説明

断熱キャスタブル用粉体組成物及びそれを用いた断熱キャスタブル

【課題】本発明は、従来よりも高い耐熱性を有し、優れた断熱性を有し、かつ、軽量な低熱伝導性の断熱キャスタブル用粉体組成物を提供する。
【解決手段】アルミナ−ジルコニア質中空粒子と、アルミナセメントと、を含む断熱キャスタブル用粉体組成物であって、アルミナ−ジルコニア質中空粒子が、Alを67〜99質量%、ZrOを1〜33質量%の範囲で、かつ、これらの合量が96質量%以上含有する断熱キャスタブル用粉体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉等の工業炉の内張断熱層として好適な低熱伝導性の断熱キャスタブル用粉体組成物及びそれを用いた断熱キャスタブルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に加熱炉等の工業炉は、最も外側のケーシング(鉄皮とも称す)の内側に、不定形耐火物をライニングする。この不定形耐火物のライニングは、ケーシングに近いほうから、断熱ボード、断熱キャスタブル、耐火キャスタブルの順に3層構造とするのが、一般的である。
【0003】
ここで、断熱キャスタブルは、近年、地球温暖化による環境悪化が指摘され、COの排出量の低減の必要性から、省エネルギー化のためにその性能向上が望まれており、特に操業温度の高い鉄分野では高耐熱かつ高断熱性能の断熱キャスタブルのニーズがある。
【0004】
高耐熱かつ高断熱性能の断熱キャスタブルとしてセラミックファイバーを主原料としたファイバーキャスタブルがあるが、近年、ファイバー系の耐熱性骨材は、発がん性が指摘されるようになり、また、環境への負荷が大きいと考えられるようになり、健康面及び環境面からその使用量が法的に規制されるようになってきた。これは今後も強化される方向にあると考えられる。
【0005】
このような状況下、ファイバー系の耐火性骨材に変わるものとしてCaO・6Alを主成分とした断熱性骨材を使用した断熱キャスタブル(特許文献1参照)が、さらに、CaO・6Alの粒度に応じて、その配合量や施工水量を特定の範囲とすることで高強度でありながら、高断熱を維持できるようにした断熱キャスタブル(特許文献2参照)が、知られている。
【0006】
また、ファイバーを含有しない高耐熱断熱キャスタブルとして中空アルミナ含有耐火物(特許文献3参照)もあるが、熱伝導率が高く、高断熱のニーズを満足するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−203090号公報
【特許文献2】特開2002−179471号公報
【特許文献3】特公平3−39031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や2に記載されたCaO・6Alを主成分とした断熱性骨材を使用した断熱キャスタブルは、軽量性の点で必ずしも十分ではない。
【0009】
特許文献3に記載された中空アルミナ含有耐火物は、断熱性能の点で不十分である。
以上のことから、セラミックスファイバーを使用せず、1400℃以上で耐熱性がある低熱伝導性の断熱キャスタブルが求められている。
【0010】
そこで、本発明は、セラミックスファイバーを含有せずに、従来と同程度の断熱性を持ちながら、耐熱性を大幅に向上させた、軽量で低熱伝導性の断熱キャスタブル用粉体組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物は、アルミナ−ジルコニア質中空粒子と、アルミナセメントと、を含む断熱キャスタブル用粉体組成物であって、前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子が、Alを67〜99質量%、ZrOを1〜33質量%、かつ、これらの合量が96質量%以上であることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の断熱キャスタブルは、上記本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物に、水分を添加し混練して施工することで得られるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物によれば、アルミナ−ジルコニア質中空粒子という軽量で低熱伝導率を有する新規の骨材を使用し、その他の組成を高耐熱性と選択することで、従来フィラー系の骨材では得られなかった高い耐熱性を有し、断熱性にも優れ、かつ、軽量な断熱キャスタブルを得ることができる。
【0014】
また、本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物に基づく断熱キャスタブルは、セラミックスファイバーを含有しないため人体の健康面への影響、環境負荷が小さい断熱キャスタブルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物は、耐熱性及び断熱性に優れたキャスタブル用粉体組成物であり、所定の骨材と、バインダーと、を必須成分として含むものであって、セラミックスファイバーを含有しないものである。なお、本明細書において、粉体組成物に含まれる成分量について使用されている、「内掛け」とは、粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%としたとき、100質量%の中でのそれぞれの成分割合をいう。例えば、耐火軽量骨材を内掛けで90質量%含むとは、該耐火軽量骨材の含有量を含めた粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%とし、かかる100質量%中、耐火軽量骨材を90質量%含むことをいう。一方、「外掛け」とは、粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%としたとき、かかる100質量%に含まれていない成分の耐火物全体(外掛け表示成分を含まない)を基準にした割合をいう。例えば、起泡剤を外掛けで0.02質量%含むとは、該起泡剤の含有量を含まない粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%として、起泡剤を付加的に0.02質量%含むことをいう。
【0016】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物の骨材としては、アルミナ−ジルコニア質中空粒子からなる軽量耐火骨材が用いられる。なお、本明細書において、骨材とは平均粒径が20μm超の粒子をいうが、アルミナセメント粒子および起泡剤は除かれる。
【0017】
本発明で用いる軽量耐火骨材は、その化学成分としてAl成分及びZrO成分を必須成分とするもので、そのAl成分の含有量を67〜99質量%、ZrO成分の含有量を1〜33質量%、かつ、それらの合量(Al+ZrO)が96質量%以上となるようにしたアルミナ−ジルコニア質中空粒子である。軽量耐火骨材としては、Al成分の含有量を68〜99質量%、ZrO成分の含有量を1〜32質量%、かつ、それらの合量(Al+ZrO)が98質量%以上となるようにしたアルミナ−ジルコニア質中空粒子であると好ましい。
【0018】
Al成分の含有量が67質量%未満、ZrO成分の含有量が33質量%を超えると、ジルコニア比率が高くなるためジルコニアの相転移に伴う体積変化を吸収しきれず、粒子に亀裂が生じやすくなり、粒子強度の低下のおそれがある。また、アルミナに比べて比重の大きいジルコニアの比率が高くなるため質量が重くなり、目的の一つである軽量化の点で問題となる。さらに、ジルコニアは原料単価が高いため、製造原価の点でも問題となるおそれがある。一方、Al成分の含有量が99質量%を超え、ZrO成分の含有量が1質量%未満であると、強度が十分確保できなくなってしまう。なお、Al成分の含有量が68〜99質量%、ZrO成分の含有量が1〜32質量%であると同様の理由で好ましい。
【0019】
そして、それらの合量(Al+ZrO)が96質量%未満であると、その他の成分が不純物となって存在するため、上記効果のバランスがとれず、本発明の目的とする特性を有する耐火骨材を得ることができなくなってしまう。前記合量が98質量%以上であると上記効果のバランスが良好で、本発明の目的とする特性を好適に有し好ましい。また、軽量耐火物粒子を電融法により製造する場合には、前記合量が96質量%未満であると、溶解温度が低下し過ぎて中空の軽量耐火骨材粒子が製造できないおそれもある。軽量耐火物粒子を電融法により製造する場合、前記合量が98質量%以上であるとより好ましい。
【0020】
通常、ZrOの常温で安定な結晶構造は単斜晶相であり、1100℃前後で相転移して大きな体積変化を示すため、そのままでは焼結体の製造は難しい。一般的には、ZrO成分を主成分とする耐火物原料ではCaO等を添加して立方晶に安定化して使用される。
【0021】
これに対し、上記のようにAl成分及びZrO成分を所定割合で配合し、コランダム鉱物とバデライト鉱物が複雑に絡んだ構造とすることで、高温で安定化されていない単斜晶相からなるZrOを含有していても、熱的に安定な耐火骨材とできる。具体的には、ZrO成分の転移する温度をまたいで熱サイクルを与えても粒子に亀裂が入ることを効果的に抑制し、耐火物原料としての使用を可能としたものである。
【0022】
なお、ZrO成分の含有量は、粒子が破砕しにくい充分な強度を有し、熱伝導率を低下させる観点から3質量%以上含有させることが好ましく、また、ジルコニアの転移温度をまたぐ、850℃〜1250℃の熱履歴を与えても粒子に亀裂が発生するのを効果的に抑制できる点から、31.5質量%以下であることが好ましい。ZrO成分の含有量が31質量%以下であるとさらに好ましい。
【0023】
この軽量耐火骨材は、その最大粒径が6.0mm以下のものであることが軽量耐火骨材として好ましく、3.0mm以下の粒子がこのアルミナ−ジルコニア質中空粒子中に90質量%以上含有するものであることがより好ましい。
【0024】
ただし、その最大粒径が6.0mmを超えると、断熱キャスタブルの熱伝導率が高くなるおそれがあるので、本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物において、軽量耐火骨材の最大粒径は6.0mm以下であることが好ましい。さらに、この軽量耐火骨材の粒径が3.0mm以下であると、これを含有する粉体組成物に水を添加して混練し、坏土とした際に適当な流動性が得られるためさらに好ましく、1.0mm以下であることが特に好ましい。
【0025】
本明細書において、粒径はJIS篩いの目開き直径でいうものとする。軽量耐火骨材の粒径は、100〜425μmであると、これを含有する粉体組成物に水を添加して混練し、坏土とした際に適当な流動性が得られるため好ましい。
【0026】
この軽量耐火骨材は、その嵩比重が0.5〜1.8であると、これを骨材として用いた施工体に断熱性を付与すると同時に耐火物の軽量化を図ることができる点で好ましい。この嵩比重は、1.5以下であるとさらに好ましく、1.2以下であると特に好ましい。一方、軽量耐火骨材の嵩比重が0.5未満であると、粒子の強度が低下するため好ましくなく、0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。
【0027】
軽量耐火骨材の熱伝導率は、耐火物の断熱性に影響を及ぼす耐火骨材として重要な特性であり、1000℃における熱伝導率が0.3〜0.6W/m・Kの範囲であることが好ましい。このような範囲とすることで、本発明の軽量耐火骨材を使用した耐火物を、従来よりも低熱伝導にし、断熱性を向上させたものとできる。
【0028】
この熱伝導率は、軽量耐火骨材の化学成分と、耐火物を構成した際の空隙比率および空隙の大きさの分布とにより決定され、本発明においては、Al成分に、そのAl成分よりも熱伝導率の低いZrO成分を混合させて中空粒子としているため、Al成分が主成分の中空粒子よりも熱伝導率を低下させることができ、耐火骨材としての断熱性を向上させたものである。
【0029】
本発明に用いる軽量耐火骨材は、耐火骨材として、それを適用した耐火物の耐火性を高めることができ、その溶解温度(融点)が1700℃以上であることが軽量、良好な断熱性、かつ良好な耐熱性をバランスさせる点で好ましい。溶解温度が1750℃以上であるとさらに好ましく、溶解温度が1800℃以上であると特に好ましい。なお、耐火物の耐熱性は、耐火度で表現することもあるが、上記溶解温度は、耐火度としては、39〜42に相当する。
【0030】
さらに、この軽量耐火骨材は、耐火物の品質を向上させるなどの観点から実用的な強度を有することが好ましい。本発明に用いる軽量耐火骨材は、Al成分及びZrO成分を併用したことにより、Al成分単独で構成された耐火骨材よりも強度が高い。そのため、この軽量耐火骨材で耐火物を構成した際に骨材が破損したりする等により、耐火物の形状や性能が変動することを抑制し、安定した耐火物とできる。
【0031】
上記に説明した本発明の軽量耐火骨材は、その原料としてAl及びZrO原料を所定の配合比率に混合し、Al成分及びZrO成分を、それぞれ得られるAl成分及びZrO成分の比で含有するようにして、軽量耐火骨材の出発原料とする。
【0032】
軽量耐火骨材の製造方法としては、焼結法又は電融−風砕法が一般的に用いられる。前者では有機物などの球状粒子を芯材としてその周囲に原料を絡め、焼成することにより、有機物などの芯材を揮発させ中空耐火物原料を製造する。また後者では国際公開第2009/072627号公報に記載されているように、所定の組成の原料をアーク式の電気炉などで溶解し、その溶解原料に高圧の空気などを吹き付けて中空粒子化する方法がある。本発明の軽量耐火骨材を得るには、いずれの方法も使用できるが、製造コストの面から電融法が有利である。
【0033】
また、焼結法では組成を自由に選ぶことが可能であるが、電融法では、Al成分及びZrO成分の合量を96質量%以上にすることが好ましく、98質量%以上とすることがより好ましい。前記合量が99.3質量%以上であると特に好ましい。電融法においては、不純物成分値が高くなると一般的に原料の溶融温度の低下を招き、結果として中空粒子が製造できないか、もしくは嵩比重が低下せず、軽量で低熱伝導を実現する中空の耐火骨材を得ることができない場合がある。
【0034】
また、その製造方法による製造過程で、不純物成分がなくなる場合には、原料としてそのような成分が含まれていても問題ない。例えば、国際公開第2009/072627号公報に記載されているように、使用済みの耐火物をリサイクルして、Al成分及びZrO成分の含有量を高純度化し、高酸化性の耐火物粒子を簡便かつ、生産性良く製造する電融法による耐火物粒子の製造方法を用いてもよい。
【0035】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物中における、アルミナ−ジルコニア質中空粒子の含有量は、内掛けで50〜97質量%であると、本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物の施工体の耐熱性および断熱性がバランスよく確保されるため好ましい。本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物において、アルミナ−ジルコニア質中空粒子の含有量が内掛けで53〜91質量%であるとより好ましく、アルミナ−ジルコニア質中空粒子の含有量が内掛けで55〜85質量%であると特に好ましい。
【0036】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物においては、アルミナ−ジルコニア質中空粒子以外の軽量骨材を含んでいてもよい。アルミナ中空粒、ジルコニア中空粒、CA質軽量骨材などが好ましいものとして挙げられる。
【0037】
次に、本発明に用いるアルミナセメントは、上記骨材のバインダーとして機能するものであり、主鉱物がアルミン酸カルシウムからなるものである。耐熱性の問題から、1995年のJIS規格(R−2511)によるところの1種または2種のアルミナセメントを用いることが好ましい。
【0038】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物中における、アルミナセメントの含有量は、内掛けで3〜50質量%であることが好ましく、内掛けで4〜47質量%であることがより好ましく、内掛けで5〜45質量%であることが特に好ましい。アルミナセメントの含有量が3質量%未満であると施工体としての強度が十分でない場合があり、50質量%を超えると熱伝導率、嵩比重が上昇する傾向があるためである。
【0039】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物に、シリカ超微粉及びアルミナ超微粉を配合することもできる。シリカ超微粉及びアルミナ超微粉は、共に、耐火性微粉として配合されるものであり、単独で又は併用して添加できる。シリカ超微粉及びアルミナ超微粉を併用すると耐火性を高めることができるため好ましい。ここでの耐火性微粉は、シリカ粒子及びアルミナ粒子のことをいい、アルミナセメント粒子及び後述する起泡剤は含まない。
【0040】
ここで用いるシリカ超微粉は、従来、不定形耐火物用粉体組成物に用いられているシリカ微粉であればよく、平均粒径が20μm以下のシリカ粉末であり、SiO含有量が90%以上であるシリカ微粒子が好ましいものとして挙げられる。このシリカ超微粉の平均粒径は10μm未満であることが好ましく、1μm未満であることがより好ましい。シリカ微粒子としては、シリカヒュームなどが具体的に好適なものとして挙げられる。
【0041】
シリカ超微粉の配合量は、内掛けで1〜13質量%であることが好ましく、内掛けで1.5〜10質量%であることがより好ましい。
【0042】
ここで用いるアルミナ超微粉は、従来、不定形耐火物用粉体組成物に使用されるアルミナ微粉であればよく、それ自体の凝集力が強く、耐火物用粉体組成物を耐火物とする際に硬化を促進する作用を有するものである。このアルミナ微粉は、平均粒径が20μm以下のアルミナ粉末であり、仮焼アルミナが好ましいものとして挙げられる。このとき、アルミナ微粉は、その凝集により耐火物の硬化を促進する観点から、平均粒径が、10μm未満のものを使用でき、5μm未満であることが好ましい。
【0043】
アルミナ超微粉の配合量は、内掛けで0.5〜6質量%であることが好ましく、内掛けで1〜6質量%であることがより好ましい。
【0044】
本発明では、上記したシリカ超微粉とアルミナ超微粉を併用することにより、より粉体組成物の硬化を促進でき、耐熱温度を向上させることができる。この場合の好ましい配合としては、アルミナ−ジルコニア質中空粒子を内掛けで75〜90質量%、アルミナセメントを内掛けで3〜12質量%、シリカ超微粉を内掛けで1〜13質量%、アルミナ超微粉を内掛けで0.5〜6質量%の範囲で含有する断熱キャスタブル用粉体組成物が挙げられる。
【0045】
なお、このとき、シリカ超微粉及びアルミナ超微粉の合量は、内掛けで3〜15質量%となるようにすることが好ましく、この範囲とすることで、断熱キャスタブルを坏土にしたときに施工時の流動性が十分に確保でき、しかも施工後の施工体強度も充分なものとなる。耐火性微粉の含有量が内掛けで3質量%未満であると、施工体の強度が不充分となるおそれがある。一方、耐火性微粉の含有量が内掛けで15質量%を超えると耐熱性が低下するおそれがある。耐火性微粉の含有量は内掛けで3.5〜10質量%であることがより好ましい。
【0046】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物は、上記必須成分の他に、断熱キャスタブルの特性を阻害しない添加剤、例えば、粘土、起泡剤、増粘剤等を含んでもよい。
ここで使用される粘土としては、1000℃以上で施工体を焼成したときの強度を増強する効果がある。具体例としては木節粘土、水簸粘土などが挙げられる。本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物において粘土の配合量は、外掛けで0.1〜3.0質量%であると1000℃以上の焼成後における強度増強効果が得られるため好ましい。粘土の含有量が外掛けで0.5〜2.5質量%であるとさらに好ましい。
【0047】
ここで使用される起泡剤としては、施工後の施工体中に気孔を形成できるものであれば公知の起泡剤を使用でき、特に制限されるものではない。具体的には、ノニオン系など有機系界面活性剤などが挙げられる。
【0048】
断熱キャスタブル用粉体組成物に起泡剤を配合して、施工後の施工体中に気孔を形成することにより、断熱キャスタブルの軽量化を図ることができ、さらに断熱性を向上させることができる。
【0049】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物において起泡剤の配合量は、外掛けで0.01〜0.1質量%であると適正な起泡が得られるため好ましい。起泡剤の含有量が外掛けで0.02〜0.5質量%であるとさらに好ましい。
【0050】
また、ここで使用される増粘剤としては、上記した起泡剤による発泡を補助し、気孔の形成を良好なものとする。この増粘剤としては、公知の増粘剤であれば特に制限されずに使用でき、例えば、メチルセルロース等が挙げられる。
【0051】
増粘剤を配合することにより、起泡剤により生じた泡の強度が高くなり安定し、また、細かい泡が増えるため、断熱キャスタブルの断熱性を向上させることができる。
【0052】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物において増粘剤の配合量は、外掛けで0.01〜0.5質量%であると適正な起泡が得られるため好ましい。増粘剤の含有量が外掛けで0.02〜0.3質量%であるとさらに好ましい。
【0053】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物は、所要の水分を添加後、ミキサーを用いて混練して坏土とし、それを所定の型枠の中に流し込んだ後、乾燥させて断熱キャスタブル(施工体)とする。
【0054】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物を使用した流し込み施工方法では、上記所要の水分量としては、本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物100質量部に対して、15〜35質量部を用いる。言い換えれば、外掛けで15〜35%の水分を添加するのが好ましい。水分量が外掛けで15%未満であると、坏土の発泡が不充分で目標の熱伝導率が得られないおそれがあり、一方、水分量が外掛けで35%を超えると骨材と添加水分との分離のおそれがある。なお、この水分量でいう外掛けは、上記粉体組成物の外掛けとは、上記説明の通りその基準が異なるものである。
【0055】
本施工方法の混練用ミキサーとしては、特段制限されるものではなく、汎用のミキサーが使用される。
【0056】
本発明の断熱キャスタブルは、上記の配合成分として公知の施工方法により施工することで得られ、その耐熱性は、従来の断熱キャスタブルでは達成し得なかった1500℃以上の耐熱性を有し、高温環境下での使用に耐えることができる。したがって、従来は適用できなかった箇所にも使用でき、1400℃以上の高温環境下、さらには1500℃以上の高温環境下で使用する様々な製品に対して容易に断熱性を付与できる。
【0057】
本発明の断熱キャスタブルは、その乾燥後の嵩比重が、0.6〜1.5であることが好ましく、さらに0.7〜1.4であることがより好ましい。従来の断熱キャスタブルと比較して、高耐熱性を有していながら、嵩比重が小さいため、施工後の断熱キャスタブルの軽量化、ひいては施工後の装置の軽量化を容易に図ることができる。したがって、本発明の断熱キャスタブルを施工した耐熱性装置等は、その取扱いも従来に比べ容易となる。
【0058】
また、断熱キャスタブルの熱伝導率は、測定温度1000℃において、0.6W/m・K以下であることが好ましく、さらに0.5W/m・K以下であることが好ましく0.4W/m・K以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例(例1〜例8)及び比較例(例9)について説明する。なお、本願発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0060】
[耐火軽量骨材の調製]
炉内径直径800mm、高さ600mm、炉内容積0.6mのアーク式溶融炉を試験炉として使用し、トランスとしては500kVAを使用した。なお、溶融炉の内張耐火物は、Al含有量97%以上の電鋳耐火物を使用した。
【0061】
Al原料としては99.3%以上の純度のバイヤーアルミナ、ZrO原料としては99.5%以上の純度の電融ジルコニアカレットを用い、これら原料を所定の組成に混合して、最終的にAl成分及びZrO成分が表1の割合(質量%)となるように溶融原料とした。
【0062】
これらの溶融原料を電気炉で溶融した。溶融条件は電圧100−300V、電力100〜400kWで、溶融用混合原料の全体投入時間は20〜30分であった。溶解に必要とした電力は1トン当たり約2000kWhであった。
【0063】
次に、圧力4MPaの圧縮空気に0.4L/秒の水を加え、圧縮空気を水と共に溶融物の下方から前方に向けて出湯された溶融物に吹付けて、溶融物を粒子化した。粒子は耐火物で保護された金属製の捕集容器にて回収し、耐火物粒子とした。このときの圧縮空気の流速は100m/秒であった。
【0064】
この溶融法により得られた粒子の粒度は95%以上が、0.1〜4mmの範囲であり、98%以上が0.05〜15mmの範囲であった。このとき粒度のピークは1.2mmであった。
【0065】
ここで得られたアルミナ・ジルコニア中空粒子1(表中、AZ粒子1と略記)の化学成分は、Al量;93.1質量%、ZrO量;6.4質量%、その他;0.5質量%であり、アルミナ・ジルコニア中空粒子2(表中、AZ粒子2と略記)の化学成分は、Al量;68.2質量%、ZrO量;31.4質量%、その他;0.4質量%である。
【0066】
なお、本実施例で用いる中空粒子の化学成分を蛍光X線回折装置(リガク社製)により分析した結果及びその他特性を調べた結果を表1に示す。また、アルミナ中空粒子としては、市販品(太平洋ランダム社製、商品名:BL、粒度0.1〜0.5mm)を用いた。また、シリカ超微粉としては、平均粒径0.8μm、化学成分:SiO97質量%、その他3質量%のシリカヒュームを使用した。アルミナ超微粉としては、平均粒径5μm、化学成分:Al99質量%、その他1質量%の仮焼アルミナを使用した。なお、シリカヒューム及び仮焼アルミナの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置による値である。
【0067】
【表1】

【0068】
〔嵩比重〕
嵩比重は、体積既知の容器に0.1〜1.0mmの中空粒子を軽く三回タップし充填し、擦りきり後の質量を測定して算出した。粒子の粒径を揃えた理由は、変動要素を軽減するためである。
【0069】
〔熱伝導率〕
中空粒子のサンプルについて常温(20℃)、500℃、1000℃の熱伝導率(W/(m・K))を測定した。熱伝導率の測定に用いた粒子は、0.1mm〜1.0mmの粒径を有するもので篩により分級したものを使用した。熱伝導率の測定には高温熱伝導率自動測定装置(スペインラボ社製、商品名:HWM−15)を用いた。
【0070】
〔熱サイクル試験〕
中空粒子の熱的安定性を確認するために、ジルコニアの転移温度である1100℃を前後する850℃〜1250℃を40回、100℃/hの昇降温速度で変動させ、粒子に発生する亀裂比率(個数基準)を顕微鏡で観察した。
亀裂が観察されない又は1%以下の粒子で亀裂が観察された場合:○、1%超10%以下の粒子で亀裂が観察された場合:△、10%超の粒子で亀裂が観察された場合:×として評価した。
【0071】
[断熱キャスタブル用粉体組成物及び断熱キャスタブルの製造]
表2及び表3の各調合組成になるように原料調整し、表2及び表3に記載された水分量を添加して、市販のミキサーで約3分混練して、坏土とし、それを型に流し込んでJIS R2553にしたがってサンプル(寸法:160mm×40mm×40mm)とした。得られた各サンプルについて、嵩比重はアルキメデス法により、圧縮強度はJIS R2553に、線変化率はJIS R2654に、熱伝導率はJIS R2616に、それぞれ準じて測定した。ここで、原料の内訳は各中空粒子、アルミナセメント、シリカヒューム、アルミナセメントが内掛の質量%であり、それ以外は外掛けの質量%である。
【0072】
得られた結果を表2及び表3に示す。なお、表中、嵩比重1は110℃で24時間乾燥後のサンプルについての嵩比重値を、嵩比重2は1500℃で3時間乾燥後のサンプルについての嵩比重値を、それぞれ示す。圧縮強さ1は110℃で24時間乾燥後のサンプルについての圧縮強さ値を、圧縮強さ2は1500℃で3時間乾燥後のサンプルについての圧縮強さ値を、それぞれ示す。同様に、線変化率は1500℃で3時間乾燥後のサンプルについての線変化率値を、それぞれ示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
以上の結果から、本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物による断熱キャスタブルを使用することによって、工業炉の中空粒子を用いた断熱キャスタブルとして、従来にない高い耐熱性を有し、さらに、断熱キャスタブル自体の軽量化と、熱伝導率を優れたものとすることができる。これにより、従来と同程度の断熱性を有する断熱キャスタブルを得るために少ない施工量で済ますことも可能となる。したがって、装置の軽量化を図ることができるなどの有用な効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の断熱キャスタブル用粉体組成物は、高い耐熱性を有し、熱伝導率が低いため断熱性が高く、かつ、中空粒子を骨材としているため軽量な断熱キャスタブルを得ることができ、高温環境下において用いる耐火物として広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ−ジルコニア質中空粒子からなる骨材と、アルミナセメント、を必須成分として含有する断熱キャスタブル用粉体組成物であって、
前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子が、Alを67〜99質量%、ZrOを1〜33質量%、かつ、AlとZrOの合量が96質量%以上であることを特徴とする断熱キャスタブル用粉体組成物。
【請求項2】
前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子を内掛けで50〜97質量%、前記アルミナセメントを内掛けで3〜50質量%、の範囲で含有する請求項1記載の断熱キャスタブル用粉体組成物。
【請求項3】
前記断熱キャスタブル用粉体組成物が、さらに、シリカ超微粉と、アルミナ超微粉と、を含有することを特徴とする請求項2記載の断熱キャスタブル用粉体組成物。
【請求項4】
前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子を内掛けで75〜90質量%、前記アルミナセメントを内掛けで3〜12質量%、前記シリカ超微粉を内掛けで1〜13質量%、前記アルミナ超微粉を内掛けで0.5〜6質量%、の範囲で含有する請求項3記載の断熱キャスタブル用粉体組成物。
【請求項5】
起泡剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の断熱キャスタブル用粉体組成物。
【請求項6】
増粘剤を含有する請求項5記載の断熱キャスタブル用粉体組成物。
【請求項7】
前記起泡剤を外掛けで0.01〜0.1質量%、増粘剤を外掛けで0.01〜0.5質量%の範囲で含有する請求項6記載の断熱キャスタブル粉体組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の断熱キャスタブル用粉体組成物に、水分を添加し混練して施工することで得られることを特徴とする断熱キャスタブル。