説明

摩擦ローラ式減速機

【課題】入力軸の周囲に、1対の太陽ローラ素子と、1対のローディングカム装置とを組み付けた中間組立状態であっても、組立治具を使用する事なく、各玉が各カム面から脱落する事を抑制できる構造を実現する。
【解決手段】前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16が前記各カム面17、18の底部同士の間に挟持されている状態での、前記両太陽ローラ素子8c、8cの先端面同士の軸方向に関する間隔をhとする。この場合に、前記各カム面17、17の底部の軸方向に関する深さA1、B1、A2、B2が、それぞれh/2よりも大きく(A1>h/2、B1>h/2、A2>h/2、B2>h/2)なる様に、各部の寸法を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電気自動車の駆動系に組み込んだ状態で、電動モータから駆動輪にトルクを伝達する、摩擦ローラ式減速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
近年普及し始めている電気自動車の利便性を向上させるべく、充電1回当りの走行可能距離を長くする為に、電動モータの効率を向上させる事が重要である。この効率を向上させるには、高速回転する小型の電動モータを使用し、この電動モータの出力軸の回転を減速してから駆動輪に伝達する事が効果がある。この場合に使用する減速機のうち、少なくとも前記電動モータの出力軸に直接繋がる第一段目の減速機は、運転速度が非常に速くなるので、運転時の振動及び騒音を抑える為に、摩擦ローラ式減速機を使用する事が考えられる。この様な場合に使用可能な摩擦ローラ式減速機として、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。このうちの特許文献3に記載された従来構造に就いて、図2〜4により説明する。
【0003】
この摩擦ローラ式減速機1は、入力軸2と、出力軸3と、太陽ローラ4と、環状ローラ5と、それぞれが中間ローラである複数個の遊星ローラ6、6と、ローディングカム装置7とを備える。
このうちの太陽ローラ4は、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子8a、8bを前記入力軸2の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、このうちの太陽ローラ素子8aを前記入力軸2に対する相対回転を可能に配置して成る。前記両太陽ローラ素子8a、8bの外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としている。即ち、この転がり接触面の外径は、軸方向中間部で小さく、両端部に向かうに従って大きくなる。
【0004】
又、前記環状ローラ5は、全体を円環状としたもので、前記太陽ローラ4の周囲にこの太陽ローラ4と同心に配置した状態で、図示しないハウジング等の固定の部分に支持固定している。又、前記環状ローラ5の内周面は、軸方向中央部に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した転がり接触面としている。
又、前記各遊星ローラ6、6は、前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面との間の環状空間9の円周方向複数箇所に配置している。前記各遊星ローラ6、6は、それぞれが前記入力軸2及び前記出力軸3と平行に配置された、自転軸である遊星軸10、10の周囲に、ラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持している。これら各遊星軸10、10の基端部は、前記出力軸3の基端部に結合固定された、支持フレームであるキャリア11に、支持固定されている。前記各遊星ローラ6、6の外周面は、母線形状が部分円弧状の凸曲面で、それぞれ前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面とに転がり接触している。
【0005】
更に、前記ローディングカム装置7は、一方の太陽ローラ素子8aと、前記入力軸2との間に設けている。この為に、この入力軸2の中間部に、止め輪12により支え環13を係止し、この支え環13と前記一方の太陽ローラ素子8aとの間に、この支え環13の側から順番に、皿ばね14と、カム板15と、それぞれが転動体である複数個の玉16、16とを設けている。そして、互いに対向する、前記一方の太陽ローラ素子8aの基端面と前記カム板15の片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設けている。これら各カム面17、18はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って漸次浅くなる形状を有する。
【0006】
この様なローディングカム装置7は、前記入力軸2が停止している状態では、前記各玉16、16が、図4の(A)に示す様に、前記各カム面17、18の最も深くなった部分に位置する。この状態では、前記皿ばね14の弾力により、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。これに対して、前記入力軸2が回転すると、前記各玉16、16が、図4の(B)に示す様に、前記各カム面17、18の浅くなった部分に移動する。そして、前記一方の太陽ローラ素子8aと前記カム板15との間隔を拡げ、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。この結果、この一方の太陽ローラ素子8aは前記他方の太陽ローラ素子8bに向け、前記皿ばね14の弾力と、前記各カム面17、18に対して前記各玉16、16が乗り上げる事により発生する推力とのうちの、大きな方の力で押圧されつつ回転駆動される。
【0007】
上述の様な摩擦ローラ式減速機1の運転時には、前記ローディングカム装置7が発生する軸方向の推力により、前記両太陽ローラ素子8a、8bの間隔が縮まる。そして、これら両太陽ローラ素子8a、8bにより構成される前記太陽ローラ4の外周面と、前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧が上昇する。この面圧上昇に伴ってこれら各遊星ローラ6、6が、前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に関して外方に押される。すると、この環状ローラ5の内周面と前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧も上昇する。この結果、前記入力軸2と前記出力軸3との間に存在する、動力伝達に供されるべき、それぞれがトラクション部である複数の転がり接触部の面圧が、前記両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じて上昇する。
【0008】
この状態で前記入力軸2を回転させると、この回転が、前記太陽ローラ4から前記各遊星ローラ6、6に伝わり、これら各遊星ローラ6、6がこの太陽ローラ4の周囲で、自転しつつ公転する。これら各遊星ローラ6、6の公転運動は、前記キャリア11を介して前記出力軸3により取り出せる。前記各トラクション部の面圧は、前記両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じた適正なものとなり、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、或いは、これら各トラクション部の面圧が過大になる事に伴う転がり抵抗が徒に増大する事を防止できる。
【0009】
[先発明の説明]
又、本発明者等は先に、図5〜8に示す様な摩擦ローラ式減速機1aを発明した。この先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aは、入力軸2aにより太陽ローラ4aを回転駆動し、この太陽ローラ4aの回転を、複数個の中間ローラ19、19を介して環状ローラ5aに伝達し、この環状ローラ5aの回転を出力軸3aから取り出す様にしている。この太陽ローラ4aは、互いに同じ形状を有する1対の太陽ローラ素子8c、8cを互いに同心に組み合わせて成り、これら両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に、1対のローディングカム装置7a、7aを設置している。これら各構成部材は、出力側軸受ケース20を含んで構成される、全体構成の図示を省略したハウジング等の減速機ケース内に収納している。
【0010】
前記入力軸2aの基半部(図5に於ける右半部)は前記減速機ケースの一部分の内側に、複列玉軸受ユニット21により、前記出力軸3aは前記出力側軸受ケース20の内側に、複列玉軸受ユニット22により、それぞれ回転自在に支持している。前記入力軸2aと前記出力軸3aとは、互いに同心に配置されている。又、この出力軸3aの基端部は連結部23により、前記環状ローラ5aと連結している。この環状ローラ5aの内周面は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面としており、前記減速機ケースの内側で前記太陽ローラ4aの周囲部分に、この太陽ローラ4aと同心に配置している。
【0011】
前記両太陽ローラ素子8c、8cは、前記入力軸2aの先半部の周囲に、この入力軸2aと同心に、この入力軸2aに対する回転及び軸方向変位を可能に、且つ、互いの先端面(互いに対向する面)同士の間に隙間を介在させた状態で配置している。又、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する1対のカム板15a、15aは、前記入力軸2aの中間部と先端寄り部分との2箇所位置で、前記両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に配置している。又、前記入力軸2aの一部で前記両太陽ローラ素子8c、8cの内径側に位置する部分に、円筒状のスリーブ24を外嵌している。そして、このスリーブ24の軸方向片端面と、前記入力軸2aの外周面の中間部に設けた段差面25との間、及び、このスリーブ24の軸方向他端面と、前記入力軸2aの外周面の先端寄り部分に設けた雄ねじ部26に螺着したローディングナット27との間で、それぞれ前記各カム板15a、15aを挟持している。更に、この状態で、前記ローディングナット27を所定のトルクで締め付ける事により、前記両カム板15a、15aを、前記入力軸2aに対し、軸方向変位及び回転を阻止した状態で支持している。尚、これら両カム板15a、15aの内周面と入力軸2aの外周面との係合を、スプライン係合やキー係合とする事により、この入力軸2aに対する前記両カム板15a、15aの回転を阻止する事もできる。
【0012】
又、互いに対向する、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面と前記両カム板15a、15aの片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設け、これら各カム面17、18同士の間にそれぞれ玉16、16を挟持して、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成している。これら各カム面17、18は、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化するもので、円周方向中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って浅くなる。
【0013】
又、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端部外周面に、それぞれ外向フランジ状の鍔部28、28を設けている。即ち、これら両太陽ローラ素子8c、8cの外周面のうち、前記各中間ローラ19、19の外周面と転がり接触する部分は、先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面となっており、前記両鍔部28、28の外径は、この傾斜面の基端部から、全周に亙り径方向外方に突出している。そして、これら両鍔部28、28を含む、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面に、それぞれ図7に示す様な、複数ずつの凹部29、29と、前記各被駆動側カム面17、17とを、円周方向に関して交互に且つ等ピッチで配置している。
【0014】
又、前記両カム板15a、15aの片側面の一部で、前記両太陽ローラ素子8c、8cと組み合わせた状態で前記各凹部29、29の長さ方向中間部と整合する部分に、それぞれ受ピン30、30を突設している。そして、前記各凹部29、29の長さ方向中間部に前記各受ピン30、30を挿入し、且つ、これら各受ピン30、30と前記各凹部29、29の長さ方向片側の内端面との間で圧縮コイルばね31、31を、それぞれ圧縮した状態で挟持している。そして、これら各圧縮コイルばね31、31の弾力に基づいて、前記両カム板15a、15aと前記両太陽ローラ素子8c、8cとを相対回転する方向に押圧し、前記各玉16、16を前記各カム面17、18の浅い側に移動させる様にしている。これにより、前記入力軸2aにトルクが入力されない状態でも、前記両ローディングカム装置7a、7aに、軸方向に関する厚さ寸法を大きくする方向のカム部押圧力を発生させて、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士の転がり接触部である、各トラクション部の面圧を確保する為の予圧を付与できる様にしている。
【0015】
又、前記各中間ローラ19、19は、前記環状ローラ5aの内周面と前記太陽ローラ4aとの間の環状空間内に設置すると共に、前記減速機ケース内に支持固定される、図8に示す様な支持フレーム32に対し、回転及びこの支持フレーム32の径方向に関する若干の変位を可能に支持している。この径方向変位を可能にする理由は、前記両ローディングカム装置7a、7aの作用により前記両太陽ローラ素子8c、8cが互いに近付き、前記各中間ローラ19、19が前記支持フレーム32の径方向外方に押圧された場合に、これら各中間ローラ19、19の変位を円滑に許容する為である。この様な理由で、前記径方向に関する変位を可能にする為の構造に就いては、例えば前記支持フレーム32に対してそれぞれの基端部を枢支した揺動フレーム33、33の中間部に、前記各中間ローラ19、19の中心部に設けた自転軸34、34の両端部を、玉軸受35、35により回転自在に支持する構造を採用できる。或いは、前記支持フレーム32及び前記減速機ケースの一部に形成した径方向に長い長孔の内側に、前記各中間ローラ19、19の両側に設けた玉軸受35、35の外輪を、緩く内嵌する構造を採用する事もできる。
【0016】
前記各中間ローラ19、19の外周面は、軸方向中間部を単なる円筒面とし、軸方向両側部分を、それぞれ前記両太陽ローラ素子8c、8cの外周面と同方向に同一角度傾斜した、部分円すい凸面状の傾斜面としている。従って、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士は互いに線接触し、前記各トラクション部の接触面積を確保できる。
【0017】
上述の様に構成する先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aの運転時には、図示しない電動モータにより前記入力軸2aを介して、前記太陽ローラ4aを回転駆動する。この太陽ローラ4aの回転は、前記各中間ローラ19、19を介して前記環状ローラ5aに伝わる。この太陽ローラ4aを構成する、前記両太陽ローラ素子8c、8cには、前記各圧縮コイルばね31、31を組み込んだ前記両ローディングカム装置7a、7aにより、互いに近付く方向の予圧が付与されている。従って、前記各ローラ4a、19a、5aの周面同士の転がり接触部である、各トラクション部の面圧は、これら各ローラ4a、19a、5a同士の間でトルクを伝達しない状態でも或る程度確保されている。又、これら各ローラ4a、19a、5a同士の間で伝達するトルクが大きくなると、前記両ローディングカム装置7a、7aが前記両太陽ローラ素子8c、8c同士を互いに近付ける方向に押圧する力(推力)が大きくなり、前記各トラクション部の面圧が更に高くなる。前記各中間ローラ19、19は、前記支持フレーム32に、径方向の変位を可能に支持されている為、これら各中間ローラ19、19の外周面と、前記太陽ローラ4aの外周面及び前記環状ローラ5aの内周面との転がり接触部の面圧は、効果的に上昇する。この結果、前記各ローラ4a、19a、5a同士の間で伝達するトルクの変動に拘らず、前記太陽ローラ4aから前記環状ローラ5aへの動力伝達を効率良く行える。この様にしてこの環状ローラ5aに伝達された動力は、前記連結部23を介して前記出力軸3aに伝達される。
【0018】
上述の様な摩擦ローラ式減速機1aを組み立てる場合には、先ず、図9に示す様に、前記入力軸2aの周囲に、前記スリーブ24、前記両太陽ローラ素子8c、8c、前記両ローディングカム装置7a、7a、前記ローディングナット28等を組み付ける。その後、図5〜6に示す様に、前記両太陽ローラ素子8c、8cの周囲に、前記各中間ローラ19及び前記環状ローラ5aを組み付ける等して、前記摩擦ローラ式減速機1aを完成させる。尚、図9では便宜上、前記両太陽ローラ素子8c、8cの先端面同士の間隔が最も拡がった状態を示しているが、実際には、この様な状態が自然に維持される事はない。即ち、図9に示した組立状態では、前記両ローディングカム装置7a、7aに組み込んだ前記各圧縮コイルばね31、31の弾力に基づいて、これら両ローディングカム装置7a、7aから前記両太陽ローラ素子8c、8cに対し、互いに近付く方向のカム部押圧力が加わる。一方、図9に示した組立状態では、前記両太陽ローラ素子8c、8cが互いに近付く方向に変位する事を規制する手段が存在しない。この為、前記各圧縮コイルばね31、31のストロークを十分に確保した場合には、図9に示した組立状態で、前記両太陽ローラ素子8c、8cは、前記カム部押圧力によって互いに近付く方向に変位し、これら両太陽ローラ素子8c、8cの先端面同士の間隔は、少なくとも使用時に実現される最小間隔よりも狭まった状態(ゼロの状態を含む。)となる。又、これに伴い、前記両ローディングカム装置7a、7aに関するカム面間隔(前記各被駆動側カム面17、17と前記各駆動側カム面18、18との開口端同士の軸方向に関する間隔)は、それぞれ使用時に実現される最大のカム面間隔よりも拡がった状態となる。
【0019】
この結果、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する各玉16、16が、例えば、前記両カム面17、18のうちの何れか一方のカム面から外れた(肩部に乗り上げた)場合には、この乗り上げの際に、この一方のカム面の端縁(エッジ)によって前記各玉16、16の転動面が傷付けられる可能性がある。そして、傷付いた場合には、その後、これら各玉16、16を前記何れか一方のカム面の内側に配置し直して、前記摩擦ローラ式減速機1aを完成させたとしても、前記各玉16、16の転動面と前記両カム面17、18との間の摩擦係数が変化したり、或いはこれら各玉16、16の転動面に早期剥離が発生したりして、前記両ローディングカム装置7a、7aが正常に作動しなくなる可能性がある。これに対し、これら両ローディングカム装置7a、7aを構成する各玉16、16が、前記両方のカム面17、18同士の間から脱落した場合には、上述の様な不都合を生じる可能性がある事に加えて、組立作業を初めから或いは途中からやり直す必要が生じる。更には、脱落に気付かずに組み立て作業を進行させてしまうと、前記両ローディングカム装置7a、7aを組み込んだ摩擦ローラ式減速機が正常に作動しなくなる。
【0020】
以上に述べた様な不都合が生じる事を防止する為に、図9に示した状態で、前記両太陽ローラ素子8c、8cが互いに近付き合う方向に変位する事を防止する為の組立治具を使用する事が考えられる。但し、この様な組立治具を使用する場合には、その分だけ組立作業が面倒になる。又、この組立治具が不用意に外れる可能性もある為、他の解決手段を実現する事が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開昭59−187154号公報
【特許文献2】特開昭61−136053号公報
【特許文献3】特開2004−116670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、入力軸の周囲に1対の太陽ローラ素子と1対のローディングカム装置とを組み付けた状態であって、且つ、前記両太陽ローラ素子の周囲に各中間ローラを組み付ける前の状態であっても、組立治具を使用する事なく、前記両ローディングカム装置に関して、各転動体が各駆動側カム面と各被駆動側カム面とから脱落する事を抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の摩擦ローラ式減速機は、前述した先発明の構造と同様、入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、1対のローディングカム装置と、弾性部材とを備える。
特に、本発明の摩擦ローラ式減速機の場合には、前記両ローディングカム装置を構成する各転動体を各駆動側カム面と各被駆動側カム面との底部(軸方向に関する深さが最大となる部分)同士の間に挟持した状態での、1対の太陽ローラ素子の先端面同士の軸方向に関する間隔hを適切に規制する。この間隔hを規制する為に、前記両ローディングカム装置のうちの一方のローディングカム装置に関する、前記各駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをA1とすると共に、前記各被駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをB1とする。又、他方のローディングカム装置に関する、前記各駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをA2とすると共に、前記各被駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをB2とする。そして、この場合に、A1、B1、A2、B2を何れも、h/2よりも大きくする。
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、A1、B1、A2、B2を何れも、hよりも大きくする。
尚、本発明を実施する場合、A1、B1、A2、B2は、総て等しい大きさ(A1=B1=A2=B2)にする事もできるし、少なくとも一部で異なる大きさにする事もできる。
【発明の効果】
【0024】
上述の様に構成する本発明の摩擦ローラ式減速機の場合には、入力軸の周囲に1対の太陽ローラ素子と1対のローディングカム装置とを組み付けた状態であって、且つ、これら両太陽ローラ素子の周囲に各中間ローラを組み付ける前の状態である、中間組立状態であっても、組立治具を使用する事なく、次の効果を得られる。即ち、この中間組立状態で、弾性部材の弾力に基づき、前記両太陽ローラ素子が互いに近付く方向に変位して、前記両ローディングカム装置に関するカム面間隔(各駆動側カム面と各被駆動側カム面との開口端同士の軸方向に関する間隔)が、最小カム面間隔(これら各駆動側カム面と各被駆動側カム面との底部同士の間に前記各転動体が挟持された状態でのカム面間隔)を基準として、それぞれh/2ずつ拡大した状態となった場合でも、前記両ローディングカム装置に関して、前記各転動体が前記各駆動側カム面と前記各被駆動側カム面とから脱落する(各カム面の肩部に乗り上げる)事を防止できる。
【0025】
又、請求項2に記載した発明の場合には、前記中間組立状態で、前記両ローディングカム装置のうちの何れのローディングカム装置に関するカム面間隔が、最小カム面間隔を基準として最大限度幅であるhだけ拡大した場合でも、当該ローディングカム装置に関して、前記各転動体が前記各駆動側カム面と前記各被駆動側カム面とから脱落する事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、図9と同様の図。
【図2】従来構造の1例を示す断面図。
【図3】一部を省略して示す、図2のa−a断面図。
【図4】ローディングカム装置が推力を発生していない状態(A)と同じく発生している状態(B)とをそれぞれ示す、図3のb−b断面に相当する模式図。
【図5】先発明の構造を示す断面図。
【図6】図5のc部拡大図。
【図7】図6の中央部右側の太陽ローラ素子及びカム板を取り出して、玉及び圧縮コイルばねと共に示す斜視図。
【図8】摩擦ローラ式減速機を取り出し、太陽ローラ及び環状ローラを省略して、図6の右上方から見た状態で示す斜視図。
【図9】入力軸の周囲に、スリーブ、1対の太陽ローラ素子、1対のローディングカム装置、ローディングナット等を組み付けた状態で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態の1例に就いて、図1を参照しつつ説明する。尚、本例の特徴は、図1に示す様な状態、即ち、入力軸2aの周囲に、スリーブ24、1対の太陽ローラ素子8c、8c、1対のローディングカム装置7a、7a、ローディングナット27等を組み付けた状態であって、且つ、前記両太陽ローラ素子8c、8cの周囲に各中間ローラを組み付ける前の状態である、中間組立状態で、各玉16、16の脱落(各カム面17、18の肩部への乗り上げ)を防止できる様にすべく、図1に表れた所定の部位の寸法を規制する点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図5〜8に示した先発明に係る構造の場合と同様である。この為、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0028】
図1は、上述の様な中間組立状態に於いて、便宜的に、前記両ローディングカム装置7a、7aに関するカム面間隔(各被駆動側カム面17、17と各駆動側カム面18、18との開口端である肩部同士の軸方向に関する間隔)が、それぞれ最小カム面間隔(これら各被駆動側カム面17、17と各駆動側カム面18、18との底部同士の間に前記各玉16、16が挟持されている場合のカム面間隔)になっている状態を示している。本例の構造(寸法関係)を規定する為に、この状態での、前記両太陽ローラ素子8c、8cの先端面同士の軸方向に関する間隔をhとする。又、一方(図1に於ける左方)のローディングカム装置7aに関する、前記各駆動側カム面18の底部の軸方向に関する深さをA1とすると共に、前記各被駆動側カム面17の底部の軸方向に関する深さをB1とする。又、他方(図1に於ける右方)のローディングカム装置7aに関する、前記各駆動側カム面18の底部の軸方向に関する深さをA2とすると共に、前記各被駆動側カム面17の底部の軸方向に関する深さをB2とする。本例の場合には、これら各深さA1、B1、A2、B2を、総て等しい大きさ(A1=B1=A2=B2)としている。これと共に、これら各深さA1、B1、A2、B2が、前記間隔hとの関係で、それぞれh/2よりも大きく(A1>h/2、B1>h/2、A2>h/2、B2>h/2)なる様に、各部の寸法を規制している。つまり、請求項1に係る発明の構成を採用している。
【0029】
尚、本例の場合には、図1に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aに関するカム面間隔が、それぞれ最小カム面間隔になった場合でも、1対のカム板15a、15aの片側面と、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面との間に、或る程度の幅を持った隙間(前記両カム板15a、15aの片側面に設けた受ピン30の基端部に存在する突部36が、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面と干渉するのを防止できる程度の幅を持った隙間)が生じる様にしている。この為に、前記各玉16、16の直径を、これら各玉16、16を挟持する1対のカム面17、18の底部の深さの合計値(A1+B1)、(A2+B2)よりも十分に大きくしている。
【0030】
上述の様に構成する本例の摩擦ローラ式減速機の場合には、図1に示す様な中間組立状態であっても、組立治具を使用する事なく、次の効果を得られる。即ち、本例の場合、前記中間組立状態で、前記両ローディングカム装置7a、7aに組み込まれた各圧縮コイルばね31の弾力に基づき、前記両太陽ローラ素子8c、8cが互いに近付く方向に変位して、これら両太陽ローラ素子8c、8cの先端面同士が当接した場合には、前記両ローディングカム装置7a、7aに関するカム面間隔が、最小カム面間隔を基準として、それぞれh/2ずつ拡大した状態となる。これに対し、本例の場合には、この様な状態になった場合でも、前記各カム面17、18の底部の深さA1、B1、A2、B2が、それぞれh/2よりも大きくなっている為、前記両ローディングカム装置7a、7aに関して、前記各玉16、16が前記各駆動側カム面17、17と前記各駆動側カム面18、18とから脱落する(各カム面17、18の肩部に乗り上げる)事を防止できる。
【0031】
尚、本例の場合、図1に示した中間組立状態で、前記両太陽ローラ素子8c、8cに、前記両ローディングカム装置7a、7aに組み込んだ各圧縮コイルばね31の弾力に基づくカム部押圧力以外の外力が作用する事により、何れか一方のローディングカム装置7aに関するカム面間隔が、最小カム面間隔となり、且つ、他方のローディングカム装置7aに関するカム面間隔が、最小カム面間隔を基準としてhだけ拡大した状態となる可能性がある。
この様な場合に、前記各カム面17、18の底部の深さA1、B1、A2、B2が、それぞれh以下(h≧A1>h/2、h≧B1>h/2、h≧A2>h/2、h≧B2>h/2)になっている場合には、前記他方のローディングカム装置7aに関して、前記両カム面17、18のうちの何れか一方のカム面から、前記各玉16が脱落する可能性がある。但し、この様な場合には、前記両太陽ローラ素子8c、8cに不用意な外力が作用する事に注意しながら組立作業を行えば、前記両ローディングカム装置7a、7aに関して、前記各玉16、16が前記各駆動側カム面17、17と前記各駆動側カム面18、18とから脱落する事を防止できる。
【0032】
これに対し、前記各カム面17、18の底部の深さA1、B1、A2、B2が、それぞれhよりも大きく(A1>h、B1>h、A2>h、B2>h)になっている場合、即ち、請求項2に係る発明の構成を採用した場合には、上述の様に他方のローディングカム装置7aに関するカム面間隔が、最小カム面間隔を基準としてhだけ拡大した状態となった場合でも、この他方のローディングカム装置7aに関して、前記各玉16が前記各駆動側カム面17と前記各駆動側カム面18とから脱落する事を防止できる。即ち、前記各カム面17、18の底部の深さA1、B1、A2、B2を、それぞれhよりも大きく(A1>h、B1>h、A2>h、B2>h)する構成を採用すれば、前記中間組立状態で、前記両ローディングカム装置7a、7aのうちの何れのローディングカム装置に関するカム面間隔が、最小カム面間隔を基準として最大限度幅であるhだけ拡大した場合でも、当該ローディングカム装置に関して、前記各玉16が前記各駆動側カム面17と前記各駆動側カム面18とから脱落する事を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明を実施する場合には、ローディングカム装置の構成各部に関して、圧縮コイルばねを設置する為の凹部を形成する面と、受ピン等の受部材を突設する面とを、図示の例とは逆にする事もできる。即ち、太陽ローラ素子の基端面側に受部材を突設し、カム板の片側面側に凹部を形成して、この凹部内に圧縮コイルばねを設置する事もできる。或いは、予圧付与の為の弾性部材として、圧縮コイルばね以外のものを使用する事もできる。例えば、太陽ローラ素子の基端面とカム板の片側面とに突設した係止ピンに、引っ張りばねの両端部を係止する事もできる。又は、太陽ローラ素子の基端面とカム板の片側面とに形成した係止孔に、捩りコイルばねの両端部を係止する事もできる。要は、カム板を外嵌固定した入力軸が停止している状態で、このカム板と太陽ローラ素子とを円周方向に関して相対変位させる方向の弾力を付与できるものであれば良い。更には、1対の太陽ローラ素子同士を直接近付ける方向に付勢するばねや、各中間ローラを1対の中間ローラ素子に2分割し、これら両中間ローラ素子同士を、互いに離れる方向に付勢するものでも良い。要は、ローディングカム装置を構成するカム板と太陽ローラ素子との間でトルク伝達が行われない状態でも、各トラクション部に予圧を付与できるものであれば良い。
【0034】
又、本発明を実施する場合、出力軸と共に回転するローラは、必ずしも環状ローラである必要はない。即ち、各中間ローラを、太陽ローラの周囲で自転しつつ公転する遊星ローラとし、これら各遊星ローラを支持しているキャリアに、出力軸の基端部を結合固定した、遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機で、本発明を実施する事もできる。
【符号の説明】
【0035】
1、1a 摩擦ローラ式減速機
2、2a 入力軸
3、3a 出力軸
4、4a 太陽ローラ
5、5a 環状ローラ
6 遊星ローラ
7、7a ローディングカム装置
8a〜8c 太陽ローラ素子
9 環状空間
10 遊星軸
11 キャリア
12 止め輪
13 支え環
14 皿ばね
15、15a カム板
16 玉
17 被駆動側カム面
18 駆動側カム面
19 中間ローラ
20 出力側軸受ケース
21 複列玉軸受ユニット
22 複列玉軸受ユニット
23 連結部
24 スリーブ
25 段差面
26 雄ねじ部
27 ローディングナット
28 鍔部
29 凹部
30 受ピン
31 圧縮コイルばね
32 支持フレーム
33 揺動フレーム
34 自転軸
35 玉軸受
36 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、中間ローラと、ローディングカム装置と、弾性部材とを備え、
このうちの太陽ローラは、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子を前記入力軸の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、この入力軸に対する回転及び軸方向変位を可能に配置して成るもので、前記両太陽ローラ素子の外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としており、
前記環状ローラは、前記太陽ローラの周囲にこの太陽ローラと同心に配置されたもので、内周面を転がり接触面としており、
前記中間ローラは、前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面との間の環状空間の円周方向複数箇所に設けられていて、それぞれが前記入力軸と平行に配置された自転軸を中心とする回転自在に支持された状態で、それぞれの外周面を前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面とに転がり接触させており、
前記ローディングカム装置は、前記太陽ローラを軸方向両側から挟む2箇所位置に設けられていて、前記入力軸の回転に伴って、前記両太陽ローラ素子同士を互いに近付く方向に押圧しつつ回転させる為、これら両太陽ローラ素子の基端面の円周方向複数箇所に設けられた被駆動側カム面と、前記入力軸の周囲にこの入力軸に対する軸方向変位及び回転を阻止された状態で配置されたカム板の片側面の円周方向複数箇所に設けられた駆動側カム面との間に、それぞれ転動体を挟持して成るもので、これら各駆動側カム面及び前記各被駆動側カム面はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化して端部に向かうに従って浅くなる形状を有するものであり、
前記弾性部材は、前記各ローラの周面同士の転がり接触部の面圧を確保する為の予圧を付与するものであり、
前記環状ローラと前記各自転軸を支持した部材とのうちの一方の部材を、前記太陽ローラを中心とする回転を阻止した状態とし、他方の部材を前記出力軸に結合して、この他方の部材によりこの出力軸を回転駆動自在とすると共に、
前記両ローディングカム装置を構成する前記各転動体を前記各駆動側カム面と前記各被駆動側カム面との底部同士の間に挟持した状態での前記両太陽ローラ素子の先端面同士の軸方向に関する間隔をhとし、前記両ローディングカム装置のうちの一方のローディングカム装置に関する、前記各駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをA1とすると共に、前記各被駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをB1とし、他方のローディングカム装置に関する、前記各駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをA2とすると共に、前記各被駆動側カム面の底部の軸方向に関する深さをB2とした場合に、A1、B1、A2、B2の何れもがh/2よりも大きい事を特徴とする摩擦ローラ式減速機。
【請求項2】
1、B1、A2、B2の何れもがhよりも大きい、請求項1に記載した摩擦ローラ式減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−104549(P2013−104549A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251289(P2011−251289)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】