説明

抗体産生細胞の安定性に影響を与える手段および方法

【課題】抗体産生細胞の安定性に影響を与える方法を提供する。
【解決手段】抗体産生細胞の安定性に関与し、抗体産生細胞の複製寿命を延長する為に、抗体産生細胞内におけるBCL6および/またはBlimp-1の発現産物の量に直接的または間接的に影響を与える段階を含む、抗体産生細胞の安定性に影響を与える方法を提供する。更に安定な抗体産生細胞および細胞株、ならびに、このような細胞および/または細胞株を使用して抗体を産生する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞生物学の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
エクスビボ細胞培養物は、今日の生物学および医学への応用における重要なツールである。1つの重要な応用は、抗体、好ましくはモノクローナル抗体を回収する目的で抗体産生細胞を培養することである。モノクローナル抗体(mAb)は、多数の同一のコピーの1種類の単一抗体分子であり、同コピーは抗原に同じ親和性で結合し、および同じエフェクター機能を促進する。mAbの利点には、抗原上の同じエピトープに対する特異性がある。この特異性は、従来の治療を上回る臨床上の利点をmAbに付与する一方で、一般に副作用が低く、有効で耐容性に優れた治療オプションを患者に提供する。さらにmAbは、生物学および医学の研究に有用である。
【0003】
培養物中における大半の初代細胞の増殖能は、老化の誘導によって制限される。この不可逆的な成長停止の状態は、老化関連のベータガラクトシダーゼ、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)、p19ARF、p53、p21CIP1、およびp16INK4Aなどの、数種類の老化関連マーカーの発現を特徴とする。増殖性細胞株を提供するため、細胞はしばしば、ハイブリドーマ細胞を作製する目的で、癌細胞と融合される。結果として得られるハイブリドーマ細胞は、無制限に分裂可能であり、および細胞培養で良好に成長する。所望の特徴を有する個々のハイブリドーマを後に、任意の目的で選択することができる。
【0004】
所望の特異性を有するヒトモノクローナル抗体を直接得る目的では、このような抗体産生可能なB細胞を単離し、およびB細胞をエクスビボで培養することが簡便である。しかしながら、ヒトB細胞を対象としたハイブリドーマ技術は、結果として得られるハイブリドーマが不安定なために、それほど成功していない。B細胞をエクスビボで培養する試みは多く行われている。ヒトのナイーブ(naive)B細胞および記憶B細胞は、IL-2、IL-4、およびIL-10を含むサイトカインの存在下で、CD40との結合後に、限られた期間にわたって培養可能なことは、文献(Banchereau et al., 1991)に詳しく報告されており、ならびにこのような系は、インビボにおけるB細胞の、CD40Lを発現するヘルパーT細胞を刺激する同種抗原に対する反応に似ていると考えられている。CD40との連結が起こらない場合は、IL-10単独、またはIL-2との組み合わせが、抗体産生細胞への分化を誘導する(Malisan et al., 1996)。このような条件で培養された成熟B細胞の生存および増殖の調節の機構は、部分的にしかわかっていない。
【0005】
B細胞上におけるCD40との結合は、B細胞のアポトーシスからの保護、分化の(部分的な)阻害、およびサイトカイン応答性の誘導を含む複数の作用を有する。Rb-1およびRb-2(Dadgostar et al., 2002)を含む多数の細胞周期阻害因子の発現はCD40の結合によって低下し、ならびに、このような遺伝子群のダウンレギュレーションは、静止期のB細胞を静止期から解放する可能性が高い。CD40による誘導は短期間の増殖反応につながるが、サイトカインは誘導B細胞の細胞周期進行の維持に有益である。IL-2およびIL-4は、CD40または表面Igが刺激されたB細胞の継続的な細胞周期の進行を促進する最も有効なサイトカインである。しかし、上記論文に記載されたB細胞培養物は、限られた期間のみ安定である。
【0006】
B細胞を不死化する別のアプローチが、エプスタイン・バーウイルス(EBV)による形質転換である。しかしながら、EBVによって形質転換されるB細胞の頻度は低く、したがって、所望の抗体を産生する、EBVによって形質転換されたB細胞を作製する試みは、それほど成功していない。Traggiaiらは最近、B細胞の形質転換率を高めた、より効率の高い、エプスタイン・バーウイルスによるヒトB細胞の形質転換法について報告している。この方法で、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS-CoV)の感染から回復した患者から得られたB細胞が、EBVによって形質転換されており、ならびにSARSおよび他のウイルスのタンパク質に特異的なモノクローナル抗体を産生する形質転換B細胞クローンが単離されている(Traggiai et al., 2004)。
【0007】
B細胞を不死化する、さらに別のアプローチは、特許出願WO 03/052083に記載されている。同出願には、ヒトB細胞に、活性化および転写の構成的活性シグナル伝達因子(constitutively active signal transducer of activation and transduction)(CA-STAT)が形質導入される、B細胞を安定化させる方法が記載されている。長い寿命のB細胞が観察されている。しかしながら、複製能力を有するB細胞は、同時には抗体を産生不能であった。抗体は、細胞の複製を停止させることで、最終分化を引き起こすことで得られた。最終分化細胞は、一定の期間に抗体を産生し、その後、分化細胞は死滅した。しかしながら、WO 03/052083に記載された、複製能力を有するB細胞は、1.5〜2か月間か、またはこれ以上の培養後に、抗体産生細胞に分化する能力を失うので、このようなB細胞培養物は抗体産生には適していない。
【発明の概要】
【0008】
抗体産生細胞を培養するさまざまなアプローチが報告されているが、抗体産生細胞の安定性に影響を与える手段および方法は依然として求められている。このような手段および方法を提供することが本発明の目的の1つである。
【0009】
したがって本発明は、抗体産生細胞内におけるBCL6および/またはBlimp-1の発現産物の量に直接的または間接的に影響を与える段階を含む、該抗体産生細胞の安定性に影響を与える方法を提供する。好ましくは、該抗体産生細胞内におけるBCL6とBlimp-1の両方の発現産物の量は調節されている。なぜなら、両発現産物とも抗体産生細胞の安定性に関与するからである。抗体産生細胞の安定性は、該抗体産生細胞が、特定の発生段階に留まる能力と定義される(任意で、該細胞が該段階に入った後)。細胞のさまざまな発生段階が、該細胞の少なくとも1つの異なる特性に関与する。例えば記憶B細胞は、刺激を受けて、一部の研究者が形質芽細胞と呼ぶ段階を経て、抗体分泌性の形質細胞に分化することが知られている。記憶B細胞、形質芽細胞、および形質細胞は、B細胞の異なる発生段階であり、異なる特性を有する。記憶B細胞は、低い増殖および抗体分泌を示す。形質芽細胞は記憶B細胞と比較して、より高い増殖、および、より高い抗体分泌レベルの両方を示す一方で、形質細胞は、高い抗体レベルを分泌するが増殖できない。これら3つの発生段階は、表1に示すように、細胞表面マーカーの差も特徴とする。
【0010】
本発明の方法で、抗体産生細胞の複製寿命を調節することが可能となる。抗体産生細胞の複製寿命は本明細書で、B細胞およびその子孫細胞が複製可能な一方で、抗体産生能力を維持するか、および/または抗体を産生する細胞に分化する能力を維持するタイムスパンと定義される。抗体産生細胞の複製寿命は例えば、抗体産生細胞を強制的に別の発生段階に進めると短くなる。1つの態様では、抗体産生細胞の複製寿命は、該細胞を強制的に最終分化させることで短くなる。これは、抗体産生の上昇および細胞周期の停止を特徴とする。最終分化中は、細胞は増殖を停止し、および最終的には死滅する。しかしながら好ましくは、抗体産生細胞の複製寿命は延長される。つまり該抗体産生細胞は最終分化せず(すなわち、使用されている同じ種類の抗体産生細胞と比較して長期間を経た後に最終分化し)、およびインビトロで増殖を続ける。本発明では、抗体産生細胞におけるBCL6および/またはBlimp-1の発現産物の量を、抗体産生細胞が、細胞が継続して増殖する所定の発生状態に進むか、および/または所定の発生状態で維持される規模に調節することが可能となる。したがって本発明の方法では、B細胞を、複製を生じる特定の発生段階に維持することが可能であることから、抗体産生細胞の複製寿命を延長させることが可能となる。現行のエクスビボにおけるB細胞の培養では、複製寿命は数週間〜2か月に過ぎない。この期間を過ぎると、培養細胞は、その複製能力、その抗体を産生する能力、および/または抗体を産生する細胞への分化能力を失う。しかしながら本発明の方法によって、エクスビボ培養物が、複製および抗体産生(または抗体を産生する細胞への分化)が可能な細胞を含むように生じるように、抗体産生細胞の複製寿命を延長させることが可能となる。
【0011】
抗体産生細胞は、抗体、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体の産生および/または分泌が可能な細胞、および/または抗体、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体の産生および/または分泌が可能な細胞に分化できる細胞と定義される。好ましくは該抗体産生細胞は、B細胞および/またはB細胞由来の形質細胞を含む。B細胞は本明細書で、たとえB細胞がナイーブB細胞や記憶B細胞のような、抗体産生が低いか、または抗体が全く存在しない段階にあったとしても、また活性化されているかいないにかかわらず、抗体産生細胞と呼ばれる。なぜなら、このような細胞は、形質芽細胞および/または形質細胞などの、抗体を産生する細胞に分化可能であるからである。該抗体産生細胞は好ましくは哺乳類の細胞を含む。非制限的な例は、ヒト個体、齧歯類、ウサギ、ラマ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、類人猿、ゴリラに由来する抗体産生細胞を含む。好ましくは該抗体産生細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、ウサギ細胞、および/またはラマ細胞を含む。
【0012】
抗体の機能的部分は、該抗体と種類について(量については不問)同じである少なくとも1つの同じ特性を有する部分と定義される。該機能的部分は好ましくは、該抗体と同じ抗原に結合可能であるが、同じ規模である必要は必ずしもない。抗体の機能的部分は好ましくは、単一ドメイン抗体、1本鎖抗体および/またはFab断片を含む。抗体の機能性の誘導体または類似体は、結果として得られる化合物の少なくとも1つの特性(好ましくは抗原結合特性)が、種類について(量については不問)実質的に同じであるように変化した抗体と定義される。
【0013】
BCL6は、B細胞およびT細胞の正常な発生および成熟に必要な、ならびに胚中心の形成に必要な転写抑制因子をコードする(Ye, 1997)。BCL6は胚中心B細胞で強く発現されるが、形質細胞では、ほとんど発現されない。BCL6は、活性化B細胞の形質細胞への分化を阻害する。転写抑制因子であるBリンパ球誘導性成熟タンパク質-1(B lymphocyte induced maturation protein-1)(Blimp-1)は、B細胞の形質細胞への分化に必要である。Blimp-1のヒトバリアントはPrdm1と命名されている。本明細書におけるBlimp-1に関する任意の言及は、Prdm1に関する言及を含む。Blimp-1は形質細胞の分化を誘導する。BCL6およびBlimp-1は互いの発現を抑制し;したがって天然の状況では、一方が他方より高い発現レベルに達すると分化の段階が強化される。人体では、活性化されたナイーブB細胞または記憶B細胞から形質細胞への分化には、BCL6のダウンレギュレーションおよびBlimp-1のアップレギュレーションが関与する。胚中心細胞ではBCL6の発現は高く、およびBlimp-1の発現は低い。静止期記憶細胞では、BCL6のおよびBlimp-1の発現は低い。分化を引き起こすシグナルは、Blimp-1のアップレギュレーションを生じ、およびこのBlimp-1はBCL6の発現に拮抗する。BCL6とBlimp-1の両方が発現される段階は短く、形質芽細胞と呼ばれる。Blimp-1のレベルが次第に高まるに伴ってBCL6の発現は消失し、形質細胞となる。
【0014】
本発明の1つの態様は、BCL6およびBlimp-1が抗体産生細胞で共発現され(BCL6とBlimp-1の両方が抗体産生細胞で発現されること)、適切なシグナルが提供されると増殖可能な抗体産生細胞を得る方法を提供する。BCL6およびBlimp-1の共発現は、増殖と抗体産生の両方が可能な抗体産生細胞につながることが報告されている。BCL6およびBlimp-1は好ましくは、B細胞で、好ましくはヒトのB細胞で共発現される。B細胞におけるBCL6およびBlimp-1の共発現は、形質芽細胞様の段階における該B細胞の安定化につながる。形質芽細胞は形質細胞と同様に、抗体を分泌可能である。しかしながら、形質芽細胞が依然として増殖能を有している一方で、形質細胞は、その増殖能を失っている。したがって形質細胞は、抗体産生細胞株の培養に適していない。形質芽細胞は、高度に望ましい増殖および抗体産生の特性を発揮するが、これらは未だ、長期の抗体産生には使用されていない。なぜなら本発明に至るまで、形質芽細胞の安定化が可能ではなかったからである。
【0015】
本発明の方法では例えば、ナイーブB細胞または記憶B細胞を形質芽細胞様の細胞に変換すること、および形質細胞への速やかな分化が生じないように該細胞を安定化することが可能となる。これは、記憶B細胞におけるBlimp-1の発現が形質細胞への速やかな発生をもたらし、それにより、得られた形質細胞がBCL6をほとんど発現しないようにBCL6の発現を阻害する、天然における形質細胞の発生とは相反する。したがって本発明の1つの態様は、増殖と抗体産生の両方が可能な細胞につながる、B細胞におけるBCL6とBlimp-1の両方の共発現を含む。好ましくは、B細胞の安定な培養物が作製される。抗体産生細胞の安定で長期間のエクスビボ培養が、こうして可能となる。BCL6およびBlimp-1を共発現するこのような抗体産生B細胞は、抗アポトーシス遺伝子Bcl-xLを添加することで、さらに安定化可能である。Bcl-xLの導入によって、形質芽細胞を低細胞密度の条件で成長させることが今日可能となりつつある。したがって本発明は、抗体産生細胞に、本明細書に記載の任意の方法で、発現レベルのBCL6、Blimp-1、およびBcl-xLを提供する段階を含む、形質芽細胞を低細胞密度条件で培養する方法も提供する。
【0016】
抗体産生細胞におけるBCL6の発現産物(好ましくはBCL6タンパク質)の量は、さまざまな方法で調節される。1つの態様では、抗体産生細胞には、BCL6の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物が提供される。抗体産生細胞には好ましくは、Blimp-1の発現中におけるBCL6のダウンレギュレーションに対抗する目的で、BCL6の発現を促進できる化合物が提供される。このような化合物は好ましくは、活性化および転写のシグナル伝達因子5(Signal Transducer of Activation and Transcription 5)(STAT5)タンパク質、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体、および/またはこれらをコードする核酸配列を含む。STAT5は、BCL6の発現を促進できるシグナル伝達因子である。STAT5には、2つの異なるタンデムに並んだ遺伝子にコードされた2つの既知の形状(STAT5aおよびSTAT5b)が存在する。STAT5の添加および/または活性化は、BCL6レベルの上昇につながる。したがって、Blimp-1によるBCL6のダウンレギュレーションは少なくとも部分的には、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体によるBCL6の発現のアップレギュレーションによって補われる。したがって、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体は、BCL6の発現に直接影響を与えることが可能である。BCL6の発現に間接的に影響を与えることも可能である。これは例えば、STAT5を直接的または間接的に活性化するか、および/またはSTAT5の発現を調節することが後に可能な化合物の量を調節することで成される。したがって1つの態様では、内因性および/または外因性のSTAT5の発現および/または活性が高められる。例えば、抗体産生細胞を、STAT5を活性化できるインターロイキン(IL)-2および/またはIL-4の存在下で培養することで、BCL6の発現を間接的に促進することが可能である。
【0017】
好ましくは抗体産生細胞には、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が提供される(該核酸配列は構成的に活性、つまりSTAT5は(内因性の)調節因子の存在に依存せずに継続的に発現される)。内因性のSTAT5の発現が低いか、または発現しない場合は、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする、外因性の構成的に活性な核酸配列が好ましくは使用されて、BCL6の発現を十分に促進するSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体の濃度が達成される。最も好ましくは、抗体産生細胞には、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む化合物、好ましくは活性が、BCL6の発現の活性化の規模が随意に調節されるように抑制因子の外因性誘導物質によって調節される融合タンパク質をコードする核酸配列が提供される。BCL-6の誘導を可能とする別の系は、テトラサイクリンおよび/またはテトラサイクリン誘導体の添加が、BCL6遺伝子の転写と、これに続くBCLタンパク質の合成を誘導するトランス活性化因子の活性を誘導するTet-on系によって提供される。1つの好ましい態様では、抗体産生細胞には、エストロゲン受容体(ER)およびSTAT5を融合タンパク質ER-STAT5としてコードする核酸配列が提供される。この融合タンパク質は、細胞質中で熱ショックタンパク質と複合体を形成するために不活性である。このためSTAT5は核に到達することができず、およびBCL6の発現は促進されない。外因性誘導因子である4ヒドロキシ-タモキシフェン(4HT)が添加されると、融合タンパク質ER-STAT5は熱ショックタンパク質と解離して、STAT5は核内に入ってBCL6の発現を活性化することが可能となる。
【0018】
付加的または代替的に、抗体産生細胞におけるBCL6の発現は、該抗体産生細胞を、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で培養することで促進される。
【0019】
したがって本発明の1つの態様は、以下の段階を含む方法を提供する:抗体産生細胞に、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物を提供する段階;および/または抗体産生細胞を、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で培養する段階。BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる該化合物は好ましくは、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む。したがって本発明は、該抗体産生細胞に、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を、またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を提供する段階を含む方法を提供する。1つの態様では、該抗体産生細胞は、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列の、該細胞内への導入後に培養される。該核酸配列は例えば、トランスフェクション、および/またはウイルスによる遺伝子輸送によって該細胞中に導入される。核酸配列を細胞中に導入する、本明細書でさらなる説明を必要としない多くの代替的な方法が、当技術分野で利用可能である。
【0020】
BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物を使用することで、内因性のBCL6の発現を促進することが可能である。しかしながら1つの好ましい態様では、抗体産生細胞には、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が提供される。このように、抗体産生細胞中におけるBCL6の濃度を、内因性のBCL6の発現とは無関係に調節することが可能である。したがって、例えばBlimp-1によって引き起こされるように、たとえ内因性のBCL6の発現が低いか、または発現しない場合であっても、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列は依然として、抗体産生細胞の安定性に影響を与えるのに十分な濃度のBCL6を産生可能である。したがって本発明は、該抗体産生細胞に、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を提供する段階を含む方法も提供する。好ましくは該抗体産生細胞には、BCL6の発現が、たとえ該細胞の内因性のBCL6の発現が、Blimp-1などの内因性抑制因子によって阻害されても維持されるように、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする、構成的に活性な核酸配列が提供される。最も好ましくは、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする該核酸配列の発現は、BCL6の発現の規模が随意に調節されるように、抑制因子の外因性誘導因子によって調節される。例えば、Tet-on系やTet-off系などの誘導プロモーター系が使用される。
【0021】
別の好ましい態様では、本発明は、BCL6の量が、抗体産生細胞にE47、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を提供することで間接的に調節される方法を提供する。E47は、Eタンパク質と命名されたヘリックス-ループ-ヘリックスタンパク質のファミリーに属する転写因子をコードする。リンパ球の発生に関与する、E12、E47、E2-2、およびHEBの4種類のEタンパク質が存在する。E12およびE47は、異なってスプライスされるE2Aと命名された1つの遺伝子にコードされている。Eタンパク質は、Eタンパク質阻害因子であるId2およびId3によって、ならびにABF-1によって阻害され得る(Mathas S., 2006)。Eタンパク質は腫瘍抑制因子であると報告されており、および過剰発現するとアポトーシスを誘導すると報告されている。E47の特異的な標的の1つは、Socs1遺伝子およびSocs3遺伝子である。これらのSocs遺伝子はSTAT5bの負の調節因子であり、したがってBCL6を間接的に阻害することが知られている。言い換えると、B細胞内におけるE47の発現は、Blimp-1の発現を促進し、ひいてはB細胞の抗体産生表現型(形質細胞)への分化につながる。
【0022】
抗体産生細胞におけるBlimp-1の発現の量は、さまざまな方法でも調節される。1つの態様では、抗体産生細胞には、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物が提供される。付加的または代替的に、抗体産生細胞は、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物の存在下で培養される。したがって本発明は、該抗体産生細胞に、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物を提供する段階を含む方法も提供する。さらに本発明は、該抗体産生細胞を、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物の存在下で培養する段階を含む方法も提供する。好ましくは、BCL6の発現中におけるBlimp-1のダウンレギュレーションに対抗する目的で、Blimp-1の発現を促進できる化合物が使用される。該化合物は最も好ましくはIL-21を含む。
【0023】
1つの好ましい態様では、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる該化合物は、活性化および転写のシグナル伝達因子3(Signal Transducer of Activation and Transcription)(STAT3)タンパク質、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体、および/または、これらをコードする核酸配列を含む。STAT3は、B細胞の発生および分化に関与するシグナル伝達因子である。STAT3は、Blimp-1の発現をアップレギュレート可能である。したがって本発明はさらに、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる該化合物が、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体、またはSTAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を含む方法も提供する。最も好ましくは、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする該核酸配列の発現は、STAT3の発現の規模が随意に調節されるように、抑制因子の外因性誘導因子によって調節される。例えば、Tet-on系やTet-off系などの誘導型のプロモーター系が使用される。1つの態様では、STAT3、誘導体または類似体、およびERを含む融合産物が該細胞中に導入されることで、ヒドロキシタモキシフェンによるSTAT3の発現の調節が可能となる。
【0024】
STAT3は、Blimp-1の発現に影響を与えることができるので、STAT3の活性および/または発現を直接的または間接的に調節することが可能な化合物を添加することで、Blimp-1の発現を間接的に調節することも可能である。1つの態様では、抗体産生細胞には、Blimp-1の発現が随意に間接的に促進されるように、STAT3の活性を促進できる化合物が提供される。したがって本発明は、抗体産生細胞に、STAT3の活性を直接的または間接的に促進することが可能な化合物が提供される方法も提供する。
【0025】
したがって1つの態様では、抗体産生細胞には、Blimp-1の発現を促進する目的で、STAT3を直接的または間接的に活性化できる化合物が提供される。
【0026】
STAT3は、さまざまな方法で活性化される。好ましくはSTAT3は、抗体産生細胞にサイトカインを提供することで活性化される。天然では、B細胞の分化に関与するサイトカインは、STATタンパク質の調節に極めて有効である。STAT3の極めて有効な活性化因子はIL-21およびIL-6であるが、IL-2、IL-7、IL-10、IL-15、およびIL-27もSTAT3を活性化することが知られている。さらに、先天性免疫に関与するToll様受容体(TLR)もSTAT3を活性化可能である。したがって本発明の1つの態様は、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる該化合物が、IL-21、IL-2、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、および/またはIL-27を含む方法を提供する。最も好ましくはIL-21が使用される。なぜならIL-21が、抗体産生細胞の安定性に影響を与えるのに特に適しているからである。IL-21は、たとえBlimp-1の発現がBCL6によって拮抗されても、Blimp-1の発現をアップレギュレート可能である。
【0027】
付加的または代替的に、変異型Janusキナーゼ(JAK)が、STAT3を活性化する目的で使用される。
【0028】
天然では、JAKはSTAT3をリン酸化することが可能であり、この後に自身は少なくとも1種類のサイトカインによって活性化される。サイトカインの存在とは無関係にSTAT3を活性化することが可能な変異型Janusキナーゼは、本発明の方法に特に適している。
【0029】
既に説明したように、1つの態様における、Blimp-1の発現に影響を与えることができる化合物は、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を含む。STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列の存在は、たとえ内因性のSTAT3の発現が極めて低いか、または発現がなくとも、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体の継続的な存在を可能とする。
【0030】
Blimp-1をアップレギュレートする目的で、STAT5の発現および/または活性を低下させることも可能である。もしSTAT5の量および/または活性が低下すると、BCL6の発現の活性化も低下し、BCL6の発現産物の量の減少につながる。BCL6およびBlimp-1は相互の発現に拮抗するので、BCL6の発現産物の量の減少は、Blimp-1の発現産物の量の増加につながる。したがって、STAT5の活性をダウンレギュレート可能な化合物は、Blimp-1を間接的にアップレギュレート可能である。このような化合物は例えば、サイトカイン情報伝達抑制因子(suppressor of cytokine signalling; SOCS)タンパク質の抑制因子のメンバーを含む。したがって1つの態様では、抗体産生細胞におけるBlimp-1の発現産物の量は、該細胞にSOCSタンパク質を提供することで、および/またはSOCSタンパク質を該細胞内で活性化することでアップレギュレートされる。
【0031】
1つの好ましい態様では、STAT5の発現および/または活性は、該抗体産生細胞に、E47、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が提供されると低下する。したがって、高レベルのSTAT5bを発現するB細胞内におけるE47の発現は、分化および増殖に干渉する(すなわちE47およびSOCSを介するSTAT5の阻害は、BCL6レベルの低下、ひいてはBlimp-1のレベルの上昇につながる)。Blimp-1のアップレギュレートされたレベルは、増殖の低下、および関与細胞の抗体産生細胞への分化につながる。言い換えると、B細胞内におけるE47の発現はBlimp-1の発現を促進し、B細胞の抗体産生表現型(形質細胞)への分化につながる。
【0032】
STAT5タンパク質、STAT3タンパク質、および/またはBCL6の少なくとも機能的部分とは、それぞれSTAT5タンパク質、STAT3タンパク質、および/またはBCL6と比較して、抗体産生細胞の安定性に影響を与える同じ能力(種類に関して、量は不問)を有するタンパク性分子を意味する。STAT5タンパク質またはSTAT3タンパク質の機能的部分は例えば、該能力に関与しないアミノ酸、または極めてわずかにのみ関与するアミノ酸を欠く。STAT5タンパク質、STAT3タンパク質、および/またはBCL6の誘導体とは、該タンパク質の、抗体産生細胞の安定性に影響を与える能力が実質的に同じとなるように改変されたタンパク質(種類について、量は不問)と定義される。誘導体は多くの方法で、例えば、1つのアミノ酸が、全体的な機能は大きく影響を受けないように、一般に類似の特性(サイズや疎水性など)を有する別のアミノ酸と置換される保存的アミノ酸置換で提供される。誘導体は例えば、活性が4ヒドロキシ-タモキシフェン(4HT)の存在に依存するSTAT5-ER融合タンパク質などの融合タンパク質を含む。STAT5タンパク質、STAT3タンパク質、および/またはBCL6の類似体とは、抗体産生細胞の安定性に影響を与える、同じ能力を有する(種類について、量は不問)分子であると定義される。該類似体は、該STAT5タンパク質、該STAT3タンパク質、および/または該BCL6に必ずしも由来しない。
【0033】
本発明の好ましい態様は、該抗体産生細胞に追加の不死化剤(immortalizing agent)、好ましくはEBVなどの形質転換剤(transforming agent)を提供する方法を提供する。不死化剤の追加によって、本発明の抗体産生細胞の安定性、増殖、および/または抗体産生は促進される。形質転換剤は、細胞のゲノムの少なくとも一部を修飾することが可能な薬剤である。該形質転換剤は好ましくは、細胞のゲノム中に組み込まれ得る核酸を含む。
【0034】
好ましい態様では、抗体産生細胞、好ましくはB細胞にはエプスタイン・バーウイルス(EBV)が提供される。本発明の抗体産生細胞にEBVが感染すると、該細胞の安定性、増殖、および/または抗体産生が高まる。1つの特に好ましい態様では、抗体産生細胞、好ましくはB細胞はIL-21の存在下で培養され、およびEBVが提供される。これは、IL-21および/またはEBVによる処理を行わない同じ種類の抗体産生細胞と比較して、増殖および/または抗体産生の改善につながる。該抗体産生細胞は好ましくは、IL-21の存在下で培養されてからEBVに感染させる。したがって、該細胞をIL-21の存在下で培養する段階、および該細胞にEBVを提供する段階を含む、抗体産生細胞の安定性を高める方法が提供される。
【0035】
本発明では、IL-21が抗体細胞の安定性の改善に特に適している。好ましい態様は、抗体産生細胞、好ましくはB細胞をIL-21の存在下で培養する段階を含み、抗体産生細胞にはさらに、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、および/あるいは、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が提供される。該抗体産生細胞には好ましくはEBVが感染される。例えば、天然でEBVが感染した抗体産生細胞が本発明の方法に使用される。代替的または付加的に、抗体産生細胞にはEBVが提供される。
【0036】
1つの好ましい態様では、該抗体産生細胞がIL-21の存在下で培養された後、BCL6の発現を直接的または間接的に促進することが可能な化合物、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、ならびに/または、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が、該抗体産生細胞に提供される。該細胞内におけるBCL6および/またはBlimp-1の発現産物の量が影響を受ける前に、抗体産生細胞、好ましくはB細胞をIL-21の存在下で培養することが望ましい。なぜなら、このような態様では、安定性、増殖、および/または抗体産生が特に良好に改善されるからである。
【0037】
好ましい態様では、本発明はさらに、該抗体産生細胞内におけるBcl-xLの発現産物の量を直接的または間接的に増やす段階をさらに含む、本明細書に記載された抗体産生細胞の安定性に影響を与える方法を提供する。これは例えば、該抗体産生細胞に、Bcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を提供することによって、または、Bcl-2を含むがこれに限定されない他の抗アポトーシス遺伝子をコードする核酸配列を提供することによって達成される。さらに別の態様では、これは、該抗体産生細胞に、Bcl-xLの発現を直接的または間接的に促進できる化合物を提供することによって達成され、好ましくは該化合物は、APRIL、BAFF、CD40、BCR刺激(stimulation)、サイトカイン、成長因子、またはJNKおよびAKT(PKB)などの下流エフェクターを含む。
【0038】
Bcl-xLは、抗アポトーシス性のBcl-2ファミリーのメンバーであり、Bcl-2タンパク質は、内因性の細胞死刺激を受けてシトクロムcの放出を誘導する、Bax、Bak、Bim、およびBadなどの、いわゆるBcl-2相同ドメイン3(Bcl-2 homology domain 3) (BH3)-onlyファミリーのメンバーと相互作用および拮抗する(Boise, L. H., 1993)。したがって、Bcl-xLのようなタンパク質によるミトコンドリア膜の統合性の保護は、細胞の生存に極めて重要である。
【0039】
STAT5の活性化は、細胞を細胞死から保護することが示されている。STAT5はBcl-xLの発現を調節し、STAT5に対する抗アポトーシス的な役割を支持することが示されている。STAT5は、Bcl-xLプロモーター内のSTAT結合エレメントを介して、Bcl-xLの発現を正に調節する。インビボではBcl-xLの発現は、STAT5A/B二重欠損マウスの骨髄では認められない。さらに、STAT5を介する赤芽球の生存は、Bcl-xLのアップレギュレーションに依存する。最近、マウスB細胞におけるトランスジェニック手法によるBcl-xLの過剰発現が、B細胞の生存および非悪性形質細胞巣を促進することが報告されている。
【0040】
本発明の方法は、増殖および抗体分泌が可能な抗体産生細胞を含む抗体産生細胞培養物の作製に特に適している。1つの態様では、記憶B細胞が、エクスビボにおけるB細胞培養物を作製する目的で使用される。代替的または付加的に、ナイーブB細胞が使用される。該記憶B細胞および/または該ナイーブB細胞は、ヒト抗体が産生されるように、好ましくはヒト由来である。好ましくは、所望の特異性を有する記憶B細胞が使用される。これは、抗体が関心対象の抗原に対する所望の特異性を有する、抗体分泌細胞に分化できる記憶B細胞が使用されることを意味する。該関心対象の抗原は例えば、病原体由来抗原、腫瘍由来抗原、および/または自己抗原を含む。1つの態様では、B細胞は、末梢血液試料、臍帯血試料、および/または扁桃腺試料から、当技術分野で周知の方法で単離される。記憶B細胞は例えば、B細胞マーカーCD19の選択、ならびに(これに続く)細胞表面のIgGおよび/またはCD27の選択によって単離される。胚中心B細胞では、BCL6の発現は高いがBlimp-1の発現は低い。天然における抗体分泌細胞への分化には、Blimp-1の発現のアップレギュレーションが関与する。Blimp-1はBCL6の発現を抑制するので、Blimp-1のアップレギュレーションは、天然の状況ではBCL6のダウンレギュレーションにつながる。しかしながら本発明の好ましい態様では、Blimp-1の発現がアップレギュレートされる一方で、BCL6の発現は少なくとも部分的に維持される。これは、BCL6およびBlimp-1が共発現される抗体産生細胞につながる。該抗体産生細胞は増殖および抗体分泌が可能であり、ならびにしたがってエクスビボにおけるB細胞培養における使用に適している。より好ましい態様では、該抗体産生細胞はBcl-xLによるアポトーシスから保護される。該抗体産生細胞には好ましくはEBVが感染される。1つの態様では、天然の状態でEBVが感染した抗体産生細胞が使用される。代替的または付加的に、抗体産生細胞にはEBVが提供される。本発明の抗体産生細胞には、長期間にわたって安定であり、および最終分化を受けないという利点がある。本発明の該抗体産生細胞は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、最も好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定である。本発明のB細胞は好ましくは、CD40Lの存在下で培養される。なぜなら、大半のB細胞の複製にはCD40Lがプラスに作用するからである。
【0041】
1つの態様では、BCL6の発現は、胚中心B細胞と比較して、実質的に同じレベルで、またはより高いレベルで維持される。なぜなら、BCL6の有意な発現は、Blimp-1の発現を伴って、好ましい増殖、ならびに抗体産生特性および/または安定性を有する抗体産生細胞につながるからである。好ましい態様では、該BCL6の発現および/または該Blimp-1の発現はBcl-xLの発現を伴い、さらにより好ましい増殖および抗体産生特性、および/または安定性につながる。
【0042】
したがって1つの態様は、以下の段階を含む、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞を作製する方法を提供する:記憶B細胞またはナイーブB細胞を提供する段階;該細胞におけるBlimp-1の発現レベルを高める段階;ならびに、該細胞におけるBCL6の発現レベルを高める、および/または維持する段階。記憶B細胞またはナイーブB細胞におけるBlimp-1の発現レベルを高める段階、ならびに該細胞におけるBCL6の発現レベルを高める、および/または維持する段階を含む、抗体産生細胞を作製するエクスビボにおける方法も提供する。該BCL6および該Blimp-1の発現レベルは好ましくは、形質芽細胞と比較して実質的に同じレベルに、またはそれより高いレベルに到達させられ、および/または維持される。1つの態様では、該B細胞にはEBVが(天然の状態で、および/または人工的に)感染されるか、および/またはBcl-xLが形質導入される。最も好ましくは、記憶B細胞が使用される。該記憶B細胞は好ましくは、病原体由来抗原、腫瘍由来抗原、および/または自己抗原に対する特異性を有する。
【0043】
Blimp-1の発現およびBCL6の発現は、既に本明細書に記載されたように、さまざまな方法で影響を受ける。例えばBlimp-1の発現は、記憶B細胞および/またはナイーブB細胞において、該B細胞に、Blimp-1、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、および/またはSTAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列などの、Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物を添加することで高められる。好ましくは該核酸の発現は、Blimp-1の発現の規模が随意に調節されるように、抑制因子の外因性誘導因子によって調節される。
【0044】
代替的または付加的に、記憶B細胞および/またはナイーブB細胞は、例えばIL-21、IL-2、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、IL-27、または変異型Janusキナーゼなどの、Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で培養される。好ましくはIL-21が使用される。なぜならこのサイトカインは、本発明の方法によるBlimp-1の発現、および抗体産生細胞の安定化の促進に特に適しているからである。1つの態様では、B細胞にはSOCSタンパク質、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体、またはこれらをコードする核酸が提供される。なぜなら、SOCSタンパク質、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体は、Blimp-1の発現を間接的に促進可能だからである。別の代替的または付加的な態様では、B細胞には、E47、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体、またはこれらをコードする核酸が提供される。既に概説したように、E47、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体のレベルの上昇の結果として、Socsタンパク質の機能は高められ、およびBlimp-1の発現は間接的に高められる。Blimp-1の発現は、内因性のBCL6のダウンレギュレーションにつながる。したがって、該記憶B細胞には好ましくは、BCL6とBlimp-1の両方の共発現につながる、BCL6の発現を維持できる化合物も提供される。該化合物は好ましくは、BCL6の発現を、誘導すること、および/または形質芽細胞と比較して実質的に同じレベルか、またはより高いレベルに維持することが可能である。このような化合物の好ましい例は、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列である。
【0045】
B細胞に、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物を、例えば核酸配列の形質導入によって直接提供することが可能である。1つの態様では、B細胞におけるBCL6の発現は、記憶B細胞を、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物か、および/または、BCL6の発現を胚中心B細胞と比較して実質的に同じレベルに、またはより高いレベルに維持できる化合物の存在下で培養することで維持および/または促進される。
【0046】
好ましい態様では、Blimp-1の発現はB細胞で、好ましくは該B細胞をSTAT3および/またはBlimp-1を活性化できる化合物の存在下で培養することによってアップレギュレートされる。該化合物は好ましくはIL-21を含む。該B細胞は好ましくは記憶B細胞を含む。この後に、BCL6の発現は好ましくは促進される。第1段階におけるBCL6のアップレギュレーションと、これに続くBlimp-1のアップレギュレーションは、複製および抗体産生が可能な特に安定なB細胞につながることが報告されている。本発明の1つの態様では、Blimp-1の発現は、BCL6の発現が促進されてもアップレギュレートされる。しかしながら別の場合では、Blimp-1の発現がアップレギュレートされない一方で、BCL6の発現は促進される。このように、B細胞の複製能力は特異的に促進される。したがって、B細胞の抗体産生能力は、好ましくは第1に、Blimp-1の発現および/または活性をアップレギュレートすることで促進される。続いて、該B細胞の複製能力は好ましくは、BCL6の発現および/または活性をアップレギュレートすることで促進される。B細胞は好ましくは、Blimp-1の発現および/または活性を促進できる化合物の非存在下で、複製が有意に上昇するまで培養される。続いて、該B細胞は好ましくは、抗体産生が維持されるように、Blimp-1の発現および/または活性の促進因子の存在下で再び培養される。実施例で説明されるように、Blimp-1およびBCL6を、さまざまな方法で調節して、複製および抗体産生が可能なB細胞におけるBlimp-1とBCL6の両方の共発現につなげることが可能である。1つの好ましい態様では、該B細胞にEBVを(天然の状態で、および/または人工的に)感染させるか、および/または形質導入をBcl-xLを使用して行う。
【0047】
1つの好ましい態様では、Blimp-1の発現は、該B細胞を、STAT3を活性化できる化合物の存在下で培養することによって、B細胞、好ましくは記憶B細胞でアップレギュレートされる。該化合物は好ましくはIL-21を含む。1つの態様では、該B細胞には次に、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が提供される。該B細胞は、複製を促進する目的で、好ましくは数日間、STAT3を活性化できる該化合物の非存在下で培養される。続いて該細胞は好ましくは、STAT3を活性化できる化合物とともに、および/または同化合物が提供されることで再び培養される。
【0048】
実施例には、B細胞が最初にIL-21の存在下で培養される特に好ましい態様を示す。続いてB細胞には、BCL6をコードする核酸配列が提供される。B細胞は、BCL6の発現を可能とする目的で、IL-21の非存在下、かつIL-2およびIL-4の存在下で数日間にわたって培養され、その後に、複製および抗体産生を促進する目的で、培養物にIL-21が再び添加される。エクスビボ培養で少なくとも6か月間にわたって複製および抗体産生が可能な、BCL6およびBlimp-1が共発現される安定なB細胞が得られる。1つの好ましい態様では、該B細胞にEBVを感染させる。本発明のB細胞培養が好ましい。なぜならB細胞は、現行のB細胞培養と比較して、長期間にわたってエクスビボ培養で複製および抗体産生が可能だからである。
【0049】
別の好ましい態様では、BCL6の発現を促進する目的で、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が使用される。
【0050】
WO 03/052083に記載されているような、抗体産生が可能な安定なB細胞培養物を得る目的で、STAT5を使用する従来技術の試みは失敗に終わっている。なぜならB細胞が、抗体産生細胞への分化能力を2か月以内に失ってしまうからである。しかしながら本発明は、もしBlimp-1の発現がB細胞でもアップレギュレートされると、STAT5が実際に、安定な抗体産生B細胞培養物の作製に適しているという知見を提供する。好ましくは、B細胞におけるBlimp-1の発現は促進され、その後、BCL6の発現が、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体によって促進される。
【0051】
好ましい態様では、Blimp-1の発現は、B細胞内で、好ましくは該B細胞をSTAT3を活性化できる化合物の存在下で培養することでアップレギュレートされる。該化合物は好ましくはIL-21を含む。該B細胞は好ましくは記憶B細胞を含む。続いて該B細胞に、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が提供される。該核酸配列は好ましくは、活性が外因性調節因子の有無に依存する、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む化合物をコードする。最も好ましくは、該B細胞には、活性が4ヒドロキシ-タモキシフェン(4HT)の存在に依存する、STAT5-ER融合タンパク質をコードする核酸配列が提供される。複製と抗体産生の両方が可能な、結果として得られるB細胞では、Blimp-1およびBCL6が共発現される。本発明のB細胞を含む培養物が作製されると、B細胞の複製および抗体産生の能力を、BCL6およびBlimp-1の発現を調節することで、さらに調節することが可能となる。BCL6およびBlimp-1の発現産物の量は、さらなる培養中に随意に調節される。例えば、細胞の抗体産生が低下すると、STAT5の活性は(好ましくは細胞培養物から4ヒドロキシ-タモキシフェンを除去することで)好ましくは低下するが、該B細胞は、STAT3および/またはBlimp-1(の発現)を活性化できる化合物の存在下で培養される。好ましくは、このような細胞は、IL-21の存在下、かつ4ヒドロキシ-タモキシフェンの非存在下でしばらく(典型的には約数日間)培養される。抗体産生が促進されたら、複製を促進し、およびBlimp-1の発現がBCL6の発現を完全に消失させないことを確実なものとする目的で、培養段階を好ましくは、ヒドロキシ-タモキシフェンの存在下、およびSTAT3を活性化できる該化合物の非存在下で続行する。
【0052】
1つの態様では、複製および抗体産生はEBV感染によって促進される。したがって、該B細胞にSTAT5が提供された後に、好ましくはEBVが感染される。高い抗体レベルを分泌する、安定なB細胞が得られる。
【0053】
実施例には、B細胞が最初に、IL-21の存在下で数日間にわたって培養される、特に好ましい態様が示される。Blimp-1の発現が誘導されると、B細胞は抗体産生細胞に分化する。次にB細胞に、STAT5-ERをコードする核酸配列が提供される。B細胞をIL-21の存在下で約1〜50日間、好ましくは約1〜30日間、より好ましくは約1.5〜21日間、最も好ましくは約1〜5日間にわたって培養し、後にB細胞を、STAT5を活性化する目的で、IL-21の非存在下、かつ4-HT、IL-2、およびIL-4の存在下で培養する。この期間中、BCL6の発現は、BCL6およびBlimp-1が共発現される平衡を維持する目的で促進される。最後に、不死化および増殖の後に、Blimp-1の発現を高める目的で、培養物にIL-21が再び添加され、および4HTが除去される。BCL6およびBlimp-1が共発現される該平衡は、BCL6の発現とBlimp-1の発現の両方が維持されるように、培地中におけるさまざまな量のIL-21および4-HTによって維持される。エクスビボ培養において、少なくとも6か月間にわたって複製および抗体産生が可能な安定なB細胞が得られる。
【0054】
したがって本発明の方法によって、エクスビボで培養されるB細胞の複製能力および抗体産生能力の微妙な調節が可能となる。抗体産生のアップレギュレーションが望ましい場合は、Blimp-1の発現の方がBCL6の発現より好ましい。複製のアップレギュレーションが望ましい場合は、BCL6の発現の方が、Blimp-1の発現より好ましい。本発明の方法によって、エクスビボにおける複製および抗体産生が可能な抗体産生細胞につながる、BCL6およびBlimp-1が共発現される平衡の維持が可能となる。1つの態様では、抗体産生をさらに高め、および安定化させる目的で、該平衡の確立後に該B細胞にEBVを感染させる。
【0055】
加えて本発明は、上記の平衡の調節が、Eタンパク質(例えばE47)によっても得られることをさらに開示する。高レベルのSTAT5bを発現するB細胞におけるE47の発現は分化および増殖に干渉する(すなわちE47およびSOCSを介したSTAT5の阻害は、BCL6レベルの低下、およびこれに続くBlimp-1のレベルの上昇につながる)。Blimp-1のアップレギュレートされたレベルは、増殖の低下に、および関与細胞の抗体産生細胞への分化につながる。言い換えると、B細胞内におけるE47の発現は、Blimp-1の発現を促進し、これがB細胞の抗体産生表現型(形質細胞)への分化につながる。
【0056】
本発明はさらに、Bcl-xLによる抗体産生細胞の成長の安定化に関する。
【0057】
したがって本発明は、以下の段階を含む、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞を作製する方法を提供する:Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物をB細胞に提供する段階、および/またはBlimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下でB細胞を培養する段階;およびBCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物、またはBCL6の発現を、胚中心B細胞と比較して実質的により高いレベルに維持できる化合物を該B細胞に提供する段階。
【0058】
代替的または付加的に、該B細胞は、Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で、および/またはBCL6の発現を、天然の記憶B細胞と比較して実質的に同じレベルで、またはより高いレベルで維持できる化合物の存在下で培養される。
【0059】
BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる、および/またはBCL6の発現を、天然の記憶B細胞と比較して、より高いレベルで維持できる該化合物は好ましくは以下を含む:BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、および/あるいは、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、および/または、STAT5を直接的または間接的に活性化できる化合物、および/またはSTAT5の発現を直接的または間接的に促進できる化合物。
【0060】
B細胞には好ましくは最初に、Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物が提供され、および/またはBlimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で培養され、その後に、該B細胞におけるBCL6の発現および/またはBCL6活性が高まる。
【0061】
本明細書で既に説明したように、Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる該化合物は好ましくは、IL-21、IL-2、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、IL-27、SOCSタンパク質、Eタンパク質であるE47、E12、E2-2、もしくはHEB、変異型Janusキナーゼ、および/またはSTAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を含む。最も好ましくはIL-21が使用される。もし、BCL6、STAT5および/またはSTAT3、および/またはBcl-xLをコードする核酸配列、または、BCL6、STAT5および/またはSTAT3、および/またはBcl-xLの機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体が使用される場合は、該核酸配列の発現は好ましくは、外因性化合物によって誘導され得る活性化因子および/または抑制因子によって調節される。このように、該核酸配列の発現は、使用される外因性化合物の量を決定することで調節される。
【0062】
さらに好ましい態様では、抗体産生細胞には、該細胞の安定性、増殖、および/または抗体産生を高める目的で、不死化剤が提供される。既に説明したように、該不死化剤は好ましくは形質転換剤を含む。特に好ましい態様では、B細胞にEBVを感染させる。該B細胞は好ましくはIL-21の存在下で培養される。実施例に示されるように、EBVに感染し、およびIL-21の存在下で培養されたB細胞は、強い増殖および高い抗体産生を示す。該B細胞は好ましくは、IL-21の存在下で培養してからEBVに感染される。しかしながら、EBV感染B細胞、好ましくは天然の状態でEBVに感染したB細胞を単離し、およびこれをIL-21の存在下で培養することも可能である。したがって、該B細胞をIL-21の存在下で培養する段階、および該B細胞にEBVを感染させる段階を含む、B細胞の安定性に影響を与える方法も提供される。該EBV感染B細胞をIL-21の存在下で培養する段階を含む、EBV感染B細胞の安定性に影響を与える方法も本発明で提供される。1つの態様では、B細胞はIL-21の存在下で培養されてEBVが感染され、および続いてIL-21の非存在下で培養される。
【0063】
1つの態様は、EBV感染に加えて、BCL6の発現産物および/またはBlimp-1の発現産物の量に影響を与える段階を含む。好ましくは、抗体産生細胞、好ましくはB細胞にはEBVが感染される一方で、BCL6およびBlimp-1は該抗体産生細胞で共発現される。1つの好ましい態様では、B細胞には、BCL6、および/またはBCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物がEBVとともに提供される。BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる該化合物は、好ましくはSTAT5を含む。別の好ましい態様では、既に(天然の状態で)EBVに感染したB細胞には、BCL6、および/またはBCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物、好ましくはSTAT5が提供される。該B細胞は好ましくはIL-21の存在下で培養される。
【0064】
したがって本発明では、B細胞を提供する段階;好ましくは該B細胞をIL-21の存在下で培養する段階;BCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を該B細胞に提供する段階;該B細胞にエプスタイン・バーウイルスを提供する段階;ならびに該B細胞をエクスビボで培養する段階を含む方法がさらに提供される。EBV感染B細胞を提供する段階;好ましくは該B細胞をIL-21の存在下で培養する段階;該B細胞に、BCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を提供する段階;ならびに該B細胞をエクスビボで培養する段階を含む方法も本発明で提供される。このようにして、強い増殖および抗体産生を示すB細胞が作製される。
【0065】
1つの態様では、複数のB細胞が、所定の抗原に対する特異性に関して試験される。これは、当技術分野で既知の任意の方法、例えばELISAで行われる。続いて、所定の抗原に特異性を有する少なくとも1種類のB細胞が選択される。これは例えば、B細胞を標識抗原とともにインキュベートし、および該B細胞を当技術分野で既知の方法で単離することで実施される。選択されたB細胞を好ましくはIL-21の存在下で培養する。この態様では、選択された細胞には、BCL6の発現産物の存在および/または量を誘導する、維持する、および/または改善する目的で、外因性のBCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体が提供される。続いて、外因性のBCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む、少なくとも1種類のB細胞が選択される。選択された該B細胞にエプスタイン・バーウイルスを感染させる。この態様は、B細胞プールに由来する任意の特異性を有するB細胞の選択および培養に特に適している。例えばヒトB細胞は、B細胞マーカーであるCD19の選択によって回収され、および関心対象の抗原とともに培養される。このようにして、所望の特異性を有するヒトB細胞が選択され、およびさらにエクスビボで培養される。該B細胞は好ましくは、培養期間の少なくとも1つの段階においてIL-21の存在下で培養される。1つの好ましい態様では、該B細胞は、IL-21の存在下で培養されてから、BCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体が該B細胞中に導入される。さらに別の好ましい態様では、該B細胞にはさらに、Bcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体が提供される。
【0066】
たとえEBVが増殖および抗体産生を促進するとしても、抗体産生細胞へのEBV感染が常に好ましいとは限らない。例えば、もし抗体産生細胞の特性および遺伝的特徴の強い制御が望ましいならば、EBV感染を使用しないことを選択するとよい。なぜならEBV感染は、不明な核酸配列の細胞ゲノムへの組み込みを伴うからである。さらに、EBVに感染したB細胞は、そのB細胞受容体(BCR)の表面発現を失う。これは例えば、長期間の培養後にB細胞が単離されるか、および/または所望の特異性に関してスクリーニングされることが意図される場合には望ましくない場合がある。このような単離法および/またはスクリーニング法は通常、所望の特異性を有するB細胞と、そのBCRを介した関心対象の抗原の結合を含む。したがって、BCRの発現が有意に低下したEBV感染B細胞は、そのような単離/スクリーニング法に、それほど適していない。したがって、例えばスクリーニングアッセイ法などのような、B細胞上のB細胞受容体の存在が望ましい場合は、B細胞は好ましくはEBVに感染させないか、または後期段階で感染させる。
【0067】
本発明の1つの態様は、対象となる抗体、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を選択および/または単離する段階をさらに含む方法を提供する。1つの態様では、IgM産生細胞およびIgG産生細胞が選択されるか、および/または単離される。好ましくは、IgG産生細胞が選択されるか、および/または単離される。
【0068】
本発明の方法で作製された抗体産生細胞は、関心対象の抗原に対する抗体の産生に適している。しかしながら1つの好ましい態様では、Igの重鎖および/または軽鎖をコードする遺伝子が該細胞から単離され、および例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株の細胞などの第2の細胞で発現される。本明細書でプロデューサー細胞とも呼ばれる該第2の細胞は好ましくは、商業的な抗体産生に応用されている。該プロデューサー細胞の増殖によって、抗体を産生可能なプロデューサー細胞株が得られる。好ましくは該プロデューサー細胞株は、ヒトで使用される化合物の作製に適している。したがって、該プロデューサー細胞株は好ましくは、病原性微生物などの病原体を含まない。
【0069】
本発明の方法は好ましくは、商業的な抗体産生が可能となるように、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞の作製に使用される。本発明の1つの好ましい態様は、関心対象の抗原に対する抗体を産生可能な抗体産生細胞を作製する方法を提供する。対象となる該抗原は好ましくは、病原体由来抗原、腫瘍由来抗原、および/または自己抗原を含む。最も好ましくは、モノクローナル抗体を産生可能な安定な細胞株が作製される。これは好ましくは、例えば試料から、CD19(B細胞マーカー)、ならびに細胞表面のIgGおよび/またはCD27(記憶細胞のマーカー)の選択によって単離された記憶B細胞を使用することで実施される。さらに、関心対象の抗原特異的に結合できる抗体産生細胞は例えば、該関心対象の抗原を使用する結合アッセイ法で選択される。次に、この好ましい態様では、Blimp-1およびBCL6が該抗体産生細胞で共発現され、該関心対象の抗原と特異的に結合できる細胞の培養物が得られる。好ましくは該抗体産生細胞にはEBVが感染される。さらに別の好ましい態様では、該B細胞にはさらに、Bcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体が提供される。
【0070】
もし、唯一の記憶細胞が使用される場合は、モノクローナル抗体を産生する本発明の細胞株が得られる。さまざまな抗原に対する抗体を産生可能なさまざまなB細胞から開始して、モノクローナル抗体産生細胞株を作製することも可能である。安定なB細胞培養物が本発明の方法で作製されたら、対象となる特定の抗原に対する抗体を産生可能なB細胞が単離され、ならびに該B細胞に由来するIgの重鎖および/または軽鎖をコードする遺伝子の少なくとも機能的部分が第2の細胞株で発現される。好ましくは、該B細胞に由来するIg重鎖をコードする遺伝子の少なくとも機能的部分、およびIg軽鎖をコードする遺伝子の少なくとも機能的部分が第2の細胞株で発現される。
【0071】
1つの態様では、過去に関心対象の抗原に曝露された個体から得られた抗体産生細胞(好ましくは記憶B細胞であるが、必ずしも記憶B細胞である必要はない)が本発明の方法に使用される。このようにして、対象となるヒト抗体をエクスビボで産生させることが可能となる。
【0072】
本発明はさらに、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な(つまり本発明の抗体産生細胞は、複製と抗体産生の両方が可能であるか、または複製、および該期間中に抗体を産生する細胞への分化が可能である)抗体産生細胞を提供する。本発明の抗体産生細胞は例えば、IgMを産生する細胞、およびIgG、IgA、IgEのような他の免疫グロブリンのアイソタイプを産生する細胞を含む。本発明の抗体産生細胞は、抗体産生細胞株における使用に特に適している。本発明の抗体産生細胞は好ましくはエクスビボで培養され、および該細胞によって産生される抗体が好ましくは、後の使用のために回収される。代替的または付加的に、該細胞の抗体コード遺伝子が、後の使用のために単離される。本発明の方法によって作製される抗体、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体は、例えば、治療、予防、および診断上の応用などのさまざまな応用、ならびに研究目的およびエクスビボ実験に有用である。例えば、本発明の抗体、または機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を、関心対象の抗原が存在するか否かを判定する目的で、試料とともにインキュベートするスクリーニングアッセイ法が実施される。
【0073】
本発明の抗体産生細胞は好ましくは、哺乳類細胞、より好ましくは、ヒト細胞、マウス細胞、ウサギ細胞、および/またはラマ細胞を含む。特に好ましい態様では、該抗体産生細胞は、ヒト抗体を産生するヒト細胞を含む。なぜならヒト抗体は、ヒト個体を対象とした治療および/または予防における応用に特に適しているからである。
【0074】
本発明の抗体産生細胞は好ましくは、BCL6の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる外因性化合物、および/またはBlimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる外因性化合物を含む。本発明の抗体産生細胞は好ましくは、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる外因性化合物、およびBlimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる外因性化合物を含む。なぜなら、BCL6およびBlimp-1の共発現は、増殖および抗体産生が可能な、本発明の好ましい抗体産生細胞につながるからである。
【0075】
既に説明したように、BCL6の発現は、さまざまな方法で促進される。BCL6の発現は好ましくは、BCL6および/またはSTAT5、または、BCL6および/またはSTAT5の機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を使用してアップレギュレートされる。したがって、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列、および/あるいは、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列を含む、本発明の抗体産生細胞も提供される。
【0076】
さらに、Blimp-1の発現は、さまざまな方法で促進される。好ましくは、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列が使用される。したがって本発明はさらに、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列を含む、本発明の抗体産生細胞も提供する。
【0077】
1つの態様では、BCL6、STAT5、STAT3、および/またはBcl-xL、および/または、BCL6、STAT5および/またはSTAT3、および/またはBcl-xLの機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする該核酸配列は構成的に活性であり、BCL6、STAT5、STAT3、および/または、これらの機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体は、たとえ内因性のBCL6、STAT5、および/またはSTAT3、および/またはBcl-xLの遺伝子が内因性化合物によってダウンレギュレートされても本発明の抗体産生細胞中に存在し続ける。最も好ましくは、BCL6、STAT5、STAT3、および/またはBcl-xL、または、BCL6、STAT5、ならびに/またはSTAT3、ならびに/またはBcl-xLの機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする該核酸配列の発現は、BCL6、STAT5、STAT3、および/またはBcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体の量が、使用される外因性化合物の量を調節することで随意に調節されるように、外因性化合物によって誘導され得る活性化因子および/または抑制因子によって調節される。したがって1つの態様は、BCL6、STAT5、STAT3、および/またはBcl-xL、または、BCL6、STAT5、ならびに/またはSTAT3、ならびに/またはBcl-xLの機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする該核酸配列の発現が、外因性化合物によって誘導され得る活性化因子および/または抑制因子によって調節される、本発明の抗体産生細胞を提供する。
【0078】
既に説明したように、さまざまな態様では、本発明の抗体産生細胞にEBVが感染される。したがって本発明はさらに、以下を抗体産生細胞に提供する:(1)不死化剤、好ましくは形質転換剤、より好ましくはエプスタイン・バーウイルス;ならびに(2)該細胞におけるBCL6の発現産物の量に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物、および/または該細胞におけるBlimp-1の発現産物の量に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物。1つの態様では、抗体産生細胞にはBCL6および/またはSTAT5が提供され、次にEBVが感染される。したがって、エプスタイン・バーウイルス、ならびに外因性のBCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む抗体産生細胞も提供される。エプスタイン・バーウイルスおよび外因性のSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む抗体産生細胞も提供される。該抗体産生細胞は、好ましくはB細胞である。実施例で説明されるように、BCL6/STAT5およびEBVが提供されたB細胞は、特に強い増殖および抗体産生を示す。
【0079】
安定性の高い本発明の抗体産生細胞は、エクスビボにおける細胞株の作製に特に適している。したがって本発明はさらに、以下の段階を含む、抗体産生細胞株を作製する方法を提供する:本発明の方法で安定な抗体産生細胞を得る段階、および該抗体産生細胞をエクスビボで培養する段階。
【0080】
好ましくはB細胞株が作製される。最も好ましくは、関心対象の抗原に特異的な抗体を産生可能なB細胞を含む安定な細胞株が作製される。これは好ましくは、例えば病原体由来抗原、腫瘍由来抗原、および/または自己抗原などの関心対象の抗原に対する抗体を産生する細胞に分化できるB細胞を得ることで行われる。次に、該細胞におけるBCL6および/またはBlimp-1の発現の量が調節される。1つの態様では、該B細胞にEBVを感染される。該B細胞は好ましくは、関心対象の抗原に曝露された個体から得られる。該個体は好ましくは、哺乳類、より好ましくはヒト個体、ウサギ、齧歯類、および/またはラマを含む。特に好ましい態様では、該個体はヒト個体である。
【0081】
したがって本発明は、以下の段階を含む、本発明の方法を提供する:個体、好ましくは関心対象の抗原に曝露されたヒト個体からB細胞を得る段階;該個体から本発明の方法で得られた該B細胞を使用して、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞を作製する段階;および該抗体産生細胞をエクスビボで培養する段階。
【0082】
1つの重要な応用は、関心対象の抗原に特異的に結合できる抗体の産生である。したがって本発明の1つの態様は、以下の段階を含む、関心対象の抗原に特異的に結合できる抗体を産生させる方法を提供する:該関心対象の抗原に特異的に結合できる抗体を産生するB細胞に分化できるB細胞を得る段階;本発明の方法における該B細胞を使用して、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞を作製する段階;および該抗体産生細胞から産生された抗体を得る段階。
【0083】
該抗体産生細胞は好ましくはさらに、関心対象の抗原に特異的な抗体を産生可能な安定な細胞株を提供する目的で、エクスビボで培養される。より好ましくは、該B細胞に由来するIgの重鎖および/または軽鎖をコードする遺伝子の少なくとも機能的部分は第2の細胞で発現される。該第2の細胞は好ましくは、商業的に適切な細胞株を作製する目的で使用される。
【0084】
本発明をさらに、以下の実施例で説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を制限せず、単に本発明を明瞭にするだけである。
【実施例】
【0085】
実施例
実施例1
方法
ヒトの記憶B細胞を末梢血または扁桃腺から、最初にCD19 MACS(登録商標)ビーズ(Miltenyi Biotech)を使用するB細胞の正の選択によって精製する。次に記憶B細胞を、IgGを対象とする表面染色および細胞選別によって選択する。次にIgG+ B細胞を、CD40Lを発現するマウス線維芽L細胞とともに、マウスまたはヒトのIL-21の存在下で36〜48時間にわたって培養する。次に細胞を、Retronectin(登録商標)(Takara, Shiga, Japan)でコーティングされた組織培養プレートに移し、そこでヒトBCL6-IRES-GFPをコードするレトロウイルスで37℃で16時間かけて形質導入を行う。次に形質導入細胞をCD40L-L細胞上で、ヒトIL-2およびヒトIL-4の存在下で培養する。約3〜4週間後にGFP+細胞(すなわちBCL6+細胞)が培養100%に達し、その後はBCL6+細胞をIL-2およびIL-4とともに、またはヒトまたはマウスのIL-21とともに培養する。発明者らはフローサイトメトリーで、GFP、CD19、CD38、CD20、MHCクラスII、CD27(BD Biosciences)、および他のマーカーの発現のモニタリングを、標識抗体を使用して行う。発明者らは、細胞数を数えて成長をモニタリングし、およびIgの産生のモニタリングを、培養上清中におけるIgの酵素ELISA検出で行う(Dako, Glostrup, Denmark)。遺伝子の発現は、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR, Invitrogen, Breda、Netherlands)によってモニタリングする。
【0086】
結果
記憶B細胞へのBCL6の導入は、培養物中における、正常B細胞を上回る、寿命のかなりの延長につながる(数か月対約3週間)。このような細胞は、CD19、表面Ig、MHCクラスIIを保持し、ならびに中レベルのCD38およびCD20を発現することから、記憶細胞の表現型を有することが示唆される(データは示していない)。IL-21の存在下における、CD40L-L細胞上におけるこれらの細胞の培養は、有意な成長上の利点(図1)、および形質芽細胞様の細胞表面表現型の獲得(0038hi CD20+、図2)につながる。重要な点は、IL-21とともに培養した細胞は、IL-2およびIL-4とともに培養した細胞と比較して300%多いIgGを分泌することである。以上のデータを総合すると、IL-21培養物は不死化B細胞集団中で、成長および抗体産生の亢進を示す形質芽細胞の発生を促進することがわかる。
【0087】
実施例2
本発明の1つの態様の非制限的モデルを図4に示す。
【0088】
人体では、記憶B細胞から形質細胞への分化には、BCL6のダウンレギュレーションおよびBlimp-1のアップレギュレーションが関与する。記憶細胞ではBCL6の発現は高く、およびBlimp-1の発現は低い。分化を引き起こすシグナルは、Blimp-1のアップレギュレーションを引き起こし、およびこのBlimp-1は、BCL6の発現に対抗する。この段階は期間が短く、形質芽細胞と呼ばれる。Blimp-1のレベルが徐々に高まるに伴ってBGL6の発現は消失し、形質細胞となる。
【0089】
本発明の1つの態様では、BCL6の発現は例えば、B細胞のDNA中に組み込まれたレトロウイルス発現カセットによる安定な発現のために「ロック」される。続いてBCL6レベルを維持することで、発明者らは例えば、STAT3を活性化するサイトカイン(IL-21など)を使用して、Blimp-1の発現を「スイッチオン」とする(図3)。この組み合わせは、重要な転写の調節を介することで、抗体を分泌して形質芽細胞の表現型特性を有する細胞の安定な成長につながる。
【0090】
(表1)記憶B細胞、形質芽細胞、および形質細胞の細胞表面マーカー

【0091】
実施例3
材料および方法
ヒトB細胞の維持および単離
標準的な手順で、CD19陽性のヒトB細胞を、血液バンクに由来するバフィーコート(他の供給源には、新鮮なヘパリンまたはACD血液、またはリンパ器官、例えば扁桃腺または脾臓などがある)から単離した。簡単に説明すると、全末梢血単核球(PBMC)をフィコール密度勾配分離(Amersham, Buckinghamshire, UK)で分離した。CD19標識ビーズを使用して、MACS細胞選別法(Miltenyi, Auburn, CA, USA)でB細胞を正に選択した。次に細胞を、CD19、CD27、IgG、IgM、CD3(Becton Dickinson (BD), Franklin Lakes, NJ, USA)、およびフィコエリトリン(PE)標識破傷風トキソイド(A. Radbruch, Berlin, Germanyから供与)、または他の任意の標識抗原に対するモノクローナル抗体(mAb)を適切に組み合わせて染色した。次に細胞をFACSAria(BD)で選別した。選別された細胞を洗浄し、ならびに8%ウシ胎仔血清(FCS)およびペニシリン/ストレプトマイシンを含むイスコフ改変D最小基本培地(IMDM)中の照射CD40L発現L細胞(5x104細胞/ml;DR. J. Banchereau, Schering Plough France, Dardilly Franceから供与)上で培養した(1.5〜2x105細胞/ml)。特に明記した部分を除いて、このようなCD40L発現L細胞は培養物中に常に存在する。
【0092】
B細胞におけるマウスの構成的に活性なSTAT5bの形質導入および調節
精製済みのB細胞を、caSTAT5b遺伝子で形質導入されるように刺激した。以下の2つの刺激プロトコルを使用した:(1)精製済みのB細胞をインターロイキン(IL)2(20 U/ml, Chiron, Emeryville, CA, USA)とともに3日間にわたって培養後に、IL-2およびIL-4(10 ng/ml, R&D, Minneapolis, MN, USA)とともに24時間にわたって培養するか、または(2)精製済みのB細胞を、組換え型のマウスIL-21(50 ng/ml, R&D)とともに36時間にわたって培養した。次に細胞を、組換え型のヒトフィブロネクチン断片CH-296(Hanenberg H., Nat., Med. 1996;RetroNectin, Takara, Japan)、およびヒト血清アルブミンで処理したプレート(Corning Life Sciences, Corning, NY, USA)上に、L細胞の非存在下でサイトカインIL-2/4またはIL-21とともに添加した。最後に細胞の形質導入を、エストロゲン受容体(ER、H. Kurata, DNAX Institute, Palo Alto, CA, USAから供与)と融合させたcaSTAT5b遺伝子(Ariyoshi K., JBC, 2000に記載、およびT. Kitamura, IMSUT, Tokyo, Japanから入手)を使用して行った。caSTAT5b-ER融合産物の活性は、ホルモンであるヒドロキシタモキシフェン(4HT, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)によって制御可能である。形質導入は、文献(Heemskerk M.H., JEM, 1997;Heemskerk M.H., Cell Immunol. 1999;Scheeren F.A., Nat Immunol, 2005)に記載された手順で、レトロウイルスを使用して実施した。形質導入効率は、神経成長因子受容体の切断型のシグナル伝達不能変異体(ΔNGFR、C. Bonini, St. Raphael Hospital, Milan、Italyから供与)を抗体で染色して決定した。したがって、caSTAT5b遺伝子を含むB細胞の成長は4HTの存在に依存し、およびこのような細胞は、NGFR(Chromaprobe, Maryland Heights, MO, USA)に対する抗体染色によって検出可能である。
【0093】
抗体を分泌する100%のcaSTAT5b陽性B細胞株の開発
発明者らは、モノクローナル抗体を産生し、かつ100% caSTAT5b(=NGFR)陽性のB細胞株を開発した。これは、B細胞を記憶B細胞から抗体産生表現型に分化させ、およびcaSTA5b-ER-IRES-NGFRコンストラクトを使用する形質導入を行うことで達成された。caSTAT5bの作用のために、分化したB細胞は細胞死に対して非感受性となる。B細胞の分化は、サイトカイン混合物(IL-2、IL-4、IL-21、またはこれらのサイトカインとCD40Lの組み合わせ)を使用して、単離後の最初の2〜3週間で誘導される(図5)。4HTの添加によってcaSTAT5bが活性化される時点は、培養物の全体的な表現型に影響する。これはcaSTAT5bによって細胞の表現型の変化が阻害される、例えばさらなる分化が阻害されるためである。したがって、より長い期間にわたって4HTが除去されると、より多くのB細胞が抗体産生細胞に、または、このような培養条件で選択的に成長する細胞タイプに分化する(細胞タイプの例:ナイーブ細胞、濾胞細胞、記憶細胞、抗体産生細胞、血漿芽細胞、形質細胞、周辺帯細胞、類洞周囲細胞、または移行B細胞(これらのB細胞サブセットの多くはマウスでのみ確認されている)。培地中に4HTが存在すると、caSTA5b-ER-IRES-NGFR陽性のB細胞は、長期間の生存が可能となる(表2)。
【0094】
(表2)

caSTAT5b-ER-IRES-NGFRが形質導入されたヒトB細胞培養物の概略。PBMCを血液バンク由来のバフィーコートのフィコール勾配分離後に得た後に、CD19 MACSおよびCD27による選別、またはFACSAriaによる細胞選別を行った。次に、精製済みのB細胞をL細胞の存在下で、記載のサイトカインとともに培養した後に、caSTAT5b-ER-IRES-NGFR遺伝子コンストラクトを含むレトロウイルスによる形質導入を行った。
【0095】
1つの細胞に由来するクローン性B細胞培養物の開発
caSTA5b-ER-IRES-NGFR陽性B細胞の成長は一般に約4週間を要し、この後にクローン培養物が、限界希釈(LD)培養、またはフローサイトメトリー(FACSAria)による1細胞選別を行うことで得られる。このような培養物は、2500〜5000個のL細胞、正常濃度のIL-2およびIL-4、ならびに96ウェルあたりの細胞数が1個、5個、または10個(LDが100% NGFR+細胞を使用して実施時)、ならびに96ウェルあたりの細胞数が10個、100個、および1000個(NGFR+細胞がFACSAriaを使用して96ウェルに選別時)のいずれかからなる。
【0096】
caSTAT5b-ER陽性B細胞培養物の抗体産生の再刺激
抗体産生が陰性か、または低いポリクローナル、オリゴクローナル、またはモノクローナルのcaSTAT5b-ER-IRES-NGFR陽性B細胞培養物を十分に洗浄後に、培養物から(1)4HT、IL-2、およびIL-4を除去後にIL-21とともに培養し、4〜10日後に上清をIgMおよびIgGの産生に関して検討するか、または(2)4HTを10日間かけて除去しながら、IL-2およびIL-4とともに培養し、ならびに10日目に、IL-2およびIL-4をIL-21と交換する。次に、さまざまな時点において、上清をIgMおよびIgGの産生に関して検討した。
【0097】
結果
B細胞の分化および増殖;「IL-2およびIL-4プロトコル」対「IL-21プロトコル」
IL-21で処理されたB細胞培養物は、IL-2およびIL-4の場合と比較して、最初の2〜3週間以内に増殖反応の亢進が認められた(図6a)。しかしながら、IL-2およびIL-4を使用時の培養物とは異なり、IL-21による連続的な刺激は、活性STAT5bの存在下であっても、増殖および細胞死の低下につながった(図6b)。IL-21は最終的に、IL-2およびIL-4と交換しなければならないことが示唆された。この仮説を詳細に検討するために、CD19+CD27+記憶B細胞を対象に、IL-21をIL-2およびIL-4と、36時間後、または5日後、10日後、15日後、および20日後に交換する時系列実験を行った。図7に示すように、大半の培養物は、IL-21が20日間にわたって添加された培養物であっても、IL-21の除去後に維持可能であった。
【0098】
IL-21による抗体産生は全ヒト記憶B細胞培養物を増幅する
興味深いことに、IL-2およびIL-4を使用した培養物とは対照的に、IL-21で増幅された培養物は、抗体を比較的長期間にわたって産生可能であった(IgGおよびIgMはELISA(Dako, Glostrup, Denmark)で測定)(それぞれ図8aおよび図8b)。重要な点は、ドナーB18およびB19のポリクローナルの記憶B細胞培養物のうち、1細胞クローンがLD培養によって得られたことである(表3)。
【0099】
(表3)

CD19+CD27+NGFR+選別B細胞から単離されたクローンの頻度。細胞は96ウェル中に、1ウェルあたりの細胞数が1000個、100個、10個、または1個のいずれかとなるように選別した。ウェルは、5000個のCD40L発現L細胞、IL-2およびIL-4を含む。培地の1/4〜1/2を週に2回、新鮮なサイトカインおよび2500個のL細胞と交換した。
【0100】
クローン培養物の大半がIgMを産生し、IgGを産生したのは一部のみであった(図9)。加えて、2つのクローン培養物が、IgMとIgGの両方を産生した(クローンの7およびクローン8)。これらのクローンが実際にクローン性であるか否か、またはクラススイッチングが生じたか否かは判定されていない。後者の場合は、1つのBCR VDJ領域が、同培養物中のIgGまたはIgMの遺伝子断片中に存在するはずである。
【0101】
IL-21で増幅された破傷風トキソイド特異的B細胞培養物の抗体産生
次に発明者らは、破傷風トキソイド(TT)に特異的な抗体を産生するB細胞を単離可能か否かを検討した。簡単に説明すると、以下のプロトコルを実施した:
パート1
(1)CD27+TT+ B細胞を選別し(回収率はドナー依存性であり、10000〜1000個の細胞)、
(2)IL-21とともに36時間にわたって培養し、
(3)caSTA5b-ER-IRES-NGFRにより形質導入を行い、ならびに
(4)時間を変えて(36時間〜3週間)IL-21とともに培養後、IL-21をIL-2、IL-4、および4HTと交換し、
パート2
(5)培養物が100% NGFR+の場合は、限界希釈(LD)でクローニングした。
【0102】
培養の2〜3か月後に、100%のNGFR+、α-TT特異的ポリクローナルB細胞培養物を、少なくとも7人の異なるドナーから得た(パート1)。全てのドナーが、α-TT-IgG特異的抗体によるELISA(r-biopharm, Darmstadt, Germany)で陽性と判定された。図10aに示すように、α-TT IgGのレベルは比較的低かった。記憶B細胞の不死化は、数多くのIgM産生培養物の出現につながったので(図9)、TT培養物の大半がIgM陽性であることがわかる。図10bに示すように、7人のドナーのうち5人がIgMを産生しており、抗TT抗体がIgMに由来し、したがって発明者らのα-TT IgGによるELISAでは検出されないことが示唆される。
【0103】
このため発明者らは、r-biopharmのTT IgGによるELISAを元に、α-TT IgMによるELISAを開発することにした。唯一の差は最終段階であり、この場合、抗ヒトIgG-HRPではなくα-ヒトIgM-HRP抗体を添加する。
【0104】
次にポリクローナルのTT培養物から、α-TT特異的なB細胞クローンをLD培養で抽出した(パート2)。このようなLD培養物を、4人のドナーに由来する100%のNGFR+ポリクローナルのα-TT-特異的B細胞の開始培養物とした(表4)。ドナーB16由来のクローンは主にIgGを産生し、B18およびB19はIgMを産生し、ならびにB15はIgGとIgMの両方を産生した(データは示していない)。次に、これらのクローンの上清を、IgG TTまたはIgM TTによるELISAで検討した(図11)。ドナー15を除く全てのドナーでTT結合が認められたが、比較的高い力価の抗TT抗体を産生したのは5個のクローンのみであった。
【0105】
(表4)

100% NGFR+ TT特異的B細胞の限界希釈培養。単離クローンの総数、および単離条件(1細胞/ウェル、5細胞/ウェル、または10細胞/ウェルのいずれか)を示す。各条件(1細胞/ウェル、5細胞/ウェル、または10細胞/ウェル)につき1枚の96ウェルプレートを使用した。ウェルは、2500個のCD40L発現L細胞、IL-2およびIL-4を含む。培地の1/4〜1/2を週2回、新鮮なサイトカイン、および2500個のL細胞と交換した。
【0106】
IL-21によって増幅された破傷風トキソイド特異的B細胞培養物の抗体産生の再刺激
発明者らは、IL-21を刺激として使用して、IgMおよびIgGを産生するポリクローナルおよびモノクローナルのB細胞培養物を作製することもできた。それにもかかわらず、抗体産生は安定ではなかった。しかしながら驚くべきことに、これらのIL-21処理培養物は再刺激されると、IgG抗体およびIgM抗体を産生可能となった(それぞれ図12aおよび図12b)。これは、4HTの除去、およびIL-21による同時刺激によって達成された。このプロトコルを採用したところ、全抗体産生は、IgMについては2〜1000倍、およびIgGについては2〜25倍上昇した。再刺激されたモノクローナル培養物の上清の一部は、この時点で、IgGおよびIgM破傷風ELISAで陽性と判定された(図13)。
【0107】
重要な点は、caSTAT5bによる形質導入、およびこれに続く増殖に先だってIL-21で処理されなかったcaSTAT5bまたはcaSTAT5b-ERのB細胞培養物が、再刺激によって、任意の条件で抗体を産生できなかったことである(特許出願WO 03/052083を参照;データは示していない)。
【0108】
実施例4
材料および方法
以下に関する方法の詳細は、実施例3に記載されている:
・ヒトB細胞の維持および単離;
・B細胞におけるマウスの構成的に活性なSTAT5bの形質導入および調節;
・抗体を分泌する100% caSTAT5b陽性B細胞株の作製;
・1細胞由来のクローン性B細胞培養物の作製;ならびに
・caSTA5b-ER陽性B細胞培養物による抗体産生の再刺激。
【0109】
EBVに感染し、およびBCL6-IRES-NGFRまたはcaSTAT5-ER-IRES-NGFRを発現する、IL-21を含むB細胞培養物における抗体産生
精製済みの初代CD19+CD27+ B細胞(B細胞)をIL-21、および照射済みCD40L発現L細胞(L細胞)で36時間にわたって刺激した後に、BCL6-IRES-NGFRまたはcaSTAT5b-ER-IRES-NGFRによる形質導入を行った。形質導入後に、BCL6形質導入細胞はIL-21とともに培養し、ならびにcaSTAT5b-ER形質導入細胞はIL-2およびIL-4とともに培養した。形質導入細胞は、2〜3日以内にNGFR陽性となり、および続けてFACSAriaで選別を行った。NGFR選別細胞を次に、100〜5000細胞/96ウェルの細胞密度で培養した(ミニバルク培養(mini bulk culture; MBC))。BCL6/IL-21によるMBCは、caSTAT5b-ER培養物と比較して強く増殖した。これらの培養物を抗体産生に関して検討し、24ウェルに拡張して凍結した(生細胞、細胞ペレット、および上清)。caSTAT5b-ER培養物を拡張し、2枚の平行96ウェルに分割した。1つのウェルでは、IL-2、IL-4、および4HTとともに培養し、ならびに別のウェルでは、IL-21とともに培養した(4HT非添加)。
【0110】
RT-PCR
強い増殖反応がEBVの存在と関連するか否かを検討するために、EBV RT-PCRを実施した。溶解したペレットからRNeasyミニキット(Qiagen)を使用して全RNAを単離した。RNAの逆転写を、5種類のファーストストランド緩衝液、500 μM dNTP、25 μg/l オリゴ(dT)、および200 U superscript II RT(Life Technologies)を含む20 μlの容量で行った。cDNA溶液の一部(1 μl)を、20 mM Tris-HCl、50 mM KCl、1.5 mM MgCl2、5 mM dNTP、2.5 U Taq DNAポリメラーゼ(Life Technologies)、および30 pmolの各プライマーを含む50 μlの溶液中でPCR増幅した。以下のPCR条件を用いた:94℃で7分間の変性段階と、これに続く94℃で30秒間、62℃で30秒間(HPRT1)、52℃(LMP-1)および58℃(EBNA1/2)、および72℃で30秒間を30サイクル、ならびに最終的な72℃で7分間の伸長。RT-PCRには以下のオリゴヌクレオチドを使用した。

【0111】
発明者らは、RT-PCRに加えて、QIAmp単離キット(Qiagen)で単離された細胞ペレットおよび上清中のDNAを直接対象としてPCRを実施した。
【0112】
EBV培養
発明者らの系におけるEBVの果たす役割を詳細に調べるために、発明者らは、天然のEBVを含むか、または含まない培養物から得られた非形質導入細胞、BCL6-IRES-NGFR形質導入細胞、およびcaSTAT5b-ER-IRES-NGFR形質導入細胞の増殖および抗体産生を決定するための実験を準備した。
【0113】
第1の実験設定
(表5)実験設定

【0114】
要約:
IL-21およびL細胞を添加したBCL6 MBC(培養物Ce2-B9および培養物Ce2-G9)
IL-21、L細胞、およびEBVを添加したBCL6 MBC(培養物Be3-F3および培養物Be2-G9)
IL-21およびL細胞を添加したEBV MBC(培養物B28および培養物B29)
IL-2およびIL-4を添加した培養物も含めた。抗体レベルおよび細胞数を1週間間隔で決定した(表7)。培養物のEBV状態を図14に示す。
【0115】
第2の実験設定
(表6)実験設定、caSTAT5b-ER

【0116】
caSTAT5b-ER MBCを、4HT、L細胞上で、IL-2およびIL-4とともに、96ウェルで1000 c/wの密度で培養した。細胞密度が十分に高い場合は、平行培養物を作製した。一部を4HT、L細胞、IL-2およびIL-4とともに維持し、一部をIL-21、L細胞(4HT非添加)に切り替えた。抗体産生はELISA(DAKO)で判定した。EBV感染はLMP1 PCRで判定した(図16)。
【0117】
結果
BCL6培養物のEBV感染のPCR判定
BCL6の形質導入と組み合わせて、2人のドナーを対象に発明者らが検討した、強いB細胞の増殖および分化をIL-21が誘導することが判明した(表5)。発明者らは実際に、発明者らがB細胞を1000 c/wおよび100 c/wの密度で培養した培養条件でB細胞の強い成長を見出した(表7)。しかしながら、1人のドナーでは、ほぼ全ての培養物がEBVに感染していることが、光学顕微鏡による表現型、培養物の上清の色、および多数の細胞の増殖を元に疑われた。同ドナー(B29)は実際にEBV感染者であることが判明した(図14)。EBV感染細胞の活発な成長から、BCL6とIL-21の組み合わせが、EBV感染細胞に成長上の利点をもたらすことがわかる。なぜなら特に、インビボにおけるEBV感染B細胞の頻度は比較的低いと考えられているからである。ドナーB29とは対照的に、ドナーB30はEBV陰性であったが、弱くて比較的小さいLMP1のバンドが試料Ce2-F2中に認められた(図14)。
【0118】
EBV、IL-2およびIL-4、ならびにIL-21の存在下または非存在下におけるBCL6培養物の増殖
細胞の成長に対してEBV、BCL6、IL-2、IL-4、およびIL-21が果たす役割を調べるために、増殖の動態を比較した(表5の実験設定を参照)。試料を、LMP-1 EBV PCR反応を元に選択した(図14)。EBV状態は、EBV感染細胞がL細胞の非存在下で成長する能力によって確認した。IL-2およびIL-4とともに培養したBCL6試料は、低い増殖能力を示し、維持不可能であった(表7)。IL-21を含む培地で培養した全ての試料には強い増殖が認められた。IL-2およびIL-4は、細胞が、BCL6との組み合わせではなく、EBVに感染している場合にのみ強い増殖を誘導可能であった。
【0119】
(表7)BCL6 B細胞の増殖

EBVを含むか含まない場合の、または、IL-2およびIL-4、もしくはIL-21を含むか含まない場合の、BCL6形質導入B細胞および非形質導入B細胞の増殖;全ての試料がL細胞を含む。
【0120】
EBV、IL-2およびIL-4、ならびにIL-21の非存在下または存在下におけるBCL6培養物による抗体産生の判定
IgG抗体産生を、長期の培養物を対象に、表5に記載された手順で判定した。記載の抗体産生レベルは、2人のドナーにおける6〜10の異なる測定結果の抗体産生の平均である(図15)。BCL6/EBV/IL-21培養物がBCL6/IL-21培養物より有意に多いIgGを産生することが明らかである。したがってEBVは、BCL6形質導入B細胞の抗体産生を有意に促進する。したがって、IL-21とEBVの組み合わせは、BCL6の非存在下ならびに存在下で高レベルの抗体産生につながる。
【0121】
B細胞受容体(BCR)の発現がBCL6導入細胞およびEBV感染細胞の長期培養物を変化させるか否かの判定
EBV感染細胞がBCRの発現を喪失することが報告されている。したがって、IL-21含有培養物中のB細胞(表5に記載)を、NGFR、CD19、カッパ、およびラムダに関して染色を行った。
【0122】
BCL6が導入されたEBV陰性細胞は、カッパおよびラムダの染色による判定時に、BCR発現は陽性で変わらなかった。したがって、このような細胞は、長期間の培養後の単離に、および/または所望の特異性に関して、例えば標識抗原を使用するスクリーニングに特に適している(なぜなら、このような細胞は、そのBCRを介して該標識抗原と結合すると考えられるため)。しかしながらEBVが存在すると、BCRの発現は失われるか、または低下した。BCL6/IL-21培養物は、EBV感染細胞と比較して、比較的低量の抗体を産生したが、BCRの表面発現は維持されたことから、このような細胞が、プレ形質芽細胞の表現型に留まる一方で、高量の抗体を産生するEBV感染細胞は、形質芽細胞と言った方がよい表現型に分化するか、または分化したことがわかる。結論として、例えばスクリーニングアッセイ法で明らかになる、B細胞上におけるB細胞受容体の存在が望ましい場合は、B細胞は好ましくはEBVに感染していないか、後期段階で感染される。
【0123】
caSTAT5b-ER培養物のEBV感染のPCR判定
BCL6の形質導入と平行して、caSTAT5b-ERを使用した形質導入を行った。興味深いことに、全てがEBVに感染していたBCL6培養物とは対照的に、同じドナー(B29)のcaSTAT5b-ER培養物は、EBV感染細胞の天然の分布(パーセンテージ)を維持しているようであった。複数の培養物に、EBV感染の明瞭な特徴が認められ、ならびにLMP1のPCRによる確認の結果、実際に陽性であることが判明した。caSTAT5b-ER培養物がEBV陽性である兆候の1つは、MBCが、4HTの非存在下でIL-21処理した際に生存する能力であった。このような4HT除去B細胞は、活性型のcaSTAT5bを欠き、および通常2〜3週間以内に死滅する。
【0124】
さまざまな条件におけるcaSTAT5b-ER形質導入B細胞の増殖および抗体産生
EBVがcaSTAT5b-ER系において果たす役割を調べるために、表6に記載された手順で実験を行った。caSTAT5b-ER形質導入B細胞の反応の図式的概観を図8に示す。4HTの存在による、活性なcaSTAT5b-ERは、どのサイトカインが存在しても、またはB細胞がEBVに感染していてもB細胞の分化を阻害する。したがって、EBVに感染していて、IL-2およびIL-4、またはIL-21によって(4HTは非添加)維持されたcaSTAT5b-ER培養物は抗体を産生しない。4HTの除去は、分化と、分化に続く抗体産生につながる。好ましくは、4HTの除去中および/または除去後にIL-21が添加される。しかしながら、このような細胞は最終的には死滅する。なぜなら、caSTAT5bが不活性であるために、抗体が一定の期間しか産生されないからである。したがって、もしEBVが存在しない場合は、最終的にはIL-21が、実施例3で既に言及した、例えばIL-2やIL-4などの少なくとも他の1つの成長刺激因子と交換される。
【0125】
EBVおよびIL-21はともに、4HTの非存在下において、長期の増殖および高レベルの抗体産生を誘導する2つの強力な刺激である(図18)。したがって、この組み合わせが望ましい。
【0126】
(表8)caSTAT5b-ER B細胞の増殖、生存、および抗体産生

【0127】
実施例5
方法
BCL6-IRES-YFP陽性細胞の形質導入を、STAT3/ER-IRES-GFPを使用して標準的な手順で行い、ならびに実施例1の方法セクションに記載された手順によってL細胞上でIL-2およびIL-4とともに増殖させた。STAT3の発現は、タモキシフェン(4HT)の有無によって調節された。YFP陽性細胞およびGFP陽性細胞を選別し、および等しい数を培養した。BLIMP1遺伝子の発現をRT-PCRでモニタリングし、ならびに抗体産生を、4HTの添加時および非添加時の培養物を対象に判定した。
【0128】
結果
細胞への4HTの添加は、細胞数の増加につながり、Blimp-1の発現を高めた。さらにIgG産生の促進が、図19a〜cに示すように測定された。
【0129】
実施例6
CD19陽性B細胞の形質導入を、対照となるYFP-IRES-YFP(cYFP);BCL6-IRES-YFP(BCL6-YFP)またはBcl-xL-GFP(Bcl-xL-GFP)を使用して行った。次に細胞を、CD40L上でIL-4を加えて維持し、ならびにYFPおよびGFPの単一陽性細胞および二重陽性細胞のパーセントを、非選別バルク培養物を対象としたFACSで経時的に決定した。
【0130】
細胞分裂および累積的増殖(cumulative expansion)を、単一陽性細胞および二重陽性細胞を対象に、IL-4またはIL-21の存在下で判定した。
【0131】
遺伝子発現およびEBVの同時感染を確認するために、単一BCL6導入バルク培養物およびBCL6/Bcl-xL二重形質導入バルク培養物の培養物を対象に、Bcl-xL、BCL6、LMP1、およびEBNA1のmRNA発現のRT-PCR解析を実施した。
【0132】
結果
図20〜23から、BCL6およびBcl-xLを含む二重形質導入B細胞が、より高い累積的増殖率を示し、ならびに実際に、バルクの記憶B細胞培養物中で成長を示す優性な細胞でもあることがわかる。発明者らは、このような二重形質導入細胞が、単一形質導入細胞と比較して2倍速く分裂することも示す。IL-4またはIL-21と培養時に、BCL6培養物とBCL6/Bcl-xL培養物間で等しい抗体産生レベル(IgGおよびIgM)は、ここには示していない。
【0133】
実施例7
チロシンリン酸化型のSTAT5が陽性のホジキン細胞株L591を、L細胞(CD40刺激)およびサイトカインに依存せずに培養した。L591細胞の形質導入を、E47-IRES-GFPを含むレンチウイルス、またはGFPのみを有する対照ウイルスで行った(方法の詳細は実施例1に記載)。形質導入細胞を選別し、および細胞の成長を経時的に追跡した。
【0134】
結果
L591細胞がE47の発現に伴って速やかに分裂を停止することを図24に示す。これはE47の、その下流の標的(例えば、Socs1、Socs3、Id2、Eto2、およびXbp1)を介する作用が、B細胞の、抗体産生性のB細胞の表現型への分化を誘導することを示唆する。分化がE47によって誘導されたことは、STAT5の作用が消失したこと、またはE47が直接的または間接的に、機能性のSTAT5の量および作用に影響したことも意味する可能性がある。したがって、ホジキン細胞株L591に関して得られたデータを元に発明者らは、4HT、ならびにIL-2およびIL-4、またはIL-21が添加されたL細胞上で維持されるSTAT5b/ER陽性B細胞培養物が、E47が活性な場合に、抗体産生細胞に分化するように誘導され得ると主張したい。
【0135】
参考文献

【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】IL-21とともに培養されたBCL6+細胞の増殖の促進。純度100%のBCL6+記憶B細胞を、IL-2およびIL-4の存在下(従来の培養条件)で、またはIL-21のみとともに培養した。IL-21とともに17日間培養時の生細胞の総増殖率を示す。
【図2】IL-21によるBCL6陽性細胞の形質芽細胞への不死化。記憶B細胞を対象に、BCL6-GFPを発現するレトロウイルスで形質導入を行い、(分化を妨げるために)IL-2およびIL-4とともに、またはIL-21とともに14日間にわたって培養した。GFP+細胞のCD38およびCD20(すなわちBCL6+)に対する表面染色を示す。IL-21は、形質芽細胞の表現型を有するB細胞の量の8倍の増加を誘導する。
【図3】IL-21は、BCL6+ B細胞でBLIMP1をアップレギュレートする。純度100%のBCL6-ΔNGFR+を、IL-2およびIL-4、またはIL-21とともに24日間にわたって培養した。全RNAからcDNAを得て、BLIMP1およびHPRT(ローディング対照)のmRNAレベルを逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応で決定した。
【図4】本発明の1つの態様の非制限的なモデルである。
【図5】理想的な培養スキームのまとめ。詳細は、実施例3の材料および方法のセクションを参照されたい。
【図6】IL-2およびIL-4によって刺激されたB細胞と、IL-21によって刺激されたB細胞の成長動態。(a)2人のドナー(B18およびB19)に由来する末梢血(PB)記憶B細胞をIL-21、またはIL-2およびIL-4のいずれかで刺激した。細胞にcaSTAT5b-ER-IRES-NGFRを、IL-21処理培養物については2日目に、IL-2およびIL-4で処理された培養物については5日目に形質導入し;4HTを13日目に添加した。(b)4人のドナーの破傷風トキソイド特異的B細胞をPBから選別した(細胞数は1000〜10,000個)。細胞を96ウェルでIL-21とともに培養し、2日目にcaSTAT5b-ER-IRES-NGFRを使用して形質導入を行った。4日目に4HTを添加し、IL-21をIL-2、IL-4、および4HTと7日後に交換(B14およびB15)するか、または20日後に交換した(B16およびB17)。細胞を手計算で数え、死滅細胞を除去した。
【図7】caSTAT5b-ER-IRES-NGFR形質導入細胞のパーセンテージを、LSR II(BD)を使用して決定した。2人のドナー(B18およびB19)について、「IL-2およびIL-4」対「IL-21」の時系列実験を行った。各ドナーについて細胞の1/4をIL-2およびIL-4を添加するプロトコルで、残る3/4をIL-21プロトコルで形質導入した。IL-21プロトコルによる形質導入の直後(36時間)に、IL-21培養物の3分の1については、IL-2およびIL-4を添加するプロトコルに切り替えた。この操作を、IL-21培養を対象に5日目、10日目、および20日目に繰り返した。
【図8】図6および図7で説明したcaSTAT5b-ER-IRES-NGFR導入PB由来の記憶B細胞による、全ヒトIgGおよびIgMの抗体産生。(a)ドナーB18およびB19のIgG産生の平均を示す。B細胞の形質導入を「IL-2およびIL-4プロトコル」または「IL-21プロトコル」で行った。中抜きの印で示すIgGの産生は、IL-2およびIL-4に切り替えられたにもかかわらず、IL-21で処理された全ての培養物を示す。(b)上述の試料におけるIgM産生。時間スケールが異なることに留意されたい。
【図9】caSTAT5b-ER-IRES-NGFRが形質導入されたドナーB18およびB19の記憶B細胞に由来するB細胞クローンの抗体産生。IL-21で刺激されたB細胞(36時間の刺激)に由来する10日齢の培養物をLD培養に使用した。12個のクローンが得られた;5個はB18に由来し、7個はB19に由来する。IgGの産生は3つの時点における平均であり;IgMの産生は2つの時点における平均である。
【図10】ポリクローナルで、100% caSTA5b-ER-IRES-NGFR陽性の、破傷風トキソイドで選別されたヒトB細胞の上清に対するIgG破傷風トキソイドELISA。(a)7人のドナーから、速やかに増殖するクローン培養物が得られた。ドナー1人あたり少なくとも3つの異なる測定結果のTT抗体産生の平均を示す。各時点で相対ODが決定された(一般にバックグラウンドを2〜3倍上回る相対的な上昇を陽性と見なす)、(b)TT IgG ELISA陰性培養物がIgMを産生するか否かを判定するために、同じ7人のドナーの試料を全IgM ELISAで検討した。
【図11】抗破傷風トキソイドELISA。ELISAによるIgGおよびIgMのα-TT特異的抗体に対する結合を判定した。ドナーB15、B16、B18、およびB19に由来する100%のNGFR陽性クローン性B細胞培養物の上清を対象に検討を行った。バックグラウンドの2倍を陽性と判断した。
【図12】(a)IgGを産生するドナーB16、および(b)IgMを産生するドナーB19のクローン性B細胞培養物の再刺激後における、全IgGおよびIgMの産生。4HTの存在下または非存在下でIL-2およびIL-4と、または、4HTの存在下または非存在下でIL-21とのいずれかで培養された培養物の上清中における産生を測定した。IL-2およびIL-4を含む培養物には抗体分泌の上昇は認められなかった(データは示していない)。再刺激に反応した培養物のみを示す(14個のIgG反応クローン中10個、および9個のIgM反応クローン中8個)。
【図13】図8の説明に記載されたように、IL-21によって再刺激され、かつ4HTが除去された培養物によって分泌される抗体の抗原特異性を検討した。再刺激されたドナーB16のクローン性TT培養物に由来する上清をα-TT IgG ELISA(a)で検討し、ドナーB19の培養物に由来する上清をIgM ELISA(b)で検討した。図には、陰性対照と比較時の抗体結合の相対的な上昇を示し、試料B19-10B7および試料10E1は、可視度によって30でカットオフされた(値はそれぞれ96と121)。
【図14】記載された培養物の凍結細胞ペレットから単離されたRNAを対象に、LMP1 RT-PCRを行った。図には、無作為に選択され、EBV感染に関して検討された15種の培養物を示す。試料の記号:BはドナーB29を示し、CはドナーB30を示し、いずれも1000 細胞/ウェル(e3)または100細胞/ウェル(e2)で培養された。全ての培養物を対象に、BCL6を使用して形質導入を行った。ただしB28 UTD(非形質導入)およびB29 UTDは除く;JY細胞を陽性対照として使用した。
【図15】表5に示した、BCL6培養物およびEBV培養物によるIgG抗体産生(ng/ml)。各条件について2つの試料の平均を示す。それぞれ最大6〜10の時点における縦断的フォローアップからなる。星印は、試料が有意に異なることを示す(p < 0.05、対のないスチューデントのt検定)。IL-2およびIL-4とともに培養された試料は、縦断的に追跡されたEBVおよびBCL6の陽性培養物および陰性培養物の組み合わせである。
【図16】CD19陽性細胞およびNGFR陽性細胞を対象としたカッパ-FITC染色およびラムダ-PE染色。1つのB細胞は、カッパまたはラムダのいずれかが陽性である。試料をLSRII(BD)で測定し、およびFlowJoソフトウェアを使用して解析を行った。
【図17】caSTAT5bが形質導入されたドナーB25の1000細胞/ウェルのMBCの凍結細胞ペレットから単離されたDNAを対象に行われ、光学顕微鏡による観察時の培地の色、成長動態、および表現型を元にEBV陽性であることが疑われる、代表的なLMP1 PCRを示す。他の全ての培養物はEBV陰性であった。
【図18】4HTが添加されず、IL-2およびIL-4、またはIL-21が添加され、EBVの存在下または非存在下で培養されたcaSTAT5b-ER B細胞による平均的なIgG産生(ng/ml)。IL-21の存在下における抗体産生の上昇は、IL-2およびIL-4による培養物と比較して有意であった(p < 0.05)。IL-21を含むEBV感染培養物における抗体産生の上昇は、EBV非感染培養物と比較して有意であった(p < 0.05)、ノンパラメトリックのマン-ホイットニー検定)。
【図19】(A〜C)BCL6-IRES-YFP+細胞を対象にSTAT3ER-IRES-GFPを使用して形質導入を行い、CD40L L細胞上でIL-2およびIL-4とともに増殖させた。BCL6/STAT3ER陽性細胞をFACSで選別し、同数をサイトカインの非存在下で、ただし4HT(1 μM)の存在下または非存在下で4日間にわたって培養した。(A)4日後の生細胞数。(B)BCL6-YFP+/STAT3ER-GFP+細胞におけるBLIMP1およびHPRT1の発現に関する半定量的RT-PCR。(C)±4HTで4日間処理したBCL6-YFP+ STAT3ER-GFP+におけるIgG産生。
【図20】A.CD19+ B細胞を対象に、対照であるYFP-IRES-YFP(cYFP);BCL6-IRES-YFP(BCL6-YFP)またはBclXL-GFP(Bcl-xL-GFP)を使用して形質導入を行った。次に細胞を、CD40L上でIL-4とともに維持し、YFP陽性またはGFP陽性のパーセントをFACSで経時的に決定した。AおよびBに示す全てのデータは、CD19+CD3-のゲーティングに由来する。B.CD40L上でIL-4を添加したBcl-xL-IRES-GFPおよびBCL6-IRES-YFPの二重形質導入B細胞の非選別バルク培養物。個々のGFP+細胞、YFP+細胞、およびGFP/YFP二重陽性細胞はFACSで判定された。
【図21】IL-21は、Bcl-xL、BCL6が形質導入されたB細胞、またはBcl-xL+BCL6二重形質導入細胞の増殖を高めた。形質導入、ならびにCD40LおよびIL-4による維持後の17日目に培養物を分割して、CD40L上でIL-4またはIL-21の存在下で培養した。形質導入細胞の絶対数を決定し、累積的増殖を単一形質導入細胞(A)について、または二重形質導入細胞(B)について計算した。
【図22】長期培養物はEBV-である。BCL6形質導入細胞(レーン1)およびBCL6/Bcl-xL二重形質導入バルク培養物(レーン2)の66日目の培養物を対象とした、Bcl-xL、BCL6、LMP1、およびEBNA1のmRNA発現のRT-PCR解析。逆転写酵素(RT)反応の非存在下で行ったcDNA反応物の1 μlを、ゲノムDNA混入の陰性対照として使用した。陽性対照:4-HTとともに培養したBcl-xL、STAT5-ER形質導入B細胞;BCL6、LMP1、およびEBNA1、ヒトRaji B細胞。
【図23】Bcl-xL形質導入細胞、BCL6形質導入細胞、およびBcl-xL-BCL6二重形質導入細胞の倍加時間。形質導入した(GFP+、YFP+)B細胞の数を元に、培養物の51〜59日間における倍加時間を、単一形質導入であるBcl-xL形質導入細胞およびBCL6形質導入細胞に関して、ならびにBcl-xL+BCL6二重形質導入バルク培養物に関して計算した。
【図24】ホジキン細胞株L591を対象に、E47-IRES-GFPを含むレンチウイルスを使用して形質導入を行った。GFP陽性細胞を選別し、L細胞(CD40刺激)およびサイトカインとは独立に培養した。細胞数を経時的に決定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体産生細胞内におけるBCL6および/またはBlimp-1の発現産物の量に直接的または間接的に影響を与える段階を含む、該抗体産生細胞の安定性に影響を与える方法。
【請求項2】
抗体産生細胞の複製寿命が延長される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
BCL6およびBlimp-1を抗体産生細胞において共発現させる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物を抗体産生細胞に提供する段階;および/あるいは
BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で抗体産生細胞を培養する段階
を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を抗体産生細胞に提供する段階を含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物が、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を抗体産生細胞に提供する段階を含み、かつ/または、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体の存在下で抗体産生細胞を培養する、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物を抗体産生細胞に提供する段階;および/あるいは
Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物の存在下で抗体産生細胞を培養する段階
を含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物が、
STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体、および/あるいは
STAT3を直接的または間接的に活性化できる化合物、および/あるいは
STAT3の発現を直接的または間接的に促進できる化合物
を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物が、IL-21、IL-2、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、IL-27、SOCSタンパク質、Eタンパク質であるE47、E12、E2-2、もしくはHEBのうち1つ、変異型Janusキナーゼ、および/または、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を含む、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
抗体産生細胞に追加の不死化剤を提供する段階を含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
不死化剤が形質転換剤を含む、請求項11記載の方法、
【請求項13】
不死化剤がエプスタイン・バーウイルスを含む、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
抗体産生細胞をIL-21の存在下で培養した後、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物、BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、および/あるいは、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を該抗体産生細胞に提供する、請求項11〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
抗体産生細胞をIL-21の存在下で培養し、かつ該抗体産生細胞にエプスタイン・バーウイルスを提供する、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
抗体産生細胞内におけるBcl-xLの発現産物の量を直接的または間接的に高める段階をさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
Bcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を抗体産生細胞に提供する段階を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
Bcl-xLの発現を直接的または間接的に促進できる化合物を抗体産生細胞に提供する段階を含み、好ましくは該化合物が、APRIL、BAFF、CD40、BCR刺激(stimulation)、サイトカイン、成長因子、または、JNKおよびAKT(PKB)などの下流エフェクターを含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
B細胞を提供する段階;
該細胞におけるBlimp-1の発現レベルを高める段階;および
該細胞におけるBCL6の発現レベルを高める、および/または維持する段階
を含む、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞を作製する方法。
【請求項20】
細胞におけるBCL6の発現レベルを、形質芽細胞と比較して実質的に同じレベル、またはそれより高いレベルに到達させる、および/または維持する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物をB細胞に提供する段階、および/あるいは、Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で記憶B細胞を培養する段階;ならびに
BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物を該B細胞に提供する段階、および/あるいは、BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物の存在下で該B細胞を培養する段階
を含む、請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
Blimp-1の発現を直接的または間接的に促進できる化合物が、IL-21、IL-2、IL-6、IL-7、IL-10、IL-15、IL-27、SOCSタンパク質、Eタンパク質であるE47、E12、E2-2、もしくはHEB、変異型Janusキナーゼ、および/または、STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
BCL6の発現を直接的または間接的に促進できる化合物が、
BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、および/あるいは
STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列、および/あるいは
STAT5を直接的または間接的に活性化できる化合物、および/あるいは
STAT5の発現を直接的または間接的に促進できる化合物
を含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
細胞におけるBcl-xLの発現レベルを高める段階をさらに含む、請求項19〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
Bcl-xLの発現を直接的または間接的に促進できる化合物をB細胞に提供する段階を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
Bcl-xLの発現を直接的または間接的に促進できる化合物が、Bcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
Bcl-xLの発現を直接的または間接的に促進できる化合物が、APRIL、BAFF、CD40、BCR刺激、サイトカイン、成長因子、またはJNKおよびAKT(PKB)などの下流エフェクターを含む、請求項24記載の方法。
【請求項28】
BCL6、STAT5、STAT3、Bcl-xL、または、BCL6、STAT5、ならびに/またはSTAT3、ならびに/またはBcl-xLの機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列の発現が、外因性化合物によって誘導され得る活性化因子および/または抑制因子によって調節される、請求項5〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
B細胞を提供する段階;
該B細胞に、BCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を提供する段階;
該B細胞にエプスタイン・バーウイルスを提供する段階;ならびに
該B細胞を培養する段階
を含む、請求項19〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
複数のB細胞を、所定の抗原に対する特異性に関して試験する段階;
該所定の抗原に対する特異性を有する少なくとも1つのB細胞を選択する段階;
該選択されたB細胞に、外因性のBCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を提供する段階;
外因性のBCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含むB細胞を選択する段階;ならびに
該選択されたB細胞にエプスタイン・バーウイルスを提供する段階
を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
B細胞をIL-21の存在下で培養する、請求項29または30記載の方法。
【請求項32】
B細胞をIL-21の存在下で培養した後、BCL6および/またはSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を該B細胞中に導入する、請求項29〜31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
Bcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をB細胞に提供する段階をさらに含む、請求項29〜32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1か月間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって抗体産生細胞が安定に培養される、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
抗体産生細胞が関心対象の抗原に対する抗体を産生できる、請求項1〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
抗体産生細胞が過去に関心対象の抗原に曝露された個体から得られる、請求項34記載の方法。
【請求項37】
Ig重鎖および/またはIg軽鎖をコードするB細胞の遺伝子を第2の細胞で発現させる段階をさらに含む、請求項1〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
少なくとも9週間、好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞。
【請求項39】
BCL6の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物を含む、請求項38記載の抗体産生細胞。
【請求項40】
BCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列、ならびに/または、STAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列、ならびに任意で、Bcl-xL、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列を含む、請求項38または39記載の抗体産生細胞。
【請求項41】
Blimp-1の発現に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物を含む、請求項38〜40のいずれか一項記載の抗体産生細胞。
【請求項42】
STAT3、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする外因性の核酸配列を含む、請求項38〜41のいずれか一項記載の抗体産生細胞。
【請求項43】
BCL6、STAT5、STAT3、Bcl-xL、または、BCL6、STAT5、ならびに/またはSTAT3、ならびに/またはBcl-xLの機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体をコードする核酸配列の発現が、外因性化合物によって誘導され得る活性化因子および/または抑制因子によって調節される、請求項38〜42のいずれか一項記載の抗体産生細胞。
【請求項44】
不死化剤、好ましくは形質転換剤、より好ましくはエプスタイン・バーウイルス;ならびに
細胞におけるBCL6の発現産物の量に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物、および/または、細胞におけるBlimp-1の発現産物の量に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物、および/または、細胞におけるBcl-xLの発現産物の量に直接的または間接的に影響を与えることができる化合物
を含む、抗体産生細胞。
【請求項45】
エプスタイン・バーウイルス、ならびに、外因性のBCL6、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む、請求項38〜44のいずれか一項記載の抗体産生細胞。
【請求項46】
エプスタイン・バーウイルス、ならびに、外因性のSTAT5、またはその機能的部分、誘導体、および/もしくは類似体を含む、請求項38〜45のいずれか一項記載の抗体産生細胞。
【請求項47】
請求項1〜37のいずれか一項記載の方法により安定な抗体産生細胞を得る段階、および
該抗体産生細胞をエクスビボで培養する段階
を含む、B細胞株を作製する方法。
【請求項48】
関心対象の抗原に曝露された個体から記憶B細胞および/またはナイーブ(naive)B細胞を得る段階;
請求項1〜29のいずれか一項記載の方法により該個体から得られた該B細胞を使用して、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも9週間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞を作製する段階;および
該抗体産生細胞をエクスビボで培養する段階
を含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
抗体産生細胞によって産生された抗体を回収する段階をさらに含む、請求項47または48記載の方法。
【請求項50】
関心対象の抗原に特異的に結合できる抗体を産生するB細胞に分化できる、記憶B細胞および/またはナイーブB細胞を得る段階;
請求項1〜37のいずれか一項記載の方法において該B細胞を使用して、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも9週間、より好ましくは少なくとも3か月間、より好ましくは少なくとも6か月間にわたって安定な抗体産生細胞を作製する段階;および
該抗体産生細胞によって産生された抗体を得る段階
を含む、関心対象の抗原に特異的に結合できる抗体を産生する方法。
【請求項51】
抗体産生細胞をエクスビボで培養する段階をさらに含む、請求項50記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−99358(P2013−99358A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−20744(P2013−20744)
【出願日】平成25年2月5日(2013.2.5)
【分割の表示】特願2008−544276(P2008−544276)の分割
【原出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(508170601)アカデミッシュ メディッシュ セントラム ビーアイジェイ ド ユニバーシテイト バン アムステルダム (2)
【出願人】(508170597)エーアイエムエム セラピューティクス ビー.ブイ. (2)
【Fターム(参考)】