損傷監視システム、測定装置
【課題】構造物の各部位に取り付けられた測定装置と、測定装置と無線接続された監視サーバにより構造物の損傷の有無を判定するシステムにおいて、測定装置における電力消費量を抑える。
【解決手段】測定装置20は、構造物に生じる加速度に応じた測定信号を出力する測定部110と、測定部110から出力された出力信号に基き指標値を算出する演算処理部120と、演算処理部120により算出された指標値を監視サーバへ無線送信する無線送信部130と、測定部110、演算処理部120、無線送信部130へ電力を供給する電池140と、常時は、電池140から無線送信部130への電力供給を停止し、測定部110により測定された加速度の振幅幅が所定の閾値を超えたと演算処理部120が判定した場合に無線送信部130への電力供給を許可する電力供給制御部141とを備える。
【解決手段】測定装置20は、構造物に生じる加速度に応じた測定信号を出力する測定部110と、測定部110から出力された出力信号に基き指標値を算出する演算処理部120と、演算処理部120により算出された指標値を監視サーバへ無線送信する無線送信部130と、測定部110、演算処理部120、無線送信部130へ電力を供給する電池140と、常時は、電池140から無線送信部130への電力供給を停止し、測定部110により測定された加速度の振幅幅が所定の閾値を超えたと演算処理部120が判定した場合に無線送信部130への電力供給を許可する電力供給制御部141とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物が地震などを被災した際に、構造物に損傷が発生したか否かを監視するためのシステム及びこのシステムを構成する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大地震等が起きた際に、建物の構造体に発生した損傷を監視するため、建物の構造体の各部に加速度センサを取り付け、この加速度センサにより測定された加速度に基づき建物の構造体の損傷の有無を判定する方法が知られている。このような方法の一例として、健全時と地震後における加速度をFFT解析することにより建物の固有周期を算出し、健全時と地震後の固有周期が異なるか否かに基づき損傷の有無を判定する方法が用いられている。しかしながら、固有周期を算出するために用いられるFFT解析などの演算は計算負荷が大きいため、高性能の演算処理装置が必要となる。
【0003】
このため、本願出願人らは、健全時と地震後において、所定時間内のA/D変換された加速度の絶対値を加算して振幅絶対値和を算出し、健全時と地震後における振幅絶対値和を比較することで損傷の有無を判定する方法を提案している(特許文献1参照)。
【0004】
また、本願出願人らは、健全時と地震後において、A/D変換された加速度を表すサンプル値列において、所定時間内の正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数をカウントし、そのカウント数をゼロクロス回数とし、健全時と地震後におけるゼロクロス回数を比較することで損傷の有無を判定する方法を提案している(特許文献2参照)。
特許文献1及び2記載の方法によれば、複雑な演算処理が不要であるため、演算処理装置として低価格なものを用いることができる。
【特許文献1】特開2008―3043号公報
【特許文献2】特開2008―2986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2記載の方法は、構造物に取り付けられた加速度センサと、加速度センサにより測定された加速度に基き振幅絶対値和又はゼロクロス回数を求めるCPUとを備えた測定装置及び測定装置と通信可能であり、測定装置によりもと得られた振幅絶対値和又はゼロクロス回数に基き損傷の有無を判定する監視サーバにより構成されるシステムにより実現される。
【0006】
ここで、上記のシステムにおいて測定装置は多数取り付けられるため、測定装置と監視サーバとは無線通信により通信することが望ましい。この場合、測定装置は、必ずしも、外部電源を利用できるような場所に取り付けられるわけではないため、測定装置内に組み込まれた電池によりCPU及び無線通信手段を起動させることとなる。しかしながら、加速度センサやCPUは消費電力が小さいものの、無線通信手段は消費電力が大きい。このため、短期間で電池の電力が消費されてしまい、頻繁に電池の交換を行う必要があるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、測定装置における電力消費量を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の損傷監視システムは、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に基き求められた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する複数の測定装置と、各測定装置の前記送信部が送信した無線信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した無線信号で示される前記物理量又は前記指標値に基き前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を有する損傷監視装置と、を備えた前記構造物の損傷の有無を監視するシステムであって、前記測定装置は、常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記のシステムにおいて、前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号の絶対値を加算して振幅絶対値和を算出する演算処理部を備え、前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記振幅絶対値和を送信してもよい。
【0010】
また、前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号において正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数であるゼロクロス回数をカウントする演算処理部を備え、前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記ゼロクロス回数を送信してもよい。
【0011】
また、前記電源部は、前記演算処理部へ電力を供給し、前記電力供給制御部は、常時は、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を許可してもよい。
また、前記測定装置の送信部から送信された無線信号を、前記損傷監視装置の受信部へ中継する複数の中継装置を備え、前記複数の測定装置は、夫々、複数の前記中継装置と無線通信可能であってもよい。
【0012】
また、前記複数の測定装置の前記送信部には、夫々、予め異なる遅延時間が設定されており、前記送信部は、夫々、前記監視部が起動信号を生成してから、前記設定された遅延時間だけ経過した後、前記物理量又は前記指標値に応じた無線信号を送信してもよい。
【0013】
また、前記複数の測定装置には、予め、前記送信部の異常の有無の検査を行う検査時点が設定されており、前記測定装置の送信部は、夫々、前記検査時点ごとに前記検査のための無線信号を送信し、前記損傷監視端末は、前記受信部により、各測定装置の送信部から送信された前記無線信号を受信できるか否かに基き、前記測定装置の前記送信部の異常の有無を判定してもよい。
【0014】
また、本発明の測定装置は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に応じた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する測定装置であって、常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電力供給制御部により、常時は、電池から送信部への電力供給を停止し、測定部により、予め設定された振幅値よりも大きな振幅が測定された場合に送信部への電力供給を許可することとしたため、電力消費量を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の損傷監視システムの一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
本願出願人らは、上記のように、(1)加速度、速度、変位などの物理量(以下、振動物理量という)の絶対値の総和に基き損傷の有無を判定する手法(特許文献1)、及び(2)振動物理量の時間波形が所定時間内に正から負又は負から正へゼロを横切る回数(以下、ゼロクロス回数という)に基き、構造体の損傷の有無を判定する手法(特許文献2)を提案しており、本実施形態ではこれらの手法に基いて振動物理量から損傷の有無を判定している。その概要は以下の通りである。
【0017】
まず、手法(1)に関して、建物の構造体に損傷が発生していない場合には、地震動の振幅が大きくなると、それに比例して構造体に生ずる振動物理量の振幅も増加する。しかし、建物の構造体に損傷が生じると剛性が低下し、モード形状に変化が生じるため、その部位における振動物理量の振幅の増加の傾向が変化する。このため、健全時に対する地震後の振動物理量の振幅の比を算出し、この比が他の部位と異なる場合には、該当する部位に損傷が発生したと判定できる。
【0018】
すなわち、具体的には、構造体に損傷が生じていない状態における構造体の各部位の振動物理量の振幅の絶対値の和の相対比を求めておき、また、地震が発生した後における、構造体の各部位の振動物理量の振幅の絶対値の和の相対比を求め、これらの相対比が異なる傾向となる部位の近傍において損傷が発生していると判定する。
【0019】
次に、手法(2)に関して、建物の構造体に損傷が生じると、その部位の剛性が低下するため、固有周期が変化する。固有周期が変化すると、振動物理量の時間波形も固有周期の変化の影響が強く表れた形状となり、ゼロクロス回数が減少する。このため、ゼロクロス回数を監視することにより、建物の構造体の損傷の有無を判定することができる。
【0020】
なお、RC構造物の場合、構造体に損傷が発生していなくても、入力される地震波の振幅が大きくなると固有周期が変化する特性を有することがある。このような構造物では、ゼロクロス回数が変化しても、それが上記の特性によるものであるのか、建物の損傷したことによるものであるのかを判別するのは難しい。そこで、以下に説明する実施形態では、ゼロクロス回数に加えて、振幅に比例する振動物理量の絶対値の総和を監視することとする。これにより、ゼロクロス回数と、振動物理量の絶対値の総和とに基づき、建物の損傷を監視するため、入力される地震波の振幅が大きくなると固有周期が変化する特性を有する構造体でも損傷の有無を監視することができる。なお、ゼロクロス回数及び振動物理量の絶対値の総和は、固有周期を算出するのに比べて、非常に簡単な計算により得られる。
【0021】
以下、本発明の損傷監視システムの一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、振動物理量として加速度を用い、上記説明した加速度の絶対値の総和(以下、加速度絶対値総和という)及びゼロクロス回数に基き損傷の有無を判定する方法を適用した場合について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態の損傷監視システム10を示す図である。同図に示すように、本実施形態の損傷監視システム10は、建物などの構造体11の各部に取り付けられた複数の測定装置20と、測定装置20が有する機能に加えて測定装置20が送信した無線信号を中継する機能を備えた中継装置30と、測定装置20から受信した無線信号に基き損傷の有無を判定する監視サーバ40とを備える。
【0023】
図2は、測定装置20の構成を示すブロック図である。測定装置20は、測定部110と、演算処理部120と、無線送信部130と、電池140と、電力供給制御部141と、を備える。測定部110は加速度センサ112及びA/D変換部114からなり、また、演算処理部120は記録部122、制御部124、ゼロクロスカウント部126、及び絶対値加算部128からなる。電源部である電池140は、測定部110及び演算処理部120には直接、電力を供給しており、無線送信部130には電力供給制御部141を介して電力を供給している。
【0024】
加速度センサ112は、常時、建物の構造体11の直交するx、y、z3軸の方向における加速度を測定し、測定した加速度に夫々応じた測定信号を出力する。この測定信号はA/D変換部114に入力される。
【0025】
A/D変換部114は、予め設定されたサンプリング周波数に基づき、測定信号をA/D変換する。A/D変換部114によりA/D変換された測定信号は、演算処理部120へと供給される。
【0026】
演算処理部120の記録部122は、所定の時間(例えば、1分間)分の測定部110から入力されるA/D変換された測定信号が記録されており、この記録された測定信号は所定時間ごとに更新される。
【0027】
制御部124には、予め、所定の閾値が設定されている。この閾値は、測定部110から入力されるA/D変換された測定信号の振幅値がこの閾値よりも大きくなった場合に、地震が発生したと判定して、損傷の有無の判定を開始するためのものである。制御部124は、入力されるA/D変換された測定信号の振幅値が閾値を超えたことを検知すると、絶対値加算部128及びゼロクロスカウント部126へ演算を開始する旨の指令信号を供給し、また、電力供給制御部141へ起動信号を供給する。
【0028】
また、制御部124には、予め、例えば、所定の時間間隔(例えば、12時間ごと)でシステムチェック時刻が設定されている。制御部124は、システムチェック時刻になると、電力供給制御部141及び無線送信部130にシステムチェックを行う旨の指令信号を供給する。
【0029】
絶対値加算部128は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から供給されたA/D変換された測定信号の所定の期間内の各サンプル値の絶対値を加算して、加速度振幅絶対値和を算出する。
【0030】
ゼロクロスカウント部126は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から受信したA/D変換された測定信号の所定の期間内における、正負情報信号の連続する2つのサンプル値のうち、一方が正、他方が負となる回数をカウントし、ゼロクロス回数を求める。
【0031】
電力供給制御部141は、常時は、電池140から無線送信部130への電力の供給を停止しており、制御部124から起動信号が供給されると、電池140から無線送信部130への電力供給を許可する。また、制御部124からシステムチェックを行う旨の指令信号が供給され、後述する送受信機能の異常の有無をチェックを行う間、電池140から無線送信部130への電力供給を許可する。
無線送信部130には、予め、各測定装置20に固有の遅延時間が設定されている。この遅延時間は、複数の測定装置20において互いに異なり、例えば、30秒、60秒、90秒・・・のように30秒間隔で異なるように設定されている。無線送信部130は、制御部124が加速度の振幅値が閾値を超えたことを検知してから、上記設定された遅延時間が経過した後、絶対値加算部128が算出した加速度振幅絶対値和及びゼロクロスカウント部が求めたゼロクロス回数を含む測定結果信号を、当該測定装置20を識別するための装置識別IDとともに中継装置30へ無線送信する。
【0032】
また、無線送信部130は、制御部124よりシステムをチェックする旨の指令信号が供給されると起動し、試験信号として、記録部122に記録された1分間分の測定信号を装置識別IDとともに中継装置30へ無線送信する。そして、無線送信部130は試験信号を送信した後、再び、停止状態となる。
【0033】
図3は、中継装置30の構成を示す図である。同図に示すように、測定装置20における無線送信部130が無線送受信部150に置き換わった構成である。すなわち、中継装置30の各構成部110〜141の機能は、測定装置20の該当する構成部の機能と等しい。また、無線送受信部150は、測定装置20における無線送信部130が有する機能に加えて、測定装置20又は他の中継装置30から測定結果信号又は試験信号を受信し、これと等しい信号を監視サーバ40又は他の中継装置30へと送信する中継機能を備えている。
【0034】
図4は、監視サーバ40の構成を示す図である。同図に示すように、監視サーバ40は、無線受信部160と、損傷有無判定部162と、異常有無判定部164と、出力部166と、を備える。無線受信部160は、測定装置20及び中継装置30から送信された測定結果信号又は試験信号を受信する。
【0035】
損傷有無判定部162には、予め、各測定装置20及び中継装置30についての、ゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との関係に基づいて損傷の有無を判定するための判定基準が設定されている。本実施形態では、図5に示すように、ゼロクロス回数が一定以下となる場合、及びゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との関係が健全時の傾向から一定以上乖離している場合(図中斜線部)には損傷ありと判定し、それ以外の場合には損傷なしと判定するものとしている。ただし、ゼロクロス回数と加速度振幅値和との関係が健全時の傾向から一定以上かい離している場合であっても、加速度振幅絶対値和が小さい(すなわち、入力加速度が小さい)場合には、損傷が発生する可能性が非常に低いとして、損揚なしと判定する。また、ゼロクロス回数と加速度振幅値との関係が健全時の傾向から一定以上かい離している場合であっても、ゼロクロス回数が大きい(すなわち、入力加速度が大きくなってもゼロクロス回数が減少していない)場合には、固有周期が変化していないとして、損傷なしと判定する。そして、損傷有無判定部162は、無線受信部160が受信した各測定装置20及び中継装置30から受信した測定結果信号に含まれるゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和とに基き、上記の判定基準を参照して、構造体11の各測定装置30及び中継装置40の取り付けられている部位における損傷の有無を判定する。
【0036】
異常有無判定部164は、各測定装置20及び中継装置30について、無線受信部160が受信した試験信号に基き、異常があるか否かを判定する。すなわち、各測定装置20及び中継装置30について、当該測定装置20又は中継装置30に該当する装置識別IDを含む試験信号を受信できた場合には、当該測定装置20又は中継装置30は正常に起動していると判定し、該当する装置識別IDを含む試験信号を受信できなかった場合には、当該測定装置20又は中継装置30に異常が発生していると判定する。
【0037】
出力部166は、損傷有無判定部162による構造体11の各部における異常の有無についての判定結果及び異常有無判定部164による各測定装置20及び中継装置30についての異常の有無についての判定結果を画面出力又は印刷出力する。
【0038】
なお、測定装置20の無線送信部130、中継装置30の無線送受信部150、及び監視サーバ40の無線受信部160としては、複数の中継装置30と通信可能なように通信距離が長いものが適しており、また、本実施形態では、後述するように送受信するデータは、加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数といったデータ量が少ない無線信号であるため、無線規格ZigBeeが好適である。
【0039】
図6は、損傷監視システム10の全ての測定装置20の無線送信部130、中継装置20の無線送受信部150に電力が供給され、これら測定装置20、中継装置30、及び監視サーバ40を接続するネットワークが形成された状態を示す図である。同図に示すように、各測定装置20は、2以上の中継装置30に対して無線信号を送信しており、また、各中継装置30同士も2以上の他の中継装置30に対して無線信号を送信している。このため、例えば、図7に示すように、測定装置20と中継装置30の間、又は中継装置30同士の間に無線通信を遮断する障害物があるような場合や何れかの中継装置30に異常が発生した場合であっても、各測定装置20から送信された無線信号は、他の中継装置30を経由して監視サーバ40まで到達する。なお、この際、測定装置20から監視サーバ40へのルーティングは、無線規格ZigBeeが備えるルーティング機能を用いればよい。以下、上記のように各測定装置20が複数の中継装置30へ無線信号を送信し、また、各中継装置30が複数の中継装置30へ無線信号を送信することで、装置間に複数の通信経路を確保できるネットワークをメッシュ状ネットワークという。
【0040】
以下、本実施形態のシステム10により、構造体11の損傷の有無を監視する方法について説明する。
まず、図8に示すフローチャートを参照しながら加速度センサ112が測定した構造体11の加速度に基き、地震が発生したか否かを判定する流れを説明する。
常時は、電池140からの無線送信部130(中継装置30では無線送受信部150)への電力供給は、電力供給制御部141により停止されている。このため、無線送信部130(又は無線送受信部150)により電池140の電力が消費されることはない。
【0041】
測定装置20及び中継装置30の測定部110の加速度センサ112及びA/D変換部114は常時作動しており、加速度センサ112は、構造体11に生じた振動の加速度に応じた測定信号を出力する(STEP100)。加速度センサ112より出力された測定信号はA/D変換部114に入力される。
そして、A/D変換部114は、入力された測定信号をA/D変換し(STEP102)、A/D変換された測定信号は、演算処理部120へ入力される。
【0042】
演算処理部120の記録部122は、測定部110から入力される所定時間(例えば、1分間)分のA/D変換された測定信号を記録する(STEP104)。
また、これと並行して、演算処理部120の制御部124は、A/D変換部114より入力されたA/D変換された測定信号の振幅値が閾値が超えるか否かに基き地震の発生の有無を判定しており(STEP106)、振幅値が閾値を以下の場合には地震が発生していないと判定し(STEP108)、振幅値が閾値を超える場合には地震が発生したと判定する(STEP110)。
【0043】
地震が発生していないと判定された場合には、上記のSTEP100〜106を繰り返し、地震が発生したと判定された場合には、後述する構造体11の各部位について損傷の有無を検討する(すなわち、図10のSTEP140、150、160に進む)。
【0044】
また、本実施形態の損傷監視システム10は、地震が発生していないと判定されている期間には、定期的にシステムの送受信機能の異常の有無のチェック処理(以下、通信異常チェックという)を行う。以下、図9に示すフローチャートを参照しながらこの通信異常チェックの流れを説明する。
制御部124は、設定されたシステムチェック時刻になると、電力供給制御部141へシステムチェックを行う旨の指令信号を供給する(STEP120)。
【0045】
電力供給制御部141は、システムチェックを行う旨の指令信号が供給されると、無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力供給を許可する(STEP122)。これにより、無線送信部130(又は無線送受信部150)は、起動することとなる。また、他の測定装置20や中継装置30もこのシステムチェック時間になると起動するため、上記のメッシュ状ネットワーク200が形成される(STEP124)。
【0046】
このように無線送信部130(又は無線送受信部150)が起動した後、制御部124は、無線送信部130(又は無線送受信部150)へシステムチェックを行う旨の指令信号を供給する。
無線送信部130(又は無線送受信部150)は、指令信号が供給されると、試験信号として、記録部122に記録された1分間分の測定信号を装置識別IDとともにメッシュ状ネットワーク200を介して無線送信する(STEP126)。この際、メッシュ状ネットワーク200により無線信号の送受信を行うため、何れかの中継装置30に障害があるような場合であっても、他の中継装置30及び測定装置20との試験信号の送受信を行うことができる。
【0047】
そして、監視サーバ40は、試験信号を受信すると(STEP128)、異常有無判定部164により、各測定装置20及び中継装置30から受信した試験信号に基き、これらの無線送信部130及び無線送受信部150が正常に機能しているか否かを判定する(STEP130)。すなわち、各測定装置20及び中継装置30について、この測定装置20又は中継装置30を示す装置識別IDを含む試験信号を受信できた場合には、この測定装置20又は中継装置30の無線送信部130及び無線送受信部150が正常に機能していると判定し、受信できない場合には異常が発生していると判定する。
【0048】
そして、異常があると判定された場合(STEP130においてYES)には、異常が発生したと判定された測定装置20又は中継装置30を示す装置識別IDとともに異常が発生した旨の判定結果を出力部166により画像出力又は印刷出力して(STEP132)、通信異常チェックを終了する。
また、異常がないと判定された場合(STEP130においてNO)には、そのまま、通信異常チェックを終了する。
そして、通信異常チェックが終了した後、電源供給制御部141は、電池140から無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力の供給を再び停止する(STEP134)。
【0049】
図8に戻り、STEP110において、制御部124により地震が発生したと判定された場合には、損傷監視システム10は構造体11の各部の損傷の有無を判定する。以下、損傷監視システム10により構造体11の各部の損傷の有無を判定する処理を図10のフローチャートを参照して説明する。
【0050】
上記のように、制御部124は、地震が発生したと判定すると(図8のSTEP110)、絶対値加算部126及びゼロクロスカウント部128へ演算を開始すべき旨の指令信号を供給し(STEP150、160)、また、電力供給制御部141へ起動信号を供給する(STEP140)。
【0051】
絶対値加算部126は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から受信したA/D変換された測定信号の所定の時間内の各サンプル値の絶対値を加算して、加速度振幅絶対値和を算出する(STEP152)。
【0052】
また、ゼロクロスカウント部126は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から受信したA/D変換された測定信号の所定の期間内における、正負情報信号の連続する2つのサンプル値のうち、一方が正、他方が負となる回数をカウントし、ゼロクロス回数を求める(STEP162)。
【0053】
また、電力供給制御部141は起動信号が供給されると、電池140から無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力供給を許可する(STEP142)。これにより、測定装置20及び中継装置30の無線送信部130及び無線送受信部150が起動し、メッシュ状ネットワーク200が機能することとなる(STEP144)。
【0054】
次に、測定装置20の無線送信部130及び中継装置30の無線送受信部150は、このメッシュ状ネットワーク200を介して監視サーバ40へ、当該測定装置20又は中継装置30を識別する装置識別IDとともに絶対値加算部128が算出した加速度振幅絶対値和と、ゼロクロスカウント部126が求めたゼロクロス回数とを送信する(STEP170)。なお、この際、各測定装置20の無線送信部130や中継装置30の無線送受信部150が起動し、メッシュ状ネットワーク200が機能するまでに時間がかかるが、本実施形態では、メッシュ状ネットワーク200を介して、加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数のみを送信するのみであり、これらの情報はデータ量が少ないため、送信に時間がかからず、構造体11の損傷を検知するまでにかかる時間は長期化することはない。
【0055】
また、各測定装置20及び中継装置30が同時に無線送信を行うと、無線信号が相互に干渉を起してしまい、無線信号の送受信に障害が生じてしまう虞がある。これに対して、本実施形態では、上記のように無線送信部130及び無線送受信部150に各測定装置20及び中継装置30に固有の遅延時間が設定されている。このため、図11に示すように、各測定装置20及び中継装置30が互いに異なるタイミングで(本実施形態では、30秒間隔おきに)、測定結果信号を送信することとなるので、無線信号同士の干渉を防止できる。
【0056】
次に、監視サーバ40の損傷有無判定部162は、構造体11の各部について、当該部分に取り付けられた各測定装置20又は中継装置30に対応する装置識別IDとともに受信した加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数とに基き、上記した判定基準を参照しながら当該測定装置20又は中継装置30の取り付けられている部位に損傷が生じているか否かを判定する(STEP174)。
【0057】
そして、監視サーバ40は、出力部166により構造体11の損傷有りと判定された部位を示す情報含む判定結果を画面出力又は印刷出力し(STEP176)、さらに必要に応じて警報発令等を行う。これにより、建物の構造体11における異常の発生を早期に検出することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、電池140から無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力供給を常時は停止させており、地震が発生した場合にのみ電気供給を許可することとしたため、消費電力の大きな無線送信部130及び無線送受信部150は信号の送信が必要となる地震時のみ起動することとなり、これにより、消費電力を削減することができる。その結果、電池140の交換の手間を削減できることになる。なお、電池140が蓄電池である場合には、充電の手間を削減できる。
【0059】
また、各測定装置20が複数の中継装置30に対して無線信号を送信するとともに、各中継装置30も複数の他の中継装置30に対して無線信号を送信するメッシュ状ネットワーク200により各測定装置20から監視サーバ40へ無線信号を送信することとしたため、中継装置30に異常が発生したり、中継装置30と測定装置20との無線信号の送受信に障害が生じたりした場合であっても、各測定装置20が送信した測定結果信号を監視サーバ40へ送信することができる。
【0060】
また、測定装置20及び中継装置30に固有の遅延時間を設定しておき、各装置20、30の無線送信部130(又は無線送受信部150)が地震が発生し、起動してから遅延時間後に無線信号を送信することとしたため、無線信号同士の干渉を防止できる。
【0061】
また、測定装置20の無線送信部130及び中継装置30の無線送受信部140が定期的に起動され、監視サーバ40へ試験信号を送信することとしたため、定期的に各測定装置20及び中継装置30が正常に動作していることを確認することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、上記の振動物理量として加速度を用いて、加速度の振幅絶対値和及びゼロクロス回数に基き、構造体の損傷の有無を判定するものとしたが、これに限らず、振動物理量として速度や変位を用いてもよい。
【0063】
また、加速度振幅絶対値和及びゼロクロス回数を求め、これらに基き構造体11の各部位の損傷の有無を判定するものとしたが、これに限らず、上記のように加速度振幅絶対値和のみ、又はゼロクロス回数のみから損傷の有無を判定することもできる。
【0064】
また、本実施形態では、中継装置30と監視サーバ40との間を無線信号により送受信可能に接続するものとしたが、これに限らず、中継装置30と監視サーバ40とを有線のネットワークにより接合してもよい。
【0065】
また、本実施形態では、測定装置20は無線信号を中継する機能は持たず、中継装置30のみが無線信号を中継する機能を有するものとしたが、これに限らず、各測定装置20に無線信号を中継する機能を持たせる(すなわち、測定装置20に換えて中継装置30を用いる)構成としてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、演算処理部120の制御部124に、予め、所定の閾値を設定しておき、測定部110から入力されるA/D変換された測定信号の振幅値がこの閾値よりも大きくなった場合に、地震が発生したと判定し、電力供給制御部141へ起動信号を送信し、無線送信部150への電力供給を許可させるものとしたが、本発明はこれに限られない。
【0067】
図12は、別の実施形態の測定装置320の構成を示す図である。同図に示すように、本実施形態では、電池140は、測定部110には直接、電力を供給しており、演算処理部120及び無線送信部130には電力供給制御部141を介して電力を供給している。
電力供給制御部141には、加速度センサ112から測定信号が入力される。電力供給制御部141には、地震が発生したと判定するための基準となる所定の閾値が設定されている。電力供給制御部141は、常時は、電池140から演算処理部120及び無線送信部130への電力の供給を停止しており、加速度センサ112から入力される測定信号が閾値以上となると、地震が発生したと判定し、演算処理部120及び無線送信部130への電力供給を許可する。
【0068】
かかる構成によれば、無線送信部130に加えて、演算処理部120も信号の送信が必要となる地震時のみ起動することとなり、さらに、消費電力を削減することができる。なお、中継装置30も同様の構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態の損傷監視システムを示す図である。
【図2】測定装置の構成を示す図である。
【図3】中継装置の構成を示す図である。
【図4】監視サーバの構成を示す図である。
【図5】損傷有無判定部に設定された加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数とに基き損傷の有無を判定する基準を示す図である。
【図6】損傷監視システムにおいて形成されたメッシュ状ネットワークを示す図である。
【図7】一部の中継装置に異常が発生し、また、測定装置と中継装置の間に障害物がある場合のメッシュ状ネットワークを示す図である。
【図8】加速度センサが測定した構造体に発生した加速度に基き、地震が発生したか否かを判定する流れを示すフローチャートである。
【図9】システムの送受信機能の異常の有無をチェックする流れを示すフローチャートである。
【図10】構造体の各部の損傷の有無を判定する流れを示すフローチャートである。
【図11】各測定装置に固有の遅延時間を持たせることにより、異なるタイミングで測定結果信号を送信することとなることを示す図である。
【図12】別の実施形態の測定装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 損傷監視システム 11 構造体
20、320 測定装置 30 中継装置
40 監視サーバ 110 測定部
112 加速度センサ 114 A/D変換部
120 演算処理部 122 記録部
124 制御部 126 ゼロクロスカウント部
128 絶対値加算部 130 無線送信部
140 電池 141 電力供給制御部
150 無線送受信部
160 無線受信部 162 損傷有無判定部
164 異常有無判定部 166 出力部
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物が地震などを被災した際に、構造物に損傷が発生したか否かを監視するためのシステム及びこのシステムを構成する測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大地震等が起きた際に、建物の構造体に発生した損傷を監視するため、建物の構造体の各部に加速度センサを取り付け、この加速度センサにより測定された加速度に基づき建物の構造体の損傷の有無を判定する方法が知られている。このような方法の一例として、健全時と地震後における加速度をFFT解析することにより建物の固有周期を算出し、健全時と地震後の固有周期が異なるか否かに基づき損傷の有無を判定する方法が用いられている。しかしながら、固有周期を算出するために用いられるFFT解析などの演算は計算負荷が大きいため、高性能の演算処理装置が必要となる。
【0003】
このため、本願出願人らは、健全時と地震後において、所定時間内のA/D変換された加速度の絶対値を加算して振幅絶対値和を算出し、健全時と地震後における振幅絶対値和を比較することで損傷の有無を判定する方法を提案している(特許文献1参照)。
【0004】
また、本願出願人らは、健全時と地震後において、A/D変換された加速度を表すサンプル値列において、所定時間内の正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数をカウントし、そのカウント数をゼロクロス回数とし、健全時と地震後におけるゼロクロス回数を比較することで損傷の有無を判定する方法を提案している(特許文献2参照)。
特許文献1及び2記載の方法によれば、複雑な演算処理が不要であるため、演算処理装置として低価格なものを用いることができる。
【特許文献1】特開2008―3043号公報
【特許文献2】特開2008―2986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2記載の方法は、構造物に取り付けられた加速度センサと、加速度センサにより測定された加速度に基き振幅絶対値和又はゼロクロス回数を求めるCPUとを備えた測定装置及び測定装置と通信可能であり、測定装置によりもと得られた振幅絶対値和又はゼロクロス回数に基き損傷の有無を判定する監視サーバにより構成されるシステムにより実現される。
【0006】
ここで、上記のシステムにおいて測定装置は多数取り付けられるため、測定装置と監視サーバとは無線通信により通信することが望ましい。この場合、測定装置は、必ずしも、外部電源を利用できるような場所に取り付けられるわけではないため、測定装置内に組み込まれた電池によりCPU及び無線通信手段を起動させることとなる。しかしながら、加速度センサやCPUは消費電力が小さいものの、無線通信手段は消費電力が大きい。このため、短期間で電池の電力が消費されてしまい、頻繁に電池の交換を行う必要があるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、測定装置における電力消費量を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の損傷監視システムは、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に基き求められた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する複数の測定装置と、各測定装置の前記送信部が送信した無線信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した無線信号で示される前記物理量又は前記指標値に基き前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を有する損傷監視装置と、を備えた前記構造物の損傷の有無を監視するシステムであって、前記測定装置は、常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記のシステムにおいて、前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号の絶対値を加算して振幅絶対値和を算出する演算処理部を備え、前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記振幅絶対値和を送信してもよい。
【0010】
また、前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号において正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数であるゼロクロス回数をカウントする演算処理部を備え、前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記ゼロクロス回数を送信してもよい。
【0011】
また、前記電源部は、前記演算処理部へ電力を供給し、前記電力供給制御部は、常時は、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を許可してもよい。
また、前記測定装置の送信部から送信された無線信号を、前記損傷監視装置の受信部へ中継する複数の中継装置を備え、前記複数の測定装置は、夫々、複数の前記中継装置と無線通信可能であってもよい。
【0012】
また、前記複数の測定装置の前記送信部には、夫々、予め異なる遅延時間が設定されており、前記送信部は、夫々、前記監視部が起動信号を生成してから、前記設定された遅延時間だけ経過した後、前記物理量又は前記指標値に応じた無線信号を送信してもよい。
【0013】
また、前記複数の測定装置には、予め、前記送信部の異常の有無の検査を行う検査時点が設定されており、前記測定装置の送信部は、夫々、前記検査時点ごとに前記検査のための無線信号を送信し、前記損傷監視端末は、前記受信部により、各測定装置の送信部から送信された前記無線信号を受信できるか否かに基き、前記測定装置の前記送信部の異常の有無を判定してもよい。
【0014】
また、本発明の測定装置は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に応じた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する測定装置であって、常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電力供給制御部により、常時は、電池から送信部への電力供給を停止し、測定部により、予め設定された振幅値よりも大きな振幅が測定された場合に送信部への電力供給を許可することとしたため、電力消費量を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の損傷監視システムの一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
本願出願人らは、上記のように、(1)加速度、速度、変位などの物理量(以下、振動物理量という)の絶対値の総和に基き損傷の有無を判定する手法(特許文献1)、及び(2)振動物理量の時間波形が所定時間内に正から負又は負から正へゼロを横切る回数(以下、ゼロクロス回数という)に基き、構造体の損傷の有無を判定する手法(特許文献2)を提案しており、本実施形態ではこれらの手法に基いて振動物理量から損傷の有無を判定している。その概要は以下の通りである。
【0017】
まず、手法(1)に関して、建物の構造体に損傷が発生していない場合には、地震動の振幅が大きくなると、それに比例して構造体に生ずる振動物理量の振幅も増加する。しかし、建物の構造体に損傷が生じると剛性が低下し、モード形状に変化が生じるため、その部位における振動物理量の振幅の増加の傾向が変化する。このため、健全時に対する地震後の振動物理量の振幅の比を算出し、この比が他の部位と異なる場合には、該当する部位に損傷が発生したと判定できる。
【0018】
すなわち、具体的には、構造体に損傷が生じていない状態における構造体の各部位の振動物理量の振幅の絶対値の和の相対比を求めておき、また、地震が発生した後における、構造体の各部位の振動物理量の振幅の絶対値の和の相対比を求め、これらの相対比が異なる傾向となる部位の近傍において損傷が発生していると判定する。
【0019】
次に、手法(2)に関して、建物の構造体に損傷が生じると、その部位の剛性が低下するため、固有周期が変化する。固有周期が変化すると、振動物理量の時間波形も固有周期の変化の影響が強く表れた形状となり、ゼロクロス回数が減少する。このため、ゼロクロス回数を監視することにより、建物の構造体の損傷の有無を判定することができる。
【0020】
なお、RC構造物の場合、構造体に損傷が発生していなくても、入力される地震波の振幅が大きくなると固有周期が変化する特性を有することがある。このような構造物では、ゼロクロス回数が変化しても、それが上記の特性によるものであるのか、建物の損傷したことによるものであるのかを判別するのは難しい。そこで、以下に説明する実施形態では、ゼロクロス回数に加えて、振幅に比例する振動物理量の絶対値の総和を監視することとする。これにより、ゼロクロス回数と、振動物理量の絶対値の総和とに基づき、建物の損傷を監視するため、入力される地震波の振幅が大きくなると固有周期が変化する特性を有する構造体でも損傷の有無を監視することができる。なお、ゼロクロス回数及び振動物理量の絶対値の総和は、固有周期を算出するのに比べて、非常に簡単な計算により得られる。
【0021】
以下、本発明の損傷監視システムの一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、振動物理量として加速度を用い、上記説明した加速度の絶対値の総和(以下、加速度絶対値総和という)及びゼロクロス回数に基き損傷の有無を判定する方法を適用した場合について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態の損傷監視システム10を示す図である。同図に示すように、本実施形態の損傷監視システム10は、建物などの構造体11の各部に取り付けられた複数の測定装置20と、測定装置20が有する機能に加えて測定装置20が送信した無線信号を中継する機能を備えた中継装置30と、測定装置20から受信した無線信号に基き損傷の有無を判定する監視サーバ40とを備える。
【0023】
図2は、測定装置20の構成を示すブロック図である。測定装置20は、測定部110と、演算処理部120と、無線送信部130と、電池140と、電力供給制御部141と、を備える。測定部110は加速度センサ112及びA/D変換部114からなり、また、演算処理部120は記録部122、制御部124、ゼロクロスカウント部126、及び絶対値加算部128からなる。電源部である電池140は、測定部110及び演算処理部120には直接、電力を供給しており、無線送信部130には電力供給制御部141を介して電力を供給している。
【0024】
加速度センサ112は、常時、建物の構造体11の直交するx、y、z3軸の方向における加速度を測定し、測定した加速度に夫々応じた測定信号を出力する。この測定信号はA/D変換部114に入力される。
【0025】
A/D変換部114は、予め設定されたサンプリング周波数に基づき、測定信号をA/D変換する。A/D変換部114によりA/D変換された測定信号は、演算処理部120へと供給される。
【0026】
演算処理部120の記録部122は、所定の時間(例えば、1分間)分の測定部110から入力されるA/D変換された測定信号が記録されており、この記録された測定信号は所定時間ごとに更新される。
【0027】
制御部124には、予め、所定の閾値が設定されている。この閾値は、測定部110から入力されるA/D変換された測定信号の振幅値がこの閾値よりも大きくなった場合に、地震が発生したと判定して、損傷の有無の判定を開始するためのものである。制御部124は、入力されるA/D変換された測定信号の振幅値が閾値を超えたことを検知すると、絶対値加算部128及びゼロクロスカウント部126へ演算を開始する旨の指令信号を供給し、また、電力供給制御部141へ起動信号を供給する。
【0028】
また、制御部124には、予め、例えば、所定の時間間隔(例えば、12時間ごと)でシステムチェック時刻が設定されている。制御部124は、システムチェック時刻になると、電力供給制御部141及び無線送信部130にシステムチェックを行う旨の指令信号を供給する。
【0029】
絶対値加算部128は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から供給されたA/D変換された測定信号の所定の期間内の各サンプル値の絶対値を加算して、加速度振幅絶対値和を算出する。
【0030】
ゼロクロスカウント部126は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から受信したA/D変換された測定信号の所定の期間内における、正負情報信号の連続する2つのサンプル値のうち、一方が正、他方が負となる回数をカウントし、ゼロクロス回数を求める。
【0031】
電力供給制御部141は、常時は、電池140から無線送信部130への電力の供給を停止しており、制御部124から起動信号が供給されると、電池140から無線送信部130への電力供給を許可する。また、制御部124からシステムチェックを行う旨の指令信号が供給され、後述する送受信機能の異常の有無をチェックを行う間、電池140から無線送信部130への電力供給を許可する。
無線送信部130には、予め、各測定装置20に固有の遅延時間が設定されている。この遅延時間は、複数の測定装置20において互いに異なり、例えば、30秒、60秒、90秒・・・のように30秒間隔で異なるように設定されている。無線送信部130は、制御部124が加速度の振幅値が閾値を超えたことを検知してから、上記設定された遅延時間が経過した後、絶対値加算部128が算出した加速度振幅絶対値和及びゼロクロスカウント部が求めたゼロクロス回数を含む測定結果信号を、当該測定装置20を識別するための装置識別IDとともに中継装置30へ無線送信する。
【0032】
また、無線送信部130は、制御部124よりシステムをチェックする旨の指令信号が供給されると起動し、試験信号として、記録部122に記録された1分間分の測定信号を装置識別IDとともに中継装置30へ無線送信する。そして、無線送信部130は試験信号を送信した後、再び、停止状態となる。
【0033】
図3は、中継装置30の構成を示す図である。同図に示すように、測定装置20における無線送信部130が無線送受信部150に置き換わった構成である。すなわち、中継装置30の各構成部110〜141の機能は、測定装置20の該当する構成部の機能と等しい。また、無線送受信部150は、測定装置20における無線送信部130が有する機能に加えて、測定装置20又は他の中継装置30から測定結果信号又は試験信号を受信し、これと等しい信号を監視サーバ40又は他の中継装置30へと送信する中継機能を備えている。
【0034】
図4は、監視サーバ40の構成を示す図である。同図に示すように、監視サーバ40は、無線受信部160と、損傷有無判定部162と、異常有無判定部164と、出力部166と、を備える。無線受信部160は、測定装置20及び中継装置30から送信された測定結果信号又は試験信号を受信する。
【0035】
損傷有無判定部162には、予め、各測定装置20及び中継装置30についての、ゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との関係に基づいて損傷の有無を判定するための判定基準が設定されている。本実施形態では、図5に示すように、ゼロクロス回数が一定以下となる場合、及びゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和との関係が健全時の傾向から一定以上乖離している場合(図中斜線部)には損傷ありと判定し、それ以外の場合には損傷なしと判定するものとしている。ただし、ゼロクロス回数と加速度振幅値和との関係が健全時の傾向から一定以上かい離している場合であっても、加速度振幅絶対値和が小さい(すなわち、入力加速度が小さい)場合には、損傷が発生する可能性が非常に低いとして、損揚なしと判定する。また、ゼロクロス回数と加速度振幅値との関係が健全時の傾向から一定以上かい離している場合であっても、ゼロクロス回数が大きい(すなわち、入力加速度が大きくなってもゼロクロス回数が減少していない)場合には、固有周期が変化していないとして、損傷なしと判定する。そして、損傷有無判定部162は、無線受信部160が受信した各測定装置20及び中継装置30から受信した測定結果信号に含まれるゼロクロス回数と加速度振幅絶対値和とに基き、上記の判定基準を参照して、構造体11の各測定装置30及び中継装置40の取り付けられている部位における損傷の有無を判定する。
【0036】
異常有無判定部164は、各測定装置20及び中継装置30について、無線受信部160が受信した試験信号に基き、異常があるか否かを判定する。すなわち、各測定装置20及び中継装置30について、当該測定装置20又は中継装置30に該当する装置識別IDを含む試験信号を受信できた場合には、当該測定装置20又は中継装置30は正常に起動していると判定し、該当する装置識別IDを含む試験信号を受信できなかった場合には、当該測定装置20又は中継装置30に異常が発生していると判定する。
【0037】
出力部166は、損傷有無判定部162による構造体11の各部における異常の有無についての判定結果及び異常有無判定部164による各測定装置20及び中継装置30についての異常の有無についての判定結果を画面出力又は印刷出力する。
【0038】
なお、測定装置20の無線送信部130、中継装置30の無線送受信部150、及び監視サーバ40の無線受信部160としては、複数の中継装置30と通信可能なように通信距離が長いものが適しており、また、本実施形態では、後述するように送受信するデータは、加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数といったデータ量が少ない無線信号であるため、無線規格ZigBeeが好適である。
【0039】
図6は、損傷監視システム10の全ての測定装置20の無線送信部130、中継装置20の無線送受信部150に電力が供給され、これら測定装置20、中継装置30、及び監視サーバ40を接続するネットワークが形成された状態を示す図である。同図に示すように、各測定装置20は、2以上の中継装置30に対して無線信号を送信しており、また、各中継装置30同士も2以上の他の中継装置30に対して無線信号を送信している。このため、例えば、図7に示すように、測定装置20と中継装置30の間、又は中継装置30同士の間に無線通信を遮断する障害物があるような場合や何れかの中継装置30に異常が発生した場合であっても、各測定装置20から送信された無線信号は、他の中継装置30を経由して監視サーバ40まで到達する。なお、この際、測定装置20から監視サーバ40へのルーティングは、無線規格ZigBeeが備えるルーティング機能を用いればよい。以下、上記のように各測定装置20が複数の中継装置30へ無線信号を送信し、また、各中継装置30が複数の中継装置30へ無線信号を送信することで、装置間に複数の通信経路を確保できるネットワークをメッシュ状ネットワークという。
【0040】
以下、本実施形態のシステム10により、構造体11の損傷の有無を監視する方法について説明する。
まず、図8に示すフローチャートを参照しながら加速度センサ112が測定した構造体11の加速度に基き、地震が発生したか否かを判定する流れを説明する。
常時は、電池140からの無線送信部130(中継装置30では無線送受信部150)への電力供給は、電力供給制御部141により停止されている。このため、無線送信部130(又は無線送受信部150)により電池140の電力が消費されることはない。
【0041】
測定装置20及び中継装置30の測定部110の加速度センサ112及びA/D変換部114は常時作動しており、加速度センサ112は、構造体11に生じた振動の加速度に応じた測定信号を出力する(STEP100)。加速度センサ112より出力された測定信号はA/D変換部114に入力される。
そして、A/D変換部114は、入力された測定信号をA/D変換し(STEP102)、A/D変換された測定信号は、演算処理部120へ入力される。
【0042】
演算処理部120の記録部122は、測定部110から入力される所定時間(例えば、1分間)分のA/D変換された測定信号を記録する(STEP104)。
また、これと並行して、演算処理部120の制御部124は、A/D変換部114より入力されたA/D変換された測定信号の振幅値が閾値が超えるか否かに基き地震の発生の有無を判定しており(STEP106)、振幅値が閾値を以下の場合には地震が発生していないと判定し(STEP108)、振幅値が閾値を超える場合には地震が発生したと判定する(STEP110)。
【0043】
地震が発生していないと判定された場合には、上記のSTEP100〜106を繰り返し、地震が発生したと判定された場合には、後述する構造体11の各部位について損傷の有無を検討する(すなわち、図10のSTEP140、150、160に進む)。
【0044】
また、本実施形態の損傷監視システム10は、地震が発生していないと判定されている期間には、定期的にシステムの送受信機能の異常の有無のチェック処理(以下、通信異常チェックという)を行う。以下、図9に示すフローチャートを参照しながらこの通信異常チェックの流れを説明する。
制御部124は、設定されたシステムチェック時刻になると、電力供給制御部141へシステムチェックを行う旨の指令信号を供給する(STEP120)。
【0045】
電力供給制御部141は、システムチェックを行う旨の指令信号が供給されると、無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力供給を許可する(STEP122)。これにより、無線送信部130(又は無線送受信部150)は、起動することとなる。また、他の測定装置20や中継装置30もこのシステムチェック時間になると起動するため、上記のメッシュ状ネットワーク200が形成される(STEP124)。
【0046】
このように無線送信部130(又は無線送受信部150)が起動した後、制御部124は、無線送信部130(又は無線送受信部150)へシステムチェックを行う旨の指令信号を供給する。
無線送信部130(又は無線送受信部150)は、指令信号が供給されると、試験信号として、記録部122に記録された1分間分の測定信号を装置識別IDとともにメッシュ状ネットワーク200を介して無線送信する(STEP126)。この際、メッシュ状ネットワーク200により無線信号の送受信を行うため、何れかの中継装置30に障害があるような場合であっても、他の中継装置30及び測定装置20との試験信号の送受信を行うことができる。
【0047】
そして、監視サーバ40は、試験信号を受信すると(STEP128)、異常有無判定部164により、各測定装置20及び中継装置30から受信した試験信号に基き、これらの無線送信部130及び無線送受信部150が正常に機能しているか否かを判定する(STEP130)。すなわち、各測定装置20及び中継装置30について、この測定装置20又は中継装置30を示す装置識別IDを含む試験信号を受信できた場合には、この測定装置20又は中継装置30の無線送信部130及び無線送受信部150が正常に機能していると判定し、受信できない場合には異常が発生していると判定する。
【0048】
そして、異常があると判定された場合(STEP130においてYES)には、異常が発生したと判定された測定装置20又は中継装置30を示す装置識別IDとともに異常が発生した旨の判定結果を出力部166により画像出力又は印刷出力して(STEP132)、通信異常チェックを終了する。
また、異常がないと判定された場合(STEP130においてNO)には、そのまま、通信異常チェックを終了する。
そして、通信異常チェックが終了した後、電源供給制御部141は、電池140から無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力の供給を再び停止する(STEP134)。
【0049】
図8に戻り、STEP110において、制御部124により地震が発生したと判定された場合には、損傷監視システム10は構造体11の各部の損傷の有無を判定する。以下、損傷監視システム10により構造体11の各部の損傷の有無を判定する処理を図10のフローチャートを参照して説明する。
【0050】
上記のように、制御部124は、地震が発生したと判定すると(図8のSTEP110)、絶対値加算部126及びゼロクロスカウント部128へ演算を開始すべき旨の指令信号を供給し(STEP150、160)、また、電力供給制御部141へ起動信号を供給する(STEP140)。
【0051】
絶対値加算部126は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から受信したA/D変換された測定信号の所定の時間内の各サンプル値の絶対値を加算して、加速度振幅絶対値和を算出する(STEP152)。
【0052】
また、ゼロクロスカウント部126は、制御部124より演算を開始する旨の指令信号が供給されると、測定部110から受信したA/D変換された測定信号の所定の期間内における、正負情報信号の連続する2つのサンプル値のうち、一方が正、他方が負となる回数をカウントし、ゼロクロス回数を求める(STEP162)。
【0053】
また、電力供給制御部141は起動信号が供給されると、電池140から無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力供給を許可する(STEP142)。これにより、測定装置20及び中継装置30の無線送信部130及び無線送受信部150が起動し、メッシュ状ネットワーク200が機能することとなる(STEP144)。
【0054】
次に、測定装置20の無線送信部130及び中継装置30の無線送受信部150は、このメッシュ状ネットワーク200を介して監視サーバ40へ、当該測定装置20又は中継装置30を識別する装置識別IDとともに絶対値加算部128が算出した加速度振幅絶対値和と、ゼロクロスカウント部126が求めたゼロクロス回数とを送信する(STEP170)。なお、この際、各測定装置20の無線送信部130や中継装置30の無線送受信部150が起動し、メッシュ状ネットワーク200が機能するまでに時間がかかるが、本実施形態では、メッシュ状ネットワーク200を介して、加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数のみを送信するのみであり、これらの情報はデータ量が少ないため、送信に時間がかからず、構造体11の損傷を検知するまでにかかる時間は長期化することはない。
【0055】
また、各測定装置20及び中継装置30が同時に無線送信を行うと、無線信号が相互に干渉を起してしまい、無線信号の送受信に障害が生じてしまう虞がある。これに対して、本実施形態では、上記のように無線送信部130及び無線送受信部150に各測定装置20及び中継装置30に固有の遅延時間が設定されている。このため、図11に示すように、各測定装置20及び中継装置30が互いに異なるタイミングで(本実施形態では、30秒間隔おきに)、測定結果信号を送信することとなるので、無線信号同士の干渉を防止できる。
【0056】
次に、監視サーバ40の損傷有無判定部162は、構造体11の各部について、当該部分に取り付けられた各測定装置20又は中継装置30に対応する装置識別IDとともに受信した加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数とに基き、上記した判定基準を参照しながら当該測定装置20又は中継装置30の取り付けられている部位に損傷が生じているか否かを判定する(STEP174)。
【0057】
そして、監視サーバ40は、出力部166により構造体11の損傷有りと判定された部位を示す情報含む判定結果を画面出力又は印刷出力し(STEP176)、さらに必要に応じて警報発令等を行う。これにより、建物の構造体11における異常の発生を早期に検出することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、電池140から無線送信部130(又は無線送受信部150)への電力供給を常時は停止させており、地震が発生した場合にのみ電気供給を許可することとしたため、消費電力の大きな無線送信部130及び無線送受信部150は信号の送信が必要となる地震時のみ起動することとなり、これにより、消費電力を削減することができる。その結果、電池140の交換の手間を削減できることになる。なお、電池140が蓄電池である場合には、充電の手間を削減できる。
【0059】
また、各測定装置20が複数の中継装置30に対して無線信号を送信するとともに、各中継装置30も複数の他の中継装置30に対して無線信号を送信するメッシュ状ネットワーク200により各測定装置20から監視サーバ40へ無線信号を送信することとしたため、中継装置30に異常が発生したり、中継装置30と測定装置20との無線信号の送受信に障害が生じたりした場合であっても、各測定装置20が送信した測定結果信号を監視サーバ40へ送信することができる。
【0060】
また、測定装置20及び中継装置30に固有の遅延時間を設定しておき、各装置20、30の無線送信部130(又は無線送受信部150)が地震が発生し、起動してから遅延時間後に無線信号を送信することとしたため、無線信号同士の干渉を防止できる。
【0061】
また、測定装置20の無線送信部130及び中継装置30の無線送受信部140が定期的に起動され、監視サーバ40へ試験信号を送信することとしたため、定期的に各測定装置20及び中継装置30が正常に動作していることを確認することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、上記の振動物理量として加速度を用いて、加速度の振幅絶対値和及びゼロクロス回数に基き、構造体の損傷の有無を判定するものとしたが、これに限らず、振動物理量として速度や変位を用いてもよい。
【0063】
また、加速度振幅絶対値和及びゼロクロス回数を求め、これらに基き構造体11の各部位の損傷の有無を判定するものとしたが、これに限らず、上記のように加速度振幅絶対値和のみ、又はゼロクロス回数のみから損傷の有無を判定することもできる。
【0064】
また、本実施形態では、中継装置30と監視サーバ40との間を無線信号により送受信可能に接続するものとしたが、これに限らず、中継装置30と監視サーバ40とを有線のネットワークにより接合してもよい。
【0065】
また、本実施形態では、測定装置20は無線信号を中継する機能は持たず、中継装置30のみが無線信号を中継する機能を有するものとしたが、これに限らず、各測定装置20に無線信号を中継する機能を持たせる(すなわち、測定装置20に換えて中継装置30を用いる)構成としてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、演算処理部120の制御部124に、予め、所定の閾値を設定しておき、測定部110から入力されるA/D変換された測定信号の振幅値がこの閾値よりも大きくなった場合に、地震が発生したと判定し、電力供給制御部141へ起動信号を送信し、無線送信部150への電力供給を許可させるものとしたが、本発明はこれに限られない。
【0067】
図12は、別の実施形態の測定装置320の構成を示す図である。同図に示すように、本実施形態では、電池140は、測定部110には直接、電力を供給しており、演算処理部120及び無線送信部130には電力供給制御部141を介して電力を供給している。
電力供給制御部141には、加速度センサ112から測定信号が入力される。電力供給制御部141には、地震が発生したと判定するための基準となる所定の閾値が設定されている。電力供給制御部141は、常時は、電池140から演算処理部120及び無線送信部130への電力の供給を停止しており、加速度センサ112から入力される測定信号が閾値以上となると、地震が発生したと判定し、演算処理部120及び無線送信部130への電力供給を許可する。
【0068】
かかる構成によれば、無線送信部130に加えて、演算処理部120も信号の送信が必要となる地震時のみ起動することとなり、さらに、消費電力を削減することができる。なお、中継装置30も同様の構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態の損傷監視システムを示す図である。
【図2】測定装置の構成を示す図である。
【図3】中継装置の構成を示す図である。
【図4】監視サーバの構成を示す図である。
【図5】損傷有無判定部に設定された加速度振幅絶対値和と、ゼロクロス回数とに基き損傷の有無を判定する基準を示す図である。
【図6】損傷監視システムにおいて形成されたメッシュ状ネットワークを示す図である。
【図7】一部の中継装置に異常が発生し、また、測定装置と中継装置の間に障害物がある場合のメッシュ状ネットワークを示す図である。
【図8】加速度センサが測定した構造体に発生した加速度に基き、地震が発生したか否かを判定する流れを示すフローチャートである。
【図9】システムの送受信機能の異常の有無をチェックする流れを示すフローチャートである。
【図10】構造体の各部の損傷の有無を判定する流れを示すフローチャートである。
【図11】各測定装置に固有の遅延時間を持たせることにより、異なるタイミングで測定結果信号を送信することとなることを示す図である。
【図12】別の実施形態の測定装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 損傷監視システム 11 構造体
20、320 測定装置 30 中継装置
40 監視サーバ 110 測定部
112 加速度センサ 114 A/D変換部
120 演算処理部 122 記録部
124 制御部 126 ゼロクロスカウント部
128 絶対値加算部 130 無線送信部
140 電池 141 電力供給制御部
150 無線送受信部
160 無線受信部 162 損傷有無判定部
164 異常有無判定部 166 出力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に基き求められた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する複数の測定装置と、
各測定装置の前記送信部が送信した無線信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した無線信号で示される前記物理量又は前記指標値に基き前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を有する損傷監視装置と、
を備えた前記構造物の損傷の有無を監視するシステムであって、
前記測定装置は、
常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、
前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムであって、
前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、
前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号の絶対値を加算して振幅絶対値和を算出する演算処理部を備え、
前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記振幅絶対値和を送信することを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1記載のシステムであって、
前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、
前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号において正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数であるゼロクロス回数をカウントする演算処理部を備え、
前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記ゼロクロス回数を送信することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項2又は3記載のシステムであって、
前記電源部は、前記演算処理部へ電力を供給し、
前記電力供給制御部は、
常時は、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を停止させ、
前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を許可することを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1から4のうち何れか1項に記載のシステムであって、
前記測定装置の送信部から送信された無線信号を、前記損傷監視装置の受信部へ中継する複数の中継装置を備え、
前記複数の測定装置は、夫々、複数の前記中継装置と無線通信可能であることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1から5のうち何れか1項に記載のシステムであって、
前記複数の測定装置の前記送信部には、夫々、予め異なる遅延時間が設定されており、
前記送信部は、夫々、前記監視部が起動信号を生成してから、前記設定された遅延時間だけ経過した後、前記物理量又は前記指標値に応じた無線信号を送信することを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1から6のうち何れか1項に記載のシステムであって、
前記複数の測定装置には、予め、前記送信部の異常の有無の検査を行う検査時点が設定されており、
前記測定装置の送信部は、夫々、前記検査時点ごとに前記検査のための無線信号を送信し、
前記損傷監視端末は、前記受信部により、各測定装置の送信部から送信された前記無線信号を受信できるか否かに基き、前記測定装置の前記送信部の異常の有無を判定することを特徴とするシステム。
【請求項8】
構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に応じた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する測定装置であって、
常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とする装置。
【請求項1】
構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に基き求められた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する複数の測定装置と、
各測定装置の前記送信部が送信した無線信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した無線信号で示される前記物理量又は前記指標値に基き前記構造物の損傷の有無を判定する損傷判定部と、を有する損傷監視装置と、
を備えた前記構造物の損傷の有無を監視するシステムであって、
前記測定装置は、
常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、
前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムであって、
前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、
前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号の絶対値を加算して振幅絶対値和を算出する演算処理部を備え、
前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記振幅絶対値和を送信することを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1記載のシステムであって、
前記測定部は、構造物に生じる振動に応じて変化する物理量に応じた信号を出力する物理量センサと、前記物理量センサから出力された信号をA/D変換するA/D変換部とからなり、
前記測定装置は、所定の時間内の前記A/D変換された信号において正の値と負の値とが隣り合う箇所の個数であるゼロクロス回数をカウントする演算処理部を備え、
前記送信部は、前記演算処理部が算出した前記ゼロクロス回数を送信することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項2又は3記載のシステムであって、
前記電源部は、前記演算処理部へ電力を供給し、
前記電力供給制御部は、
常時は、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を停止させ、
前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記演算処理部への電力の供給を許可することを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1から4のうち何れか1項に記載のシステムであって、
前記測定装置の送信部から送信された無線信号を、前記損傷監視装置の受信部へ中継する複数の中継装置を備え、
前記複数の測定装置は、夫々、複数の前記中継装置と無線通信可能であることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1から5のうち何れか1項に記載のシステムであって、
前記複数の測定装置の前記送信部には、夫々、予め異なる遅延時間が設定されており、
前記送信部は、夫々、前記監視部が起動信号を生成してから、前記設定された遅延時間だけ経過した後、前記物理量又は前記指標値に応じた無線信号を送信することを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1から6のうち何れか1項に記載のシステムであって、
前記複数の測定装置には、予め、前記送信部の異常の有無の検査を行う検査時点が設定されており、
前記測定装置の送信部は、夫々、前記検査時点ごとに前記検査のための無線信号を送信し、
前記損傷監視端末は、前記受信部により、各測定装置の送信部から送信された前記無線信号を受信できるか否かに基き、前記測定装置の前記送信部の異常の有無を判定することを特徴とするシステム。
【請求項8】
構造物に生じる振動に応じて変化する物理量を測定する測定部と、前記測定部が測定した前記物理量又はこの物理量に応じた指標値を示す無線信号を送信する送信部と、前記測定部及び前記送信部へ電力を供給する電源部とを有する測定装置であって、
常時は前記電源部から前記送信部への電力の供給を停止させ、前記測定部が測定した前記物理量が所定の値を超えると、前記電源部から前記送信部への電力の供給を許可する電力供給制御部と、を備えることを特徴とする装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【公開番号】特開2009−258063(P2009−258063A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110444(P2008−110444)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ホームページアドレス<http://www.jaee.gr.jp/stack/submit−j/v07n06/070602_Paper.pdf>(日本地震工学会論文集 第7巻、第6号、2007)を通じて発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(394026714)株式会社ジャスト (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ホームページアドレス<http://www.jaee.gr.jp/stack/submit−j/v07n06/070602_Paper.pdf>(日本地震工学会論文集 第7巻、第6号、2007)を通じて発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(394026714)株式会社ジャスト (9)
【Fターム(参考)】
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