説明

接着剤組成物、複合体及び自動車用部材

【課題】繊維基材に対して優れた接着性を示し、繊維基材とゴム部材との接着に優れた効果を発揮する、ニトリル基含有不飽和共重合体ゴムラテックスを含有してなる接着剤組成物及びこれを使用して得られる、油中ベルト等の自動車用部材を提供する。
【解決手段】乳化重合で得られたニトリルゴムのラテックスを水素化処理に付することによって得られた、ニトリル単量体単位含有量が10〜55重量%であり、ヨウ素価が12以下である高飽和ニトリルゴムラテックスを含有して成る接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のヨウ素価を有する高飽和ニトリルゴムのラテックスを含有してなる接着剤組成物、これを用いて繊維基材を他の物質と接着してなる複合体及びこの複合体からなる自動車用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイミングベルト、ポリリブドベルト、ラッブドベルト、Vベルト等は、織布状の基布とゴムとの複合体(ゴム−繊維複合体)で構成されている。ゴムとしては、従来、主に耐油性ゴムであるクロロプレンゴム(CR)やアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)が用いられてきたが、近年、自動車の排ガス規制対策、自動車の軽量化のためのエンジンルームの小型化、及び騒音対策のためのエンジンルームの密閉化等に対応して、耐熱性が要求されるようになった。このため、最近では耐熱性と耐油性とを兼ね備えたニトリル基含有高飽和共重合体ゴムが賞用されるようになっている。
【0003】
上記ゴム−繊維複合体において、歯車との噛み合いによる摩耗を軽減するために、また、基材の織布とゴム部材との接着力を高めるために、ゴムを有機溶剤に溶解させた溶剤系ゴム糊を織布に塗布して加熱する処理が施されてきた。
最近では、有機溶剤による環境汚染を防止する観点等から水系ゴム糊での処理技術の検討が進められている。
例えば、特許文献1には、高飽和ニトリルゴムラテックスとレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂とを含む接着剤組成物が開示されている。しかしながら、この接着性ゴム組成物で処理した繊維は、耐摩耗性が必ずしも十分ではなかった。
【0004】
ゴム−繊維複合体の諸特性を改良するために、検討されている1つの手法は、接着剤組成物を構成する樹脂の種類の検討及び/又は接着剤組成物への特定の添加剤の配合である。
このうち、樹脂の種類を検討したものとしては、芳香族系エポキシ樹脂(C)(特許文献2)や、メラミン樹脂、エポキシ樹脂及びイソシアネート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(特許文献3)がある。
また、添加剤を検討したものとしては、トリアジンチオール(特許文献4)や、周期律表第II族金属の化合物(特許文献5)がある。
【0005】
一方、ゴム−繊維複合体の諸特性を改良するために、接着剤組成物に用いるラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムの組成や製法についても検討が行なわれている。
高飽和ニトリルゴムラテックスは、溶液重合で得られたニトリル基含有不飽和共重合体ゴムの有機溶媒溶液を転相することによって得ることができるが、この方法によるものは、ベルト成形品の初期接着力、熱老化後の接着力及びベルト耐熱走行試験後の強度保持率についてはやや満足するレベルにあるものの、ベルト成形品の耐水接着力及びベルト注水試験後の強度保持率が充分ではない。
特許文献6では、転相法によってラテックスを得るのではなく、直接乳化重合法によって得られたニトリル基含有不飽和共重合体ゴムラテックスを水素化して得たニトリル基含有高飽和共重合体ゴムラテックスとレゾルシン−ホルマリン樹脂とを含む接着剤組成物が検討された。
次いで、特定のモノ脂肪酸アルカリ金属塩を乳化剤とする乳化重合が検討され(特許文献7)、更に、アミノ基及び/又はイミノ基を有する不飽和化合物単量体の共重合が検討された(特許文献8)。
また、特許文献9には、メチルエチルケトン不溶解分が75〜90重量%である自己架橋性カルボキシル基含有不飽和ニトリルゴムラテックスにレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂を配合してなる接着剤が開示されている。
しかしながら、これらの精力的な検討にも拘らず、また、要求特性水準の上昇により、耐熱性を始めとする諸特性を十分に満足させるものが得られているとはいえない。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−248879号公報
【特許文献2】特開平8−333564号公報
【特許文献3】特開2004−256713号公報
【特許文献4】特開平10−25665号公報
【特許文献5】特開平6−286015号公報
【特許文献6】特開平3−167239号公報
【特許文献7】特開平6−212572号公報
【特許文献8】特開2004−292637号公報
【特許文献9】特開平11−140404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、ガラス繊維や基布等の繊維基材に対して優れた接着性を示し、これらの繊維基材とゴム部材との接着に優れた効果を発揮する、高飽和ニトリルゴムラテックスを含有してなる接着剤組成物及びこれを使用して得られる、油中ベルト等の自動車用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、ラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムについて、鋭意検討を重ねた結果、特定の製法によって得られた特定範囲のヨウ素価を有する高飽和ニトリルゴムラテックスを用いることにより、上記諸特性が向上することを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば、乳化重合で得られたニトリルゴムのラテックスを水素化処理に付することによって得られた、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が10〜55重量%であり、ヨウ素価が12以下である高飽和ニトリルゴムラテックスを含有して成る接着剤組成物が提供される。
本発明の接着剤組成物において、高飽和ニトリルゴムラテックスがカルボキシ基含有高飽和ニトリルゴムラテックスであることが好ましい。
本発明の接着剤組成物は、更に、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂を含有して成るものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、繊維基材と繊維基材とを本発明の接着剤組成物で接着してなる繊維基材−繊維基材複合体が提供される。
また、本発明によれば、繊維基材と高飽和ニトリルゴムとを本発明の接着剤組成物で接着してなる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体が提供される。
更に本発明によれば、上記本発明の繊維基材−繊維基材複合体と本発明の繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体とからなる繊維基材−高飽和ニトリルゴム−繊維基材複合体が提供される。
【0011】
本発明によれば、本発明の複合体からなる自動車用部材が提供される。
上記自動車用部材は、自動車用接油部材であることが好ましい。
上記本発明の自動車用部材は、好適にはベルトであり、更に好適には油中ベルトである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接着剤組成物は、繊維基材並びに高飽和ニトリルゴムとの接着力に優れているので、繊維基材と繊維基材又は高飽和ニトリルゴム被着体との接着用として好適である。本発明の接着剤組成物を用いて得られる複合体は、優れた耐熱性を有し、熱履歴後も伸びの低下が小さい。
従って、本発明の複合体は、自動車用部材として、特にベルトとして、とりわけ、油中ベルトとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の接着剤組成物は、乳化重合で得られたニトリルゴム(以下、「ニトリルゴム(a)」と略す。)のラテックスを水素化処理に付することによって得られた、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が10〜55重量%であり、ヨウ素価が12以下である高飽和ニトリルゴムラテックスを含有して成る。なお、本発明の接着剤組成物の固形分濃度は、好ましくは5〜70重量%である。
ニトリルゴム(a)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリルを必須成分単量体とする共重合体であり、共役ジエン単量体との共重合体が好ましい。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、特に限定されないが、炭素数3〜18のものが好ましく、その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等が挙げられ、なかでもアクリロニトリルが好ましい。
これらのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
ニトリルゴム(a)中のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の量は、10〜55重量%、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは30〜48重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、後述する複合体の耐油性が劣るおそれがあり、逆に多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0015】
共役ジエン単量体は特に制限されないが、その具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、ハロゲン置換ブタジエン等の脂肪族共役ジエンが挙げられ、中でも1,3−ブタジエンが好ましい。
これらの共役ジエンは一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
ニトリルゴム(a)中の共役ジエン単量体単位の量は、好ましくは20〜89.5重量%、より好ましくは30〜79重量%、特に好ましくは40〜63重量%である。
【0016】
ニトリルゴム(a)は、更に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合したものであることが好ましい。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合することにより、カルボキシ基含有ニトリルゴムを得ることができ、さらに該カルボキシ基含有ニトリルゴムを水素添加することで、カルボキシ基含有高飽和ニトリルゴムとなる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、炭素数3〜18のカルボキシル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物が好ましく、かかる化合物には、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルのほか、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が含まれる。
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等が例示される。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等が例示される。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノ−2−ヒドロキシエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等が例示される。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
ニトリルゴム(a)中のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の量は、好ましくは0.5〜25重量%、より好ましくは1〜10重量%、特に好ましくは2〜8重量%である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合することによって接着性及び耐摩耗性を向上させることができる。
【0017】
ニトリルゴム(a)は、更に、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、及び所望により用いる共役ジエン単量体及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体(以下、「その他の共単量体」という。)を更に共重合させたものであってもよい。
その他の共単量体単位の量は、好ましくは、ニトリルゴム(a)中、0〜10重量%である。
【0018】
その他の共単量体としては、非共役ジエン、芳香族ビニル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル、フルオロオレフィン、共重合性老化防止剤等が挙げられる。
非共役ジエンとしては、炭素数5〜12の非共役ジエンが好ましく、その具体例としては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン等が例示される。
【0019】
芳香族ビニルは、スチレン及び炭素数8〜18のスチレン誘導体が好ましく、その具体例としてはα−メチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルは、α,β−エチレン性不飽和モノカボン酸と炭素数1〜12の脂肪族アルコールとのエステルが好ましく、その具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル等が例示される。
フルオロオレフィンは、炭素数2〜12の不飽和フッ素化合物が好ましく、その具体例としては、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル等が例示される。
【0020】
共重合性老化防止剤の具体例としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリン等が例示される。
【0021】
また、ニトリルゴム(a)には、必要に応じて自己架橋性単量体単位を存在させてもよい。自己架橋性単量体単位を存在させることによって、耐水性を改良することができる。
自己架橋性単量体の具体例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等が例示される。
特に、本発明の複合体の耐摩耗性を改良する観点からはN−メチロール基を有するN−メチロール(メタ)アクリルアミドが好適である。
ニトリルゴム(a)中の自己架橋性単量体単位の量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の範囲である。この量が過度に多いと、本発明の複合体の屈曲性が損なわれるので好ましくない。
【0022】
ニトリルゴム(a)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、下限が好ましくは10以上、より好ましくは20以上、特に好ましくは30以上である。上限は、好ましくは150以下、より好ましくは130以下、特に好ましくは100以下である。ムーニー粘度が小さすぎると本発明の複合体の機械的特性が低下するおそれがある。
【0023】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴムは、乳化重合により上記ニトリルゴム(a)のラテックスを得た後、該ニトリルゴム(a)中の炭素−炭素二重結合を水素化することによって得られる。高飽和ニトリルゴムのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量、共役ジエン単量体単位(水素化されたものを含む)含有量、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位含有量は、上記ニトリルゴム(a)と同様である。
高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、下限が好ましくは15以上、より好ましくは25以上、特に好ましくは40以上である。上限は、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、特に好ましくは120以下である。
本発明で用いる高飽和ニトリルゴムラテックスとして、溶液重合で得られたニトリルゴムを水素化して得た高飽和ニトリルゴム(ニトリルゴムを溶液に溶解した状態で水素化できるので、ヨウ素価の低いものが得られ易い)を転相によってラテックスとしたものを使用したのでは、接着力等の不十分な繊維基材−ゴム複合体しか得られず、本発明の目的を達成することができない。
【0024】
乳化重合の方法としては、従来公知の方法を採用すればよい。
重合に使用する乳化剤は、通常、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を使用できる。なかでもアニオン性界面活性剤が好ましく、その使用量に特に制限はないが、このラテックスから得られる接着剤組成物の接着力の観点から、全単量体に対して1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部の範囲である。また、重合開始剤、分子量調整剤等も通常使用されているものでよい。
また、重合方式も特に限定されず、回分式、半回分式及び連続式のいずれでもよく、重合温度や圧力も制限されない。
【0025】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴムラテックスは、乳化重合で得られたニトリルゴム(a)のラテックスを水素化処理に付することによって得られる。該ラテックスの平均粒径は、好ましくは0.01〜0.5μmである。
水素化は、ニトリルゴム(a)のラテックス及び水素化触媒を攪拌機付きのオートクレーブに仕込み、溶存酸素を減圧や不活性ガスによるパージで除去した後、水素を加圧状態で封入して水素化反応を行なうことができる。
このとき、ニトリルゴム(a)のラテックスの固形分濃度は、凝集化を防止するため20重量%以下であることが好ましい。
【0026】
本発明において使用する高飽和ニトリルゴムラテックスは、ニトリルゴム(a)のラテックスの水素化を、通常、2段階以上に分けて実施することによって得られるものである。同一量の水素化触媒を用いても、水素化を2段階以上に分けて実施することにより、水素化効率を高めることができる。即ち、得られる水素化ニトリルゴムラテックスのヨウ素価を、より低くすることが可能となる。
また、2段階以上に分けて水素化を行なう場合、第1段階の水素添加率(水添率) (%)で、50%以上、より好ましくは70%以上の水素化を達成することが好ましい。即ち、下式で得られる数値を水素添加率(%)とするとき、この数値が50%以上となることが好ましく、70%以上となることがより好ましい。
水素添加率(水添率)(%)
=100×(水素化前の炭素−炭素二重結合量−水素化後の炭素−炭素二重結合量)/(水素化前の炭素−炭素二重結合量)なお、炭素−炭素二重結合量は、NMRを用いて分析することができる。
【0027】
水素化触媒は、白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム又は白金)を含有する水素化触媒である。水素化触媒としては、触媒活性や入手容易性の観点からパラジウム化合物及びロジウム化合物が好ましく、パラジウム化合物がより好ましい。また、2種以上の白金族元素化合物を併用してもよいが、その場合もパラジウム化合物を主たる触媒成分とすることが好ましい。
その具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ラウリン酸、コハク酸、オレイン酸、ステアリン酸、フタル酸、安息香酸等のカルボン酸のパラジウム塩;塩化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ジクロロ(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム等のパラジウム塩素化物;ヨウ化パラジウム等のヨウ素化物;硫酸パラジウム・二水和物等が挙げられる。
これらの中でもカルボン酸のパラジウム塩、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム等が特に好ましい。水素化触媒の使用量は、適宜定めればよいが、ゴム重合体重量当たり、好ましくは5〜6,000ppm、より好ましくは10〜4,000ppmである。
【0028】
水素化の際の反応温度は、0〜300℃、好ましくは20〜150℃である。また、水素圧は、0.1〜30MPa、好ましくは0.5〜20MPa、より好ましくは1〜10MPaである。
水素化の反応時間は反応温度、水素圧、目標の水素化率等を勘案して選定されるが、1〜10時間が好ましい。
【0029】
水素化反応終了後、ラテックス中の水素化触媒を除去する。その方法として、例えば、活性炭、イオン交換樹脂等の吸着剤を添加して攪拌下で水素化触媒を吸着させ、次いでラテックスをろ過又は遠心分離する方法を採ることができる。水素化触媒を除去せずにラテックス中に残存させることも可能である。
【0030】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴムにおいて、ヨウ素価は、12以下であることが必要であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
ヨウ素価が12を超えるときは、得られる接着剤組成物の耐熱性、延いては接着力が低下し、これを用いて得られる複合体、更には、自動車用部材の特性に悪影響を及ぼす。
【0031】
本発明の接着剤組成物は、上記高飽和ニトリルゴムラテックスを必須成分とするが、更に、接着剤樹脂を含有してなることが好ましい。
接着剤樹脂としては、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂及びイソシアネート樹脂を好適に使用することができるが、中でもレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。
レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂は、公知のもの(例えば、特開昭55−142635号公報に開示のもの)が使用できる。レゾルシンとホルムアルデヒドとの反応比率は、通常、1:0.5〜1:5(モル比)、好ましくは1:0.8〜1:3(モル比)である。
【0032】
レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂は、高飽和ニトリルゴムのラテックスの固形分100重量部に対して、乾燥重量基準で、好ましくは5〜30重量部、特に好ましくは8〜20重量部の割合で使用される。この使用量が過度に多い場合は、接着剤層が硬くなり過ぎて柔軟性が損なわれるために得られる複合体の耐摩耗性が低下する。
【0033】
また、接着剤組成物の接着力を高めるために、従来から使用されている2,6−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニルメチル)−4−クロロフェノール又は類似の化合物、イソシアネート、ブロックイソシアネート、エチレン尿素、ポリエポキシド、変性ポリ塩化ビニル樹脂等を併用することができる。
更に、接着剤組成物に加硫助剤を含有させることができる。これにより、この接着剤組成物を用いて得られる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体等の機械的強度を向上させることができる。
加硫助剤としては、P−キノンジオキシムなどのキノンジオキシム;ラウリルメタアクリレートやメチルメタアクリレートなどのメタアクリル酸エステル;DAF、DAP、TACもしくはTAICなどのアリル化合物;ビスマレイミド、フェニールマレイミド、N,N−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド化合物、硫黄等を挙げることができる。
【0034】
本発明の繊維基材−繊維基材複合体は、繊維基材と繊維基材とを本発明の接着剤組成物で接着してなる。
繊維基材を構成する繊維の種類は、特に限定されず、その具体例としては、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)等のポリアミド繊維、ガラス繊維、綿、レーヨン等が挙げられる。その用途に応じて、適宜選定される。例えば、繊維基材−繊維基材複合体が、自動車用歯付きベルトの芯線に使用される場合は、ポリエステル繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が好ましい。
繊維基材の形状は特に限定されず、その具体例としては、ステープル、フィラメント、コード状、ロープ状、織布(帆布等)等を挙げることができる。特に、耐摩耗性に優れたベルトを得るには、帆布等の織布状の基布を使用することが好ましい。
繊維基材−繊維基材複合体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法を示すことができる。
即ち、複合化すべき繊維基材を、撚り線、織布、編布等の所望の形状にし、先ず、接着剤組成物で浸漬処理し、好ましくは100〜150℃、0.5〜10分間程度の条件で乾燥した後、加熱処理する。加熱処理の条件は、特に制限されるものではなく、浸漬により付着した接着剤組成物を反応定着させるのに十分な時間と温度であり、好ましくは140〜250℃で、3〜8分間である。
なお、複合体を形成する繊維基材のそれぞれを接着剤組成物で浸漬処理した後、必要に応じて乾燥した後、撚り線等の所望の形状にし、これを加熱処理する工程を経ることも可能である。
これにより、繊維基材同士が本発明の接着剤組成物で接着された複合体が得られる。
上記繊維基材−繊維基材複合体は、それ自体で、ゴム補強用繊維、具体的には自動車用タイミングベルト用補強繊維(ガラス・アラミド)、Vベルト用補強繊維(ポリエステル)、タイヤコード用補強繊維(レーヨン・ナイロン・ビニロン・ポリエステル・ガラス・スチール)等の各種用途に供される。
【0035】
本発明の繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体は、繊維基材と高飽和ニトリルゴムとを本発明の接着剤組成物で接着してなる。
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の形態は、特に限定されないが、繊維基材と高飽和ニトリルゴムとを貼り合わせたもの、高飽和ニトリルゴムに繊維基材の一部又は全部を埋め込んだもの等を例示することができる。
【0036】
繊維基材を構成する繊維の種類は、特に限定されず、その具体例としては、上記繊維基材−繊維基材複合体の場合と同様であり、その用途に応じて、適宜選定される。
繊維基材の形状は特に限定されず、その具体例としては、ステープル、フィラメント、コード状、ロープ状、織布(帆布等)等を挙げることができ、繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の用途に応じて適宜選定される。例えば、繊維基材としてコード状のものを用いて芯線入りの高飽和ニトリルゴム製歯付きベルトとすることができ、また帆布等の基布状の繊維基材を用いて基布被覆高飽和ニトリルゴム製歯付きベルトとすることができる。
【0037】
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体に用いる高飽和ニトリルゴム(以下、高飽和ニトリルゴムラテックスを構成する高飽和ニトリルゴム(必要な場合は、「接着剤高飽和ニトリルゴム」という。)と区別するために、「被着体高飽和ニトリルゴム」という。)は、共役ジエン及びα,β−エチレン性不飽和ニトリルを必須成分単量体とし、所望により、これらの共重合可能な単量体を共重合し、必要に応じて水素化して得た共重合体である。
共重合可能な単量体としては、高飽和ニトリルゴムラテックスの合成に用いられるものと同様のものを挙げることができる。
被着体高飽和ニトリルゴムの具体例としては、高飽和ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、カルボキシル基含有高飽和ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和イソプレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和イソプレン−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和ブタジエン−アクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和ブタジエン−アクリル酸−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和ブタジエン−エチレン−アクリロニトリル共重合ゴム、アクリル酸ブチル−アクリル酸エトキシエチル−ビニルノルボルネン−アクリロニトリル共重合ゴム等が挙げられる。
これらのうち、特に、自動車用途に用いられる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体ゴム用の被着体高飽和ニトリルゴムとしては、耐油性、耐熱性の観点から、高飽和ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴムが好ましい。
【0038】
被着体高飽和ニトリルゴムの水素化率は、ヨウ素価で120以下、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である。ヨウ素価が大きすぎると、得られる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の耐熱性が低下するおそれがある。
被着体高飽和ニトリルゴムのアクリロニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは12〜55重量%、特に好ましくは15〜50重量%である。アクリロニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると架橋物の耐油性が劣るおそれがあり、逆に多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
また、被着体高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜300、より好ましくは20〜250、特に好ましくは30〜200である。ムーニー粘度が小さすぎると成形加工性や機械的特性が低下するおそれがあり、大きすぎると成形加工性が低下する可能性がある。
【0039】
被着体高飽和ニトリルゴムには、硫黄加硫剤、過酸化物系加硫剤、(ジ)アミン系加硫剤等の加硫剤のほか、ゴム加工に際して通常配合される、カーボンブラック、短繊維等の補強剤;老化防止剤;可塑剤;顔料;粘着付与剤;加工助剤;スコーチ防止剤;等の配合剤を適宜添加することができる。
【0040】
本発明の繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得る方法は特に限定されないが、例えば、浸漬処理等により本発明の接着剤組成物を付着させた繊維基材を被着体高飽和ニトリルゴム上に載置し、これを加熱及び加圧する方法を示すことができる。
加圧は圧縮(プレス)成形機、金属ロール、射出成形機等を用いて行なうことができる。
加圧の圧力は、好ましくは0.5〜20MPa、より好ましくは2〜10MPaであり、加熱の温度は、好ましくは130〜300℃、より好ましくは150〜250℃で、操作時間は、好ましくは1〜180分、より好ましくは5〜120分である。
この方法により、被着体高飽和ニトリルゴムの加硫及び成形、並びに、繊維基材と被着体高飽和ニトリルゴムとの間の接着を同時に行なうことができる。
圧縮機の型の内面やロールの表面には、目的とする繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の被着体高飽和ニトリルゴムの所望の表面形状を実現する型を形成させておくとよい。
【0041】
本発明の繊維基材−高飽和ニトリルゴム−繊維基材複合体は、本発明の繊維基材−繊維基材複合体と本発明の繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体とを組み合わせてなる。
具体的には、繊維基材としての芯線、被着体高飽和ニトリルゴム及び基布としての繊維基材を重ね(このとき、芯線及び基布には、本発明の接着剤組成物を適宜付着させておく)、加熱加圧すればよい。
【0042】
本発明の接着剤組成物で処理された繊維基材は、耐摩耗性及び耐動的疲労性に優れる。また、高飽和ニトリルゴムが耐油性、耐熱性等に優れるので、本発明の複合体は、自動車用部材として、特に、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、丸ベルト、角ベルト、歯付ベルト等のベルト用に好適であり、油中ベルト等の自動車用接油部材に特に適している。
また、本発明の複合体は、ホース、チューブ、ダイアフラム等にも好適に使用できる。
ホースとしては、単管ゴムホース、多層ゴムホース、編上式補強ホース、布巻式補強ホース等が挙げ挙げられる。ダイアフラムとしては、平形ダイアフラム、転動形ダイアフラム等が挙げられる。
本発明の複合体は、上記の用途以外にも、シール、ゴムロール等の工業用製品として用いることができる。シールとしては、回転用、揺動用、往復動等の運動部位シールと固定部位シールが挙げられる。運動部位シールとしては、オイルシール、ピストンシール、メカニカルシール、ブーツ、ダストカバー、ダイアフラム、アキュムレータ等が挙げられる。固定部位シールとしては、Oリング、各種ガスケット等が挙げられる。
ゴムロールとしては、印刷機器、コピー機器等のOA機器の部品であるロール;紡糸用延伸ロール、紡績用ドラフトロール等の繊維加工用ロール;ブライドルロール、スナバロール、ステアリングロール等の製鉄用ロール;等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。なお、部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0044】
高飽和ニトリルゴムラテックス及び接着剤組成物の各種特性の評価は、以下の方法で行なった。
(1)ヨウ素価
ラテックス100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥した。乾燥したゴムのヨウ素価をJIS K6235に従って測定した。
【0045】
(2)接着剤組成物の硬化物の破断伸び
平滑な内面を有するステンレス鋼製の深さ5mmの平皿状の型枠を水平に載置し、この中に接着剤組成物を流し込み、20℃、湿度65%の雰囲気内に、72時間静置する。乾燥した接着剤組成物を枠から剥がして厚さ0.5mmの皮膜を得る。この皮膜を空気循環式オーブン中、160℃で30分間加熱し、得られた硬化物のシートからダンベル7号形の試験片を切り出す。JIS K 6251に規定の試験法に準じて、インストロン型の引張試験機を用いて300mm/分の速度で引張り試験を行ない、破断伸びEb(1)(単位:%)を測定する。
次に、上記硬化物の残部を更に空気循環式オーブン中、150℃で168時間加熱し、上記と同様にして破断伸びEb(2)を測定する。
これらの数値から、熱による変化(老化)の度合い(%)を、破断伸びについて、100×〔Eb(2)−Eb(1)〕/Eb(1)で、100%引張応力について、100×〔M100(2)−M100(1)〕/M100(1)で表す。これら百分率の絶対値が小さいほど熱老化が少ない。
(3)ムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕
ラテックス100グラムをメタノール1リットルで凝固した後、60℃で一晩真空乾燥した。乾燥したゴムのムーニー粘度をJIS K6300に従って測定した。
【0046】
(参考例1)カルボキシ基含有ニトリルゴムラテックスL1の調製
内容積1リットルの耐圧ボトルに、水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル35部、メタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、ブタジエン60部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して反応温度40℃で重合反応させ、ニトリルゴムラテックスL1を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280であった。
【0047】
(水素化反応例1)高飽和ニトリルゴムラテックスAの調製
全固形分濃度を12重量%に調整したニトリルゴムラテックスL1 400ミリリットル(全固形分48グラム)を攪拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流してラテックス中の溶存酸素を除去した後、水素化触媒として、酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という。)させた。このとき、ニトリルゴムのヨウ素価は、35であった。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素化触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という。)させた。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレーターを用いて、固形分濃度が約40%となるまで濃縮してヨウ素価7の高飽和ニトリルゴムラテックスAを得た。高飽和ニトリルゴムラテックスAから、上記「(1)ヨウ素価」に記載したのと同様の方法で乾燥したゴムを得、NMRで分析したところ、アクリロニトリル単量体単位35重量%、メタクリル酸単量体単位5重量%、ブタジエン単量体単位60重量%であった。また、該高飽和ニトリルゴムのポリマームーニー粘度は、95であった。
【0048】
(参考例2)ニトリルゴムラテックスL2の調製
メタクリル酸を使用せず、ブタジエンの量を65部とするほかは、参考例1と同様にしてニトリルゴムラテックスL2を得た。重合転化率は86%、ヨウ素価は305であった。
【0049】
(水素化反応例2)高飽和ニトリルゴムラテックスBの調製
ニトリルゴムラテックスL2を水素化反応例1と同様にして水素化して、ヨウ素価7の高飽和ニトリルゴムラテックスBを得た。なお、第一段階の水素添加反応後のヨウ素価は30であった。また、高飽和ニトリルゴムラテックスBから、上記「(1)ヨウ素価」に記載したのと同様の方法で乾燥したゴムを得、NMRで分析したところ、アクリロニトリル単量体単位35重量%、ブタジエン単量体単位65重量%であった。また、該高飽和ニトリルゴムのポリマームーニー粘度は、90であった。
【0050】
(参考水素化反応例1)高飽和ニトリルゴムラテックスCの調製
第一段階の水素添加反応において、酢酸パラジウム100mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水240mlに溶解して用い、第二段階の水素添加反応を行なわないほかは、水素化反応例1と同様にして、ヨウ素価25の高飽和ニトリルゴムラテックスCを得た。高飽和ニトリルゴムラテックスCから、上記「(1)ヨウ素価」に記載したのと同様の方法で乾燥したゴムを得、NMRで分析したところ、アクリロニトリル単量体単位35重量%、メタクリル酸単量体単位5重量%、ブタジエン単量体単位60重量%であった。また、該高飽和ニトリルゴムのポリマームーニー粘度は、89であった。
【0051】
(参考水素化反応例2)高飽和ニトリルゴムラテックスDの調製
第一段階の水素添加反応において、酢酸パラジウム100mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水240mlに溶解して用い、第二段階の水素添加反応を行なわないほかは、水素化反応例2と同様にして、ヨウ素価27の高飽和ニトリルゴムラテックスDを得た。高飽和ニトリルゴムラテックスDから、上記「(1)ヨウ素価」に記載したのと同様の方法で乾燥したゴムを得、NMRで分析したところ、アクリロニトリル単量体単位35重量%、ブタジエン単量体単位65重量%であった。また、該高飽和ニトリルゴムのポリマームーニー粘度は、85であった。
【0052】
(参考例3)レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂溶液の調製
レゾルシン11.0部、ホルマリン(ホルムアルデヒドの37%水溶液)8.1部及び10%水酸化ナトリウム水溶液3部を水194.0部に溶解し、攪拌し、25℃で6時間反応させ、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂溶液(RF溶液)を得る。
【0053】
(実施例1)
固形分濃度40%の高飽和ニトリルゴムラテックスA 40部、濃度6.6%のRF溶液24.6部、水23.0部を混合し、接着剤組成物Aを得る。
得られた接着剤組成物を枠に流し込み、水平面上に、20℃で96時間静置する。静置後、接着剤組成物を枠から剥がすことにより、厚さ0.5mmの塗膜を得る。空気循環式オーブンを用いて、160℃で30分間、塗膜の熱処理を行なう。
熱処理後の塗膜を3号ダンベルで打ち抜いて試験片とし、引張試験を、引張試験機を用いて300mm/分の引張速度で行なう。
【0054】
(実施例2)
高飽和ニトリルゴムラテックスAに代えて高飽和ニトリルゴムラテックスBを用いるほかは実施例1と同様にして、接着剤組成物Bを得る。
これらについて、実施例1と同様の評価を行なう。
【0055】
(比較例1及び2)
高飽和ニトリルゴムラテックスAに代えて高飽和ニトリルゴムラテックスC又はDを、それぞれ、用いるほかは実施例1と同様にして、それぞれ、接着剤組成物C並びに接着剤組成物Dを得る。
これらについて、実施例1と同様の評価を行なう。
表1から、ヨウ素価が高いために本発明の要件を満たさない比較例1及び2の接着剤組成物は、加熱後の破断伸びが悪化し、接着剤として用いた場合に、耐熱性が十分ではない。
【0056】
【表1】

【0057】
(繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体)
高飽和ニトリルゴムラテックス及びレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂を含有して成る本発明の接着剤組成物を20℃、24時間静置して熟成させた後、ナイロン66からなる布2枚を浸漬して、布100部に対して接着剤組成物固形分が20部付着するように含浸させた後、引き上げて空気循環式オーブン中において、110℃で10分間、次いで150℃で3分間加熱し、硬化処理ナイロン基材(繊維基材−繊維基材複合体)を得る。
次に、表2記載の配合処方でバンバリーミキサーにより15分間混練して調製した高飽和ニトリルゴム配合物を前記硬化処理ナイロン基材15cm×15cmの上にロールにて厚さ1mmに展延した後、圧縮機で圧力0.1MPa、温度160℃で30分間プレスしてゴム−ナイロン基材複合体(繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体)を得ることができる。
【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化重合で得られたニトリルゴムのラテックスを水素化処理に付することによって得られた、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位含有量が10〜55重量%であり、ヨウ素価が12以下である高飽和ニトリルゴムラテックスを含有して成る接着剤組成物。
【請求項2】
高飽和ニトリルゴムラテックスがカルボキシ基含有高飽和ニトリルゴムラテックスである請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
更に、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂を含有して成る請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
繊維基材と繊維基材とを請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物で接着してなる繊維基材−繊維基材複合体。
【請求項5】
繊維基材と高飽和ニトリルゴムとを請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物で接着してなる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体。
【請求項6】
請求項4に記載の繊維基材−繊維基材複合体と請求項5に記載の繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体とからなる繊維基材−高飽和ニトリルゴム−繊維基材複合体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の複合体からなる自動車用部材。
【請求項8】
自動車用接油部材である請求項7に記載の自動車用部材。
【請求項9】
ベルトである請求項7に記載の自動車用部材。
【請求項10】
油中ベルトである請求項8に記載の自動車用接油部材。

【公開番号】特開2010−31194(P2010−31194A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197446(P2008−197446)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】