説明

放射性セシウム汚染固体の処理方法

【課題】放射性セシウムで汚染された土壌や汚泥等の固体からセシウムを簡易かつ効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】放射性セシウムに対して吸着性を有する吸着剤に磁性体を担持させる。次いで、放射性セシウムで汚染された固体に前記吸着剤を添加し、前記固体中の放射性セシウムを前記吸着剤に吸着させる。次いで、前記磁性体が担持された前記吸着剤を磁力によって分離除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム汚染固体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所において大規模な事故が発生した場合、大量の放射性核種が飛散し、土壌汚染を引き起こすことが懸念される。また、各地の下水処理場で発生する汚泥にも、さらに各地の一般廃棄物焼却場で発生する焼却灰にも放射性核種が含有され、その処理方法などが懸念される。
【0003】
汚染された土壌や汚泥に含有される放射性核種の大部分は134Csや137Csであり、特に137Csは半減期が30.2年と長く、長期に影響を及ぼすことが想定される。そのため、汚染土壌や汚泥からのセシウムの除去が望まれる。汚染物質の除去に関しては、いくつかの提案がなされている。
【0004】
例えば、放射性物質を含む汚染物質とカチオン、アニオン等の化学種を混合させた後、陽極及び陰極間に電位勾配を生ぜしめ、これらカチオンあるいはアニオンをそれぞれ陰極及び陽極へ移動させながら、その間に上記放射性物質と親和性のあるマトリックス材料を配置して吸着させるとともに、これら系のpHを所定の値以下とすることによって汚染物質を沈殿させ、上記放射性物質を除去することが提案されている。
【0005】
また、汚染土壌の表層に少なくとも一組の電極を所定の間隔で埋設し、これら電極間に通電することによって電極において汚染物質を集積するとともに、汚染土壌中に有害物質高蓄積植物を栽培し、当該植物に上記汚染物質を吸収させて除去する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、電極の設置や通電が必要であり、オンサイトでの処理が難しい。
【0006】
さらに、環境対応型合成無機イオン吸着材、無機ヒ素吸着材を用いる方法も提案されているが、この方法は、海洋や河川、湖沼、地下水等の陸水、及び農薬、合金や半導体等の製造排水の分離・除去に有用であるが、土壌や汚泥では、吸着に使用した吸着剤の除去が出来ないという課題がある。
【0007】
また、汚染された水及び土壌から地衣類とその代謝生成物及び合成代謝生成物とを用いて放射性核種を除去する方法も提案されているが、対象核種がウラン、プルトニウムであり、セシウムの除去には適していない。さらに、地層または海底層に存在する可溶性重金属汚染物質に対処する方法も提案されているが、安定化することにより重金属汚染物質が地下水によって再び流動化させられるのを防ぐものであり、セシウムを除去するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4128620号
【特許文献2】特開2007−289897号
【特許文献3】特許第3557461号
【特許文献4】特開2002−107489号
【特許文献5】特開平6−39055号
【特許文献6】特開平6−23340号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、放射性セシウムで汚染された土壌や汚泥等の固体からセシウムを簡易かつ効率的に除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、放射性セシウムに対して吸着性を有する吸着剤に磁性体を担持させるステップと、放射性セシウムで汚染された固体に前記吸着剤を添加し、前記固体中の放射性セシウムを前記吸着剤に吸着させるステップと、前記磁性体が担持された前記吸着剤を磁力によって分離除去するステップと、を具えることを特徴とする、放射性セシウム汚染固体の処理方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射性セシウムで汚染された土壌や汚泥等の固体からセシウムを簡易かつ効率的に除去する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】放射性セシウム含有固体の処理方法の工程を概略的に示す図である。
【図2】放射性セシウム含有固体の処理方法の工程を概略的に示す図である。
【図3】放射性セシウム含有固体の処理方法の工程を概略的に示す図である。
【図4】放射性セシウム含有固体の処理方法の工程を概略的に示す図である。
【図5】放射性セシウム含有固体の処理方法の工程を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の放射性セシウム含有固体の処理方法について説明する。
【0014】
図1〜図5は、本実施形態の放射性セシウム含有固体の処理方法の工程を概略的に示す図である。
【0015】
最初に、図1に示すように、所定の容器11内に放射性セシウムを含む固体Sを充填する。容器11としては、実験室レベルにおいてはビーカーなどのガラス容器でもよいが、実用レベルにおいては、耐食性に富むSUS等のステンレス材の容器であることが好ましい。また、容器11の容量は、処理すべき固体Sの量に応じて適宜に選択することができる。
【0016】
固体Sは、放射性セシウムを含む可能性のあるあらゆる固体を候補として挙げることができ、例えば土壌、汚泥、砂、岩、粘土、コンクリート、アスファルトを例示することができる。
【0017】
この場合、固体Sが土壌、汚泥、砂等の場合は、これら自体が粒子の集合体であって、粒子自体はμmのオーダからcmのオーダであるので、後に説明する吸着剤添加による吸着剤との接触面積を大きくすることができる。一方、固体Sが岩、粘土、コンクリート、アスファルト等の場合は、一般に所定の大きさの塊として存在する場合が多いので、固体Sが岩などの場合は、上述したμmのオーダからcmのオーダの大きさとなるように適宜粉砕することが好ましい。これによって、以下に示すように、吸着剤(懸濁液)を添加した時の吸着剤との接触面積を大きくすることができる。
【0018】
また、固体Sが汚泥等の場合は十分な水分を含むので特に問題とならないが、固体Sが土壌や砂、粘土などの場合においてはほとんど水分を含まない。したがって、以下に説明するように、吸着剤等を添加した場合において、当該吸着剤は固体Sと均一かつ十分に接触できず、固体S中のセシウムを十分に吸着できないという問題が生じる場合がある。したがって、このような場合においては、図1に示すように、容器11内には十分な量の吸着剤等の分散媒Wを添加し、例えば固体Sが吸着剤等の分散媒W中に没する程度となる量の分散媒Wを添加することが好ましい。
【0019】
なお、吸着剤の分散媒としては、水、酢酸、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフランなどを挙げることができるが、多量の固体Sを処理するような場合は安価な水を用いることが好ましい。
【0020】
次いで、図2に示すように、容器11内の固体Sに対して磁性体付き吸着剤12を添加し、十分に攪拌混合する。図2に示すように、本実施形態では、固体Sが吸着剤等の懸濁媒W中に没するようにしているので、固体Sと吸着剤12との接触を均一かつ十分に行うことができ、固体S中のセシウムを十分に吸着できる。
【0021】
吸着剤12は、固体S中に含まれるセシウムに対して高い吸着性能を有することが必要であり、好ましくは、以下の式で定義される分配係数が500(ml/g)以上、より好ましくは1000(ml/g)以上である
Kd=(Ci−Cf)/Ci×V/m
(Kd:分配係数(ml/g)、Ci:溶液中セシウム初期濃度(Bq/g)、Cf:溶液中セシウム平衡後濃度(Bq/g)、V:溶液体積(ml)、m:吸着剤重量(g))。
【0022】
このような要件を満足する吸着剤としては特に限定されるものではないが、例えばフェロシアン化物、ケイチタン酸、及びゼオライトを挙げることができる。
【0023】
フェロシアン化物としては、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、フェロシアン化カルシウム、フェロシアン化鉄、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化銅などを上げることができる。また、ゼオライトは、モルデナイト型ゼオライト、チャバサイト型ゼオライト、クリノプチロライト型ゼオライト、A型ゼオライト、Y型ゼオライト、X型ゼオライトなどを挙げることができる。さらに、ケイチタン酸は、ケイチタン酸バリウム、ケイチタン酸ストロンチウムなどの塩であってもよい。
【0024】
なお、吸着剤12の分配係数は高いほど好ましいが、現状での上限値は約10000程度である。このような吸着剤12としては、所定のゼオライト、例えばモルデナイト型ゼオライトや、所定のフェロシアン化物、例えばフェロシアン化ニッケルによって達成することができる。
【0025】
また、添加する吸着剤12の量は、吸着剤12の種類(分配係数)や固体S中のセシウム濃度などに応じて適宜決定する。
【0026】
一方、図2に示す吸着剤12は磁性体が担持されているが、吸着剤12に対する磁性体の担持は、例えば圧着法あるいはゾルゲル法で行うことができる。
【0027】
圧着法による場合は、例えば、吸着剤12及び磁性体を、ミキサー、撹拌機、ミル、ニーダー等の混練機中で混練することによって、吸着剤12と磁性体とを圧着することができる。また、実験室レベルにおいては、吸着剤12及び磁性体を乳鉢に入れ、乳棒で吸着剤12及び磁性体を擦り潰して圧力を負荷することによっても行うことができる。
【0028】
ゾルゲル法による場合は、別途準備した容器内に吸着剤12及び磁性体を入れ、これにヒドロゾルあるいはオルガノゾルを導入し、十分混合した後に加熱してゲル化することにより、吸着剤12及び磁性体を接着させるものである。なお、多量の吸着剤12を使用する場合は、ヒドロゲルを用いた方が安価であって好ましい。
【0029】
また、磁性体は、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシウムフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライトなどから構成できるが、水中での安定性に優れたフェライト系化合物からなる磁性粒子であればより好ましい。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0030】
磁性体は、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されず、望ましい粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すればよい。
【0031】
図2に示すように、固体Sに対して吸着剤12を添加すると、図3に示すように、吸着剤12は固体S中のセシウムを吸着するようになる。
【0032】
次いで、吸着剤12が固体S中のセシウムを吸着した後は、図4に示すように、容器11中の固体S中に対して磁石13を挿入し、適宜攪拌することにより、磁石13に対して固体S中の吸着剤12を、これに担持された磁性体の磁力を利用して付着させる。その後、図5に示すように、磁石13を容器11から引き上げることによって、磁石13とともに放射性セシウムを吸着した吸着剤12が容器11、すなわち固体Sから取り出され、その結果、固体S中の放射性セシウムが除去されることになる。
【0033】
なお、磁石13を容器11内に挿入する代わりに、容器11の周囲に電磁石や永久磁石等を配置し、これら磁石を上下動させることなどによって固体S中の磁性体付き吸着剤12を容器11外に取り出すようにすることもできる。
【0034】
図5に示すように、容器11から取り出した放射性セシウムを吸着した吸着剤12が付着した磁石13は、その後、電磁石の場合は通電を止めるまたは掻き取りなどの処理を、永久磁石の場合は掻き取り処理をして吸着剤12を磁石13より除去し、除去された吸着剤12は必要に応じて焼却減容処理などを施した後にセメント固化またはガラス固化などの処理を経る。これによって、固体S中に含まれた放射性セシウムの除去及び放射性処理が行われることになる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
本実施例では、セシウムに対して高い吸着性能を有するといわれている吸着剤を選別し、その吸着性能、具体的には分配係数(ml/g)を調べた。なお、各吸着剤の分配係数は、液固比=40ml/gにおけるバッチ法浸漬試験により取得した。具体的にはセシウムを1ppm添加した溶液40mlを調整し、これに吸着剤を1g添加して混合後、5日以上静置し、上澄み液中のセシウム濃度を測定して行った。
【0036】
その結果、フェロシアン化ニッケルの分配係数は10000(ml/g)程度であり、ケイチタン酸の分配係数は約4200(ml/g)であり、モデナイト型ゼオライトの分配係数は約7000(ml/g)であり、チャバサイト型ゼオライトの分配係数は約1000(ml/g)であることが判明した。
【0037】
これより、チャバサイト型ゼオライトの分配係数はやや低いものの、いずれもセシウムに対して高い吸着性能を示すことが判明した。
【0038】
(実施例2)
ビーカー中に、粘土の一種であるベントナイト0.2gを、水に対して質量比でベントナイト/水=1/100となるように添加して得た懸濁液20gに、セシウムの放射性トレーサをセシウム濃度8×10−10mol/l添加して得た懸濁液、72時間放置してベントナイトへセシウムを吸着させた試料(模擬固体)を作製した。次いで、この試料に対して、マグネタイトを担持させたフェロシアン化ニッケルを、質量比で磁性体付着吸着剤/混濁液=1/1000となるように添加して撹拌し、24時間静置した。
【0039】
その後、棒磁石を入れて磁性体付吸着剤を当該棒磁石に付着させ、懸濁液のセシウム残存量を測定し、フェロシアン化ニッケルの、懸濁液中のセシウムに対する吸着性能を評価した。
【0040】
なお、マグネタイトをフェロシアン化ニッケルに担持するに際しては、平均粒子径0.5μmのマグネタイト粉末と平均粒子径100μmのフェロシアン化ニッケル粉末とを乳鉢で1〜3分間乳棒で擦りつぶして圧着させた。
【0041】
その結果、懸濁液中のセシウムの残存量は4×10−10mol/lとなり、上述した磁性体付き吸着剤によって、懸濁液中のセシウムの50%が吸着除去されていることが判明した。
【0042】
(実施例3)
磁性体付き吸着剤を、平均粒子径0.5μmのマグネタイト粉末と平均粒子径100μmのフェロシアン化ニッケル粉末の混合物10mlとにシリカゾル10mlを入れた後に、150℃に加熱することによってゲル化し、マグネタイト粒子とフェロシアン化ニッケル粉末とを接着した以外は、実施例2と同様にして懸濁液を調整し、磁性体付き吸着剤によるセシウムの吸着量を評価した。
【0043】
その結果、懸濁液中のセシウムの残存量は4×10−10mol/lとなり、上述した磁性体付き吸着剤によって、懸濁液中のセシウムの20%が吸着除去されていることが判明した。
【0044】
なお、上記実施例では、セシウムの吸着剤としてフェロシアン化ニッケルを用いた場合について説明したが、ケイチタン酸、モデナイト型ゼオライト、及びチャバサイト型ゼオライトを用いた場合においても、懸濁液中から高い割合でセシウムが吸着除去されていることが判明した。
【0045】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
11 容器
12 吸着剤
13 磁石
S 固体
W 分散媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムに対して吸着性を有する吸着剤に磁性体を担持させるステップと、
放射性セシウムで汚染された固体に前記吸着剤を添加し、前記固体中の放射性セシウムを前記吸着剤に吸着させるステップと、
前記磁性体が担持された前記吸着剤を磁力によって分離除去するステップと、
を具えることを特徴とする、放射性セシウム汚染固体の処理方法。
【請求項2】
前記吸着剤は、Kd=(Ci−Cf)/Ci×V/m
(Kd:分配係数(ml/g)、Ci:溶液中セシウム初期濃度(Bq/g)、Cf:溶液中セシウム平衡後濃度(Bq/g)、V:溶液体積(ml)、m:吸着剤重量(g))で示される分配係数が500ml/g以上であることを特徴とする、請求項1に記載の放射性セシウム汚染固体の処理方法。
【請求項3】
前記吸着剤の分配係数は1000ml/g以上であることを特徴とする、請求項2に記載の放射性セシウム汚染固体の処理方法。
【請求項4】
前記吸着剤は、フェロシアン化物、ケイチタン酸、及びゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の放射性セシウム汚染固体の処理方法。
【請求項5】
前記吸着剤に対する前記磁性体の担持は、圧着法によって実施することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の放射性セシウム汚染固体の処理方法。
【請求項6】
前記吸着剤に対する前記磁性体の担持は、ゾルゲル法によって実施することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の放射性セシウム汚染固体の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−24812(P2013−24812A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162423(P2011−162423)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】