説明

旋回装置

【課題】第2軸受が配置されるグリス室内の圧力を、低く抑えることができる旋回装置の提供。
【解決手段】出力軸17の上側部分を支持しギヤオイルが供給される第1軸受20と、出力軸17の下側部分を支持しグリスが供給される第2軸受21と、軸受箱の外殻を形成するハウジング14と、第1軸受20と第2軸受21との間を密封するオイルシール22と、ハウジング14の下端部に形成される環状の切欠き部23と、ハウジング14の下端との間に第1隙間46を形成するプレート24と、このプレート24と切欠き部23とによって形成される環状凹部25に収容されるダストシール26とを備え、ハウジング14の第2軸受21が配置される空間部がグリス室30を形成する旋回装置において、ダストシール26の上面に対向するハウジング14の切欠き部23の上壁面に、グリス室30の圧力を逃がすことが可能な空気通路、例えば溝部45を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械などに備えられ、旋回体を旋回させる旋回モータ、この旋回モータに接続される遊星減速機構、及びこの遊星減速機構に一体に設けられ出力軸が収容される軸受箱を有する旋回装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、旋回装置が備えられる作業機械の一例として挙げた油圧ショベルを示す側面図である。この油圧ショベルは、走行体1と、この走行体1上に旋回輪2を介して配置される旋回体3と、この旋回体3に上下方向の回動可能に取り付けられるフロント作業機5とを備えている。フロント作業機5は、旋回体3に回動可能に取り付けられるブーム6と、このブーム6の先端に回動可能に取り付けられるアーム7と、このアーム7の先端に回動可能に取り付けられるバケット8とを含んでいる。走行体1と旋回体3とに介在されるようにして、旋回体3を旋回させる旋回装置4が設けられている。
【0003】
図4は従来の旋回装置を示す一部を断面した正面図、図5は図4の要部を拡大して示した縦断面図である。
【0004】
図4に示すように、従来の旋回装置4は、旋回モータ10と、この旋回モータ10の回転力を減速し増トルクする遊星減速機構11と、この遊星減速機構11の回転力が伝えられる出力軸17が収容される軸受箱12とを有している。旋回減速機11のキャリア13と、軸受箱12の外殻を形成するハウジング14とは、ボルト15によって固定されている。ハウジング14はボルト16によって旋回体3に固定されている。旋回装置4の出力軸17の歯部18は、走行体1に固定される旋回輪2の内輪2aに噛み合っている。旋回輪2の外輪2bは旋回体3に固定されている。走行体1には、出力軸17の歯部18と旋回輪2の内輪2aとの噛み合い部分を潤滑するグリスが収容されるグリスバス19が設けられている。
【0005】
軸受箱12のハウジング14内には、出力軸17の上側部分を支持しギヤオイルが供給される第1軸受20と、出力軸17の下側部分を支持しグリスが供給される第2軸受21とが設けられている。これらの第1軸受20、及び第2軸受21は、ナット27による押付け力によって固定される円錐ころ軸受から成っている。また、ハウジング14に装着され、第1軸受20と第2軸受21との間を密封するオイルシール22が設けられている。
【0006】
また図5にも示すように、ハウジング14の下端部に形成され、側方が開放される環状の切欠き部23と、プレート24とによって形成される環状凹部25に収容され、ハウジング14の内部への異物や塵埃等の侵入を防ぐダストシール26とが設けられている。このダストシール26は例えばウレタンゴムから成っている。
【0007】
ハウジング14の第2軸受21が配置される空間部は、オイルシール22に連通し、第2軸受21を潤滑するグリスが収容されるグリス室30を形成している。出力軸17には、この出力軸17の軸心に沿って延設され第2軸受21を潤滑するグリスを導く第1供給管路31と、出力軸17の径方向に延設され、一端が第1供給管路31に連通し、他端がグリス室30に連通する第2供給管路32とを形成してある。第1供給管路31の下端部にはグリスニップル33が取り付けられている。
【0008】
この種の公知技術として特許文献1に示されるものがある。この特許文献1には、ダストシールが収容される環状凹部の側方は開放されていないが、ハウジング内に配置され、出力軸の上側部分を支持する第1軸受、及び出力軸の下側部分を支持する第2軸受と、これらの第1軸受と第2軸受との間を密封するオイルシールと、上述のダストシールの下端部を保持するプレート等が開示されている。
【特許文献1】独国特許出願公開第196 03 007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6は、従来の旋回装置の問題点を説明する要部縦断面図である。この図6に示すようにグリス室30にはグリスの供給に伴って内圧が発生する。また、グリスの供給量に対してグリス室30内の空気の割合が少ないほど、旋回装置4の稼動時における昇温によりグリス室30内に高い内圧が発生する。したがって、従来技術にあっては、このようなグリス室30に発生する高い圧力によって、ハウジング14の下端とプレート24との隙間を介して同図6の矢印40に示す方向にオイルシール22に高い圧力による力が作用してオイルシール22が破損したり、このオイルシール22の破損によってオイルシール22を潤滑するギヤオイルの第2軸受21側への浸入を生じる懸念がある。また、グリス室30内のグリスが遊星減速機構11の内部へ浸入する虞がある。さらに、ダストシール26が同図6の矢印41方向に動いて環状凹部25から大きくはみ出したり、旋回装置4の外部へのグリスの漏洩を生じる懸念がある。
【0010】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、第2軸受が配置されるグリス室内の圧力を、低く抑えることができる旋回装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明に係る旋回装置は、旋回体を旋回させる旋回モータを有し、この旋回モータの回転力を減速し増トルクする遊星減速機構と、この遊星減速機構の回転力を出力する出力軸が収容される軸受箱とを有する旋回装置であって、上記軸受箱に収容され、上記出力軸の上側部分を支持しギヤオイルが供給される第1軸受、及び上記出力軸の下側部分を支持しグリスが供給される第2軸受と、上記第1軸受及び上記第2軸受が保持され、上記軸受箱の外殻を形成するハウジングと、このハウジングに装着され、上記第1軸受と上記第2軸受との間を密封するオイルシールと、上記ハウジングの下端部に形成され、側方が開放される環状の切欠き部と、上記ハウジングの下方に配置され、このハウジングの下端との間に隙間を形成するプレートと、このプレートと上記切欠き部とによって形成される環状凹部に収容されるダストシールとを備え、上記ハウジングの上記第2軸受が配置される空間部が、上記オイルシールに連通し、上記第2軸受を潤滑する上記グリスが収容されるグリス室を形成する旋回装置において、上記ダストシール、及び上記ハウジングの上記切欠き部の少なくとも一方に、上記グリス室の圧力を逃がすことが可能な空気通路を形成したことを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明は、グリス室の内圧が高くなったときには、その高圧によって、ダストシールの内面と、この内面に対向する環状凹部の側壁面との間にダストシールの弾性変形による隙間が形成される。この隙間には、ハウジングの下端とプレートとの間に形成される隙間を介してグリス室内の高圧の空気が導かれる。このとき、ダストシールの内面と環状凹部の側壁面との間に形成される隙間が、ダストシール、及びハウジングの切欠き部の少なくとも一方に形成される空気通路に連通する状態となる。したがって、ダストシールの内面と環状凹部の側壁面との間に形成される隙間に導かれた高圧の空気は、上述の空気通路に導かれ、ハウジングの外部に放出される。これにより、グリス室30の圧力が低下する。すなわち、グリス室30の圧力を低く抑えることができる。
【0013】
また、本発明に係る旋回装置は、上記発明において、上記空気通路が、上記ダストシールの径方向に沿って延設される溝部から成ることを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る旋回装置は、上記発明において、上記グリス室に連通するように上記出力軸に形成され、上記グリス室に上記グリスを供給する供給管路を設けたことを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る旋回装置は、上記発明において、走行体と、この走行体上に配置される旋回体とを有する作業機械に備えられるものから成り、上記走行体と上記旋回体との間に介在されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ダストシール、及びハウジングの切欠き部の少なくとも一方に、グリス室の圧力を逃がすことが可能な空気通路を形成したことから、この空気通路を介して第2軸受が配置されるグリス室内の圧力を外部に放出させ、グリス室内の圧力を低く抑えることができる。これによって、第1軸受と第2軸受との間を密封するオイルシールの破損を防止できる。また、このようなオイルシールの破損による第1軸受を潤滑するギヤオイルの第2軸受側への浸入を防ぐことができる。また、ダストシールの環状凹部からの大きなはみ出しを防ぐことができる。また、このようなダストシールの大きなはみ出しに伴う旋回装置の外部へのグリス室のグリスの漏洩を防ぐことができる。これらにより従来に比べて、破損しにくい安定したシール構造を実現させることができ、信頼性の高い旋回装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る旋回装置を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る旋回装置の一実施形態の要部構成を示す縦断面図である。
【0019】
本実施形態に係る旋回装置4も、例えば上述した図3に示す走行体1と旋回体3とを有する油圧ショベルに備えられ、走行体1と旋回体3との間に介在されて、旋回体3を旋回させるものである。
【0020】
本実施形態に係る旋回装置の基本構成は、上述した図4に示す旋回装置と同じである。説明が重複するが、本実施形態に係る旋回装置4も、同図4に示す旋回モータ10と、この旋回モータ10の回転力を減速し増トルクする遊星減速機構11と、この遊星減速機構11の回転力が伝えられる出力軸17が収容される軸受箱12とを備えている。
【0021】
軸受箱12内には、出力軸17の上側部分を支持しギヤオイルが供給される第1軸受20と、出力軸17の下側部分を支持しグリスが供給される第2軸受21とが収容されている。軸受箱12の外殻を形成し、第1軸受20と第2軸受21とが保持されるハウジング14には、第1軸受20と第2軸受21との間を密封するオイルシール22が装着されている。
【0022】
ハウジング14の下端部に形成され側方が開放される環状の切欠き部23と、ハウジング14の下方に後述の第1隙間46をもって配置されるプレート24とによって形成される環状凹部25には、ダストシール26が収容されている。また、ハウジング14の第2軸受21が配置される空間部は、オイルシール22に連通し、第2軸受21を潤滑するグリスが収容されるグリス室30を形成している。さらに、グリス室30に連通するように出力軸17に形成され、グリス室30にグリスを供給する第1供給管路31と第2供給管路32とを設けてある。これらの基本構成については、前述した図4〜6に示した従来技術と同等である。
【0023】
本実施形態は、ダストシール26、及びハウジング14の切欠き部23の少なくとも一方に、例えば図1に示すように、切欠き部23の上壁面に、グリス室30の圧力を逃がすことが可能な空気通路を形成してある。この空気通路は、例えばダストシール26の径方向に沿って延設される溝部45から成っている。この溝部45は1つ設けてもよく、また複数設けてもよい。
【0024】
上述のように構成した本実施形態に係る旋回装置4にあっては、図3に示す旋回モータ10を駆動すると、その回転力が遊星減速機構11を介して出力軸17の回転として伝えられる。出力軸17の回転は、出力軸17の歯部18と、旋回輪2の内輪2aとの噛み合いを介して、旋回体3を旋回させる力として伝えられる。このような旋回体3の旋回によって、また、図1に示すフロント作業機5の駆動によって、土砂の掘削、掘削した土砂の放土などの各種の作業が実施される。
【0025】
図2は本実施形態の動作を示す縦断面図である。
【0026】
上述のように構成した本実施形態は、図2に示すように、グリス室30の内圧が高くなったときには、ハウジング14の下端とプレート24との間に形成される第1隙間46にその内圧が導かれ、さらにその圧力によってダストシール26の内面とこの内面に対向する環状凹部25の側壁面との間に、ダストシール26の弾性変形による第2隙間47が形成される。したがって、これらの第1隙間46と第2隙間47にグリス室30の高圧の空気が導かれる。このとき、第2隙間47がハウジング14の切欠き部23の上壁面に形成された溝部45に連通した状態となる。したがって、第2隙間47に導かれた高圧の空気は、溝部45に導かれ、ハウジング14の外部に放出される。これにより、第2軸受21が配置されるグリス室30内の圧力が低く抑えられる。
【0027】
高圧の空気が切欠き部23の溝部45に逃がされると、ダストシール26の弾性変形、及びプレート24の弾性変形は解除されて、ダストシール26の内面は、このダストシール26の保有する弾性力によってこの内面に対向するハウジング14の切欠き部23の側壁面に再び密接する。
【0028】
本実施形態によれば、上述のように切欠き部23の溝部45を介してグリス室30内の圧力を逃がし、このグリス室30内の圧力を低く抑えることができるので、第1軸受20と第2軸受21との間を密封するオイルシール22にグリス室30の高い圧力が作用することがない。これによって、オイルシール22の破損を防ぐことができる。また、オイルシール23の破損を防げるので、オイルシール22を潤滑するギヤオイルの第2軸受21側への浸入を防ぐことができる。また、グリス室30内のグリスの遊星減速機構11内部への浸入を防ぐことができる。
【0029】
また、グリス室30内の高圧の空気によって、図2に示すようにダストシール26は、ハウジング14の切欠き部23の側壁面から離れる方向に移動するが、このときのダストシール23のはみ出し量は、第2隙間47の開口面積に相応する小さな量に抑えられる。したがって、ダストシール26の環状凹部25からの大きなはみ出しを防ぐことができる。また、第1隙間46及び第2隙間47の開口面積は比較的小さく、また、ハウジング14の切欠き部23の上壁面に形成される溝部45の開口面積を予め小さく設定することができるので、溝部45とグリス室30とが、第1隙間46及び第2隙間47を介して連通した際の、旋回装置4の外部へのグリス室30内のグリスの漏洩を防ぐことができる。
【0030】
これらにより本実施形態は、破損しにくい安定したシール構造を実現させることができ、信頼性の高い旋回装置4を得ることができる。
【0031】
なお、上記実施形態は、空気通路を形成する溝部45をハウジング14の切欠き部23に設けたが、本発明は、このように構成することには限られない。環状凹部25に形成される第2隙間47に連通可能な空気通路を、ダストシール26に設けてもよい。また、ハウジング14の切欠き部23とダストシール26の双方に設けた構成にしてもよい。これらのように構成したものも、グリス室30内の圧力が高くなったときには、その高い圧力の空気をハウジング14の外部へ逃がして、グリス室30内の圧力を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る旋回装置の一実施形態の要部構成を示す縦断面図である。
【図2】本実施形態の動作を示す縦断面図である。
【図3】旋回装置が備えられる作業機械の一例として挙げた油圧ショベルを示す側面図である。
【図4】従来の旋回装置を示す一部を断面した正面図である。
【図5】図4の要部を拡大して示した縦断面図である。
【図6】従来の旋回装置の問題点を説明する要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 走行体
2 旋回輪
3 旋回体
4 旋回装置
10 旋回モータ
11 遊星減速機構
12 軸受箱
14 ハウジング
17 出力軸
20 第1軸受
21 第2軸受
22 オイルシール
23 切欠き部
24 プレート
25 環状凹部
26 ダストシール
30 グリス室
45 溝部(空気通路)
46 第1隙間
47 第2隙間(隙間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回体を旋回させる旋回モータを有し、この旋回モータの回転力を減速し増トルクする遊星減速機構と、この遊星減速機構の回転力を出力する出力軸が収容される軸受箱とを有する旋回装置であって、
上記軸受箱に収容され、上記出力軸の上側部分を支持しギヤオイルが供給される第1軸受、及び上記出力軸の下側部分を支持しグリスが供給される第2軸受と、上記第1軸受及び上記第2軸受が保持され、上記軸受箱の外殻を形成するハウジングと、このハウジングに装着され、上記第1軸受と上記第2軸受との間を密封するオイルシールと、上記ハウジングの下端部に形成され、側方が開放される環状の切欠き部と、上記ハウジングの下方に配置され、このハウジングの下端との間に隙間を形成するプレートと、このプレートと上記切欠き部とによって形成される環状凹部に収容されるダストシールとを備え、
上記ハウジングの上記第2軸受が配置される空間部が、上記オイルシールに連通し、上記第2軸受を潤滑する上記グリスが収容されるグリス室を形成する旋回装置において、
上記ダストシール、及び上記ハウジングの上記切欠き部の少なくとも一方に、上記グリス室の圧力を逃がすことが可能な空気通路を形成したことを特徴とする旋回装置。
【請求項2】
請求項1に記載の旋回装置において、
上記空気通路が、上記ダストシールの径方向に沿って延設される溝部から成ることを特徴とする旋回装置。
【請求項3】
請求項1に記載の旋回装置において、
上記グリス室に連通するように上記出力軸に形成され、上記グリス室に上記グリスを供給する供給管路を設けたことを特徴とする旋回装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の旋回装置において、
走行体と、この走行体上に配置される旋回体とを有する作業機械に備えられるものから成り、上記走行体と上記旋回体との間に介在されることを特徴とする旋回装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−144870(P2010−144870A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324071(P2008−324071)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】