説明

携帯用単巻変圧器

【課題】負荷容量の変動に左右されずに安定した定格電圧を出力し、機器の小型化とコストダウンを図る。
【解決手段】低圧用接点T1及び高圧用接点T2が接続されたトランスTRからなる電圧変換回路4と、ダイオードD1からなる整流回路5と、電解コンデンサC1からなる平滑回路6と、抵抗R1、R2、及び電解コンデンサC4による積分回路と、トランジスタQ1及びリレーコイルRYからなるリレー駆動回路7と、ツェナーダイオードZD2及びサイリスタ(SCR)からなる入力電圧検出回路10と、リレー駆動回路7を作動させる直流電圧で点灯する低圧用発光ダイオードLED1からなる第1表示部11と、入力電圧検出回路10を作動させる直流電圧で点灯する高圧用発光ダイオードLED2からなる第2表示部12とを備える。商用電源からの入力電圧が基準電圧以上の場合、リレー駆動回路7を停止させてタップTを高圧用接点T2に接続の状態を保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧事情の異なる海外において、日本仕様の電気製品を使用する時に必要な変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に海外では、国や地域により例えば米国ではAC120V(100V系)、欧州ではAC220VやAC240V(200V系)のように商用電源の電源電圧が異なっている。このため、日本仕様の電気製品を海外で使用する場合、その国の電源電圧を電気製品の定格電圧AC100Vに降圧して出力する変圧器が必要になる。図2はこのような従来の変圧器の内部構造を示す回路図であり、まずは同図に基づいて従来の変圧器の構成と動作を説明する。
【0003】
[従来の変圧器の構成]
図2に示した変圧器1は単巻変圧器であり、商用電源に接続される入力端子2と電気製品(負荷)を接続する出力端子3との間に電圧変換回路4、整流回路5、平滑回路6、リレー駆動回路7、電圧検出回路8、及び通電表示回路9を具備して構成されている。
【0004】
電圧変換回路4は入力端子2に接続された直列巻線TR1と分路巻線TR2からなるトランスTRを有している。分路巻線TR2の一方側の端子には100V系の低電圧に対応する低圧用接点T1と、200V系の高電圧に対応する高圧用接点T2と、両者の共通接点T3とからなるタップTが接続されており、共通接点T3は出力端子3に接続されている。なお、入力電源のOFF時、共通接点T3は図示したように高圧用接点T2に接続されている。
【0005】
整流回路5は整流用のダイオードD1からなる半波整流回路であり、分路巻線TR2の中間端子にダイオードD1のアノードが接続されている。また、平滑回路6は分路巻線TR2の他方側の端子とダイオードD1のカソードとの間に接続された平滑用の電解コンデンサC1からなっている。
【0006】
リレー駆動回路7はタップの共通接点T3を高圧用接点T2から低圧用接点T1へ切り替える電磁石式のリレーコイルRYと、これに並列接続された逆起電圧防止用のダイオードD2を備えている。また、この回路はリレーを作動させるトランジスタQ1と、そのベースに接続されたバイアス用の抵抗R1及びR2とを備えている。抵抗R1及びR2にはノイズ除去用のコンデンサC2が直列接続され、トランジスタQ1のエミッタにはバイアス電圧加算用のダイオードD3が接続されている。
【0007】
電圧検出回路8はリレー駆動回路7に並列接続されたツェナーダイオードZD1を有している。この回路はツェナーダイオードZD1が導通した時にリレー駆動回路7のトランジスタQ1をOFFにし、リレーを停止させるためのトランジスタQ2と、そのベース電流制限用の抵抗R3と、バイアス用の抵抗R4とから構成されている。
【0008】
通電表示回路9はタップTの切替動作に対応してランプを点灯表示させるもので、100V系の低圧用発光ダイオードLED1と、200V系の高圧用発光ダイオードLED2の2個の発光ダイオードを備えている。また、この回路は整流用のダイオードD4と、そのカソードに一端が接続された抵抗R5とを有しており、抵抗R5の他端には低圧用発光ダイオードLED1と、抵抗R6を介して高圧用発光ダイオードLED2とが並列接続されている。低圧用発光ダイオードLED1のカソードにはトランジスタQ3のコレクタが接続され、トランジスタQ3のベースにバイアス用の抵抗R7とR8が並列接続されている。一方、高圧用発光ダイオードLED2のカソードにはダイオードD5が直列接続されている。
【0009】
[従来の変圧器の動作]
(ア)入力電圧が100V系の場合
100V系の入力電圧が商用電源から入力端子2へ供給されると、その入力電圧はトランスTRで降圧して整流回路5に印加され、ダイオードD1で半波整流される。半波整流された脈動電圧は平滑回路6の電解コンデンサC1で交流成分が取り除かれ、平滑化された直流電圧として出力される。そして平滑回路6からの出力電圧はリレー駆動回路7と電圧検出回路8の双方の回路に印加される。
【0010】
まず、電圧検出回路8ではツェナーダイオードZD1に印加される逆方向の電圧がツェナー電圧に達しないため、ツェナーダイオードZD1は導通しない。よって、ツェナーダイオードZD1に接続された抵抗R3の両端に電圧が印加されずベース電流が流れないので、トランジスタQ2はOFFの状態のままである。一方、リレー駆動回路7ではリレーコイルRYとトランジスタQ1からなる直列回路に電圧が印加されるとともに、バイアス用の抵抗R1とR2を経由してトランジスタQ1のベースにも電圧が印加される。この自己バイアスによりトランジスタQ1にベース電流が供給されるので、トランジスタQ1はONの状態になる。
【0011】
このようにリレー駆動回路7のトランジスタQ1がONした時、リレーコイルRYとトランジスタQ1のコレクタ−エミッタ間に電流が流れるため、リレーが作動し、タップの共通接点T3が高圧用接点T2から離れて低圧用接点T1へ切り替わる。このとき電圧変換回路4では、入力端子2が低圧用接点T1と共通接点T3を介して出力端子3に接続されることになる。したがって、入力電圧が100V系の場合、低圧用接点T1に接続されたトランスTRによって100V系の低電圧に応じて変換した定格電圧が出力端子3から負荷へと供給される。
【0012】
この際、通電表示回路9では、トランジスタQ1がONしたことに伴ってトランジスタQ1のベースに流れる電流が分流し、抵抗R7を介してトランジスタQ3のベースにも流れるので、トランジスタQ3がONの状態になる。また、これと同時にダイオードD4で整流された電圧が抵抗R5で降圧して低圧用発光ダイオードLED1の順方向に印加されるので、低圧用発光ダイオードLED1が点灯する。
【0013】
(イ)入力電圧が200V系の場合
200V系の入力電圧が商用電源から入力端子2へ供給された場合にも、上記(ア)の場合と同様に、その入力電圧はトランスTRで降圧して整流回路5において半波整流されるとともに、半波整流された脈動電圧が平滑回路6で平滑化され、平滑化された直流電圧がリレー駆動回路7と電圧検出回路8の双方の回路に印加される。
【0014】
電圧検出回路8において、今度はツェナーダイオードZD1のカソードに印加される電圧がツェナー電圧に達するため、ツェナーダイオードZD1が導通して電流が流れる。これと同時にツェナーダイオードZD1に接続された抵抗R3の両端に電圧が印加され、電流制限用の抵抗R4を通してベース電流が流れるので、トランジスタQ2がONの状態になる。電圧検出回路8のトランジスタQ2がONすると、抵抗R1とトランジスタQ2のコレクタ−エミッタ間に電流が流れる。これによりリレー駆動回路7では、抵抗R2の両端に電圧が印加されずベース電流が供給されなくなるので、トランジスタQ1がOFFの状態に戻る。
【0015】
このようにリレー駆動回路7のトランジスタQ1がOFFした時、リレーコイルRYへの電流が遮断されてリレーが停止し、タップの共通接点T3が低圧用接点T1から離れて高圧用接点T2へ復帰する。このとき電圧変換回路4では、入力端子2が高圧用接点T2と共通接点T3を介して出力端子3に接続されることになる。したがって、入力電圧が200V系の場合、高圧用接点T2に接続されたトランスTRによって200V系の高電圧に応じて変換した定格電圧が出力端子3から負荷へと供給される。
【0016】
この際、通電表示回路9では、トランジスタQ1がOFFしたことに伴ってトランジスタQ1のベースに電流が流れず、同じくトランジスタQ3のベースにも電流が流れないので、トランジスタQ3もOFFの状態になる。また、これと同時にダイオードD4で整流された電圧が抵抗R5とR6で降圧して高圧用発光ダイオードLED2の順方向に印加されるので、高圧用発光ダイオードLED2が点灯する。
【0017】
すなわち、図2に示す変圧器1は商用電源から入力端子2に供給される入力電圧が100V系、200V系のいずれであっても、リレー駆動回路7を用いてタップTの接点を低圧側又は高圧側に自動的に切り替えることで出力端子3から常にAC100Vの定格電圧を出力して負荷に供給しようとしたものである。なお、この変圧器1と同様な自動切り替えによる変圧器として、下記の特許文献1には複巻変圧器を用いた電源回路が開示されている。
【0018】
【特許文献1】特開平6−214663号公報(図3、4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、上述した従来の変圧器においては以下の問題点が指摘されている。
【0020】
(問題点1)電源投入時に高電圧が出力される場合があること。
【0021】
図3は従来の変圧器の入出力特性を示すグラフ図である。同図に実線で示すように無負荷の状態で100V系の入力電圧が供給された場合、最初はタップの共通接点T3が高圧用接点T2に接続されているが、入力電圧が70V(A点)を超えるとリレー駆動回路7のトランジスタQ1が自己バイアスでONになり、リレーが作動してタップの共通接点T3が低圧用接点T1に切り替わる。これにより変圧器1は100V系の入出力ライン上の特性を示す。例えば入力電圧が100Vの時には約90V(B点)の出力電圧になり、入力電圧が120Vの時には約105V(C点)の出力電圧になる。よって、100V系の入力電圧の場合、出力電圧は約90〜105Vの間にあり、適正な定格電圧である100V±10%の範囲内にあるので特に問題はない。
【0022】
それに対し、無負荷の状態で200V系の入力電圧が供給された場合、入力電圧が70Vを超えてタップの共通接点T3が低圧用接点T1に切り替わるまでの動作は同じであるが、その後、入力電圧が基準電圧の160V(D点)を超えたことを検出すると、電圧検出回路8においてツェナーダイオードZD1が導通してトランジスタQ2がONの状態になる。これによりリレー駆動回路7のトランジスタQ1がOFFになり、リレーが停止してタップの共通接点T3が高圧用接点T2に復帰する。つまり変圧器1は100V系の入出力ラインを経由してから200V系の入出力ラインに戻り、最終的に200V系の入出力ライン上の特性を示す。例えば入力電圧が200Vの時には約95V(E点)の出力電圧になり、入力電圧が240Vの時には約115V(F点)の出力電圧になる。
【0023】
ところが、この200V系の高電圧の場合、タップの共通接点T3が高圧用接点T2から低圧用接点T1へと切り替わり、その後、低圧用接点T1から高圧用接点T2へと切り替わっている。このため、特に低圧用接点T1から高圧用接点T2へ切り替わる直前の極めて短いサイクル(約10msec程度)において、低圧用接点T1による出力電圧が発生することがある。すなわち、入力電圧が基準電圧の160V付近では、低圧用接点T1に接続されたトランスTRで変圧された出力電圧が発生し、約140V近くの高電圧が瞬間的に出力されてしまう。このため、変圧器1に接続した負荷が高電圧に対する保護回路を備えてない電気製品の場合には、瞬間的に出力された高電圧により機器の損傷を招く恐れがあった。
【0024】
また、リレー駆動回路7が作動してタップTが低圧用接点T1へ切り替わった時、通電表示回路9ではトランジスタQ3がONして低圧用発光ダイオードLED1が点灯する。一方、リレー駆動回路7が停止してタップTが高圧用接点T2へ切り替わった時には、トランジスタQ3がOFFして低圧用発光ダイオードLED1が消灯し、替わりに高圧用発光ダイオードLED2が点灯する。つまり通電表示回路9では、タップTの切替動作に同期して2個の発光ダイオードの点灯と消灯を切り替えるようになっている。
【0025】
すなわち、200V系の高電圧が供給されると、始めに点灯した高圧用発光ダイオードLED2が消えて低圧用発光ダイオードLED1が瞬間的に点灯し、またすぐにこれが消えて高圧用発光ダイオードLED2が再び点灯する。したがって、変圧器1を200V系の商用電源に接続した時に、本来は消灯していなければならない低圧用発光ダイオードLED1が点灯してしまうので、商用電源の電源電圧を表示すべき通電表示回路9において利用者に誤認を生じさせる恐れがあった。
【0026】
(問題点2)負荷容量により基準電圧が変動すること。
【0027】
図3において入力電圧が200V系の場合、無負荷の状態では基準電圧の160V(D点)を境に電圧検出回路8のトランジスタQ2がONの状態になり、リレーが停止してタップの共通接点T3が高圧用接点T2に切り替わる。ところが同じ200V系の入力電圧を供給しても、負荷容量が30VA(同図に破線で示す)の時には入力電圧が約170〜174V(G点)、負荷容量が50VA(同図に一点鎖線で示す)の時には入力電圧が約180〜190V(H点)、さらに負荷容量が60VA(同図に二点鎖線で示す)の時には入力電圧が約185〜206V(J点)を基準にしてタップの共通接点T3が切り替わっており、負荷容量によって入力切替の基準電圧が変動することが分かる。これは次のような理由による。
【0028】
例えばモータやランプのように一瞬(約20〜100msec)で多くのエネルギーが必要な機器を接続した場合、インラッシュ時に大電流が流れて負荷容量が増大すると、トランスTRにおける電圧降下により分路巻線TR2の1次側電圧が降下し、整流回路5から出力される直流電圧も低下する。これに伴って電圧検出回路8に印加される電圧が下がるので、200V系の高電圧にもかかわらず本来導通すべきツェナーダイオードZD1が導通せずトランジスタQ2がOFFの状態のままになる。このときリレー駆動回路7のトランジスタQ1はONの状態なので、リレーが作動してタップの共通接点T3が低圧用接点T1に接続され、出力端子3からの出力電圧が増大する。
【0029】
逆に負荷容量が減少すると分路巻線TR2の1次側電圧が上がり、整流回路5から出力される直流電圧も上昇する。これに伴って電圧検出回路8に印加される電圧が上がり、ツェナーダイオードZD1が導通してトランジスタQ2がONになる。するとリレー駆動回路7のトランジスタQ1はOFFになり、リレーが停止するので、タップの共通接点T3が高圧用接点T2に切り替わり、出力端子3からの出力電圧が減少する。
【0030】
すなわち、この変圧器1によると出力端子3に接続された負荷容量に応じてトランスTRに接続された整流回路5の電圧が上下し、電圧検出回路8の基準電圧が変動する。これによりタップTの切り替え動作が繰り返し行われ、出力電圧が増減するチャタリングが発生してしまう。このため、負荷として例えばランプを接続した場合にそのランプが点灯と消灯を繰り返すといった現象や、あるいは共通接点T3に接続されているバリスタVが規定電圧を超えて破損し、トランスTRが破壊されてしまう恐れがあった。
【0031】
また、負荷容量の増減により電圧検出回路8の基準電圧が変動すると、通電表示回路9においても低圧用発光ダイオードLED1と高圧用発光ダイオードLED2の2個の発光ダイオードが点灯と消灯を繰り返し、不安定な動作になってしまう。
【0032】
(問題点3)機器の大型化とコストアップを招くこと。
【0033】
図2に示したように、特に通電表示回路9は低圧用発光ダイオードLED1と高圧用発光ダイオードLED2の2個の発光ダイオードの他に、1個のトランジスタQ3と、2個のダイオードD4,D5と、4個の抵抗R5,R6,R7及びR8とを備えて構成されている。このように通電表示回路9を構成する電子部品の数が多いため、回路基板の組立て作業が非常に煩雑になるとともに、回路基板のサイズが大きくならざるを得ず機器の大型化とコストアップを招く要因になっていた。
【0034】
本発明は以上のような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、負荷容量の変動に左右されずに常に安定した定格電圧を出力することができ、さらに機器の小型化とコストダウンを図ることができる変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明の変圧器は、上記の目的を達成するため、商用電源から入力端子を介して供給される入力電圧をトランスで定格電圧に変換し、変換した定格電圧を出力端子から負荷へと供給する電圧変換回路と、上記商用電源から供給された入力電圧を整流して出力する整流回路と、上記整流回路から出力された電圧を平滑して直流電圧を出力する平滑回路と、上記平滑回路から出力された直流電圧で作動し、上記電圧変換回路のトランスに接続されたタップの接点を高圧用接点から低圧用接点へ切り替えるリレー駆動回路と、上記商用電源から供給された入力電圧を検出し、検出した入力電圧が基準電圧未満の場合には自身が作動せずに上記リレー駆動回路を作動させる一方、検出した入力電圧が基準電圧以上の場合には自身が作動して上記リレー駆動回路を停止させ、上記電圧変換回路のトランスに接続されたタップの接点が高圧用接点に接続した状態を維持する入力電圧検出回路と、上記リレー駆動回路を作動させる直流電圧が印加されて点灯する第1表示部と、上記入力電圧検出回路を作動させる直流電圧が印加されて点灯する第2表示部と、を備えたことを特徴とする。
【0036】
また、本発明の変圧器において、上記第1表示部は上記リレー駆動回路を作動させるトランジスタに接続された第1の発光ダイオードからなり、上記第2表示部は上記入力電圧検出回路を作動させるサイリスタ又はトライアックに接続された第2の発光ダイオードからなることを特徴とする。
【0037】
本発明の変圧器において、上記リレー駆動回路の応答時間を遅延させることにより、上記入力電圧検出回路が作動する前に上記リレー駆動回路が作動しないようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の変圧器によれば以下のような効果が得られる。
【0039】
(効果1)電源投入時に高電圧が出力されなくなる。
【0040】
商用電源から200V系の入力電圧が供給された場合、入力電圧検出回路において入力電圧が基準電圧以上であることを検出してリレー駆動回路を停止させるので、タップの切替動作が行われることはなく、高圧用接点に接続されたトランスから常に安定した定格電圧が出力される。よって、変圧器に接続した負荷に対して高電圧が出力される恐れが全くなくなり、高電圧出力による負荷の損傷等の不具合を確実に防止できる。
【0041】
100V系の低電圧の場合にはリレー駆動回路を作動させるトランジスタの動作を兼用して第1表示部が点灯し、200V系の高電圧の場合には入力電圧検出回路を作動させるサイリスタ(SCR)又はトライアック(TRIAC)の動作を兼用して第2表示部が点灯する。すなわち、低電圧時に点灯すべき第1表示部の動作と高電圧時に点灯すべき第2表示部の動作とが独立しているので、従来のように高電圧にもかかわらず低圧用発光ダイオードが点灯するような動作不良がなく、商用電源の入力電圧を的確に表示することができる。
【0042】
(効果2)負荷容量が増減しても基準電圧が変動しない。
【0043】
入力電圧検出回路にサイリスタ(SCR)又はトライアック(TRIAC)による一種の記憶素子を用いたので、商用電源から200V系の高電圧が供給された場合に、この記憶素子が一旦作動して記憶すると、入力電圧の供給を遮断するまでリレー駆動回路は停止したままである。このため、負荷容量の増減によりトランスの2次側電圧が上下してもタップの接点の切替動作が繰り返し行われることはなく、常に安定した定格電圧が出力される。よって、変圧器に接続した負荷に対して出力電圧の大幅な変動がなく、出力変動によるトランスの破壊等の不具合を可及的に防止できる。
【0044】
負荷容量が増減しても入力切替の基準電圧が変動しないので、第1表示部と第2表示部が点灯と消灯を繰り返すような不安定な動作が起こらず、常に安定した点灯表示が保証される。
【0045】
(効果3)機器の小型化とコストダウンを実現できる。
【0046】
従来の通電表示回路に使用していた多数の電子部品が不要になり、少なくとも2個の発光ダイオードを使用するだけで表示部を構成することができる。このため、回路を構成する電子部品の数を大幅に削減することができ、回路基板の組立て作業が著しく簡素化されるとともに、回路基板のサイズが小さくて済み、機器の小型化とコストダウンを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態について、添付した図面を参照しながら説明する。
【0048】
図1は本発明の変圧器の内部構造を示す回路図である。同図において、図2に示した従来の変圧器と同一構成については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。以下では本発明の変圧器に特有な構成、動作、及び効果を説明する。
【0049】
[本発明の変圧器の構成]
図1に示した変圧器1−1は単巻変圧器であり、商用電源に接続する入力端子2と負荷を接続する出力端子3との間に電圧変換回路4、整流回路5、平滑回路6、リレー駆動回路7を具備している点は従来の変圧器1と同一であるが、電圧検出回路8に替えて入力電圧検出回路10を具備している点と、通電表示回路9に相当する回路を大幅に簡略化した点が異なっている。
【0050】
入力電圧検出回路10は入力端子2に接続され、商用電源から供給された入力電圧を検出し、検出した入力電圧が基準電圧(例えば160V)未満の場合には、自身が作動せずにリレー駆動回路7を作動させ、電圧変換回路4のトランスTRに接続されたタップの共通接点T3を高圧用接点T2から低圧用接点T1へ切り替える。一方、検出した入力電圧が基準電圧以上の場合には、自身が作動してリレー駆動回路7を停止させ、電圧変換回路4のトランスTRに接続されたタップの共通接点T3が高圧用接点T2に接触した状態を維持する機能を備えている。
【0051】
入力電圧検出回路10は入力端子2に接続された整流用のダイオードD6と、ダイオードD6のカソードに直列接続された電流制限用の抵抗R9と、抵抗R9に直列接続されたバイアス用の抵抗R10とからなる直列回路を有している。また、この回路は抵抗R9とR10の間に接続された基準電圧検出用のツェナーダイオードZD2を有しており、ツェナーダイオードZD2のアノードにサイリスタ(SCR)のゲートとノイズ除去用のコンデンサC3とが並列接続されている。
【0052】
また、ツェナーダイオードZD2の導通時において、入力電圧検出回路10のサイリスタ(SCR)が作動する前にリレー駆動回路7のトランジスタQ1が作動しないようにするため、抵抗R1、R2、及び電解コンデンサC4で構成されたRC回路(積分回路)の時定数を大きく設定することで応答速度を遅くしている。本実施形態では、抵抗R1、R2の抵抗値をそれぞれ10KΩ、100KΩに設定し、電解コンデンサC4の静電容量を10μF、許容電圧を6.3Vに設定してある。すなわち、RC回路の時定数は抵抗値と静電容量に比例することから、直列接続した抵抗R1とR2の抵抗値を大きくして電解コンデンサC4の充電に要する時間を長く設定し、サイリスタ(SCR)に接続されている抵抗R1の短絡電流に比べトランジスタQ1のベース電流が所定時間遅延するようになっている。
【0053】
さらに、本発明の変圧器1−1は従来の通電表示回路9のような大掛かりな回路構成を廃止し、大幅に簡略化された回路構成にしたことが特徴である。従来の通電表示回路9に相当する構成は、図1に示すようにリレー駆動回路7に組み込まれた第1表示部11と入力電圧検出回路10に組み込まれた第2表示部12である。
【0054】
第1表示部11はリレー駆動回路7を作動させる直流電圧が印加されてランプを点灯表示するものであり、100V系の低圧用発光ダイオードLED1と電流制限用の抵抗R11とからなる。低圧用発光ダイオードLED1と抵抗R11はトランジスタQ1のエミッタに並列接続されている。一方、第2表示部12は入力電圧検出回路10を作動させる直流電圧が印加されてランプを点灯表示するものであり、200V系の高圧用発光ダイオードLED2からなる。高圧用発光ダイオードLED2はサイリスタ(SCR)のアノードに直列接続されている。
【0055】
[本発明の変圧器の動作]
(ア)入力電圧が100V系の場合
本発明の変圧器1−1において、商用電源から入力端子2へ100V系の入力電圧が供給されると、その入力電圧は、並列接続された入力電圧検出回路10と電圧変換回路4の双方の回路に印加される。
【0056】
まず、入力電圧検出回路10では入力電圧がダイオードD6で半波整流される。半波整流された脈動電圧は直列接続された抵抗R9とR10で分圧され、抵抗R10の両端の電圧がツェナーダイオードZD2のカソードに印加される。このとき抵抗R10の両端に発生する電圧はツェナー電圧に達しないため、ツェナーダイオードZD2は導通しない。よって、ツェナーダイオードZD2に接続されたサイリスタ(SCR)のゲートに電圧が印加されず、抵抗R1を短絡させる電流が流れないので、サイリスタ(SCR)はOFFの状態のままである。
【0057】
一方、電圧変換回路4では入力電圧がトランスTRにより降圧して整流回路5に印加され、ダイオードD1で半波整流される。半波整流された脈動電圧は平滑回路6の電解コンデンサC1で交流成分が取り除かれ、平滑化された直流電圧として出力される。そして平滑回路6からの出力電圧がリレー駆動回路7に印加される。
【0058】
リレー駆動回路7ではリレーコイルRYとトランジスタQ1の直列回路に電圧が印加され、バイアス用の抵抗R1とR2を経由してトランジスタQ1のベースにも電圧が印加される。この自己バイアスによりトランジスタQ1にベース電流が供給されるので、トランジスタQ1がONの状態になる。
【0059】
このようにリレー駆動回路7のトランジスタQ1がONすると、リレーコイルRYとトランジスタQ1のコレクタ−エミッタ間に電流が流れるため、リレーが作動してタップの共通接点T3が高圧用接点T2から離れて低圧用接点T1へ切り替わる。このとき電圧変換回路4では、入力端子2が低圧用接点T1と共通接点T3を介して出力端子3に接続されることになる。したがって、入力電圧が100V系の場合、低圧用接点T1に接続されたトランスTRによって100V系の低電圧に応じて変換した定格電圧が出力端子3から負荷へと供給される。
【0060】
この際、リレー駆動回路7内の第1表示部11では、トランジスタQ1がONしたことによりコレクタ−エミッタ間に流れる電流が抵抗R11と低圧用発光ダイオードLED1とに分流するので、低圧用発光ダイオードLED1の順方向に電圧が印加されて低圧用発光ダイオードLED1が点灯する。このとき入力電圧検出回路10内の第2表示部12ではサイリスタ(SCR)が停止しているので高圧用発光ダイオードLED2が点灯することはない。なお、抵抗R11で分流する理由は最大定格電流を超えて発光ダイオードの素子が破損しないようにLED電流を制限するためである。
【0061】
(イ)入力電圧が200V系の場合
本発明の変圧器1−1において、商用電源から入力端子2へ200V系の入力電圧が供給されると、その入力電圧は、並列接続された入力電圧検出回路10と電圧変換回路4の双方の回路に印加される。
【0062】
まず、入力電圧検出回路10では入力電圧がダイオードD6で半波整流される。半波整流された脈動電圧は直列接続された抵抗R9とR10で分圧され、抵抗R10の両端の電圧がツェナーダイオードZD2のカソードに印加される。ここで今度は抵抗R10の両端に発生する電圧がツェナー電圧に達するため、ツェナーダイオードZD2が導通する。よって、ツェナーダイオードZD2に接続されたサイリスタ(SCR)のゲートに電圧が印加されるので、トリガー電流が流れてサイリスタ(SCR)が作動する。サイリスタ(SCR)が作動するためにはゲートに対して少なくとも脈動電圧の半サイクル程度の電圧が印加されればよい。
【0063】
サイリスタ(SCR)が作動すると、抵抗R1とサイリスタ(SCR)のアノード−カソード間に順方向の電流が流れる。これによりリレー駆動回路7では抵抗R2の両端に電圧が印加されずベース電流が供給されないので、トランジスタQ1は常にOFFの状態である。なお、一旦作動したサイリスタ(SCR)は、負荷容量の増加による電圧降下が生じてゲートにトリガー電流が流れなくなっても動作し続け、その動作は入力端子2を商用電源から取り外して入力電圧の供給が遮断されるまで継続する。
【0064】
このようにリレー駆動回路7のトランジスタQ1は常にOFFであり、リレーコイルRYへ電流が供給されずリレーが停止しているので、タップの共通接点T3は高圧用接点T2に接触したままの状態を維持している。このとき電圧変換回路4では入力端子2が高圧用接点T2と共通接点T3を介して出力端子3に接続されることになる。したがって、入力電圧が200V系の場合、高圧用接点T2に接続されたトランスTRによって200V系の高電圧に応じて変換した定格電圧が出力端子3から負荷へと供給される。
【0065】
この際、入力電圧検出回路10内の第2表示部12では、サイリスタ(SCR)が作動したことによりサイリスタ(SCR)のアノード−カソード間に電流が流れるので、高圧用発光ダイオードLED2の順方向に電圧が印加されて高圧用発光ダイオードLED2が点灯する。また、サイリスタ(SCR)の動作中は電流が流れ続けるので高圧用発光ダイオードLED2は点灯し続ける。このときリレー駆動回路7内の第1表示部11ではトランジスタQ1が常にOFFの状態であるから、電圧が印加されず低圧用発光ダイオードLED1が点灯することはない。
【0066】
[本発明の変圧器による効果]
本発明の変圧器1−1によれば以下のような特有な効果が得られる。
【0067】
(1)電源投入時に高電圧が出力されなくなる。
【0068】
従来は200V系の高電圧が供給された場合に、タップの共通接点T3が低圧用接点T1に一旦切り替わった後で高圧用接点T2へと戻る切替動作をしていたため、低圧用接点T1から高圧用接点T2へ切り替わる直前に入力電圧に応じた高電圧が発生することがあった。
【0069】
それに対し、本発明によれば、200V系の高電圧が供給された場合に入力電圧検出回路10ではツェナーダイオードZD2が導通するとサイリスタ(SCR)が作動して記憶するので、リレー駆動回路7のトランジスタQ1がONになることはない。つまりリレー駆動回路7が常に停止した状態であるから、タップの共通接点T3が低圧用接点T1へと切り替わる動作は行われず、高圧用接点T2に接続されたトランスTRから常に安定した定格電圧が出力される。よって、変圧器1−1に接続した負荷に対して高電圧が出力される恐れが全くなくなり、高電圧出力に伴う負荷の損傷等の不具合を確実に防止できる。
【0070】
また、本発明の変圧器1−1は100V系の低電圧の場合にはリレー駆動回路7を作動させるトランジスタQ1がONすることにより、このトランジスタQ1の動作を利用して第1表示部11の低圧用発光ダイオードLED1を点灯表示させる。また200V系の高電圧の場合には入力電圧検出回路10を作動させるサイリスタ(SCR)がONすることにより、このサイリスタ(SCR)の動作を利用して第2表示部12の高圧用発光ダイオードLED2を点灯表示させる。このため、従来の通電表示回路9のように高電圧にもかかわらず低圧用発光ダイオードLED1が点灯するような動作不良がなく、商用電源の入力電圧を的確に点灯表示することができるので信頼性が高い。
【0071】
(2)負荷容量が増減しても基準電圧が変動しない。
【0072】
従来は200V系の高電圧が供給された場合に、負荷容量が増減するとトランスTRの2次側電圧が上下し、タップTの切替動作の基準電圧が変動してしまうという不具合があった。これは従来の変圧器1では変動の大きな負荷側からの交流電圧に基づいて入力切替の基準電圧を検出していたことが要因である。
【0073】
そこで、本発明の変圧器1−1では変動の少ない商用電源側からの入力電圧に基づいて入力切替の基準電圧を検出するようにした。このため、200V系の高電圧が供給された場合、入力電圧検出回路10のサイリスタ(SCR)が作動した後は、入力端子2を取り外して入力電圧の供給を遮断するまでリレー駆動回路7のトランジスタQ1はONせずリレーが作動することはない。
【0074】
したがって、負荷容量の増減によりトランスTRの2次側電圧が上下に変動したとしてもタップTの切替動作が繰り返し行われることはなく、常に安定した定格電圧が出力される。よって、変圧器1−1に接続した負荷に対して出力電圧の変動がなくなり、出力変動に伴うトランスの破壊等の不具合を可及的に防止できる。
【0075】
また、負荷容量が増減しても入力切替の基準電圧が変動しないので、第1表示部11の低圧用発光ダイオードLED1と、第2表示部12の高圧用発光ダイオードLED2が点灯と消灯を繰り返すような不安定な動作が起こらず、常に安定した動作が保証される。
【0076】
(3)機器の小型化とコストダウンを実現できる。
【0077】
本発明の変圧器1−1によれば、従来の通電表示回路9における1個のトランジスタQ3と、2個のダイオードD4,D5と、4個の抵抗R5,R6,R7及びR8とが不要になり、少なくとも2個の発光ダイオードLED1とLED2を使用するだけで表示部を構成することができる。このように回路を構成する電子部品の数を大幅に削減することができるので、回路基板の組立て作業が著しく簡素化されるとともに、回路基板のサイズが小さくて済み、機器の小型化とコストダウンを実現することができる。
【0078】
なお、上述した実施形態では入力電圧検出回路10にサイリスタ(SCR)を用いた例を説明したが、これに替えてトライアック(TRIAC)を用いても上記と同様な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る変圧器の内部構造を示す回路図。
【図2】従来の変圧器の内部構造を示す回路図。
【図3】従来の変圧器の入出力特性を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0080】
1−1…変圧器
2…入力端子
3…出力端子
4…電圧変換回路
5…整流回路
6…平滑回路
7…リレー駆動回路
10…入力電圧検出回路
11…第1表示部
12…第2表示部
C1…電解コンデンサ(平滑用)
C3…コンデンサ(ノイズ除去用)
C4…電解コンデンサ(充電用)
D1…ダイオード(整流用)
D2…ダイオード(逆起電圧防止用)
D6…ダイオード(整流用)
ZD2…ツェナーダイオード(基準電圧検出用)
LED1…低圧用発光ダイオード
LED2…高圧用発光ダイオード
R1…抵抗(バイアス用)
R2…抵抗(バイアス用)
R9…抵抗(電流制限用)
R10…抵抗(バイアス用)
R11…抵抗(電流制限用)
RY…リレーコイル
Q1…トランジスタ
SCR…サイリスタ
T…タップ
T1…低圧用接点
T2…高圧用接点
T3…共通接点
TR…トランス
TR1…直列巻線
TR2…分路巻線
V…バリスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源から入力端子を介して供給される入力電圧をトランスで定格電圧に変換し、変換した定格電圧を出力端子から負荷へと供給する電圧変換回路と、
上記商用電源から供給された入力電圧を整流して出力する整流回路と、
上記整流回路から出力された電圧を平滑して直流電圧を出力する平滑回路と、
上記平滑回路から出力された直流電圧で作動し、上記電圧変換回路のトランスに接続されたタップの接点を高圧用接点から低圧用接点へ切り替えるリレー駆動回路と、
上記商用電源から供給された入力電圧を検出し、検出した入力電圧が基準電圧未満の場合には自身が作動せずに上記リレー駆動回路を作動させる一方、検出した入力電圧が基準電圧以上の場合には自身が作動して上記リレー駆動回路を停止させ、上記電圧変換回路のトランスに接続されたタップの接点が高圧用接点に接続した状態を維持する入力電圧検出回路と、
上記リレー駆動回路を作動させる直流電圧が印加されて点灯する第1表示部と、
上記入力電圧検出回路を作動させる直流電圧が印加されて点灯する第2表示部と、
を備えたことを特徴とする変圧器。
【請求項2】
上記第1表示部は上記リレー駆動回路を作動させるトランジスタに接続された第1の発光ダイオードからなり、上記第2表示部は上記入力電圧検出回路を作動させるサイリスタ又はトライアックに接続された第2の発光ダイオードからなることを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
上記リレー駆動回路の応答時間を遅延させることにより、上記入力電圧検出回路が作動する前に上記リレー駆動回路が作動しないようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−174719(P2007−174719A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364306(P2005−364306)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【特許番号】特許第3936957号(P3936957)
【特許公報発行日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(591264496)日本▲まき▼線工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】