説明

接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法

【課題】 培養に要する培養コストを削減すると共に液体種菌製造や運搬設備の投資を下げて接種時の雑菌汚染の危険性を回避し接種に要する費用を低減することが可能な、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法を提供する。
【解決手段】 種菌製造地において、栽培容器内で培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量2倍以上となるまで菌糸体を高濃度深部培養し、保管輸送容器内で前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送し、接種実施地において、前記高濃度深部培養液中で塊状の菌糸体を粉砕し、前記高濃度深部培養液量の2倍以上の量の滅菌水で希釈し接種用液体種菌を製造し、液体種菌を攪拌して接種機に圧送して栽培容器内のキノコ生産培地に接種する、液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接種に適する液状種菌を製造してキノコの栽培容器に接種する方法に関し、特にキノコの菌糸体に対し菌糸体含有量が高濃度になるまで深部培養し一定期間経過した後に、菌糸体を粉砕、高濃度深部培養液の希釈等の所定の処理を施し、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栽培容器を用いたエノキ茸、ブナシメジ、エリンギ等のキノコの人工栽培は、栽培容器内の培地にキノコの種菌を接種して培養するものであり、栽培容器内の培地に接種する種菌には固形状の固形種菌と液状の液体種菌が存在する。液体種菌は、固形種菌に比して種菌製造コストは大幅に低く、接種後の培養期間が短い等のキノコの生産効率上利点がある一方で、高度なクリーンルーム等の高額なクリーン設備を備えた種菌生産設備が必要となる。また大量の液体種菌を製造し種菌製造地から接種実施地まで輸送する必要がある。
【0003】
このような液体種菌の製造に関して、特許文献1ではタンク内に液体培地を充填し、タンク本体ごと大型の高圧滅菌装置に収容し、滅菌後タンクに水をかけて冷却した後にキノコの種菌を接種し、エアレーションによる攪拌機構を用いて深部培養を行い、培養液中の菌糸体量が接種に適した濃度になった時点でタンクを接種機に接続し、キノコ栽培培地に接種する方法が開示されている。また、特許文献2ではエアレーションによる攪拌機構を用いて深部培養した液状種菌を低温保管する方法が開示されている。特許文献3では特許文献1の培養タンクに関し機械的な攪拌機構を備えた液状種菌深部培養タンクが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたきのこの液体種菌の製造方法には以下のような問題点がある。第1の問題点は液体種菌の製造に多くのコストが必要となるということである。この問題点は、液体深部培養法を用いて培養液中でキノコの菌糸体を培養し、培養液中の菌糸体濃度が栽培容器への接種に適した濃度に至るまで培養を継続し、培養完了後にキノコの菌糸体を含んだ培養液を直接栽培容器に接種するために栽培容器への接種量と同量の大量の培養液を作成する必要があり、そのため深部培養に要する原料費、培地の滅菌に要する燃料費及び人件費が大きくなることに起因する。
【0005】
第2の問題点は深部培養設備及び接種地に液状種菌を輸送するための設備が大型になり、設備投資が大きくなるということである。この問題点は、栽培容器への接種に適した菌糸体濃度に至るまでキノコの菌糸体を深部培養した大量の培養液を接種地まで輸送する必要があることに起因する。第3の問題点は接種時に雑菌汚染が発生しやすいということである。この問題点は、深部培養に使用する培養液には糖分に代表される高濃度の栄養分が含まれており、接種時に栽培容器の外に飛散した培養液が害菌の栄養源となって、接種時の害菌汚染を引き起こすことに起因している。さらに第4の問題点は接種機の掃除に時間がかかるということである。この問題点は、深部培養に使用する培養液には糖分に代表される高濃度の栄養分が含まれており、接種時に栽培容器の外に飛散した培養液が接種機に付着し、乾燥して固まることに起因している。
【0006】
このように引用文献1に開示されたきのこの液体種菌の製造方法においては、液体深部培養法により大量の培養液を作成する培養設備、及び培養液を移動するための設備は高額であり、また種菌の製造及び搬送に多くの人件費を要する上に、接種時の害菌汚染を押さえるために接種室にも高度なクリーン設備が要求される。そのため深部培養法を用いて作成した培養液を液体種菌として用いることは一般的な規模のキノコの生産工場では難しく、このようにして作成した培養液を液状種菌として用いるキノコの製造は一般のキノコ生産工場では殆ど普及しておらず、従来の固形種菌を種菌工場から購入する方法が採用されているのが実情である。そこで、キノコの菌糸体培養に要する原料費、燃料費、人件費を下げることで培養コストを軽減すると共に、液状種菌製造設備と運搬設備の設備投資を減らし、接種時の害菌汚染に強く、接種に要する人件費を削減することができる液状種菌を製造して栽培容器に接種する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−51639号公報
【0008】
【特許文献2】特開2010−200749号公報
【0009】
【特許文献3】特開2010−172318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、培養に要する培養コストを削減すると共に液体種菌製造設備と運搬設備の設備投資を下げて接種時の雑菌汚染の危険性を回避し接種に要する費用を低減することが可能な、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法を提供することを課題とする。なお、本明細書中の用語「深部培養」とは圧縮空気によるエアレーション等の攪拌機構により培養液内でキノコの菌糸体を培養することをいい、「菌糸体の高濃度深部培養」とは培養液に対する菌糸体の含有比が接種に適する菌糸体の含有量の2倍以上となるように高濃度にした培養液中で菌糸体を培養することをいい、「菌糸体の高濃度深部培養液」とは当該菌糸体を含む高濃度培養液をいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は図1に示すように、キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、種菌製造地において培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で、培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し(ステップS1)、前記深部培養を実施した培養液を密閉可能な保管輸送容器内で前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送し(ステップS2)、接種実施地において、前記保管輸送容器により輸送された菌糸体を含有する高濃度の培養液中で、攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し(ステップS3)、前記粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250、好ましくは1/50〜1/250、さらに好ましくは1/100〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し(ステップS4)、前記実施工程で得られた液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し(ステップS5)、栽培容器内のキノコ生産培地に接種する(ステップS6)、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は図2に示すように、キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、種菌製造地において、培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し(ステップS1)、前記深部培養を実施した培養液を密閉可能な保管輸送容器内で前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送し(ステップS2)、接種実施地において、前記保管輸送容器により輸送された菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250、好ましくは1/50〜1/250、さらに好ましくは1/100〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し(ステップS3)、前記希釈された培養液中の液体種菌を攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し(ステップS4)、前記実施工程で得られた液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し(ステップS5)、栽培容器内のキノコ生産培地に接種する(ステップS6)、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であることを特徴とする。
【0013】
なお、請求項2に記載の発明においては、保管、接種実施地まで輸送する工程(ステップS2)の前に、希釈して接種に適する液体種菌を製造する工程(ステップS3)を実施するように構成することができる。また、保管、接種実施地まで輸送する工程(ステップS2)の前において、前記希釈して接種に適する液体種菌を製造する工程(ステップS3)を実施した後に前記希釈された培養液中の液体種菌を攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕する工程(ステップS4)を実施するように構成することができる。このように構成することにより接種実施地において希釈タンク並びに粉砕モーターを備える必要がなくなる。
【0014】
請求項3に記載の発明は図3に示すように、キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、
種菌製造地において、培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で、培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し(ステップS1)、前記深部培養を実施した高濃度の深部培養液中で攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し(ステップS2)、前記粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液を密閉可能な保管輸送容器内で前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送し(ステップS3)、接種実施地において、前記保管輸送容器により輸送された粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250、好ましくは1/50〜1/250、さらに好ましくは1/100〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し(ステップS4)、前記実施工程で得られた液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し(ステップS5)、栽培容器内のキノコ生産培地に接種する(ステップS6)、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は図4に示すように、キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、種菌製造地において、培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し(ステップS1)、前記深部培養を実施した高濃度の深部培養液中で攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し(ステップS2),前記粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250、好ましくは1/50〜1/250、さらに好ましくは1/100〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し(ステップS3)、前記希釈して製造した液体種菌を密閉可能な保管輸送容器内で前記液体種菌を含有する培養液を保管、接種実施地まで輸送し(ステップS4)、接種実施地において、前記保管輸送容器により輸送された液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し(ステップS5)、栽培容器内のキノコ生産培地に接種する(ステップS6)、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記請求項1乃至4に記載の菌糸体を含有する高濃度の培養液の希釈工程において使用する滅菌水は濾過滅菌法を用いて作成される、接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明における高濃度深部培養工程(ステップS1)においては、栽培容器への接種に適したキノコの菌糸体濃度の少なくとも2倍以上の濃度の菌糸体を含んだ高濃度培養液を、液体深部培養法を用いて製造することにより、栽培容器への接種に必要な液体種菌の少なくとも1/2以下の液量でキノコの菌糸体を深部培養すればよいことになり、極めて少量の培養液でキノコの菌糸体の深部培養が可能となる。高濃度深部培養液の保管/輸送工程(ステップS2)においては、少量の高濃度深部培養液を小型の容器で接種実施地に輸送すればよいことになり保管・輸送コストが大幅に削減される。菌糸体粉砕工程(ステップS3)においては高濃度深部培養液中の菌糸体を粉砕することによってより多くの滅菌水による希釈が可能になる。高濃度深部培養液希釈工程(ステップS4)においては、粉砕後の高濃度培養液を少なくとも2倍以上の滅菌水に希釈して接種に適する菌糸体濃度に調整した接種用キノコの液状種菌を得る。ここで得られた液体種菌中に含まれる栄養分の比率が減少するために接種時に飛散する害菌の栄養源が減少して接種時の害菌汚染が減少する。液体種菌の攪拌圧送工程(ステップS5)において希釈後の液体種菌を攪拌し、接種機に無菌的に圧送し、接種工程(ステップS6)において圧送された液体種菌を栽培容器内の滅菌済みキノコ生産培地に無菌的に接種する。
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、高濃度深部培養液中に含まれる高濃度の菌糸体を粉砕し希釈することにより、実際に栽培容器に接種する液体種菌よりも少ない量の培養液で深部培養を行えばよいので、培地原料費用、培地の滅菌に要する燃料費、人件費等が削減され、種菌生産コストが大幅に低減可能となる。また、高濃度深部培養液中に含まれる高濃度の菌糸体を粉砕し希釈することにより、実際に栽培容器に接種する液体種菌を含む培養液量よりも少ない液量で深部培養を行えば良く、培養装置及び接種地への輸送手段が小型化できる。そのため深部培養装置、保管/輸送装置の小型軽量化による設備投資の削減が可能となる。
【0019】
さらに、高濃度深部培養液中に含まれる高濃度の菌糸体を粉砕し希釈することにより、液体種菌に含まれる糖分に代表される栄養分量の含有比率が低減されるため、接種時に栽培容器の外に飛散する液状種菌の量は変わらないが、害菌が繁殖する要因となる栄養源が減少し、接種時における雑菌汚染の低減を図ることができる。また、前記したように接種時に栽培容器の外に飛散した培養液中に含まれる栄養分が減少するため、接種機に付着し乾燥した粘度の高い固形分が減少するために接種機の清掃時間を大幅に短縮できる。
【0020】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の高濃度深部培養工程(ステップS1)及び高濃度深部培養液の保管/輸送工程(ステップS2)の後に、接種実施地において、先に高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)を実施して滅菌水でキノコ栽培容器への接種に適した菌糸体濃度まで希釈する。その後、菌糸体粉砕工程(ステップS4)を実施して、攪拌機を使用して培養液中の菌糸体を攪拌粉砕した後、液体種菌の攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)を実施する。請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を得ることができる。一方で攪拌機を使用して菌糸体の粉砕を行うため請求項1に記載の発明よりも菌糸体の粉砕度合いが少なくなるため希釈可能な滅菌水の量は減少するが、深部培養液を直接栽培容器に接種するという従来の液体種菌接種方式に対応するので既存の設備を活用することができる利点がある。
【0021】
また、請求項2に記載の発明においては、高濃度深部培養液の保管/輸送工程(ステップS2)の前に、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)を実施するように構成することができ、また、前記高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)を実施した後に続いて前記菌糸体粉砕工程(ステップS4)を実施するように構成することができる。このように構成することにより、請求項1に記載の発明で得られる効果に加えて接種実施地において希釈タンク並びに粉砕モーター等を備える必要がなくなるという利点がある。
【0022】
請求項3に記載の発明においては、請求項1に記載の高濃度深部培養工程(ステップS1)の後に菌糸体粉砕工程(ステップS2)、高濃度深部培養液の保管/輸送工程(ステップS3)を実施して粉砕後の高濃度深部培養液を接種地に輸送する。接種実施地において、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS4)を実施して滅菌水でキノコ栽培容器への接種に適した菌糸体濃度まで希釈し、液体種菌の攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)を実施する。請求項3に記載の発明によれば、菌糸体粉砕工程(ステップS2)を種菌製造地で行うことにより、請求項1に記載の発明で得られる効果に加えて接種実施地に粉砕モーターを備える必要がなくなるという利点がある。
【0023】
請求項4に記載の発明においては、請求項1に記載の高濃度深部培養工程(ステップS1)の後に菌糸体粉砕工程(ステップS2)を実施し、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)を実施して粉砕後の高濃度深部培養液を少なくとも2倍以上に希釈して接種用液体種菌を得る。その後、液体種菌を含む希釈された培養液を接種地に輸送する保管/輸送工程(ステップS4)を実施し、接種実施地において液体種菌の攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)を実施する。請求項4に記載の発明によれば、菌糸体粉砕工程(ステップS2)および高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)を種菌製造地において行うことにより、請求項1に記載の発明で得られる効果に加えて接種実施地に粉砕モーター及び希釈タンクを備える必要がなくなるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る第1の実施形態のフロー図である。
【図2】本発明に係る第2の実施形態のフロー図である。
【図3】本発明に係る第3の実施形態のフロー図である。
【図4】本発明に係る第4の実施形態のフロー図である。
【図5】本発明に係る菌糸体の高濃度深部培養工程において使用する培養容器の構成例を示す図である。
【図6】本発明に係る保管/輸送工程において使用される保管輸送容器の構成例を示す図である。
【図7】本発明に係る菌糸体粉砕工程、高濃度深部培養液希釈工程、液体種菌の攪拌圧送工程、接種工程において使用される粉砕装置、希釈・攪拌圧送装置、接種装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図を参照しつつ本発明に係る接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法の実施の形態について説明する。図1は本発明に係る第1の実施の形態のフロー図である。本発明の第1の実施の形態は図1に示すように、培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施(「高濃度深部培養工程」ステップS1)する工程、前記深部培養を実施した培養液を密閉可能な保管輸送容器内で前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送(「培養液の保管/輸送工程」ステップS2)する工程、接種実施地における前記保管輸送容器により輸送された菌糸体を含有する高濃度の培養液中で攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕(「菌糸体粉砕工程」ステップS3)する工程、前記粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250、好ましくは1/50〜1/250、さらに好ましくは1/100〜1/250に希釈して接種に適する菌糸体濃度に調整した液体種菌を製造(「高濃度深部培養液希釈工程」ステップS4)する工程、前記液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送(「攪拌圧送工程」ステップS5)して栽培容器内のキノコ生産培地に接種(「接種工程」ステップS6)する工程を実施することにより液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種するものである。
【0026】
図5は第1の実施の形態のステップS1において使用するキノコの菌糸体の栽培容器の構成例を示す図である。高濃度にした培養液中で当該菌糸体を圧縮空気による深部培養工程において使用する培養容器100は、ヘルールと接合する少なくとも圧縮空気供給用フィルター、圧縮空気排出用ニードルバルブを備えている。栽培容器100は、内部に液体培地(培養液)を収容する培養液収容部1、容器培養液収容部を無菌的に密閉する蓋7、蓋7に取り付けられ接合面11を介して無菌的な接続を行うヘルール10、へルール10に嵌合し培養エア13を排気口18から外部に放出するニードルバルブ20に接続するヘルール17、ニードルバルブ20に取り付けられ培養エアの排気量を調整するニードル19、蓋7に取り付けられたヘルール8、ヘルール8に取り付けられたパイプ6、接合面9を介してヘルール8に嵌合するヘルール14、へルール14に取り付けられ圧縮空気供給口16から供給される圧縮空気を濾過滅菌するためのフィルター15、高濃度深部培養液中の菌糸体を粉砕する回転ブレード2、回転ブレード2をシールするためのシール3、および回転ブレード2と回転ブレードを駆動するためのモーターを接続するための駆動部嵌合部5とを備えている。また、回転ブレード2及び栽培容器10を固定するための固定台4は菌糸体粉砕工程(ステップS2)において使用されるものである。なお、当該回転ブレード及び固定台は、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS4)、液体種菌の攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)においても使用される場合がある。
【0027】
図1及び図5を参照して本実施の形態について詳細に説明する。ステップS1において、培養液が収容された培養容器内に圧縮空気(エア)を圧縮空気供給口16からフィルター15により濾過滅菌し、接合面9を介してパイプ6を通過して供給し、培養液には予め無菌的にキノコの菌糸体が接種されており、当該培養液中で発生する培養エア13により攪拌され深部培養される。培養エア13は、ニードルバルブ20のニードル19を上下に移動することにより培養エア流量を調整して排気口18から外部に放出される。シール3は回転ブレード2をシールして培養液が培養液収容部1から漏出することを防止する。このようにステップS1において液体深部培養法を用いて菌糸体の深部培養を行い、培養液中で短期間に大量の菌糸体を増殖し、深部培養は培養液中の菌糸体濃度が栽培容器に接種するに適した濃度の2倍以上から菌糸の増殖が飽和するまでの間で行うのが好ましく、より好ましくは5〜500倍の菌糸体濃度が効果的である。栽培容器への接種に適した菌糸体濃度の少なくとも2倍以上の濃度の菌糸体を含む高濃度深部培養液を製造する。ここで製造される高濃度深部培養液は、ステップS4においては滅菌水で少なくとも2倍以上に希釈されて使用されるため栽培容器に接種する液状種菌の量の少なくとも1/2以下の量で良い。また、培養液に接種する菌糸体は予め無菌的に培養した菌糸塊を用いても良い。
【0028】
図6は第1の実施の形態のステップS2において使用する培養液の保管/輸送容器200の構成例を示す図である。菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送工程において使用する保管輸送用容器はガス交換用フィルター部及び内部収容物密閉用キャップ部を備えており、その他は前記栽培容器の構成と同様である。当該保管輸送用容器200は、図5に示されるフィルター15を取り外してフィルターの取り付け位置を図6の右上方に移動し、ヘルール10に接合面11を介して取り付けられたガス交換用フィルター15、ヘルール8に接合面9を介して取り付けられたキャップ21を備えており、容器200内には高濃度深部培養液22が保管されている。
【0029】
図1及び図6を参照して本実施の形態のステップS2の実施について説明する。ステップS2において、ヘルール8に取り付けられたキャップ21により容器200の内部が無菌的に密閉され、接種実施地までの高濃度深部培養液の保管輸送過程における害菌の進入を防ぎ、ヘルール10に取り付けられたフィルター15は高濃度培深部養液22から発生するガスを外部に放出し容器200の内部と外気との間で無菌的にガス交換を行う。外部と無菌的に閉じられたことで容器200は培養地から接種地に移動することが可能である。高濃度深部培養液22は20℃以下の温度で24時間保管することが可能である。また容器200を10℃以下から内部の培養液が凍結しない温度の間に保つことで高濃度深部培養液をより長期間保管することが可能である。ステップS2において移動に用いる容器は必ずしも培養容器を使用する必要はなく、完全に密閉された移動専用の容器を用いても良い。このようにしてステップS1で製造した少量の高濃度深部培養液を保管し接種地に輸送する。
【0030】
図7の右端に示す図は第1の実施の形態のステップS3において使用する高濃度深部培養液中の菌糸体の粉砕装置の構成例を示す図である。当該粉砕装置300は少なくとも粉砕用回転ブレード、当該ブレードを回転させるモーター、後述する希釈・攪拌・圧送装置400に対し粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液を移送するための加圧空気供給口及び移送用パイプ・ホースを備えており、ヘルール10に取り付けられたフィルター15は前記保管/輸送容器の構成と、その他は前記栽培容器の構成と略同様である。当該粉砕装置300は、図7の右端に示されるように、ヘルール8に接合面9を介して接続された耐圧ホース23、駆動部嵌合部5に嵌合した回転軸24、回転ブレード2を駆動させるための粉砕モーター25、モーターケース26、粉砕装置を固定するための固定台4、粉砕装置から高濃度深部培養液を希釈装置400に移送するためのサクションパイプ6及び耐圧ホース23、フィルター15、加圧空気供給口16を備えている。
【0031】
図1及び図7を参照して本実施の形態のステップS3の実施について説明する。ステップS3において、粉砕モーター25の回転軸24が高速回転することにより回転ブレード2が高速回転し、高濃度深部培養液22の中に含まれる菌糸体が粉砕される。菌糸体が接種に適した大きさに粉砕された後粉砕モーター25を停止する。このように実施されるステップS3において高濃度深部培養液中に含まれる菌糸体を粉砕することによって、より多くの滅菌水で希釈できるように高濃度深部培養液を加工する。
【0032】
図7の中央に示す図は第1の実施の形態の高濃度深部培養液を希釈して液体種菌を製造し(ステップS4)、当該液体種菌を攪拌し接種機に圧送(ステップS5)してキノコの栽培容器に接種(ステップS6)する工程において使用する希釈・攪拌圧送装置400(以下、「希釈装置」、「攪拌圧送装置」ともいう)の構成例を示す図である。希釈・攪拌圧送装置400には、本実施の形態においてステップS4を実施する際には前記粉砕装置300及び滅菌水移送手段500が接続され、ステップS5、6の実施に際しては接種機44と栽培容器46を備えた接種手段600が接続される。希釈・攪拌圧送装置400は、少なくとも粉砕装置から高濃度深部培養液を移送するための圧力調整ニードルバルブ・パイプ、希釈水と高濃度深部培養液を均一に攪拌する攪拌プロペラ、当該攪拌プロペラを回転させるモータ、希釈攪拌されて得られた液体種菌を接種機に送出するためのパイプ等を備えている。
【0033】
前記希釈・攪拌圧送装置400において高濃度深部培養液希釈工程(ステップS4)の実施の際に使用する希釈装置は、図7の中央の図に示されるように、滅菌水収容タンク31に取り付けられたヘルール34、へルール34に接続したパイプ35、へルール34に接続され前記粉砕装置から高濃度深部培養液を移送するための耐圧ホース23、滅菌水収容タンク31を無菌的に閉じる蓋38、蓋38に取り付けられたヘルール39、蓋38に取り付けられたニードルバルブ30を備えている。そして、希釈装置400には、へルール39を介して濾過滅菌フィルター41と濾過滅菌フィルターに水道水を供給する水道水供給口42を備えた滅菌水移送手段500が接続されている。なお、ここで滅菌水移送手段に供給する水は水道水に限定されるものではなく、井戸水や高温滅菌水等を使用することができる。
【0034】
図1及び図7を参照して本実施の形態のステップS4の実施について説明する。ステップS4において、ニードルバルブ30を全開にし、フィルター15に加圧空気を加圧空気供給口16から供給すると、前記粉砕装置300から高濃度深部培養液22がサクションパイプ6及び耐圧ホース23を通過して、パイプ35に供給され、粉砕後の高濃度深部培養液22が希釈装置400内に移送される。次に水道水を水道水供給口42から濾過滅菌フィルター41に供給し、濾過滅菌フィルルター41により水道水が無菌化され滅菌水が精製される。当該滅菌水は滅菌水移送手段500により希釈装置400に充填され、粉砕後の高濃度深部培養液を希釈する。栽培容器への接種に適した液体種菌に希釈するための滅菌水を滅菌水量Aの位置まで充填した時点で水道水の供給を停止する。これにより粉砕後の高濃度深部培養液をキノコの栽培容器への接種に適した菌糸体濃度に希釈する。高濃度深部培養液量の2〜250倍、好ましくは50〜250倍、さらに好ましくは100〜250倍の液量の滅菌水で希釈することにより希釈後の液状種菌に含まれる糖分に代表される栄養素の比率が大きく減少する。これにより接種時に栽培容器の外に飛散する液状種菌が引き起こす害菌汚染を飛躍的に少なくすることができる、同時に接種機本体の清掃時間も短縮される。このようにしてステップS3において粉砕加工された高濃度深部培養液を、滅菌水を用いて接種に適した菌糸体濃度に希釈し接種用キノコの液状種菌を得ることができる。
【0035】
なお、希釈に使用する滅菌水の量は高濃度深部培養液の5倍以上にすることが望ましく、この時滅菌水に増粘剤及び栄養素を添加しても良い。また本実施の形態で希釈に使用する滅菌水は濾過滅菌法により作成されたものに限られず、本実施の形態では希釈に使用する滅菌水を濾過滅菌法以外の方法で作成しても良い。
【0036】
前記希釈・攪拌圧送装置において液体種菌の攪拌圧送工程(ステップS5)及び接種工程(ステップS6)の実施の際に使用する攪拌圧送装置は、図7の中央の図に示されるように、蓋38に取り付けられたヘルール32、ヘルール32に取り付けられたサクションパイプ33、蓋38に取り付けられた攪拌モーター29、攪拌モーター29の回転軸28、回転軸28に接続したシャフト36、シャフト36の先端に接続された攪拌プロペラ37を備えている。そして、攪拌圧送装置には接種機44と栽培容器46を備えた接種手段600がへルール32を介して接続される。
【0037】
図1及び図7を参照して本実施の形態のステップS5の実施について説明する。ステップS5において、攪拌モーター29を作動させることにより回転軸28及びシャフト36が回転し、攪拌プロペラ37が回転して滅菌水収容タンク31内の液体種菌が攪拌される。前記粉砕装置の加圧空気供給口16から供給されフィルター15で濾過滅菌された加圧空気は、高濃度深部培養液収容容器及び滅菌水収容タンク内の液状種菌を通過して、ニードルバルブ30から外部に排気される。その後ニードルバルブ30を閉じると滅菌水収容タンク31内が加圧空気と同じ圧力まで加圧される。加圧された液状種菌はサンクションパイプ33からヘルール32を経由して接種機44に供給される。このようにステップS5において液体種菌を攪拌、加圧して接種機へと無菌的に圧送する。ここで実施する攪拌はエアによる攪拌と機械的な攪拌の何れを使用しても差し支えない。
【0038】
前記攪拌圧送装置により攪拌圧送工程(ステップS5)が実施された液体種菌は、接種工程(ステップS6)において接種手段600により栽培容器内のキノコ生産培地に接種される。接種手段600は接種機44と栽培容器46を備え、前記攪拌圧送装置から圧送される液体種菌は接種機44から栽培容器46に向けて噴射される。図1及び図7を参照してステップS6の実施工程について説明する。ステップS6の接種の実施に際しては、接種機44と栽培容器46を備えた接種手段600が前記希釈・攪拌・圧送装置40と接続され、接種機44は圧送装置から液体種菌の供給を受けて、予め決められた量の液体種菌を、予め決められた圧力で栽培容器46の内部に無菌的に接種する。このようにしてステップS6において接種機に圧送された液状種菌をキノコの栽培容器に接種される。
【実施例1】
【0039】
上述した第1の実施の形態において、エノキ茸の菌糸体を、1リットルの培養液で12日間深部培養して得られた高濃度の深部培養液を18000rpmで20秒間粉砕処理を施した後、50リットルの濾過滅菌水で希釈して、51リットルの液体種菌を得た。この液体種菌を容量850cc、口径65mmの栽培容器に接種した結果、良好なエノキ茸を得ることができた。
【0040】
上記実施例では、従来の液体種菌製造方法で培養液51リットルを7日間深部培養して得られた菌糸体を、栽培容器への接種に適した菌糸体濃度を有する液体種菌に含まれる菌糸体と同量にして、1リットルの培養液を用いて12日間深部培養を継続することにより得ることができる。したがって、栽培容器への接種に適した菌糸体濃度の5倍以上の菌糸体濃度を有する高濃度深部培養液を製造することにより、栽培容器への接種に必要な液状種菌の1/5以下の液量で深部培養を行えばよく、液体培地原料費、滅菌用燃料費、人件費が削減され、接種地への種菌の輸送も少量ですむため、種菌の生産コスト全体が削減される。
【0041】
さらに種菌生産設備と種菌輸送設備も小型化できるため設備投資を削減することができる。そして生産した高濃度深部培養液中の菌糸体を粉砕することにより、より多くの滅菌水で希釈することが可能になり、深部培養する培養液の量をより低減できることになる。そのため種菌中に含まれる栄養分が減り、接種時に容器の外に飛散した液状種菌に含まれる栄養分を栄養源として繁殖する害菌の汚染を低減できる。また液体種菌中の栄養分の比率が低いため接種機に固着する栄養分が減り接種機の清掃時間も削減される。
【0042】
次に、本発明に係る第2、3、4に係る実施の形態について説明するが、第1の実施の形態と同一の実施工程並びに当該実施工程において使用する培養容器、保管輸送容器、菌糸体粉砕装置、希釈・攪拌圧送装置、滅菌水移送手段および接種手段の構成機能についての説明は省略し、ここでは第1の実施の形態と異なる実施工程等について説明する。
【0043】
本発明の第2の実施に形態について図を参照して説明する。図2は本発明の第2の実施の形態のフロー図である。本発明の第2の実施の形態は図2に示すように、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)を菌糸体粉砕工程(ステップS4)の前に実施する点が第1の実施の形態と相違するものである。接種実施地において、高濃度深部培養液をキノコ栽培容器への接種に適した濃度に希釈して液体種菌を製造し、希釈して得られた液体種菌中の菌糸体を攪拌機構により攪拌粉砕を実施するものである。
【0044】
なお、ここでは培養液の保管/輸送工程(ステップS2)の前において、前記希釈して接種に適する液体種菌を製造する工程(ステップS3)を実施するようにしてもよく、さらに、保管、接種実施地まで輸送する工程(ステップS2)の前において前記希釈して接種に適する液体種菌を製造する工程(ステップS3)を実施した後に前記希釈された培養液中の液体種菌を攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕する工程(ステップS4)を実施することができる。このような工程を実施することにより接種実施地においては希釈タンク並びに粉砕モーターを備える必要がなくなるという利点がある。
【0045】
図2及び図7を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。保管/輸送容器200内の高濃度深部培養液を滅菌水収容タンク31に移送し、濾過滅菌フィルター41から供給される滅菌水でキノコ栽培容器への接種に適した菌糸体濃度まで希釈する(ステップS3)。その後ステップS4において攪拌プロペラ37を高速回転させることにより液状種菌中に含まれる菌糸体を攪拌粉砕する。そして、攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)を実施する。なお、希釈工程を培養液の保管/輸送工程の前に実施する場合は、高濃度深部培養液を培養容器100から滅菌水収容タンク31に移送することになる。
【0046】
本発明の第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができるが、攪拌機を使用して菌糸体の粉砕を行うために菌糸体の粉砕度合いが少なく、また、第1の実施の形態よりも希釈可能な滅菌水の量は減少するが、深部培養液を直接栽培容器に接種する従来の液体種菌接種方式に対応した既存の設備を活用することが可能になる。
【0047】
本発明の第3の実施に形態について図を参照して説明する。図3は本発明の第3の実施の形態のフロー図である。本発明の第3の実施の形態は図3に示すように、菌糸体粉砕工程(ステップS2)を培養液の保管/輸送工程(ステップS3)の前に実施する点が第1の実施の形態と相違するものである。接種実施地において、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS4)、攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)を実施するものである。
【0048】
図3及び図7を参照して本発明の第3の実施の形態を説明する。菌糸体粉砕工程(ステップS2)において、図7に示される無菌的に閉じた栽培容器100にモーターケース26を接続し、高濃度深部培養液中に含まれる菌糸体を粉砕する。そして培養液の保管/輸送工程(ステップS3)により接種実施地に輸送した後、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS4)により粉砕後の高濃度深部培養液を希釈し、攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)を実施するものである。本発明の第3の実施の形態によれば、菌糸体の粉砕を種菌製造地で行うことにより、第1の実施の形態で得られる効果に加えて接種実施地に粉砕モーター等を備える必要がなくなるという利点がある。
【0049】
本発明の第4の実施に形態について図を参照して説明する。図4は本発明の第4の実施の形態のフロー図である。本発明の第4の実施の形態は、図4に示すように培養液の保管/輸送工程(ステップS4)の前に、菌糸体粉砕工程(ステップS2)及び高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)を実施する点が第1の実施の形態と相違するものである。接種実施地において攪拌圧送工程(ステップS5)、接種工程(ステップS6)を実施するものである。
【0050】
図4及び図7を参照して本発明の第4の実施の形態を説明する。種菌製造地において、菌糸体粉砕工程(ステップS2)により菌糸体を粉砕後、高濃度深部培養液希釈工程(ステップS3)において高濃度深部培養液を少なくとも2倍以上に希釈して接種用キノコの液状種菌を得る。その後、ステップS4において内部に液状種菌を収容した滅菌水収容タンク31を無菌的に閉じた状態で接種実施地に輸送する。本発明の第4の実施の形態によれば、高濃度深部培養液の粉砕及び希釈工程を種菌製造地で行うことにより、接種実施地に粉砕モーター、濾過滅菌フィルター等を備える必要がなくなるという利点がある。
【0051】
また、本発明の各実施工程において使用する培養容器、保管輸送容器、粉砕装置、希釈・攪拌圧送装置は、いずれも内容物の密閉状態が確保されており、また培養液を収容する容器としては培養容器、保管輸送容器を使用するが外気中での培養液の移動は行わずに容器のキャップ、フィルターの取替えによってなされ、これらの容器は粉砕装置を兼用している。滅菌水による希釈・攪拌圧送工程で使用する希釈・攪拌圧送装置は前記容器とは別容器となっているものの、前記容器又はから粉砕装置からの培養液の移送等は圧縮空気、パイプ等を利用して密閉環境下で実施される。このように本発明においては外部の雑菌汚染防止の厳重な対策を講じている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る接種に適する液状種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法によれば、高度な無菌設備を備えた種菌生産工場内で生産された高濃度の菌糸体を含んだ深部培養液を、高性能なクリーン設備を備えていない一般的な規模のキノコ生産工場に輸送し、培養液中に含まれる高濃度の菌糸体を粉砕、希釈して使用することが可能になる。これにより、種菌の生産面では、深部培養設備と種菌輸送設備の投資額が下がると共に、種菌生産コストも削減される。種菌の接種面では、接種時の害菌汚染が減少し、さらに接種後の接種機の清掃時間も短縮される。このため接種室に高度なクリーン設備を持たない一般的な規模のキノコ生産工場でも液体種菌を利用できるようになる。
【符号の説明】
【0053】
1 培養液収容部
2 回転ブレード
3 シール
4 固定台
5 駆動部嵌合部
6、33 パイプ(サクションパイプ)
7、32、34、38 密閉蓋
8、10、14、17、32、34、39 ヘルール
9、11 接合面
12、22 培養液(高濃度深部培養液)
13 培養エア
15 フィルター
16 圧縮空気供給口
18 培養エア排気口
19 排気量調整ニードル
20 ニードルバルブ
21 キャップ
23 耐圧ホース
24 回転軸
25 粉砕モーター
26 モーターケース
28 回転軸
29 攪拌モーター
30 ニードルバルブ
31 滅菌水収容タンク
35 パイプ
36 シャフト
37 攪拌プロペラ
41 濾過滅菌フィルター
42 水道水供給口
44 接種機
46 栽培容器
100 栽培容器
200 保管輸送用容器
300 粉砕装置
400 希釈・攪拌圧送装置(希釈装置、攪拌圧送装置)
500 滅菌水移送手段
600 接種手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、
種菌製造地において、培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で、培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し、
前記深部培養を実施した培養液を密閉可能な保管輸送容器内で、前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送し、
接種実施地において、
前記保管輸送容器により輸送された菌糸体を含有する高濃度の培養液中で、攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し、
前記粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し、
前記工程で得られた液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し、
栽培容器内のキノコ生産培地に接種する、
ことを特徴とする接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法。
【請求項2】
キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、
種菌製造地において、培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で、培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し、
前記深部培養を実施した培養液を密閉可能な保管輸送容器内で、前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送し、
接種実施地において、
前記保管輸送容器により輸送された菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し、
前記希釈された培養液中の液体種菌を攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し、
前記工程で得られた液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し、
栽培容器内のキノコ生産培地に接種する、
ことを特徴とする接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法。
【請求項3】
キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、
種菌製造地において、
培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で、培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し、
前記深部培養を実施した高濃度の深部培養液中で、攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し、
前記粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液を密閉可能な保管輸送容器内で、前記菌糸体を含有する高濃度の培養液を保管、接種実施地まで輸送し、
接種実施地において、
前記保管輸送容器により輸送された粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し、
前記工程で得られた液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し、
栽培容器内のキノコ生産培地に接種する、
ことを特徴とする接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法。
【請求項4】
キノコの菌糸体に対し所定の処理を施し、一定期間経過した後に接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法であって、
種菌製造地において、
培養液が収容され圧縮空気の供給及び排出が可能な栽培容器内で、培養液に対する菌糸体の含有比率が接種に適する菌糸体の含有量の2〜250倍となるまで菌糸体の高濃度深部培養を実施し、
前記深部培養を実施した高濃度の深部培養液中で、攪拌機構又は粉砕機構により塊状の菌糸体を粉砕し、
前記粉砕した菌糸体を含有する高濃度の培養液量の2〜250倍の量の滅菌水で希釈し、該菌糸体を含有する高濃度の培養液の濃度を1/2〜1/250に希釈して接種に適する液体種菌を製造し、
前記希釈して製造した液体種菌を密閉可能な保管輸送容器内で、前記液体種菌を含有する培養液を保管、接種実施地まで輸送し、
接種実施地において、
前記保管輸送容器により輸送された液体種菌を希釈タンク内で攪拌して接種機に圧送し、
栽培容器内のキノコ生産培地に接種する、
ことを特徴とする接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の菌糸体を含有する高濃度の培養液の希釈工程において使用する滅菌水は濾過滅菌法を用いて作成される、ことを特徴とする接種に適する液体種菌を製造しキノコの栽培容器に接種する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200235(P2012−200235A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70141(P2011−70141)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(500548460)オリジンバイオテクノロジー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】