説明

撮像装置

【課題】撮像素子近傍の塵埃を除去すべく複数の共振モードにより振動させる場合、ピーク加速度が得られるタイミングが相互に離れてしまう。
【解決手段】光学像を電気信号に変換する撮像素子と、撮像素子の前面に配設されて光学像を透過させる光学部材と、光学部材を振動させる振動素子と、光学部材を振動させる周波数帯域が定義された複数の周波数帯域セットを順次適用して振動素子を駆動する駆動制御部とを備え、複数の周波数帯域セットのそれぞれは、互いに異なる複数の連続周波数帯域をそれぞれ複数の小帯域に区分し、複数の連続周波数帯域のそれぞれから選択された複数の小帯域の少なくとも1つずつを組み合わせて生成される撮像装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ交換式のカメラにおいて、撮像素子を覆うカバーガラス等に塵埃が付着すると、撮影画像データに黒点が写り込む。この塵埃を除去すべくカバーガラス等に加振手段を設け、共振周波数を含む周波数帯域を複数のステップに区分して、区分したステップごとに加振制御を行う技術が知られている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2009−10736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、共振を利用する塵埃除去ユニットにおいては、環境温度の変化、振動対象の形状の個体差などにより、共振周波数が広い範囲でばらつくという問題がある。したがって、ばらつきを考慮すると、共振周波数が存在し得る比較的広い周波数帯域を対象として、順次振動周波数を変更する振動制御を行わなければならない。
【0004】
また、振動対象に生じる振動の節と腹の位置を変化させるべく、複数の共振モードにより振動させることが効果的であるが、複数の共振モードに対応するには、それぞれの共振モードに対して順次振動周波数を変更する振動制御を行わなければならない。
【0005】
したがって、複数の共振モードにおいてピーク加速度が得られるタイミングが相互に離れてしまうので、一度落ちかけた塵埃が再付着してしまい、効果的に除去できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様における撮像装置は、光学像を電気信号に変換する撮像素子と、撮像素子の前面に配設されて光学像を透過させる光学部材と、光学部材を振動させる振動素子と、光学部材を振動させる周波数帯域が定義された複数の周波数帯域セットを順次適用して振動素子を駆動する駆動制御部とを備え、複数の周波数帯域セットのそれぞれは、互いに異なる複数の連続周波数帯域をそれぞれ複数の小帯域に区分し、複数の連続周波数帯域のそれぞれから選択された複数の小帯域の少なくとも1つずつを組み合わせて生成される。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一眼レフカメラの要部断面図である。
【図2】撮像ユニットの分解斜視図である。
【図3】一眼レフカメラのシステム構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】光学LPFへ加える振動周波数と発生する振動加速度の関係の例を示す図である。
【図5】各モードにより光学LPFを振動させる場合の、時間経過と振動加速度、加振周波数の関係を示す図である。
【図6】各モードの連続周波数帯域を小帯域に区分して並べ替えて周波数帯域セットを生成する概念を示す図である。
【図7】周波数帯域セットにより光学LPFを振動させる場合の、時間経過と振動加速度、加振周波数の関係を示す図である。
【図8】塵埃除去の試行順を説明する図である。
【図9】各モードを小帯域に区分して並べ替えて周波数帯域セットを生成する、他の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本実施形態に係る一眼レフカメラ10の要部断面図である。一眼レフカメラ10は、入射する被写体光束を結像させるレンズユニット20と、撮像装置本体としてのカメラユニット30が組み合わされて構成される。
【0011】
レンズユニット20は、光軸11に沿って配列されたレンズ群21を備える。レンズ群21は、入射する被写体光束をカメラユニット30へ導く。レンズ群21は、鏡筒22に支持されている。レンズユニット20は、カメラユニット30との接続部にレンズマウント23を備え、カメラユニット30が備えるカメラマウント31と係合して、カメラユニット30と一体化する。レンズマウント23とカメラマウント31はそれぞれ通信端子を備えており、マウント同士が係合したときに互いの通信端子が接続される。
【0012】
カメラユニット30は、レンズユニット20から入射される被写体光束を反射するメインミラー32と、メインミラー32で反射された被写体光束が結像するピント板33を備える。メインミラー32は、ミラーボックス35の内部でメインミラー回転軸34周りに揺動して、光軸11を中心とする被写体光束中に斜設される反射状態と、被写体光束から退避する退避状態を取り得る。メインミラー回転軸34は、ミラーボックス35の側壁に支持される。
【0013】
ピント板33は、撮像素子36の受光面と共役の位置に配置されている。ピント板33で結像した被写体像は、ペンタプリズム37で正立像に変換され、接眼光学系38を介してユーザに観察される。また、ペンタプリズム37の射出面上方には測光センサ39が配置されており、被写体像の輝度分布を検出する。
【0014】
斜設状態におけるメインミラー32の光軸11の近傍領域は、ハーフミラーとして形成されており、入射される被写体光束の一部が透過する。透過した被写体光束は、メインミラー32と連動して揺動するサブミラー40で反射されて、合焦光学系41へ導かれる。合焦光学系41を通過した被写体光束は、合焦センサ42へ入射される。合焦センサ42は、受光した被写体光束から位相差信号を検出する。なお、サブミラー40は、メインミラー32が被写体光束から退避する場合は、メインミラー32に連動して被写体光束から退避する。
【0015】
斜設されたメインミラー32の後方には、光軸11に沿って、フォーカルプレーンシャッタ43と撮像ユニット45が配列されている。撮像ユニット45は、撮像素子36を含む。被写体光束は、レンズ群21を透過してカメラユニットへ入射し、メインミラー32およびサブミラー40が退避状態となったミラーボックス35の内部と開放状態のフォーカルプレーンシャッタ43を通過して、撮像素子36の受光面で結像する。撮像ユニット45の構造については後に詳述するが、本実施形態においては、撮像ユニット45の一部を振動させることにより表面に付着した塵埃90を弾き飛ばす。
【0016】
撮像素子36は、例えばCMOSセンサなどの光電変換素子であり、受光面で結像した被写体像を電気信号に変換する。撮像素子36は、メイン基板46と電気的に接続されている。メイン基板46には、カメラユニット30の全体を制御するカメラシステム制御部47等の電気素子が搭載されている。
【0017】
カメラユニット30の背面には液晶モニタ等による表示ユニット48が配設されており、画像処理された被写体画像が表示される。表示ユニット48は、撮影後の静止画像に限らず、各種メニュー情報、撮影情報、告知情報等を表示する。また、カメラユニット30には着脱可能な二次電池49が収容され、二次電池49は、カメラユニット30に限らず、レンズユニット20にも電力を供給する。
【0018】
撮影光路中に存在する塵埃は、撮像素子36の受光面に影を落とし、生成される画像データに陰影領域を生じさせる。例えば、陰影領域が存在する画像データからプリントされた写真は、被写体像の一部が欠落して黒点を生じているので、鑑賞の対象とするには著しく品位に欠けたものになり得る。
【0019】
塵埃は、様々な形態をもって撮影光路中に侵入する。例えば、レンズユニット20がカメラユニット30から取り外されたときに、カメラユニット30の周辺で浮遊する塵埃が、外界に対して曝されたミラーボックス35に侵入する。そして、フォーカルプレーンシャッタ43の開放時に移動して、撮像ユニット45の表面に付着し得る。また、カメラユニット30の内部において、メインミラー32、フォーカルプレーンシャッタ43などの駆動部の摺動を原因とする削りかす等の飛散によっても、これらが塵埃となって撮影光路中に侵入し得る。そこで、本実施形態における撮像ユニット45は、撮影光路中の塵埃でも画像データに与える影響が特に大きい、撮像ユニット45の表面に付着する塵埃90を弾き飛ばす機構を備える。
【0020】
図2は、撮像ユニット45の分解斜視図である。撮像ユニット45は、ブラケット81、撮像素子36、光学LPF83、圧電素子85、FPC86、固定板87および押えモルト88を含む。光学LPF83は、撮像素子36の前面に配設されている。したがって、撮像ユニット45においては、光学LPF83が撮影光路に露出されて配置されるので、飛来する塵埃は光学LPF83の表面に付着することになる。
【0021】
ブラケット81は、撮像ユニット45のベースとなる部材である。したがって、ブラケット81は、剛性の高い、例えば金属板で形成されている。撮像素子36は、ブラケット81に保持されており、ブラケット81を介してメイン基板46に実装されている。
【0022】
光学LPF83は、レンズユニット20を透過した被写体光束から高周波成分等を取り除いて、光学像としての被写体光束を撮像素子36へと導く光学フィルタである。光学LPF83は、板状に形成され、後述するように、3つの共振モートを有している。光学LPF83は、枠体状に形成されたマスクゴム84を介して、ブラケット81に保持される。
【0023】
撮像ユニット45は、図示するように2つの圧電素子85を有する。圧電素子85は、光学LPF83の被写体側表面のx方向両縁部に、光学LPF83の被写体側表面に当接した状態で、長手方向がy方向になるように配置される。圧電素子85は、鋸歯状の波形の電圧を連続的に印加することにより、繰り返し伸張して振動をする振動素子である。圧電素子85は、後述するように、例えば30kHzから200kHzの範囲の周波数で振動して、光学LPF83を振動させる。光学LPF83の表面に付着した塵埃は、光学LPF83が比較的大きな加速度をもって振動することにより、弾き飛ばされる。
【0024】
FPC86は、圧電素子駆動回路から圧電素子85へ駆動電圧を伝達するフレキシブル基板である。FPC86と圧電素子85は、接着テープ等により接着される。固定板87は、FPC86、圧電素子85等の部品を、ブラケット81に固定する部材である。固定板87は、弾力を有する押えモルト88によりこれらの部品を押さえ込んだ状態で、ブラケット81にネジ止めされる。
【0025】
なお、圧電素子85による振動は、光学LPF83からマスクゴム84にも伝わるが、マスクゴム84の振動は、その弾性により吸収されて減衰する。このため、圧電素子85の振動は、撮像素子36、ブラケット81等の外部の支持部材と共振し合うことはない。
【0026】
図3は、本実施形態に係る一眼レフカメラ10のシステム構成を概略的に示すブロック図である。一眼レフカメラ10のシステムは、レンズユニット20とカメラユニット30のそれぞれに対応して、レンズシステム制御部71を中心とするレンズ制御系と、カメラシステム制御部47を中心とするカメラ制御系により構成される。そして、レンズ制御系とカメラ制御系は、レンズマウント23とカメラマウント31によって接続される通信端子を介して、相互に各種データ、制御信号の授受を行う。
【0027】
カメラ制御系に含まれる画像処理部54は、カメラシステム制御部47からの指令に従って、撮像素子36で光電変換された撮像信号を画像データに処理する。処理された画像データは、表示制御部53へ送られて、例えば撮影後の一定時間の間、表示ユニット48に表示される。これに並行して、処理された画像データは、予め定められた画像フォーマットに加工され、外部接続IF55を介して外部メモリに記録される。
【0028】
カメラメモリ51は、例えばフラッシュメモリなどの不揮発性メモリであり、一眼レフカメラ10を制御するプログラム、各種パラメータなどを記憶する役割を担う。ワークメモリ52は、例えばRAMなどの高速アクセスできるメモリであり、処理中の画像データを一時的に保管する役割などを担う。
【0029】
カメラ動作制御部56は、カメラシステム制御部47からの指令に従ってメインミラー32、サブミラー40、フォーカルプレーンシャッタ43等を動作させる。圧電素子制御部57は、カメラシステム制御部47からの指令に従って圧電素子85を振動させる。温度検出部58は、撮像ユニット45の近傍に配設された温度センサを有し、温度を検出してカメラシステム制御部47へ出力する。操作入力部59は、レリーズボタン等の操作部材がユーザに操作されたことを検出して、カメラシステム制御部47へ出力する。レンズシステム制御部71は、カメラシステム制御部47からの制御信号を受けて各種動作を制御する。
【0030】
図4は、圧電素子制御部57が圧電素子85を駆動して光学LPF83へ加える振動の振動周波数と、光学LPF83で発生する振動加速度の関係の例を示す図である。横軸は、圧電素子制御部57が圧電素子85を振動させる周波数(kHz)を表し、縦軸は、圧電素子85の振動を受けて光学LPF83が振動する振動加速度(m/s)を表す。
【0031】
図に示されるように、ある連続する周波数帯域において光学LPF83で生じる振動加速度が急激に高まる。この連続周波数帯域における振動状態がいわゆる共振状態であり、図においては共振する周波数帯域が3つ存在する。具体的には、FAS(kHz)からFAE(kHz)までの連続周波数帯域で規定されるモードAと、FBS(kHz)からFBE(kHz)までの連続周波数帯域で規定されるモードBと、FCS(kHz)からFCE(kHz)までの連続周波数帯域で規定されるモードCである。ここでは、それぞれのピーク加速度を、P(m/s)、P(m/s)、P(m/s)とし、P>P>Pであるとする。
【0032】
それぞれのモードは、光学LPF83に生じさせる波形状態が互いに異なる。図2に示したように、光学LPF83のx方向両縁部にy方向を長手方向として圧電素子85を貼着した場合、x方向に対して平行となる節と腹を複数生じさせる波形状態を作り出すことができる。この場合、それぞれのモードごとに節腹の数が異なる波形状態となる。したがって、光学LPF83のある位置座標に着目したときに、例えばモードAにおいて節であっても、モードBにおいては節で無くなる。なお、図における光学LPF83の振動加速度は、腹の位置における振動加速度を示す。
【0033】
塵埃を弾き飛ばすことを目的として光学LPF83を振動させる場合、1つのモードでのみ振動させると、節の位置に存在する塵埃に加速度を与えることができず、その塵埃は光学LPF83上に残留することになる。したがって、光学LPF83上のあらゆる位置に存在し得る塵埃を弾き飛ばすには、複数のモードで光学LPF83を振動させることが好ましい。
【0034】
そこで、モードA、モードBおよびモードCにより、連続的に光学LPF83を振動させる場合について説明する。図5は、各モードにより光学LPF83を振動させる場合の、時間経過と振動加速度、加振周波数の関係を示す図である。横軸は、圧電素子制御部57が圧電素子85に電圧を加え始めてからの経過時間(s)を表し、左の縦軸は、光学LPF83が振動する振動加速度(m/s)を表す。また、右の縦軸は、圧電素子制御部57が圧電素子85を振動させる周波数(kHz)を表す。光学LPF83の振動加速度は、温度tにおける変化を表す実線101と、温度tにおける変化を表す一点鎖線102により示される。なお、これらの曲線は、図4の実験値に対して模式的に滑らかに示している。また、圧電素子85を振動させる周波数は、二点鎖線103で示される。
【0035】
ここでは、圧電素子制御部57は、ピーク加速度の大きいモードBを最初に適用し、続いてモードAを適用し、最後に最も周波数帯域の広いモードCを適用する。具体的には温度tの場合、圧電素子制御部57は、まずモードBで光学LPFを振動させるべく二点鎖線103で示すように、時間経過と共にFBEからFBSへと徐々に変化させて、圧電素子85を振動させる。すると、光学LPF83は、実線101で示すように、0.3sの時点においてピーク加速度Pで共振する。
【0036】
次に、圧電素子制御部57は、モードAで光学LPFを振動させるべく二点鎖線103で示すように、時間経過と共にFAEからFASへと徐々に変化させて、圧電素子85を振動させる。すると、光学LPF83は、実線101で示すように、0.9sの時点においてピーク加速度Pで共振する。そして、圧電素子制御部57は、モードCで光学LPFを振動させるべく二点鎖線103で示すように、時間経過と共にFCEからFCSへと徐々に変化させて、圧電素子85を振動させる。すると、光学LPF83は、実線101で示すように、1.65sの時点においてピーク加速度Pで共振する。
【0037】
なお、ここでは、モードBおよびモードAで振動させる時間をそれぞれ0.6sとし、モードCで振動させる時間を0.9sとした。振動させる時間の設定は、それぞれのモードにおける周波数帯域の幅に応じて決定すると良い。ここでは、モードCの周波数帯域の幅であるFCS〜FCEは、他のモードの周波数帯域の幅よりも大きいので、モードCにおける振動時間を他のモードよりも長くしている。
【0038】
それぞれのモードを順次適用して光学LPF83を振動させる場合、ピーク加速度が得られる時点の間隔は、図の例によるとP−P間で0.6s、P−P間で0.75sであり、比較的長い。このような場合、光学LPF83の表面から一旦浮いた比較的質量の大きな塵埃が、再付着することがある。もし、ピーク時間間隔が短ければ、一旦加速度を受けて飛散するエネルギーを与えられた塵埃が光学LPF83の表面に戻ろうとしても、再接触時に即座に別のピーク加速度によるエネルギーを与えられることになり、再付着しない。したがって、複数のモードを適用して連続的に光学LPF83を振動させる場合、ピーク時間間隔を短くすることが肝要である。
【0039】
一方、塵埃に与えることのできるエネルギーの総和は、実線101(または一点鎖線102)の積分値に比例するので、各モードを適用する時間幅を単に短くするのでは、十分なエネルギーを塵埃に与えることができない場合がある。また、各モードにおける共振周波数は、光学LPF83周りの環境温度、光学LPF83の形状個体差等により変化する。例えば、図に示すように、温度tでの振動加速度と温度tでの振動加速度は、互いに若干シフトしたような関係となる。したがって、スイープする加振周波数の範囲(FAE〜FAS、FBE〜FBS、FCE〜FCS)を狭くしてピーク時間間隔を短くしようとしても、狭くした加振周波数範囲にピーク加速度が生じる加振周波数が含まれなくなってしまう場合がある。
【0040】
これらの問題を解決すべく、本実施形態においては、それぞれのモードにおける加振周波数範囲である連続周波数帯域を複数の小帯域に区分し、各連続周波数帯域のそれぞれから選択された小帯域を組み合わせて生成した複数の周波数帯域セットを適用して光学LPF83を振動する。この考え方について以下説明する。
【0041】
図6は、各モードの連続周波数帯域を小帯域に区分して並べ替えて周波数帯域セットを生成する概念を示す図である。実際に区分する対象は連続する周波数帯域であるが、本実施形態においては、単位時間当たりにおける加振周波数の変化(=スイープ速度)を一定としているので、周波数帯域を対象とする区分と経過時間を対象とする区分とは1対1に対応する。そこで、図5との関連と概念的な理解の容易さとから、各モードを経過時間で区分する図を用いて説明する。
【0042】
まず、図6(a)は、図5から温度tにおける時間経過と振動加速度の関係を抜き出して、それぞれのモードを複数の小帯域に区分する概念を示す図である。図示するように、本実施形態では、それぞれのモードを3つの小帯域に区分する。モードBは、0sから0.2sまでの時間帯域で区分されるB1、0.2sから0.4sまでの時間帯域で区分されるB2、0.4sから0.6sまでの時間帯域で区分されるB3に区分される。モードAは、0.6sから0.8sまでの時間帯域で区分されるA1、0.8sから1.0sまでの時間帯域で区分されるA2、1.0sから1.2sまでの時間帯域で区分されるA3に区分される。モードCは、1.2sから1.5sまでの時間帯域で区分されるC1、1.5sから1.8sまでの時間帯域で区分されるC2、1.8sから2.1sまでの時間帯域で区分されるC3に区分される。
【0043】
これらの小帯域を並べ替えて複数のセットを生成する。図6(b)は、図6(a)の小帯域を並べ替えて生成する各セットの概念を示す図である。セット1は、モードBから選択された小帯域B1、モードAから選択された小帯域A1、モードCから選択された小帯域C1が組み合わされて生成される。セット1は、1番目に適用される周波数帯域セットとして、開始時間を0に合わせて配置される。したがって、セット1は、時間経過として0sから0.7sを占める。
【0044】
同様に、セット2は、モードBから選択された小帯域B2、モードAから選択された小帯域A2、モードCから選択された小帯域C2が組み合わされて生成される。セット2は、2番目に適用される周波数帯域セットとして、セット1の後に配置される。したがって、セット2は、時間経過として0.7sから1.4sを占める。同様に、セット3は、モードBから選択された小帯域B3、モードAから選択された小帯域A3、モードCから選択された小帯域C3が組み合わされて生成される。セット3は、3番目に適用される周波数帯域セットとして、セット2の後に配置される。したがって、セット3は、時間経過として1.4sから2.1sを占める。
【0045】
このように生成された3つの周波数帯域セットを順次適用して、光学LPF83を振動する。図7は、周波数帯域セットにより光学LPFを振動させる場合の、時間経過と振動加速度、加振周波数の関係を示す図である。図5と同様に、横軸は、圧電素子制御部57が圧電素子85に電圧を加え始めてからの経過時間(s)を表し、左の縦軸は、光学LPF83が振動する振動加速度(m/s)を表す。また、右の縦軸は、圧電素子制御部57が圧電素子85を振動させる周波数(kHz)を表す。光学LPF83の振動加速度は、実線101により示される。また、圧電素子85を振動させる周波数は、二点鎖線103で示される。
【0046】
圧電素子制御部57は、二点鎖線103で示されるように、区分された小帯域に対応する加振周波数の範囲でスイープしつつ圧電素子85を振動させる。本実施形態の場合、1つの周波数帯域セットは3つの小帯域を含むので、圧電素子制御部57は、互いに不連続な3つの加振周波数の範囲を、時間的に連続して圧電素子85を振動させる。光学LPF83は、圧電素子85の振動を受けて、実線101で示される振動加速度を伴って振動する。
【0047】
このように周波数帯域セットを生成して順次適用する加振制御を行うと、ピーク加速度が得られる時点の間隔であるピーク時間間隔を短くすることができる。すなわち、図示するように、セット2は、各モードからピーク加速度が得られる狭帯域であるB2、A2、C2を寄せ集めて生成されているので、ピーク時間間隔は、P−P間で0.2s、P−P間で0.25sとなり、図5で説明したピーク時間間隔に比較して短くなる。したがって、一旦加速度を受けて飛散するエネルギーを与えられた塵埃が光学LPF83の表面に戻ろうとしても、再接触時に即座に次のピーク加速度によるエネルギーを与えられることになり、再付着を防ぐことができる。
【0048】
また、図の振動加速度は、温度tの場合を表すが、上述のように、温度等に起因して共振周波数がずれる場合がある。すなわち、セット2にピーク加速度が連なるとは限らない。しかし、本実施形態においては、実用上の温度範囲等を考慮して各モードの加振周波数範囲を定めているので、それぞれのモードを小帯域に区分して上述のように周波数帯域セットを生成した場合、いずれかの周波数帯域セットにピーク加速度が連なることを期待できる。つまり、温度等に起因してピーク加速度がシフトしても、例えば、セット1においてピーク加速度が連なる。したがって、生成された周波数帯域セットを連続して適用すれば、加振制御を完了した時点で、高い確率で塵埃が除去されていることが期待できる。
【0049】
次に、塵埃除去の試行について説明する。図8は、塵埃除去の試行順を説明する図である。上述のように、生成された周波数帯域セットを連続して適用すれば、加振制御を完了した時点で、高い確率で塵埃が除去されていることが期待できるものの、一眼レフカメラ10の状況によっては、1度の試行において全ての周波数帯域セットを完了することができない場合がある。
【0050】
例えば、カメラシステム制御部47は、電源オンを検出したタイミングで、圧電素子制御部57に圧電素子85を振動させる。他にも、予め定められたいくつかのタイミングにおいて圧電素子85を振動させるようにプログラムされている。さらには、操作入力部59がユーザの操作を受け付け、そのタイミングにおいて圧電素子85を振動させることもある。このようなタイミングで開始された塵埃除去の試行は、他の割り込み指示によって途中で終了される場合がある。特に、操作入力部59がユーザから撮像動作の開始指示を受け付けた場合には、撮像動作を優先させるので、全ての周波数帯域セットの適用が完了する前であっても、圧電素子85の振動を終了する。
【0051】
このように、全ての周波数帯域セットの適用が完了する前に圧電素子85の振動が止められると、ピーク加速度を光学LPF83に与えられない場合がある。そこで、本実施形態においては、図示するように、圧電素子85を振動させるタイミングを迎えるごとに、周波数帯域セットの組み合わせ順を変更する。例えば図示するように、あるタイミングにおいてセット1→セット2→セット3の順で組み合わせて試行したら、次のタイミングではセット2→セット3→セット1の順で組み合わせて試行する。そして、さらに次のタイミングでは、セット3→セット1→セット2の順で組み合わせて試行する。このように組み合わせ順序を変更して試行すれば、いずれかの試行において先頭の周波数帯域セットにピーク加速度が連なることを期待できる。したがって、本実施形態においては、少なくとも3回の試行を行えば、たとえ2番目の周波数帯域セットの途中で試行が中止されても、高い確率で塵埃が除去されていることが期待できる。
【0052】
なお、図8に示す試行において高い確率で塵埃が除去されるには、少なくとも先頭の周波数帯域セットは実行されていることを要する。したがって、例えば割り込み指示によって試行を中止する場合であっても、カメラシステム制御部47は、少なくとも先頭の周波数帯域セットの適用が完了するまでは、圧電素子制御部57に圧電素子85の振動を継続させても良い。
【0053】
ユーザの撮影動作開始の指示により試行を中止する場合であっても、ユーザの撮影動作開始の指示から実際に露光が開始されるまでのレリーズタイムラグの間は、試行を継続しても良い。すなわち、露光開始の直前に試行を中止すればよい。このように制御する場合、各セットの継続時間は、レリーズタイムラグよりも短く設定されていることが望ましい。レリーズタイムラグが短い一眼レフカメラ10であれば、例えば、電源オン時に適用される周波数帯域セットの継続時間を、他のタイミングで適用される周波数帯域セットの継続時間よりも短く設定しても良い。
【0054】
また、温度の変化に伴うピーク加速度のシフト傾向は事前に実験等により把握することができるので、カメラシステム制御部47は、温度検出部58の検出結果を参照して、ピーク加速度が得られると予想される周波数帯域セットを先頭とすることができる。したがって、カメラシステム制御部47は、温度検出部58の検出結果により周波数帯域セットの適用順序を決定しても良い。
【0055】
図6を用いて説明した周波数帯域セットの生成においては、各小帯域の幅を各モードにおいて均等に区分した。しかし、区分の仕方は均等に限らない。図9は、各モードを小帯域に区分して並べ替えて周波数帯域セットを生成する、他の概念を示す図である。
【0056】
例えば、図9(a)に示すように、各モードにおいて区分する経過時間の位置を25%と75%の位置に設定する。上述のように、本実施形態においては、周波数帯域を対象とする区分と経過時間を対象とする区分とは1対1に対応するので、周波数区分位置も25%と75%に設定されることになる。このように区分された各小帯域を組み合わせて周波数帯域セットを生成すると、図9(b)のようになる。
【0057】
周辺環境の温度によっては、小帯域に区分したその境界位置にピーク加速度が偶然一致する場合があり得る。そのような場合には、圧電素子制御部57が圧電素子85を振動させるスイープ端となるので、本来発揮できるピーク加速度が得られない。そこで、各小帯域の幅を各モードにおいて均等に区分して生成した周波数帯域セットと、区分する位置をずらして生成した周波数帯域セットの両方を順次適用して圧電素子85を振動させれば、少なくとも一方においては十分なピーク加速度を得られる。つまり、図6(b)のように生成された周波数帯域セットと、図9(b)のように生成された周波数帯域セットを連続的に適用して圧電素子85を振動させれば良い。
【0058】
また、図6を用いて説明した周波数帯域セットの生成においては、各モードを3つの小帯域に区分した。しかし、区分数は3つに限らない。互いに境界位置が異なるように区分数を設定し、区分数の異なる周波数帯域セットを順次適用して圧電素子85を振動させれば、少なくとも一方においては十分なピーク加速度を得られる。
【0059】
また、図6を用いて説明した周波数帯域セットの生成においては、各モードにおいて互いの小帯域が重ならないように区分した。しかし、端部において互いに重なる帯域を設定して区分しても良い。このように設定すれば、ある小帯域の端にピーク加速度が一致しても隣接する小帯域においては一致しないことになるので、少なくともピーク加速度の減少を緩和することができる。
【0060】
また、撮像装置としては、一眼レフカメラ10の形態に限らず、メインミラー32等のミラーユニットを含まないレンズユニット交換式のカメラでも良いし、レンズユニットとカメラユニットが一体的に構成されたカメラであっても良い。もちろん、ビデオカメラにおいても適用し得る。
【0061】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0062】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0063】
10 一眼レフカメラ、11 光軸、20 レンズユニット、30 カメラユニット、21 レンズ群、22 鏡筒、23 レンズマウント、31 カメラマウント、32 メインミラー、33 ピント板、34 メインミラー回転軸、35 ミラーボックス、36 撮像素子、37 ペンタプリズム、38 接眼光学系、39 測光センサ、40 サブミラー、41 合焦光学系、42 合焦センサ、43 フォーカルプレーンシャッタ、45 撮像ユニット、46 メイン基板、47 カメラシステム制御部、48 表示ユニット、49 二次電池、54 画像処理部、53 表示制御部、55 外部接続IF、51 カメラメモリ、52 ワークメモリ、56 カメラ動作制御部、57 圧電素子制御部、59 操作入力部、71 レンズシステム制御部、81 ブラケット、83 光学LPF、84 マスクゴム、85 圧電素子、86 FPC、87 固定板、88 押えモルト、90 塵埃、101 実線、102 一点鎖線、103 二点鎖線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学像を電気信号に変換する撮像素子と、
前記撮像素子の前面に配設されて前記光学像を透過させる光学部材と、
前記光学部材を振動させる振動素子と、
前記光学部材を振動させる周波数帯域が定義された複数の周波数帯域セットを順次適用して前記振動素子を駆動する駆動制御部と
を備え、
前記複数の周波数帯域セットのそれぞれは、互いに異なる複数の連続周波数帯域をそれぞれ複数の小帯域に区分し、前記複数の連続周波数帯域のそれぞれから選択された前記複数の小帯域の少なくとも1つずつを組み合わせて生成される撮像装置。
【請求項2】
前記駆動制御部は、予め定められたタイミングで前記振動素子を駆動するときに、前記複数の周波数帯域セットの適用順序を前回の駆動時と異ならせる請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記予め定められたタイミングは、前記撮像装置の電源オンのタイミングである請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記駆動制御部は、ユーザから撮像動作の開始指示を受けた場合に、前記複数の周波数帯域セットの適用が完了する前であっても、前記振動素子の駆動を終了する請求項1から3のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記複数の周波数帯域セットを適用した後に、前記複数の小帯域におけるそれぞれの周波数区分位置を変更して生成された異なる複数の周波数帯域セットを順次適用して前記振動素子を駆動する請求項1から4のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記駆動制御部は、前記複数の周波数帯域セットを適用した後に、前記複数の小帯域の区分数を変更して生成された異なる複数の周波数帯域セットを順次適用して前記振動素子を駆動する請求項1から5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記駆動制御部が前記複数の周波数帯域セットのそれぞれを駆動する駆動時間は、レリーズタイムラグよりも短い請求項1から6のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記駆動制御部は、予め定められたタイミングで前記振動素子を駆動する場合と、ユーザの指示により前記振動素子を駆動する場合で、駆動制御を異ならせる請求項1から7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
温度検出部を備え、
前記駆動制御部は、前記温度検出部の検出結果に基づいて、前記複数の周波数帯域セットの適用順序を決定する請求項1から8のいずれか1項に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−85022(P2013−85022A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221677(P2011−221677)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】