説明

放射能汚染土除去方法及びこれに用いる真空吸引装置システム

【課題】放射能汚染された地域の土地が例えば表面に大きな起伏がある、雑草等が繁茂している、表面付近の土壌が硬く固結している等、さまざまな状態であっても、土壌表面の2cm程度の土を効率的に除去して、放射能汚染された土地を効果的に除染する。
【解決手段】真空圧30〜70kPaの真空吸引装置本体4を用い、この装置本体4に、汚染土回収用のサイクロン21、22を備えるドラム缶31、32を介して吸引ホース11、12、3を接続し、吸引ホース11先端の吸引ノズル10を汚染濃度の高い土壌の表面に近接して対向配置し、土壌の表層を真空圧30〜70kPaの範囲で吸引除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能汚染土除去方法及びこれに用いる真空吸引装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大地震及びこれに伴う津波により原子力発電所に事故が発生したため、放射性物質が大気に拡散され地表に降下して土壌が放射能で汚染されるという事態が起きた。放射能汚染された地域では、汚染土の除去及びその処分が急がれている。この汚染土の除去では、除去された汚染土が、仮置きや中間貯蔵された後、洗浄等の処理を経て、最終処分されることになり、これには、多大な用地面積と費用が必要になるため、この点にも十分に配慮した適切な方法が採用されることが望まれる。
なお、このような放射能による汚染土の除去方法に関する技術の蓄積がないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、ここでは、汚染された地域での除染対策と現状の問題点について検討する。
1.除染対策
そもそも放射性物質が地表に降下し土壌を放射能で汚染するという現象は、放射性物質がセシウム134、137等であった場合、これらの物質が土壌粒子に極めて強く吸着される状態である。つまり、降下した放射性物質は、地表面付近の土壌に吸着され、その後降雨等があった場合でも、ほとんど再溶出することなくその場所にとどまり、下方にはわずかしか移行しない。したがって、セシウム134、137等により汚染された土地の土壌は、表面のわずか2cm程度のみが高濃度に汚染され、それ以深はほとんど汚染されていないのが普通である。
よって、汚染された地域での除染対策としては、汚染土の表面の2cm程度の土のみを除去すればよく、これを超えて5cmも10cmも除去(採取)したのでは、除去後の汚染土の仮置き、中間貯蔵、洗浄等の処理、最終処分の数量を大幅に増やすことになり、極めて不経済になるばかりか、用地の確保が困難になる。
このように汚染されている土地を修復するには、土壌表面のわずか2cm程度の高濃度の汚染土を除去するだけで十分である。なお、ここでいう「2cm」は例示であり、実際には状況により異なるが、1〜3cm程度になると考えられる。ここでは代表的な例として2cmと表記する。
2.現状の問題点
しかしながら、汚染されている土地が、学校の校庭のようにほぼ平らで、ある程度以上の広い面積があり、雑草等が繁茂していない土地であれば、モーターグレーダー等の機械を用いて、表面の2cm程度のみの土を除去することは可能であるが、実際に汚染されている土地にこのような好条件のところは少なく、表面に大きな起伏がある、雑草等が繁茂している、作物や雑草等の根が地中に存在している、表面付近の土壌が硬く固結している、地盤の強度が不足し、接地圧の大きな重機や車両は走行できない等、汚染されている土地の状態はさまざまで、表面の2cm程度の土を効率的に除去することは困難な状況にある。
そこで、かかる状況下では、既存の真空吸引装置を用いて土壌を吸引する方法が適していると考えられる。真空吸引装置によれば、狭い場所、障害物の多い場所、畝のような起伏が多い場所などでも表土の除去に有効である。この種の真空吸引装置としては、業務用大型真空掃除機や、し尿や建設汚泥等の吸引回収に用いられる真空吸引車(いわゆるバキュームカー)などがある。しかしながら、これらの装置はそもそも粉体状や泥状のものを吸引搬送する目的で作られているので、汚染土の表面の2cm程度の土を除去するという用途に使用するには大きな問題がある。以下、これらの問題について述べる。
(1)業務用大型真空掃除機
一般的な業務用大型真空掃除機の主な仕様を以下に示す。
吸込仕事率(W):300
運転音(dB):63
最大風量(m3/min):3.5
最大真空度(kPa):22
ホース径:o38mm
このような業務用大型真空掃除機は、家庭用真空掃除機と同様に、吸引した塵埃を本体のタンクに貯留する形式のため、貯留容量はわずか数Lであり、表土除去に利用するには貯留タンクの大型化等、大幅な改造が必要であるが、このような改造ができたとしても、表土の除去に利用するにはさらに次のような問題がある。
(イ)真空度の不足
今回の用途で吸引対象となるのは土壌である。土壌の場合、全くの砂のみからなるさらさらの土壌の場合は別としても、通常は粘土やシルト成分を含んでおり、これら成分によって土壌はかなり大きな粘着力を持つ。その粘着力の値は通常の土壌では少なくとも0.05kgf/cm2(約5kPa)程度はある。
土壌を吸引すると、一度に多量の土壌を吸引してしまい、土壌が満管状態で吸引ホース内を流れる現象が頻繁に発生する。吸引口の形状等を工夫して、一度に土壌のみを吸引せず空気と共にバラバラの状態で土壌を吸引することができたとしても、吸引ホース(配管)の内部の抵抗の多い箇所等では、バラバラで流れていた土壌が再集結し、満管状態になってしまうことが多い。ここで、吸引ホース(φ3.8cm)内の5cm区間内が満管になった状態を想定すると、土壌とホース内面との接触面積は、
3.8cm×3.14×5cm=59.7cm2
となり、その接触面に働く粘着力の合計は、
59.7cm2×0.05kgf/cm2=2.98kgf
となる。したがって、管延長方向の5cm区間内が満管になった土壌を移動させるためには、2.98kgf以上の力が必要である。
これに対して、上記のような業務用大型真空掃除機の最大真空度は22 kPa(約0.22 kgf/cm2)程度であり、ホース断面積
3.8cm×3.8cm×3.14/4=11.3cm2
に作用する吸引力は
11.3cm2×0.22 kgf/cm2=2.49kgf
にしか過ぎず、わずか5cm区間内を満管になった土壌も吸引できない。
(ロ)吸引ホース(配管)径の不足(風量の不足)
土壌には、いわゆる土の成分(砂、シルト、粘土)の他、木屑、根っこのような植物塊や礫、ガラ等の異物が含まれていることが多い。このような異物を一緒に吸引すると、吸引ホース(配管)のつまりの原因となる。つまりを生じることなく安定的に吸引できる異物の大きさは吸引ホース(配管)径のおよそ1/3までであり、上記のような業務用大型真空掃除機に付属しているφ3.8cmの吸引ホース(配管)では、13mm程度までが安定して吸引できる異物の限界である。
ところが、実際の土壌ではもっと大きな異物が多量に含まれていることが多く、少なくとも25mm程度の大きさの異物が含まれていても安定して吸引することが望まれる。このためには、吸引ホース(配管)径を大きくする必要があるが、単純に吸引ホース(配管)径だけを大きくすると、空気の風速が減少し、搬送能力が低下してしまうという問題がある。以下これについて説明する。
土壌を吸引搬送する場合、土壌が吸引ホース等配管内を満管で流れたのでは上述のように大きな真空度が必要となる。真空度はたとえ完全真空が実現できたとしても1気圧(1013hPa=101.3kPa)が限界であるため、土壌を満管にするのではなく、空気の流れに乗せて空気と一緒に搬送する必要がある(いわゆる「空気輸送」と呼ばれる方法である)。この方法で土壌を上方に搬送する場合(地表面の土壌を回収するには土壌を上方に搬送する必要がある)は、配管内を土壌が落下する速度よりも速い上向流で搬送する必要がある。
空気中を球体粒子が落下する速度は、以下に示すストークスの式で計算できる。
ストークスの式
v = g(ρs−ρ)d2/(18μ)
ここで、
v: 粒子落下速度 cm/s
g: 重力加速度 cm/s2 (g=980 cm/s2)
ρs: 粒子密度 g/cm3 (ρs=2.6g/cm3)
ρ: 空気密度 g/cm3 (ρ=0.001293 g/cm3)
d: 粒子直径 cm
μ: 空気の粘度 g/(cm・s) (μ=0.000181 g/(cm・s))
この式で、d=1mm(0.1cm)径の土粒子の落下速度vを求めると、
v=7820cm/s(78.2m/s)
となる。すなわち、1mm径の土粒子を空気の流れに乗せて上方に搬送するには、空気の風速としては78.2m/s以上が必要ということになる。ただし、これは土粒子が球体である場合の理論値であり、実際には土粒子は球体であるとは限らない上、土粒子には他の土粒子が付着したり土粒子が集まって団粒構造をしている場合が多く、この場合は見かけの粒子密度が2.6g/cm3よりも小さくなるため、これよりも若干小さい風速でも上方搬送は可能である。さらに、配管を鉛直ではなく勾配を持たせて配置することによりさらに若干小さい風速でも上方搬送が可能になる。
ここで、上記業務用大型真空掃除機の最大風量3.5m3/min(58300cm3/s)から、φ3.8cmの吸引配管(断面積は上記の通り11.3cm2)を流れる空気の風速を計算すると、
58300/11.3=5160cm/s(51.6m/s)
となる。この風速は、上記のように、1mm径の単独球形土粒子の鉛直上方搬送は不可能ではあるが、土粒子が球形でないことや団粒化していること、鉛直配管にしないことなどを考慮するとなんとか1mm径程度の土粒子の上方搬送は可能な風速である。
これに対し、異物の通過性をよくするため、風量をそのままで配管径のみを、想定する異物サイズ(25mm)の3倍の75mmにした場合、配管断面積は、
7.5cm×7.5cm×3.14/4=44.2cm2
風速は、
58300/44.2=1320cm/s(13.2m/s)
となり、1mm径土粒子の上方搬送に必要な風速78.2m/sと比べてあまりにも小さく、土壌の搬送そのものが不可能となる。
(ハ)土壌の表層剥離の困難さ
土壌の場合は、(イ)で述べたように含まれている粘土やシルト成分によりかなり大きな粘着力を持つため、図5に示すように、単なる真空掃除機の吸引ノズルを土壌表面に近づけただけでは、表面付近の土壌を粘着力に打ち勝って引き剥がして採取することができない。かといって吸引ノズルを土壌表面に全面密着させると、図6に示すように、吸引ノズルが負圧により土壌表面に吸着し吸引ノズルを動かせなくなる。この状態で無理に吸引ノズルを土壌表面から引き剥がすと、図7、図8に示すように、吸引ノズルに土壌が吸着したまま引き剥がされることが多く、このとき引き剥がされる土壌の厚さは、必ずしも望ましい2cmの厚さにならない。2cmの厚さで引き剥がされるとしても、この方法で順次表土除去を行うのではあまりに作業効率が悪すぎる。
(2)真空吸引車
一般的な真空吸引車の主な仕様を以下に示す。
真空度-0.099MPa (740mmhg)
風量(機種により)18〜100m3/min
上記の真空吸引車を使用した場合、真空度に関してはほぼ完全真空に近い値0.099MPa(99kPa)が得られる。これは、上述した業務用大型真空掃除機の4.5倍の真空度である。また、風量18m3/min(300000cm3/s)の機種を使用し、25mmまでの異物が吸引可能なよう
にφ7.5cmの吸引ホース(配管)を使用した場合、管内風速は、
300000/44.2=6790cm/s(67.9m/s)
と、上述した1mm径の球形土粒子の鉛直上方搬送に必要な理論風速78.2m/sに近い値が得られ、実用的には1mm径程度の土粒子までは充分に吸引搬送が可能である。
しかし、今回考えているような放射能汚染土の表層除去にこのような真空吸引車を使用するには、以下のような問題がある。
(イ)真空度が大きすぎる
表層の2cm程度の土壌のみを吸引する場合には、後述するように吸引ノズルと土壌表面との距離を土壌の状態に合わせて微妙に調整する必要があるが、上記の真空吸引車のように真空度が大きい場合は、吸引ノズルが土壌表面に吸い付こうとする力が大きすぎて微妙な調整ができず、その結果として安定して表層の2cm程度の土壌のみを吸引することができなくなる(吸引ノズルと土壌表面との距離を適当な距離に保とうとしても、吸引力が強すぎて勝手に上記図6のように吸引ノズルが土壌表面に吸着してしまう)。
また、吸引ホースも大きい真空度に耐える硬く頑丈なものを使用する必要があり、吸引ホースの取り扱いが困難である。このことがさらに吸引ノズルと土壌表面との距離の調整を難しくする。
(ロ)車両が大きく、作業が必要な箇所に近づけない
車両が最低でも4tタイプの車両となるので、狭い農道等には入り込めない。
3.結び
以上の問題点をまとめると、次のようになる。
(1)業務用大型真空掃除機のような小さな真空度では、吸引ホース(配管)内のわずかな区間が満管状態になった場合でも吸引不能となってしまう。
(2)真空吸引車のような大きな真空度では、ある程度の区間が満管状態になっても吸引可能とはなるが、吸引力が強すぎて、吸引ノズルと土壌表面との距離を適当な距離に保つことができなくなり、土壌表層の2cm程度の土のみを吸引することが困難になる。
(3)また大きな真空度では、それに応じて、吸引ホースも大きい真空度に耐える硬く頑丈なものを使用する必要があり、吸引ホースの取り扱いが困難となる。このことがさらに吸引ノズルと土壌表面との距離の調整を難しくする。
(4)土壌を吸引する場合、混入する25mm程度の大きさの異物まで安定して吸引できるようにするためにはφ7.5cm程度の管径の吸引ホースを使用する必要があり、その際、管内の風速を「空気輸送」が可能な程度の風速にする必要がある。そのためには、業務用大型真空掃除機では風量が全く不足し、真空吸引車程度の風量が必要である。
(5)真空吸引車は、車両が大きすぎるため、作業が必要な箇所に近づくのが困難である。
以上から、既存の真空吸引装置を、放射能により汚染された表層の2cm程度の土壌のみを吸引するような用途に使用する場合、真空吸引装置の真空度は小さすぎても大きすぎても不適であり、風量はある程度大きなものが必要であるが、大きい風量の装置は本体自体が大きくなり、作業が必要な箇所に近づけて設置することが困難になるため、使用に耐える最小限の風量にして、装置をできるだけ小型にすることが望ましいところ、既存の真空吸引装置を汚染土壌の吸引搬送に用いた例がなく、どの程度の真空度の装置であれば、土壌表面の2cm程度の土壌を吸引できるか、どの程度の風量があれば、実用上問題のない管内空気搬送ができるかは、まったくのところ不明である。
【0004】
そこで、本願発明者らは、鋭意研究の結果、表層の2cm程度の土壌のみを問題なく吸引し、回収搬送することのできる真空圧、風量の真空吸引装置を見出し、これを利用した新たな放射能汚染土除去方法及びこの方法に用いる真空吸引装置システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、放射能で汚染された土地の汚染土を除去するための放射能汚染土除去方法であって、真空圧30〜70kPaの真空吸引装置を用い、前記真空吸引装置に汚染土回収容器を介して吸引管を接続し、当該吸引管の吸引口を汚染濃度の高い土壌の表面に近接して対向配置し、土壌の表層を真空圧30〜70kPaの範囲で吸引除去する、ことを要旨とする。
この場合、吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置を用い、前記吸引管内を風速40m/s以上にして、前記吸引管で吸引した汚染土を汚染土回収容器へ搬送回収することが好ましい。
【0006】
また、本発明は、上記放射能汚染土除去方法に用いる真空吸引装置システムであって、汚染土を吸引するための吸引管と、前記吸引管にサイクロンを介して接続され、汚染土を回収するための汚染土回収容器と、前記汚染土回収容器に接続される、真空圧30〜70kPa、前記吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置本体とを備える、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の放射能汚染土除去方法及びこれに用いる真空吸引装置システムによれば、真空圧30〜70kPaの真空吸引装置を用い、吸引管を汚染濃度の高い土壌の表面に近接して、土壌の表層を真空圧30〜70kPaの範囲で吸引除去するようにしたので、放射能汚染された地域の土地が既述のとおりのさまざまな状態(段落0003の2.現状の問題点を参照)であっても、土壌表面の2cm程度の土を効率的に除去することができ、放射能汚染された土地を効果的に除染することができる。
また、この場合、吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置を用い、吸引管内を風速40m/s以上にして、吸引管で吸引した汚染土を汚染土回収容器へ搬送回収するようにしたので、吸引管で吸引された汚染土を、空気の流れに乗せて空気と一緒に搬送する空気輸送により、汚染土回収容器へ円滑に搬送回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態における放射能汚染土除去方法に用いる真空吸引装置システムの構成を示す図
【図2】同方法及びシステムによる作用(吸引ノズルと土壌表面との距離を適正に保った場合の表面の土壌の吸引状況)を示す図
【図3】同方法及びシステムによる作用(吸引ノズルを順次移動させて次々と表面の土壌を吸引している状況)を示す図
【図4】同方法及びシステムによる作用(吸引後の土壌の状況)を示す図
【図5】既存の真空吸引装置を用いた土壌表面の吸引作用(吸引ノズルを土壌表面に近づけても、土壌表面に浮いている土粒子しか吸引できない状態)を示す図
【図6】同真空吸引装置を用いた土壌表面の吸引作用(吸引ノズルを土壌表面に全面密着させて、吸引ノズルが土壌表面に吸着して動かせない状態)を示す図
【図7】同真空吸引装置を用いた土壌表面の吸引作用(吸引ノズルが土壌表面に吸着された状態から吸引ノズルを無理に引き剥がそうとしている状態)を示す図
【図8】同真空吸引装置を用いた土壌表面の吸引作用(土壌表面に吸着された吸引ノズルを無理に引き剥がした結果、厚さ不定の土壌が吸引ノズルに吸着されたまま引き剥がされた状態)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
この放射能汚染土除去方法は、放射能で汚染された土地の汚染土を除去するためのもので、この方法では、特に、真空圧30〜70kPaの真空吸引装置を用い、この真空吸引装置に汚染土回収容器を介して吸引管を接続し、この吸引管の吸引口を汚染濃度の高い土壌の表面に近接して対向配置して、土壌の表層を真空圧30〜70kPaの範囲で吸引除去する、ものとした。
この場合、真空吸引装置に吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置を用いることが好ましく、吸引管内を風速40m/s以上にして、吸引管で吸引した汚染土を汚染土回収容器へ搬送回収することが望ましい。
【0010】
図1にこの放射能汚染土除去方法に用いる真空吸引装置システムを示している。このシステムは、汚染土を吸引するための吸引管1と、吸引管1にサイクロン2を介して接続され、汚染土を回収するための汚染土回収容器3と、汚染土回収容器3に接続される、真空圧30〜70kPa、吸引管1内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置本体4とを備えて構成される。
この場合、吸引管1に吸引ホース11、12、13を用い、吸引ホース11の先端に吸引口として吸引ノズル10が連結される。汚染土回収容器3は、汚染土の粗粒分を空気と分別して回収するための粗粒分回収用サイクロン21を一体に有する粗粒分回収用ドラム缶31と、汚染土の細粒分を空気と分別して回収するための細粒分回収用サイクロン22を一体に有する細粒分回収用ドラム缶32とを備え、粗粒分回収用サイクロン21に吸引ノズル10から延びる吸引ホース11が接続され、粗粒分回収用サイクロン21と細粒分回収用サイクロン22との間に吸引ホース12が接続される。真空吸引装置本体4は、既述のとおり、真空圧30〜70kPa、吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置が採用される。この真空吸引装置本体4と細粒分回収用サイクロン22との間に吸引ホース13が接続される。
このようにして吸引ノズル10を汚染濃度の高い土壌の表面に近接して対向配置し、土壌の表層を真空圧30〜70kPaの範囲で吸引除去し、吸引ノズル10で吸引した汚染土を風速を40m/s以上の吸引ホース11、12内を通して各回収用ドラム缶31、32へ搬送回収するようになっている。
【0011】
本願出願人は、この真空吸引装置システムを真空圧47.1kPa、風量12.1m3/minの真空吸引装置(外形寸法・重量:1,930×800×H1,230mm,650kg)、ホース径φ7.5cmの吸引ホースにより具体化し、このシステムを使用して、土壌の表層を吸引する実験を行った。
実験の結果、吸引ノズルの形状等は土壌の種類や状態により適、不適はあるものの、どのような形状のノズルを使った場合でも、真空吸引装置本体の真空圧47.1kPaという弱すぎず強すぎない吸引力により、吸引ノズルと土壌表面との距離を適正に保つことができた。この距離を適正に保つことができたことは、真空圧がそれほど大きくないために比較的軽量でフレキシビリティに富む吸引ホースを使用できたことも寄与している。このように吸引ノズルと土壌表面との距離を適正に保つことができた結果、土壌表面に浮いている土粒子のみでなく、土壌の表面を数mm以上の厚さで粘着力に打ち勝って吸引することができた。一回の吸引で所定の2cmの厚さに吸引できない場合には同じ場所を数回吸引することにより2cmの厚さの吸引が可能であった。
図2に吸引ノズル10と土壌表面との距離を適正に保った場合の表面の土壌の吸引状況を示す。このような状態では、図示したように表面付近の土壌を粘着力に打ち勝って引き剥がし、吸引することができる。図3に上記の状態で吸引ノズル10を順次移動させて次々と表面の土壌を吸引している状況を示し、図4に吸引後の土壌の状況を示す。
また、47.1kPa(0.481kgf/cm2)の真空圧で吸引したことにより、径φ7.5cmの吸引ホース11(断面積44.2cm2)の断面積に働く総吸引力は、0.481×44.2=21.3kgfとなった。径φ7.5cmの吸引ホース11の周長は23.6cm2であるため、土壌の粘着力を0.05kgf/cm2とすると、満管になった場合の土壌の総粘着力は、ホース延長方向15cmあたりで17.7 kgfである。よって、吸引ホース内の15cm程度が満管になっても真空圧で吸引可能となったことになる。実際に吸引したところ、一度に多量の土壌を吸引しないように注意していれば、たまに吸引ホース内を土壌が満管で流れることはあっても、吸引不能になることは頻繁には生じず、実用上は問題なく連続吸引することができた。
また、12.1m3/min(202000cm3/s)の風量で吸引したため、径φ7.5cmの吸引ホース(断面積44.2cm2)内の風速は、202000/44.2=4570cm/s(45.7m/s)となった。この値は、上述した1mm径球形土粒子の上方搬送に必要な理論風速78.2m/sよりは小さめの値であるが、前述したような理由により実際には1mm以上の径の土粒子も十分にドラム缶内に搬送、回収できた。
以上により、真空圧47.1kPa、風量12.1m3/minの真空吸引装置を用いた真空吸引装置システムで、表層の2cm程度の土壌のみを問題なく吸引できることが確認された。
このようにこのシステムにより表層2cm程度の汚染土の除去回収が実用的に可能であることが判明したことで、実際にセシウムで放射能汚染されている土地において表層土の除去による除染効果を確認した。この場合、除去前の表土1〜2mmをスコップで剥ぎ取り、この土壌の放射能をゲルマニウム半導体分析器で測定して、処理前の土壌の放射能濃度とし、また、上記システムで2cm程度表層を除去した後の新しい土壌表面の土1〜2mmをスコップで剥ぎ取り、同様に放射能分析して処理後の土壌の放射能濃度とした。その結果を表1に示す。
【表1】

この表1に示す通り、処理前には882Bq/kgの濃度であったものが、吸引処理後は測定限界(39 Bq/kg)以下の濃度となり、十分な効果が確認できた。
【0012】
また、この真空吸引装置の実験は仕様を変えて引き続き行った。次の実験では、真空圧53.9kPa、風量17.4m3/min(外形寸法・重量:2,600×1,200×H1,325mm,1,450kg)の真空吸引装置を用いて、表層土壌の吸引実験を行った。この場合、この真空吸引装置の標準ホース径が125mmであるところ、上記真空圧47.1kPaの真空吸引装置の標準ホース(ホース径75mm)をそのまま使用し、ホース内の風速を65.6m/sに高めた。
その結果、この装置でも効率的に表層土壌の吸引ができることを確認した。この場合、ホース内の風速が高まったため、より効率的に表土の除去が可能になった。
【0013】
このような実験から、真空圧30〜70kPa、吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置であれば、同様の結果が得られることが分かった。
【0014】
以上のことから明らかなように、この放射能汚染土除去方法及びこれに用いる真空吸引装置システムでは、真空圧30〜70kPaの真空吸引装置を用い、吸引管の吸引口を汚染濃度の高い土壌の表面に近接して対向配置し、土壌の表層を真空圧30〜70kPaの範囲で吸引除去するようにしたので、放射能汚染された地域の土地が、例えば表面に大きな起伏がある、雑草等が繁茂している、作物や雑草等の根が地中に存在している、表面付近の土壌が硬く固結している、地盤の強度が不足し、接地圧の大きな重機や車両は走行できない等、さまざまな状態であっても、土壌表面の2cm程度の土を効率的に除去することができ、放射能汚染された土地を効果的に除染することができる。
また、この場合、吸引管内を風速40m/s以上にして、吸引管で吸引した汚染土を汚染土回収容器へ搬送回収するようにしたので、吸引管で吸引された汚染土を、空気の流れに乗せて空気と一緒に搬送する空気輸送により、汚染土回収容器へ円滑に搬送回収することができる。したがって、汚染土を吸引管内に満管で流すことがなく、その分だけ大きな真空度を不要とすることができる。
【符号の説明】
【0015】
1 吸引管
10 吸引ノズル
11 吸引ホース
12 吸引ホース
13 吸引ホース
2 サイクロン
21 粗粒分回収用サイクロン
22 細粒分回収用サイクロン
3 汚染土回収容器
31 粗粒分回収用ドラム缶
23 細粒分回収用ドラム缶
4 真空吸引装置本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射能で汚染された土地の汚染土を除去するための放射能汚染土除去方法であって、
真空圧30〜70kPaの真空吸引装置を用い、前記真空吸引装置に汚染土回収容器を介して吸引管を接続し、当該吸引管の吸引口を汚染濃度の高い土壌の表面に近接して対向配置し、土壌の表層を真空圧30〜70kPaの範囲で吸引除去する、
ことを特徴とする放射能汚染土除去方法。
【請求項2】
吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置を用い、前記吸引管内を風速40m/s以上にして、前記吸引管で吸引した汚染土を汚染土回収容器へ搬送回収する請求項1に記載の放射能汚染土除去方法。
【請求項3】
汚染土を吸引するための吸引管と、前記吸引管にサイクロンを介して接続され、汚染土を回収するための汚染土回収容器と、前記汚染土回収容器に接続される、真空圧30〜70kPa、前記吸引管内の風速を40m/s以上とする風量の真空吸引装置本体とを備える、請求項1又は2に記載の放射能汚染土除去方法に用いる真空吸引装置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−96916(P2013−96916A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241600(P2011−241600)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)