説明

排水の処理方法

【課題】化学工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、印刷工場、自動車工場などから排出される排水、し尿処理場、下水処理場からの生物処理水の凝集沈殿、加圧浮上処理において、処理水の清澄性の向上及びCODの低減を図り、高水質の処理水を安定に得る。
【解決手段】排水に、以下の(i)〜(iv)のフェノール性水酸基を有する水溶性高分子の1種又は2種以上を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理を行う排水処理において、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加に先立ち、排水のpHを9以上に調整しする。
(i) ビニルフェノールの単独重合体
(ii) 変性ビニルフェノールの単独重合体
(iii) ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体
(iv) フェノールとホルムアルデヒドとの付加縮合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般工場の排水の処理方法に関する。本発明は、化学工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、印刷工場、自動車工場などから排出される排水、し尿処理場、下水処理場からの生物処理水等の凝集沈殿、加圧浮上処理において、処理水の清澄性の向上及びCODの低減が可能な排水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護、人の健康確保の面から、年々排水処理に係わる規制が地球規模で厳しくなってきている。特に、河川放流、閉鎖水域への放流については、水質管理項目の規制値の見直しなど、国及び各地方自治体での動きが活発になってきている。
【0003】
一般に、工場から排出される排水処理の場合、有機系の排水に対しては通常活性汚泥などの生物処理が行われ、その後、下水放流、海や湖沼河川への放流の前に、濁質除去を目的に凝集沈殿処理や加圧浮上処理などが行われる。
【0004】
従来、一般的な凝集沈殿処理や加圧浮上処理では、まず排水に硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム、ポリ鉄、塩化第二鉄、塩化アルミニウム等の無機凝集剤を添加し、次に有機高分子凝集剤の添加によって微細な濁質を凝集させる。その後、シックナーや加圧浮上装置にて固液分離することにより、濁度の低い処理水を得ることができる。無機凝集剤を添加する目的は濁質の荷電中和にあり、微細な濁質を一次凝集させ、次に添加する高分子量の有機高分子凝集剤により、微細な濁質の一次凝集体をさらに大きくフロック化し、凝集沈殿では沈降しやすく、加圧浮上では浮上しやすくする。
【0005】
しかしながら、最近の排水は、工場での製造物の多様化に伴い、排水成分の変動が大きいことや、凝集処理しにくい成分も含まれることが多くなってきており、下水への放流基準や河川、海洋への放流基準を満たすことができない場合が増えてきている。
【0006】
従って、工場排水の処理において、近年特に処理水水質の向上、特に濁度の低減、CODの低減が強く望まれている。
【0007】
従来、排水処理における処理水水質の向上、特に濁度の低減、CODの低減のために、次のような提案がなされている。
(1) 無機凝集剤とジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)系ポリマーを併用する方法(特許文献1)
(2) 無機凝集剤とポリアミンやジアルキルアミン・エピクロルヒドリンと縮合物とを併用する方法(特許文献2)
(3) 無機凝集剤とジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)系ポリマー、ポリアミン、ジアルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物を併用する方法(特許文献3)
【0008】
しかしながら、これらの技術では、排水の性状変動によって効果が変動し、濁度低減に関して安定した処理効果が得られず、改善が求められている。
【0009】
また、処理水質の改善と無機凝集剤の必要量低減を目的に、
(4) フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を用いる方法(特許文献4)
が提案されている。この特許文献4では、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加する際の生物処理水のpHは中性、もしくはアルカリ性が好ましく、特にpH6以上、例えば6〜9が好ましいとされている。
【0010】
上記(4)の方法は、(1)、(2)、(3)の方法に比べて溶解性の有機物濃度の低減効果は多少大きいものの、濁度低減効果は水質変動の影響を受けやすく、改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平7−41247号公報
【特許文献2】特許4004016号公報
【特許文献3】特許2683991号公報
【特許文献4】特開2007−7563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来の課題を解決する有効な排水処理方法を提案するものであり、化学工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、印刷工場、自動車工場などから排出される排水、し尿処理場、下水処理場からの生物処理水の凝集沈殿、加圧浮上処理において、処理水の清澄性の向上及びCODの低減を図り、高水質の処理水を安定に得る排水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記(4)の方法について、より一層の処理水の水質向上を図るべく鋭意検討を行った結果、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加時の排水のpHを9以上のアルカリ性とすることにより、処理水のより一層の清澄性の向上及びCODの低減が可能となることを見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0015】
[1] 排水に、以下の(i)〜(iv)のフェノール性水酸基を有する水溶性高分子の1種又は2種以上を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理を行う排水の処理方法において、該フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加に先立ち、該排水のpHを9以上に調整し、その後、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加することを特徴とする排水の処理方法。
(i) ビニルフェノールの単独重合体
(ii) 変性ビニルフェノールの単独重合体
(iii) ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体
(iv) フェノールとホルムアルデヒドとの付加縮合体
【0016】
[2] [1]において、無機凝集剤添加後、高分子凝集剤を添加して凝集処理を行うことを特徴とする排水の処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、化学工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、印刷工場、自動車工場などから排出される排水、し尿処理場、下水処理場からの生物処理水の凝集沈殿、加圧浮上処理において、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子と無機凝集剤を用いて処理するに当たり、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加に先立ち、排水のpHを9以上のアルカリ性とすることにより、以下の作用機構で、処理水の清澄性の向上及びCODの低減を図り、高水質の処理水を安定に得ることができる。
【0018】
即ち、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子は、酸性から中性pHでは溶解性が低く析出状態になるため、その析出状態となるpHの排水に添加しても濁質成分や溶解性有機物成分への作用は小さい。しかし、排水を予めpH9以上のアルカリ性にしておくことで、その中に添加されたフェノール性水酸基を有する水溶性高分子は溶解状態のまま濁質や溶解性有機物と反応し、その後、pHを中性から酸性にすることにより濁質や溶解性有機物を捕捉して析出するため、濁度低減効果、COD低減効果が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】分子量の異なるポリビニルフェノールの0.2重量%水溶液のpHと濁度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の排水の処理方法は、排水に、特定のフェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理を行う排水の処理方法において、該フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加に先立ち、該排水のpHを9以上に調整し、その後、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加することを特徴とする。
【0022】
本発明における具体的な処理手順には特に制限はないが、pH9以上に調整した排水に、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加混合した後、無機凝集剤を添加して撹拌し、必要に応じて酸性物質を添加してpHを中性から酸性に調整し、また必要に応じて高分子凝集剤を添加することにより、凝集フロックを形成させる方法が挙げられる。
無機凝集剤の添加と酸性物質の添加は逆にして、酸性物質添加後に無機凝集剤を添加し、その後高分子凝集剤を添加してもよい。
【0023】
1)対象となる排水
本発明で処理対象とする排水としては、例えば化学工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場、印刷工場、自動車工場などの一般工場から排出される排水、及びし尿処理場、下水処理場からの生物処理水などが挙げられるが、何らこれらに制限されるものではない。
【0024】
2)排水のpH調整
本発明においては、このような排水にフェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加するに先立ち、排水をpH9以上、好ましくはpH10以上にpH調整する。この排水の調整pH値が9未満では、本発明による処理水の清澄性の向上及びCODの低減効果を十分に得ることができない。
これは、以下の理由による。
【0025】
即ち、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子は、その分子量、当該水溶性高分子中の置換基や疎水性の共重合モノマーの種類や比率によっても変わるが、通常pH9以上で水溶性となる。一例として、図1に分子量の異なるポリビニルフェノールの0.2重量%水溶液のpHと濁度との関係を示すが、分子量が異なるものでもいずれもpH9以上では水溶性となっている(濁度が小さくなる。)。フェノール性水酸基を有する水溶性高分子による効果を十分に得るためには、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を排水に添加直後の最初の段階として、排水中でもこの水溶性高分子が水溶性の状態を保つことが重要である。本発明では、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を排水中に溶解した状態で存在させ、排水中の濁質や溶解性有機物と確実に反応を起こさせ、次の段階でpHを中性以下の条件にして無機凝集剤による凝集反応を起こさせるプロセスを経ることで、処理水の清澄性の向上及びCODの低減効果を得る。
【0026】
従って、被処理排水には、適宜アルカリ物質を添加してpH調整を行う。排水のpHを9以上のアルカリ性にするためのアルカリ性物質としては、各種アルカリ金属又はアルカリ土類金属等の水酸化物やアンモニア、各種アミン類が挙げられ、特に限定はない。一般的な水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を用いるのが簡便である。
ただし、排水のpH調整を過度に高くしても、それに見合う効果の向上は認められず、徒にアルカリ物質コストが嵩む上に、その後のpH調整における酸性物質添加量が増え、また、作業の安全性の面でも好ましくない。このため、排水の調整pH値は12以下程度とすることが好ましい。
【0027】
3)フェノール性水酸基を有する水溶性高分子
本発明で用いるフェノール性水酸基を有する水溶性高分子は、以下の(i)〜(iv)の物質である。これらのフェノール性水酸基を有する水溶性高分子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(i) ビニルフェノールの単独重合体
(ii) 変性ビニルフェノールの単独重合体
(iii) ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体
(iv) フェノールとホルムアルデヒドとの付加縮合体
【0028】
上記(ii)の変性ビニルフェノールの単独重合体の変性ビニルフェノールの例としては、アルキル基やアリル基等で置換されたビニルフェノール、ハロゲン化ビニルフェノール等、フェニル基が何らかの化合物で修飾されたビニルフェノール類が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
上記(iii) ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体の疎水性ビニルモノマーの例としては、例えばスチレン、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、酢酸ビニル等の水不溶性又は水難溶性のビニルモノマーが挙げられる。このような疎水性ビニルモノマーと、ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールとの共重合体中のビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールの割合は、モル比で0.5以上、特に0.7以上であることが好ましい。この割合が0.5未満であると、このビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体をアルカリ水溶液にした場合に不溶性となり、好ましくない。
【0029】
フェノール性水酸基を有する水溶性高分子は、その重量平均分子量が3000以上、例えば5000〜100000であることが好ましく、このような分子量の重合体は、通常、粉末で提供される。
【0030】
このようなフェノール性水酸基を有する水溶性高分子は水には不溶ないし難溶であるが、アルカリ水溶液には溶解する。このフェノール性水酸基を有する水溶性高分子が溶解するpHは、前述の如く、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の置換基や疎水性の共重合モノマーの種類や比率によって変わるが、通常pH9以上にて水溶液となる。これは、フェノール性水酸基がアルカリ性で解離するためである。本発明において、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子はこのようなアルカリ水溶液の形態で排水に添加することが好ましい。
【0031】
水溶液をアルカリ性にするアルカリ性物質としては、各種アルカリ金属又はアルカリ土類金属等の水酸化物やアンモニア、各種アミン類が挙げられ、特に限定はないが、通常一般的な水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが用いられる。
【0032】
フェノール性水酸基を有する水溶性高分子のアルカリ水溶液の調製には、例えば、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子粉末を水に懸濁させ、この中にアルカリ性物質を添加して、褐色ないし黒褐色の水溶液とする。従って、アルカリ性物質の添加量はフェノール性水酸基を有する水溶性高分子粉末が溶解する量であれば良く、一般にはフェノール性水酸基と等モル以上のアルカリ性物質を添加する。
【0033】
このアルカリ水溶液中の前記フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の濃度は任意であるが、一般に取り扱い性を考慮して5〜50重量%の範囲で調製される。
【0034】
フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加する排水のpHは、前述のように9以上であり、添加したフェノール性水酸基を有する水溶性高分子が排水中で溶解状態を保てるpH以上である。フェノール性水酸基を有する水溶性高分子は、凝集撹拌槽にて排水に添加してもよく、排水が流れる配管に注入してもよく、必要なpH条件で、排水とフェノール性水酸基を有する水溶性高分子とが十分混合されればよい。
【0035】
フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加量は、少な過ぎるとフェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加したことによる本発明の効果を十分に得ることができず、多過ぎても効果は変わらないが経済的でないことから、用いるフェノール性水酸基を有する水溶性高分子の種類や処理対象排水の水質やその後に添加する無機凝集剤の添加量によっても異なるが、通常、排水に対して有効成分量で5〜500mg/L、特に10〜100mg/Lとすることが好ましい。
【0036】
4)無機凝集剤
本発明で用いる無機凝集剤の種類は特に限定はない。例えば、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ塩化アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄など、必要に応じて任意に選定できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機凝集剤の添加量も特に限定はなく、排水の性状や以下の有機凝結剤の併用の有無などに応じて変わるが、通常の市販製品で有効成分量として概ね5〜1000mg/Lである。
【0037】
なお、無機凝集剤と共に一般に使われている有機凝結剤も併用することができ、その場合、用いる有機凝結剤の種類には特に限定はない。例えば、ポリエチレンイミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、エチレンジアミンエピクロルヒドリ重縮合物、ポリアルキレンポリアミンなど、通常水処理で使用されるカチオン性有機系ポリマーが挙げられる。有機凝結剤の添加量も特に限定はなく、排水の性状に応じて変わるが、概ね有効成分量として1〜100mg/Lである。
【0038】
5)pH調整用の酸性物質
フェノール性水酸基を有する水溶性高分子添加後、無機凝集剤の添加だけでpHが中性以下になる場合もあるが、必要に応じて酸性物質を添加して、pH中性に調整することが好ましい。この場合、酸性物質としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸など一般的な酸を用いることができる。
なお、この酸性物質を添加して調整するpH値は、用いる無機凝集剤による処理に最適なpHとされ、例えば塩化第二鉄であればpH4〜7、ポリ塩化アルミニウムおよび硫酸アルミニウムであればpH5〜7となるように適宜pH調整される。
【0039】
6)高分子凝集剤
無機凝集剤添加後、必要に応じて酸性物質を添加した後、或いは必要に応じて酸性物質を添加した後、無機凝集剤を添加した後、高分子凝集剤を添加してもよい。この場合、用いる高分子凝集剤の種類には特に限定はなく、水処理で通常使用されるアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの高分子凝集剤をいずれも用いることができる。
【0040】
高分子凝集剤としては、例えば、アニオン系であれば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドの共重合物、及びそれらのアルカリ金属塩等、ノニオン系であれば、ポリ(メタ)アクリルアミド等、カチオン系であれば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはその4級アンモニウム塩やジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドもしくはその4級アンモニウム塩等のカチオン性モノマーからなるホモポリマー、あるいはこれらカチオン性モノマーと共重合可能なノニオン性モノマーとの共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
高分子凝集剤の添加量としては特に限定はなく、被処理排水の性状に応じて変わるが、概ね有効成分添加量として0.5〜100mg/Lである。
【0042】
7)凝集処理
無機凝集剤添加後、或いは、高分子凝集剤添加後の凝集処理には特に制限はなく、一般的な凝集沈殿、凝集加圧浮上などを採用することができる。
【0043】
8)他薬剤との併用、他処理方法との併用
本発明においては、更に、必要に応じて、殺菌剤、消臭剤、消泡剤、防食剤などの他の薬剤を任意に併用して処理を行うことができる。また、必要に応じて、紫外線照射、オゾン処理、膜処理、生物処理などを併用することもできる。
【0044】
9)効果の確認
本発明における効果は、凝集処理時のフロック形成時間、フロック径、沈降速度を評価することにより確認することができる。また、処理水については、凝集、固液分離により得られた分離水ないしは上澄水について、濁度、色度、TOCやCODを測定することにより確認することができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
以下の実施例及び比較例において試験水としては、以下の水質の排水Aと排水Bを用いた。
【0046】
<排水A:紙パルプ工場総合排水>
・pH=6.7
・SS濃度=2630(mg/L)
・濁度=960(NTU)
・CODMn=55(mg/L)
<排水B:自動車工場塗装排水>
・pH=5.6
・SS濃度=137(mg/L)
・濁度=280(NTU)
・CODMn=820(mg/L)
【0047】
また、アニオン性高分子凝集剤としては以下のものを用いた。
<アニオン性高分子凝集剤>
30℃、1N−NaCl中での固有粘度が21(dL/g)の、アクリル酸ソーダ/アクリルアミド共重合体(アクリル酸ソーダ:アクリルアミド=20:80(モル比))を、0.1重量%水溶液として用いた。
【0048】
また、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の分子量の測定方法は以下の通りである。
<フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の分子量測定>
フェノール性水酸基を有する水溶性高分子のアルカリ水溶液を0.1重量%程度に希釈し、塩酸をゆっくり滴下してpHを5に下げた懸濁液を調製した。次に、この懸濁液を透析チューブに入れて密閉し、連続で純水を通水できるようにしたバットにそのチューブを入れ、24時間透析を行った。その後、透析チューブから取り出した懸濁液をガラスフィルターで濾過し、回収したポリマーを純水にて洗浄後、真空乾燥機にて48時間室温で乾燥させ、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の粉末を得た。
次に、粉末化したポリマーをテトラヒドロフラン溶液とし、東ソー製カラムHLC8022を用い、テトラヒドロフランを溶媒としてSEC(サイズエクスクルージョンクロマトグラフィー)測定を行った。分子量は、標準ポリスチレン換算により求めた。
【0049】
フェノール性水酸基を有する水溶性高分子としては、以下のP−1とP−2を用いた。
P−1:上記SEC測定で求めた重量平均分子量が9200のポリビニルフェノール
P−2:上記SEC測定で求めた重量平均分子量が7500のノボラック型フェノール樹脂
【0050】
[実施例1]
排水Aを500mL入れた500mLビーカーを3個用意し、ジャーテスターに設置した。150rpmにて撹拌しながら、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に調整した。次に、上記P−1(重量平均分子量が9200のポリビニルフェノール)の10重量%アルカリ水溶液を0.1mL、0.25mL、0.5mL(ポリビニルフェノール添加濃度でそれぞれ20、50、100mg/L)添加し、150rpmで1分撹拌した。その後、18重量%硫酸アルミニウム水溶液を150mg/L添加し、5重量%硫酸にてpHを6.6まで下げ、150rpmで1分撹拌した。その後、0.1重量%のアニオン性高分子凝集剤水溶液を1mL(添加濃度2mg/L)添加し、150rpmで1分、50rpmで3分撹拌した。その後、3分間静置した後、上澄液を採取し、HACH製濁度計にて濁度測定、及びCODMn測定を行った。
【0051】
[実施例2]
排水Bを500mL入れた500mLビーカーを3個用意し、ジャーテスターに設置した。150rpmにて撹拌しながら、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを9.5に調整した。次に、P−2(重量平均分子量7500のノボラック型フェノール樹脂)の10重量%アルカリ水溶液を0.05mL、0.1mL、0.25mL(フェノール樹脂添加濃度でそれぞれ10、20、50mg/L)添加し、150rpmで1分撹拌した。その後、18重量%硫酸アルミニウム水溶液を300mg/L添加し、5重量%硫酸にてpHを6.6まで下げ、150rpmで1分撹拌した。その後、0.1重量%のアニオン性高分子凝集剤水溶液を0.5mL(添加濃度1mg/L)添加し、150rpmで1分、50rpmで3分撹拌した。その後、3分間静置した後、上澄液を採取し、HACH製濁度計にて濁度測定、及びCODMn測定を行った。
【0052】
[実施例3]
P−1の代りにP−2を用いた以外は、実施例1と同じ操作にて試験を行った。
【0053】
[比較例1]
排水AをpH調整せずにそのままとし、またP−1も用いず、18重量%硫酸アルミニウム水溶液を150mg/L添加した後5重量%水酸化ナトリウム水溶液にてpHを6.6にし、以降は実施例1と同様にアニオン性高分子凝集剤水溶液の添加、撹拌を行った以外は、実施例1と同じ操作にて試験を行った。
【0054】
[比較例2]
P−1添加前の排水AをpH調整せずにそのままとした以外は、実施例1と同じ操作にて試験を行った。
【0055】
[比較例3]
P−2を用いなかった以外は、実施例2と同じ操作にて試験を行った。
【0056】
実施例1〜3、及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1より、本発明によれば、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加に先立ち、排水のpHをpH9以上のアルカリ性とすることにより、処理水の清澄性の向上及びCODの低減が可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水に、以下の(i)〜(iv)のフェノール性水酸基を有する水溶性高分子の1種又は2種以上を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理を行う排水の処理方法において、該フェノール性水酸基を有する水溶性高分子の添加に先立ち、該排水のpHを9以上に調整し、その後、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加することを特徴とする排水の処理方法。
(i) ビニルフェノールの単独重合体
(ii) 変性ビニルフェノールの単独重合体
(iii) ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体
(iv) フェノールとホルムアルデヒドとの付加縮合体
【請求項2】
請求項1において、無機凝集剤添加後、高分子凝集剤を添加して凝集処理を行うことを特徴とする排水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−210613(P2012−210613A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78706(P2011−78706)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】