説明

改善された動的厚さ安定性を有する印刷ブランケット

印刷ロール間隙圧を受けるその耐用寿命全体にわたってゲージ損失を阻止する印刷ブランケットを提供する。印刷ブランケットは、印刷表面層と少なくとも1つの織物プライとを含む。織物プライは、100%固形分の弾性ウレタン化合物によって含浸することによって処理され、弾性ウレタン化合物は織物プライにおける個別の繊維束の空間に侵入し、ブランケットが永久変形に耐えるように、プライの中の個別の繊維を相対移動から固定する。処理された織物プライを含むブランケットは、その耐用寿命全体にわたってその元のゲージの少なくとも95%を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷ブランケットに関し、より具体的には、改善された動的厚さ安定性とゲージ損失に対する耐性とを有する印刷ブランケットに関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般的な印刷方法の1つはオフセット平版印刷である。この印刷方法では、インクは、紙などの基板に転写される前に、印刷プレートからブランケットシリンダの上に取り付けられたゴム表面の印刷ブランケットにオフセットされる。一般的に、印刷ブランケットは多くの織物プライおよび/または高分子プライによって補強されている。
【0003】
インクで表した画像がプレートからブランケットへ転写されるステップ中、および画像が印刷ブランケットから紙へ転写されるステップ中は、2つの接触表面の間に密接な接触を有することが重要である。これは通常、2つの表面の間に一定の干渉があるように、およびブランケットが実行中に一定の深さに圧縮されるように、ブランケットで覆われたシリンダとこれが接触する支持シリンダとを位置付けることによって達成される。しかし、当技術分野で現在使用されている印刷ブランケットは、これらが最初に張力をかけられて設置されると厚さ(すなわちゲージ)を損失する傾向があり、ブランケットがそれぞれの印刷シリンダ、ブランケットで覆われたシリンダ、および支持シリンダの間のロール間隙における干渉圧に繰り返し曝されるので、さらに厚さを損失する。ブランケットは、全ブランケット表面の一部分における永久的な変形から、またはブランケット表面上の干渉圧の反復サイクルによる長い時間経過にわたるブランケットゲージの漸進的な低下から、機能しなくなる可能性がある。
【0004】
長い時間経過にわたるゲージ損失を阻止する印刷ブランケットを提供しようとする試みがなされてきた。例えば、本譲受人に譲渡された米国特許第5498470号は、ゲージ損失を阻止するエラストマー化合物を含浸した織物プライを含む印刷ブランケットを教示している。しかしこの方法では、含浸の前にエラストマー化合物を溶解してエラストマーを液化するために溶剤を使用する必要がある。次に、含浸の後にこのような溶剤を放出して、安全に処分しなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶剤の使用を必要とすることなく、改善されたゲージ維持をその他の改善されたブランケット性能の特性と共に達成することが望ましいことであろう。したがって、当技術分野ではゲージ損失に対する改善された耐性を示す印刷ブランケット構造および製造方法がなお必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリウレタンを含む100%固形分のエラストマー材料によって含浸された少なくとも1つの織物層を含む印刷ブランケットと製造方法を提供することによって、この必要性に応じる。この印刷ブランケットは、印刷ロール間隙圧を受けるときにその寿命全体にわたってゲージ損失を阻止し、また良好な圧縮永久ひずみ、ヒステリシス、および弾性反撥性も示す。
【0007】
本発明の一態様によれば、ゲージ損失に対して改善された耐性を有する印刷ブランケットが提供され、これは印刷表面層と少なくとも1つの織物層とを含み、この場合、織物層は、100%固形分の弾性ウレタン化合物を織物プライの中に含浸することによって、印刷ロール間隙圧を受けたときの永久変形を阻止するように処理されている。「永久変形を阻止すること」とは、ブランケットがブランケットの耐用寿命全体にわたってその元のゲージの少なくとも95%を維持することを意味する。一般的に、このような耐用寿命には100万回以上の型押しが含まれることもある。
【0008】
織物層は、織布または不織布、横糸挿入織物、またはコードを含んでもよい。ある実施形態では、印刷ブランケットは少なくとも2つの織物プライを含み、各プライは弾性ウレタン化合物によって含浸されている。
【0009】
印刷ブランケットはさらに圧縮層を含んでもよい。
【0010】
1つまたは複数の織物プライは、約6g/mから約205g/mまでの100%固形分弾性ウレタン化合物を織物プライに含浸することによって処理されることが好ましい。織物プライは、約6g/mから約125g/mまでの弾性ウレタン化合物によって含浸されることがさらに好ましい。織物層は、ウレタンが織物層における個別の繊維束の内部の空間に侵入して、繊維を相対移動に対して固定するように、弾性ウレタン化合物によって含浸される。エラストマー化合物は注型用ポリウレタンエラストマーまたは熱可塑性ポリウレタンを含むことが好ましい。
【0011】
弾性ウレタン化合物が注型用ポリウレタンを含む場合には、ポリウレタンを液体の形でプライに加え、次いで硬化させることが好ましい。エラストマー化合物が熱可塑性ポリウレタンを含む場合には、化合物を液体として、または織物に熱積層された薄膜として加えてもよい。ポリウレタンは100%固形分の材料として加えられるので、溶剤の使用は不要である。
【0012】
したがって、本発明の特徴は、印刷ロール間隙圧を受けるときに耐用寿命全体にわたってゲージ損失を阻止する、オフセット平版印刷の適用において使用するための印刷ブランケットを提供することである。本発明のその他の特徴および利点は、下記の説明、附属の図面、および添付の特許請求の範囲から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に図1を参照すると、本発明の一実施形態による典型的な印刷ブランケット10が図示されている。印刷ブランケットはベースプライ12を含み、ベースプライ12は、織物シートまたは薄膜もしくは高分子シートまたは薄膜、1つまたは複数の補強織物プライ14および16、および印刷表面層20を含む。織物プライは、織布、不織布、横糸挿入織物、またはコードを含んでもよい。織物プライが織布から構成されることは好ましい。織物プライを図示するように従来の接着剤13によって共に接着してもよい。
【0014】
印刷ブランケットはさらに、エラストマー材料から形成された圧縮層18を含んでもよい。圧縮層を補強織物層の間、印刷表面層20の下、または印刷表面層と織物補強層との間に位置付けてもよい。
【0015】
印刷表面層20は、インクで表した画像を印刷プレートから受け入れるようになっており、天然ゴムおよび合成樹脂を含む適切ないずれかの高分子材料から構成されてもよい。
【0016】
ブランケットにおける織物プライ12、14、および16の各々が100%固形分の弾性ウレタン化合物によって含浸されることは好ましい。エラストマー化合物は、完全でなければ少なくとも部分的に織物層における個別の繊維束の内部の空間内に侵入し、繊維を相対移動に対して固定しなければならない。織物層が、約6g/cmから約125g/cmまでの弾性ウレタン化合物によって含浸されることは好ましい。
【0017】
織物層を含浸するために使用されるエラストマー化合物は、注型用弾性ポリウレタンまたは熱可塑性ポリウレタンであることが好ましい。このようなポリウレタンの使用が従来の技術のゴム化合物使用に優る利点をもたらすことはわかっており、ポリウレタンを100%固形分の材料として使用してもよく、溶剤の必要性はなくなる。そのうえ、このようなポリウレタン化合物の使用は、従来の技術のゴム化合物の使用に優る改善された引張り強度、伸び率、引裂抵抗、および耐摩耗性を有する(1つまたは複数の)織物層を提供することがわかっている。
【0018】
エラストマー化合物が注型用ウレタンエラストマーを含む場合には、注型用ウレタンは通常、液体状態に温められた100%固形分の材料の形で供給され、次いで浸漬被覆、吹付け塗布、リバースロール塗布、ナイフ塗布、またはスロットダイ塗布によって織物層に加えられる。注型用ウレタンエラストマーは一般にポリエーテルまたはポリエステルに基づいている。使用される特定のウレタンに応じて、硬化機構は熱硬化、UV硬化、または湿分硬化を含んでもよい。通常、硬化を活動化および/または加速するために熱が使用される。本発明において使用するための適切な注型用ウレタンエラストマーには、Chemtura、SIKA Deutschland GmbH、およびITWC,Incから市販されているものがある。
【0019】
エラストマー化合物が熱可塑性ポリウレタンを含む場合には、この種のポリウレタンは一般的に、溶解されて、押出しまたはスロットダイ塗布によって、または加熱、リバースロール塗布によって織物に粘性液体として加えられる、100%固形分の材料として供給される。代替案として、熱可塑性ポリウレタンを熱積層薄膜として織物層に加えてもよい。熱可塑性ポリウレタンは、織物への含浸の後に冷却と改質によって固体としてすべての物理的性質を回復するので、硬化を必要としない。本発明において使用するための適切な熱可塑性ポリウレタンには、Huntsman Polyurethanes、Dow、およびBayerから市販されているものがある。
【0020】
エラストマー化合物が注型用ウレタンまたは熱可塑性ポリウレタンのいずれにせよ、材料の選択、液体状態の粘性、および圧力によって、含浸の度合いを制御することができる。例えば、密な織物層によって、開放織物層よりもウレタン材料を少なく使用することが可能になる。液体状態のウレタンの粘性を、配合によって、および適用温度によって制御することができる。例えば塗布装置によって、または続く圧力ローラの使用によって、圧力を加えて含浸を制御してもよい。含浸中には織物プライを緊張下に維持することが好ましい。
【0021】
本発明をさらに容易に理解できるように下記の実施例を参照するが、この実施例は本発明の例示であることが意図されており、範囲を限定しようとするものではない。
【実施例1】
【0022】
補強材料の単一層と2つの層を含む印刷ブランケットとの試料を、ウレタンを組み込んだ場合と組み込まない場合とについて試験した。印刷ブランケットは、ウレタンで含浸されたただ1つの織物の層を備えていた。下記の表1は、ウレタンの組み込みによって起こる物理的性質の向上を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
ブランケットの試料を、ブランケットが2つのプラテンの間で繰り返し高速で圧搾される印刷方法をシミュレートすることによって試験した。下の表2は、ウレタンを含む場合と含まない場合の、ブランケットについて50000回の型押しの後のゲージ損失を示す。
【0025】
【表2】

【0026】
本発明を詳細にその好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲を逸脱することなく変更および変形が可能であることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態による、各層を部分的に切り欠いた、印刷ブランケットの一セグメントの斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷表面層と少なくとも1つの織物層とを含むゲージ損失に対して改善された耐性を有する印刷ブランケットであって、前記の少なくとも1つの織物層は、前記織物プライの中に100%固形分の弾性ウレタン化合物を含浸することによって、印刷ロール間隙圧を受けるときに永久変形を阻止するように処理されており、前記印刷ブランケットはその耐用寿命全体にわたってその元のゲージの少なくとも95%を維持する印刷ブランケット。
【請求項2】
前記織物層が織布、不織布、横糸挿入織物、またはコードから選択される請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項3】
圧縮層を含む請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項4】
前記の少なくとも1つの織物プライが、約6g/cmから約205g/cmまでの前記弾性ウレタン化合物によって含浸されている請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項5】
前記の少なくとも1つの織物プライが、約6g/cmから約125g/cmまでの前記弾性ウレタン化合物によって含浸されている請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項6】
前記弾性ウレタンが注型用ポリウレタンエラストマーおよび熱可塑性ポリウレタンから選択される請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項7】
少なくとも2つの織物プライを含み、前記織物プライの各々が前記弾性ウレタン化合物によって含浸されている請求項1に記載の印刷ブランケット。
【請求項8】
ゲージ損失に対して改善された耐性を有する印刷ブランケットの製造方法であって、
印刷表面層と少なくとも1つの織物層とを含む印刷ブランケットを提供するステップと、
前記の少なくとも1つの織物層を、前記ウレタンが前記織物層における個別の繊維束の内部の空間に侵入し、前記繊維を相対移動から固定するように、100%固形分の弾性ウレタン化合物によって含浸し、こうして前記印刷ブランケットはその耐用寿命全体にわたってその元のゲージの少なくとも95%を維持するステップと
を含む方法。
【請求項9】
前記弾性ウレタンが注型用ポリウレタンエラストマーおよび熱可塑性ウレタンから選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記弾性ウレタンが注型用ポリウレタンエラストマーを含み、前記方法が前記ポリウレタンを硬化するステップを含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記の少なくとも1つの織物プライが、約6g/cmから約205g/cmまでの前記弾性ウレタン化合物によって含浸されている請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記の少なくとも1つの織物プライが、約6g/cmから約125g/cmまでの前記弾性ウレタン化合物によって含浸されている請求項7に記載の印刷ブランケット。

【図1】
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【公表番号】特表2009−517257(P2009−517257A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543411(P2008−543411)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/045650
【国際公開番号】WO2007/062271
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(300078202)デイ インターナショナル インコーポレーテッド (21)
【Fターム(参考)】