説明

抗ピリング性人工皮革

【課題】紡糸性能に影響がなく、立毛を有する優美な外観を有し、さらに抗ピリング性が良好である人工皮革の提供。
【解決手段】単繊維直径が0.3〜10μmの極細繊維と高分子弾性体を含み、前記極細繊維からなる立毛を有するシート状物であって、前記極細繊維が、極細繊維100質量%に対し0.01〜5質量%の無機粒子と、0.001〜1質量%のシリコーンオイルを含有する人工皮革であり、極細繊維としてポリエステル極細繊維が90質量%以上含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に立毛を有する優美な外観を有し、さらに抗ピリング性が良好な人工皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、表面に極細繊維からなる立毛を有するスエード調人工皮革は、柔軟な風合いと優れた物性と優美な外観を有し、衣料用、家具用および車両内装材用等として幅広く使用されている。このような表面に極細繊維からなる立毛を有するスエード調人工皮革は、極細繊維からなるシート状物に弾性重合体を含浸させた構造を有している。そのため、実使用において摩耗し、それによって極細繊維が絡まって毛玉となる、いわゆるピリングが発生するという課題を有している。この課題に対し、これまで種々の提案がされている。
【0003】
具体的に、スエード調人工皮革のピリング防止について、単繊維繊度が0.2〜0.005dtexのポリエステル極細繊維束からなる絡合不織布と弾性重合体からなるスエード調人工皮革において、ポリエステル極細繊維に粒径100nm以下のシリカを0.5〜10重量%含有させる方法が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案では、ポリエステル極細繊維中にシリカという無機物の粒子を含有させる必要がある。そのため、紡糸において無機物の粒子が2次凝集した粗大粒子が発生し、濾圧が上昇して糸切れが発生し、長時間の紡糸が困難であるという課題を有するものであった。加えて、この提案では、人工皮革表面の立毛形成時に立毛部分の繊維が切断されて立毛長が短くなり、優美な立毛が形成できないという課題を有するものであった。
【0004】
また、単繊維繊度が0.5dtex以下のポリエチレンテレフタレート極細繊維とポリウレタン樹脂からなるスエード調人工皮革において、ポリエチレンテレフタレートの極限粘度を0.57以上0.63以下とすることにより、ポリエチレンテレフタレート極細繊維の強度を弱め、ピリングとならないようにする方法が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この提案により、極細繊維の極限粘度を低めに設定して糸強度を低下させることによってピリングを改善することができても、反面、この提案では、人工皮革自体の引張強力や引裂強力等の物理特性が低下するという課題があった。
【0005】
また別に、ポリアミド重合体またはポリエステル重合体の少なくとも一方の成分に、無機粒子とシリコーンオイル等を添加した剥離分割型複合繊維からなる長繊維不織布が提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案では、シリコーンオイルは剥離分割型複合繊の分割を容易にする目的で添加されており、無機粒子は着色効果および繊維横断面形状を調節する目的で添加されている。さらに、この特許文献3の実施例では、具体的にいずれの重合体にも、シリコーンオイルも無機粒子も添加されていないため、抗ピリング性は発現していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−339617号公報
【特許文献2】特開2006−045723号公報
【特許文献3】特開2002−275748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、紡糸性能に影響がなく、立毛を有する優美な外観を有し、さらに抗ピリング性が良好である人工皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、次の手段を採用する。すなわち、本発明の抗ピリング性人工皮革は、単繊維直径が0.3〜10μmの極細繊維と高分子弾性体を含み、前記極細繊維からなる立毛を有するシート状物であって、前記極細繊維が、極細繊維100質量%に対し0.01〜5質量%の無機粒子と、極細繊維100質量%に対し0.001〜1質量%のシリコーンオイルを含有することを特徴とする人工皮革である。
【0009】
本発明の抗ピリング性人工皮革の好ましい態様によれば、前記の極細繊維はポリエステル極細繊維を90質量%以上含むものである。さらに好ましい態様によれば、前記の極細繊維はポリエステル極細繊維を100質量%含むものである。
【0010】
本発明の抗ピリング性人工皮革の好ましい態様によれば、前記の無機粒子は、カルシウム塩、シリカおよび酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つの無機粒子である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極細繊維に対し0.01〜5質量%の無機粒子に加え、かつ0.001〜1質量%のシリコーンオイルを含有させることにより、無機粒子の2次凝集を効率的に防止することができる。無機粒子は、ポリエステル極細繊維内に均一分散させることにより、摩擦による極細繊維のピリング状態への変化を防止することができる。
【0012】
また、極細繊維内で無機粒子が2次凝集した場合、極細繊維の強度が低下し、人工皮革表面の繊維が切断されるため、人工皮革として優美な外観を得られない。しかしながら、添加されたシリコーンオイルにより2次凝集を防止することができ、極細繊維の強度と優美な外観を保ちつつ、ピリングを防止することが可能である。
【0013】
さらに、極細繊維の紡糸時に無機粒子が2次凝集した場合、糸切れ等の紡糸性能が悪くなり、長時間の紡糸を行うことが困難になる。しかしながら、無機粒子に加え、シリコーンオイルを含有させることにより、極細繊維内に無機粒子を均一分散させ、紡糸性能を保ち、長時間の防止が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の抗ピリング性が良好な人工皮革は、極細繊維と高分子弾性体を含むシート状物であって、天然皮革のようなスエードやヌバック等の優れた表面外観を有してなるものであり、好ましくはスエードやヌバックのような立毛調の外観において、滑らかなタッチと優れたライティングエフェクトを有するシート状物である。
【0015】
本発明の抗ピリング性人工皮革を構成する繊維に対するポリエステル極細繊維の割合は、優美な外観を形成できる点から、好ましくは繊維全体に対して40質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上100質量%以下である。
【0016】
本発明で用いられる極細繊維の単繊維直径は、0.3〜10μmであることが重要である。製品の良好な肌触りを得るためには、単繊維直径は細い方がよく、好ましくは0.3〜5.3μmであり、より好ましくは0.3〜4.6μmである。
【0017】
人工皮革を構成する繊維の単繊維直径は、次のようにして求めることができる。すなわち、繊維の断面が円形または円形に近い楕円形の場合は、人工皮革表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率2000倍で撮影し、繊維をランダムに100本選び、単繊維径を測定して平均単繊維直径を算出して単繊維直径とする。また、人工皮革を構成する繊維が異形断面の場合は、同様にして、異形断面の外周円直径を繊維径として算出した。さらに、円形断面と異形断面が混合している場合や、単繊維繊度が大きく異なるものが混合している場合等は、それぞれが同数程度となるように100本を選び、異形断面の場合は、断面積を真円の面積に換算して算出する。
【0018】
本発明で用いられる極細繊維は、ポリエステル成分を好ましくは90質量%以上含み、最も好ましくはポリエステル単一成分からなることが望ましい。ポリエステル成分が90質量%未満となると、繊維強伸度などの性質の異なる繊維が混在することにより一部の繊維で繊維同士の絡まりがおきやすくなる。そのため、ピリングが発生しやすくなり抗ピリング性が低下する。また、ポリエステル成分が90質量%未満になると、染色時に繊維によって染料吸着に差ができるため、色ムラが発生しやすくなり、優美な概観が得られにくくなる傾向がある。
【0019】
本発明で用いられる極細繊維は、その成分がポリエステルからなることが実使用における耐光性等の耐久性の観点から好ましい。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸等が挙げられる。ポリエステルとしては、より良好な耐久性が得られることから、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。
【0020】
本発明で用いられる極細繊維は、繊維内に無機粒子とシリコーンオイルを含有するものであり、ここにおいて無機粒子の含有量は、極細繊維100質量%に対して0.01〜5質量%の範囲であることが重要である。
【0021】
無機粒子の含有量は、少なすぎると十分な抗ピリング性を発揮することができない。また、無機粒子の含有量が多すぎると、実用に適したレベルの繊維物性が確保できなくなるばかりでなく、人工皮革表面の立毛形成時に立毛部分の繊維が切断されて立毛長が短くなり優美な立毛が形成できない。加えて、無機粒子の含有量が多すぎると、紡糸中に粒子が2次凝集した粗大粒子によって濾圧が上昇し糸切れが発生するため、長時間の紡糸が困難になる。このため、無機粒子の含有量は好ましくは0.1〜3質量%である。
【0022】
本発明で用いられる無機粒子は、ポリエステルの重合において触媒として反応速度に著しい影響を与えないものであればよい。無機粒子は、ポリエステルへの分散性が良好であるという観点から、炭酸カルシウム、塩化カルシウムおよび硫酸カルシウムなどのカルシウム塩、シリカおよび酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つの無機粒子であることが好ましい。また、無機粒子は、これらを複数組み合わせてもよい。無機粒子は、好ましくは炭酸カルシウム、シリカおよび酸化チタンから選ばれた少なくとも1つの無機粒子であることが好ましい。
【0023】
ポリエステルの重合において触媒として反応速度に著しい影響を与える無機粒子としては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系、ゲルマニウム系、チタンキレート等のチタン系(ただし、酸化チタンは除く。)およびアルミニウム系の無機粒子が挙げられる。
【0024】
本発明で用いられる無機粒子の平均粒子径は、大きすぎると繊維強度の低下や紡糸性の悪化となり、小さすぎると十分な抗ピリング効果が得られない。このため、無機粒子の平均粒子径は、0.1〜300nmであることが好ましく、より好ましくは1〜100nmである。
【0025】
本発明で用いられる無機粒子の平均粒子径は、次のようにして求めることができる。すなわち、無機粒子を0.01g採取し、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)写真を倍率10000倍から50000倍のうち無機粒子の形状が判断できる倍率で撮影し、ランダムに100個の粒子を選び平均粒子径を算出して無機粒子の粒子径とする。
【0026】
無機粒子としては、具体的に、例えば、平均粒子径50nmの炭酸カルシウム粒子(丸尾カルシウム株式会社製カルファイン200M)、平均粒子径35nmの超高純度コロイダルシリカ(扶桑化学工業株式会社製PL−3)や、平均粒子径30〜50nmの酸化チタン(石原産業株式会社製TTO−55)等が好ましく用いられる。
【0027】
本発明で用いられるシリコーンオイルとは、シロキサン結合による主骨格を持つオイル状のものであれば良い。シリコーンオイルにおいて置換基のある場合は、置換基として、例えば、ポリエーテル、エポキシ基、アミン類、カルボキシル基、メチル基等のアルキル基およびフェニル基等があるものでもよい。
【0028】
汎用性が高い点から、シリコーンオイルとしては、ポリジメチルシロキサンが好ましく用いられる。汎用性のシリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社SH200)を用いることができる。150℃の温度以上の高温で処理を行う場合、耐熱性の高いポリメチルフェニルシロキサンが好ましく用いられる。耐熱性のシリコーンオイルとしては、耐熱性メチルフェニルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF−54)や、耐熱性ジメチルシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社SH510、信越化学工業株式会社製KF−965、KF−968)を用いることができる。また、ポリエステルとの相溶性を重視する場合は、アルキル変性シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社SF8416、BY16−846、SH203、SH230)を用いることができる。
【0029】
前記の極細繊維に、無機粒子と共にシリコーンオイルを含有することにより、極細繊維を好ましく構成するポリエステル中での無機粒子の凝集をシリコーンオイルが妨げ、無機粒子が均一に分散された極細繊維を形成することができる。そのため、極細繊維に、無機粒子のみを含有させる場合に比して、シリコーンを加えシリコーンを併用した場合は、少量の無機粒子で抗ピリング性を向上することができる。また、シリコーンを加えることにより、無機粒子の凝集を妨げることができるので糸切れが少なくなることにより、紡糸性が向上しさらに繊維糸状の破断強度が向上する。
【0030】
シリコーンオイルの極細繊維中の含有量は、少なすぎると無機粒子の凝集を防止する効果が少なく、紡糸時の濾圧が上昇して長時間の紡糸が困難になる。また、シリコーンオイルの含有量が、多すぎると紡糸設備にオイルが付着し設備管理が煩雑になるばかりか、オイル成分が偏在することにより紡糸安定性が低下するため操業性が悪くなる。そのため、シリコーンオイルの極細繊維中の含有量は、極細繊維100質量%に対し0.001〜1質量%であり、好ましくは0.001〜0.1質量%である。
【0031】
本発明で用いられる極細繊維は、破断強度が弱すぎるとシート状物の強度が弱く実用に耐えなくなり、破断強度が強すぎるとタッチが滑らかでなくなるばかりか、極細繊維が絡まりやすくなりピリングが発生しやすくなる。そのため、極細繊維の破断強度は、0.2〜0.5cN/μmの範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明で用いられる高分子弾性体としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂およびシリコーン樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を併用してもよい。中でも本発明においては、人工皮革の耐久性の発現の観点から、高分子弾性体としてポリウレタン樹脂が特に好ましく用いられる。
【0033】
本発明で用いられるポリウレタン樹脂は、ポリオール、ポリイソシアネートおよび鎖伸長剤を適宜反応させた構造を有するものを用いることができる。ポリウレタン樹脂としては、溶剤系と水分散系のどちらのポリウレタン樹脂も用いることができる。
【0034】
また、ポリウレタン樹脂には、バインダーとしての性能や風合いを損なわない範囲で、他の樹脂、例えば、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂、およびエチレン−酢酸ビニル樹脂などの樹脂が含まれていても良い。
【0035】
また、ポリウレタン樹脂は、各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤、および染料などを含有していてもよい。
【0036】
また、本発明では、高分子弾性体の市販品として、例えば、溶液型ウレタン樹脂(DIC株式会社製“クリスボン”(登録商標)MP−812NB)や、水性型ウレタン樹脂(DIC株式会社製“ハイドラン”(登録商標)WLI−602)を用いることができる。
【0037】
本発明の抗ピリング性人工皮革は、人工皮革に対する高分子弾性体の比率(割合)が、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上35質量%以下である。高分子弾性体の比率(割合)を10質量%以上とすることにより、シート状物における必要な強度を得て、かつ繊維の脱落を防ぐことができる。また、高分子弾性体の比率(割合)を50質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぎ、目的とする良好な立毛品位を得ることができる。
【0038】
本発明の抗ピリング性人工皮革は、家具、椅子および壁材など、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井や内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴、婦人靴等の靴のアッパーやトリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布、およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
【0039】
次に、本発明の抗ピリング性人工皮革の製造方法について述べる。ここでは、極細繊維を構成するポリマーとして、ポリエステルを用いる製造方法を例示する。
【0040】
極細繊維を好適に構成するポリエステルに、無機粒子およびシリコーンオイルを含有させる方法としては、ポリエステルの重合時に無機粒子およびシリコーンオイルを添加する方法が挙げられる。例えば、(A)あらかじめ任意の無機粒子とシリコーンオイルを含有しているポリエステルを準備し、それを解重合した原料を用いて重合反応をする方法、(B)任意の無機粒子とシリコーンオイルをテレフタル酸とエチレングリコールのエステル化反応開始直前または反応中の任意の段階で添加する方法、および、(C)任意の無機粒子とシリコーンオイルをテレフタル酸とエチレングリコールのエステル化反応開始直前または反応中の任意の段階で添加する方法等が挙げられる。
【0041】
無機粒子とシリコーンオイルのポリエステルへの好ましい添加方法は、上記のように、あらかじめ任意の無機粒子およびシリコーンオイルを含有しているポリエステルを準備し、それを解重合した原料を用いて重合反応をする方法である。この方法を用いることにより、解重合および重合時に無機粒子とシリコーンオイルが十分に攪拌され、無機粒子とシリコーンオイルがなじむため、ポリエステル中の無機粒子の分散性が非常に良好となる。また、あらかじめ任意の無機粒子およびシリコーンオイルを含有しているポリエステルとしては、環境負荷低減の観点から、繊維屑、フィルム屑およびPETボトル等に使用されたポリエステルを回収し、再利用したリサイクル原料を好ましく用いることができる。
【0042】
シリコーンオイルのポリエステルへの添加方法としては、チップ化したポリエステル表面にあらかじめシリコーンオイルを付与したものを溶融紡糸することにより、シリコーンオイルを極細繊維内に含有せしめる方法も用いられる。
【0043】
本発明で用いられる人工皮革を構成する極細繊維を得る方法としては、極細繊維を直接得る方法と、一旦極細繊維発現型繊維を作成し、その後、極細繊維を発現させる方法を採用することができる。本発明では、より細繊度が得られやすい点や得られる人工皮革の柔軟性の点で、後者の一旦極細繊維発現型繊維を作成し、その後、極細繊維を発現させる方法が好ましく用いられる。その方法として、例えば、溶解性の異なる複数のポリマーをあわせて紡糸し、極細繊維発現可能な繊維を得た後、少なくとも一種類のポリマーを除去して極細繊維を形成する方法などを用いることができる。
【0044】
このような極細繊維発現型繊維を紡糸する際の複合形体としては、ポリマー同士が張り合わされたような状態のサイドバイサイド型の複合形体や、ポリマー中に別のポリマーが島状に存在する海島型の複合形体が好ましく用いられる。
【0045】
また、除去されるポリマーとしては、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコール等を共重合してアルカリ溶解性を高めた共重合ポリエステルやポリ乳酸等が好ましく用いられる。
【0046】
次に、ポリエステル極細繊維を発現させる方法は、除去する成分の種類により異なるが、除去される成分がポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィンであれば、トルエンやトリクロロエチレン等の有機溶媒に浸漬し抽出を行う方法が好ましく用いられる。また、除去される成分がアルカリ溶解性を高めた共重合ポリエステルやポリ乳酸であれば、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液に浸漬し抽出を行う方法が好ましく用いられる。
【0047】
次に、上記の極細繊維または極細繊維発現型繊維をシート化しシート状物とする方法について説明する。
【0048】
シート状物は、織物、編物、短繊維からなる不織布および長繊維からなる不織布のいずれでもかまわない。しかしながら、風合いや品位を重視する場合は、短繊維からなる不織布が好ましく用いられる。短繊維からなる不織布を得る方法としては、カードマシンやクロスラッパーを用いる方法や、抄紙法を採用することができる。また、これらの方法で得られた不織布を、ニードルパンチやウォータージェットパンチで絡合させてもよく、または、他の織物、編み物および不織布と絡合または接着等により一体化させてもよい。
【0049】
一体化させる織物、編物および不織布も極細繊維と同様に無機粒子、シリコーンオイルを含んだものでもよい。一体化させる織物、編み物および不織布に含まれる繊維は人工皮革表面に露出することがあり、露出した繊維は極細繊維と特性が異なるため、ピリングになりやすい。
【0050】
また、一体化させる織物、編物および不織布に用いられる繊維中の無機粒子の含有量は、極細繊維と同様に、好ましくは0.1〜3質量%であり、シリコーンオイルの含有量は、極細繊維と同様に、好ましくは0.001〜1質量%である。繊維中に、無機粒子とシリコーンオイルを添加する方法としては、極細繊維に無機粒子とシリコーンオイルを添加する方法と同様の方法が挙げられる。中でも、ポリエステル繊維原料として、あらかじめ任意の無機粒子およびシリコーンオイルを含有している原料として、環境負荷低減の観点から、繊維屑、フィルム屑およびPETボトル等に使用されたポリエステルを回収し、再利用したリサイクル原料を用いる方法が好ましく用いられる。
【0051】
本発明の抗ピリング性人工皮革を製造するにあたっては、まず極細繊維を作成してからシート化する方法を採用することもできるし、上記極細繊維発現型繊維をシート化した後に上記処理を施して極細繊維を発現させる方法を採用することもできる。
【0052】
シート状物への高分子弾性体の付与方法としては、(a)シート状物に高分子弾性体溶液を含浸し、さらに水溶液または有機溶媒水溶液中に浸漬して高分子弾性体を凝固させる湿式凝固方法、(b)高分子弾性体溶液を含浸後、乾燥して凝固させる乾式凝固方法、および(c)分子弾性体溶液を含浸後、湿熱処理によって高分子弾性体を感熱凝固させる方法等が挙げられる。
【0053】
高分子弾性体溶液に用いられる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトンおよび水等を用いることができる。また、高分子弾性体溶液には、必要に応じて顔料、紫外線吸収剤および酸化防止剤等を添加することができる。
【0054】
本発明においては、人工皮革の少なくとも一面を起毛処理して繊維立毛面を形成させる。繊維立毛面を形成する方法としては、例えば、サンドペーパー等によるバフィングや起毛処理等、各種方法を用いることができる。
【0055】
本発明において、繊維立毛面を形成する前に帯電防止剤を付与することは、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる傾向にあり、好ましい態様である。また、繊維立毛面を形成する前に滑剤としてシリコーン等を付与することは、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となる。極細繊維の破断強度が弱くなると立毛化処理時に極細繊維が切断され、うまく立毛が形成されないため立毛長が短くなる。また、立毛長が短くなると優美な概観が得られにくい。また、立毛長が長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向がある。そのため、立毛長は、好ましくは0.20mm以上1.00mm以下である。
【0056】
本発明の抗ピリング性人工皮革は、染色することができる。染色方法は、人工皮革を染色すると同時に揉み効果を与えて人工皮革をさらに柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。液流染色機には、通常の液流染色機を使用することができる。染色温度は、高すぎると高分子弾性体が劣化する場合があり、逆に低すぎると繊維への染着が不十分となるため、繊維の種類により変更することが好ましい。具体的に染色温度は、一般に80℃以上150℃以下の温度が好ましく、より好ましくは110℃以上130℃以下の温度である。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0057】
また、染色の均一性や再現性を向上させる目的で、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。さらに、人工皮革に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤、消臭剤およびピリング防止剤等の仕上げ剤による処理を施してもよい。このような仕上げ処理は、染色後でも染色と同浴でもよい。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の抗ピリング性人工皮革について、実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。本発明において、評価方法し次のとおりである。
【0059】
[評価方法]
(1)極細繊維中の無機粒子の含有量
人工皮革表面の立毛部から得られた極細繊維を溶剤等で溶解(ポリエチレンテレフタレートの場合は、オルトクロロフェノールを使用する。)し、濾過して不溶解分である無機粒子を採取した。採取した無機粒子を蛍光X線分析し、構成元素を特定すると共に、無機元素量の強度を標準物質から得られた検量線と比較して定量した。また、X線回折分析を行い、標準サンプルデータとの比較から、無機物質を同定した。
【0060】
(2)極細繊維中のシリコーンオイルの含有量
人工皮革表面の立毛部から得られた極細繊維について、29Siプローブによる固体NMR分析を行い、標準物質との比較から、シリコーンオイルの同定と含有量を算出した。
【0061】
(3)極細繊維の破断強度
JIS−L1013(1999年)に従い、溶融紡糸後の海島繊維から海成分を取り除き、極細繊維を発現させて破断強度を測定した。次いで、ポリマー密度より繊維直径あたりの強度に換算した。
【0062】
(4)人工皮革のピリング評価
マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製のModel 406を、標準摩擦布として同社のABRASTIVE CLOTH SM25を用い、人工皮革試料に12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数20,000回の条件で摩擦させた後の人工皮革の外観を目視で観察し、評価した。評価基準は、人工皮革の外観が摩擦前と全く変化が無かったものを5級とし、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。
【0063】
(5)人工皮革の概観品位評価
人工皮革の概観品位は、健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視と官能評価によって下記のように評価し、最も多かった評価を外観品位とした。
3級:繊維の分散状態が良好で、外観も良好である。
2級:繊維の分散状態が悪い、または外観が不良である。
1級:全体的に繊維の分散状態が悪い、かつ外観が不良である。
【0064】
(6)人工皮革の立毛長
人工皮革を直径2cmの円柱に人工皮革を巻きつけ、側面から光を照射し、光の対面から写真を撮影した。その人工皮革から立ち上がっている立毛部分のそれぞれの長さをスケールにより測定し、平均値を算出した。撮影箇所を変更し、100枚の写真について測定した平均値を立毛長とした。
【0065】
(7)糸切れ回数
紡糸性の評価として、溶融紡糸24時間で発生した糸切れの回数を糸切れ回数とした。
【0066】
[実施例1]
平均粒子径50nmの炭酸カルシウム5.0質量%とポリメチルフェニルシロキサンを成分とするシリコーンオイル0.4質量%を含むポリエチレンテレフタレートを解重合した。得られた炭酸カルシウムとシリコーンを含有するテレフタル酸100質量部と、十分に攪拌したエチレングリコールスラリー75質量部と、反応触媒として酢酸マグネシウム0.05質量部および三酸化アンチモン0.04質量部をエステル交換缶に仕込んだ。次いで、これをチッソ雰囲気下で150℃の温度から250℃の温度に徐々に加熱し、生成するメタノールを抽出しつつエステル交換反応を行った。その後、徐々に減圧しつつ280℃の温度まで昇温して2時間重合し、炭酸カルシウムおよびシリコーンを含有するポリエチレンテレフタレートチップを得た。
【0067】
次いで、海成分としてポリスチレンを45質量部と、島成分として上記炭酸カルシウムとシリコーンを含有したポリエチレンテレフタレートを55質量部用いて、海島繊維を溶融紡糸した。得られた海島型繊維は、1フィラメント中に島成分が36島含まれる形態であり、単繊維直径は16μmであった。紡糸開始から24時間以内の糸切れは、発生しなかった。海島型繊維を繊維長51mmにカットして得られたステープルを用いて、カーディングおよびクロスラッパーによって繊維積層ウェブを作成した。次いで、作成した繊維積層ウェブに、100本/cmのニードルパンチを施し、予備絡合不織布とした。得られた予備絡合不織布の両面に目付75g/mの平織ポリエステルスクリムを重ね、フェルト針で2500本/cmのニードルパンチを行い、目付650g/mの不織布を形成した。
【0068】
このようにして得られた不織布を96℃の温度で熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール水溶液を含浸した。次いで、乾燥温度125℃の温度で10分間熱風乾燥することにより、不織布の島成分重量に対するポリビニルアルコール質量が45質量%となるようにポリビニルアルコールを付与したシート状物を得た。このようにして得られたシート状物を、トリクロロエチレン中で海成分を溶解除去し、極細繊維が絡合してなる脱海シートを得た。
【0069】
得られた極細繊維からなる脱海シート状物に、固形分濃度12質量%に調整したエーテル系ポリウレタン樹脂DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)溶液を含浸し、DMF濃度30質量%の水溶液中でポリウレタンを凝固させた。その後、ポリビニルアルコールおよびDMFを熱水で除去し、120℃の温度で10分間熱風乾燥することにより、不織布のポリエステル成分質量に対するポリウレタン樹脂の質量が30質量%となるように、ポリウレタン樹脂を付与したシート状物を得た。
【0070】
得られたシート状物を厚さ方向に半裁し、半裁面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した。その後、サーキュラー染色機を用いて分散染料により染色を行い、人工皮革を得た。得られた人工皮革に含まれる繊維に対するポリエステル極細繊維の割合は60質量%であり、単繊維直径は4.4μmであった。ポリエステル極細繊維中の炭酸カルシウムの含有量は1.0質量%であり、シリコーンオイルの含有量は0.08質量%であった。また、ポリエステル極細繊維の破断強度は、0.42cN/μmであった。得られた人工皮革のピリング評価は4〜5級で、外観品位は4級であり、平均立毛長は0.31mmであった。紡糸時の糸切れの発生は無かった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0071】
[実施例2〜4]
添加する無機粒子の種類、無機粒子量およびシリコーンオイルの添加量を、表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0072】
[実施例5]
ジメチルテレフタル酸100質量部と、平均粒子径50nmの炭酸カルシウムを濃度0.3質量%とポリメチルフェニルシロキサンオイル0.03質量%含有し十分に攪拌したエチレングリコールスラリー75質量部と、反応触媒として酢酸マグネシウム0.05質量部および三酸化アンチモン0.04質量部を、エステル交換缶に仕込んだ。次いで、チッソ雰囲気下で150℃から250℃の温度に徐々に加熱し、生成するメタノールを抽出しつつエステル交換反応を行った。その後、徐々に減圧しつつ280℃の温度まで昇温して2時間重合し、炭酸カルシウム含有ポリエチレンテレフタレートチップを得たこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0073】
[実施例6]
海成分として、5−スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを45質量部と、島成分として、実施例1と同様の平均粒子径50nmの炭酸カルシウム5.0質量%とポリメチルフェニルシロキサンを成分とするシリコーンオイル0.4質量%を含むポリエチレンテレフタレートを55質量部用いて、海島繊維を溶融紡糸した。得られた海島型繊維は、1フィラメント中に島成分が36島含まれる形態であり、単繊維直径は16μmであった。この海島型繊維を繊維長51mmにカットして得られたステープルを用いて、カーディングおよびクロスラッパーによって繊維積層ウェブとしたものに、100本/cmのニードルパンチを施し予備絡合不織布とした。得られた予備絡合不織布両面に目付75g/mの平織ポリエステルスクリムを重ね、フェルト針で2500本/cmのニードルパンチを行い、目付650g/mの不織布を形成した。
【0074】
このようにして得られた不織布を80℃の温度で熱水収縮させた後、乾燥温度125℃で10分間熱風乾燥した。得られた不織布に、固形分濃度12質量%に調整したエーテル系水分散ポリウレタン溶液を含浸し、乾燥温度120℃で10分熱風乾燥させポリウレタンを凝固させた。次に、得られたシート状物を80℃の温度に加熱した濃度15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分処理を行い、海島型繊維の海成分を除去し、不織布のポリエステル成分質量に対するポリウレタン質量が30質量%となるようにポリウレタン樹脂を付与した脱海シート状物を得た。
【0075】
得られた脱海シート状物を厚さ方向に半裁し、半裁面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機にて分散染料により染色を行い、人工皮革を得た。得られた人工皮革に含まれる繊維に対するポリエステル極細繊維の割合は60質量%であり、単繊維直径は4.4μmであった。ポリエステル極細繊維中の炭酸カルシウムの含有量は1.0質量%であり、シリコーンの含有量は0.08質量%であった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0076】
[実施例7〜9]
添加する無機粒子量とシリコーンオイルの添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例10]
実施例1と同様にして得られた海島型繊維の1フィラメント中の島成分を200島としたこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。得られた人工皮革に含まれる繊維の単繊維直径は0.5μmであった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0078】
[実施例11]
実施例1と同様にして得られた海島型繊維の1フィラメント中の島成分を8島としたこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。得られた人工皮革に含まれる繊維の単繊維直径は9.5μmであった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0079】
[実施例12]
極細繊維の組成比率を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。結果を表1に示す。
【0080】
すなわち、実施例1と同様の方法で得られたポリエチレンテレフタレートチップと6−ナイロンチップを用いて、それぞれ別々にエクストルーダーを用いて溶融後、口金内で合流させ、単孔当たりの吐出量を2g/分にして中空口金より吐出し、エジェクター圧力343kPa(3.5kg/cm)にて高速牽引した。その後、−30kVで高電圧印加処理し、空気流と共に分散板に衝突させ、フィラメントを開繊し、16分割の多層貼合せ型断面をもつ剥離分割型複合長繊維(繊維直径16.7μm、中空率は4%)からなる繊維ウェブとして、補集ネットコンベアーで目付41g/m2で補集した。
【0081】
得られた繊維ウェブを連続で上下100℃の温度のエンボスカレンダーを用いて軽く熱接着を行い、この繊維ウェブ16枚をクロスレイヤーを用いて積層し、ニードルパンチにて交絡処理を施した。その後、水に浸漬し、軽くマングルで絞った後、シート状物打撃式揉み機を用いて複合繊維の分割極細繊維化処理を行い、目付650g/mの不織布を形成した。このようにして得られた不織布に、実施例1と同様の方法でポリウレタン付与し、半裁、起毛処理および染色を行い、人工皮革を得た。得られた人工皮革に含まれる繊維の単繊維直径は、8.2μmであった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0082】
[実施例13]
実施例1で用いた予備絡合不織布の両面に重ねた平織ポリエステルスクリムに代えて、炭酸カルシウム1質量%とシリコーンオイル0.08質量%を含有するポリエチレンテレフタレートからなる平織りポリエステルスクリムを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0083】
[比較例1〜3]
無機粒子および/またはシリコーンオイルを含まないポリエステル用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。比較例1では、無機粒子もシリコーンオイルも含まないため、ピリング評価が2級であった。比較例2では、シリコーンオイルを含まないため、立毛長が短く概観が不良であった。比較例3では、無機粒子を含まないため、ピリング評価が2級であった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0084】
[比較例4]
添加する無機粒子の種類、無機粒子量およびシリコーンオイルの添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。得られた人工皮革は、無機粒子含有量が多いため、立毛長が短く概観が不良であった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0085】
[比較例5]
極細繊維の組成比率を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で人工皮革を得た。得られた人工皮革は、ポリエステル以外の極細繊維が多く異繊維同士の絡まりが発生したため、ピリング評価が3級となった。また、色ムラが強く概観評価が2.5級であった。人工皮革の構成を表1に、性能評価結果を表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1の「極細繊維ポリマー組成」における割合は、質量%である。
【0088】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維直径が0.3〜10μmの極細繊維と高分子弾性体を含み、前記極細繊維からなる立毛を有するシート状物であって、前記極細繊維が、極細繊維100質量%に対し0.01〜5質量%の無機粒子と、極細繊維100質量%に対し0.001〜1質量%のシリコーンオイルを含有することを特徴とする抗ピリング性人工皮革。
【請求項2】
極細繊維がポリエステル極細繊維を90質量%以上含むことを特徴とする請求項1記載の抗ピリング性人工皮革。
【請求項3】
極細繊維がポリエステル極細繊維を100質量%含むことを特徴とする請求項1記載の抗ピリング性人工皮革。
【請求項4】
無機粒子が、カルシウム塩、シリカおよび酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つの無機粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の抗ピリング性人工皮革。

【公開番号】特開2011−74558(P2011−74558A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195630(P2010−195630)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】