説明

放電ランプ

【課題】煩雑な作業工程を伴うことなく、放電容器の黒化を防ぐ。
【解決手段】ショットブラストによって陽極30の外周面(側面)30Cにアルミナを噴射させ、散在した状態でアルミナ26を外周面30Cに付着させる。そして、アルミナ26の融点以下で陽極30を真空加熱処理し、不純ガスを取り除く。ランプを点灯始動させると、陽極30の温度上昇に伴ってアルミナ26が溶融、蒸発する。そして、蒸発したアルミナが発光管の内面に付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光管内に電極を配置させた放電ランプに関し、特に、ショートアーク型放電ランプなど高輝度放電ランプ(HIDランプ)に使用される電極の表面構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク型放電ランプでは、石英ガラス製の放電管に陰極、陽極を対向配置させており、陰極から陽極への電子放出によってアーク放電が生じ、放電発光する。電極材料としては、点灯中の電極溶融を防ぐため、高融点のタングステン(W)が一般的に用いられる。
【0003】
また、高輝度放電ランプに使用される陰極の場合、電子放出能力を高めて高輝度発光させるため、動作温度が比較的低い電子放射性物質(電子放出材料)である酸化トリウム(ThO)をドーピングしたタングステン陰極(通称、トリタン陰極)が用いられる(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
アーク放電している間、電子放出によって陰極先端部および陽極先端部の温度が上昇する。電極材料の融点付近まで温度が上昇すると、陰極先端部、陽極先端部が溶融、蒸発し、電極が消耗する。蒸発した金属は放電管内壁に付着し、これによって発光管内壁が黒化する。すなわち、金属の付着が透過率の低下を招き、ランプの光出力が低下する。更に、発光管内壁が黒化すると、黒化した部分が局所的に高温となることで発光管に熱歪が蓄積され、ランプが破裂する場合がある。
【0005】
トリタン陰極の場合、トリウムが還元作用によって単原子層を電極表面に形成するが、表面からトリウムから分離した酸素が陽極先端部のタングステンと結合し、これが陽極先端部の融点を低下させ、電極を消耗させる。このような電極消耗を防ぐため、例えば、トリタン陰極を成形した後、真空加熱処理によって、酸化トリウムの含まれない層(脱トリウム層)を陰極表面付近に形成する(特許文献3参照)。
【0006】
あるいは、透明な多結晶体であるアルミナ(Al)を発光管内面にコーティングすることにより、発光管の黒化を防ぐことが出来る(特許文献4、5参照)。アルミナは放電管材料の石英ガラスよりも化学的、物理的に安定であり、点灯中に電極から放出される金属、イオンなどの荷電粒子、化合物等に反応せず、発光管の黒化現象を防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−9044号公報
【特許文献2】特開2003−22780号公報
【特許文献3】特開2003−257365号公報
【特許文献4】特開昭61−294752号公報
【特許文献5】特開2002−157974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脱トリウム層のような特殊な金属層を陰極表面付近に形成する工程は、煩雑な作業工程であり、ランプ生産効率を低下させる。また、アーク放電中、陰極表面に適度なトリウム層が形成されなければ、放電管の黒化現象、あるいは輝度低下を招く。例えば、電子放出するため陰極表面に再結晶するトリウムが多すぎると、電極温度の上昇によってトリウムが蒸発し、放電管に付着する。逆にトリウムが少なすぎると、陰極の電子放出能力が上がらない。
【0009】
一方、放電管内面にアルミナなどをコーティングする工程も煩雑な作業工程であり、生産効率を悪化させる。また、コーティングしても、加熱成形した放電管自身が熱をもつため、熱の影響よって十分なコーティング性能が満たされず、透過率が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の放電ランプは、煩雑な作業工程をする必要なく、放電容器の黒化を防ぐことができる放電ランプであり、放電容器と、放電容器内に対向配置される陽極および陰極とを備える。例えば、ショートアーク型放電ランプなど、電極が高温状態で高輝度の光を出力する放電ランプが構成される。ただし、ショートアーク型放電ランプ以外の放電ランプの電極に適用してもよい。放電容器は、光を透過する石英ガラスなどによって構成すればよく、電極はタングステンなどの金属材料によって構成すればよい。また、陽極にカリウムを含ませてもよい。
【0011】
本発明では、少なくとも陽極表面に対して微小な凹凸が形成されている。例えば、表面処理を施すことで微小な凹凸形成が可能である。ここでの、微小な凹凸とは、例えば、光沢のないザラザラした状態(梨地状態)をいい、数十μmオーダーの凹凸をいう。表面処理としては、ショットブラスト、湿式ブラスト、サンドブラストなどのブラスト処理によって表面仕上げを行うことが可能である。あるいは、機械的仕上げや、レーザ加工、放電加工などの表面処理以外の方法によって微細な凹凸(数百μmオーダーの凹凸)を形成する、すなわち表面を粗くすることも可能である。これらの微小な凹凸に黒化抑制体が入り込むことで陽極表面に付着しやすくなる。
【0012】
そして、本発明では、放電容器の黒化を防ぐもの(以下、黒化抑制体という)が、微小凹凸の形成された陽極表面に散在、付着している。ここで、「黒化抑制体」とは、放電容器の組成材料(例えば、石英ガラス)に反応せず(黒化現象を生じさせず)、放電容器内面に付着しても光の透過率をできるだけ低下させない粒状物質、組成物であることを示す。また、「散在する」とは、表面上でまばらに(均一的に分散した状態で)点在していることを示し、例えば黒化抑制体が隈無く陽極表面を覆う状態とは相違する。黒化抑制体は、例えば粒体、粉末のように微小な塊の集合体によって構成されており、その大きさは限定されない。陽極表面の微小凹凸の程度(サイズ)も、黒化抑制体のサイズに応じて定めることができる。
【0013】
アーク放電によって陽極温度が上昇すると、陽極表面に付着した黒化抑制体は溶融し、蒸発する。陽極表面が荒らされているため、黒化抑制体が蒸発しやすい。放電容器内で生じている熱対流により、蒸発した黒化抑制体は、放電容器内面と接触し、固体となって付着する。黒化抑制体は陽極表面に散在しているため、陽極表面からランダムに蒸発し、熱対流によって放電容器に付着する。このように本発明では、ランプ製造後の点灯動作によって、コーティングのような保護処理が、放電容器内面に対して点灯時間経過とともに行われる。
【0014】
タングステン、トリウムなど電極材料となる金属は、電極が加熱されると溶融、蒸発し、放電容器内に付着すると放電容器内面の黒化現象を引き起こす。特に、ショートアーク型放電ランプの場合、陰極、陽極先端部は2000℃付近まで高温になり、電極金属が蒸発しやすい。
【0015】
しかしながら、本願発明では、ランプ製造後に点灯始動するとあらかじめ陽極表面に付着させた黒化抑制体が蒸発し、放電容器に付着する。放電容器内面に付着した黒化抑制体は、放電容器と反応せず、光の透過率を下げないため、放電容器を黒化させない。
【0016】
その一方で、黒化抑制体が放電容器内面に付着すると、タングステンなど電極から蒸発する電極材料の金属、あるいは水銀など発光のため放電管内に封入された金属がガラスと反応しない。すなわち、黒化を招く金属が放電容器に付着するのを妨げる。その結果、ランプを長時間使用しても黒化現象が進行せず、安定した照度でランプが点灯し続ける。
【0017】
ランプ製造工程から点灯開始まで、黒化抑制体を剥離せずに確実に陽極表面に固定させる方法としては、表面処理を施すのが望ましい。表面処理によって陽極表面が粗くなるため黒化抑制体が陽極表面に強く付着し、電極加熱処理などランプ製造工程の過程で黒化抑制体が陽極表面から剥離せず、製造後に初めてランプを点灯するまで黒化抑制体が強固に陽極表面に対し固定されている。
【0018】
特に、簡易な方法で黒化抑制体を確実に付着させるため、ブラスト処理を施し、陽極表面に黒化抑制体を衝突させるのがよい。黒化抑制体を陽極表面に高圧縮で吹き付けることにより、凹凸状態(梨地状態)が陽極表面に形成される一方、衝突した黒化抑制体の一部は、陽極表面を陥没させながら衝突固定している。ブラスト処理であるため、黒化抑制体は散在した状態で陽極表面に付着する。
【0019】
また、黒化抑制体を陽極表面の凹部に付着させることで、黒化抑制体が陽極表面から突出するのを防ぎ、真空排気処理など、ランプ製造工程の真空排気処理などで発光管内に流れが生じても、黒化抑制体が剥離しない。
【0020】
タングステンなどの電極金属が蒸発すると、放電容器内で蒸発した金属が浮遊している。点灯開始からできるだけ早く黒化抑制体を蒸発させ、放電容器内面に付着させるためには、陽極の電極材料である金属よりも先に蒸発する黒化抑制体を使用するのがよい。
【0021】
また、水銀が放電容器に封入される場合、石英などの放電容器は水銀、あるいは酸化水銀と反応する。放電容器内に水銀が入り込むと、発光に寄与する水銀量が減少し、照度が低下してしまう。これを防ぐため、黒化抑制体は、放電容器の組成材料(石英ガラスなど)と比べ、金属あるいは金属化合物と化学反応を起こさない黒化抑制体であるのが望ましい。
【0022】
黒化抑制体としては、金属黒化抑制体、あるいは、金属酸化物などの金属化合物黒化抑制体を使用すればよい。例えば石英ガラスに対して反応しないアルミナ(酸化アルミニウム)を使用するのが望ましい。アルミナは物理的、化学的に安定な多結晶体であり、例えば透明アルミナが使用される。
【0023】
ランプ始動後できるだけ早く黒化抑制体を溶融、蒸発させる目的から、黒化抑制体を付着させる陽極表面領域については、最も効率よく黒化抑制体が溶融、蒸発する領域を定めることができる。
【0024】
一方、陽極を上方にして電極を鉛直方向に配置した形で放電ランプが設置される場合、陽極表面の温度分布が特有なものになる。すなわち、陰極からの電子放出によって陽極先端部が非常に高温状態となり、陰極側に近い電極先端部に比べて電極支持棒側の陽極端面では温度が低くなる。また、陽極外周面(側面)に沿って対流が放電管内で生じている。
【0025】
したがって、陽極の外周面(側面)に沿って黒化抑制体を付着させることによって、黒化抑制体を早く溶融させ、放電管内面に付着させることが可能となる。周方向に沿って部分的に付着させることも可能であり、黒化抑制体を周方向前面に渡って付着させてもよい。例えば、陽極がテーパー状先端部と柱状胴体部から構成される場合、黒化抑制体を前記胴体部の外周面に付着させればよい。特に、点灯中の陽極温度分布を分析し、黒化抑制体が最も蒸発しやすい領域を電極軸方向に沿って定め、集中的に黒化抑制体を付着させることができる。
【0026】
アルミナを確実に陽極表面に付着させるためには、黒化抑制体が嵌るような微細溝(例えば、μmオーダーの溝)を(例えば周方向に沿って)形成するのが望ましい。このような微細溝に黒化抑制体が嵌ることにより、陽極表面に付着しやすくなる。また、黒化抑制体が蒸発すると、微細溝が放熱構造として機能する。例えば、陽極の温度分布から最適な領域に微細溝を形成するのがよい。
【0027】
黒化抑制体の付着量を増やすためには、陽極の外周面において、断面波形状(コルゲート状)溝を周方向に沿って形成するのが望ましい。この溝は、上記微細溝よりもはるかにサイズの大きな溝(例えばmmオーダー)であり、陽極表面に傾斜面が形成される。その結果、表面処理などでより多くの黒化抑制体を付着させることができる。例えば、温度分布を考慮して最も適した領域に断面波形状溝を形成すればよい。
【0028】
陽極表面の微細な凹凸が形成されていると、ランプ製造工程において凸部の剥離が生じやすく、また、塵などの異物が陽極表面に付着しやすくなる。これを防ぐためには、陽極に陽極外径よりも小さい外径の縮径部を設け、前記黒化抑制体を、前記縮径部表面に付着させるのがよい。陽極表面、とくに外周面に微細溝、断面波形状溝が形成されている場合にも、効果的である。
【0029】
一方、蒸発した黒化抑制体を放電管内の対流に乗せて放電管内面の黒化が生じやすい領域へ速やかに付着させるためには、陽極の電極支持棒側後端面に凹部を形成するのがよい。鉛直上方から下方(陰極側)に向けて電極支持棒に沿って降下する気流が凹部に衝突し上昇気流となるので、陽極の外周面(側面)に沿った上昇気流が黒化抑制体を放電管内面の黒化現象が生じやすい領域へ重点的に運ぶことができる。よって、黒化に起因する放電容器の歪を抑制することができる。例えば、周方向に沿って比較的大きな溝を形成する。
【0030】
本発明の放電ランプの製造方法は、ブラスト処理により黒化抑制体を陽極表面に投射し、前記黒化抑制体を前記陽極表面に散在、付着させ、前記黒化抑制体の融点以下の温度によって、不純物を除去するための加熱処理を陽極に対して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、煩雑な作業工程を伴うことなく、放電容器の黒化を防ぐことが出来る。また、黒化に起因した放電容器の熱歪の蓄積を抑制し、放電容器の破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的断面図である。
【図2】陽極の側面側から見た拡大平面図である。
【図3】第2の実施形態における陽極表面の拡大断面図である。
【図4】第3の実施形態における陽極平面図である。
【図5】第4の実施形態における陽極平面図である。
【図6】第5の実施形態における陽極断面図である。
【図7】ブラスト処理前とブラスト処理後の陽極側面の電子顕微鏡拡大写真である。
【図8】本実施例である放電ランプの陽極表面を上から見た電子顕微鏡拡大写真である。
【図9】陽極表面を斜め方向から見た電子顕微鏡拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0034】
図1は、第1の実施形態であるショートアーク型放電ランプの概略的断面図である。
【0035】
ショートアーク型放電ランプ10は、透明な石英ガラス製の発光管12を備え、発光管12内には陰極20、陽極30が所定間隔をもって対向配置される。発光管12の両側には、石英ガラス製の封止管13A、13Bが発光管12と連設し、一体的に形成されている。発光管12内の放電空間Sには、水銀、およびアルゴンガスなどの希ガスが封入されている。
【0036】
封止管13A、13Bの内部には、陰極20、陽極30を支持する導電性の電極支持棒17A、17Bが配設されている。電極支持棒17A、17Bは、それぞれ金属箔16A、16Bを介して導電性のリード棒15A、15Bと接続される。封止管13A、13Bは、その両端が口金19A、19Bによって塞がれるとともに、内部に設けられたガラス管21、ガラス棒(図示せず)と溶着し、これによって発光管12が封止される。
【0037】
リード棒15A、15Bは外部の電源部(図示せず)に接続されており、リード棒15A、15Bを介して陰極20、陽極30に電力が供給される。電圧が陰極20、陽極30の間に印加されると、陰極20、陽極30の電極間でアーク放電が発生し、発光管12の外部に向けて光が放射される。ここでは、陽極20、30が鉛直方向に沿って並ぶように放電ランプ10が配置されている。
【0038】
図2は、側面側から見た陽極の拡大平面図である。
【0039】
陽極30は、タングステン電極にカリウム0.002パーセントを含有させた電極であり、電極支持棒17Bと連結する円柱状胴体部30Bと、胴体部30Bから陰極20に向けてテーパー状に形成された先端部30Aから構成されている。ランプ点灯中、陰極先端部から電子が放出し、陰極20、陽極30の間でアーク放電が生じる。
【0040】
外径が一定である胴体部30Bの外周面(側面)30Cには、透明な多結晶体であるアルミナ26(Al)が付着領域R内で散在し、付着している。付着領域Rは、電極軸X方向に沿って所定の幅をもち、周方向全体に渡る領域として定められる。なお、付着領域Rの幅は点灯中の電極軸Xに沿った陽極表面温度分布を考慮して定めることができるが、少なくとも高温になる先端部側陽極表面を含むように定めればよい。
【0041】
アルミナ26は、物理的、化学的に安定した結晶体であり、石英ガラスの発光管12と反応しない。アルミナ26は、陽極30に対する表面処理によって付着されている。本実施形態では、表面処理としてブラスト処理、具体的には、アルミナを陽極30に高圧で噴射するショットブラストを行っている。ショットブラストするとき、所定の範囲の粒径(105μm〜125μm)であるアルミナ粉末を、外周面30Cの付着領域30Rに向けて高圧で噴射する。
【0042】
陽極30の外周面30Cの付着領域Rは、アルミナによって叩き付けられる結果、梨地状、凹凸状に形成される。すなわち、微小な凹凸のある粗い表面になる。また、外周面30Cに衝突したアルミナの一部は、外周面30Cに陥没した状態で突き刺さり(食い込み)、自らの衝突によって外周面30Cを凹ませながら、外周面30Cに衝突固定されている。
【0043】
また、ショットブラストのとき、アルミナ粉末を外周面30Cに向けて均一に噴射する。そのため、付着するアルミナは外周面30C全体に分散し、疏らになって散在する。表面処理を行う噴射装置(図示せず)では、アルミナが外周面30Cに衝突した後にそのまま付着するように、噴射圧力が設定されている。
【0044】
ブラスト処理が行われると、真空雰囲気で陽極20を加熱する。加熱処理は、アルミナの融点よりも低い温度で行い、アルミナの蒸発を防ぐ。例えば、約1600℃で数分〜数十分間、陽極30を加熱する。これにより、陽極30に付着したアルミナが外周面30Cに馴染んで固定されるとともに、電極組立時の工程で電極に含まれた不純物が除去される。
【0045】
ランプ製造後にランプを点灯始動さると、陽極30の温度がアルミナの融点付近(約2000℃)にまで達する。その結果、アルミナ26が溶融、蒸発する。点灯時間の経過とともにアルミナ26が次々に蒸発し、最終的には陽極30に付着していたほとんどのアルミナは陽極30から離れる。蒸発したアルミナは、発光管12内の熱対流によって発光管12の内面の所定領域において付着する。この領域は、熱対流によって金属などが比較的付着しやすい領域となっている。
【0046】
発光管12の内面全体に渡って付着するアルミナは、コーティング膜と同じ機能を働かせる。すなわち、発光管12内で蒸発し、浮遊しているタングステン、トリウム、あるいは放電発光によって生じる酸化水銀、その他の不純物などは、発光管12の内面のアルミナが付着した領域には付着せず、アルミナに付着していない領域に付着するか、あるいは浮遊し続ける。
【0047】
このように本実施形態によれば、ショットブラストによって陽極30の外周面30Cにアルミナを噴射させ、散在した状態でアルミナ26を側面30Cに付着させる。そして、アルミナ26の融点以下で陽極30を真空加熱処理し、不純ガスを取り除く。ランプを点灯始動させると、陽極30の温度上昇に伴ってアルミナ26が溶融、蒸発する。そして、蒸発したアルミナが発光管12の内面に付着する。
【0048】
タングステンの融点は非常に高いが、陰極先端面、陽極先端面が非常に加熱されると、タングステンが蒸発する。また、発光管内に封入された水銀は、酸素と反応して酸化水銀が生成され、これが発光管内面に付着する。このような酸化水銀、タングステンの付着は、発光管の黒化を進行させる。
【0049】
一方、アルミナは透明な多結晶体であり、発光管12の材料である石英ガラスと比べ、タングステン、水銀、あるいは放電発光中に発生する不純ガス、荷電粒子などと反応を起こさず、安定している。
【0050】
本実施形態では、ランプ製造後に点灯始動させてしばらくすると、アルミナが蒸発して発光管12内に付着する。このアルミナの付着はタングステンの蒸発よりも時期的に早く、また、陰極先端部から蒸発するトリウム蒸発とほぼ同時期である。その結果、陽極側面030Cに付着していたアルミナ26は、黒化を防ぐように、発光管12の内面上に先に移動する。
【0051】
そのため、タングステン、酸化水銀が発光管12内で浮遊しても、発光管12に付着せず、タングステン、酸化水銀が発光管内面に付着して発光管が黒化する(透過率が低下する)のを全体的に防ぐことができる。また、発光管12内では熱対流が生じているため、蒸発したアルミナは発光管12の内面の黒化現象が生し易い領域へ重点的に付着し、発光管12を黒化から防ぐ。
【0052】
このようなコーティングによる保護機能を、ランプ製造工程でコーティング作業することなく実現させているため、ランプ製造工程に煩雑な作業を特別に設ける必要がない。さらに、電極表面の表面仕上げとしてブラスト処理を行い、それに合わせてアルミナを付着させることが可能であり、アルミナを付着するための工程を特別に設ける必要がない。
【0053】
陽極表面を粗くして凹凸を設けた状態でアルミナが表面に突き刺さる、食い込む、あるいは陥没した状態で付着しているため、アルミナ26は確実に陽極表面に付着する。そのため、ランプ点灯始動前の製造工程途中で剥離することが防止される。さらに、アルミナは、陽極が一体成形された後に、陽極表面に付着固定している。すなわち、陽極内部に混入した場合と比較して、アルミナは陽極表面に対して強固な結合体を形成していないため、電極温度がアルミナ融点付近まで上昇すると、アルミナが陽極表面から容易に蒸発する。
【0054】
放電ランプ点灯中、陽極が陰極上方に配置されており、放電空間内の熱対流によって陽極側面に沿って上昇流が生じている。本実施形態では、アルミナが陽極側面に付着されているため、アルミナが早期に蒸発し、また電極軸上方に向かう対流によって放電空間内をすばやく移動し、発光管内に付着する。さらに、アルミナの付着領域Rが点灯中の陽極温度分布に基づいて定められているため、確実にアルミナを蒸発させることが可能となる。
【0055】
本実施形態では、放電空間内で対流に乗って移動しやすい陽極側面にアルミナを付着させたが、それ以外の陽極表面部分に対してアルミナを付着させてもよい。また、アルミナ以外の粉末、粒体を陽極に対し噴射させてもよい。噴射する粒体としては、発光管の透過率を下げないような透明性のある結晶体であって、石英ガラスなど発光管材料、あるいはタングステン、水銀、放電ガスなど発光管内部で対流する物質、化合物と化学反応を起こさず、物理的、化学的に安定した粒体(金属粒体、金属酸化物など)であればよい。
【0056】
ブラスト処理としては、サンドブラスト、湿式ブラスト(液体ホーニング)、ショットブラストいずれの方法で行っても良い。また、ブラスト以外によって陽極を表面加工処理し、アルミナを付着させるように構成してもよい。さらに、表面加工処理以外の方法によって(例えば、粒体を強く押付けて陽極表面より内部に入り込ませるなど)粒体を陽極表面に散在、付着させてもよい。
【0057】
次に、図3を用いて第2の実施形態である放電ランプについて説明する。第2の実施形態では、陽極表面の周方向に沿って微細な溝が形成されている。それ以外の構成については、実質的に第1の実施形態と同じである。
【0058】
図3は、第2の実施形態における陽極表面の拡大断面図である。
【0059】
陽極130の表面130Cには、レーザ加工、ブレード加工、放電加工などにより、微小ピッチの溝130N(ここでは、微細溝という)が周方向に沿って形成され、一連の溝が軸方向に所定幅をもって形成されている。
【0060】
微細溝130Nの凹部130Gは楔状(鋭角状)に形成され、ブラスト処理のときにアルミナが凹部130Gに嵌るように、マイクロメートル(μm)をオーダーとするピッチ130Jで溝が形成されている。微細溝130Nの形成される陽極表面領域は、実施形態1で示した付着領域Rの一部、あるいは全体領域であり、特に点灯中アルミナが蒸発しやすい領域に定められる。
【0061】
微細溝130Nと交互に現れる表面凸部130Tが剥離して(欠けて)自身の凹部130Gに嵌るのを防ぐため、微細溝130NのピッチJは相対的に大きく定められている。すなわち、凸部130Tの幅は凹部130Gの幅よりも十分に大きい。
【0062】
このような微細溝を形成することにより、サンドブラスト処理によってアルミナがよりいっそう確実に表面付着し、ランプ製造時においても密着する。また、電極軸方向に沿った温度分布に基づき、最も効果的にアルミナ蒸発を実現される領域に微細溝130を形成しているため、アルミナ蒸発が確実になる。さらに、アルミナが蒸発した後、微細溝130が放熱フィンの機能を果たし、電極の過熱を防ぐことができる。
【0063】
なお、ブラスト処理以外の処理によってアルミナを微細溝に付着させてもよい。例えば、アルミナを陽極表面に押し付けることによって付着させることも可能である。また、アルミナ付着領域をより特定の領域に集中させてもよい。
【0064】
次に、図4を用いて第3の実施形態である放電ランプについて説明する。第3の実施形態では、陽極表面にコルゲート状(断面波形状)の溝が形成されている。それ以外の構成については、第1の実施形態と同じである。
【0065】
図4は、第3の実施形態における陽極平面図である。
【0066】
陽極230の外周面230Cには、コルゲート状溝230Wがアルミナの付着領域Rの一部である領域Wに形成されている。コルゲート状溝230Wは、電極軸方向に沿って一連の鋸状断面波形を形成する溝であり、アルミナ粒子よりも十分大きな(視認できる)凹部が形成されている。ここでは、切削加工などにより、ミリメートル(mm)のオーダーで溝230Wが外周面230Cの周方向に沿って形成されている。
【0067】
コルゲート状溝230Wが周方向に沿って形成されることにより、陽極表面の面積が拡大する。そのため、アルミナの付着量が増加するとともに、斜め方向からサンドブラストすることによってアルミナの付着が容易になる。
【0068】
なお、第2の実施形態と同様、ブラスト処理以外の処理によってアルミナを微細溝に付着させてもよい。また、第2の実施形態で説明した微細溝を、コルゲート状溝の上へさらに形成するように構成してもよい。
【0069】
次に、図5を用いて第4の実施形態である放電ランプについて説明する。第4の実施形態では、陽極表面に外径の小さい細径部が形成されている。それ以外の構成については、第3の実施形態と実質的に同じである。
【0070】
図5は、第4の実施形態における陽極平面図である。陽極330には、電極支持棒付近の端部330Aにおける外径に比べて相対的に外径が小さい細径部330Bが幅Zに渡って形成されている。そして、陽極表面330Cの一部領域Rにおいて、アルミナがサンドブラスト処理によって付着されている。さらに、コルゲート状溝330Wが領域Wに渡って周方向に形成されている。
【0071】
このような細径部を陽極に形成することにより、ランプ製造時に付着したアルミナが剥離するのを防止するこができる。また、アルミナが微小な塵など異物と一緒になって陽極表面に付着することを防ぐ。さらに、サンドブラスト処理によって表面に形成された微細な凸部分、あるいは微細溝の凸部分が剥離するのを防ぎ、あるいは異物が一緒に付着するのを防ぐ。
【0072】
なお、サンドブラストなどの表面処理以外の方法によってアルミナを付着させてもよい。また、コルゲート状溝を形成しなくてもよく、微細溝を形成しなくてもよい。
【0073】
次に、図6を用いて第5の実施形態である放電ランプについて説明する。第5の実施形態では、電極背面側に凹部が形成されている。それ以外の構成については、第3の実施形態と実質的に同じである。
【0074】
図6は、第5の実施形態における陽極断面図である。陽極430の電極支持棒側端面には、溝430Mが周方向に沿って円を描くように形成されている。アルミナは領域Rに渡って付着し、コルゲート状溝430Wが領域Wに渡って周方向に形成されている。
【0075】
このような窪みとなる凹部を陽極端面側に設けることにより、ランプ点灯中に生じる下降気流が電極と衝突し、上昇気流とともに上方へ流れていく。これに乗ったアルミナが放電管内の漂着し易い部分に早く移動することになり、予めアルミナ付着させる領域を集中させてコーティング効果を高めることができる。
【0076】
以下において、放電ランプの実施例について説明する。
【実施例1】
【0077】
本実施例の放電ランプは、第1の実施形態で説明した放電ランプに相当する。
【0078】
図7は、ブラスト処理前とブラスと処理後の陽極側面の電子顕微鏡拡大写真である。図7(A)に示すように、ブラスト処理前では、陽極側面はほぼ平滑である。一方、ブラスト処理後の陽極側面は、光沢のないザラザラした状態(梨地状態)となっていて、微細な凹凸形状になっている。図7(B)の拡大写真では、アルミナの鋭利状に突き刺さった部分、電極破片が付着している部分とともに、アルミナが陽極側面に衝突し、食い込んだ状態で固定されている部分が写っている。
【実施例2】
【0079】
本実施例は、第2の実施形態における放電ランプに相当する。
【0080】
図8は、本実施例である放電ランプの陽極表面を上から見た電子顕微鏡拡大写真である。図9は、陽極表面を斜め方向から見た電子顕微鏡拡大写真である。
【0081】
図8、図9から明らかなように、陽極表面には溝ピッチが溝幅よりも大きい微細溝が周方向に沿って形成されている。そして、大量のアルミナが微細溝の部分にしっかりと嵌り、付着していることがわかる。
【実施例3】
【0082】
本実施例の放電ランプは、第5の実施形態で説明した放電ランプに相当する。
【0083】
アルミナを陽極表面に付着させたときに発光管の黒化を抑制する効果を確認する実験を行った。実施例のショートアーク型放電ランプは、外径121mm、容積885cc、石英ガラスから成る発光管を備える。発光管内には、約30mg/ccの水銀を封入した。また、常温時で約190kPaとなるようにアルゴンガスを封入した。
【0084】
陽極は、重量比約0.002%のカリウムを含むタングステン電極である。陰極は、重量比約2%の酸化トリウム(ThO)をドーピングしたタングステン電極であり、電極間距離は約12mmに設定されている。陽極、陰極形状は上記実施形態に示した形状とほぼ同じである。陰極には、テーパー状先端部が形成されている。
【0085】
陽極のコルゲード状溝が形成された側面に対し、アルミナ(Al)を吹き付けるブラスト処理を行い、陽極側面を表面加工した。粒径約115μmのアルミナ粉末を使用し、加圧ガスの噴射圧力でアルミナ粉末を陽極側面の所定領域に衝突させ、表面仕上げをするとともに、アルミナを付着させた。
【0086】
一方、比較例として、アルミナの付着を除けば本実施例と同じ構成であるショートアーク型放電ランプを用意した。
【0087】
そして、アルミナ蒸発の確認実験を行った。ここでは、陽極を真空環境で加熱処理を行い、実際にランプ点灯時の電極温度環境(1500℃以上)を作り出し、アルミナ融点より低い電極温度、高い電極温度でアルミナ残留量を調べた。
【0088】
電極を1500℃に加熱したときにはアルミナが残留していたが、2200℃まで加熱すると、アルミナは残留していなかった。
【0089】
次に、アルミナを陽極表面に付着させることで黒化を防止する確認実験を行った。ここでは、上記実施例のショートアーク型放電ランプに対し、12kWの電力で点灯させ、1000時間の点灯後の発光管内面の黒化状態を検査した。
【0090】
照度維持率は、350nm付近に感度を有する照度計により測定した。コルゲート状溝が形成されず、サンドブラスト処理によるアルミナ付着のない従来ランプの照度維持率が67%であるのに対し、実施例である本ランプの照度維持率は75%になり、発光管の黒化を抑制することが確認された。
【符号の説明】
【0091】
10 ショートアーク型放電ランプ
12 発光管(放電容器)
20 陰極
26 アルミナ
30 陽極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電容器と、
前記放電容器内に対向配置される陽極および陰極とを備え、
少なくとも陽極表面に微小な凹凸が形成され、
黒化抑制体が、前記陽極表面に散在し、付着していて、点灯時に蒸発することを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記黒化抑制体が、前記陽極の電極材料である金属よりも、先に蒸発することを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記黒化抑制体が、前記放電容器の組成材料と比べ、点灯時に前記放電容器内で浮遊する金属もしくは金属化合物と化学反応を起こさないことを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記黒化抑制体が、金属粒体もしくは金属化合物粒体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記黒化抑制体が、アルミナを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記黒化抑制体が、前記陽極表面の凹部に付着していることを特徴とする請求項1乃至5に記載の放電ランプ。
【請求項7】
前記陽極表面に前記黒化抑制体を衝突させるブラスト処理によって前記陽極が表面処理され、
前記黒化抑制体が、前記陽極表面を陥没させながら衝突固定していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項8】
前記黒化抑制体が、陽極外周面に付着していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項9】
前記陽極が、テーパー状先端部と柱状胴体部とを有し、
前記黒化抑制体が、前記胴体部の外周面に付着していることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項10】
前記陽極の外周面において、黒化抑制体が嵌るように微細溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項11】
前記微細溝の溝間隔が、前記黒化抑制体の大きさ以上であることを特徴とする請求項10に記載の放電ランプ。
【請求項12】
前記陽極の外周面において、断面波形状溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項13】
前記陽極が、陽極外径よりも小さい外径の縮径部を有し、
前記黒化抑制体が、前記縮径部表面に付着していることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項14】
前記陽極が、カリウムを含むことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項15】
前記陽極の電極支持棒側後端面に、凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項16】
ブラスト処理により黒化抑制体を陽極表面に投射し、前記黒化抑制体を前記陽極表面に散在、付着させ、
前記黒化抑制体の融点以下の温度によって、不純物を除去するための加熱処理を陽極に対して行うことを特徴とする放電ランプの製造方法。



【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−38674(P2012−38674A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180050(P2010−180050)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000128496)株式会社オーク製作所 (175)
【Fターム(参考)】