説明

接話型マイクロホン

【課題】2枚のリボン型振動板を備えたマイクロホンユニットを利用して、二次音圧傾度型の接話型マイクロホンを提供すること。
【解決手段】窓枠状に形成された金属製のフレーム2の対向する内側面には、それぞれ長尺状のマグネット4が配置されている。対向するマグネット4の間に形成された磁気ギャップ内に、2枚のリボン形振動板15が間隔をおいて各面が互いに平行状態に対峙するようにして配置され、各リボン形振動板15の長さ方向の両端部は、前記フレーム2に電気的に絶縁された状態でそれぞれ取り付けられている。音波を受けた振動動作に基づいて前記各リボン形振動板15に生成される信号電流i1,i2が、互いに相殺されるように前記各リボン形振動板が直列接続され、前記各信号電流の相殺出力を出力信号として利用するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、話者の口元に近づけて使用することで、例えば騒音の激しい場所での集音に適したマイクロホンに関し、特に振動板として可動リボンを用いたリボン型マイクロホンにより構成してなる接話型マイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
接話型マイクロホンは、球面波の近接作用を利用したもので、遠くから到来する音波に対しては感度が低く、近接音源に対しては適切な出力レベルが得られる。したがって、接話型マイクロホンは、特に周囲の騒音が大きい環境の中で、話者の声を明瞭に集音する目的で使用される。そのマイクロホンユニットには、一般的に一次音圧傾度型(単一指向性)のものが用いられる。(特許文献1)
【0003】
前記した一次音圧傾度型マイクロホンユニットにおいては、振動板を挟む両側に音波を取り入れるための開口が設けられる。すなわち、ユニットの後部にも音波を取り入れるための開口(後部音響端子)が存在するため、ユニットをマイクロホンケースもしくは機器の筐体内に納める場合においては、ユニットの後部音響端子より取り込まれる音波に影響を及ぼさないような工夫が必要となる。
【0004】
また、マイクロホンユニットの前後の音響端子付近に音響インピーダンスが存在すると共振器として動作し、指向特性および周波数応答を劣化させることになる。このために、マイクロホンケースもしくは前記ユニットが収容される機器の筐体設計には、前部音響端子と後部音響端子の双方に配慮が必要であり、これが設計負担となっている。
【0005】
したがって、一次音圧傾度型のマイクロホンユニットを接話型マイクロホンに利用する場合においては、前記した設計上の制約が多く、より高い耐騒音特性を得るには、前記した一次音圧傾度型のマイクロホンユニットでは限界が生ずる。
【0006】
前記した一次音圧傾度型のマイクロホンユニットを2つ用い、これを一定の間隔をおいて設置した構成の接話型マイクロホンも知られており、これは第1のマイクロホンユニットの出力信号と第2のマイクロホンユニットの出力信号を減算(相殺)させるようにした二次音圧傾度型として利用されている。(特許文献2)
【0007】
これによると、第1と第2のユニット間の距離dに対して十分遠い距離からの音源に関しては低音ほど感度が低くなる特性が得られる。これは低音ほど波長が長いため、第1と第2のユニット位置における音圧の差が小さくなるためである。一方、第1と第2のユニット間の距離dに対して十分近接した音源に対しては、近接効果によって低音域の感度が上昇する。すなわち、二次音圧傾度型の接話型マイクロホンは、この近接効果を利用して遠方からの騒音を抑圧し、近接した位置からの話者からの明瞭な音声を収音することができる。
【0008】
ところで、前記した2次音圧傾度型の接話型マイクロホンにおいては、前記したとおりマイクロホンユニットを2つ用意する必要があり、また2つのユニットを特定な間隔をおいて、例えばマイクロホンケース内に配置する必要がある。したがって2つのマイクロホンユニットを用いるための製造コストの高騰、並びに2つのユニットを例えばマイクロホンケース内に組み込むための工数の増大等の問題が発生する。
【0009】
一方、本件出願人は、1つの磁気回路内に2枚のリボン型振動板を備え、振動板の各面が互いに平行状態に対峙するように配置したリボン型マイクロホンについて先に提案している。これは、リボン型マイクロホンの出力を増大させるために2枚のリボン型振動板を備えたものである。(特許文献3)
【0010】
図6は、特許文献3に開示されたリボン型マイクロホンにおける2枚のリボン型振動板の接続構成を示したものである。すなわち図6は、リボン型マイクロホンユニットを中央部で垂直方向に切断した状態の断面図で示しており、窓枠状に形成された金属製のフレーム2の対向する内側面にはそれぞれ長尺状のマグネット4が配置されている。そして対向するマグネット4の間に形成された磁気ギャップ内に、2枚のリボン形振動板15が間隔をおいて各面が互いに平行状態に対峙するようにして配置され、各リボン形振動板15の長さ方向の両端部は、前記フレーム2に電気的に絶縁された状態でそれぞれ取り付けられている。
【0011】
前記した構成のリボン型マイクロホンは、双指向性を有しており、音波を受けた振動動作に基づいて、前記各リボン形振動板15にはそれぞれ図6にi1およびi2で示す信号電流が生成される。そして、信号電流i1およびi2は同相で加算されるように、リボン形振動板15は直列接続され、その加算出力が出力信号として利用するようになされている。なお、符号41は加算された信号出力を受けるインピーダンス整合用の昇圧トランスを示している。
【0012】
前記した構成のリボン型マイクロホンによると、それぞれのリボン型振動板に生成される信号電流は加算されるように動作するので、従来の1枚のリボン型振動板を備えたマイクロホンユニットによって得られる信号出力レベルに比較して、ほぼ2倍の出力レベルを得ることができることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−9275号公報
【特許文献2】特開平8−191496号公報
【特許文献3】特開2009−118118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、前記した特許文献3に開示された2枚のリボン型振動板を備えたマイクロホンにおいては、その発想がほぼ2倍の音声出力レベルを得ようとするものである。これに対して、本件出願の発明は音声出力レベルを高めようとする前記発想に代えて、これを接話型マイクロホンに応用しようとするものであり、2枚のリボン型振動板を備えたリボン型マイクロホンを利用して、二次音圧傾度型の接話型マイクロホンを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかる接話型マイクロホンは、フレームおよびマグネットを含む磁気回路構成部材によって形成された磁気ギャップ内に、導電性の薄膜からなる2枚のリボン形振動板が間隔をおいて配置されると共に、音波を受けた振動動作に基づいて前記各リボン形振動板に生成される信号電流が、互いに相殺(キャンセル)されるように前記各リボン形振動板が直列接続され、前記各信号電流の相殺出力を音声出力信号として利用するように構成した点に特徴を有する。
【0016】
この場合、前記2枚のリボン形振動板の各面が互いに平行状態に対峙するように、前記磁気ギャッブ内に配置されていることが望ましい。
また好ましい形態においては、前記フレームは窓枠状に形成され、前記窓枠の対向する内側面にそれぞれ前記マグネットが配置され、かつ前記各マグネット間に形成される磁気ギャップ内に前記各リボン形振動板が配置されると共に、前記各リボン形振動板の長さ方向の両端部が、前記フレームにそれぞれ取り付けられた構成になされる。
【発明の効果】
【0017】
前記した構成の接話型マイクロホンによると、2枚のリボン形振動板に生成される信号電流が、互いに相殺されるように各リボン形振動板が直列接続され、前記各信号電流の相殺出力を音声出力信号として利用するようにしたので、二次音圧傾度型として機能することになる。
【0018】
この二次音圧傾度型のマイクロホンは、前記したとおり遠い位置からの音源に関しては低音ほど感度が低くなる特性が得られ、十分近接した音源に対しては、近接効果によって低音域の感度が上昇し、話者からの明瞭な音声を収音する接話型マイクロホンとしての機能を果たすことができる。
【0019】
しかも前記した構成によると、磁気ギャッブ内に2枚のリボン形振動板を配置した1つのマイクロホンユニットによって実現させることができるので、前記した特許文献2に開示された2つのマイクロホンユニットを具備する二次音圧傾度型のマイクロホンにおける前記した問題点を解消させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明にかかる接話型マイクロホンとして機能させるリボン型マイクロホンユニットの磁気回路構成体を示す正面図および中央部における垂直断面図である。
【図2】同じくリボン型マイクロホンユニットの振動板組立体を示す正面図、中央部における垂直断面図、背面図である。
【図3】同じくリボン型マイクロホンユニットを示す正面図および中央部における垂直断面図である。
【図4】同じくリボン型マイクロホンユニットにおける2枚のリボン型振動板の接続構成図である。
【図5】この発明にかかる接話型マイクロホンの周波数特性の例を示す線図である。
【図6】従来のリボン型マイクロホンユニットにおける2枚のリボン型振動板の接続構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明にかかる接話型マイクロホンについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1は磁気回路構成体1を示すものであり、図1(a)はこれを正面図で示しており、図1(b)はその中央部における垂直断面図である。この磁気回路構成体1は、金属製の素材により形成されたフレーム2と、一対の長尺状のマグネット4とにより構成されている。
【0022】
前記フレーム2は、正面から見た外形が長方形状で適度に厚みを有しており、その中央には長さ方向に長方形の窓孔3が形成されて、窓枠状になされている。この窓枠状に形成されたフレームの長さ方向における対向する内壁面には、それぞれマグネット4が固着されている。前記各マグネット4は例えばネオジム合金により成形され、細長の角柱状をなしており、各マグネット4の対向面は異なる磁極となるように着磁されている。したがって、前記フレーム2と一対のマグネット4とにより、磁気回路が構成され、前記各マグネット4,4間が平行磁束による磁気ギャップになされている。
【0023】
なお、前記フレーム2には、その正面から見た四隅に、ねじ孔5がそれぞれ形成されると共に、前記各ねじ孔5の形成位置よりも若干中央部寄りの4箇所にも、それぞれねじ孔6が形成されている。前記四隅の各ねじ孔5はフレーム2を図示せぬマイクロホンケースに固定するためのものであり、それよりも若干中央部寄りの各ねじ孔6は後述する振動板組立体11をフレーム2に固定するために利用される。
【0024】
図2は、振動板組立体11を示すものであり、この振動板組立体11は、長方形状の基板12、スペーサ14、リボン形振動板15、押え金具16、および締結ねじ17により構成されている。前記基板12は長方形状をなしており、その中央部には基板12の長手方向に沿って長方形状の窓孔13が形成されている。そして基板12の長手方向両端部の裏面には、前記基板12の幅方向に長いスペーサ14がそれぞれ配置され、さらに基板12の窓孔13を縦断するようにしてリボン形振動板15が、基板12の裏面側に配置されている。すなわち、リボン形振動板15の各端部は、前記スペーサ14上に載置されている。
【0025】
さらに、リボン形振動板15の両端部には、押え金具16が重ね合わされ、基板12の正面側から前記押え金具16に締結ねじ17がねじ込まれている。すなわち、締結ねじ17が押え金具16にねじ込まれることにより、リボン形振動板15の両端部が、それぞれ前記スペーサ14を介して基板12に圧着され、これによりリボン形振動板15は、基板12に固定されている。
【0026】
前記のようにして形成された振動板組立体11は、図1に示した磁気回路構成体1の両面にそれぞれ取り付けられ、図3に示されたリボン型マイクロホンユニット21になされる。すなわち、図1に示すフレーム2の両面に形成されたねじ孔6を利用して、図2に示す基板12の四隅を締結ねじ22で締め付けることで、振動板組立体11は磁気回路構成体1の両面にそれぞれ取り付けられ、2枚のリボン型振動板4を備えたマイクロホンユニット21が形成される。
【0027】
この結果、リボン形振動板15は、磁気回路構成体1のマグネット4,4間の磁気ギャップ内に、振動板15の幅方向に僅かな隙間を介して配置される。これにより、2枚のリボン形振動板の各面が互いに平行状態に対峙するように間隔をおいて配置されると共に、各リボン形振動板の長さ方向の両端部が、前記基板12を介して前記フレーム2にそれぞれ取り付けられた構成にされる。
【0028】
図4は、図3に示す2枚のリボン形振動板15を備えたマイクロホンユニット21を利用して、接話型マイクロホンを構成した振動板15の電気的な接続構成を示したものである。図4に示すとおり、音波を受けた振動動作に基づいて、前記各リボン形振動板15にはそれぞれ図4にi1およびi2で示す信号電流が生成される。
【0029】
そして、前記信号電流i1およびi2は、互いに相殺されるように前記各リボン形振動板15が直列接続され、前記各信号電流の相殺出力が、インピーダンス整合用の昇圧トランス41に加わるように、すなわち各信号電流i1,i2の相殺出力を音声出力信号として利用するように構成されている。したがって、前記した2枚のリボン形振動板15の接続構成によると、二次音圧傾度型のマイクロホンユニットを構成することになる。
【0030】
ここで、図4に示すように振動板15の両外側に加わる音圧をP1およびP2とすると、マイクロホンユニットに対して十分に遠い距離からの音源に関しては、低音ほどP1およびP2の音圧差は小さくなる。これは低音ほど波長が長いためである。したがって、これに基づく信号電流i1,i2の値はほぼ同一レベルとなり、前記電流i1,i2は相殺されるため、マイクロホンユニットとしての出力信号レベルは低下する。
【0031】
またマイクロホンユニットに十分近接した音源に対しては、近接効果により音圧P1およびP2の差は大きくなり、これに基づく信号電流i1,i2の値の差が増大し、この差分が出力信号として引き出される。これにより、遠方からの騒音を抑圧し、近接した位置からの話者からの明瞭な音声を収音することができる。
【0032】
図5は、前記した2枚のリボン型振動板を用いた接話型マイクロホンについて、周波数特性をEIAJ/RC−8160Aに基づいて測定した例を示している。この図5に例示されたように、マイクロホンユニット21と音源との距離が50cmの場合においては、1KHz以下の周波数領域では、低域になるほど出力レベルが低下する。またマイクロホンユニット21と音源との距離が5cmの場合においては、1KHz以下の周波数領域において、低域になるほど出力レベルが増加する。これによれば、低い周波数領域における耐騒音特性を発揮できることが理解できる。
【0033】
なお、前記したマイクロホンユニットは、これを防護するケース内に収容されることで、実用に供される接話型マイクロホンが構成されるが、前記マイクロホンケースは、図示を省略している。そして、この発明にかかる接話型マイクロホンによると、前記したように接話型マイクロホンとしての機能を十分に発揮することができ、かつ前記した発明の効果の欄に記載した作用効果を享受することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 磁気回路構成体
2 フレーム
3 窓孔
4 マグネット
5,6 ねじ孔
11 振動板組立体
12 基板
13 窓孔
14 スペーサ
15 リボン形振動板
16 押え金具
17 締結ねじ
21 マイクロホンユニット
22 締結ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームおよびマグネットを含む磁気回路構成部材によって形成された磁気ギャップ内に、導電性の薄膜からなる2枚のリボン形振動板が間隔をおいて配置されると共に、音波を受けた振動動作に基づいて前記各リボン形振動板に生成される信号電流が、互いに相殺されるように前記各リボン形振動板が直列接続され、前記各信号電流の相殺出力を音声出力信号として利用するように構成したことを特徴とする接話型マイクロホン。
【請求項2】
前記2枚のリボン形振動板の各面が互いに平行状態に対峙するように、前記磁気ギャッブ内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された接話型マイクロホン。
【請求項3】
前記フレームは窓枠状に形成され、前記窓枠の対向する内側面にそれぞれ前記マグネットが配置され、かつ前記各マグネット間に形成される磁気ギャップ内に前記各リボン形振動板が配置されると共に、前記各リボン形振動板の長さ方向の両端部が、前記フレームにそれぞれ取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された接話型マイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−199724(P2011−199724A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65950(P2010−65950)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】