説明

押出成型用無機質組成物

【目的】流動性、押出性と保型性とのバランスをとりつつ成型することができるばかりか、強度、特に曲げ強度や、耐衝撃性、耐火性等の物性に優れた繊維補強無機質体を得ることができる押出成型用無機質組成物を提供する
【構成】セメントと珪酸質とを含む水硬性無機質物質と、その水硬性無機質物質100重量部に対して、1〜30重量部の針状タルク、1〜30重量部の針状ワラストナイト、0.5〜2重量部の木材パルプ、および、0.5〜3重量部の保水剤とを含む押出成型用無機質組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、壁材、屋根材、床材等の建築用資材として、また、パイプ、パネル、トラフ等の土木用資材などとして好適な繊維補強無機質体、特に、中空の無機質成型体を押出成型するのに適した無機質組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】水硬性無機質物質と補強繊維とを含む無機質組成物を押出成型し、得られた成型体を養生して繊維補強無機質体を得ることは、よく知られている。このような方法において、特に、中空の成型体を得る場合、組成物は、十分な流動性、押出性を有し、しかも、成型体に十分な保型性を与えることができるものであることが必要である。すなわち、組成物には、流動性、押出性と、保型性という、相反する特性が要求される。しかしながら、流動性を向上させようとすると保型性が低下し、また、保型性を向上させようとすると押出圧が上昇して押出性が悪くなるなど、双方の性質を同時にバランスよく満足させることは、なかなか難しいことである。
【0003】さて、上述したような特性が要求される組成物として、特開昭62−41783号公報は、10〜70重量%の水硬性無機質物質と、5〜20重量%の球状シリカヒューム微粒子と、1〜10重量%のタルクと、1〜7重量%のセリサイトと、10〜20重量%の軽量骨材と、5〜25重量%のアスベストとを含む組成物を提案している。この組成物は、上記の組成を有することにより、成形助剤、たとえば保水剤が不要であるとしているが、押出時に水と無機質物質とが分離しやすく、押出圧が上昇する傾向がある。また、分離に伴い、成型体に亀裂を生じやすく、その場合、得られる無機質体は、強度、特に曲げ強度や、耐衝撃性が低いものとなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明の目的は、従来の組成物の上述した問題点を解決し、流動性、押出性と保型性とのバランスをとりつつ成型を行うことができるばかりか、強度、特に曲げ強度や、耐衝撃性、耐火性等の物性に優れた繊維補強無機質体を得ることができる押出成型用無機質組成物を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、この発明は、水硬性無機質物質と、その水硬性無機質物質100重量部に対して、1〜30重量部の針状タルク、0.5〜5重量部のパルプもしくは合成繊維の短繊維、および、0.5〜3重量部の保水剤とを含むことを特徴とする押出成型用無機質組成物を提供する。組成物は、好ましくは、水硬性無機質物質100重量部に対して1〜30重量部の針状ワラストナイトをさらに含む。
【0006】この発明をさらに詳細に説明するに、水硬性無機質物質は、得られる無機質体の母材となるもので、水和反応硬化成分として、セメントと珪酸質(SiO2 )とを含むものである。セメントとしては、ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント等を使用することができる。また、珪酸質としては、通常、珪砂等の結晶性シリカを使用する。両者の割合は、重量比で、セメント1に対して珪酸質0.3〜1程度でよい。
【0007】また、針状タルクは、押出成型時における組成物の流動性をほどよく向上させるとともに、得られる無機質体の、特に曲げ強度や耐衝撃性を向上させる作用をもつ。また、得られる無機質体中に取り込まれた水分が高温下において爆発的に飛散する、いわゆる爆裂を防止し、無機質体の耐火性を向上させる。
【0008】ここで、針状タルクは、Mg3 Si4 10(OH)2 を主成分とするもので、直径が0.05〜100μm、アスペクト比が3〜80の針状結晶を多く含むものとして定義され、JIS K5101に規定される方法によるかさ比容が0.3〜1.5cc/g 、JIS K0069に規定される方法による、300メッシュのふるい残分が20〜50重量%の範囲にあることで特徴づけられる。よく知られているように、一般にタルクといえば、かさ比容が1.7〜9cc/g 、ふるい残分が20重量%以下である板状や葉片状のものをいうが、針状タルクは、上述したようにこれらのタルクとは全く異なるものである。
【0009】上述した針状タルクは、水硬性無機質物質100重量部に対して、1〜30重量部含まれるようにする。1重量部未満では、流動性や耐火性の向上効果が小さく、また、30重量部を超えると、水硬性無機質物質間の結合力が弱くなって曲げ強度や耐衝撃性が低下するようになる。好ましい範囲は、3〜20重量部である。
【0010】一方、パルプや合成繊維の短繊維は、成型体の保型性や、無機質体の耐火性を向上させる。パルプとしては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプを使用することができる。パルプとしては、また、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンや、芳香族ポリアミドや、アクリル等の合成パルプを使用することができる。合成繊維の短繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維や、芳香族ポリアミド繊維や、アクリル繊維等からなる、平均繊維長が1〜6mm程度の短繊維を使用することができる。保型性や耐火性をより向上させるためには、細く、かつ、フィブリル化しているものがよく、パルプが好ましい。また、木材パルプは、成型体の安定した養生が行えるので好ましい。木材パルプを使用する場合、その量は、組成物中における分散性等を考慮すると、水硬性無機質物質100重量部に対して0.5〜2重量部の範囲とするのがよい。
【0011】パルプや合成繊維の短繊維は、水硬性物質100重量部に対して0.5〜5重量部の範囲とする。0.5重量部未満では、保型性の向上効果が小さく、また、高温下で無機質体の爆裂を招くことがある。一方、5重量部を超えると、分散性が悪くなり、得られる無機質体の曲げ強度や耐衝撃性が低下するようになる。
【0012】一方、保水剤は、押出成型時に、水硬性無機質物質と水との結合力が弱くなって両者が分離するのを防止するものである。量は、水硬性無機質物質100重量部に対して0.5〜3重量部の範囲がよい。0.5重量部未満では、押出圧が急激に上昇することがあり、また、水硬性無機質物質が脆くなって押出操作ができなくなったりする。3重量部を超えると、保水剤による粘性の上昇のために流動性が悪くなり、押出圧が上昇するようになる。
【0013】保水剤としては、でんぷん等の水溶性多糖類や、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体を使用することができる。セルロース誘導体のなかでも、特に、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルメチルセルロースが好ましい。また、でんぷんと水溶性セルロース誘導体とを併用することも、好ましい。
【0014】さて、組成物は、上述したように、水硬性無機質物質、針状タルク、パルプもしくは合成繊維の短繊維および保水剤を特定の範囲で含むことを必須とするが、これら以外に、たとえば、水硬性無機質物質に、フライアッシュ、白土、シリカヒューム、珪藻土等の非晶質シリカ(ポゾラン活性シリカ)を加えることもできる。これらを併用すると、得られる無機質体の曲げ強度が向上するようになる。ただ、シリカヒュームを使用するときは、シリカヒュームは爆裂を引き起こしやすく、無機質体の耐火性が低下するようになるので、水硬性無機質物質100重量部に対して5重量部以下に抑えるのが好ましい。
【0015】また、針状タルクに加えて、針状ワラストナイト、セピオライト、チタン酸カリウムウイスカ、炭化ケイ素ウイスカ等、特に、曲げ強度、耐衝撃性、耐火性の向上作用の大きい針状ワラストナイトを使用することができる。量は、水硬性無機質物質100重量部に対して1〜30重量部の範囲がよい。同様に、平均繊維長が1〜6mmの、耐アルカリガラス繊維、ロックウール、スチール繊維、アルミナ繊維等の無機質短繊維を加えることができる。
【0016】また、より軽量な無機質体を得るために、パーライト、シラスバルーン、ガラスバルーン等の軽量骨材を加えてもよい。
【0017】この発明の組成物を使用した無機質体の製造は、周知の方法によることができる。たとえば、組成物をアイリッヒミキサー等で混合し、水硬性無機質物質100重量部に対して20〜30重量部ほどの水を加えてさらに混合した後、押出機を使用して押出成型し、得られた成型体を養生して無機質体とする。無機質体の形状は、押出機のダイスを変えることで、中実、中空等、また、板状、柱状等、任意に変えることができる。また、養生の方法には、自然養生、50〜100℃の温度下でのスチーム養生、140〜200℃温度下でのオートクレーブ養生等がある。これらを組み合わせてもよい。
【0018】
【実施例1】65重量部のポルトランドセメントと、35重量部の珪砂とからなる水硬性無機質物質に、その100重量部に対して、20重量部の針状タルク(かさ比容:0.57cc/g 、300メッシュのふるい残分:34重量%)、1.25重量部の木材パルプ(平均長:2mm)、および、1.6重量部のヒドロキシプロピルメチルセルロースを加え、アイリッヒミキサーでよく混合した。
【0019】次に、上記混合物に水硬性無機質物質100重量部に対して23重量部の水を加え、ニーダーを用いて混練した。これを、二軸スクリューを備えた押出機を使用して15mm角に押し出し、成型体を得た。このとき、ダイス直前で測定した押出圧は、12kg/cm2 であった。
【0020】得られた成型体を50cm長に切断し、スパン長24cmのエッジ上に静置し、中央部の撓みを測定したところ、3mmであった。また、成型体を20cm長に切断して一昼夜自然養生した後、70℃で4時間スチーム養生し、さらに、オートクレーブに投入して180℃で9時間養生し、無機質体を得た。
【0021】得られた無機質体の曲げ強度(スパン長:10cm)は、350kg/cm2 であった。また、シャルピー衝撃値は、1.65kg・cm/cm2 であった。さらに、無機質体を、70℃/分の速度で700℃まで昇温し、その温度に10分間保持した後に炉冷したが、爆裂することはなかった。
【0022】
【実施例2】水硬性無機質物質100重量部に対して7.5重量部の針状ワラストナイトをさらに加えたほかは実施例1と同一組成の組成物を使用し、実施例1と同様に押出成型した。押出圧力は16kg/cm2 で、成型体の撓みは1mmであった。また、得られた無機質体の曲げ強度は380kg/cm2 、シャルピー衝撃値は1.8kg・cm/cm2 であった。さらに、電気炉による耐火テストでも、爆裂はなく、ひび割れもほとんど認められなかった。
【0023】
【実施例3】ヒドロキシプロピルメチルセルロースを1重量部に減らし、0.6重量部のでんぷんを加えたほかは実施例1と同一組成の組成物について、実施例1と同様に押出成型した。押出圧力は10kg/cm2 、成型体の撓みは2mmであった。また、得られた無機質体の曲げ強度は360kg/cm2 、シャルピー衝撃値は1.7kg・cm/cm2 であった。さらに、耐火テストにおいても、爆裂は生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】水硬性無機質物質と、その水硬性無機質物質100重量部に対して、1〜30重量部の針状タルク、0.5〜5重量部のパルプもしくは合成繊維の短繊維、および、0.5〜3重量部の保水剤とを含むことを特徴とする押出成型用無機質組成物。
【請求項2】水硬性無機質物質と、その水硬性無機質物質100重量部に対して、1〜30重量部の針状タルク、1〜30重量部の針状ワラストナイト、0.5〜2重量部の木材パルプ、および、0.5〜3重量部の保水剤とを含むことを特徴とする押出成型用無機質組成物。

【公開番号】特開平5−43297
【公開日】平成5年(1993)2月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−200760
【出願日】平成3年(1991)8月9日
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)