説明

操作端制御システム及び操作端制御方法

【課題】他端が保持されたロープの一端を保持した状態で、平面内で回転してロープを回す操作端を制御する操作端制御システムを提供する。
【解決手段】操作端制御システム100は、前記操作端の回転の中心位置を中心として定めた仮想円上において、前記ロープによって前記操作端に作用する力の方向よりも所定の角度だけ位相を進めた方向に前記操作端の目標位置を定める目標位置設定手段101と、前記目標位置に向かうように、前記操作端に作用させる力を定める力設定手段103と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他端が保持されたロープの一端を保持した状態で、平面内で回転してロープを回す操作端を制御する操作端制御システム及び操作端制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、縄跳びに使用される縄回し装置が開発されている(たとえば、特許文献1)。しかし、該縄回し装置は、測定値に基づいて縄の回転の制御を行う制御システムを備えていない。
【0003】
したがって、何らかの外乱により縄の回転状態が変化した場合には、縄の回転を維持することができなくなる事態が生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案公告昭61−43506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、外乱によりロープの回転状態が変化した場合であっても、その変化に応じて操作量を変化させ、ロープの回転を維持することができるようにする操作端制御システムに対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による操作端制御システムは、他端が保持されたロープの一端を保持した状態で、平面内で回転してロープを回す操作端を制御する。本発明による操作端制御システムは、前記操作端の回転の中心位置を中心として定めた仮想円上において、前記ロープによって前記操作端に作用する力の方向よりも所定の角度だけ位相を進めた方向に前記操作端の目標位置を定める目標位置設定手段と、前記目標位置に向かうように、前記操作端に作用させる力を定める力設定手段と、を備えている。
【0007】
本発明による操作端制御方法は、他端が保持されたロープの一端を保持した状態で、平面内で回転してロープを回す操作端を制御する。本発明による操作端制御方法は、前記操作端の回転の中心位置を中心として定めた仮想円上において、前記ロープによって前記操作端に作用する力の方向よりも所定の角度だけ位相を進めた方向に前記操作端の目標位置を定めるステップと、前記目標位置に向かうように、前記操作端に作用させる力を定めるステップと、を含む。
【0008】
本発明によれば、前記操作端の回転の中心位置を中心として定めた仮想円上において、前記ロープによって前記操作端に作用する力の方向よりも所定の角度だけ位相を進めた方向に定めた目標位置に向かうように、前記操作端に作用させる力を定めることによって、ロープの回転を動的に安定させることができる。
【0009】
本発明の実施形態による操作端制御システムは、前記仮想円の前記中心を起点とした、前記操作端に作用する前記力のベクトルを想定し、前記ベクトルの方向から前記ロープの回転方向へ60度乃至120度回転させたベクトルと前記仮想円との交点を前記目標位置とする。
【0010】
本実施形態によれば、前記操作端に作用する力のベクトルから、容易に前記目標位置を定めることができる。
【0011】
本発明の実施形態による操作端制御システムは、前記仮想円の半径が、前記操作端の回転半径よりも大きくなるように定めている。
【0012】
本実施形態によれば、前記仮想円の半径が、前記操作端の回転半径よりも大きくなるように定めているので、ロープの回転を動的に安定させるのが容易である。
【0013】
本発明の実施形態による操作端制御システムにおいて、前記操作端がロボットの部分である。
【0014】
本実施形態によれば、ロボットによるロープ回し(縄回し)を安定的に行わせることができる。
【0015】
本発明の実施形態による操作端制御システムにおいて、前記他端が別のロボットの操作端によって保持されている。
【0016】
本実施形態によれば、2台のロボットによるロープ回し(縄回し)を安定的に行わせることができる。
【0017】
本発明の実施形態による操作端制御システムにおいて、前記他端が人間によって保持されている。
【0018】
本実施形態によれば、人間がロープの他端を保持した場合に、ロボットによるロープ回し(縄回し)を安定的に行わせることができる。
【0019】
本発明の実施形態による操作端制御システムにおいて、前記他端が固定されている。
【0020】
本実施形態によれば、他端が固定されたロープの、ロボットによるロープ回し(縄回し)を安定的に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態による操作端制御システムと、アームの操作端とを含むブロック図である。
【図2】操作端を含むアームの力制御システムの構成の一例を示す図である。
【図3】操作端制御システムの構成を示す図である。
【図4】操作端に握持された縄を示す図である。
【図5】目標値設定手段が、操作端の目標位置(Tx,Ty)を定める方法を示す流れ図である。
【図6】操作端が回転する平面を示す図である。
【図7】力設定手段が、力の目標値(Fx,Fy)を定める方法を示す流れ図である。
【図8】操作端が安定している状態において、操作端が回転する平面を示す図である。
【図9】操作端の回転位相が、図8に示す安定している状態から角度Δ進んだ状態において、操作端が回転する平面を示す図である。
【図10】他端を固定した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び固定端の位相の変化を示すグラフである。
【図11】他端を固定した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び固定端のエネルギ伝達の変化を示すグラフである。
【図12】他端を人間が保持した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び人間が保持した端の位相の変化を示すグラフである。
【図13】他端を人間が保持した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び固定端のエネルギ伝達の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態による操作端制御システム100と、アームの操作端200とを含むブロック図である。アームの操作端200は、たとえば、ロボットのアームの操作端であってもよい。操作端200は、ロープの一端を握持している。ロープの他端は、固定されているか、他のロボットのアーム又は人間に握持されていてもよい。本発明によれば、以下に説明するように、ロープの他端が固定されている場合であっても、他のロボットのアーム又は人間に握持されている場合であっても、ロボットによるロープ回し(縄回し)を安定的に行わせることができる。ここで、ロープとは、織糸綱及び鋼索を含む。さらに、ロープは、所定の弾性を有する棒状体であってもよい。以下の実施形態において、ロープは縄とする。
【0023】
操作端制御システム100は、操作端の位置及び縄を介して操作端に作用する力を検出する。操作端制御システム100は、これらの検出値を使用してアームの操作端に作用させる力の目標値を定める。操作端制御システム100の構成及び機能の詳細については後で説明する。
【0024】
図2は、操作端を含むアームの力制御システムの構成の一例を示す図である。力制御システムは、力フィードバック制御系201、モータドライバ203、モータ205、アーム207及びアームの力センサ209を含む。
【0025】
力フィードバック制御系201は、操作端制御システム100から力の目標値を受け取り、力センサ209からの力の測定値を受け取り、力の測定値が力の目標値と一致するようにモータドライバ203の指令値を定める。力フィードバック制御系201によるフィードバック制御は、たとえば、力の測定値と力の目標値との偏差に比例する量及び偏差を時間積分した量の和を出力とする比例積分制御であってもよい。モータドライバ203は、指令値にしたがってアーム駆動用モータ205を制御する。アーム207は、モータ205によって駆動される。アーム207は、力センサ209を備えている。力センサ209は、アーム207に組み込んだ構造部材のひずみや変形量などから、並進3軸方向の力成分及び回転3軸周りのモーメント成分を動時に検出する6軸力覚センサであってもよい。力センサ209は、モータ205によってアームに作用する力を測定(検出)する。
【0026】
図3は、操作端制御システム100の構成を示す図である。操作端制御システム100は、目標値設定手段101と、力設定手段103と、を備える。
【0027】
目標値設定手段101は、力センサ105から、縄を経由して操作端に作用する力の測定値(fx,fy)を受け取る。目標値設定手段101は、縄を経由して操作端に作用する力の測定値(fx,fy)から、操作端の目標位置(Tx,Ty)を定める。操作端の目標位置(Tx,Ty)の定め方については後で詳細に説明する。
【0028】
図4は、操作端2071に握持された縄300を示す図である。縄300は、本体301及び端部303からなり、端部303は、持ち手400を介して、アーム207の操作端2071に握持される。縄の端部303は、持ち手400の端部401にネジなどによって取り付けられる。持ち手400の端部401と本体403との間に力センサ105が設置されている。力センサ105は、上述の6軸力覚センサであってもよい。持ち手400の本体403は、操作端2071に握持される。力センサ105は、縄を経由して操作端に作用する力を測定する。
【0029】
図5は、目標値設定手段101が、操作端の目標位置(Tx,Ty)を定める方法を示す流れ図である。
【0030】
図6は、操作端2071が回転する平面を示す図である。操作端2071の位置は、10101で示され、中心位置10103の周囲を回転する。操作端2071に作用する力のベクトルは、10107で示される。該平面上に、中心位置10103を中心とする仮想円10105を定める。仮想円10105の半径は、操作端の回転半径よりも大きくするのが好ましい。一例として、操作端の回転半径の1.5倍乃至2倍の範囲としてもよい。
【0031】
図5のステップS010において、目標値設定手段101は、力センサ105から、縄を経由して操作端に作用する力の測定値(fx,fy)を受け取り、力のベクトル10107を求める。
【0032】
図5のステップS020において、目標値設定手段101は、力のベクトル10107の始点を、操作端の回転の中心位置10103とする。
【0033】
図5のステップS030において、目標値設定手段101は、平面内において力のベクトル10107を回転方向に所定の角度だけ回転させる。所定の角度は、60度乃至120度であるのが好ましい。図6において、所定の角度はθで示した。
【0034】
図5のステップS040において、目標値設定手段101は、回転後のベクトルと仮想円との交点を目標位置とする。図6において、交点は10111で示した。
【0035】
図3に戻り、力設定手段103は、位置測定手段107から、操作端の測定位置(Ex,Ey)(図6の10101)を受け取り、目標値設定手段101から、操作端の目標位置(Tx,Ty)(図6の10111)を受け取る。位置測定手段107は、アームの関節に取り付けられたエンコーダであってもよい。力設定手段103は、操作端の測定位置(Ex,Ey)及び操作端の目標位置(Tx,Ty)から、アームの操作端に作用させる力の目標値(Fx,Fy)を定める。力の目標値(Fx,Fy)の定め方については、以下に説明する。
【0036】
図7は、力設定手段103が、力の目標値(Fx,Fy)を定める方法を示す流れ図である。
図8は、操作端2071が安定している状態において、操作端2071が回転する平面を示す図である。図8において、目標位置10111は、力のベクトル(図6の10107)をθ=90度回転させて求めたものである。
【0037】
図7のステップS210において、力設定手段103は、操作端の測定位置10101、目標位置10111及び操作端の回転の中心位置10103を取得する。
【0038】
図7のステップS220において、力設定手段103は、縄を経由して操作端2071に作用する力の大きさTを求める。具体的に、力設定手段103は、力センサ105から、縄を経由して操作端に作用する力の測定値(fx,fy)を受け取り力の大きさTを計算する。力の大きさTは、以下の式で表せる。
【数1】

ここで、mは縄の質量、rは、縄の重心位置を回転面上に投影した点と縄の回転中心を回転面上に投影した点との距離、ωは角速度である。Tは遠心力であり、回転を維持するために、操作端の回転の中心位置10103に向けたTと同じ大きさの力Fxが必要である。
【0039】
図7のステップS230において、力設定手段103は、図8に示した位置関係から、目標位置10111に向けた力Fの大きさと方向を定める。
【0040】
ここで、図8において、操作端の位置10101のx方向(半径方向)の変化について考察する。
【0041】
回転運動のエネルギEの安定から以下の式が導かれる。
【数2】

半径方向の力の釣り合いから以下の式が導かれる。
【数3】

ここで、kはばね定数である。さらに、
【数4】

と表せる。ここで、Lは、縄の寸法に対応する定数である。式(2)乃至(4)を整理して、
【数5】

と表せる。x方向の変位は、角速度ω方向への力を発生しないため、式(2)からエネルギEは一定となる。したがって、半径方向の位置xは、式(5)の解近傍で安定する。
【0042】
図9は、操作端2071の回転位相が、図8に示す安定している状態から角度Δ進んだ状態において、操作端2071が回転する平面を示す図である。角度Δは、位相のシフト量である。
【0043】
本状態において、図5及び図7の方法によって求めた力の目標値は、F’によって表せる。F’は、Fxと同じ大きさのベクトルFx’と、F’ o’oと、Fyと同じ大きさのベクトルFy’と、の和で表せる。したがって、F’は、安定状態における力の目標値Fに、力F’ o’oを加えた力に相当する。力F’ o’oは、図9の状態における操作端2071の回転中心位置O’を仮想円中心Oへと引き寄せるように働く。
【0044】
図9において以下の関係が成立する。
【数6】

ここで、OO’とx方向とのなす角度をφとすると、以下の関係が成立する。
【数7】

【0045】
式(7)は、力F’ o’oの半径方向の成分を表し、式(8)は、力F’ o’oの円周方向の成分を表す。ここで、Δは、微小角度であり、φは、ほぼ90°である。したがって、式(7)で表せる、力F’ o’oの半径方向の成分は、二次の微小量であり、式(8)で表せる、力F’ o’oの円周方向の成分は、一次の微小量である。このため、半径方向には余分な力が働かずに、位相だけが、位相シフト量Δに相当した分だけ調整される。
【0046】
図10は、他端を固定した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び固定端の位相の変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸は位相を表す。図10の位相から縄が安定的に回転していることがわかる。
【0047】
図11は、他端を固定した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び固定端のエネルギ伝達の変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸はエネルギ伝達量を表す。図11から、回転ごとに操作端が縄にエネルギを供給していることがわかる。
【0048】
図12は、他端を人間が保持した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び人間が保持した端の位相の変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸は位相を表す。図12の位相から縄が安定的に回転していることがわかる。
【0049】
図13は、他端を人間が保持した縄の一端を保持した操作端を、本実施形態による操作端制御システムによって回転させた場合の、操作端及び固定端のエネルギ伝達の変化を示すグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸はエネルギ伝達量を表す。図13から、操作端と人間が協調して縄にエネルギを供給していることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
100…操作端制御システム、101…目標値設定手段、103…力設定手段、105…力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他端が保持されたロープの一端を保持した状態で、平面内で回転してロープを回す操作端を制御する操作端制御システムであって、
前記操作端の回転の中心位置を中心として定めた仮想円上において、前記ロープによって前記操作端に作用する力の方向よりも所定の角度だけ位相を進めた方向に前記操作端の目標位置を定める目標位置設定手段と、
前記目標位置に向かうように、前記操作端に作用させる力を定める力設定手段と、を備えた操作端制御システム。
【請求項2】
前記仮想円の前記中心を起点とした、前記操作端に作用する前記力のベクトルを想定し、前記ベクトルの方向から前記ロープの回転方向へ60度乃至120度回転させたベクトルと前記仮想円との交点を前記目標位置とする請求項1に記載の操作端制御システム。
【請求項3】
前記仮想円の半径が、前記操作端の回転半径よりも大きくなるように定めた請求項1又は2に記載の操作端制御システム。
【請求項4】
前記操作端がロボットの部分である請求項1から3のいずれかに記載の操作端制御システム。
【請求項5】
前記他端が別のロボットの操作端によって保持されている請求項4に記載の操作端制御システム。
【請求項6】
前記他端が人間によって保持されている請求項1から4のいずれかに記載の操作端制御システム。
【請求項7】
前記他端が固定されている請求項1から4のいずれかに記載の操作端制御システム。
【請求項8】
他端が保持されたロープの一端を保持した状態で、平面内で回転してロープを回す操作端を制御する操作端制御方法であって、
前記操作端の回転の中心位置を中心として定めた仮想円上において、前記ロープによって前記操作端に作用する力の方向よりも所定の角度だけ位相を進めた方向に前記操作端の目標位置を定めるステップと、
前記目標位置に向かうように、前記操作端に作用させる力を定めるステップと、を含む操作端制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−269091(P2010−269091A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125841(P2009−125841)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)