説明

揮散性薬剤の拡散方法及びそれに用いる薬剤拡散用材

【目的】 例えば送風機による送風を当てるなど、運動エネルギーを用いることにより揮散性薬剤を強制的に揮散させるさいに、その運動エネルギーが揮散性薬剤の揮散に有効に作用してその揮散量が大きくなるようにする。
【構成】 揮散性薬剤を拡散用材に保持させ、駆動手段により該拡散用材を駆動させることにより、揮散性薬剤を気中に拡散させる方法。また、それに用いる、その内部及び/又はその表面に揮散性薬剤を保持させた薬剤拡散用材。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、揮散効率が高く、揮散量を多くしうる揮散性薬剤の拡散方法及びそれに用いる薬剤拡散用材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、揮散性薬剤を所定の場所に拡散させるに当っては、通常、揮散性薬剤又はそれを保持した担体を所定の場所に設置し、単に拡散による揮散をしているにとどまるが、それでは時間がかかるので、早く拡散させたい場合には、揮散性薬剤を保持する担体を加熱するか、あるいは送風機により空気を吹き出して、それを揮散性薬剤を保持する担体に当てることにより前記薬剤を強制的に揮散させる方法が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】担体に保持された薬剤を前記の送風機により強制的に揮散させる場合には、送られた風が揮散性薬剤を保持した担体と十分に接触しないためか、あるいは風が弱いために接触しても風力が小さく、前記担体からの薬剤の揮散化を促進する力が小さいために、十分満足しうる薬剤の拡散が行われなかった。
【0004】本発明は、このような送風機による送風により揮散性薬剤を強制的に揮散させる場合よりも、前記薬剤の揮散を十分良好に行いうる方法及びそのための薬剤を担持した薬剤拡散用材を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、揮散性薬剤を保持した揮散用材を駆動させると、その揮散が著しく増大することを見出すことによってなされたものであって、下記の手段によって、上記の目的を達成した。
(1)揮散性薬剤を保持した拡散用材を駆動手段により駆動することにより、揮散性薬剤を気中に拡散させることを特徴とする揮散性薬剤の拡散方法。
【0006】(2)前記拡散用材及び/又はそれに導入される空気を加熱することを特徴とする前記(1)項記載の揮散性薬剤の拡散方法。
(3)その内部及び/又はその表面に揮散性薬剤を保持させたことを特徴とする、駆動により揮散性薬剤を気中に拡散させるための薬剤拡散用材。
本発明において用いる揮散性薬剤としては、従来より害虫駆除剤(殺虫剤、殺ダニ剤)、殺菌剤、忌避剤、芳香剤(香水、ハーブ等)、医薬品(メントール、ユーカリオイル等、気管、カゼ等吸入用薬剤)等の目的で使用されている各種の薬剤を使用できる。代表的な薬剤としては次のものが挙げられる。
【0007】(I)殺虫剤・殺ダニ剤(1)ピレスロイド系薬剤・dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル dl−シス/トランス−クリサンテマート(一般名アレスリン:商品名ピナミン)
・dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル d−シス/トランス−クリサンテマート(商品名ピナミンフォルテ:住友化学工業株式会社製、以下「ピナミンフォルテ」という)
【0008】・dl−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル d−トランス−クリサンテマート(商品名バイオアレスリン:ユクラフ社製)
・d−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル d−トランス−クリサンテマート(商品名エキスリン:住友化学工業株式会社製)
・(1,3,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−1,3−ジオキソ−2−インドリル)メチル dl−シス/トランス−クリサンテマート(一般名フタルスリン:商品名ネオピナミン、以下「ネオピナミン」という)
【0009】・(1,3,4,5,6,7−ヘキサヒドロ−1,3−ジオキソ−2−インドリル)メチル d−シス/トランス−クリサンテマート(商品名:ネオピナミンフォルテ:住友化学工業株式会社製)
・(5−ベンジル−3−フリル)メチル d−シス/トランス−クリサンテマート(一般名レスメトリン、商品名クリスロンフォルテ:住友化学工業株式会社製、以下「クリスロンフォルテ」という)
【0010】・3−フェノキシベンジル−dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(一般名ペルメトリン、商品名エクスミン:住友化学工業株式会社)
・3−フェノキシベンジル−d−シス/トランス−クリサンテマート(一般名フェノトリン:商品名スミスリン:住友化学工業株式会社、以下「スミスリン」という)
・α−シアノ−3−フェノキシベンジル 2−(4−クロロフェニル)−3−メチルブチレート(一般名フェンバレレート)
【0011】・α−シアノ−3−フェノキシベンジル シス/トランス−2,2,3,3−テトラメチルシクロプロプロパンカルボキシラート(一般名フェンプロパトリン、以下「フェンプロパトリン」という)
・1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル dl−シス/トランス−クリサンテマート(一般名エムペンスリン、以下「エムペンスリン」という)
・2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル−dl−シス/トランス 3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(一般名フェンフルスリン、以下「フェンフルスリン」という)
【0012】・1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(以下「M−108C」という)
・1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル シス/トランス−2,2,3,3−テトラメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(以下「M−108B」という)
【0013】・(+)−2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロピニル)−2−シクロペンテニル(+)−シス/トランス−クリサンテマート(商品名エトック:住友化学工業株式会社)
・d−トランス−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(一般名ベンフルスリン)
【0014】・2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル−3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(一般名テフルスリン)
・(±)α−シアノ−3−フェノキシベンジル (+)−シス/トランス−クリサンテマート(商品名ゴキラート:住友化学工業株式会社)
【0015】(2)有機リン系薬剤・O,O−ジメチル O−(2,2−ジクロロ)ビニルホスフェート(以下、「DDVP」という)
・O,O−ジメチル O−(3−メチル−4−ニトロフェニル)チオノフォスフェート・O,O−ジエチル O−2−イソプロピル−4−メチル−ピリミジル−(6)−チオフォスフェート・O,O−ジメチル S−(1,2−ジカルボエトキシエチル)−ジチオフォスフェート
【0016】(3)カーバメート系薬剤・O−イソプロポキシフェニル メチルカーバメート(以下「バイゴン」という)
【0017】(4)その他の薬剤・ベンジルベンゾエート・イソボニールチオシアノアセテート(以下「IBTA」という)
・デヒドロ酢酸・ピペロニルブトキシド(以下「P.B.」という)
・パラオキシ安息香酸・サリチル酸フェニル・S−421・サイネピリン222(登録商標)(N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ〔2,2,1〕−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)
・N,N−ジエチル−m−トルアミド(以下「ディート」という)
・5−メトキシ−3−(0−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2(3H)−オン(一般名メトキサジアゾン、商品名エレミック:住友化学工業株式会社製)
【0018】(II)殺菌剤・S−n−ブチル−S′−p−ターシャリーブチルベンジル N−3−ピリジルイミドジチオカーボネート(商品名デンマート:住友化学工業株式会社製、以下「デンマート」という)
・N−(3′,5′−ジクロロフェニル)−1,2−ジメチル−シクロプロパン−ジカルボキシイミド(商品名スミレックス:住友化学工業株式会社製、以下「スミレックス」という)
・ペリルアルデヒド・アリルイソチアシアネート・パラクロロメタキシレノール(以下「PCMX」という)
【0019】(III)忌避剤・N,N−ジエチル m−トルアミド(以下「ディート」という)
・ジ−n−ブチル サクシネート(以下「DNBS」という)
・ジ−n−プロピル イソシンコメロネート(以下「DPIC」という)
なお、上記した薬剤の分類は、その主たる薬効に基づくものであって、殺虫剤が殺ダニ剤として使用されるものもあるし、また後記する効力増強剤の成分が殺ダニ剤として使用されるものもあるから、これらの薬剤は使用目的により変るため、上の分類は便宜上のものである。
【0020】本発明において用いられる上記殺虫剤等には通常用いられている酸化防止剤、効力増強剤、揮散率向上剤、消臭剤、香料等の各種添加剤を任意に添加することができる。効力増強剤としては、ピペロニルブトキサイド、N−プロピルイゾーム、サイネピリン222(登録商標)、サイネピリン500、リーセン384、IBTA、S−421等が、揮散率向上剤としてはフェネチルイソチオシアネート、ハイミックス酸ジメチル等が、消臭剤としてはラウリル酸メタクリレート(LMA)等が、香料としてはシトラール、シトロネラール、アネトール等が夫々挙げられる。
【0021】そして、害虫駆除剤を用いて害虫を駆除しうる場所は何ら制限を受けないが、好ましくは一定の空間として区切られた場所が好ましい。例えば、家屋、ビニルハウス、浄化槽等があり、そこに生息する害虫が対象となる。家屋内においてはハエ、カ、ゴキブリ、屋内塵性ダニ及び迷入して来る不快害虫、タンス内においてはイガ、コイガ、カツオブシムシ等の衣類害虫、ビニルハウス内においてはそこで栽培されている作物に影響を与える害虫、畜鶏舎内においてはヌカカ、ハエ、カ及びダニ類、そして浄化槽内ではチョウバエ、カ等が例示される。
【0022】本発明の揮散性薬剤の拡散方法に使用する薬剤の拡散用材の形状としては、その駆動のさい揮散性薬剤を良く拡散するような形状ならばどのようなものでもよく、少なくとも駆動によって該材の周囲の空気を攪乱するか、あるいは空気の境界層を攪乱して薬剤の拡散を助長する作用をするものならばよい。これらの形状のうち、空気を攪乱する作用が大きいものとしては送風機のブレードを有するもの、例えばファンのようなものがあり、これらを用いるのが好ましいが、駆動手段として回転を用いるときには空気を攪乱する作用を有するという意味で、送風作用がない円板の形状のものでもよい。また、駆動手段として振動を用いるときには、拡散用材の形状は振動しさえすればよいから、平板でもまたシート状体であってもよい。これらの形状の中では、送風作用を有する点でファンが最も好ましい。以下、ファンについて詳しく説明する。
【0023】ファンの形状としては、スクリュー状、あるいはプロペラ状に限らず、平板、水車型、ロータリーファン型などがある。大きな送風作用を行なわせる場合にはスクリュー状あるいはプロペラ状などが良く、送風により揮散量を大きくできる利点があるが、送風作用を伴う必要がないときには、周囲に空気流を生ずる程度の回転ができる円板などでもよい。ファンの形状に関しては、ファンへの薬剤の保持方法に応じても変るが、その薬剤の保持方法については後述する。例えば、ファン内部を空洞内に薬剤を入れる方式を取る場合には、その空洞を形成しうるような形状とする。
【0024】また、ファンに接触する空気量を増大させるために、ファンを形成する各ブレードに開口部を設けることができる。例えば、ブレードに多数の開口部を設けることにより薬剤を効率的に蒸散することができる。その開口部の形状としては、網目状の外に、格子状、ハニカム状等、種々の形を取ることができ、その開口部はなるべく均一に設けることが好ましい。ファンを構成するブレードの形状は、前記したファンの形状によって決まるが、単なる板状でなく、中空状のものでもよい。ブレードの厚さは、それを構成する材料が揮散性薬剤を含有するものであるときには、十分な揮散量を与えうる程度の保持量を有する厚さを有すればよいが、あまり厚くても薬剤が表面まで拡散してこないので、無駄となるから、適切な厚みを選択する。ファンを構成する各ブレードは、重量、空気抵抗がなるべく同じようにして、回転中のバランスが取れるようにするのが好ましい。
【0025】ファンがブレードを有する形状のものである場合には、後述する揮散性薬剤の保持方式の関係でブレード自体が着脱自在の構造のものであってもよい。本発明で用いるファンの一形式であるロータリーファン型の1例を図1〜3に示す。図1は、揮散性薬剤を薄い袋に収容した薬剤袋7を保持したロータリーファン型の薬剤拡散用ファン(拡散用材)1の斜視図であり、図2は前記ファンの平面図であり、図3は図1のファン本体の組立て前の斜視図である。
【0026】図1のファンの本体は、図3からわかるようにブレード部2と駆動装着部3とからなり、ブレード部2は多数の垂直なブレード5を有し、各ブレード5の間は開いていて開口部6を形成している。駆動装着部3は、図3に示すように中央に台部8を有し、また下部にはモーター(図示せず)に連結する軸部4を有しており、前記台部8はその直径がブレード部2の内径と僅かに小さいものとされ、それにブレード部2を嵌合して支持されるように構成されている。しかも、その両者の間隙は、図1に示すようにブレード部2の内周側に薄い薬剤袋7を添設して、そのブレード部2を台部8に嵌合したときに、薬剤袋7の下端が両者の間隙で挟持されることにより支持できるようにする。その支持された状態の薬剤拡散用ファンは、図2の平面図に示すとおりであって、薬剤袋7はブレード2の内周側に沿って設けられている。このため、薬剤袋7の大きさはブレード部2の内周の長さ及び高さとほぼ等しいものであることが好ましい。薬剤袋の材質は、内部の揮散性薬剤がその袋を通して容易に揮散するようなものとする。
【0027】図1〜3に示す薬剤拡散用ファン1においては、ブレード部2として図示のような、例えば合成樹脂で一体成型したような形状のものを用いているが、このブレード部2は組立て式のものであってもよく、その一例として図4に示すように、比較的柔軟性がある材質でつくられた、長方形のもので、両端に留め具9とフック10とを設けて構成されたブレード部2を、駆動装着部3の台部8の周囲に巻きつけ、留め具9にフック10を掛けて、円形のブレード部2を形成するようにしてもよい。
【0028】図1〜2に示す薬剤拡散用ファン1を、モーターの回転を軸部4に伝えることにより回転させると、ブレード部2のブレード5によって風が生じ、薬剤袋7の表面に出てきた揮散性薬剤をよく拡散させる。ブレード部2におけるブレード5の形状及び配置はその拡散をよくするために種々の形状を取ることができる。ここで説明した図1〜4の薬剤拡散用ファンはあくまでも1例であって、薬剤を収納した袋ではなく、薬剤を含有するシートでもよく、薬剤を容器内に納めたものでもよいし、またもっと簡単に薬剤を含有する合成樹脂でブレードを形成したものでもよいが、取扱上の危険性を減らすために取付け時に、薬剤を含有する部分に直接手を触れないですむ形状あるいは構造のものであることが望ましい。
【0029】実際の使用についてみると、通常の家屋の居室程度の空間に対してはかなり小型の送風機を使用すれば十分足りるものであって、ファンの回転数としては300rpm以上好ましくは、500〜10,000rpm程度で用いるのがよい。前記ファンの駆動手段としてはモーター、ゼンマイなどを用いることができる。上記の居室程度の空間に対しては乾電池などで動く小型モーターにより駆動する程度のファンを使用しても十分効果を奏する。
【0030】揮散性薬剤をファンに保持させる手段としては、種々の手段があり、大別して(1)ファンに直接保持させる方式、(2)ファンに間接的に保持させる方式がある。
(1)の方式では、(a)ファン自体を揮散性薬剤を混和した吸油性材料(例えば樹脂)によって構成する、(b)ファン全体又はその表面に近い内部層を多孔性の吸油性材料で構成し、その多孔性吸油性材料部分に揮散性薬剤を含浸させたものとするなどの、ファン内部に保持させる手段などを取ることができ、また(c)ファン表面に揮散性薬剤を含有する液体を塗布する、などのファン表面に保持させる手段を取ることができる。
【0031】(2)の方式では、(a)ファン自体に揮散性薬剤を封入したものを挟持させたり、収納させる、(b)ファンの表面に揮散性薬剤を含有する、又は含浸させた吸油性材料片を支持させる、(c)ファンの表面に揮散性薬剤を封入したものを固定するなどの手段を取ることができる。上記のようにしてファンに保持させた揮散性薬剤が消費し終ったならば、継続的に使用するためには揮散性薬剤を補給する必要があるが、(1)の方式のうち、(a)ではファンそのものを交換し、(b)及び(c)の含浸型では揮散性薬剤を溶液による含浸によって補給してやればよい。(2)の方式では、(a),(c)とも揮散性薬剤を封入したものを取換えればよく、(b)では前記吸油性材料片を取り換えればよい。
【0032】また、これらの方式の改変としては、ファンのブレードのみを揮散性薬剤を混和した吸油性材料で構成し、取り換えるようにしてもよい。(2)の方式では、揮散性薬剤を封入したものとしては、揮散性薬剤又はその溶液を少なくともガス透過性フィルムからなる膜部を有する容器、又は通気しうる微小孔を有する容器に封入したものを用いるのが好ましい。これら容器としては形状がファン表面に保持されるのが容易であるものが好ましく、例えば扁平なものなどが挙げられるが、他の形状のものでもよい。揮散性薬剤を含有する、又は含浸させた吸油性材料片としては板状、シート状その他の形状するのがよい。
【0033】この揮散性薬剤を封入するためのガス透過性フィルムとしては、エチレン酢酸ビニル重合体〔商品名D2021(酢酸ビニル 10wt%のもの)、H2020(酢酸ビニル 15wt%のもの)、K2013(酢酸ビニル 25wt%のもの)、D2011(酢酸ビニル 5wt%のもの)(いずれも住友化学工業社製)〕、ポリジメチルシロキサン、天然ゴム、ポリブタジエン、エチルセルロース、ポリクロロプレンなどが挙げられ、これらの多層フィルムも用いられる。このフィルムの厚さは、その中に封入した揮散性薬剤がそのフィルムを通って有効な量を通すが、過剰な量は通さないような徐放性の作用を有する程度のものとする。ただし、揮散性薬剤が洩れないような充分な強度を有するものでなければならない。その厚さは、具体的にはエチレン−酢酸ビニル重合体フィルムの場合例えば100μmであるが、それよりも薄くても、また厚くてもよい。
【0034】上記吸油性材料としては、例えばパルプ、布、天然繊維(例えば脱脂綿)、スポンジ、無機質粉、磁器、陶器、活性炭、ガラスウール、石綿、アクリル系親油性重合体(協和ガス化学(株)製)、アクリル系高吸油性樹脂KX−OA 100〜600(日本触媒(株)製)、ポリプロピレン繊維(登録商標テイジンオルソープ、ユニセル(株)製)、ポリプロピレン繊維不織布(登録商標タフネスオイルブロッター、三井石油化学工業(株)製)、特殊線状ポリマー(登録商標ウオセップ、東レ(株)製)等を1種若しくは2種以上組合せたものを挙げることができる。上記の材料のうち上記の方式に適したものを選択して使用すればよい。
【0035】上記(1)方式の(a)ではファンを構成する吸油性材料(例えば樹脂)中、揮散性薬剤を100〜500mg/gの範囲で含有させるのが好ましい。(b)及び(c)ではファンの表面積当りで好適な使用量を設定する。上記(2)方式の(a),(c)では、封入する方式なので、揮散性薬剤をそのまま用いる場合には、その使用量は特に制限を受けないが、揮散性薬剤を吸油性材料に含有させ、あるいは含浸させたものを支持させる場合、つまり(b)の場合には、その含有量などは前記の(1)方式の場合と同様とする。
【0036】また、ファンに保持させる揮散性薬剤が常温で揮散し難いものであって、その揮散量を多くしたいときには、送風機の空気導入路に加熱器を置いてファンと接触する空気を予熱するとか、ファンのそばに加熱器を置いてファンの面を加熱するなどの手段を採用することができる。その加熱温度は常温より20〜100℃、あるいはそれ以上上昇させる程度で十分な効果がある。エムペンスリン、ベンフルスリンのように揮散性の強い薬剤の場合には20〜30℃程度の上昇でも効果があるが、常温揮散性の低い薬剤の場合にはこの程度の上昇では効果がないため、もう少し上昇させることが必要である。
【0037】更に、この場合ファンの一部に熱伝導性物質、例えばアルミニウム粉、鉄粉等を添加することにより、ファンの温度が短時間で上昇し、初期の揮散量を多くすることができる。また、本発明は、拡散用材を駆動するのに、回転ではなく、振動やその他の方式を通用することができ、その振動としては、例えばバイブレーターとか電歪素子を用いた振動器、ピエゾファンを用いることができる。
【0038】
【作用】送風機により風を揮散性薬剤を保持した担体に当てて揮散させる従来技術では、風速などが物質移動速度を決めるもので、その風速もさほど大きくなく、風量も全部が担体に有効に作用するものではなかったが、本発明では前記薬剤が直接又は間接的に拡散用材、例えばファン等に保持されており、このファンは回転速度を大きくすることができるので、空気との接触速度が従来技術より著しく大きく、また広いファンの表面が利用することができるから、物質移動速度、ひいては物質移動量を著しく大きくすることができる。このため、本発明では前記薬剤の拡散量を大きくすることができ、きわめて効率よく拡散させることができる。
【0039】また、そのさい前述したように加熱条件下で行えば拡散量を十分大きくすることができる。
【0040】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1単2アルカリ乾電池で駆動するモーター(回転数2100rpm)の回転軸に直径2.5cm4枚羽のファンを取付けた送風機を構成した。
【0041】このファンとして、表1及び表2に記載された薬剤を有し、かつそのファン自体若しくはファンに保持させるための基材の種類を有するものを作成した。
【0042】
【表1】


【0043】
【表2】


【0044】注)1.表1〜2中、保持方法の「練込」「貼着」については、以下のことを意味するものである。「練込」とは、ファンを構成している素材自体に有効成分を常法により練込み成型することをいう。「貼着」とは、有効成分が保持された基材をファンに貼着することをいう。
2.薬剤有効成分の添加量を表わす「重量部:w/w%」は、ファン又は基材中に含まれる有効成分の重量%を示す。
実施例2本発明のファンとして、ポリ塩化ビニル樹脂1.4g中にエムペンスリンを10wt%練り込んだものから成型した4枚羽(直径2.5cm)のものを用いて、昆虫に対する活性試験を行った。
昆虫に対する殺虫活性試験容積が0.012m3 のガラス製円筒型水槽(内径23cm、高さ28.6cm)で、底に水約50mlを含浸させた綿を置き、ホシチョウバエ成虫約50頭を供試し、その空間の側面(上から5cm)に本発明のファンを有する送風機を装着し、これをそれに連結するモーターにより2100rpmで回転できるようにし、これを回転させて、薬剤を拡散させた。ただし、上記水槽の開口部をポリ塩化ビニリデンシートで覆って密閉空間とする。
【0045】この試験における薬剤の揮散・拡散性の違いは、空間内に供試したホシチョウバエ成虫のノックダウン時間の差によって評価した。また、対照として、薬剤を保持したファン(重量同じ)を空間中央に吊り下げただけのものを使用した。比較としては、ポリ塩化ビニル樹脂1.4g中にエムペンスリンを10wt%練り込んだものから成形した板状体を前記空間の側面の近くに吊り下げ、本発明のファンと同一形状のポリ塩化ビニル樹脂製のファンを本発明のファンと同一位置に置き、2100rpmで回転させ、その送風を前記板状体に当てるようにした。
【0046】その試験結果を表3に示す。
【0047】
【表3】


【0048】上記表3から明らかなように、本発明によれば揮散性薬剤をファンに直接保持させたことによって、ホシチョウバエのノックダウン時間がかなり短縮されており、薬剤の空間内への揮散、拡散性が促進されていることがわかる。
実施例3エチレン−メチルメタクリレート共重合体樹脂(以下「EMMA樹脂」という)は可塑材フタル酸ジメチル及びエムペンスリンを練合してシート状に成型し、このシートを切断してエムペンスリン含有EMMA樹脂プレートを製造する。この樹脂プレートのエムペンスリン当初含有率は9.6175w/w%であった。上記プレート4枚をファンの中心となる部材にブレード(羽根、厚み1mm)として取り付けて拡散用材であるファン(直径4.6cm)を作成した。このブレード部分の重量は合計で1.7973gであった。
【0049】このファンを回転数8,500rpmの高回転型モーターにより30日間回転させた後、アセトンにて1日抽出し、ガスクロマトカラムにてエムペンスリンを定量したところ総揮散量は21.9mgであった。また、このファンを回転数2,130rpmの低回転型モーターで回転させたときには、エムペンスリンの総揮散量は約15.9mgであった。
【0050】このファンを乾電池で動かす400〜800rpmのような微速モーターにより駆動させれば、エムペンスリンの揮散量はもっと少ないので、この場合長時間の使用に適する。
実施例4本発明のファンとしてEMMA樹脂10g中にエムペンスリンを10wt%練り込んだものから成型した4枚羽根(厚さ2mm)、直径8.0cmのものを用いた。
アカイエカに対する殺虫活性試験容積22.5m3 (3×3×2.5m)の網にて区切られた空間で犬小屋(60×72×90cm)を置き、該犬小屋内に中型の雑種犬を入れ、アカイエカが浸入できる金網を入口に取り付けた。そして、犬小屋天面に実施例4で得た本発明のファンを有する送風機を下向きに装着し、該ファンを約2,000pmで回転させ、連続的に薬剤を拡散させた。該空間内い供試虫雌を17時より翌日の9時まで放置した後、全供試虫を回収して吸血固体数を求め、それを0,5,11,15日経過後に行った。その結果を表4に示す。また、対照としては、薬剤処理していないポリ塩化ビニル樹脂製の同型のファンを約2000rpmで回転させた。
【0051】
【表4】


【0052】実施例5容積約0.15m3 (50×55×55cm)のタンス内の底面中央部に綿布10×10cmを重ねて置き、その内にイガ3令幼虫10頭を放ち、その上部天面にNo.2ろ紙(アドバンテック東洋社製)に総量で約16.5mgのエムペンスリンを溶解したアセトン溶液を含浸し、8枚の羽根に貼着したファン(直径9cm)を有する送風機を下向きに装着し、それに連結するモーターにより約2000rpmで回転できるようにし、これを回転させて薬剤を拡散し、室温で44時間後の仰天数及び致死数を測定した。また、対照として総量で約490mgのエンペンスリンを含浸したNo.2ろ紙を送風機と同じ位置に設置して同様に測定した。その結果を表5に示す。
【0053】
【表5】


【0054】実施例6表6及び表7に示す種類の供試フィルム(4×10cm)を2つ折りしたものの間に約1.0〜2.0gの揮散性薬剤及び必要に応じ0.08〜0.4gの吸油材(いずれも表6及び表7に示す)を入れ、周囲をヒートシールした揮散性薬剤封入体を作製し、これらの封入体をモーターに付設された図1記載の形状で内径3.3cm、外径4.7cm、高さ2.2cm、そして重量5.3gであるファン内部に沿って円柱状に装着し、表6及び表7に示す本発明の薬剤拡散用材を得た。なお、表中のフィルム「D2021」などは前述したエチレン酢酸ビニル重合体である。
【0055】
【表6】


【0056】
【表7】


【0057】試験例1上記実施例6の試料No.1〜10を使用し、表6及び表7に併記したモーターで上記試料のものを駆動させて、経時的に揮散性薬剤封入体の重量測定を行ない、その重量減少量をエムペンスリン揮散量とした。得られた測定結果を図5ないし図7に示す。なお、前記のモーターは単一乾電池により駆動するものを用いており、各図においてFとあるのは単一乾電池の電圧低下に伴うモーターの出力低下であり、Sとあるのは前記乾電池の消耗に伴うモーターの停止時を示し、Cとあるのは前記乾電池の交換時を示す。
【0058】図5〜7において縦軸は封入体重量、横軸は駆動日数を示す。図5において、「●」は試料No.1、「○」は試料No.2の封入体重量の変化を示し、図6において、「●」は試料No.3、「○」は試料No.10の封入体重量の変化を示し、そして図7において、「□」は試料No.5、「●」は試料No.6、「○」は試料No.7、「■」は試料No.8、及び「△」は試料No.9の封入体重量の変化を示す。
試験例2屋外犬小屋での蚊(アカイエカ、ヒトスジシスカ)に対する効力試験通風状態にしたガラス温室(縦3.5m、横2.5m、高さ3m)内に中型の雑種犬を入れた木製のゲージを置き、ガラス温室内に供試虫(アカイエカ、ヒトスジシスカ)を放し、エムペンスリンを含有する供試ファンを供試虫を放す約2〜3時間前から犬小屋内の天井部に設置した。ただし、雑種犬は犬小屋は閉じ込めた状態とし、犬小屋入口は蚊が自由に通り抜けられるように金網を張った。
【0059】アカイエカの場合は夕方5〜6時頃放飼し、翌朝9時頃全固体を回収し吸血率を調べた。また、ヒトスジシスカの場合は日中試験を行い、放飼して4時間後に全固体を回収し、吸血率を調べた。測定結果は表8に示す。この表8によれば、本発明方法はきわめて高い防除効果を有することが明らかである。
【0060】
【表8】


【0061】
【発明の効果】本発明は、揮散性薬剤を拡散用材に直接及び/又は間接的に保持させて駆動させることにより、揮散性薬剤の拡散量を著しく大きくすることができる。このため、より広い気中に効率よく使用することができる。また、拡散効率がよいので揮散性薬剤を担持した担体に送風機の風を当てるという従来の方法に比して、より小型の送風機を用いて行うことができ、例えば通常の居室に対しては乾電池を電源とするモーターで駆動する送風機を用いても足りるものである。
【0062】さらに、その揮散性薬剤の拡散量をより大きくしたいときには、加熱手段によって駆動手段へ導入される空気を予熱し、及び/又は拡散用材そのものを加熱することによって行うことができる。そのさいの揮散量は、従来の担体を単に加熱している場合よりもかなり大きい。また、そこで駆動させる拡散用材、例えばファンの表面に揮散性薬剤を含有する基材、又は揮散性薬剤封入体を支持させるときには、これら基材等を交換、あるいはそれを薬剤に補給すれば引き続き使用ができるし、ファンそのものをあるいはその羽根など揮散性薬剤を含有する材料、例えば合成樹脂で構成するときには、ファンそのもの又はその一部などを交換すれば引き続き使用することができるので、実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の薬剤拡散用材の1実施例であるロータリーファン型の薬剤拡散用ファンの斜視図を示す。
【図2】図1の薬剤拡散用ファンの平面図を示す。
【図3】図1の薬剤拡散用ファンの組立て前の各要素の斜視図を示す。
【図4】図1の薬剤拡散用ファンに用いられる組立式ブレード部の斜視図を示す。
【図5】本発明の実施例6の薬剤拡散用材を試験したさいの経時的な封入体重量変化を表わすグラフを示す。
【図6】本発明の実施例6の薬剤拡散用材の別のものを試験したさいの経時的な封入体重量変化を表わすグラフを示す。
【図7】本発明の実施例6の薬剤拡散用材の他のものを試験したさいの経時的な封入体重量変化を表わすグラフを示す。
【符号の説明】
1 薬剤拡散用ファン
2 ブレード部
3 駆動装着部
4 軸部
5 ブレード
6 開口部
7 薬剤袋
8 台部
9 留め具
10 フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】 揮散性薬剤を保持した拡散用材を駆動手段により駆動させることにより、揮散性薬剤を気中に拡散させることを特徴とする揮散性薬剤の拡散方法。
【請求項2】 前記拡散用材及び/又はそれに導入される空気を加熱することを特徴とする請求項1記載の揮散性薬剤の拡散方法。
【請求項3】 その内部及び/又はその表面に揮散性薬剤を保持させたことを特徴とする、駆動により揮散性薬剤を気中に拡散させるための薬剤拡散用材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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