説明

故障検出装置

【目的】故障検出の為の冗長信号を付加することなく、且つアナログ音声信号を扱う信号処理回路に対しても精度良く故障検出を行うことが可能な故障検出装置を提供することを目的とする。
【構成】第1の入力信号に第1信号処理を施して第1信号を得る第1処理部と、第2の入力信号に上記第1信号処理を施して第2信号を得る第2処理部とを含む信号処理回路に対して、上記第1信号と第2信号とのレベル差を求め、かかるレベル差に基づいて上記第1処理部及び第2処理部に故障が生じているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理回路の故障検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号や映像信号の処理装置や伝送装置では、各種信号処理の過程で信号の状態を監視して、処理の異常がみつかった場合に警報として通知する、といった処理を用いることが多い。その内、デジタル処理部では、パリティビットの付加などで異常状態を検出することができる。また、映像信号の場合は同期信号があるので、その状態を監視することで異常状態を検出することができる。
【0003】
しかしながら、アナログ音声信号の場合は、同期信号にあたるものがなく、入力信号に依存して無音状態も存在するため、その正常性を正確に監視することは困難であった。
【0004】
監視方法としては、ある処理部の前後の信号の状態を監視して、処理の前段で正常で且つ処理の後段で異常と認められれば、その処理部が故障と判定する方法が考えられる。しかしながら例えばA/D変換部の状態を監視しようとすると、A/D変換前段のアナログ音声信号と、後段のデジタル信号を比較することとなり、正確な判定が困難となる。例えば、音声レベルに閾値を持たせ、あるレベル以上を音声有り、あるレベル以下を音声無しとし、前段で音声有り且つ後段で音声無しの場合に、そのA/D部の異常と判定することが考えられるが、デジタル信号の特定ビットの異常などは検出することができない。また、入力信号が無音状態の場合では、正常異常の判定自体が困難となる、といった問題があった。
【0005】
尚、近年、アナログ音声入力に対して、音声帯域外のパイロット信号を付加して、その状態を監視することにより、入力の無声状態を含めた監視を可能としたものが提案された(例えば特許文献1参照)。しかしながらこの方法によっても、A/D変換部の前段と後段での比較といった異なる信号の監視への適用はできなかった。
【特許文献1】特開平8−149094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、故障検出の為の冗長信号を付加することなく、且つアナログ音声信号を対象とした信号処理回路に対しても、正確に故障検出を行うことが可能な故障検出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による故障検出装置は、第1の入力信号に所定の信号処理を施して第1信号を得る第1処理部と、第2の入力信号に前記所定の信号処理を施して第2信号を得る第2処理部とを含む信号処理回路の故障検出装置であって、前記第1信号と前記第2信号とのレベル差を求める減算手段と、前記レベル差に基づいて前記第1処理部及び前記第2処理部に故障が生じているか否かを判定する故障判定手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による故障検出装置においては、各チャンネル毎に設けられた信号処理部毎にその処理結果同士の差分に基づき、各信号処理部に故障が生じているか否かの判定を個別に行うようにしている。よって、故障検出の為にパリティビットの如き冗長信号を付加することなく、且つアナログ音声信号を扱う信号処理回路に対しても精度良く故障検出を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1の入力信号に第1信号処理を施して第1信号を得る第1処理部と、第2の入力信号に上記第1信号処理を施して第2信号を得る第2処理部とを含む信号処理回路に対して、上記第1信号と第2信号とのレベル差を求め、かかるレベル差に基づいて上記第1処理部及び第2処理部に故障が生じているか否かを判定する。
【実施例】
【0010】
以下に、本発明の実施例について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明による故障検出装置を含んだ伝送システムの概略を示す図である。
【0012】
図1に示される伝送システムは、ネットワーク100、音声信号送信回路200、及び音声信号受信回路300からなる。
【0013】
音声信号送信回路200は、入力された2チャンネル分のアナログの音声信号A1及びA2を夫々ディジタル化してネットワーク100に送出する送信処理部TXと、送信処理部TX内の各処理毎に故障検出を行う故障検出処理部FA1とからなる。
【0014】
送信処理部TXは、バッファ1、9、A/D変換器2、10、送信変調部3及び11からなる。
【0015】
バッファ1は、アナログ音声信号A1を所望に増幅して増幅アナログ音声信号AU1を出力する。A/D変換器2は、かかる増幅アナログ音声信号AU1をN(N:自然数)ビットのディジタルの音声データAD1に変換してこれを出力する。送信変調部3は、かかる音声データAD1に対して所定の送信用変調処理を施して得られた変調音声データADC1をネットワーク100に送出する。
【0016】
バッファ9は、セレクタ8から供給されたアナログ音声信号A1又はA2を所望に増幅して得た増幅アナログ音声信号AU2を出力する。A/D変換器10は、かかる増幅アナログ音声信号AU2をN(N:自然数)ビットのディジタルの音声データAD2に変換してこれを出力する。送信変調部11は、かかる音声データAD2に対して所定の送信用変調処理を施して得られた変調音声データADC2をネットワーク100に送出する。
【0017】
尚、上記バッファ1及び9は互いに同一の増幅特性を有するものである。又、A/D変換器2及び10は互いに同一の変換特性を有するものである。又、送信変調部3及び11は互いに同一の変調特性を有するものである。
【0018】
音声信号送信回路200の故障検出処理部FA1は、セレクタ8と、バッファ1及び9の故障検出を行う減算器16及び故障判定部21と、A/D変換器2及び10の故障検出を行う減算器17及び故障判定部22と、送信変調部3及び11の故障検出を行う減算器18及び故障判定部23とからなる。
【0019】
セレクタ8は、上記音声信号A1及びA2の内から、故障テスト信号TESTXにて示される方を択一的に選択してバッファ9に供給する。すなわち、セレクタ8は、故障テストモードを示す論理レベル1の故障テスト信号TESTXが供給された場合には音声信号A1をバッファ9に供給する一方、通常動作モードを示す論理レベル0の故障テスト信号TESTXが供給された場合には音声信号A2をバッファ9に供給する。
【0020】
すなわち、通常動作モード時には、入力された2チャンネル分の音声信号A1及びA2の内のA1がバッファ1、A/D変換器2及び送信変調部3なる経路を経て変調音声データADC1としてネットワーク100に送出されると共に、音声信号A2がバッファ9、A/D変換器10及び送信変調部11なる経路を経て変調音声データADC2としてネットワーク100に送出される。
【0021】
一方、故障テストモード時には、音声信号A1がバッファ1及び9の双方に供給される。よって、音声信号A1に基づく処理が、バッファ1、A/D変換器2及び送信変調部3なる経路と、バッファ9、A/D変換器10及び送信変調部11なる経路とで同時に為される。従って、バッファ1及び9に故障が生じていなければ、これらバッファ1及び9各々の出力である増幅アナログ音声信号AU1及びAU2は互いに同一値となる。又、A/D変換器2及び10に故障が生じていなければ、これらA/D変換器2及び10各々の出力である音声データAD1及びAD2が互いに同一値となる。更に、送信変調部3及び10に故障が生じていなければ、これら送信変調部3及び10各々の出力である変調音声データADC1及びADC2は互いに同一値となる。
【0022】
尚、上記通常動作モードから故障テストモードへの切換は、音声信号A1及びA2の内のA2に対する送信が不要の時、つまり音声信号A2に対するバッファ9、A/D変換器10、及び送信変調部11による各種信号処理が不要となる際に自動的に為される。
【0023】
減算器16は、上記バッファ1及び9から夫々出力された増幅アナログ音声信号AU1及びAU2各々の信号レベルの差分を求めこれを誤差値GAUとして故障判定部21に供給する。故障判定部21は、誤差値GAUの平均値を求め、この平均値が所定の第1閾値よりも小である場合には「故障無し」を示す論理レベル0の故障検出信号ERAU、大である場合には「故障有り」を示す論理レベル1の故障検出信号ERAUを出力する。
【0024】
減算器17は、上記A/D変換器2及び10から夫々出力された音声データAD1及びAD2各々の値の差分を求めこれを誤差値GADとして故障判定部22に供給する。故障判定部22は、誤差値GADが所定期間に亘り0よりも大なる値になった場合には「故障有り」を示す論理レベル1の故障検出信号ERAD、それ以外の場合には「故障無し」を示す論理レベル0の故障検出信号ERADを出力する。
【0025】
減算器18は、上記送信変調部3及び11から夫々出力された変調音声データADC1及びADC2各々の値の差分を求めこれを誤差値GADCとして故障判定部23に供給する。故障判定部23は、誤差値GADCが所定期間に亘り0よりも大なる値になった場合には「故障有り」を示す論理レベル1の故障検出信号ERADC、それ以外の場合には「故障無し」を示す論理レベル0の故障検出信号ERADCを出力する。
【0026】
かかる構成によれば、上記故障テストモード時において、バッファ1及び9の故障状態が故障検出信号ERAU、A/D変換器2及び10の故障状態が故障検出信号ERAD、送信変調部3及び11の故障状態が故障検出信号ERADCによって、夫々個別に表される。
【0027】
一方、図1に示される音声信号受信回路300は、ネットワーク100を介して2チャンネル分の音声データを受信してこれらをアナログの音声信号に変換する受信処理部RXと、受信処理部RX内の各処理毎に故障検出を行う故障検出処理部FA2とからなる。
【0028】
受信処理部RXは、音声データ受信部4、音声データ復調部5、13、D/A変換器6、14、バッファ7及び15からなる。
【0029】
音声データ受信部4は、ネットワーク100から2チャンネル分の変調音声データADC1及びADC2を夫々受信する。
【0030】
音声データ復調部5は、上記変調音声データADC1に対して復調処理を施して得られた音声データADR1を出力する。D/A変換器6は、かかる音声データADR1をアナログの音声信号AUR1に変換してこれを出力する。バッファ7は、かかる音声信号AUR1を所望に増幅したものを音声信号AR1として出力する。
【0031】
音声データ復調部13は、セレクタ12から供給された変調音声データADC1又はADC2に対して復調処理を施すことにより音声データADR2を得てこれを出力する。D/A変換器14は、かかる音声データADR2をアナログの音声信号AUR2に変換してこれを出力する。バッファ15は、かかる音声信号AUR2を所望に増幅したものを音声信号AR2として出力する。
【0032】
尚、上記音声データ復調部5及び13は互いに同一の復調特性を有するものである。又、上記D/A変換器6及び14は互いに同一の変換特性を有するものである。又、バッファ7及び15は互いに同一の増幅特性を有するものである。
【0033】
音声信号受信回路300の故障検出処理部FA2は、セレクタ12と、音声データ復調部5及び13の故障検出を行う減算器19及び故障判定部24と、D/A変換器6及び14の故障検出を行う減算器20及び故障判定部25とからなる。
【0034】
セレクタ12は、上記変調音声データADC1及びADC2の内から、故障テスト信号TESRXにて示される方を択一的に選択して音声データ復調部13に供給する。すなわち、セレクタ12は、故障テストモードを示す論理レベル1の故障テスト信号TESRXが供給された場合には変調音声データADC1を音声データ復調部13に供給する一方、通常動作モードを示す論理レベル0の故障テスト信号TESRXが供給された場合には変調音声データADC2を音声データ復調部13に供給する。
【0035】
すなわち、通常動作モード時には、受信された2チャンネル分の変調音声データADC1及びADC2の内のADC1が音声データ復調部5、D/A変換器6及びバッファ7なる経路を経て音声信号AR1として出力されると共に、変調音声データADC2が音声データ復調部13、D/A変換器14及びバッファ15なる経路を経て音声信号AR2として出力される。
【0036】
一方、故障テストモード時には、変調音声データADC1が音声データ復調部5及び13の双方に供給される。よって、変調音声データADC1に基づく処理が、音声データ復調部5、D/A変換器6及びバッファ7なる経路と、音声データ復調部13、D/A変換器14及びバッファ15なる経路とで同時に為される。従って、音声データ復調部5及び13に故障が生じていなければ、これら音声データ復調部5及び13各々の出力である音声データADR1及びADR2は互いに同一値となる。又、D/A変換器6及び14に故障が生じていなければ、これらD/A変換器6及び14各々の出力である音声信号AUR1及びAUR2が互いに同一値となる。
【0037】
尚、上記通常動作モードから故障テストモードへの切換は、変調音声データADC1及びADC2の内のADC2に対する音声データ復調部13、D/A変換器14及びバッファ15による各種信号処理が不要となる際に自動的に為される。
【0038】
減算器19は、上記音声データ復調部5及び13から夫々出力された音声データADR1及びADR2各々の値の差分を求めこれを誤差値GADRとして故障判定部24に供給する。故障判定部24は、誤差値GADRが所定期間に亘り0よりも大なる値になった場合には「故障有り」を示す論理レベル1の故障検出信号ERADR、それ以外の場合には「故障無し」を示す論理レベル0の故障検出信号ERADRを故障判定処理部40に供給する。
【0039】
減算器20は、上記の如きアナログの音声信号AUR1及びAUR2各々の信号レベルの差分を求めこれを誤差値GAURとして故障判定部25に供給する。故障判定部25は、誤差値GAURの平均値を求め、この平均値が所定の第1閾値よりも小である場合には「故障無し」を示す論理レベル0の故障検出信号ERAUR、大である場合には「故障有り」を示す論理レベル1の故障検出信号ERAURを故障判定処理部40に供給する。
【0040】
かかる構成によれば、上記故障テストモード時において、音声データ復調部5及び13の故障状態が故障検出信号ERADR、D/A変換器6及び1の故障状態が故障検出信号ERAURにて夫々個別に表される。
【0041】
以上の如く、上記実施例におけるFA1及びFA2においては、故障テストモード時において、各チャンネル毎に設けられた信号処理部(バッファ、A/D変換器、変調部、又は復調部)各々に対して、同一入力信号(音声信号)に基づく信号処理を実施させる。そして、各信号処理毎にその処理結果同士の差分に基づき、各信号処理部に故障が生じているか否かの判定を個別に行うようにしている。よって、故障検出の為にパリティビットの如き冗長信号を付加することなく、且つアナログ音声信号を扱う信号処理回路に適用した場合においても精度良く故障検出を行うことが可能となる。
【0042】
尚、上記実施例においては、2チャンネルの音声信号処理を行う装置に本発明を適用した場合を一例に挙げてその動作を説明したが、4チャンネル、或いは6チャンネルの音声信号処理装置に対しても同様に適用可能である。すなわち、3チャンネル以上の複数の入力音声信号に対して2チャンネル分毎に、図1に示す如き減算器(16〜20)及び故障判定部(21〜25)を各処理毎に設けるのである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による故障検出装置を搭載した伝送システムの構成を示す図である。
【符号の簡単な説明】
【0044】
8,12 セレクタ
16,17,18,19,20 減算器
21,22,23,24,25 故障判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の入力信号に所定の信号処理を施して第1信号を得る第1処理部と、第2の入力信号に前記所定の信号処理を施して第2信号を得る第2処理部とを含む信号処理回路の故障検出装置であって、
前記第1信号と前記第2信号とのレベル差を求める減算手段と、
前記レベル差に基づいて前記第1処理部及び前記第2処理部に故障が生じているか否かを判定する故障判定手段と、を有することを特徴とする故障検出装置。
【請求項2】
故障テストモード時において前記第2の入力信号に代えて前記第1の入力信号を前記第2処理部に供給する手段を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の故障検出装置。
【請求項3】
前記第1の入力信号及び前記第2の入力信号はアナログの音声信号であることを特徴とする請求項1記載の故障検出装置。
【請求項4】
第1の入力信号に第1信号処理を施して第1信号を得る第1処理部と、第2の入力信号に前記第1信号処理を施して第2信号を得る第2処理部と、前記第1信号に第2信号処理を施して第3信号を得る第3処理部と、前記第2信号に前記第2信号処理を施して第4信号を得る第4処理部とを含む信号処理回路の故障検出装置であって、
前記第1信号と前記第2信号とのレベル差を求める第1減算手段と、
前記第3信号と前記第4信号とのレベル差を求める第2減算手段と、
第1減算手段によって求められた前記レベル差に基づいて前記第1処理部及び前記第2処理部に故障が生じているか否かを判定する第1故障判定手段と、
第2減算手段によって求められた前記レベル差に基づいて前記第3処理部及び前記第4処理部に故障が生じているか否かを判定する第2故障判定手段と、を有することを特徴とする故障検出装置。
【請求項5】
故障テストモード時において前記第2の入力信号に代えて前記第1の入力信号を前記第2処理部に供給する手段を更に備えたことを特徴とする請求項4記載の故障検出装置。
【請求項6】
前記第1の入力信号及び前記第2の入力信号はアナログの音声信号であることを特徴とする請求項4記載の故障検出装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−208797(P2007−208797A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26936(P2006−26936)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(593065844)株式会社沖コムテック (127)
【Fターム(参考)】