さずに確実にシート材Sを打ち抜く条件を満たすには、面板7の上にシート材Sが無い状態の打抜荷重が適正荷重範囲の最小値以上となるように打抜位置を設定すればよい。
【0018】
その後、シート材Sを面板7の上に流し、実際の打抜荷重(各打抜での最大値)と入力した適正荷重範囲とを比較し、打抜荷重が適正荷重範囲を外れた場合、制御盤10にて調整機構12を駆動させて上部定盤1に対して下部定盤2が最適な打抜位置となるように調整する。すなわち、打抜荷重が適正荷重範囲の最大値より大きい場合は下部定盤2を降下させ、反対に打抜荷重が適正荷重範囲の最小値より小さい場合は下部定盤2を上昇させて打抜位置を調整する。
【0019】
ここで、打抜加工中に調整機構12を駆動させると、下部定盤2に掛かる荷重が大きいためモータに掛かる負荷が大きくなる。そこで、調整機構12の駆動タイミングを図7のように上部定盤1と下部定盤2の間隔(プラテン間隔)が広い領域、すなわち打抜加工しない領域のみに設定し、モータの負荷を軽減させる方がよい。上部定盤1と下部定盤2の間隔は、両者の間に変位計を設置するか、クランクシャフトの回転角にて検知する。また、モータの駆動量(位置調整量)は、予め打抜機の剛性曲線から求めたデータにより、荷重差に相当する駆動量に演算させるとよい。
【0020】
抜型情報の入力後にシート材Sを面板7の上に流さずに運転する目的は、打抜の条件出し用のシート材Sの使用枚数を削減することにある。したがって、条件出し用の枚数削減にこだわらない場合は、抜型情報の入力後にシート材Sを面板7の上に流しながら打抜位置の調整を行ってもよい。
【0021】
また、打抜位置の制御モードとしては、上述のように常時荷重を監視して位置を調整するほか、ホールドモードとしてシート材を流し始める生産初期段階までを位置制御し、その後は位置制御を解除するモード、マニュアルモードとして作業員が始めから打抜位置を設定するモードを有し、それぞれのモードに切り替えることができる。
【0022】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、本発明による打抜機の打抜位置調整方法は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の打抜機の概略構成図である。
【図2】図1の打抜機の要部を示す断面図である。
【図3】本発明を実施する打抜機の一例を示す概略構成図である。
【図4】制御盤に対する適正荷重範囲の入力を示す説明図である。
【図5】打抜機によるシート材の打抜の様子を示す説明図である。
【図6】打抜機によるシート材の打抜工程における変位−荷重曲線である。
【図7】打抜時における上部定盤と下部定盤の間隔を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1 上部定盤
2 下部定盤
3 クランク機構
4 ムラ取り台紙
5 抜型
6 クッション材
7 面板
10 制御盤
11 荷重計
12 調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜型を取り付けた上部定盤に対して面板を取り付けた下部定盤を上下動させることにより、面板上を流すシート材を所定形状に打ち抜く打抜機の打抜位置調整方法であって、打抜毎にその時の打抜荷重の最大値をモニタし、下部定盤を上下動させて打抜位置を調整するための制御盤を設けておき、その制御盤に抜型の適正荷重範囲を入力することで自動で打抜位置を最適な位置に設定し、稼動中の打抜荷重が適正荷重の範囲を維持するように抜型の打抜位置をフィードバック制御することを特徴とする打抜機の打抜位置調整方法。
【請求項2】
適正荷重範囲として、抜型に掛かる最大荷重と最小荷重を入力することを特徴とする請求項1に記載の打抜機の打抜位置調整方法。
【請求項3】
適正荷重範囲として、抜型化に掛かる適正荷重と許容範囲を入力することを特徴とする請求項1に記載の打抜機の打抜位置調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−29982(P2010−29982A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194625(P2008−194625)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】