説明

摩擦撹拌接合の接合端部構造

【課題】疲労破壊の防止に対する接合端部の加工が摩擦撹拌接合前に可能な摩擦撹拌接合の接合端部構造を提供すること。
【解決手段】一方の第1被接合部材10と、その第1被接合部材10の接合面に重ねて接合されるフランジ12a及び当該フランジ12aから起立した状態となるウェブ12bを備えた第2被接合部材12とが、摩擦撹拌接合によって接合された場合の、当該接合部23の長手方向端部231に対応して形成されたものであり、第2被接合部材12は、接合部23の長手方向端部231に対応する所定の範囲に、フランジ12aとウェブ12bとを分割するスリット25が形成された摩擦撹拌接合の接合端部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせた被接合部材を摩擦撹拌接合によって接合するものであって、線状に接合した接合部の接合端部における疲労破壊の防止を図った摩擦撹拌接合の接合端部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね合わせた被接合板同士の摩擦撹拌接合では、回転させた回転接合工具のプローブが上側の被接合板側から重ね合わせ方向に押し込まれ、被接合板の平面方向に移動する。摩擦によって軟化した被接合部材の材料は塑性流動し、回転接合工具の通過後、重なり合う被接合板同士で混ざり合った材料が冷却固化して接合部が形成される。ところが、こうした線状に形成される接合部は、その接合端部に応力が集中し、疲労破壊を引き起こしてしまうことが問題であった。
【0003】
下記特許文献1には、そうした疲労破壊に対する強度向上を図った構造が提案されている。図7及び図8は、同文献に開示された摩擦撹拌接合の接合端部構造を示す図であり、図7は、加工前の断面(a)と平面(b)を示し、図8は加工後の断面(a)と平面(b)を示している。摩擦撹拌接合では、図7(a)に示すように、上部材101を貫通して下部材102の途中までの材料が撹拌された接合部105が形成されている。そして、この接合部105の先端115に応力が集中する。
【0004】
そこで、図8に示すように、先端115からある程度の長さの範囲を先端部分125とし、上部材101の表面を削り薄肉になるようにした加工が行われる。上部材101を徐々に下部材102側に薄くなるように加工し、上部材101の薄肉部111が設けられている。このような文献記載の従来構造は、先端部分125での剛性変化が滑らかになり、応力集中の緩和によって疲労破壊が防止されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−169413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8に示す摩擦撹拌接合の接合端部構造では、摩擦撹拌接合による接合工程の後に薄肉部111を形成する切削加工が行われる。従って、上部材101及び下部材102のように平板同士の接合であればともかく、立体的な被接合部材の接合の場合には、接合後の狭い空間で切削加工を行わなければならず、薄肉部111の加工作業が困難であった。一方で、予め薄肉部111を加工した後に摩擦撹拌接合はできないため、どうしても切削加工は摩擦撹拌接合の後工程になってしまう。摩擦撹拌接合が使用される構造体には、こうした接合端部が複数存在するため、非常に手間のかかる作業になり、その分コストを上げる原因にもなってしまう。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決すべく、疲労破壊の防止に対する接合端部の加工が摩擦撹拌接合前に可能な摩擦撹拌接合の接合端部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造は、一方の第1被接合部材と、その第1被接合部材の接合面に重ねて接合されるフランジ及び当該フランジから起立した状態となるウェブを備えた第2被接合部材とが、摩擦撹拌接合によって接合された場合の、当該接合部の長手方向端部に対応して形成されたものであって、前記第2被接合部材は、前記接合部の長手方向端部に対応する所定の範囲に、前記フランジとウェブとを分割するスリットが形成されたものであることを特徴とする。
また、本発明に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造は、前記スリットが、前記フランジ側又は前記ウェブ側に形成されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造は、前記フランジに、前記接合部の長手方向端部を挟んで前記スリットの反対側に切欠部が形成されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造は、前記切欠部が、前記接合部の長手方向に沿って直線状に形成され、又は前記接合部の長手方向端部に向けて前記フランジの幅を狭くするようにテーパ状に形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第2被接合部材に対し第1接合部材へ摩擦撹拌接合による接合を行う前にスリットを加工しておくことができる。従って、第1被接合部材へ摩擦撹拌接合によって接合された第2被接合部材には、接合後に疲労強度を向上させるための加工が不要になり、接合作業が簡素化できる。そして、スリットによってフランジがウェブから分離したことで、第1被接合部材の変形に伴う応力集中が緩和し、疲労破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した平面図である。
【図2】実施形態に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した図1のA方向から見た側面図である。
【図3】実施形態に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した図1のB−B断面図である。
【図4】他の実施形態に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した側面図である。
【図5】他の実施形態に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した平面図である。
【図6】他の実施形態に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した平面図である。
【図7】摩擦撹拌接合の接合端部を示す図である。
【図8】従来の摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造について、その一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1乃至図3は、摩擦撹拌接合の接合端部構造を示した図であり、図1は平面図、図2は図1のA方向から見た側面図、そして図3は図1のB−B断面図である。本実施形態は、航空機の胴体や鉄道車両の構体などに採用される接合構造であって、外板10に対して縦横に縦通材11とフレーム12が骨部材として接合されている。縦通材11は構体などの長手方向に延びた部材であり、フレーム12は、その縦通材11に直交する方向に沿って接合されている。
【0012】
交差する縦通材11とフレーム12は、フレーム12側に切欠部21が形成され、縦通材11がその切欠部21を通って構体などの長手方向に連続している。縦通材11及びフレーム12は、共に外板10に重ねられるフランジ11a,12aと、それに直交するウェブ11b,12bを備える断面L字形の骨部材である。図2に示すように、縦通材11の方がフレーム12よりウェブ11bの背が低く、フレーム12に形成された切欠部21内を通過するようにして配置されている。
【0013】
縦通材11及びフレーム12は、共にフランジ11a,12a側から回転する不図示の回転接合工具のプローブが重ね合わせ方向に押し込まれ、各部材の長手方向に沿って移動する。摩擦によって軟化した被接合材の材料は塑性流動し、回転接合工具の通過後、重なり合う外板10とフランジ11a,12aとの材料が混ざり合い、冷却固化して接合部22,23が形成される。
【0014】
この場合、縦通材11は、構体などの全長に渡って途切れることなく接合部22が連続しているため、接合端部は接合部22の始点と終点の2箇所となる。一方で、フレーム12は、縦通材11が交差する位置に形成された切欠部21によってフランジ12aが切断されている。そのため、一つのフレーム12には、複数本の接合部23が断続的に形成され、始点及び終点の接合端部231が複数存在する。
【0015】
図示するように、切欠部21を挟んで接合部23の接合端部231が位置する。外板10にかかる外力により、接合端部231に応力が集中し、剥離など疲労破壊が生じ得る。そこで、本実施形態では、その接合端部231が存在する範囲に、フランジ12aをウェブ12aから切り離すスリット25が形成されている。このようにスリット25を形成することにより、当該範囲におけるフレーム12の剛性を低下させている。断面L字形の縦通材11やフレーム12は、骨部材として機能し、胴体や構体の剛性を高める機能を果たしているため、前記従来例のように薄肉部を形成するだけでは、接合端部231に加わる応力を十分には抑えられないからである。
【0016】
航空機の胴体や鉄道車両の構体に外力が作用した場合、外板10が変形しようとするのを抑えるようにフランジ12aに曲げ応力が作用する。しかし、フランジ12a自体はウェブ12bによって曲げが抑えられるため、フランジ12aが薄肉になっても依然として外板10の曲げに対する剛性は高い。従って、疲労破壊を十分に抑えることはできない。そこで、本実施形態では、フランジ12aとウェブ12bを分離し、フランジ12aが接合端部231が存在する所定の範囲で外板10の曲げ変形に倣うようにし、応力集中を緩和させるようにした。
【0017】
こうしたフレーム12は、外板10に対して摩擦撹拌接合によって接合する前に切欠部21が形成される。そこで、切欠部21の形成が行われる際、スリット25の加工も合わせて行われる。外板10に縦通材11が接合された後、フレーム12は、切欠部21によって縦通材11を跨ぐように配置され、フランジ12aに沿って摩擦撹拌接合が行われる。よって、本実施形態によれば、接合後に疲労強度を向上させるための加工が不要になり、接合作業が簡素化された。そして、スリット25によってフランジ12aがウェブ12bから分離したことで、外板10の変形に伴う応力集中を緩和させ、疲労破壊を防止することができる。
【0018】
ところで、本実施形態は、フランジ12aとウェブ12bとの分割によって、接合端部231におけるフレーム12の剛性低下を行った。そのためにフランジ12a側にスリット25を形成したものを示したが、そのスリットはウェブ12b側に形成するものであってもよい。図4は、ウェブ12bにスリット26を形成した場合の側面図である。この場合も、切欠部21を形成する際にスリット26が一緒に形成できるため、接合後に疲労強度を向上させるための加工が不要になり、接合作業が簡素化された。そして、スリット26によってフランジ12aがウェブ12bから分離したことで、外板10の変形に伴う応力集中を緩和させ、疲労破壊を防止することができる。
【0019】
更に、フランジ12aとウェブ12bとを分割する他、図5及び図6に示すように、図1に示す構造に加え、フランジ12aの幅を狭くする直線状の切欠部27やテーパ状の切欠部28を形成することも有効である。なお、この切欠部27,28は、図4に示すウェブ12bにスリット26を形成したものとの組み合わせであっても良い。こうして切欠部27,28を設けることにより、接合端部231におけるフランジ12aの断面積が小さくなることにより剛性が低下し、外板10の変形に伴う応力集中を緩和させ、疲労破壊を防止することができる。特に、テーパ状の切欠部28は、接合端部231に向かって断面積が徐々に小さくなり、外板10とフランジ12aとの間の剛性差も小さくなるため、応力集中の緩和に効果がある。更に、切欠部27,28も接合前に加工することができるため、接合作業が簡素化できる。
【0020】
以上、本発明に係る摩擦撹拌接合の接合端部構造について実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0021】
10 外板
11 縦通材
12 フレーム
21 切欠部
22,23 接合部
25 スリット
231 接合端部
11a,12a フランジ
11b,12b ウェブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の第1被接合部材と、その第1被接合部材の接合面に重ねて接合されるフランジ及び当該フランジから起立した状態となるウェブを備えた第2被接合部材とが、摩擦撹拌接合によって接合された場合の、当該接合部の長手方向端部に対応して形成された摩擦撹拌接合の接合端部構造において、
前記第2被接合部材は、前記接合部の長手方向端部に対応する所定の範囲に、前記フランジとウェブとを分割するスリットが形成されたものであることを特徴とする摩擦撹拌接合の接合端部構造。
【請求項2】
請求項1に記載する摩擦撹拌接合の接合端部構造において、
前記スリットは、前記フランジ側又は前記ウェブ側に形成されたものであることを特徴とする摩擦撹拌接合の接合端部構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する摩擦撹拌接合の接合端部構造において、
前記フランジには、前記接合部の長手方向端部を挟んで前記スリットの反対側に切欠部が形成されたものであることを特徴とする摩擦撹拌接合の接合端部構造。
【請求項4】
請求項3に記載する摩擦撹拌接合の接合端部構造において、
前記切欠部は、前記接合部の長手方向に沿って直線状に形成され、又は前記接合部の長手方向端部に向けて前記フランジの幅を狭くするようにテーパ状に形成されたものであることを特徴とする摩擦撹拌接合の接合端部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66276(P2012−66276A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212927(P2010−212927)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】