説明

抗糖化作用剤

【課題】安全性の高い天然物の中から抗糖化作用を有するものを見出し、それを有効成分とする抗糖化作用剤を提供する。
【解決手段】本発明の抗糖化作用剤の有効成分として、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を含有させる。キンモクセイからの抽出物及び/又は前記アクテオシド(Acteoside)は、最終糖化生成物(AGEs)の形成抑制作用及び/又は分解促進作用を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖化作用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖質は、ヒトを初めとする生物においてエネルギー源として非常に重要である。しかし一方で、糖質はタンパク質と糖化反応(グリケーション)を起こすことが知られている。糖化反応は、糖質のカルボニル基とタンパク質等のアミノ基との非酵素的な反応を第一段階とし、シッフ塩基からアマドリ化合物を経て最終的に最終糖化生成物(以下、「AGEs」ということがある。)を形成する一連の反応である。糖化反応により、タンパク質が非酵素的に糖により修飾されるため、これにより当該タンパク質の変性やタンパク質間の架橋等が起こり、その結果タンパク質の機能を低下させる。
【0003】
糖化反応は、コラーゲン等の細胞外マトリックス構成タンパク質を修飾・構造変化させることにより直接的な障害を引き起こすほか、糖化タンパク質をリガンドとする受容体により認識されることで細胞応答を引き起こす等の影響をもたらす。特に、血液中のグルコース濃度が高い糖尿病の患者にとって、糖化反応の影響は深刻である。糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症等の糖尿病合併症は、タンパク質の糖化がその一因であることが知られている。また、血管壁における糖化反応は、内皮細胞の障害や変性タンパク質の蓄積などにより、動脈硬化の進展をもたらすことが知られている。
【0004】
さらに、コラーゲンを初めとする細胞外マトリックス成分は、骨や皮膚などの組織における乾燥重量の過半を占めている。そのため、例えば、コラーゲンが糖化され異常に架橋された状態となると、骨や軟骨組織においては骨粗鬆症や変形性関節症等を発症し、皮膚においては弾力性の低下、黄色化等によるくすみ等を生じる。さらに、異常に架橋したコラーゲン等はコラゲナーゼ等による分解を受けにくくなるため、コラゲナーゼ等の発現が誘導され、正常なコラーゲンまで分解されてしまうなどの問題が生じてしまう。
【0005】
このため、糖化反応を何らかの形で抑制する、すなわちAGEsの形成を抑制したり、またAGEsの分解を促進したりすることができれば、上述した疾患、すなわち糖尿病合併症、動脈硬化、骨粗鬆症、変形性関節症などの予防又は治療に有用であると期待される。さらには、皮膚の弾力性低下やくすみ等の予防又は改善にも効果があるものと期待される。
【0006】
従来、抗糖化作用を有する化合物として、N−フェナシルチアゾリウムブロミドが知られている(非特許文献1)。しかし、この化合物は安全性に問題があり、医薬品や皮膚外用剤として適していない。また、抗糖化作用を有する天然物由来の成分として、例えば、ヨモギからの抽出物が知られている(特許文献1)。しかし、抗糖化作用を有する物質の提供は十分とは言い難く、さらなる新しい抗糖化作用物質の開発及び提供が強く求められている。
【0007】
なお、従来、キンモクセイからの抽出物及びアクテオシドは、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用やサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用等を有し、皮膚の老化症状及び肥満症の予防・改善に有用であることが知られているが(特許文献2参照)、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドが抗糖化作用を有することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−122758号公報
【特許文献2】特開2009−67749号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Vasan S. et al.,Nature,1996年7月18日,Vol. 82,No. 6588,p.275-278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全性の高い天然物の中から抗糖化作用を有するものを見出し、それを有効成分とする抗糖化作用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の抗糖化作用剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とする。前記キンモクセイからの抽出物及び/又は前記アクテオシド(Acteoside)は、最終糖化生成物(AGEs)の形成抑制作用及び/又は分解促進作用を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた抗糖化作用を有し、かつ安全性の高い抗糖化作用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の抗糖化作用剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有するものである。
【0014】
ここで、本実施形態において「キンモクセイからの抽出物」には、キンモクセイを抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0015】
また、アクテオシド(Acteoside)は、下記式(I)で表される化学構造を有するポリフェノールである。
【0016】
【化1】

【0017】
アクテオシドは、アクテオシドを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。このようなアクテオシドを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。アクテオシドを含有する植物としては、例えば、キンモクセイ(学名:Osmanthus fragrans var. aurantiacus)等が挙げられる。
【0018】
キンモクセイ(Osmanthus fragrans var. aurantiacus)は、モクセイ科モクセイ属に属する常緑小高木であり、別名、桂花とも呼ばれ、中国南部が原産地であり、このような地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るキンモクセイの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、花部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは花部である。
【0019】
ここで、「花」とは、一般に、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体をいい、葉の変形である花葉と茎の変形である花軸とから構成され、花葉には、萼、花弁、雄しべ、心皮等の器官が含まれる。本発明において抽出原料として使用する「花部」には、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体の他、その一部、例えば、花葉、花被(萼と花冠)、花冠、花弁等も含まれる。
【0020】
キンモクセイからの抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、キンモクセイの極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0021】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0022】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0023】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0024】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0025】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0026】
なお、上述のようにして得られた抽出液はそのままでも抗糖化作用剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0027】
また、キンモクセイからの抽出物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚化粧料等に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0028】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物からアクテオシドを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、抽出物を展開溶媒に溶解し、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、アクテオシドを含む画分を回収する方法等が挙げられる。この場合、展開溶媒は使用する固定相に応じて適宜選択すればよいが、例えば固定相としてシリカゲルを用いた順相クロマトグラフィーにより抽出物を分離する場合、展開溶媒としてはクロロホルム/メタノール/水=10:5:1等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られたアクテオシドを含む画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0029】
以上のようにして得られるキンモクセイからの抽出物及びアクテオシドは、優れた抗糖化作用を有しているため、抗糖化作用剤の有効成分として用いることができる。本実施形態の抗糖化作用剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。ここで、アクテオシドは、キンモクセイからの抽出物と比較してより強い抗糖化作用を示すため、抗糖化作用剤の有効成分として特に好ましい。
【0030】
ここで、キンモクセイからの抽出物及びアクテオシドが有する抗糖化作用は、例えば、最終糖化生成物(AGEs)の形成抑制作用及び/又は分解促進作用に基づいて発揮される。ただし、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドが有する抗糖化作用は、上記作用に基づいて発揮される抗糖化作用に限定されるものではない。
【0031】
また、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドは、これらが有するAGEsの形成抑制作用又は分解促進作用を利用して、それぞれAGEs形成抑制剤又はAGEs分解促進剤の有効成分として使用してもよい。さらに、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドは、AGEsの形成抑制作用又は分解促進作用を利用して、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症等の糖尿病合併症;タンパク質の糖化反応に起因する動脈硬化;タンパク質の糖化反応に起因する骨粗鬆症や変形性関節症等の疾患の予防・治療剤の有効成分として使用してもよく、さらにはタンパク質の糖化反応に起因する皮膚の弾力性低下やくすみ等の予防・改善剤の有効成分として使用してもよい。
【0032】
なお、本実施形態においては、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドのうちのいずれか一つを上記有効成分として用いてもよいし、これらを混合して上記有効成分として用いてもよい。キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドを混合して上記有効成分として用いる場合、その配合比は、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドが有する抗糖化作用の程度等により適宜調整すればよい。
【0033】
本実施形態の抗糖化作用剤は、キンモクセイからの抽出物、アクテオシド又はこれらの混合物のみからなるものでもよいし、キンモクセイからの抽出物、アクテオシド又はこれらの混合物を製剤化したものでもよい。
【0034】
本実施形態の抗糖化作用剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。抗糖化作用剤は、他の組成物(例えば、皮膚外用剤、美容用飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0035】
本実施形態の抗糖化作用剤を製剤化した場合、キンモクセイからの抽出物、アクテオシド又はこれらの混合物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0036】
なお、本実施形態の抗糖化作用剤は、必要に応じて、抗糖化作用を有する他の天然抽出物等を、キンモクセイからの抽出物、アクテオシド又はこれらの混合物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0037】
本実施形態の抗糖化作用剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0038】
また、本実施形態の抗糖化作用剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0039】
本実施形態の抗糖化作用剤は、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドが有するAGEsの形成抑制作用及び/又は分解促進作用を通じて、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症等の糖尿病合併症を予防又は治療することができるとともに、タンパク質の糖化反応に起因する動脈硬化をも予防又は治療することができる。また、本実施形態の抗糖化作用剤は、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドが有するAGEsの形成抑制作用及び/又は分解促進作用を通じて、タンパク質の糖化反応に起因する皮膚の弾力性低下やくすみ等を予防又は改善することができる。さらに、本実施形態の抗糖化作用剤は、タンパク質の糖化反応に起因する骨粗鬆症や変形性関節症等の疾患を予防又は治療することもできる。ただし、本実施形態の抗糖化作用剤は、これらの用途以外にもAGEsの形成抑制作用及び/又は分解促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0040】
また、本実施形態の抗糖化作用剤は、優れた抗糖化作用を有するため、例えば、皮膚外用剤又は飲食品に配合するのに好適である。この場合に、キンモクセイからの抽出物、アクテオシド又はこれらの混合物をそのまま配合してもよいし、キンモクセイからの抽出物、アクテオシド又はこれらの混合物から製剤化した抗糖化作用剤を配合してもよい。
【0041】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0042】
飲食品としては、その区分に制限はなく、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品等を幅広く含むものである。
【0043】
また、本実施形態の抗糖化作用剤は、優れた抗糖化作用を有するので、糖化反応に関連する研究、例えばAGEsの形成機構や分解機構に関連する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0044】
なお、本実施形態の抗糖化作用剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0046】
〔製造例1〕キンモクセイ花部抽出物の製造
キンモクセイの花部の粗粉砕物150gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)1500mLを加え、穏やかに攪拌しながら80℃にて2時間保ち、熱時濾過した。続いて、残渣に50質量%エタノール1500mLを加え、穏やかに攪拌しながら80℃にて2時間保ち、熱時濾過した。得られた濾液を合わせて減圧下にて濃縮し、減圧乾燥機で乾燥してキンモクセイ花部抽出物(71.4g,試料1)を得た。
【0047】
〔製造例2〕アクテオシドの製造
製造例1により得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)8.9gをクロロホルム/メタノール/水=10:5:1の混合溶液に溶解し、シリカゲル(商品名:シリカゲル60,メルク社製)を充填したガラス製のカラム上部より流入して、シリカゲルに吸着させた。ガラス製のカラムに移動層としてクロロホルム/メタノール/水=10:5:1を流し、その溶出液を集め、溶媒を留去して、精製物(2.5g,試料2)を得た。
【0048】
上記のようにして精製して得られた精製物について、マススペクトル分析、H−NMR分析及び13C−NMR分析を行った。かかる分析結果を下記に示す。
【0049】
<マススペクトル(ESI−MS)>
[M−H] m/z 623(理論値:C293615−H=623)
[M+Na] m/z 647(理論値:C293615+Na=647)
【0050】
H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素)>
6.69 (1H, d, J=2.0 Hz, H-2), 6.67 (1H, d, J=8.1 Hz, H-5), 6.55 (1H, dd, J=2.0, 8.1Hz, H-6), 2.78 (2H, t-like, H-7), 4.01 (1H, overlapped, H-8a), 3.70 (1H, overlapped, H-8b), 7.05 (1H, d, J=2.2 Hz, H-2’), 6.77 (1H, d, J=8.3 Hz, H-5’), 6.94 (1H, dd, J=2.2, 8.3Hz, H-6’), 7.58 (1H, d, J=15.9 Hz, H-7’), 6.27 (1H, d, J=15.9 Hz, H-8’), 4.36 (1H, d, J=7.8Hz, GlcH-1), 3.39 (1H, dd, J=7.8, 8.1Hz, GlcH-2), 3.80(1H, br.t, J=9.0 Hz, Glc H-3), 4.88 (1H, br.t, J=9.2 Hz, Glc H-4), 3.58 (1H, overlapped, Glc H-5), 3.48 (2H, overlapped, Glc H-6), 5.18( 1H, br.s, Rha H-1), 3.90 (1H, m, Rha H-2), 3.58 (2H, overlapped, Rha-H-3 and Rha H-5), 3.30(1H, overlapped, Rha-H-4), 1.08.(3H, d, J=6.1 Hz, Rha H-6)
【0051】
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素)>
131.1(s, C-1), 116.1(d, C-2), 146.5(s, C-3), 144.3(s, C-4), 116.8(d, C-5), 121.0(d, C-6), 36.4(t, C-7), 72.0(t, C-8), 127.3(s, C-1’), 114.9(d, C-2’), 145.8(s, C-3’), 149.4(s, C-4’), 116.2(d, C-5’), 122.9(d, C-6’), 147.7(d, C-7’), 114.4(d, C-8’), 167.9(s, C-9’), 103.9(d, Glc C-1), 75.9(d, Glc C-2), 81.4(d, Glc C-3), 70.7(d, Glc C-4), 75.8(d, Glc C-5), 62.1(t, Glc C-6), 102.7(d, Rha C-1), 72.1(d, Rha C-2), 71.8(d, Rha C-3), 73.5(d, Rha C-4), 70.2(d, RhaC-5), 18.3(q, Rha C-6)
【0052】
以上の分析結果から、キンモクセイ花部抽出物から得られた化合物が、下記式(I)で表されるアクテオシド(Acteoside)であることが確認された。
【0053】
【化2】

【0054】
〔試験例1〕AGEs形成抑制作用試験
製造例1及び2により得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)、及びアクテオシド(試料2)について、以下のようにして最終糖化生成物(AGEs)の形成抑制作用を試験した。
【0055】
96ウェルのI型コラーゲンコートプレート(旭硝子社製)に、PBS緩衝液にて調製した0.2MのD(−)−リボース及び被験試料(試料1及び2,試料濃度は表1を参照)の混合液、陰性対照としてPBS緩衝液のみ、又は陽性対照としてPBS緩衝液にて調製した0.2M D(−)−リボース溶液をそれぞれ100μLずつ各ウェルに添加した後、37℃で2週間静置し、AGEsを形成させた。2週間後、抗AGEs抗体(トランスジェニック社製)を用いたELISA法によりAGEs量を測定し、AGEs形成抑制作用を評価した。得られた結果から、下記式によりAGEs形成抑制率(%)を算出した。
【0056】
AGEs形成抑制率(%)={(B−C)/(B−A)}×100
式中、Aは「陰性対照の波長405nmにおける吸光度」を表し、Bは「陽性対照の波長405nmにおける吸光度」を表し、Cは「被験試料添加時の波長405nmにおける吸光度」を表す。
結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、試料1及び2はいずれも濃度依存的にAGEsの形成を抑制した。したがって、キンモクセイ花部抽出物、及びアクテオシドが優れたAGEs形成抑制作用を有していると認められた。
【0059】
〔試験例2〕AGEs分解促進作用試験
製造例1及び2により得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)、及びアクテオシド(試料2)について、以下のようにして最終糖化生成物(AGEs)の分解促進作用を試験した。
【0060】
96ウェルのI型コラーゲンコートプレート(旭硝子社製)に、PBS緩衝液にて調製した0.2MのD(−)−リボース溶液、又は陰性対照としてPBS緩衝液のみをそれぞれ100μLを添加し、37℃で2週間静置し、AGEsを形成させた。2週間後、PBS緩衝液にて調製した被験試料(試料1及び2,終濃度は表2を参照)の溶液、陽性対照としてPBS緩衝液のみ、又は陰性対照として引き続きPBS緩衝液のみをそれぞれ100μLずつ添加し、さらに37℃で2週間静置した。反応終了後、抗AGEs抗体(トランスジェニック社製)を用いたELISA法によりAGEs量を測定し、AGEs分解促進作用を評価した。得られた結果から、下記式によりAGEs分解促進率(%)を算出した。
【0061】
AGEs分解促進率(%)={(B−C)/(B−A)}×100
式中、Aは「陰性対照の波長405nmにおける吸光度」を表し、Bは「陽性対照の波長405nmにおける吸光度」を表し、Cは「被験試料添加時の波長405nmにおける吸光度」を表す。
結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、試料1及び2はいずれもAGEsの分解を促進した。したがって、キンモクセイ花部抽出物、及びアクテオシドが優れたAGEs分解促進作用を有していると認められた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の抗糖化作用剤は、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症等の糖尿病合併症の予防又は治療、タンパク質の糖化反応に起因する動脈硬化の予防又は治療、タンパク質の糖化反応に起因する皮膚の弾力性低下やくすみ等の予防又は改善、及びタンパク質の糖化反応に起因する骨粗鬆症や変形性関節症等の疾患の予防又は治療に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キンモクセイからの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗糖化作用剤。
【請求項2】
アクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とする抗糖化作用剤。
【請求項3】
前記キンモクセイからの抽出物又は前記アクテオシド(Acteoside)が、最終糖化生成物(AGEs)の形成抑制作用及び/又は分解促進作用を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の抗糖化作用剤。

【公開番号】特開2013−23487(P2013−23487A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161524(P2011−161524)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】