説明

押出成形用材料の調製方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、押出成形用材料の新規な調製方法に関するものである。さらに詳しくいえば、本発明は、押出成形用材料の成形圧力及び成形速度を予測し、この予測された成形圧力及び成形速度が、生産性及び装置の維持管理などの点から最適条件で成形しうるために所望の値になるように、押出成形用材料を調製する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】押出成形においては、被成形材料は、成形機の中で剪断作用を受け圧縮されながら、成形機先端に取り付けられている口金を通過し、所望の形状に絞り出す操作が加えられるために、押出成形に用いる材料には流動性と保形性とを兼ね備えた可塑性が要求される。したがって、押出成形法においては、型枠成形法や抄造法などの他の方法と比較して、成形できる可塑性の範囲が狭く、限られた材料調合においてのみ成形が可能である。また、生産性及びプラント維持管理などの点から、最適条件で成形することが重要であり、そのためには、材料の成形圧力と成形速度を予測し、これが所望の値となるように材料を調製するのが有利である。
【0003】しかしながら、これまで、成形圧力及び成形速度を予測する方法がないために、実際に押出成形を繰り返しながら、所望の成形圧力及び成形速度になるか否かを確認し、材料の調製や押出成形機のスクリュー回転速度などの条件を探索するという試行錯誤による方法によって行われている。
【0004】このように、従来、押出成形においては、成形圧力及び成形速度はいずれも材料まかせであって、まず被成形材料を押出成形したのち、所望の成形圧力及び成形速度に近づけるために、材料の調製を一部手直しをするという操作を繰り返していた。すなわち、最適な成形条件を見出すまでに、試行錯誤を繰り返しながら材料の調製を行うために、多くの人手と時間を要していたのが実状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、押出成形用材料を実際に押出成形してみることなく、押出成形における該材料の成形圧力と成形速度を予測し、この予測された成形圧力と成形速度が、生産性及びプラントの維持管理などの点から最適条件で成形するのに必要な値になるように材料の組成を選択することによって、所望の押出成形用材料を提供することを目的としてなされたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために、材料の成形圧力及び成形速度の予測について鋭意研究を重ねた結果、まず材料の滑りにくさを求め、予め求めておいた成形圧力とその際の材料の剪断強度との関係及び成形圧力と押出成形機のスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係と、前記滑りにくさとから、成形圧力及び成形速度を予測しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち、本発明は、押出成形用材料を調製するに当り、まず該材料の滑りにくさを求め、この滑りにくさから押出成形における成形圧力と成形速度を予測し、予測された成形圧力と成形速度が、それぞれ所望の値になるように押出成形用材料を調製することを特徴とする押出成形用材料の調製方法を提供するものである。
【0008】本発明を実施するための好ましい態様は、(1)上下に分かれた箱に充てんされた押出成形用材料を、上から一定の圧力を加えながら横方向にずらし、その際のずれと抵抗力とから材料の滑りにくさとしての粘着力及び内部摩擦係数を求める押出成形用材料の調製方法、及び(2)予め成形圧力とその際の材料の剪断強度との関係及び成形圧力と押出成形機のスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係を求めておき、まず前記のようにして求められた滑りにくさ(粘着力と内部摩擦係数)、及び前記の成形圧力とその際の材料の剪断強度との関係から成形圧力を予測し、次いでこの予測された成形圧力、及び前記の成形圧力と押出成形機のスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係からスクリュー1回転当りの材料輸送量を求め、この材料輸送量の値にスクリュー回転速度を乗じたのち、押出成形機の口金の開口面積で除して成形速度を予測する押出成形用材料の調製方法である。
【0009】本発明においては、押出成形における材料の成形圧力と成形速度を予測し、この予測された成形圧力と成形速度が、それぞれ所望の値になるように、押出成形用材料の調製を行う。
【0010】材料の成形圧力と成形速度を予測するには、まず材料の滑りにくさを求めることが必要である。この材料の滑りにくさは、例えば図1で示すように、上下に分かれた箱2の中に押出成形用材料1を充てんし、一定の圧力を加えながら箱を横方向にずらし、その際のずれaと抵抗力bとから粘着力及び内部摩擦係数として求めることができる。
【0011】押出成形において、材料は剪断作用を受けながら口金から大気圧下に放出されることにより製品となる。すなわち、材料は成形圧力によって剪断破壊されながら塑性加工されると同時にその圧力によって材料の剪断強度が上昇し、押出成形が困難となる場合がある。そこで、この成形圧力と材料の剪断強度との関係を明確に把握することが押出成形圧力や成形速度を予測する上で重要である。
【0012】本発明においては、材料の成形圧力と成形速度を予測するために、予め、前記の滑りにくさ(粘着力、内部摩擦係数)及び成形圧力から求められる剪断強度と成形圧力との関係を求めておくとともに、成形圧力と押出機のスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係を求めておく。
【0013】まず、前記のようにして求められた滑りにくさ(粘着力、内部摩擦係数)、及び前記の剪断強度と成形圧力との関係から成形圧力を予測する。次に、この予測された成形圧力、及び前記の成形圧力と押出機のスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係からスクリュー1回転当りの材料輸送量を求め、この材料輸送量の値にスクリュー回転速度を乗じ、単位時間当りの材料処理量を算出し、さらにこの単位時間当りの材料処理量を押出機の口金の開口面積で除すことにより、成形速度を予測する。
【0014】本発明においては、このようにして材料の成形圧力と成形速度を予測し、この予測された成形圧力と成形速度が、それぞれ所望の値になるように、押出成形用材料を調製する。これにより、多くの人手や時間を要することなく、最適条件での成形が可能な押出成形用材料を容易に調製することができる。
【0015】
【発明の効果】本発明によると、材料の成形圧力及び成形速度を予測し、この予測された成形圧力及び成形速度が所望の値になるように押出成形用材料を調製することにより、最適条件での成形が可能となる。したがって、本発明の押出成形用材料の調製方法は、生産性及び装置の維持管理などの点から、極めて有利な方法である。
【0016】
【実施例】次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】参考例粘結材、砂、水、増粘剤(メチルセルロース)及び繊維質添加材(石綿、炭素繊維)を用い、砂/粘結材重量比(S/C)0.5〜2.0、水量比0.120〜0.300、水/粘結材重量比0.205〜1.000、増粘剤/(粘結材+砂+水)重量比0.01、繊維質添加材/(粘結材+砂+水)重量比0.05の条件で、各種のモルタルを調製した。なお、断りのないかぎり、増粘剤としてメチルセルロースを繊維質添加材として石綿を用いた。また、別に砂を用いないこと以外は、同様にして水量比を代えてセメントペースト及び陶磁器用粘土を調製した。
【0018】図2に示す径50mmのスクリュー3及び開口形状12.0×60.0mmの口金4を備えた押出成形機を用いて、前記材料をスクリュー回転速度11.0〜26.5rpmで押し出し、その際の成形圧力と成形速度を測定した。
【0019】別に図1に示すように、前記材料1を、上下に別れた箱2に充てんし、数種の圧力を上から加えながら横方向にずらし、その際のずれaと抵抗力bとを測定し、その結果から材料の滑りにくさとしての粘着力及び内部摩擦係数を求めた。図3に水量比と粘着力との関係を、図4に水量比と内部摩擦係数との関係を、それぞれグラフとして示す。
【0020】また、実験から得られた粘着力及び内部摩擦係数並びに成形圧力から求められる剪断強度と成形圧力との関係を求めた。その結果を図5にグラフとして示す。
【0021】一方、成形速度に口金の開口面積を乗じて単位時間当りの材料処理量を求め、この単位時間当りの材料処理量をスクリュー回転速度で除すことにより、スクリュー1回転当りの材料輸送量を求めた。さらにこのスクリュー1回転当りの材料輸送量と成形圧力との関係を求めた。その結果を図6にグラフとして示す。
【0022】種々の条件で調製された材料を対象にそれぞれの関係を求めたところ、材料の調製条件には関係なく、図3〜図6に示すように、すべて一義的な関係になった。ここで、押出成形前の材料について、前記した方法に従って、材料の滑りにくさとしての粘着力及び内部摩擦係数を求め、この粘着力を図5のY軸切片にもち(C点)、内部摩擦係数を傾きとした直線を図5に重ね合わせると交点が得られ、これが予測される成形圧力P(MPa)である。
【0023】この予測された成形圧力から図6を用いて、スクリュー1回転当りの材料輸送量Q(cc/r)を求め、これにスクリュー回転速度を乗じ、さらに口金の開口面積で除すと予測される成形速度が得られる。
【0024】実施例1粘結材、砂、水、増粘剤(メチルセルロース)及び繊維質添加材(石綿)を用い、砂/粘結材重量比0.50、水量比0.150、水/粘結材重量比0.264、増粘剤/(粘結材+砂+水)重量比0.01、繊維質添加材/(粘結材+砂+水)重量比0.05の条件で混練を行い、モルタルを調製した。
【0025】この材料について、参考例と同様にして材料の滑りにくさとしての粘着力及び内部摩擦係数を求めた。粘着力を図5のY軸切片にもち、内部摩擦係数を傾きとした直線を図5に示す下に凸の線と重ね合わせると、2つの線は交差し、その交点すなわち予測成形圧力Pは0.30MPaであった。予測された成形圧力から図6を用いてスクリュー1回転当りの材料輸送量Qを求めると13.6cc/rであった。これにスクリューの回転速度を乗じ、さらに口金の開口面積で除すと、スクリュー回転速度11.0rpmのときの予測される成形速度は20.8cm/分であった。
【0026】一方、この材料を押出成形機を用い、スクリュー回転速度11.0rpmで押し出したところ、成形圧力は0.31MPaで成形速度は20.0cm/分であった。材料の滑りにくさを表わす粘着力と内部摩擦係数から予測された成形速度及び成形圧力と、実験から得られた成形速度及び成形圧力との差は僅かであった。
【0027】実施例2粘結材、水、増粘剤(メチルセルロース)及び繊維質添加材(石綿)を用い、水量比0.223、水/粘結材重量比0.288、増粘剤/(粘結材+水)重量比0.01、繊維質添加材/(粘結材+水)重量比0.05の条件で混練を行い、セメントペーストを調製した。
【0028】この材料について、実施例1と同様にして予測される成形圧力と成形速度を求めたところ、予測される成形圧力は0.074MPa、スクリュー1回転当りの材料輸送量は25.7cc/r、スクリュー回転速度26.5rpmのときの予測される成形速度は39.4cm/分であった。
【0029】一方、この材料を押出成形機を用い、スクリュー回転速度26.5rpmで押し出したところ、成形圧力は0.079MPaで成形速度は41.1cm/分であった。材料の滑りにくさを表わす粘着力と内部摩擦係数から予測された成形速度及び成形圧力と、実験から得られた成形速度及び成形圧力との差は僅かであった。
【0030】実施例3粘結材、砂、水、増粘剤(メチルセルロース)及び繊維質添加材(炭素繊維)を用い、砂/粘結材重量比1.00、水量比0.120、水/粘結材重量比0.273、増粘剤/(粘結材+砂+水)重量比0.01、繊維質添加材/(粘結材+砂+水)重量比0.05の条件で混練を行い、モルタルを調製した。
【0031】この材料について、実施例1と同様にして予測される成形圧力と成形速度を求めたところ、予測される成形圧力は1.5MPa、スクリュー1回転当りの材料輸送量は13.0cc/r、スクリュー回転速度11.0、16.0、26.5rpmのときの予測される成形速度はそれぞれ19.8、28.8、47.8cm/分であった。
【0032】一方、この材料を押出成形機を用い、スクリュー回転速度11.0、16.0、26.5rpmで押し出したところ、成形圧力はそれぞれ13.8MPaで、成形速度はそれぞれ17.0、26.5、43.0cm/分であった。材料の滑りにくさを表わす粘着力と内部摩擦係数から予測された成形速度及び成形圧力と、実験から得られた成形速度及び成形圧力との差は僅かであった。
【0033】実施例4粘結材、砂、水、増粘剤(メチルセルロース)を用い、砂/粘結材重量比1.00、水量比0.100、水/粘結材重量比0.222、増粘剤/(粘結材+砂+水)重量比0.01の条件で混練を行い、モルタルを調製した。
【0034】この材料について、実施例1と同様にして予測される成形圧力と成形速度を求めたところ、予測される成形圧力は3.2MPa、スクリュー1回転当りの材料輸送量は12.6cc/r、スクリュー回転速度16.0rpmのときの予測される成形速度はそれぞれ28.0cm/分であった。
【0035】一方、この材料を押出成形機を用い、スクリュー回転速度16.0rpmで押し出したところ、成形圧力は3.0MPaで成形速度は31.0cm/分であった。材料の滑りにくさを表わす粘着力と内部摩擦係数から予測された成形速度及び成形圧力と、実験から得られた成形速度及び成形圧力との差は僅かであった。
【0036】実施例5粘結材、砂、水、増粘剤(カードラン)及び繊維質添加材(石綿)を用い、砂/粘結材重量比1.00、水量比0.200、水/粘結材重量比0.500、増粘剤/(粘結材+砂+水)重量比0.01、繊維質添加材/(粘結材+砂+水)重量比0.05の条件で混練を行い、モルタルを調製した。
【0037】この材料について、実施例1と同様にして予測される成形圧力と成形速度を求めたところ、予測される成形圧力は12.8MPa、スクリュー1回転当りの材料輸送量は8.3cc/r、スクリュー回転速度16.0rpmのときの成形速度は17.4cm/分であった。
【0038】一方、この材料を押出成形機を用い、スクリュー回転速度16.0rpmで押し出したところ、成形圧力は使用した押出成形機の最大許容圧力6.0MPaを超え、成形は不可能であった。材料の滑りにくさを表わす粘着力と内部摩擦係数から予測されたように、押出成形はできなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 材料の滑りにくさを求める方法を説明するための断面図。
【図2】 参考例及び実施例で用いた押出成形機の断面略図。
【図3】 異なる材料についての水量比と粘着力との関係を示すグラフ。
【図4】 異なる材料についての水量比と内部摩擦係数との関係を示すグラフ。
【図5】 異なる材料についての成形圧力と剪断強度との関係を示すグラフ。
【図6】 異なる材料についての成形圧力とスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1 材料
2 箱
3 スクリュー
4 口金
a ずれ
b 抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】 押出成形用材料を調製するに当り、まず該材料の滑りにくさを求め、この滑りにくさから押出成形における成形圧力と成形速度を予測し、予測された成形圧力と成形速度が、それぞれ所望の値になるように押出成形用材料を調製することを特徴とする押出成形用材料の調製方法。
【請求項2】 上下に分かれた箱に充てんされた押出成形用材料を、上から一定の圧力を加えながら横方向にずらし、その際のずれと抵抗力とから材料の滑りにくさとしての粘着力及び内部摩擦係数を求める請求項1記載の押出成形用材料の調製方法。
【請求項3】 予め成形圧力とその際の材料の剪断強度との関係及び成形圧力と押出成形機のスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係を求めておき、まず、請求項2記載の方法で求められた滑りにくさ(粘着力と内部摩擦係数)、及び前記の成形圧力とその際の材料の剪断強度との関係から成形圧力を予測し、次いでこの予測された成形圧力、及び前記の成形圧力と押出成形機のスクリュー1回転当りの材料輸送量との関係からスクリュー1回転当りの材料輸送量を求め、この材料輸送量の値にスクリュー回転速度を乗じたのち、押出成形機の口金の開口面積で除して成形速度を予測する請求項1記載の押出成形用材料の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】第2636181号
【登録日】平成9年(1997)4月25日
【発行日】平成9年(1997)7月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−242086
【出願日】平成6年(1994)9月8日
【公開番号】特開平8−72037
【公開日】平成8年(1996)3月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本建築学会構造系論文集 第461号1〜10頁「一面剪断試験によるセメント系建築材料の押出成形性の評価方法」(1994年7月30日)社団法人 日本建築学会 発行
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院九州工業技術研究所長
【出願人】(394017251)建設省建築研究所長 (2)