説明

押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物及びそれを用いた押出成形品

【課題】
射出成形用熱伝導性樹脂にアクリル系成形改質剤を添加することで押出成形に適した絶縁性熱伝導性樹脂組成物を提供し、併せて表面外観が良好な絶縁性熱伝導性を有する押出成形品を提供する。
【解決手段】
高分子マトリクス中に、熱伝導性無機フィラーと、少なくとも2種の押出成形性を改善するアクリル系成形改質助剤を配合し、前記無機フィラーを全体に対して25体積%以上充填して熱伝導率を1W/m・K以上とした。前記アクリル系成形改質助剤は、1種以上のアクリル系高分子外部滑剤と、1種以上のアクリル系高分子加工助剤とを含む。前記アクリル系高分子加工助剤の少なくとも1種は、エポキシ基を含み、アクリル系成形改質助剤全体に対するエポキシ価が1.0meq/g以下の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物及びそれを用いた押出成形品に係わり、更に詳しくはベースポリマーに無機充填材を配合した絶縁性と熱伝導性を備えた押出成形用の樹脂組成物とそれを用いて押出形成した成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、発熱源の放熱は重要な問題である。また、各種機器、装置の軽量化への要求から、金属、セラミックス材料から高分子材料への代替が進んでいる。このような背景から、近年各社でフィラー充填により熱伝導率を高めた熱伝導性樹脂が開発されている。これまでの熱伝導性樹脂は、主に射出成形用の材料であった(特許文献1、2参照)。
【0003】
高分子材料の高熱伝導化は、マトリックス樹脂にフィラーを高充填することにより行われる。一般に熱伝導性樹脂はフィラーを多量に含むため、材料の粘度増加が起こり、射出成形時の流動性を確保することが難しい。このため、射出成形を行うに当たっては、分子量が低く、分子量分布の狭いベースポリマーが選定されている。ところが、低分子量、狭分子量分布のポリマーは溶融張力、溶融弾性に乏しい。
【0004】
一方、押出成形用の材料には、高い溶融弾性、溶融張力が要求される。これは溶融張力、溶融弾性が押出成形時のドローダウン特性、ダイスウェル効果(バラス効果)と密接な相関があるためである。従って、従来の射出成形用の熱伝導性樹脂は、押出成形に必要な材料特性を備えているとは言えない。即ち、射出成形用熱伝導性樹脂と押出成形用熱伝導性樹脂に要求される材料特性、粘弾性挙動は根本的に異なるため、これまでの射出成形用熱伝導樹脂は、押出成形性を満足できる材料ではなかった。
【0005】
また、一般的に熱伝導性樹脂はフィラーを多量に含むため、成形条件によっては押出成形品の表面外観に毛羽立ち、ざらつきが見られ、表面外観が良好な成形品を得るのが困難であった。これまでの熱伝導性樹脂について、押出成形の成形条件と成形品外観の相関を検討した例はあまりない。
【0006】
因みに、特許文献1には、熱硬化性樹脂を母材とする樹脂成分と、これに非相溶な有機化合物と、繊維状フィラーとを含む熱伝導性樹脂材料であって、樹脂成分中に、有機化合物が分散粒子として存在し、2つ以上の繊維状フィラーが各分散粒子の表面に接触し、または分散粒子中に存在する熱伝導性樹脂材料が記載されている。
【0007】
また特許文献2には、生分解性ポリエステル樹脂40〜95体積%と、10W/m・K以上の熱伝導率を有する充填材60〜5体積%とからなり、生分解性ポリエステル樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル化合物により架橋されていることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物が記載されている。更に、この熱伝導性樹脂組成物に、エポキシ、イソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、酸無水物、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1単位以上含有する反応性化合物を含有させる。この熱伝導性樹脂組成物を、押出成形によって成形品を成形する点もその他の成形方法と併せて記載されているが、実施例には射出成形が好ましいと記載され、押出成形に対する成形性や成形品外観の良否については言及されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−007647号公報
【特許文献2】特開2007−262295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、従来の熱伝導性樹脂について、材料の粘弾性挙動を評価すると共に、押出成形の成形条件と成形品外観の相関を検討し、その結果、良好な表面外観が得られる成形条件を見出して本発明を完成させた。
【0010】
つまり、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、熱伝導性樹脂にアクリル系成形改質剤を添加することで押出成形に適した絶縁性熱伝導性樹脂組成物を提供し、併せて表面外観が良好な絶縁性熱伝導性を有する押出成形品を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、絶縁性熱伝導性樹脂の粘弾性を制御することにより押出成形に適した樹脂組成物を得るものである。即ち、高分子マトリクス中に、所定量の熱伝導性無機フィラーを充填するとともに、アクリル系成形改質助剤を添加、溶融混練することにより、押出成形性を満足できる材料を得るのである。
【0012】
本発明は、前述の課題解決のために、高分子マトリクス中に、熱伝導性無機フィラーと、少なくとも2種の押出成形性を改善するアクリル系成形改質助剤を配合し、前記無機フィラーを全体に対して25体積%以上充填して熱伝導率を1W/m・K以上としたことを特徴とする押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物を構成した(請求項1)。
【0013】
ここで、前記高分子マトリクスをポリプロピレン、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリブチレンテレフタレートの内から選ばれた1種又は2種以上のアロイとし、前記無機フィラーを窒化ホウ素、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムの内から選ばれた1種又は2種以上の組み合わせとすることが好ましい(請求項2)。
【0014】
そして、前記アクリル系成形改質助剤は、1種以上のアクリル系高分子外部滑剤と、1種以上のアクリル系高分子加工助剤とを含むことがより好ましい(請求項3)。
【0015】
又は、前記アクリル系成形改質助剤は、2種以上のアクリル系高分子加工助剤を含み、1種以上の非アクリル系高分子外部滑剤と組み合わせて配合することも好ましい(請求項4)。
【0016】
また、前記アクリル系高分子加工助剤の少なくとも1種はエポキシ基を含み、アクリル系成形改質助剤全体に対するエポキシ価が1.0meq/g以下の範囲にあることが好ましい(請求項5)。
【0017】
また、前記アクリル系高分子加工助剤の少なくとも1種はエポキシ基を含み、アクリル系成形改質助剤全体に対するエポキシ価が0.5〜0.9meq/gの範囲にあることがより好ましい(請求項6)。
【0018】
更に、280℃以上において、見かけのせん断速度が100s-1のとき、せん断応力が0.1MPa以上を示し、かつ見かけの粘度が103(Pa・s)以上であることが好ましい(請求項7)。
【0019】
また、本発明は、前述の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物を用いて、押出成形したことを特徴とする押出成形品を提供する(請求項8)。
【0020】
ここで、前記押出成形品が、LED照明に用いられる放熱部材であると、より効果的である(請求項9)。
【発明の効果】
【0021】
一般的な押出成形の不良現象として、メルトフラクチャー、シャークスキンが知られている。どちらの不良現象も、低温、または高吐出量時に生じやすく、押出成形品の外観、形状が乱れてしまう。メルトフラクチャー、シャークスキンは、臨界応力値を超えたときに発生するため、成形温度を上げる、または吐出量を少なくすることで回避可能である。
【0022】
一方、本発明により得られた押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物は、低温、高せん断速度(高吐出量)条件下で成形不良現象を回避できることが特徴である。高吐出量で成形不良現象を抑制できることは、生産性の観点からも重要である。一例として、押出成形の例(2)に記載の異形形状の成形では、押出成形の際の樹脂温度が240℃のとき、0.5〜2.0m/minの押出速度範囲において、外観が良好な押出成形品を成形することができた。熱伝導材料はフィラーを多量に含むため高コスト化が避けられないが、早いサイクルで成形することにより、最終製品のコストを下げることが可能である。また、本発明により調製した押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物は、成形条件が低温、高せん断速度(高吐出量)になるほど表面外観の荒れ、ざらつき、毛羽立ちが少なくなることが特徴である。
【0023】
本発明の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物を用いて押出成形した成形品は、例えばLED照明に用いられる放熱部材として良好な放熱特性を備えており、LED照明器具の小型化と低コスト化を図ることができ、更にアルミヒートシンクやセラミックスの代替として汎用的な用途に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】せん断速度とせん断応力σの関係を示すグラフである。
【図2】せん断速度とせん断粘度ηの関係を示すグラフである。
【図3】(a)〜(d)はそれぞれ成形条件1〜4で得られたストランドの表面状態を示す図面代用の顕微鏡写真である。
【図4】異形押出成形用の金型形状を示す説明図である。
【図5】異形押出成形品のSEM像であり、(a)は樹脂温度240℃の場合、(b)は樹脂温度250℃の場合をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。本発明の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物は、高分子マトリクス中に、熱伝導性無機フィラーと、少なくとも2種の押出成形性を改善するアクリル系成形改質助剤を配合し、前記無機フィラーを全体に対して25体積%以上充填して熱伝導率を1W/m・K以上としたものである。
【0026】
本発明に用いられる高分子マトリクスは、ポリアミド系樹脂(PA系樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の内から選ばれた1種又は2種以上のアロイが好ましい。例えば、PA/PET、PC/PET、PC/PA、PC/PBT、PET/PBT、PA/PBTである。また樹脂の特性に関して、例えばPCの場合、MFRが10以下のグレードが特に好ましい。
【0027】
熱伝導性無機フィラーとしては、窒化ホウ素(BN)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、水酸化マグネシウム(MgOH)、酸化亜鉛(ZnO)、シリカ(SiO2)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al23)を用いることができ、この中でも窒化ホウ素、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカが好ましく、これらを単独又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0028】
ここで、例えば窒化ホウ素に関しては、鱗片形状の平均粒径が20〜40μm、熱伝導率が40〜60W/m・K、又はそれ以上を示すことが好ましい。また、炭酸マグネシウムは、平均粒径が5〜10μm程度が好ましい。水酸化マグネシウムは、平均粒径が3〜10μm程度が好ましい。酸化亜鉛は、テトラポット形状では平均粒径が3〜10μm程度、若しくは球状では平均粒径が30〜40μm程度が好ましい。シリカは、平均粒径が20〜40μm程度の球状、若しくはアスペクト比がL/D=5以上の繊維状であることが好ましい。
【0029】
尚、これら挙げた無機フィラーは樹脂界面との接着性を向上させるため、シランカップリング処理などの表面処理を施してもよい。また、本発明の絶縁性熱伝導性樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料や難燃剤等の添加物を加えることができる。
【0030】
また、前記アクリル系成形改質助剤は、1種以上のアクリル系高分子外部滑剤と、1種以上のアクリル系高分子加工助剤とを含むことがより好ましい。又は、前記アクリル系成形改質助剤は、2種以上のアクリル系高分子加工助剤を含み、1種以上の非アクリル系高分子外部滑剤と組み合わせて配合することも可能である。
【0031】
外部滑剤として、アクリル系高分子外部滑剤(滑剤A)、モンタン酸ワックス(滑剤B)、ポリエチレンワックス(滑剤C)を用いることが可能である。この中では、アクリル系高分子外部滑剤(滑剤A)が最も好ましい。
【0032】
ここで、アクリル系高分子外部滑剤としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、クロロエチルアクリレート等のアクリル酸エステル単量体,メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、クロロエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル単量体の単独重合体あるいは二種以上を組み合わせた共重合体を挙げることができる。さらに、上記単量体とスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等芳香族ビニル化合物やアクリロニトリル、メタクリロニトリル等ビニルシアン化合物とを組み合わせて共重合させても良い。また、上記単量体と、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、アルキレングリコールジアクリレート等の多官能単量体を共重合させても良い。
【0033】
また、溶融弾性を付加するアクリル系高分子加工助剤として、(1)重量平均分子量が50万〜300万の範囲にあり、ポリマーの分子鎖と絡み合うことによって擬似架橋状態を形成する高分子量アクリル重合体(添加剤A)、(2)せん断応力により繊維化することでネットワーク構造をとるアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(添加剤B)、(3)重量平均分子量が11,000程度であり、1.6〜2.3meq/gのエポキシ価をもつアクリル系エポキシ基含有ポリマー(添加剤C)を用いた。
【0034】
ここで、アクリル系エポキシ基含有ポリマー(添加剤C)を用いる場合、アクリル系成形改質助剤全体に対するエポキシ価が1.0meq/g以下の範囲にあることが好ましく、特に0.5〜0.9meq/gの範囲にあることがより好ましい。
【実施例】
【0035】
材料の調製手順は以下の通りである。マトリックス樹脂、無機フィラー、成形改質剤を一旦ドライブレンドし、その後二軸押出機により混練した。混練温度は結晶性樹脂に関しては融点プラス20℃程度、非晶性樹脂に関してはガラス転移温度プラス100〜150℃程度の範囲とした。例えば、PA66であれば280℃程度、PCでは250〜300℃程度で混練した。二軸押出機により混練された材料をペレット化し、押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0036】
先ず、本発明の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物と、添加剤無添加の絶縁性熱伝導性樹脂組成物の押出特性の評価を、キャピラリーレオメータ(安田精機、No.140−SAS2002)を用いて行った。図1は、せん断速度(=dγ/dt)(s-1)とせん断応力σ(Pa)の関係、図2はせん断速度とせん断粘度η(Pa・s)の関係をそれぞれ対数目盛り示している。使用したダイ形状はL/D=10/1(mm)である。図中において、従来材料はPC/PA66にBN(28体積%)、ZnO(8体積%)を充填した材料、発明材料1は従来材料に添加剤Aを3phr、添加剤Cを2phr添加した材料、また発明材料2は従来材料に添加剤Aを3phr、添加剤Cを2phr、滑剤Aを0.5phr添加した材料である。
【0037】
次に、上記の実施例の内、最もストランドの外観が良好であった発明材料2について、押出条件とストランドの外観について詳細な実験を行った。表1に調製した材料組成と成形条件を示す。表中の滑剤A及び添加剤A、Cは上述と対応している。
【0038】
【表1】

【0039】
先の実験と同様、発明材料2の押出特性の評価をキャピラリーレオメータにより行った。実験条件及び評価方法を以下に記す。尚、本押出特性の評価は、キャピラリーレオメータを用いたモデル試験であり、実際の押出成形機を用いた試験状態とは異なることに留意が必要である。特に、押出成形時におけるブレーカープレートの有無、スクリュー回転数、スクリューの圧縮比、金型形状等により最適な成形条件は異なることに注意する必要がある。
【0040】
キャピラリーレオメータのシリンダ温度を250℃と280℃とし、せん断速度(=dγ/dt)が7.29s-1、または100s-1時のせん断応力、見かけの粘度、及び押出ストランドの状態を評価した。ダイはリボンダイ(3×1×10mm)を用いた。因みに、成形方法とせん断速度の相関は、射出成形では103〜104-1程度、押出成形では102〜103-1程度である。
【0041】
図3(a)〜(d)に各成形条件で測定によって得られたストランドの状態を示す。成形条件1はシリンダ温度250℃、せん断速度7.29s-1の場合(図3(a))、成形条件2はシリンダ温度250℃、せん断速度100s-1の場合(図3(b))、成形条件3はシリンダ温度280℃、せん断速度7.29s-1の場合(図3(c))、成形条件4はシリンダ温度280℃、せん断速度100s-1の場合(図3(d))である。
【0042】
図3(c)と(d)(成形条件3、4)を比較することにより、せん断速度が押出ストランドの外観へ与える影響を考察できる。本結果では、せん断速度を増加させることにより、表面のざらつきが少なくなっていることがわかる。また、図3(a)と(c)(成形条件1、3)、図3(b)と(d)(成形条件2、4)から、同じせん断速度の条件下においては、シリンダ温度が低い場合に表面外観のざらつきが少ないことがわかる。以上より、今回調製した押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物は、低温、高せん断速度条件下において、表面外観の荒れ、ざらつきが少なくなることが示された。
【0043】
尚、無機フィラーが充填されていない押出成形の実験では、せん断応力を把握することが重要である。これは臨界応力値をこえた場合にメルトフラクチャーなどの成形不良現象が発生するためである。かかる臨界応力値は温度に依存せず、材料の特性によって決定されるパラメータである。しかし、成形条件1と成形条件4のせん断応力の値はほぼ同一であるにも関わらず、押出されたサンプルの表面外観は異なる。本結果はフィラー充填系の押出成形材料の場合、ストランドの外観はせん断応力のみならず、せん断速度、シリンダ温度の影響も大きいことを示唆している。
【0044】
(実施例1)
実際に行った押出成形について述べる。使用した押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物は表1に記載の材料である。断面形状が長方形(35×4.5mm)の押出成形品を得られる金型を用い、押出成形を行った。成形機には単軸押出機(池貝、PMS40−28、L/D=28)を用いた。成形にはブレーカープレートを使用し、成形温度は240℃とした。成形機先端の吐出口近傍における樹脂温度が250℃以下となったとき、押出成形品の外観に荒れ、ざらつきがなくなった。また、このとき不良現象の一つとして知られるダイ出口近傍に異物がたまる現象の観測もされなかった。
【0045】
(実施例2)
前述の押出成形に続き、図4に示す形状で、異形押出成形を行った。図中において各部の寸法の単位はmmである。使用した材料、装置は実施例1と同様である。押出成形品の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図5に示す。本金型を用いた成形では、吐出口の樹脂温度が240℃程度になったときに成形品外観の荒れ、ざらつきがなくなった(図5(a))。一方、吐出口の樹脂温度が250℃以上のとき、成形品表面に荒れ、ざらつきが観測された(図5(b))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクス中に、熱伝導性無機フィラーと、少なくとも2種の押出成形性を改善するアクリル系成形改質助剤を配合し、前記無機フィラーを全体に対して25体積%以上充填して熱伝導率を1W/m・K以上としたことを特徴とする押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記高分子マトリクスをポリプロピレン、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリブチレンテレフタレートの内から選ばれた1種又は2種以上のアロイとし、前記無機フィラーを窒化ホウ素、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムの内から選ばれた1種又は2種以上の組み合わせとした請求項1記載の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリル系成形改質助剤は、1種以上のアクリル系高分子外部滑剤と、1種以上のアクリル系高分子加工助剤とを含む請求項1又は2記載の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル系成形改質助剤は、2種以上のアクリル系高分子加工助剤を含み、1種以上の非アクリル系高分子外部滑剤と組み合わせて配合する請求項1又は2記載の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリル系高分子加工助剤の少なくとも1種はエポキシ基を含み、アクリル系成形改質助剤全体に対するエポキシ価が1.0meq/g以下の範囲にある請求項3又は4記載の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記アクリル系高分子加工助剤の少なくとも1種はエポキシ基を含み、アクリル系成形改質助剤全体に対するエポキシ価が0.5〜0.9meq/gの範囲にある請求項3又は4記載の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
280℃以上において、見かけのせん断速度が100s-1のとき、せん断応力が0.1MPa以上を示し、かつ見かけの粘度が103(Pa・s)以上である請求項1〜6何れか1項に記載の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7何れか1項に記載の押出成形用絶縁性熱伝導性樹脂組成物を用いて、押出成形したことを特徴とする押出成形品。
【請求項9】
前記押出成形品が、LED照明に用いられる放熱部材である請求項8記載の押出成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−171965(P2012−171965A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31851(P2011−31851)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】