説明

抗アレルギー剤

【課題】植物個体への障害が少なく入手容易な天然資源を用いて得られる新規な抗アレルギー剤の提供。
【解決手段】キリンケツヤシ樹脂の抽出物を有効成分とする抗アレルギー剤、並びに該抽出物からの分離生成物である下記化合物:


等から選択されるフェノール誘導体。好ましい抽出溶媒はアルコール類、酢酸エステル類、ケトン類、アルカン類またはそれらの混合物であり、該化合物の分離はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SigelCC)により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
キリンケツヤシ(麒麟血椰子;Daemonorops draco)は、つる性のヤシ科(Arecaceae)植物に分類され、スマトラ、ボルネオ、マレー半島などに分布している。本植物の直径2cmほどの球形果実から分泌された紅色樹脂を塊状に固めたものを、中国では麒麟血あるいは血竭、ヨーロッパではDragon’s bloodと呼び、ニス、香料、染料として使うほか、外傷による止血や、びらんの治療あるいは活血止痛の目的で民間薬として用いられてきた(非特許文献1)。
【0003】
麒麟血に含まれる化学成分については、1930年代より,その赤色色素に関する研究がBrockmann、Robertsonらにより始められ、キノン類であるdracorhodinおよびdracorubinが単離報告されており(非特許文献2,3)、後に、両化合物に抗菌活性(非特許文献4)、dracorhodin過塩素酸塩にはアポトーシス誘導作用が見出されている(非特許文献5〜7)。また、その後半世紀以上にわたり、その芳香族成分に関する更なる研究が行なわれ、キノン類、レトロカルコン、フラバンなど(非特許文献8〜10)の他,セコビフラボノイド(非特許文献11)、ベンゾジオキセピン誘導体(非特許文献12)、セコトリフラボノイド(非特許文献13)、A型デオキシプロアントシアニジン(非特許文献14)など,フラバンを基本骨格に有するコンプレックスフラボノイドの単離が報告されており、いくつかの化合物には生物活性が見出されている。以上のように、キリンケツ樹脂は天然物として特異な構造を有する多くの芳香族化合物を含んでいるため、本樹脂のさらなる成分研究により、未知の化合物の単離が期待できる。
【0004】
また、果実や樹脂は、その他の部位に比べ植物個体への障害が少なく入手できる天然資源であり,そこに含まれる有用化合物の探索は薬用資源の枯渇が問題となっている近年、薬用資源の確保や種の保護の観点からも有用だと考えられる。そこで,有用な化合物を探索し解明することで,本樹脂のさらなる有効活用を図ることが期待できる。
【0005】
一方、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患が社会的問題になって久しいが、これら免疫系にかかわる疾病の予防、治療に対する有効な医薬品を開発することは今なお重要な課題である。現在、その治療にはヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどのケミカルメディエーターの有利抑制薬、合成阻害薬および拮抗薬の他、副腎皮質ステロイド薬が用いられているが、根本的な予防または治療法ではなく副作用も懸念される。このような現在臨床に用いられている抗アレルギー薬だけでは、今なお増え続ける多種多様な免疫疾患に対応することは困難であり、その予防や治療には、新しい取り組みが必要とされる。これまでのアレルギーに関する分子レベルでの研究から、アレルギーに関する個々の細胞はそれぞれ独立して反応するのではなく、相互に影響しあいながらかつ経時的にシステムで展開することが明らかになっており、アレルギー抑制物質を天然から探索するためには、生体内でのさまざまな反応を総合的に評価できる実験モデルを考案することが望まれる。
【0006】
このような考えのもと、卵白リゾチーム(HEL)を用いて、高原特異的にIgE抗体依存性の重篤なI型アレルギー(アナフィラキシー)を短期間に誘発するモデルマウスが作製され(非特許文献15)、数種のin vivoアッセイ法やスクリーニング法が確立され、天然から多くのアレルギー抑制物質が探索されてきた。その過程でHEL感作後、すなわちアレルギーのプロモーションの段階で末梢血管の血流量が顕著に低下する現象が見出されている。そして、このHEL感作による血流量低下を指標として、天然資源より新しいメカニズムを有するアレルギー予防薬のリード化合物探索を目的とした新規アッセイ法が確立された(非特許文献16)。また、本血流量低下の詳細なメカニズムを解析するとともに、数種の植物から新規活性物質を見出した(非特許文献17)。さらに、駆お血剤として臨床応用される代表的な漢方処方や生薬も本法で評価され、本法が、駆お血薬の探索にも有用であることが明らかにされている(非特許文献17,18,19)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】難波恒雄 原色和漢薬図鑑(下)P194 保育社 昭和55発刊
【非特許文献2】Ber.Dtsch.Chem.Ges.B 76B,751−763(1943)
【非特許文献3】J.Chem.Soc.,1882−1884(1950)
【非特許文献4】J.Nat.Prod.,45,(5),646−648(1982)
【非特許文献5】J.Pharmacol.Sci.(Tokyo,Jpn.),95,(2), 273−283(2004)
【非特許文献6】Biol.Pharm.Bull.,28,(2),226−232(2005)
【非特許文献7】J.Asian Nat.Prod.Res.,8,(4),335−343(2006)
【非特許文献8】J.Chem.Soc.C,(23),3967−3970(1971)
【非特許文献9】Nat.Prod.Res.,Part B,21,(4),377−380(2007)
【非特許文献10】Conv.Int.Polifenoli,[Relaz.Comun.],200−205(1975)
【非特許文献11】J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,(14),1570−1576(1976)
【非特許文献12】Heterocycles,29,(6),1119−1125(1989)
【非特許文献13】J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,(10), 2637−2640(1990)
【非特許文献14】J.Nat.Prod.,60,(10),971−975(1997)
【非特許文献15】Immunol.Lett.,3,57−61(1981)
【非特許文献16】Biol.Pharm.Bull.,28,1490−1495(2005)
【非特許文献17】薬学雑誌、123,172−175(2003)
【非特許文献18】日本薬学会第124年会要旨集、2,p115(2004)
【非特許文献19】Biol.Pharm.Bull.,28,1786−1790(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、植物個体への障害が少なく入手容易な天然資源を用いて得られる新規な抗アレルギー剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、キリンケツヤシ樹脂の抽出物に優れた抗アレルギー作用を有するとの知見を得た。この知見に基づいて活性化合物の探索研究をした結果、複数の化合物に優れた抗アレルギー作用を有することの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)キリンケツヤシ(Daemonorops draco)樹脂の抽出物を有効成分とする抗アレルギー剤。
(2)キリンケツヤシ(Daemonorops draco)樹脂の抽出物が、有機溶媒の抽出エキスまたはその分離生成物ある前記(1)に記載の抗アレルギー剤。
(3)有機溶媒がアルコール類、酢酸エステル類、ケトン類、アルカン類またはそれらの混合物である前記(2)記載の抗アレルギー剤。
(4)分離生成物が下記化合物DD−1〜DD−6から選択されるいずれかの化合物である前記(2)に記載の抗アレルギー剤。
【化1】

【化2】

(5)下記化合物DD−3〜DD−6から選択されるフェノール誘導体。
【化3】


【化4】

【発明の効果】
【0011】
本発明の抗アレルギー剤は、植物個体への障害が少ない植物樹脂を利用するものであり、薬用資源の確保や種の保護の観点からも有用である。また、本発明の抗アレルギー剤は、HER感作による血流低下を指標として見出された新規な抗アレルギー剤である点に特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】製造例2における抽出・分離工程を示す図である。
【図2】実験例1におけるアッセイ法の実験スケジュール(投与3回の場合)を示す図である。
【図3】キリンケツヤシの樹脂の酢酸エチル抽出エキス(図中、単に麒麟血と表示)を投与した場合の感作マウスの血流量変化を示す図である。
【図4】分画1〜4を投与した場合の感作マウスの血流量変化を示す図である。
【図5】分画1〜4を投与した場合の感作マウスの9日目の血流量を比較した図である。
【図6】化合物DD−1〜DD−5を投与した場合の感作マウスの血流量変化を示す図である。
【図7】化合物DD−6〜DD−7を投与した場合の感作マウスの血流量変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一つの態様は、キリンケツヤシ樹脂の抽出物を有効成分とする抗アレルギー剤である。
【0014】
キリンケツヤシ(麒麟血椰子;Daemonorops draco)は、つる性のヤシ科(Arecaceae)植物であるトウ類(籐類;Rattan)に分類され、スマトラ、ボルネオ、マレー半島などに分布している。このキリンケツヤシ樹脂の抽出物は、溶媒抽出エキスまたはその分離生成物などが包含される。
【0015】
キリンケツヤシ樹脂からのエキス抽出に際しては、有機溶媒が好適に用いられる。有機溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)、酢酸エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトンなど)などが挙げられる。また、抽出エキスからの分離生成物としては、前記した化合物DD−1、DD−2、DD−3、DD−4、DD−5、DD−6から選ばれるいずれかの化合物が挙げられる。
【0016】
有機溶媒としてアセトンを用いる場合について説明すると、キリンケツ樹脂を粉砕後、アセトンに溶解し、濾過後、減圧濃縮することによりアセトン抽出エキスが得られる。このアセトン抽出エキスはそのままでも使用することができるが、水や極性溶媒に再度溶解したり、あるいはこのアセトン抽出エキスをカラムクロマトグラフィー等による分画処理を行った後に用いてもよい。分画処理後、さらに分離精製して活性化合物を取得し、活性化合物としても使用できる。上記の分画処理や分離精製は、例えば次のようにして行うことができる。
【0017】
まず、上記で得られたアセトン抽出エキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SigelCC)に付し、適当な溶媒にて溶出する。溶出溶媒としては、例えばn−ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒を好適に用いることができる。このように得られる粗分画をさらに、各分画についてシリカゲルカラムクロマトグラフィー、ODSやDMSを担体とした逆相カラムクロマトグラフィー(ODSCC、DMSCC)、減圧液体クロマトグラフィー(VLC)、セファデックスLH−20カラムクロマトグラフィー(LH−20CC)、調製薄層クロマトグラフィー(PTLC)等の分離操作を組み合わせ、分離精製を行うことにより、下記化合物1〜11を得ることができる。
【0018】
【化5】

【0019】
上記化合物のうち、化合物8−11は、IDおよび2D核磁気共鳴(NMR)スペクトルをはじめとした各種機器スペクトルデータの解析を行い、それらを文献値と比較することにより、その構造を確定した。すなわち化合物8は(2S)−5−メトキシフラバン−7−オール、化合物9は(2S)−5−メトキシ−6−メチルフラバン−7−オール、化合物10aはドラコフラバンB(dracoflavan B)、化合物10bはドラコフラバンB(dracoflavan B)、化合物11aはドラコフラバンC(dracoflavan C)、化合物11bはドラコフラバンC(dracoflavan C)と同定された。
【0020】
上記化合物1〜11のうち、化合物1〜7は新規化合物である。
【0021】
なお、化合物DD−1〜DD−6並びに後記試験例で用いた化合物DD−7と上記化合物1〜11との関係、ならびに化学名(下段は慣用名)は次の通りである。
DD−1(化合物8)
5−メトキシ−2−フェニルクロマン−7−オール
=5−メトキシフラバン−7−オール
DD−2(化合物9)
5−メトキシ−6−メチル−2−フェニルクロマン−7−オール
=5−メトキシ−6−メチルフラバン−7−オール
DD−3(化合物6)
5−メトキシ−6−メチル−2−フェニル−4H−クロメン−7−オール
=5−メトキシ−6−メチルフラベン−7−オール
DD−4(化合物4)
3−(2,4−ジヒドロキシ−6−メトキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルプロパン−1−オン
=2,4−ジヒドロキシ−6−メトキシ−3−メチルジヒドロカルコン
DD−5(化合物5)
3−(4,6−ジヒドロキシ−2−メトキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルプロパン−1−オン
=2,4−ジヒドロキシ−6−メトキシ−3−メチルジヒドロカルコン
DD−6(化合物1)
8,8’−メチレンビス(5−メトキシ−2−フェニルクロマン−7−オール)
DD−7(化合物2)
6,8’−メチレネビス(5−メトキシ−2−フェニルクロマン−7−オール)
【0022】
上記化合物につき、HER感作による血流量低下抑制作用を指標として抗アレルギー作用を評価したところ、化合物DD−1〜DD−6に優れた作用活性が認められた。
【0023】
本発明の有効成分であるキリンケツヤシ樹脂の抽出エキスまたはその分離生成物(化合物DD−1〜DD−6)は、上述の通り血流量低下改善効果を有するので、抗アレルギー剤(医薬品)として用いることができ、喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、気管狭窄などのアレルギー性疾患の予防・治療のための使用に適している。また食品素材と混合して飲食品とすることや、化粧品素材として混合して化粧品とすることもできる。なお、抽出エキスは、化合物DD−1〜DD−6のうち少なくとも1つの化合物を含有するものであればよい。
【0024】
有効成分は単独で用いても、これらの複数種を混合して使用しても差し支えない。また、有効成分を薬理的に許容しうる担体と混合して、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、のど飴等の経口剤や、貼付剤、点液剤などによる非経口投与剤など一般的な剤形とすることができる。
【0025】
有効成分を医薬品として人体に投与するときは、1回あたり0.1〜1000mg(乾燥重量)/kg体重の量、好ましくは0.3〜300mg(乾燥重量)/kg体重の量を、1日1ないし数回経口投与するのが好ましい。
【0026】
また飲食品とする場合は、キリンケツヤシ樹脂の抽出エキスまたはその分離生成物と混合する食品素材は固形物(粉状、薄片状、塊状など)、半固形物(ゼリー状、水飴状など)、もしくは液状物などの何れであってもよい。飲食品の種類としては、清涼飲料、ジュース、栄養ドリンクなどの飲料、パン類、麺類、タブレット、キャンディーなどの菓子類などが挙げられる。飲食品1g当たり有効成分の含有量は、0.3〜300mg(乾燥重量)であることが好ましい。
【0027】
さらに、化粧品とする場合、キリンケツヤシ樹脂の抽出エキスまたはその分離生成物と混合する化粧品素材は固形物(パウダーなど)、半固形物(クリームなど)、もしくは液状物(ローション、乳剤など)などの何れであってもよい。化粧品1g当たり有効成分の含有量は0.3〜300mg(乾燥重量)であることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、製造例および試験例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら製造例や試験例に何ら制限されるものではない。
【0029】
〔製造例1〕
松浦薬業より購入したキリンケツヤシ(Daemonorops draco)の樹脂(50g)を破砕後、室温下酢酸エチルに溶解し、濾過後、減圧濃縮することにより酢酸エチル抽出エキス(48g)を調製した。
【0030】
〔製造例2〕
(1)抽出および分離
本製造例には、松浦薬業より購入したキリンケツヤシ(Daemonorops draco)の樹脂を用い、図1に示す手順で抽出・分離を行った。
すなわち、本樹脂(255g)を破砕後、室温下アセトンに溶解し、濾過後、減圧濃縮することによりアセトン抽出エキス(250g)を調製した。得られたアセトン抽出エキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Si gel CC)に付し、n−ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒系により溶出することで7つのフラクションに粗分画した(フラクション1−7)。n−ヘキサン:酢酸エチル=8:1により溶出したフラクション2について、DMSカラムクロマトグラフィー(DMS CC;水−メタノール システム)、セファデックス LH−20カラムクロマトグラフィー(メタノール)、減圧液体クロマトグラフィー(VLC;ベンゼン)により繰り返し精製を行なった結果、化合物1(3.4mg)、化合物3(2.3mg)、化合物5(49.0mg)を得た。n−ヘキサン:酢酸エチル=5:1により溶出したフラクション3について、DMSを担体とした逆相カラムクロマトグラフィー(水−メタノール システム)、セファデックスLH−20カラムクロマトグラフィー(メタノール)、減圧液体クロマトグラフィー(ベンゼン)、調製薄層クロマトグラフィー(c−ヘキサン:エタノール=20:1)、再結晶(メタノール)により繰り返し精製を行なった結果、化合物1(230.6mg)、化合物2(4.3 mg)、化合物5(18.7mg)、(2S)−5−メトキシフラバン−7−オール(化合物8)(153.2mg)、(2S)−5−メトキシ−6−メチルフラバン−7−オール(化合物9)(100.6mg)を得た。また、n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1により得られたフラクション5について、DMSを担体とした逆相カラムクロマトグラフィー(水−メタノール システム)、セファデックスLH−20 カラムクロマトグラフィー(メタノール)、減圧液体クロマトグラフィー(c−ヘキサン−エタノール システム)、調製薄層クロマトグラフィー(c−ヘキサン:エタノール=20:1)により繰り返し精製を行なった結果、化合物4(32.2mg)、化合物6(40.0mg)、化合物7(48.0mg)、及び立体異性体の混合物としてドラコフラバン(Dracoflavan)B1およびB2(化合物10a、10b)(21.7mg)、ドラコフラバンC1およびC2(化合物11a、11b)(23.7mg)を得た。
【0031】
(2)化合物の物理化学的性質
化合物1
無色固体.
[α]= −118°(c=0.1,CHCl).
UV(CHCl)λmaxnm(logε):277(3.52).
H−and13C−NMR:表1に記載した。
EIMS:524(56,M,C3332),505(16),420(28),401(8),316(8),269(100),256(43),165(44),104(50).HR−EIMS:524.2207(M,C3332;calc.524.2199).
【0032】
【表1】

【0033】
化合物2
無色固体.
[α]= −116°(c=0.1,CHCl).
UV(CHCl)λmaxnm(logε):281(3.63).
H−and13C−NMR:表2に記載した。
EIMS:524(37,M,C3332),420(8),401(8),269(100),256(54),165(34),104(42).
HR−EIMS:524.2205(M,C3332;calc.524.2199).
【0034】
【表2】

【0035】
化合物3
無色固体.
[α]= −85°(c=0.1,CHCl).
UV(CHCl)λmaxnm(logε):273(3.82).
H−and13C−NMR:表3に記載した。
EIMS:538(80,M,C3434),434(8),282(88),269(100),256(40),179(28),165(60),152(24),104(82).
HR−EIMS:538.2362(M,C3434;calc.538.2355).
【0036】
【表3】

【0037】
化合物4
無色固体.
UV(MeOH)λmaxnm(logε):281(3.83),230(4.69).
H−and13C−NMR:表4に記載した。
EIMS:272(100,M,C1616),153(93),120(120).
HR−EIMS:272.1044(M,C1616;calc.272.1049).
【0038】
【表4】

【0039】
化合物5
赤色固体.
UV(MeOH)λmaxnm(logε):316(3.07),283(3.65),228(4.26).
H−and13C−NMR:表5に記載した。
EIMS:268(100,M,C1716),252(16),237(12),191(20).
HR−EIMS:268.1107(M,C1716;calc.268.1100).
【0040】
【表5】

【0041】
化合物6
無色固体.
UV(MeOH)λmaxnm(logε):279(3.16),238(3.98).
H−and13C−NMR:表6に記載した。
EIMS:286(60,M,C1718),267(8),256(7),167(100),154(71),137(11),105(33),77(22).
HR−EIMS:286.1211(M,C1718;calc.286.1205).
【0042】
【表6】

【0043】
化合物7(2,4−ジヒドロキシ−6−メトキシジヒドロカルコン)
無色固体.
UV(MeOH)λmaxnm(logε):282(3.59),241(4.15).
H−NMR(400MHz,CDCl):2.09(s,3−Me);2.95(br t, J=8.0,CH(α);3.42(br t,J=8.0,CH(β));3.75(s, 2−OMe);5.33(br s,6−OH);6.27(s,H‐C(5));7.42(br t,J=8.0,H‐C(3′,5′));7.54(br t,J=8.0 H‐C(2′, 6′));7.96(br d,J=8.0,H‐C(4′));8.30(s,4−OH).
13C−NMR(100MHz,CDCl):8.8(3−Me),17.3(C(β)); 39.9(C(α);60.6(2−OMe);100.8(H‐C(5));109.4(C(3));113.7(C(1));128.4(C(3′,5′));128.6(C(2′, 6′));133.8(C(4′));136.1(C(1′));153.5(C(4));154.1(C(6));158.1(C(2));203.1(C=O).
EIMS:286(58,M,C1718),267(16),256(7),167 (90),154(100),137(18),105(49),77(36).
HR−EIMS:286.1218(M,C1718;calc.286.1205).
【0044】
【表7】

【0045】
化合物8((2S)−5−メトキシフラバン−7−オール)
無色固体.
H−NMR(400MHz,CDCl):2.00(dddd,J=13.7,11.1,10.2,5.9,1H of CH(3));2.17(dddd,J=13.7, 5.9,3.17,2.2,H of CH(3));2.61(ddd,J=16.7, 11.1,5.9,1H of CH(4));2.71(ddd,J=16.7,5.9, 3.2,1H of CH(4));3.76(s,5−OMe);4.97(dd,J=10.2,2.2,H‐C(2));5.04(s,7−OH);6.01(d,J=2.3,H‐C(6));6.04(d,J=2.3,H‐C(8));7.35(m,5H of H‐C(2′‐6′)).
13C−NMR(100MHz,CDCl):20.1(C(4));30.4(C(3)); 56.4(5−OMe);78.6(H‐C(2));92.5(C(6));97.1(C(8));104.2(C(10));126.9(C(2′,6′));128.7(C(4′));129.4( C(3′,5′));142.5(C(1′));156.0(C(9));157.1( C(7));159.6(C(5)).
【0046】
化合物9((2S)−5−メトキシ−6−メチルフラバン−7−オール)
無色固体.
H−NMR(400MHz,CDCl):2.00(m,1H of CH(3));2.11(s,6−Me);2.16(m,1H of CH(3));2.79(m,2H of CH(4));3.71(s,5−OMe);4.97(dd,J=10.0,2.0, H‐C(2));5.33(s,7−OH);6.20(s,H‐C(8));7.31(m,5H of H‐C(2′‐6′)).
13C−NMR(100MHz,CDCl):8.4(6−Me),19.7(C(4));29.7(C(3));60.0(5−OMe);77.6(H‐C(2));99.5(C(8));107.9(C(6));109.5(C(10));126.0(C(2′, 6′));127.8(C(4′));128.4(C(3′,5′));141.7(C(1′);153.5(C(9));153.9(C(7));157.1(C(5)).
【0047】
化合物10aと10b(ドラコフラバンB1とB2)
無色固体.
H−NMR(400MHz,CDCl):1.77−2.22(m,CH(3″));1.99 and 2.09(s, 6−Me);2.09,2.71(m,CH(4″)); 3.32 and 3.48(s,5−OMe);3.72 and 3.73(s,5″−OMe);4.17 and 4.24(br s,H‐C(3));4.73 and 4.76(d,H‐C(4));4.96 and 5.05(d,H‐C(2″));6.15 and 6.16(s,H‐C(6″));6.34 and 6.36(s,H‐C(8)); 7.36(m,H‐C(4′,4′″));7.47(m,H‐C(3′,5′,3′″,5′″));7.53 and 7.62(d,H‐C(2′″,6′″));7.68(m,H‐C(2′, 6′)).
13C−NMR(100MHz,CDCl):8.75 and 8.78(6−Me),19.6 and 20.0(C(3″));28.4 and 29.2(C(4″));29.7(C(4));55.46 and 55.49(5″−OMe);60.5 and 60.8(5−OMe);67.8(C(3));77.6 and 78.5(C(2″));91.2(C(6″));98.7 and 98.8(C(8));99.3 and 99.4(C(2));104.3 and 104.5(C(10″));106.5 and 106.6(C(8));108.2 and 108.4(C(10));111.4 and 111.6(C(6));126.2 and 126.6(C(2″′,6″′));126.8(C(2′,6′));127.6 and 127.7(C(4′));128.2 and 128.3(C(3″′,5″′));128.4(C(3′,5′));129.1(C(4′″));138.5 and 138.6(C(1′)),141.6 and 142.2(C(1″′)),150.2 and 150.5(C(9)),150.9 and 151.1(C(7)),151.9 and 152.5(C(9);154.15 and 154.20(C(7));157.2 and 157.3(C(5″)); 158.1 and 158.3(C(5)).
【0048】
化合物11aと11b(ドラコフラバンC1とC2)
無色固体.
H−NMR(400MHz,CDCl):1.90−2.22(m,CH(3)and CH(3″));2.01 and 2.10(s,6−Me);2.63−2.77(m, CH(4″));3.32 and 3.47(s,5−OMe);3.73 and 3.74(s,5″−OMe);4.69 and 4.73(t,H‐C(4));4.95 and 5.06(br d,H‐C(2″));6.21 and 6.22(s,H‐C(6″)); 6.30 and 6.31(s, H‐C(8));7.30−7.43(m,H‐C(3′,4′,5′,3′″,4′″,5′″));7.53 and 7.63(d,H‐C(2′″,6′″));7.69(m,H‐C(2′,6′)).
13C−NMR(100MHz,CDCl):8.73 and 8.77(6−Me),19.5 and 20.0(C(4″));21.0 and 21.1(C(4));29.7 and 30.8(C(3″));34.7(C(3));53.7 and 55.4(5″−OMe);60.3 and 60.7(5−OMe);69.8(C(3));78.3(C(2″));91.6(C(6″));98.2 and 98.3(C(8));99.3(C(2));103.8 and 104.0(C(10″));107.68 and 107.72(C(8));110.5 and 110.6(C(10));112.1 and 112.3(C(6));125.7 and 126.1(C(2′,6′));126.6 and 126.2(C(2′″,6″′));127.6 and 127.4(C(4′″));128.2(C(3′,5′));128.2(C(3′″,5″′));128.5 and 128.3(C(4′″));141.7 and 141.8(C(1′)),142.3(C(1″′)),151.1 and 151.3(C(9)),151.6 and 151.7(C(7)),151.9 and 152.2(C(9);153.86 and 153.91(C(7));156.5 and 156.6(C(5″));156.7 and 156.8(C(5)).
【0049】
(3)化合物の構造
化合物1〜11の構造式は下記の通りである。
【化6】

【0050】
〔製造例3〕
製造例2で得られたキリンケツヤシ樹脂のアセトン抽出エキス30gを90mlのシリカゲルに吸着させ、乾燥後、600mlのシリカゲルを詰めたカラムに積層し、ドライクロマトカラムを調製した。展開溶媒にはヘキサン:酢酸エチル混合溶媒を用い、混合比率8:1から順次極性を上げながら溶出させ分画した。最終的に次の4分画を取得した。
分画1:n−ヘキサン:酢酸エチル=8:1 (8.84g)
分画2:n−ヘキサン:酢酸エチル=5:1 (3.87g)
分画3:n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1 (5.42g)
分画4:アセトン→メタノール (2.99g)
【0051】
〔試験例〕HEL感作マウスの血流量低下抑制作用
1)試験物質および投与量
試験物質および投与量は下記の通りである。
i)製造例1で得られたキリンケツヤシ樹脂の酢酸エチル抽出エキス:
100mg/kg(p.o)
ii)製造例2で得られたDD−1(化合物8)、DD−2(化合物9)、DD−3(化合物6)、DD−4(化合物4)、DD−5(化合物5)、DD−6(化合物1)、DD−7(化合物2):
40μmol/kg(p.o)
iii)製造例3で得られた分画1〜4(Fr.1〜4):
100mg/kg(p.o)
【0052】
2)アッセイ法
5週令の雄性ddY系マウス(日本SLCより購入;1群3匹、コントロール群は5匹)を24±2℃で飼育した。固形飼料CE−2(オリエンタル酵母社製)および水は自由に与えた。このマウスに、卵白リゾチーム(HEL)(Sigma社製)50μgをコンプリートアジュバント(Difuco社製)と生理食塩水の等量混合溶液50μlに懸濁して調製した溶液を腹腔内投与し、感作した。
感作日を0日目とし、9日目までマウスの尾部皮下の静脈微小循環血流量を無麻酔下、レーザー血流量を用いてモニターした。この間、すなわちプロモーター段階で、徐々に低下する血流量をコントロールとし、これに対し試験物質を投与した場合の血流量低下への改善効果を評価した。なお、試験物質の投与は0(感作前)、3、6日目に行い、データは平常血流に対する割合(%)で表した。なお、2元配置分散分析を行い、有意な差が認められたことから、ダンネットテスト(Dunnett’s test)を行い、ボンフェロニ(Bonferroni)で補正を行った。
上記アッセイ法の実験スケジュール(投与3回の場合)を示すと図2の通りである
【0053】
3)試験物質の投与
前記1)の試験物質をそれぞれ蒸留水に溶解した。この溶液を所定の投与量となるように上記実験スケジュール(キリンケツヤシ樹脂の酢酸エチル抽出物および分画1〜4は0、3、6日目の4回;DD−1〜DD−7は0、3、6日目の3回)にしたがって経口投与し、血流量を測定した。
【0054】
4)実験結果
実験結果は図3〜7の通りである。これらの結果から次のことが分かる。
図3:キリンケツヤシ樹脂酢酸エチル抽出エキスの投与群は、コントロール群に対して9日目で有意な血流量低下抑制効果を示した(p<0.05)。
図4:分画3および4の投与群はコントロールに対して7日目および9日目で有意な血流量低下抑制効果を示した(7日目:p<0.05、9日目:p<0.001)。しかし、分画1および2の投与群は若干の抑制効果を示したが、有意差はなかった。
図5:9日目において、分画3および分画4はコントロールに対して有意な血流量低下抑制効果を示した(p<0.001)。しかし、分画1および2は若干の血流量低下抑制効果を示したが、有意差はなかった。
図6:コントロール群の血流量は感作後、徐々に低下し、7日目で最低値を示したのち9日目でわずかに回復した。これに対し、化合物DD−1〜DD−5の投与群では9日間ほぼ変動せず、いずれも血流量低下が改善された。コントロール群の血流量が最も低下した7日目では、すべての化合物がコントロールに対し有意な血流量低下抑制効果を示した(p<0.05)。
図7:コントロール群の血流量は感作後、徐々に低下し9日目で最低値を示した。これに対し、化合物DD−6投与群では血流量低下を改善し、7日目ではコントロールに対し有意な抑制効果を示した(p<0.05)。一方、化合物DD−7は若干の改善傾向を示したが、有意差はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の有効成分はHEL感作マウスの血流量低下を抑制する作用を示し、抗アレルギー剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キリンケツヤシ(Daemonorops draco)樹脂の抽出物を有効成分とする抗アレルギー剤。
【請求項2】
キリンケツヤシ(Daemonorops draco)樹脂の抽出物が、有機溶媒の抽出エキスまたはその分離生成物である請求項1に記載の抗アレルギー剤。
【請求項3】
有機溶媒がアルコール類、酢酸エステル類、ケトン類、アルカン類またはそれらの混合物である請求項2記載の抗アレルギー剤。
【請求項4】
分離生成物が下記化合物DD−1〜DD−6から選択されるいずれかの化合物である請求項2に記載の抗アレルギー剤。
【化1】

【化2】

【請求項5】
下記化合物DD−3〜DD−6から選択されるフェノール誘導体。
【化3】

【化4】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−173939(P2010−173939A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15353(P2009−15353)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(507412357)株式会社フィールドアンドデバイス (2)
【Fターム(参考)】