説明

放電灯用の電極

【課題】電極のサイズを拡大することなく且つ電極製造工程のコストをあまり増すことなく、電極の動作温度を低下させるための装置及び方法を提供する。
【解決手段】放電灯で動作するように構成された電極において、電極ヘッド部分と、コイルが含まれており、前記コイルが少なくとも105%の平均ピッチで前記電極ヘッド部分に巻きつけられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に放電灯用の電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショートアーク放電灯の電極は、一般に高温環境で動作する。蒸発による劣化を抑え、放電灯の寿命を延ばすには、電極の動作温度を低下させるのが望ましい。電極動作温度は、電極を加熱する電力入力と、プランクの放射則(すなわち電極を冷却することになる電極の電磁放射)によって決まる。従って、電極の放射率を高めると、電極の放熱が増大する。
【0003】
電極は、通常電極材料(例えばタングステン)の融点近くで動作するので、電極の放射率は放電灯設計において重要なパラメータである。例えば、マイクロリソグラフィに用いられるハイパワーDC放電灯には、放射率を高めるようにコーティングまたは微細構造化を施された大型陽極が含まれている。このような陽極は高価であり、低パワーのショートアーク放電灯においては非現実的である。この技法には、非タングステンコーティングは、タングステンの融点に近い温度で溶融するか昇華することになるので、コーティングも微細構造も電極の前方部分に近接するように施すことができないという欠点もある。さらに、時間が経つと、再結晶及び表面拡散によってタングステンの微細構造が破壊されることになる。
【0004】
多くの放電灯には電極サイズの制限があるため、放電灯の種類によっては大型電極はやはり非現実的である。すなわち、多くの放電灯は、直径または幅の小さい電極だけを収容するように設計されている。従って、電極のサイズを大幅に拡大することによって、所定の電力入力で電極の動作温度を低下させるのは必ずしも可能とは限らない。
【0005】
図1には、超高圧水銀灯に用いられる従来の電極が示されている。コイル102が、1つ以上の層をなすように電極シャフト部分104に密着して巻きつけられて、電極ヘッド部分106を形成している。前方部分108は、コイル102の端部の過剰溶融によって凝縮する。電極温度は電極100のサイズによって決まり、そのサイズは、同様に、コイル102の長さ、コイル層の数、及び、コイル102の線の直径(または幅)によって決まる。
【0006】
図2には、超高圧水銀灯に用いられるもう1つの従来型電極が示されている。コイル202が、電極ヘッド部分204に密着して巻きつけられている。ヘッド部分204、前方部分206、及び、シャフト部分208は、旋削または研削のような従来の加工技術によってタングステンのような従来の塊状電極材料を形削りすることによって形成される。電極200は、前方部分206の形状のため、また、コイル202が電極ヘッド部分204に巻きつけられており、電極ヘッド部分204が大きくて、前方部分206から発生する熱をコイル202に有効に伝えることができるので、電極100よりも放射率が優れている。
【0007】
しかしながら、上述のように、電極サイズを拡大することが可能な量は、多くの用途において実用的な及び/または営利的な理由から制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電極のサイズを拡大することなく且つ電極製造工程のコストをあまり増すことなく、電極の動作温度を低下させるための装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態には、放電灯で実施可能な電極が含まれている。実施形態には、AC及び/またはDC放電灯で実施可能な電極が含まれている。
【0010】
いくつかの実施形態には、放電灯で動作するように構成された電極が含まれているが、この電極には電極ヘッド部分とコイルが含まれており、コイルは、少なくとも105%の平均ピッチで電極ヘッド部分に巻きつけられている。
【0011】
いくつかの実施形態には、放電灯で動作するように構成された電極が含まれているが、この電極には、複数の隆起部の平均ピッチが少なくとも105%になるように構成して配置された複数の隆起部を有する電極ヘッド部分が含まれている。
【0012】
いくつかの実施形態には、2つの電極を含む放電灯が含まれているが、2つの電極の少なくとも一方には、電極ヘッド部分とコイルが含まれている。コイルは、少なくとも105%の平均ピッチで電極ヘッド部分に巻きつけられている。
【0013】
いくつかの実施形態には、放電灯用電極の製造方法が含まれている。この方法には、放電灯で動作するように構成された電極を設けるステップと、少なくとも105%の平均ピッチで電極の電極ヘッド部分に隆起部を形成するステップが含まれている。
【0014】
本発明のこれらの及びその他の特徴については、下記の図面及び詳細な説明に照らして考えればより明確な理解が得られるであろう。
【0015】
図面中、同様の番号は一般に異なる図全体にわたって同じ部品を表わしている。図面は、必ずしも一定の比率ではなく、それよりむしろ一般に本発明の原理を明らかにすることに重点がおかれている。下記の説明では、下記の図面に関連して本発明のさまざまな実施形態が記述される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】超高圧水銀灯に用いられる従来の電極を示す図である。
【図2】超高圧水銀灯に用いられるもう1つの従来の電極を示す図である。
【図3】実施形態の1つによる電極を示す図である。
【図4】従来の電極と比較したいくつかの実施形態による電極の放射利得を示すグラフである。
【図5】従来の電極及び実施形態の1つによる電極の電極動作温度測定値を示す棒グラフである。
【図6】実施形態の1つによる代替電極を示す図である。
【図7】実施形態の1つによる代替電極を示す図である。
【図8】実施形態の1つによる電極の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
下記の詳細説明では、例証のため、特定の細部及び本発明の実施が可能な実施形態を示す添付図面を参照する。これらの実施形態は、当該技術者による本発明の実施を可能にするのに十分なほど詳細に説明される。他の実施形態を利用することが可能であり、本発明の範囲を逸脱することなく、構造的、論理的、及び、電気的変更を施すことが可能である。さまざまな実施形態は、そのいくつかの実施形態が1つ以上の他の実施形態と組み合わせて新たな実施形態を形成することが可能であるように、必ずしも互いに排除されるものではない。
【0018】
本書で用いられる限りにおいて、「幅」という用語は、丸い線を含む任意の形状の線の幅とする。従って、「直径」は「幅」に置き換えることが可能である。
【0019】
本書で用いられる限りにおいて、「ヘッド部分」は、電極の放射率を高めるために隆起部が取り付けられるかまたは形成される電極部分を意味するものと理解されたい。
【0020】
隆起部には、限定するわけではないが、コイル、溝構造、エッチングによって形成された構造、及び/または、丸いか、楕円形か、多角形の線または複数の線が含まれる。
【0021】
図3には、実施形態の1つによる電極が示されている。電極300には、電極ヘッド部分304に巻きつけられた単層コイル302が含まれている。電極ヘッド部分304は電極シャフト部分306に隣接している。
【0022】
いくつかの実施形態では、コイル302はタングステン線から形成することが可能である。電極の放射率は、最適化されたピッチで電極ヘッド部分304にコイル302を巻きつけることによって高められる。これにより、電極300の自然放射率は平面上で65%だけ高くなり、密着して巻きつけられたコイル(例えば図2のコイル202)上で20%だけ高くなる。いくつかの実施形態では、コイル302のコイル直径または幅は、前方部分308からコイル302の高放射率領域への熱伝導を増大させるためにできるだけ小さく製造される。いくつかの実施形態では、望ましい最大コイル直径は0.2mmである。
【0023】
有限要素法のシミュレーションで明らかになった最適ピッチは約140%であるが、コイル材料の放射率に応じて、他の最適ピッチを求めることも可能である。一般に、
([(1.35±0.15)×線幅]/線幅)×100
のピッチ範囲内でかなりの改善が確認された。
【0024】
本書で用いられる限りにおいて、「ピッチ」は、パーセントで表示される2つの隆起部間(例えば線の中心間)の距離を隆起部の幅で割った値と定義される。従って、100%のピッチは、隣接する隆起部が接触していることを表わし、200%のピッチは、連続した隆起部が隆起部の幅に等しい間隔をあけて配置されていることを表わす。
【0025】
「平均ピッチ」という用語は、隆起部間の連続した距離の合計を隆起部の数で割った値を意味するものと理解されたい。例えば、電極ヘッド部分に3回巻きつけられたコイルは、合計すべき2つの距離と、4つの隆起部を備えることになる。平均ピッチは、中央値または最頻値といった他の方法を利用して計算することも可能である。
【0026】
図4は、従来の電極と比較したいくつかの実施形態による電極の放射率利得を示すグラフである。グラフ400から分かるように、コイルの間隔をあけると、密着して巻きつけられるコイル設計に比べて電極温度が大幅に低下することになる。しかしながら、ピッチの増大が140〜150%を超えるので、放射率利得が低下し始める。130%のピッチを含む超高圧灯用のタングステン電極実施形態では、前方領域における動作温度が、密着巻きつけ電極に比べて50°Kだけ低下した。この温度の低下によって、密着巻きつけ電極における蒸発率が50%低下した。
【0027】
図5は、図2の電極200による従来の電極と、130%のピッチでコイル302を巻きつけられた電極300による電極の電極動作温度測定値を示す棒グラフである。
【0028】
超高圧水銀灯の検査試料は、両方の電極とも同じ条件下で動作することを保証するため、従来の電極を第1の電極とし、実施形態の1つによる電極を第2の電極として同じバーナ内に作製された。
【0029】
6つの水銀灯が検査された。水銀灯は、グラフ500にそれぞれ独自のハッチングパターンで表示されているが、ハッチングパターンは、各水銀灯における2つの電極に対応する。電極表面の温度は、IR信号がプラズマ放射によって重畳される電極領域を除いて、IR高温測定法によって測定された。
【0030】
グラフ500には、従来のコイル電極の平均動作温度に正規化された電極温度が示されている。この実施形態のコイルの平均動作温度の低下は2%を超えた。タングステン蒸発率は、温度の上昇によって指数関数的に増大するので、平均温度が約2%低下すると、タングステン蒸発率は半分になる。
【0031】
従って、実施形態の1つによる電極を備えた水銀灯は、従来の電極に比べて所定の温度でより長く持続するか、より高い温度で動作することが可能である。さらに、実施形態の1つによる電極の製造に伴う既存の電極製造設備の改修が、一般に低コストですむ。
【0032】
図6には、実施形態の1つによる代替電極が示されている。電極600には、電極ヘッド部分604の軸方向に形成された複数の線602を有している。電極ヘッド部分604は、電極シャフト部分606に隣接している。
【0033】
タングステン製の場合、複数の線602は、図3のコイル302と同様の特性を備えることが期待され、従って、溝602の幅が約0.2mmの場合、複数の線602の最適ピッチは約140%になるであろう。
【0034】
図7には、実施形態の1つによる代替電極が示されている。電極700には、電極ヘッド部分704の溝削り、彫刻、または、エッチングの結果として形成された隆起部702が含まれている。電極ヘッド204がタングステン製の場合、隆起部702は、図3のコイル302と同様の特性を備えることが期待され、従って、隆起部702の幅が約0.2mmの場合、隆起部702の最適ピッチは約140%になるであろう。
【0035】
図3、6、及び、7に示す電極は、3つの可能性のある電極でしかなく、より多くが本発明の範囲内に含まれる。例えば、図3に示すようにコイル状に取り付けられる線は、同心円方向をなすように取り付けることも可能である。同様に、図7の隆起部702は、マイクロマシニング技法によって最適ピッチ、深さ、及び、幅に加工された円周方向スロットの形態をとることも可能である。スロットは先端近く及び/またはどこにでも施すことが可能である。他の加工形状の変種には、コルクスクリュー状スロット、軸方向スロット、または、穴パターンを含むことが可能である。
【0036】
図8は、ある実施形態内において電極を製造する方法のフローチャートである。802において、電極が設けられる。804において、電極の前方部分に線が取り付けられる。806において、少なくとも105%の平均ピッチで電極ヘッド部分に線が巻きつけられる。808において、方法800が終了する。
【0037】
特定の実施形態に関連して、本発明を詳細に示し、説明してきたが、当該技術者には明らかなように、別記請求項に定義された本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、さまざまな形態及び細部の変更を加えることが可能である。従って、本発明の範囲は別記特許請求の範囲によって示されており、従って、特許請求の範囲の同等の意味及び範囲内にある全ての変更が包含されるように意図されている。
【符号の説明】
【0038】
300 電極
302 コイル
304 電極ヘッド部分
306 電極シャフト部分
600 電極
602 線
604 電極ヘッド部分
606 電極シャフト部分
700 電極
702 隆起部
704 電極ヘッド部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電灯で動作するように構成された電極であって、
電極ヘッド部分と、コイルとを有し、
前記コイルが少なくとも105%の平均ピッチで前記電極ヘッド部分に巻きつけられていることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記コイルが、120%以上の平均ピッチで前記電極ヘッド部分に巻きつけられていることを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記コイルが、124%〜151%の平均ピッチで前記電極ヘッド部分に巻きつけられていることを特徴とする請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記コイルがタングステン線から形成されており、前記タングステン線の幅が0.2ミリメートル以下であることを特徴とする請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記コイルが、タングステン線から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項6】
放電灯で動作するように構成された電極であって、
平均ピッチが少なくとも105%になるように配置された複数の隆起部が含まれている電極。
【請求項7】
前記複数の隆起部の平均ピッチが、120%以上であることを特徴とする請求項6に記載の電極。
【請求項8】
前記複数の隆起部の平均ピッチが、124%〜151%であることを特徴とする請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記複数の隆起部に複数の線が含まれることを特徴とする請求項6に記載の電極。
【請求項10】
前記複数の線が、前記電極ヘッド部分にそれぞれ同心円状に巻きつけられたことを特徴とする請求項9に記載の電極。
【請求項11】
前記複数の線が、それぞれ前記電極ヘッド部分の軸方向に形成されたことを特徴とする請求項9に記載の電造。
【請求項12】
前記複数の線がタングステンから形成されており、前記複数の線の幅がいずれも0.2ミリメートル以下であることを特徴とする請求項9に記載の電極。
【請求項13】
前記複数の隆起部に複数の溝が含まれることを特徴とする請求項6に記載の電極。
【請求項14】
前記複数の溝にタングステンが含まれることと、前記複数の溝の幅がいずれも0.2ミリメートル以下であることを特徴とする請求項13に記載の電極。
【請求項15】
前記複数の隆起部にタングステンが含まれることを特徴とする請求項6に記載の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−129515(P2011−129515A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272513(P2010−272513)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(508096703)オスラム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (92)
【Fターム(参考)】