説明

散水式水処理装置内の汚泥量制御方法

【課題】DHSを用いた散水式水処理装置において、反応槽内の担体表面保持汚泥量を簡略な手法によって好適に制御できるようにする。
【解決手段】担体が静置装填された複数の反応槽を有する散水式水処理装置を設け、前記各反応槽に被処理水を供給することにより被処理水の好気性水処理を行い、反応槽内の担体表面保持汚泥量が好気性水処理により増加して飽和域8に達する前に反応槽への被処理水の供給を一定期間停止し、担体表面保持汚泥が微生物により自己分解して減量された後に、再び反応槽に対する被処理水の供給を再開し、反応槽内の担体表面保持汚泥量が増加して飽和域8に達する前に再び反応槽への被処理水の供給を一定期間停止するという操作を繰り返し、この操作を全ての反応槽に対してローテーション式に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散水式水処理装置内の汚泥量制御方法に関する。特に、好気性微生物を表面に担持させた担体をスタックし、上方から被処理水を散水滴下させる無曝気好気性処理法における余剰汚泥の発生量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚水を浄化処理するため、あるいは、産業排水、雑排水、または農業廃水などの排水(以降被処理水という。)を浄化処理するため、従来から、好気性反応槽内に、表面(担体の外表面及び/又は担体が多孔体の場合は、孔部の面内も含む)に好気性微生物を担持可能なプラスチック担体やスポンジ担体をスタック装填し、上方から被処理水を散水滴下させる高効率無曝気好気性処理法(DHS: Down-flow Hanging Sponge、以下、DHSという。)を用いた散水式水処理装置が知られている。(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
ここで、DHSでは、反応槽内にスタックする担体は、例えば、プラスチックの網を籠状に形成したもの、プラスチックの網を筒状に形成したもの、発泡性ポリウレタンスポンジを筒状に形成し、スタックした際に下方のスポンジがつぶれないように、前述のプラスチックの網筒の内部に装填したもの、さらにはスポンジシートを吊り下げる懸架式のものなどがあり、そのどれもが担体表面に上方から滴下される被処理水が含む汚泥成分が絡みつくように、表面が凹凸処理されている。そして、反応槽内に、人為的に撒いたり被処理水により汚泥とともにもたらされたりする好気性微生物が、その担体表面に絡み付く汚泥成分に住み着き、汚泥成分をえさにしながら汚泥成分を分解するものである。
このDHS方式が優れているのは、担体に被処理水を上方から滴下するので、空気と単体表面の汚泥成分との接触機会が、浸漬形(汚泥を水に懸濁させた状態での処理)の好気性処理槽と比べ桁違いに多く、好気性微生物に必要な酸素が曝気装置なく充分に供給できることが挙げられる。又、特徴的な事柄として、担体の表面の好気性微生物がえさになる汚泥の供給とともに増殖し、担体表面に捕捉される汚泥としてその捕捉堆積量を増加させる事柄がある。この担体表面に捕捉され堆積する汚泥量について、懸架式の担体自体を反応槽外部に移動させ、多すぎる堆積汚泥を機械的にこそぎおとすメンテナンスすることを開示している装置に例えば特許文献3がある。
【0003】
散水式水処理装置の反応槽に下水等の有機物を含む被処理水(有機性排水)を流入すると、反応層内には水処理に伴って微生物を含む汚泥がスポンジ担体に捕捉堆積される一方、汚泥が微生物によって自己分解することで水処理が行われる。このとき、反応槽内の担体に保持される担体表面保持汚泥量の時間変化は、次式で表される。
担体表面保持汚泥量=汚泥増加量−汚泥自己分解量・・・(I)
また、この式は次式と同義である。
担体表面保持汚泥量=(汚泥捕捉量+微生物増殖量)−汚泥自己分解量・・・(II)
【0004】
汚泥増加量と汚泥自己分解量は、反応槽に流入する被処理水中における微生物の餌となる有機物質(F)と反応槽内微生物量(M)との比であるF/M比で示すと、次式の関係にある。
F/M比が大きいとき(増加量>自己分解量)→担体表面保持汚泥量の増加
F/M比が小さいとき(増加量<自己分解量)→担体表面保持汚泥量の減少
【0005】
前記DHSを用いた散水式水処理装置において、反応槽内の微生物が増殖途上にある運転初期は流入する被処理水の有機物負荷に対して微生物量が小さい、即ちF/M比が大きい状態になるため担体表面保持汚泥量は経時的に増加していくが、微生物が馴養された運転定常期にはF/M比が十二分に小さくなるために、
汚泥増加量≒汚泥自己分解量
となり、故に、担体表面保持汚泥量の増加は装置運用上無視できる程度のものであると考えられてきた。そのため、従来においては、反応槽内の汚泥量を制御する手法は提案されることがなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−307530号公報
【特許文献2】特許第3967896号
【特許文献3】特開2005−199182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、DHSを用いた散水式水処理装置で処理が良好に行われている定常状態では、反応槽内での汚泥増加量と汚泥自己分解量は大略バランスしており、よって、反応槽内の担体表面保持汚泥量はほとんど増減することがなく安定しているものと考えられている。
【0008】
しかしながら、前記散水式水処理装置においては、反応槽内のF/M比が変化したり、或いは、担体表面保持汚泥内の微生物の増殖特性や自己分解特性が変化することが希にあり、このために、担体表面保持汚泥量は前記安定状態から増加に転じる可能性を常に抱えている。
【0009】
従って、担体表面保持汚泥量が安定状態から増加へ転じる事態が発生した場合には、反応槽内の汚泥層が肥厚して担体が目詰まりを起こす問題が生じ、更には、肥厚した汚泥層が担体から剥離して脱落し、処理水に混入するといった問題が起こり得る。このように、担体から剥離した汚泥が処理水に混入した場合には、処理水質の不安定性に直結する問題を引き起こすことになるため、このような問題が生じないように予め防止策を講じる必要があるが、これまでは、このような問題を未然に回避するための好適な手段は存在しなかった。
【0010】
上記したような問題に対処するために、汚泥を水に懸濁させた状態で水処理を行う活性汚泥法等の既存技術においては、過剰発生分の汚泥を反応槽から引抜いて取り出すことで、反応槽内汚泥量を制御することが行われている。
【0011】
しかし、前記散水式水処理装置の場合においては、反応槽内の汚泥の一部だけを引き抜くことは容易ではない。なぜなら、汚泥を水に懸濁させた状態で水処理を行う浸漬式の既存技術では、懸濁している汚泥を、大きな容積を有する沈降部や堰で固液分離する仕組みを元来必須で備えており、処理水とは異なる引抜管で濃縮した汚泥を引き抜けるが、前記散水式水処理装置(DHS)では、担体に付着した汚泥をベッドとした好気性微生物に被処理水を滴下させることを、その処理反応の基礎としており、汚泥は、反応槽内に広く装填される担体に付着することが前提で、付着汚泥が肥厚して微生物と被処理水との接触機会が減じても、付着汚泥は、期待する付着に逆らって、機械的にこそぎ落とすなどしないと、減らすことができないからである。しかし、担体から機械的に余剰の汚泥をこそぎ落としたところで、その後運転を復帰した際に、担体への付着が機械的処理により弱くなった汚泥が流れ出すことが生じてしまい、せっかく懸濁汚泥の固液分離部の必要ない特徴が生かせなくなる。
そのため、従来の散水式水処理装置においては、効果的な汚泥量制御方法は事実上存在しなかった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなしたもので、DHSを用いた散水式水処理装置において、反応槽内の担体表面保持汚泥量を、機械的なこそぎ落としなどの処理を用いず、簡略な手法によって好適に制御できるようにした散水式水処理装置内の汚泥量制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、表面に好気性微生物と汚泥が付着固定される担体が静置装填された複数の反応槽を有する散水式水処理装置を設け、前記各反応槽に被処理水を供給することにより被処理水の好気性水処理を行い、反応槽内の担体表面保持汚泥量が前記好気性水処理により増加して飽和域に達する前に反応槽への被処理水の供給を一定期間停止し、前記担体表面保持汚泥が好気性微生物により自己分解されて減量した後に、再び反応槽に対する被処理水の供給を再開し、反応槽内の担体表面保持汚泥量が前記好気性水処理により増加して飽和域に達する前に反応槽への被処理水の供給を一定期間停止するという操作を繰り返し、この操作を全ての反応槽に対してローテーション式に行うことを特徴とする散水式水処理装置内の汚泥量制御方法、に係るものである。
【0014】
上記散水式水処理装置内の汚泥量制御方法において、前記反応槽内の前記担体表面保持汚泥量が前記好気性水処理により増加して飽和域に達する前に反応槽への被処理水の供給を停止する前記一定期間の算出方法を、
dX/dt = Xr+α×Sr−a×X
(各記号は、以下のとおり。X:反応槽内保持汚泥量、t:時間、Xr:汚泥捕捉量、Sr:溶解性有機物分解量、X:反応槽内微生物量(Xの画分)、α:溶解性有機物分解に伴うXの増殖率(=汚泥転換率)、a:Xの自己分解率(=内生呼吸速度))
の式に、
Xr:汚泥捕捉量=0、Sr:溶解性有機物分解量=0として代入演算して得た、X:反応槽内保持汚泥量と、経過時間tとの関係から導くことを特徴とするものである。
【0015】
上記散水式水処理装置内の汚泥量制御方法において、反応槽に対する被処理水の供給を一定期間停止した後に再び被処理水の供給を再開する際には、被処理水の供給再開に伴って当該反応槽から導出される処理水を所定期間だけ各反応槽の入口に戻すことは好ましい。
【0016】
又、上記散水式水処理装置内の汚泥量制御方法において、各反応槽に空気供給手段を設け、被処理水の供給を停止する反応槽に空気供給手段により空気を供給し、担体表面保持汚泥が微生物により自己分解して減量する作用を促進させることは好ましい。
【0017】
又、上記散水式水処理装置内の汚泥量制御方法において、各反応槽に加熱手段を設け、被処理水の供給を停止する反応槽を加熱手段により加熱し、担体表面保持汚泥が微生物により自己分解して減量する作用を促進させることは好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水処理装置内の汚泥量制御方法によれば、反応槽に被処理水を供給して好気性水処理することにより反応槽内の担体表面保持汚泥量が増加して飽和域に達する前に、当該反応槽への被処理水の供給を一定期間停止し、担体表面保持汚泥が微生物により自己分解して減量された後に、再び被処理水の供給を再開し、反応槽内の担体表面保持汚泥量が増加して飽和域に達する前に再び反応槽への被処理水の供給を一定期間停止するという操作を繰り返すようにしたので、反応槽内の担体表面保持汚泥量を常に飽和域直前の微生物の活性が盛んな領域に保持することができ、よって、従来問題となっていた、汚泥層が肥厚して担体が目詰まりを生じたり、或いは、肥厚した汚泥層が担体から剥離して脱落し、処理水に混入するといった問題の発生を未然に回避できるという優れた効果を奏し得る。
【0019】
又、一定期間の被処理水の供給停止と供給再開を行う操作を、複数の反応槽に対してローテーション式に適用することで、散水式水処理装置の運転を停止することなく、好気性水処理を継続しながら汚泥量制御を行える効果がある。
【0020】
又、各反応槽に対する被処理水の供給停止と供給再開を行う操作は、給水バルブの開閉だけで済むため、極めて簡易な操作で行える効果がある。
【0021】
又、反応槽に対する被処理水の供給を一定期間停止した後に再び被処理水の供給を再開する際には、被処理水の供給再開に伴って当該反応槽から導出される処理水を所定期間だけ各反応槽の入口に戻すようにしたので、被処理水の供給を停止した後再び供給を再開する反応槽から汚れた処理水が流出する問題を未然に防止できる効果がある。
【0022】
又、各反応槽に空気供給手段、或いは加熱手段を設けて、被処理水の供給を一定期間停止する反応槽に空気を供給する、或いは当該反応槽を加熱する、又は空気の供給と加熱を同時に行うことで、担体表面保持汚泥が微生物により自己分解して減量する作用を促進させることができ、よって、反応槽の運転停止期間を短縮できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】テストプラントを用いて担体表面保持汚泥量の挙動を調査した結果を示すグラフである。
【図2】反応槽に対する被処理水の供給を停止したときの担体表面保持汚泥量の挙動を示すグラフである。
【図3】本発明を実施する散水式水処理装置の一例を示す正面図である。
【図4】本発明の汚泥量制御方法の一例を示すグラフである。
【図5】担体表面保持汚泥量の減量速度を大きくする考えを示すグラフである。
【図6】汚泥減量期間短縮のための装置構成を示した図3の側面図である。
【図7】一般的なDHSを用いた散水式水処理装置の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0025】
本発明の形態を説明するのに先立ち、先ず散水式水処理装置の反応槽における担体表面保持汚泥量の挙動について説明する。
【0026】
図7は一般的なDHSを用いた散水式水処理装置1の一例を示すもので、図中2は、内部にスポンジ担体3(以下、担体と言う。)が静置装填された1つの反応槽であり、該反応槽2の上部には給水ポンプ4によって供給される被処理水5が散水されており、上部から散水された被処理水5は前記担体3に保持される汚泥の微生物により好気性水処理され、清浄な処理水6となって反応槽2の下部から導出されるようになっている。
【0027】
図7に示した散水式水処理装置1の反応槽2における担体表面保持汚泥量の時間変化は、前述した式(I)、(II)に基づくと、次式で表わすことができる。
dX/dt=(Xinf−Xeff)+α・(Sinf−Seff)−a・XB
又、この式は次式(1)と同義である。
dX/dt=Xr+α・Sr−a・XB ・・・(1)
上記2式における夫々の記号は以下の意味を示す。
X:反応槽内担体表面保持汚泥量
t:時間
inf:流入水中汚泥量
eff:流出水中汚泥量
Xr:汚泥捕捉量
inf:流入水中溶解性有機物量
eff:流出水中溶解性有機物量
Sr:溶解性有機物分解量
B:反応槽内微生物量(XTの画分)
α:汚泥転換率(溶解性有機物分解に伴うXの増殖率)
a:内生呼吸速度(XBの自己分解率)
【0028】
前記式(1)においてXBはXの画分であるので、XにおけるXBの割合をbとすると、この式は
dX/dt=Xr+α・Sr−a・b・X ・・・(2)
と書き換えることができる。
式(2)を変形すると
dX/dt=a・b{(Xr+α・Sr)/(a・b)−X}
←→{(a・b)/(Xr+α・Sr−a・b・X)}dX=a・bdt
であり、X:0→X,t:0→tにおいて解くと、
X={1−exp(−a・b・t)}・(Xr+α・Sr)/(a・b) ・・・(3)
が得られる。
【0029】
また、図7の散水式水処理装置1のテストプラントを用いて水処理試験を実施した場合の前記式(3)の各パラメータは下記表1の如くであった。尚、表1は被処理水が有機性排水の最も一般的な例である生活排水(下水)である場合を示している。
【表1】

【0030】
前記表1及び式(3)を用いて担体表面保持汚泥量の時間変化を模擬し、その結果を図1に示した。図1の横軸は運転期間(日)を表わし、縦軸は担体表面保持汚泥量X(kg-SS/m3担体)を表わす。
【0031】
表1に示すように、汚泥転換率α、内生呼吸速度a、担体表面保持汚泥中微生物割合bは所要の範囲を有していることから、担体表面保持汚泥量Xは図1に示す上限範囲曲線7aと下限範囲曲線7bとの間で挙動する理屈となる。しかしながら、装置が良好に運転されている場合においては、反応槽2内の汚泥変換率α、内生呼吸速度a、担体表面保持汚泥中微生物割合bが夫々の平均値に近い値から大きく変化することはないため、担体表面保持汚泥量が上限範囲曲線7a或いは下限範囲曲線7bに近付くようなことはなく、通常の場合の担体表面保持汚泥量は、平均挙動曲線7に沿って変化することがテストプラントにおいて確認されている。
【0032】
上記平均挙動曲線7で示すように、散水式水処理装置における担体のm3当たりの担体表面保持汚泥量は、起動初期には急速に増加し、その後は経時的に増加して一定の値に近付く(担体表面保持汚泥量の増加が0に近付く)ように挙動する。
【0033】
一方、散水式水処理装置1の反応槽2には、物理的に汚泥が飽和状態で保持される範囲を示す飽和域8が存在している。図7の反応槽2の場合における飽和域8は、図1に示すように経験的に25〜35kg−SS/m3担体であり、この飽和域8は固定値であって変わることはない。図1中、8aは飽和域8の下限値、8bは飽和域8の上限値である。
【0034】
生物学的水処理装置では装置の処理能力は処理を担う生物の量に比例する。散水式水処理装置においては、担体が保持する微生物を含んだ汚泥量が多いほど装置の処理能力を確保でき、上記飽和域8は散水式水処理装置1における最大の担体表面保持汚泥量を示す。しかしながら、担体表面保持汚泥量が上限値8bを超えて増加するような場合には、汚泥層の肥厚により担体の目詰まりが生じたり、汚泥層が担体から剥離して脱落し、処理水質の悪化を引き起こしたりする虞れがある。図1においては、担体表面保持汚泥量の増加が最も大きく見積もられる上限範囲曲線7aの場合では80日程度で平均挙動曲線7の場合では同日程度で略上限値8bに達するようになる。又、担体表面保持汚泥量の増加が最も小さく見積もられる下限範囲曲線7bの場合には、700日を超えても飽和域8に達することはない。
【0035】
上記において問題になるのは、担体表面保持汚泥量が飽和域8の上限値8bを超えて増加する場合であり、図1のように平均挙動曲線7が飽和域8の範囲内にある運転状態においても、反応槽2内のF/M比が変化したり、或いは、微生物の増殖特性や自己分解特性が変化することが希にあるため、このような事態が発生した場合には、担体表面保持汚泥量が飽和域8の上限値8bを超えて増加してしまうので、このような問題を防止できる手段を確立する必要がある。
【0036】
図1において、担体表面保持汚泥量XTが増加する速度は、式(1)、(2)における汚泥増加要因(=Xr+α・Sr)と汚泥減少要因(=a・XB=a・b・X)のバランスで決まる。
【0037】
前記散水式水処理装置1において、水処水質を高度かつより安定した状態で維持し続けるには、飽和域下限値8a付近で担体表面保持汚泥量を維持すべきである。これにより、装置の処理能力を最大付近に保ちつつ、微生物の増殖特性や自己分解特性或いはF/M比の突発的な変動により担体表面保持汚泥量が飽和上限値8bを容易に超えてしまうのを回避し易くなると考えられる。このためには、平均汚泥挙動曲線7のように時間変化する担体表面保持汚泥量が飽和域下限値8aに達する直前に、式(1)のおいてdX/dt≦0とすることが求められる。dX/dt≦0を得るには、前記汚泥増加要因(=Xr+α・Sr)を0とすること、即ち、反応槽2に対する被処理水5の供給を停止することが最も確実である。
【0038】
反応槽2に対する被処理水5の供給を停止する、即ち、表1におけるXr=0、Sr=0とするとき、式(2)より
dX/dt=−a・b・X
1/XdX=−a・bdt
であり、これをX:X'→X、t:0→tにおいて積分すると
X=X'・exp(−a・b・t) ・・・(4)
と表わせる。
表1及び式(4)を用いて模擬した担体表面保持汚泥量の挙動を図2に示す。
【0039】
図2に示すように、被処理水5の供給を停止した場合には、担体表面保持汚泥量は上限範囲曲線9aと下限範囲曲線9bの間で減少するように時間変化する。被処理水5の供給の停止は、反応槽2内の微生物の餌となる有機物質(F)の供給の停止と同義であり、F/M比は最小となって反応槽2内の汚泥自己分解による担体表面保持汚泥量の減量が進む。通常の場合の担体表面保持汚泥量は、汚泥転換率α、内生呼吸速度a、汚泥中微生物割合bの夫々の平均値に近い値を示す中間の平均挙動曲線9に沿って減少する。図2では、被処理水5の供給停止直前の汚泥量を100%とした場合、被処理水5の供給停止15日経過後には担体表面保持汚泥量が80%となり、担体表面保持汚泥量が20%減量されたことを示している。
【0040】
上記の考えに基づいた本発明の方法の形態を以下に説明する。
【0041】
図3は本発明を実施する散水式水処理装置の一例を示すもので、散水式水処理装置100は担体(図7参照)が静置装填された複数の反応槽101を備えている。図3では5個の反応槽101を備えた場合を示しているが、反応槽101は複数備えていればよくその数には限定されない。この反応槽101は、図3に示すように、反応装置本体102の内部を区画壁103によって複数に区画したものであってもよく、或いは単独に構成された複数の反応槽を備えるようにしてもよい。
【0042】
一方、給水ポンプ4からの被処理水5は分配タンク104に供給されており、分配タンク104に供給された被処理水5は、夫々に給水バルブVA1〜VA5を備えた給水管105によって前記各反応槽101に供給されるようになっている。又、各反応槽101で処理された処理水6は、夫々に処理水バルブVB1〜VB5を備えた処理水取出管106によって外部に取り出されるようになっている。
【0043】
又、各処理水取出管106における各反応槽101と各処理水バルブVB1〜VB5との間には、夫々に循環水バルブVC1〜VC5を備えた循環水管107の一端が接続されており、循環水管107の他端は1本の配管に集合して処理水循環ポンプ108に接続されており、前記循環水バルブVC1〜VC5を開閉することにより、任意の反応槽101の処理水を取出して循環水109として前記分配タンク104に再循環し得るようにしている。
【0044】
前記図1に示すアイデアと図2に示すアイデアを組み合わせた本発明の汚泥量制御方法の一例を図4に示し、図3の散水式水処理装置100における汚泥制御モデルのパラメータを表2に示した。表2による担体表面保持汚泥量の挙動を示す図4の曲線は、図1の平均挙動曲線7をベースとした。
【表2】

【0045】
図3の散水式水処理装置100の運転初期には、給水ポンプ4が駆動されて被処理水5が分配タンク104に供給され、この時、給水バルブVA1〜VA5は開、処理水バルブVB1〜VB5は開、循環水バルブVC1〜VC5は閉となっており、分配タンク104の被処理水5は各反応槽101に分配供給されて好気性水処理される。
【0046】
反応槽101に被処理水5を供給して好気性水処理を行うと、反応槽101内には汚泥が発生し、担体表面保持汚泥量は図4に示す平均挙動曲線7の如く経時的に増加するようになる。この時、反応槽101内の担体表面保持汚泥量が飽和域8の下限値8aに達する前に、当該反応槽101への被処理水5の供給を停止する制御を行う。図3の左端の反応槽101を例にとって説明すると、該左端の反応槽101の担体表面保持汚泥量が飽和域8の下限値8aに達する直前になった時、給水バルブVA1を閉じて、反応槽101に対する被処理水5の供給を停止する。この時、反応槽101の飽和域8は、前述したように決まっていて予め分かっているので、上記被処理水5の供給を停止する制御は容易に行うことができる。図4では、好気性水処理を開始してから120日で担体表面保持汚泥量が略飽和域8の下限値8aに近付くので、飽和域8の下限値8aの直前で被処理水5の供給を停止した場合を示している。
【0047】
被処理水5の供給が停止された反応槽101には、微生物の餌となる有機物の供給が停止するので、反応槽101内に保持された汚泥は微生物によって積極的に自己分解され、従って、反応槽101内の担体表面保持汚泥量は、図2に示す平均挙動曲線9に沿って減量するようになる。図4に示す破線は上記被処理水5の供給停止を行わなかった場合における平均挙動曲線7の仮想曲線である。
【0048】
被処理水5の供給停止によって担体表面保持汚泥量が所定量だけ減量された後には、再び前記給水バルブVA1を開いて左端の反応槽101への被処理水5の供給を再開する。反応槽101への被処理水5の供給を再開すると、反応槽101内の担体表面保持汚泥量は再び増加してくるので、飽和域8に達する前に再び反応槽101への被処理水5の供給を停止する。この操作を図4に示す如く繰り返すことによって、担体表面保持汚泥量は飽和域8の下限値8aより低いが飽和域8直前の微生物の活性が盛んな領域において常に安定して運転されるようになる。
【0049】
このように、反応槽101内の担体表面保持汚泥量を常に飽和域8直前の範囲に保持することにより、例えば、反応槽101内のF/M比が変化したり、或いは、微生物の増殖特性や自己分解特性が変化することが生じて、担体表面保持汚泥量が増加することが起こっても、担体表面保持汚泥量は飽和域8内に留めて上限値8bより増加することを防止でき、よって、従来問題となっていた、汚泥層が肥厚して担体が目詰まりを生じたり、或いは、肥厚した汚泥層が担体から剥離して脱落し、処理水に混入するといった問題の発生を未然に防止することができる。
【0050】
又、各反応槽101に対する被処理水5の供給停止と供給再開を行う操作は、給水バルブVA1〜VA5の開閉だけで済むため、極めて簡易な操作で行うことができる。
【0051】
上記した如く、上記した如く、被処理水5の供給を一定期間停止した後に、再び被処理水5の供給を再開することを繰り返す操作は、全ての反応槽101に対してローテーション式に行うようにする。即ち、図4に示す運転停止動作と担体表面保持汚泥との関係では、図3の反応槽5台のうちの1台だけで試験した結果を示しているので、飽和域8の下限に担体表面保持汚泥量Xが到達した運転時間から停止動作を掛けて担体表面保持汚泥量を減量させているが、例えば、図3の反応槽5台のうちの1台を再生処理することとしてローテーションで給水しない場合は、最初の動作だけ5台に被処理水5を供給するが、1台の再生時間を予め見越して、飽和域8の下限に担体表面保持汚泥量Xが到達するまえに、5台の反応槽101の内1台を切り離して被処理水を供給停止して再生に入らせる。その後、飽和域8の下限に担体表面保持汚泥量Xが到達するまえに、所定の再生時間を経過した再生済み1台の反応槽101に被処理水の給水を再開して、同時に、次のローテーションの1台の反応槽101への被処理水の供給を停止して再生に入らせる。このローテーション動作を繰り返すことで、4台の反応槽101全体の担体表面保持汚泥量Xは、飽和域8の下限を上限として、常に安定して運転できる。
この操作を繰り返すことによって、図4の運転再生周期とは異なるが、反応槽101全体として、担体表面保持汚泥量は飽和域8の下限値8aより低いが、飽和域直前の微生物の活性が盛んな領域において常に安定して運転されるようになる。
【0052】
前記反応槽101に対する被処理水5の供給を停止する期間は、被処理水の種類ごとに試験して計測した、α:汚泥転換率(溶解性有機物分解に伴う汚泥の増殖率)、a:内生呼吸速度(汚泥の自己分解率)、b:担体表面保持汚泥中微生物割合、などにより変わる図2の経過時間tと担体表面保持汚泥量Xとの関係に応じて、任意に設定することができる。
【0053】
散水式水処理装置100では処理すべき被処理水5の目標量が決められているため、反応槽101に対する供給停止期間を長く設定した場合には、停止している反応槽101に供給する分の被処理水5を他の反応槽101で処理することになるため、他の反応槽101への被処理水5の供給量が増加して他の反応槽101の担体表面保持汚泥量が増加することになるので、前記供給停止期間は短く設定することが好ましい。
【0054】
被処理水を下水(生活排水)とした図4においては、担体表面保持汚泥量が約10%減量される7日前後を被処理水5の供給停止期間とし、再び通常運転を行う期間を20日前後のように設定した場合の担体表面保持汚泥量の挙動を示した。実際の運用では、排水種に応じて表2を作成し、各パラメータを前記式(3)及び(4)に入力することで、被処理水の供給期間と停止期間の設定を判断することができる。
【0055】
一方、前記制御において、被処理水5の供給停止後に再び被処理水5の供給を再開した際には、水分が減少した状態で担体に保持されていた汚泥が被処理水5の供給により洗い流される作用を受けて落下し、処理水に混入してしまう虞れがある。
【0056】
このため、例えば左端の反応槽101に対する被処理水5の供給停止後に再び被処理水5の供給を再開する際には、処理水バルブVB1を閉じ、循環水バルブVC1を開け、処理水循環ポンプ108を駆動することにより、前記反応槽101からの処理水を循環水109として分配タンク104に戻すように制御する。
【0057】
これにより、被処理水5の供給を再開した際に担体表面保持汚泥が落下する事態が生じても、汚れた処理水は反応槽101から取り出されることなく、循環水バルブVC1、処理水循環ポンプ108を介して前記分配タンク104に循環水109として循環され、この循環水109は被処理水5に混合されて各反応槽101に供給されるようになる。
【0058】
ここで、被処理水5の供給を再開した反応槽101の処理水を循環水109として分配タンク104に戻す再循環期間は、反応槽101における被処理水5の滞留時間に基づいて決定することができる。反応槽101における被処理水5滞留時間は、経験的に平均値で3〜5時間程度であり、従って、前記再循環期間は、最低前記滞留時間の2倍以上、例えば8時間以上を保持すればよい。
【0059】
従って、被処理水5の供給を停止した後再び供給を再開する反応槽101からは汚れた処理水が流出する問題は生じない。
【0060】
又、上述した汚泥量制御方法において、図5に矢印で示すように、担体表面保持汚泥量の減量速度を大きくすることができれば、汚泥量制御における被処理水5の供給を停止する期間を短くできるため、装置の実稼働率を向上することができる。
【0061】
前記式(4)によれば、担体表面保持汚泥量の減少速度は内生呼吸速度aに比例する。つまり、内生呼吸速度aを大きくすることで、汚泥減量速度を大きくすることができる。内生呼吸は好気性微生物反応によっており、一般にその速度は反応層内の温度や酸素濃度に比例するとされる。
【0062】
図6にこの原理を利用した汚泥減量期間短縮のための装置構成を示した。図6は図3に示した反応装置本体102の側面図であり、反応装置本体102に構成された複数の反応槽101には、ブロワ110による空気を送気管111を介して前記反応槽101内下部に吹き込むようにした空気供給手段112を設けている。又、前記反応装置本体102の反応槽101には、各反応槽101を加熱するようにしたヒータ113或いは温水管等からなる加熱手段114を設けている。この時、加熱手段114は各反応槽101を独立して加熱できるように、各反応槽101の外周をヒータ113や温水管で巻いたり、或いは各反応槽101の内部に温水管を通す等の方法で実施することができる。尚、図6では、反応槽101に空気供給手段112と加熱手段114の両方を備えた場合を示したが、その一方のみを備えるようにしてもよい。
【0063】
上記したように、各反応槽101に空気供給手段112、或いは加熱手段114を設けて、被処理水5の供給を一定期間停止する反応槽101に空気を供給する、或いは当該反応槽101を加熱する、又は空気の供給と加熱を同時に行うことにより、担体表面保持汚泥が微生物によって自己分解して減量する作用が促進され、よって、反応槽101の運転停止期間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0064】
3 担体
5 被処理水
6 処理水
8 飽和域
100 散水式水処理装置
101 反応槽
105 給水管
106 処理水取出管
107 循環水管
108 処理水循環ポンプ
109 循環水
112 空気供給手段
114 加熱手段
VA1〜VA5 給水バルブ
VB1〜VB5 処理水バルブ
VC1〜VC5 循環水バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に好気性微生物と汚泥が付着固定される担体が静置装填された複数の反応槽を有する散水式水処理装置を設け、前記各反応槽に被処理水を供給することにより被処理水の好気性水処理を行い、反応槽内の担体表面保持汚泥量が前記好気性水処理により増加して飽和域に達する前に反応槽への被処理水の供給を一定期間停止し、前記担体表面保持汚泥が好気性微生物により自己分解されて減量した後に、再び反応槽に対する被処理水の供給を再開し、反応槽内の担体表面保持汚泥量が前記好気性水処理により増加して飽和域に達する前に反応槽への被処理水の供給を一定期間停止するという操作を繰り返し、この操作を全ての反応槽に対してローテーション式に行うことを特徴とする散水式水処理装置内の汚泥量制御方法。
【請求項2】
前記反応槽内の前記担体表面保持汚泥量が前記好気性水処理により増加して飽和域に達する前に反応槽への被処理水の供給を停止する前記一定期間の算出方法を、
dX/dt = Xr+α×Sr−a×X
(各記号は、以下のとおり。X:反応槽内担体表面保持汚泥量、t:時間、Xr:汚泥捕捉量、Sr:溶解性有機物分解量、X:反応槽内微生物量(Xの画分)、α:溶解性有機物分解に伴うXの増殖率(=汚泥転換率)、a:Xの自己分解率(=内生呼吸速度))
の式に、
Xr:汚泥捕捉量=0、Sr:溶解性有機物分解量=0として代入演算して得た、X:反応槽内担体表面保持汚泥量と、経過時間tとの関係から導くことを特徴とする請求項1記載の散水式水処理装置内の汚泥量制御方法、に係るものである。
【請求項3】
反応槽に対する被処理水の供給を一定期間停止した後に再び被処理水の供給を再開する際には、被処理水の供給再開に伴って当該反応槽から導出される処理水を所定期間だけ各反応槽の入口に戻すことを特徴とする請求項1又は2記載の散水式水処理装置内の汚泥量制御方法。
【請求項4】
各反応槽に空気供給手段を設け、被処理水の供給を停止する反応槽に空気供給手段により空気を供給し、担体表面保持汚泥が微生物により自己分解して減量する作用を促進させることを特徴とする請求項1又は2記載の散水式水処理装置内の汚泥量制御方法。
【請求項5】
各反応槽に加熱手段を設け、被処理水の供給を停止する反応槽を加熱手段により加熱し、担体表面保持汚泥が微生物により自己分解して減量する作用を促進させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の散水式水処理装置内の汚泥量制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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