説明

掘削ビット

【課題】 掻き出し羽根12を備えたリトラクビットタイプの掘削ビットにおいて、ズリの効率的な排出を促しつつ、この掻き出し羽根12への負荷を軽減して損傷を防ぐ。
【解決手段】 掘削ロッドの先端に取り付けられて軸線O回りに回転されるビット本体11の先端側に掘削部15が設けられ、掘削時にはビット本体11の回転・前進に伴い掘削部15によって削孔を形成するとともに、掘削終了後はビット本体11の回転・後退によって削孔から引き抜かれる掘削ビットであって、ビット本体11の後端側に、ビット本体11の削孔からの引き抜き時の回転方向T側を向く前壁面12Aと、この回転方向Tの後方側を向く後壁面12Bとを備えた掻き出し羽根12を設け、この掻き出し羽根12の前壁面12Aを、外周側に向かうに従い引き抜き時の回転方向Tの後方側に後退するように傾斜させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、掘削ロッドの先端に取り付けられて地盤等への削孔の形成に使用される掘削ビットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の掘削ビットとしては、略有底円筒状のビット本体の内周に設けられた雌ねじ部によって掘削ロッド先端に締結されるとともに、このビット本体の先端側に向けられる底部にはチップが植設されるなどして掘削部が設けられ、その中心軸線回りに掘削ロッドとともに回転されつつ前進させられることにより、上記掘削部によって地盤等に削孔を形成するものが一般的によく知られている。そして、このような掘削ビットでは、所定の深さまで削孔が形成された後は、やはり掘削ロッドごとビット本体を後退させることにより、掘削ロッドおよび掘削ビットを削孔から引き抜くことになるが、ここで削孔を形成した地盤が崩落性の高いものであると、掘削時に掘削ビットが前進するうちに上記掘削部によって形成された削孔内に崩落した地盤のズリが堆積し、掘削終了後にやはり軸線回りに回転させつつ掘削ロッドを後退させて削孔から掘削ビットを引き抜こうとしても、この堆積したズリにビット本体が引っかかって抜き出すことができなくなるおそれがある。
【0003】そこで、このような場合には、例えば図5ないし図7に示すように、ビット本体1の後端面1Aに上記ズリを掻き出すための掻き出し羽根2が設けられた、いわゆるリトラクビットと称される掘削ビットが用いられる。すなわち、これらの図に示すリトラクビットでは、軸線Oを中心とする略有底円筒状の上記ビット本体1の内周部に上述した雌ねじ部3が形成されるとともに、先端側に向けられる底部には超硬合金等の硬質材料よりなる複数のチップ4…が植設されて掘削部5が形成される一方、このビット本体1の上記後端面1Aには、上記内周部の後端側開口部周辺に、複数の上記掻き出し羽根2…が周方向に等間隔に形成されている。これらの掻き出し羽根2…は、ビット本体1の後端面1Aが側面視に「レ」字状に切り欠かれることにより形成されたものであって、引き抜き時のビット本体1の回転方向T側を向く前壁面2Aと、この回転方向Tの後方側を向く後壁面2Bとを備え、削孔からの引き抜き時にはビット本体1を上記回転方向Tに回転させながら後退させるのに伴い、上記前壁面2Aによってズリを掻き出すようにして排出することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来このようなリトラクビットにおいては、図7に示されるように、掻き出し羽根2の上記前壁面2Aがビット本体1の軸線Oを含んだ平面P上に位置するように形成されており、従ってビット本体1の回転に伴いこの前壁面2Aがズリを掻き出す際には、堆積したズリに前壁面2Aが上記径方向の全体にわたって一度に食いつき、この食いついたズリをそのまま上記前壁面2Aによって上記回転方向Tに押し出しつつ、該前壁面2Aに沿ってビット本体1の先端側、すなわち上記「レ」字状の切り欠きの底部側に押し込んで排出するような状態となる。このため、上記切り欠き内でのズリの詰まりが多くて効率的な排出が阻害されるおそれがあるとともに、上記切り欠きの底部に押し込まれたズリの負荷によって、この底部から、すなわちビット本体1の周方向に隣接する掻き出し羽根2,2のうち回転方向T側の掻き出し羽根2の後壁面2Bと回転方向T後方側の掻き出し羽根2の前壁面2Aとが交差する谷部から、ビット本体1にクラックが発生してしまうおそれもあった。
【0005】本発明は、このような背景の下になされたもので、掻き出し羽根を備えた上述のようなリトラクビットタイプの掘削ビットにおいて、ズリの効率的な排出を促しつつ、この掻き出し羽根への負荷を軽減して損傷を防ぐことが可能な掘削ビットを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、掘削ロッドの先端に取り付けられて軸線回りに回転されるビット本体の先端側に掘削部が設けられ、掘削時には上記ビット本体の回転・前進に伴い上記掘削部によって削孔を形成するとともに、掘削終了後は上記ビット本体の回転・後退によって上記削孔から引き抜かれる掘削ビットであって、上記ビット本体の後端側に、上記ビット本体の削孔からの引き抜き時の回転方向側を向く前壁面と、この回転方向の後方側を向く後壁面とを備えた掻き出し羽根を設け、この掻き出し羽根の上記前壁面を、外周側に向かうに従い上記引き抜き時の回転方向の後方側に後退するように傾斜させたことを特徴とする。従って、このように構成された掘削ビットでは、ビット本体が上記回転方向に回転しながら後退することにより、掻き出し羽根の前壁面はその内周側から徐々にズリに食いついてこれを外周側に押し出すように排出することとなり、このため効率的なズリの排出を行うことができるとともに、ズリが前壁面前方の切り欠きの底部に押し込まれることが少なく、この部分に大きな負荷が作用するのを避けることができる。
【0007】ここで、このように外周側に向かうに従い回転方向後方に傾斜した上記前壁面が、上記軸線を含んで該前壁面の内周側縁部を通る平面に対してなす傾斜角は、10〜35°の範囲とされるのが望ましい。これは、この傾斜角が10°を下回るほど小さいと、前壁面の傾斜が軸線からの径方向に近くなりすぎて上述の作用効果が十分に発揮されなくなるおそれがあり、逆にこの傾斜角が35°を上回るほど大きいと、この前壁面と掻き出し羽根のビット本体内周側を向く面との交差角度が小さくなり、この交差部分の強度が損なわれて欠けなどが生じるおそれがあるからである。また、上記掻き出し羽根の後壁面を、外周側に向かうに従い上記ビット本体の先端側に向けて傾斜させれば、この後壁面と、その回転方向後方に隣接する掻き出し羽根の前壁面との谷部も外周側に向けて先端側に傾斜させることができ、この谷部でのクラックの発生や上述した切り欠き内でのズリの詰まりを一層確実に防止することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】図1ないし図4は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態においても、そのビット本体11は軸線Oを中心とした外形略有底円筒状をなし、このビット本体11の後端面11Aに掻き出し羽根12が形成されている。また、このビット本体11の内周部には、図示されない掘削ロッドの先端外周部に形成された雄ねじ部に螺合する雌ねじ部13が形成されるとともに、これにより掘削ロッド先端に取り付けられた状態で先端側(図1において右側)を向く上記有底円筒の底部には、やはり超硬合金等の硬質材料よりなる複数のボタン状のチップ14…が植設され、掘削部15が形成されている。なお、このビット本体11の外周面は、先端側で一段くびれるように形成されていて、このくびれ部11Cよりも先端側の外周面は先端側に向かうに従い漸次拡径するように形成され、またビット本体11の先端面11Bは、その内周側が軸線Oを中心とした円形とされるとともに、外周側は後端側に向かう傾斜面(円錐状面)とされて上記拡径する外周面に交差するようにされていて、上記チップはこの先端面11Bの内外周にそれぞれ複数ずつ配設されている。
【0009】さらに、このビット本体11の上記くびれ部11Cよりも先端側の外周面には、幅広で深い断面円弧状をなす複数の凹溝16Aと、幅狭で浅く断面V字状をなす複数の凹溝16Bとが、本実施形態では互いに同数(本実施形態では3つ)ずつ周方向に等間隔に交互にならぶように、かつそれぞれが軸線Oに平行に延びるように形成されており、上記先端面11Bの外周側に配設されるチップ14…は、周方向に隣接するこれらの凹溝16A…,16B…同士の間に一つずつ、その半球状の突端が、この先端面11Bの外周側がなす上記傾斜面に垂直に突き出すように傾斜して植設されている。一方、先端面11B内周側の軸線Oを中心とする円形面には、3つのチップ14…がそれぞれ軸線Oに平行に植設されて、先端側からみて軸線Oから偏心した中心点の周りに三角形状に配設されている。また、雌ねじ部13が形成されたビット本体11内周部の底面からは、この円形面の一対のチップ14,14の間と、2つの上記凹溝16B,16Bの溝底とにかけて、上記掘削ロッドの内部を通して先端側に供給される圧縮空気を噴出するためのブローホール17がそれぞれ形成されている。
【0010】さらに、上記くびれ部11Cから後端側のビット本体11外周面には、それぞれやはり軸線Oに平行に延びる互いに同形同大の4条の凹溝16C…が周方向に等間隔をあけて形成されている。この凹溝16Cは、上記凹溝16Aよりも幅広で、かつ凹溝16Bと同程度の溝深さとされ、当該掘削ビットの引き抜き時のビット本体11の回転方向(図3において反時計回り方向)Tの後方側に向かうに従い内周側に向かって凹む略平面状の底面と、この底面の回転方向T後方側から断面円弧状をなして外周側に立ち上がる壁面とによって画成されている。そして、上記掻き出し羽根12…は、ビット本体11の後端面11Aにおいて、周方向に隣接するこれらの凹溝16C…同士の間に一つずつ形成され、従って本実施形態では4つの掻き出し羽根12…が周方向に等間隔に形成されることとなる。
【0011】これらの掻き出し羽根12…は、やはりビット本体11の後端面11Aに側面視「レ」字状をなす切り欠きが周方向に等間隔に上記凹溝17…の位置に形成されることによって画成されたものであり、互いに同形同大とされ、それぞれ軸線Oに平行に延びて上記回転方向T側を向く前壁面12Aと、回転方向Tの後方側を向いてこの回転方向T後方側に向かうに従いビット本体11の先端側に一定角度で傾斜する後壁面12Bとを備えており、またこれら前後壁面12A,12Bが交差する掻き出し羽根12最後端部分には、軸線Oに垂直な平坦面12Cがビット本体11の内周側から外周側に延びるように形成されている。さらに、上記後壁面12Bは、内周側から外周側に向かうに従いビット本体11の先端側に向かうようにも傾斜させられており、また周方向に隣接する掻き出し羽根12のうち、回転方向T側の掻き出し羽根12の後壁面12Bと回転方向T後方側の掻き出し羽根12の前壁面との交差する谷部、すなわち上記「レ」字状の切り欠きの底部は、断面凹円弧状をなして滑らかに連なるように、かつやはり内周側から外周側に向かうに従いビット本体11の先端側に向かうようにも傾斜させられている。
【0012】そして、この掻き出し羽根12の上記前壁面12Aは、図3に示すようにビット本体11の内周側から外周側に向かうに従い上記回転方向Tの後方側に向かうように傾斜させられており、軸線Oを含んでこの前壁面12Aの内周側縁部を通る平面Pに対して該前壁面12Aがなす交差角θは、本実施形態では10〜35°の範囲とされている。言い換えれば、各掻き出し羽根12の前壁面12Aは、該前壁面12Aに平行で軸線Oを含む平面Qに対しては、その回転方向T側に隣接して配置されることとなる。
【0013】従って、このように構成されたリトラクビットタイプの掘削ビットにおいては、掘削終了後にビット本体11を軸線O回りに回転方向Tに回転しつつ上記掘削ロッドごと後端側に後退させると、削孔内に崩落したズリがビット本体11後端の上記掻き出し羽根12…によって掻き出され、これにより、かかるズリに阻まれることなくビット本体11を削孔から引き抜くことができる。そして、この掻き出し羽根12の前壁面12Aが外周側に向かうに従い回転方向Tの後方側に向かうように傾斜しているので、この前壁面12Aはその内周側から徐々にズリに食いついてゆくこととなり、掻き出し羽根12に作用する負荷を低減することができるとともに、こうして掻き出されたズリは、ビット本体11の後退に伴いその先端側に押し出されるうちに、この前壁面12Aに案内されるようにして外周側へと送り出されてゆくため、効率的なズリの排出を図ることができる。
【0014】さらに、こうしてズリが外周側に送り出されて排出されることにより、このズリが、当該前壁面12Aとその回転方向T側に隣接する掻き出し羽根12の後壁面12Bとの交差する谷部、すなわち上記切り欠きの底部にまで至ることが少なく、この谷部への負荷をも低減することができて、該谷部からビット本体11にクラックが生じたりするのも防止することができる。しかも、本実施形態では、上記後壁面12Bが外周側に向けてもビット本体11の先端側に傾斜しているため、この谷部も同じく内周側から外周側に向かうに従い先端側に傾斜させられることとなり、従ってこの谷部にズリが押し込まれても円滑に外周側に排出して上記切り欠きへのズリの詰まりを防止することができ、一層効率的なズリの排出とより確実な損傷の防止とを図ることができる。さらにまた、こうして上記谷部が傾斜させられることにより、この谷部とビット本体11の外周面との交差角を鈍角とすることができるので、この谷部における強度を確保してクラック等をさらに一層確実に防止することもできる。
【0015】なお、上記前壁面12Aがなす傾斜角θは、これが小さすぎると該前壁面12Aがこれに平行で軸線Oを含む平面Qに近づきすぎ、すなわち上述した従来の掘削ビットに近くなって、上述したズリの排出効率の向上やビット本体11の損傷防止といった効果が十分に得られなくなるおそれが生じる。その一方で、逆に上記傾斜角θが大きすぎると、この前壁面12Aの内周側の縁部周辺において、当該前壁面12Aとビット本体11の内周面との交差角が小さくなり、この部分の強度が損なわれて却って欠け等の損傷が生じやすくなるおそれがある。このため、上記傾斜角θは、本実施形態のように10〜35°の範囲に設定されるのが望ましい。
【0016】また、本実施形態ではこの前壁面12Aがビット本体11の軸線Oに平行に形成されているが、例えばビット本体11の先端側に向かうに従い回転方向T側に傾斜する傾斜面としたり、これとは逆に先端側に向かうに従い回転方向Tの後方側に傾斜する傾斜面としたりしてもよい。ただし、後者の場合、前壁面12Aの回転方向Tへの傾斜は後壁面12Bの傾斜よりも緩やかであるのが望ましい。また、この前壁面12Aや上記後壁面12Bを曲面状に形成したり、複数段に曲折する多段面状に形成したりしてもよい。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、掻き出し羽根の前壁面を外周側に向けて引き抜き時の回転方向後方側に傾斜させることにより、削孔内に崩落したズリをこの引き抜き時に効率的に排出しながらビット本体を後退させることができるとともに、このズリによる負荷によってビット本体にクラック等の損傷が生じたりするのも未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態を示す側面図である。
【図2】 図1に示す実施形態の先端面11Bを示す正面図である。
【図3】 図1に示す実施形態の後端面11Aを示す背面図である。
【図4】 図1における矢線Z方向視の部分側面図である。
【図5】 従来のリトラクビットタイプの掘削ビットを示す側面図である。
【図6】 図5に示す従来例の正面図である。
【図7】 図5に示す従来例の背面図である。
【符号の説明】
11 ビット本体
11A ビット本体11の後端面
12 掻き出し羽根
12A 掻き出し羽根12の前壁面
12B 掻き出し羽根12の後壁面
15 掘削部
O ビット本体11の中心軸線
T 引き抜き時のビット本体11の回転方向
P 軸線Oを含んで前壁面12Aの内周側縁部を通る平面
θ 前壁面12Aが平面Pに対してなす傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】 掘削ロッドの先端に取り付けられて軸線回りに回転されるビット本体の先端側に掘削部が設けられ、掘削時には上記ビット本体の回転・前進に伴い上記掘削部によって削孔を形成するとともに、掘削終了後は上記ビット本体の回転・後退によって上記削孔から引き抜かれる掘削ビットであって、上記ビット本体の後端側には、上記ビット本体の削孔からの引き抜き時の回転方向側を向く前壁面と、この回転方向の後方側を向く後壁面とを備えた掻き出し羽根が設けられ、この掻き出し羽根の上記前壁面が、外周側に向かうに従い上記引き抜き時の回転方向の後方側に後退するように傾斜させられていることを特徴とする掘削ビット。
【請求項2】 上記前壁面が、上記軸線を含んで該前壁面の内周側縁部を通る平面に対してなす傾斜角が10〜35°の範囲とされていることを特徴とする請求項1に記載の掘削ビット。
【請求項3】 上記掻き出し羽根の後壁面が、外周側に向かうに従い上記ビット本体の先端側に向けて傾斜させられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の掘削ビット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2002−250192(P2002−250192A)
【公開日】平成14年9月6日(2002.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−50416(P2001−50416)
【出願日】平成13年2月26日(2001.2.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】