説明

揮発性有機化合物除去繊維

【課題】光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含有してなる揮発性有機化合物を除去できる繊維および該揮発性有機化合物除去繊維を少なくとも一部に有する揮発性有機化合物除去繊維構造物に関する。
【解決手段】光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含有し、かつ揮発性有機化合物の除去率が80%以上であることを特徴とする揮発性有機化合物除去繊維。好ましくは、金属酸化物微粒子が酸化チタン、金属酸化物微粒子の粒子径が10〜100nmであり、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であり、かつ、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が緻密層に含有されている揮発性有機化合物除去繊維。並びに該揮発性有機化合物除去繊維を少なくとも一部に有する揮発性有機化合物除去繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含有してなる揮発性有機化合物を除去できる繊維および該揮発性有機化合物除去繊維を少なくとも一部に有する揮発性有機化合物除去繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物などの有害なガスや悪臭成分を除去する繊維として、活性炭繊維が知られている。例えば、特許文献1では低級アルデヒド類除去用活性炭繊維、アルカリガス除去用活性炭繊維、酸性ガス除去用活性炭繊維及び芳香族化合物除去用活性炭繊維を用いた悪臭除去用活性炭繊維棒状集束吸着材か開示されている。しかしながら、かかる活性炭繊維は黒色であり、繊維としての加工性に優れているとは言えず、また、飽和吸着量を超えると悪臭を除去できなくなるという問題を有している。
【0003】
そこで近年、酸化チタン等の光触媒活性を有する金属酸化物等を繊維に含有せしめた繊維が提案されている。例えば、特許文献2には、光触媒と吸着剤を含有してなる消臭性繊維が開示されており、芯部より鞘部の光触媒濃度が高い芯鞘型の構造を有する繊維が好ましいとしている。かかる繊維によると、悪臭成分は光触媒により分解されるため、飽和吸着量を超えると悪臭を除去できなくなるという問題は解消される。しかしながら、かかる芯鞘構造の繊維では、芯部の光触媒は有効に利用されないため、消臭能力に乏しい。
【0004】
光触媒機能を活用するため、多孔質繊維中に光触媒活性を有する金属酸化物等を含有させるという提案もある(例えば、特許文献3)。 この方法によると、繊維の表面積が増え、表層部に存在する金属酸化物が増えるため、光触媒機能を有効に利用することができるように思えるが、紡績加工性(静電気発生)、染色性(発色性)等に難点があり、さらに、表層部の金属酸化物微粒子は、紡績、染色等の工程、あるいは洗濯等で容易に脱落してしまうため、やはり十分な消臭効果が得られないという問題がある。
【0005】
一方、光触媒は母体である繊維自体も分解してしまうため、繊維が変色したり、強度が低下するという問題もある。そのため、特許文献4においては、酸化チタンと酸化ケイ素を含有する複合金属酸化微粒子を用いている。かかる微粒子を用いることによって、繊維の変色や強度低下をある程度抑えることができている。しかしながら、かかる特殊な微粒子を用いることによって、コストが高くなること、また消臭能力に対しては該微粒子の量が多いほうが好ましく、量を増やすと依然として、繊維が変色したり強度が低下したりするという問題がある。
【特許文献1】特開2003−236373号公報
【特許文献2】特開平8−284011号公報
【特許文献3】特開平10−57816号公報
【特許文献4】特開2004−162245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、有害な揮発性有機化合物を除去できる繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、以下に示す本発明に到達した。
【0008】
(1)光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含有し、かつ揮発性有機化合物の除去率が80%以上であることを特徴とする揮発性有機化合物除去繊維。
(2)金属酸化物微粒子が酸化チタンであることを特徴とする(1)に記載の揮発性有機化合物除去繊維。
(3)金属酸化物微粒子の粒子径が10〜100nmの範囲であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の揮発性有機化合物除去繊維。
(4)繊維の母体100重量部に対して、金属酸化物微粒子が1〜10重量部含有されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維。
(5)多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であり、かつ、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が緻密層に含有されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維。
(6)繊維の細孔表面積が10〜40m/gの範囲であることを特徴とする(5)に記載の揮発性有機化合物除去繊維。
(7)アクリロニトリル系重合体からなる繊維であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維を少なくとも一部に有することを特徴とする揮発性有機化合物除去繊維構造物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の揮発性有機化合物除去繊維および該繊維を少なくとも一部に有する揮発性有機化合物除去繊維構造物は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含んでいるため有害な揮発性有機化合物を除去することができ、特にベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物や炭化水素の混合物であるガソリンや灯油をも除去することができる。また、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維の緻密層に含有せしめることにより、光触媒機能を有効に活用し、さらに効率的に揮発性有機化合物を除去することができる。また、紡績性、染色性など繊維として必要とされる加工性にも優れており、種々の用途に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。まず、本発明の揮発性有機化合物除去繊維は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含有し、かつ揮発性有機化合物の除去率が80%以上であることが必要である。かかる除去率は以下の方法で測定した値である。除去率がこの範囲を下回る場合、残存揮発性有機化合物濃度が高くなるので、実用上好ましくない。
【0011】
除去率:試料繊維0.1gをテドラーバッグに所定濃度(初期濃度)の揮発性有機化合物と空気との混合ガス1000mlと共に密閉した。ブラックライト蛍光ランプにより48時間紫外線を照射した後、ガス検知管によってテドラーバッグ内の残留揮発性有機化合物濃度(残留ガス濃度)を測定し、この残留ガス濃度と初期濃度から除去率を計算した。
【0012】
本発明の揮発性有機化合物除去繊維は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含んでいる。かかる金属酸化物微粒子は、紫外線照射によりその表面で電子と正孔が発生し、周囲の水や酸素から強力な酸化力を有する活性酸素を発生させる物質である。具体的には、Se、Ge、Si、Ti、Zn、Cu、Al、Sn、Ga、In、P、As、Sb、C、Cd、S、Te、Ni、Fe、Co、Ag、Mo、Sr、W、Cr、Ba、Pb等の酸化物などの化合物であって水に不溶のものが挙げられる。これらの中でも酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化タングステンから選ばれる1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものが好適であり、さらに、安全性や価格の面から酸化チタンを用いるのが好ましい。
【0013】
また、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、平均一次粒子径として10〜100nmの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは10〜50nm、より好ましくは15〜30nmの範囲である。無論、平均一次粒子径が小さいほど光触媒としての活性は高いわけであるが、平均一次粒子径が10nm未満の場合、繊維に含有させる際の取り扱い性(粉塵)、及び分散性(凝集性)に問題を生ずる可能性がある。一方、平均一次粒子径が100nmを超える場合には、十分な機能が得られない可能性がある。
【0014】
光触媒活性を有する金属酸化物微粒子の量は、必要とされる揮発性有機化合物の除去能力に応じて広い範囲から選択できる。該微粒子の量が少ないと、必要な能力が得られない場合があり、また多すぎると能力としては優れているものの、母体繊維を劣化させたり、繊維の物性を損なう恐れがあるため、繊維の母体100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは1.5〜8重量部である。
【0015】
本発明において母体となる繊維は多孔質層と緻密層が繊維断面方向に交互に配列した多層構造繊維であることが好ましい。多層構造繊維の層数としては、一層の多孔質層と一層の緻密層からなる二層以上の多層構造を有するものであり、三層以上の場合は、かかる多孔質層と緻密層が交互に配列していることが好ましい。さらに、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子は緻密層側に含有されていることが好ましい。緻密層側に含有されていれば、多孔質層側にも含有されていても構わないが、多孔質層側の微粒子は脱落しやすいため、また、緻密層側に含有されていれば十分な機能が得られるため、コストの面からも緻密層側にのみ含有せしめる方が好ましい。
【0016】
上述したように本発明において母体となる繊維は多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維である事が望ましいが、該繊維の細孔表面積は10〜40m/gの範囲であることが好ましく、更に好ましくは20〜40m/gの範囲である。該繊維の細孔表面積が10m/g未満の場合は、揮発性有機化合物の吸着面積が小さくなるなど、光触媒機能を十分活用できない場合がある。また、40m/gを超える場合には紡績性(静電気)、染色性(発色性)等の加工性に難を生ずる可能性がある。
【0017】
本発明に採用しうる繊維としては、特に限定はなく、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン系繊維、エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリクラール繊維、フッ素系繊維、蛋白−アクリロニトリル共重合体系繊維、ポリグリコール酸繊維、フェノール樹脂繊維などの合成繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維を挙げることができる。中でも、アクリロニトリル系重合体からなるアクリル系繊維は、光触媒活性に対し耐性が高いことから、本発明繊維の母体繊維として最も好適なものである。
【0018】
なお、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維の場合は、同種あるいは異種の重合体からなる所謂複合繊維である。かかる多層構造繊維を得るための手段としては、それ自体公知の複合繊維の製造方法(サイドバイサイド型、ランダム複合型)から任意に選択出来るが、好ましくは特公昭59−7802号公報記載のような2成分の紡糸原液を任意のエレメント数を設置した登録商標名Kenics Mixer(米国ケニックス社製)、ISG Mixerを通過させた後、口金導入孔の分流板で複合流を導き吐出するいわゆるランダム複合型を採用することによって本発明の目的を有利に達成することが出来る。
【0019】
また、本発明において上記多層構造繊維は、多孔質層と緻密層を有している。かかる構造の繊維は、公知の多孔質繊維を製造する方法と、通常の緻密繊維を製造する技術を組み合わせることによって得ることができる。例えば多孔質層側の紡糸原液に母体繊維となる重合体と相溶性の低い重合体を添加し、相分離によりキャピラリー状の多孔質構造を得る方法、非揮発性溶媒を多孔質層側の紡糸原液に添加し、紡糸後に該溶媒を抽出することにより多孔質構造を得る方法、また、製造工程中の膨潤ゲルトウに水溶性化合物を充填し、乾燥、後処理の後で充填物を溶出させ多孔質を得る方法、あるいは緻密化条件の異なる同種又は異種の重合体を用い、一方の重合体のみが緻密化する条件で処理を行う方法等を挙げることができる。
【0020】
以下に、本発明の揮発性有機化合物除去繊維の製法の一例として、アクリロニトリル含有量の異なる2種類の重合体を用いたアクリル系繊維の製法について詳述する。まず、ポリアクリロニトリル系重合体としては、単独重合体、公知のモノマーとの共重合体を用いることができるが、混在して繊維を構成する2種類の重合体共にアクリロニトリル(以下、ANともいう)比率が60重量%以上、より好ましくは80重量%以上であることが望ましい。また2種類の重合体のアクリロニトリル含有量の差は、同じ紡糸条件で、一方を多孔質層、他方を緻密層とするためには、それぞれの緻密化条件にある程度の差が必要となるため、その差が1重量%以上、好ましくは2重量%以上であるものが好ましい。
【0021】
共重合に用いられるコモノマーとしては重合性不飽和ビニル化合物など、アクリロニトリルと共重合するものであれば特に制限はなく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリロニトリル、アクリルアミド、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、スチレン、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸塩、エチレン、プロピレン等を使用することができる。
【0022】
以上のような2種類のアクリロニトリル系重合体を混在させ繊維を形成させる方法としては、2種類のアクリロニトリル系重合体をそれぞれ単独にポリアクリロニトリルの溶剤に溶解した後、その重合体溶液を特定の紡糸装置・口金に導きサイドバイサイド型とする方法、2種類の重合体溶液を原液多層形成装置を通して紡糸口金に導きランダム複合型とする方法などが挙げられる。中でもランダム複合型が2層を超える多層構造の繊維が得られるため推奨される。なお、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子は、緻密層側の重合体溶液に添加、あるいは重合体に添加して紡糸原液を作成する。
【0023】
かかるランダム複合型のアクリル系繊維の製造は、例えば以下のようにして行われる。まず、それぞれの重合体を溶剤に溶解して2種の紡糸原液(a,b)とする。この2種の原液a,bは原液多層形成装置に導かれる。かかる装置の例としてはスタティックミキサーである登録商標名Kenics mixer,あるいはISG mixer等が挙げられるが、該装置は原液を通過させることにより供給側の原液層数の2〜10倍の原液層数として出口側から送出するものである。かかる装置を複数段使用することで形成される原液の層数は自由に設定できる。
【0024】
原液多層形成装置の出口側には紡糸口金を装着する。a,b,a,b‥‥の如くにn層に形成された原液がホール数Hを持つ紡糸口金に供給される場合、紡出孔1ホールに供給される原液層数は平均的にはn/H0.5に比例する。比例係数は原液多層形成装置や紡糸口金の形状(紡出孔の配置)、該口金の取り付け方向等の装置条件に依存するので、1本の繊維の断面に要求される層の数に応じてこれらの条件を適合させるのである。
【0025】
紡糸口金から吐出された紡糸原液は凝固、水洗、延伸の各工程を経て、続いて湿熱処理を行う。この際、一方が緻密層、他方が多孔質層となるように、凝固条件、湿熱処理条件を設定する。なおここでいう湿熱処理とは、飽和水蒸気や過熱水蒸気の雰囲気下で加熱を行う処理を意味する。その後、多孔質層が緻密化しない温度で乾燥することにより、本発明にかかる揮発性有機化合物除去繊維が得られる。
【0026】
なお、AN含有率が同じであっても、例えば一方のAN系重合体のコモノマーを親水性のものとし、他方を疎水性のものとするように、異なるコモノマーを用いることによって、本発明の揮発性有機化合物除去繊維を得ることができる。
【0027】
かくして得られる本発明の揮発性有機化合物除去アクリル繊維は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維の緻密層に含有されている。そのため、多孔質層に空気中の揮発性有機化合物が吸着され、該多孔質層に接する緻密層の光触媒活性を有する金属酸化物により分解されることによって、特に優れた機能を有するものと考えられる。さらに、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が、緻密層に含有されているため、該微粒子の染色時の脱落を抑えることができ、また優れた洗濯耐久性を有している。加えて、多孔質層のみの繊維の場合に惹起される静電気の発生による紡績性の悪化や染色性の悪化も抑えることができる。
【0028】
本発明の揮発性有機化合物除去繊維構造物は、上述してきた揮発性有機化合物除去繊維を少なくともその一部に用いた繊維構造物であり、該揮発性有機化合物除去繊維のみからなるものであっても、木綿、羊毛、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維等の他の繊維と混用したものであっても構わない。また、他の繊維と混用する場合において、他の繊維の種類や混合割合は、特に限定されるものではなく、最終製品に必要とされる特性に応じて適宜選択すればよいが、あまりに該揮発性有機化合物除去繊維の含有率が小さいと揮発性有機化合物の除去性能が乏しくなるため、5重量%以上、より好ましくは10重量%以上含有させておくのが好ましい。なお、揮発性有機化合物除去繊維の混用形態としては紡績における混綿及び精紡・撚糸工程での交撚等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の繊維構造物の外観形態としては、糸、ヤ−ン(ラップヤ−ンも含む)、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シ−ト状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等がある。該構造物内における本発明繊維の含有形態としては、他素材との混合により、実質的に均一に分布したもの、複数の層を有する構造の場合には、いずれかの層(単数でも複数でも良い)に集中して存在せしめたものや、夫々の層に特定比率で分布せしめるもの等がある。
【0030】
したがって本発明の繊維構造物は、上記に例示した外観形態及び含有形態の組合わせとして、無数のものが存在する。いかなる構造物とするかは、最終製品の使用態様、要求される性能、かかる性能を発現することへの本発明繊維の寄与の仕方等を勘案して適宜決定される。
【0031】
本発明の構造物は、揮発性有機化合物を除去することが必要とされるさまざまな用途に利用でき、例えば衣類、履物類、カーテンやカーペットなどのインテリア用品、椅子、ソファ、車両の座席などのシート材、家屋の壁や家具などの壁装材、自動車、列車などの内装材、エアフィルターをはじめとする多種の用途に有用である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に記載の%あるいは部は、特に断りのない限り重量%あるいは重量部である。また、実施例及び比較例中で用いた評価試験の方法は以下の通りである。
【0033】
(揮発性有機化合物除去率)
試料繊維0.1gを1.5L容のテドラーバッグ(登録商標)に入れ、初期濃度60体積ppmになるようにエチルベンゼンガスを入れて密閉した。反射板付ブラックライト蛍光ランプ(松下電器産業株式会社製、20ワット形FL20S・BLB)2本を平行に取り付けた光源を用い、テドラーバッグ(登録商標)から20〜30cmの距離で紫外線を照射した。紫外線強度は、紫外線強度計を用いて0.25mW/cmの条件となるように、光源からの距離を調整した。48時間紫外線を照射後、エチルベンゼン検知管でテドラーバッグ(登録商標)中の残留エチルベンゼンガス濃度を測定し、次式に従い除去率(%)を算出した。
除去率(%)=〔(初期濃度−残留ガス濃度)/初期濃度〕×100
同様の方法で、トルエンガス初期濃度40体積ppm、キシレンガス初期濃度30体積ppm、ガソリン初期濃度300体積ppm、灯油初期濃度110ppmの条件で各残留ガス濃度を測定し、各々の除去率(%)を上記と同様にして算出した。
【0034】
(細孔表面積評価)
繊維10mgを短繊維状にカットし、島津製作所製MICROMERITICS Auto Pore IVにて水銀圧4.14×10−2〜4.14×10MPaまで評価した。得られる細孔表面積(A1)は繊維間空隙を含むため、次式により繊維間空隙分(A2)を減じたものを繊維の細孔表面積とした。
繊維の細孔表面積=A1−A2
A1:水銀圧4.14×10−2〜4.14×10MPaの細孔表面積
A2:水銀圧4.14×10−2〜1.38MPaの細孔表面積
【0035】
(多層化層数評価)
繊維200本を引き揃え蝋で固めた後、ライカ社製ミクロトーム2065を用い繊維断面方向に厚さ50nmの薄片試料を作成した。作成した薄片試料をNikon社製光学顕微鏡AFX−IIにて観察、繊維一本当りの層数を数え、200本の平均層数を多層化層数とした。なお、薄片試料を染料等で薄く色づけするとより容易に層数を数えることが出来る。
【0036】
(実施例1)
アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が90重量%のアクリロニトリル共重合体からなる紡糸原液(I)及び、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が88重量%のアクリロニトリル共重合体と平均一次粒子径15nmの酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製TK522)からなる紡糸原液(II)をISG Mixer(理論原液層数432)に1:1の割合で供給して多層化混合し、湿式紡糸した。ここで、アクリロニトリル系共重合体の溶媒としては、ロダン酸ソーダ水溶液を用いた。また、酸化チタン微粒子は紡糸原液(II)のアクリロニトリル重合体100重量部に対して、5重量部となるよう調整した。
凝固液には12重量%濃度のロダン酸ソーダ水溶液を1.5℃で用いた。次いで水洗、熱延伸を施し、得られた繊維を乾燥することなく弛緩状態で115℃のスチーム処理を行い、さらに110℃で15分間乾燥し、ランダム複合型のアクリル繊維である本発明の揮発性有機化合物除去繊維を得た。
【0037】
(比較例1)
アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が88重量%のアクリロニトリル共重合体からなる紡糸原液(III)のみを用いた以外は、実施例1と同一の方法で評価用繊維を得た。
【0038】
(比較例2)
実施例1の紡糸原液(II)に代えて、実施例1の紡糸原液(I)を用いた以外は、実施例1と同一の方法で評価用繊維を得た。
【0039】
(比較例3)
実施例1の紡糸原液(II)に代えて、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が88重量%と平均一次粒子径100nmの酸化チタン微粒子(富士チタン社製TAF−520J)からなる紡糸原液(IV)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用繊維を得た。なお、酸化チタン微粒子は紡糸原液(IV)のアクリロニトリル重合体100重量部に対して、0.5重量部となるよう調整した。
【0040】
(実施例2)
凝固液として12重量%濃度のロダン酸ソーダを5℃で用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用の揮発性有機化合物除去繊維を得た。
【0041】
(実施例3)
実施例1で用いたテイカ株式会社製酸化チタンTK522に代えて、平均一次粒子径5nmの酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製酸化チタンAMT100)を用い、紡糸原液(II)に代えて、酸化チタン微粒子が紡糸原液(II)中のアクリロニトリル共重合体100重量部に対して、2.5重量部となるように調整した紡糸原液(V)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用の揮発性有機化合物除去繊維を得た。
【0042】
(実施例4)
実施例1で用いたテイカ株式会社製酸化チタンTK522に代えて、平均一次粒子径30nmの酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製酸化チタンAMT600)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用の揮発性有機化合物除去繊維を得た。
【0043】
各実施例および比較例で得られた繊維について、揮発性有機化合物(エチルベンゼン、トルエン、キシレンアセト)の除去率、細孔表面積、及び多層化層数を評価し、その結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表の結果からも明らかなように、実施例1〜4の揮発性有機化合物除去繊維は比較例1〜3のものに比べて、優れた揮発性有機化合物除去率を示した。ただし、実施例2の揮発性有機化合物除去繊維は紡績時カーディング等で静電気が発生しやすく、紡績等の加工性に劣るものであったが、除去性能は優れており、加工時の温湿度、もしくは、混率等の適正化により十分実用可能なものであった。また、実施例3の揮発性有機化合物除去繊維を作成するにあたっては、酸化チタン微粒子の水分散液を作成する際、酸化チタン微粒子が粉塵となりやすく防塵マスク等の装着が必要であり、また、酸化チタン微粒子が一次粒子にまで分散しにくく分散にかなりの時間が必要であるなど作業性、生産性に若干の問題はあるものの、優れた除去性能を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒活性を有する金属酸化物微粒子を含有し、かつ揮発性有機化合物の除去率が80%以上であることを特徴とする揮発性有機化合物除去繊維。
【請求項2】
金属酸化物微粒子が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機化合物除去繊維。
【請求項3】
金属酸化物微粒子の粒子径が10〜100nmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物除去繊維。
【請求項4】
繊維の母体100重量部に対して、金属酸化物微粒子が1〜10重量部含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維。
【請求項5】
多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であり、かつ、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が緻密層に含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維。
【請求項6】
繊維の細孔表面積が10〜40m/gの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の揮発性有機化合物除去繊維。
【請求項7】
アクリロニトリル系重合体からなる繊維であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の揮発性有機化合物除去繊維を少なくとも一部に有することを特徴とする揮発性有機化合物除去繊維構造物。


【公開番号】特開2006−265811(P2006−265811A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11132(P2006−11132)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】