説明

日射遮蔽制御装置

【課題】遮蔽手段の開閉度が全閉と全開との間を変化するハンチング動作を避け、視環境に悪影響を及ぼすことがない日射遮蔽制御装置を提供することににある。提供することにある。
【解決手段】ブラインドIcont11は日射状態を取得する日射状態取得部12と、ブラインド1の開閉度が全開若しくは全閉以外で空調エネルギと照明エネルギの総和である総エネルギ消費量が最小となる日射量のときにのみ最適開閉度となるようにブラインド1の最適開閉度を決定する最適開閉度取得部14と、この最適開閉度取得部14で決定された最適開閉度に基づいてブラインド1の開閉度を調節する制御部15とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内への日射量を遮蔽手段で制御する日射遮蔽制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化による省エネルギの社会的要求が増えてきている。特に、昼光(日光)の導入を利用した省エネルギ制御は、自然エネルギ利用として期待は高く、また昼光を採光部である窓から室内へ導入する場合、窓本来の機能である利用者の外部環境とのつながりを促すことから執務者の開放感や快適性の面からも有効と考えられる。このような背景により、近年の制御技術の発展に伴い、外環境の状態に合わした日射遮蔽を遮蔽手段の開閉により自動的に行う日射遮蔽制御装置が普及しつつある。ただこれらの日射遮蔽制御装置は、照明エネルギ削減を目的としており、昼光利用による空調エネルギの増減は考慮されていなかった。
【0003】
このような問題に対して、リアルタイムで外気温度と日射量を読み込み.シミュレーションによって照明・空調エネルギを予測し、最適なブラインドの遮蔽状態を決定する建物省エネルギ制御装置が提供されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−127897号公報(公報(1)頁左欄の(構成))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示されているようにシミュレーションによって照明・空調エネルギを予測する方法を用いても、実際の解空間において必ずしも唯一の最適解が存在するわけでないため、複数の局所解が存在する場合が多い。特に日射量が小さい時間帯や曇天では、図14(a)に示すようにブラインドの開度に対して空調エネルギ(I)、照明エネルギ(II)は共に影響がなく、省エネルギに対する期待が小さいにも拘わらず、外気からの貫流成分と日射成分のバランス関係が不安定になり、最適解が不連続な状態で存在する場合が多くなる。このためブラインドの開閉の制御が不安定になり、視環境に悪影響を及ぼす場合が考えられる。また直射光が存在しない、又は殆ど存在しない時間帯においては、図14(b)に示すように昼光導入に伴う空調エネルギ(I)に比べ照明エネルギ(II)による影響は大きいため、最適解は明らかである(ずっと遮蔽手段を開にしておく方が良い)。しかし日射量の急激な変化のため解が不安定になる恐れがあり、シミュレーションによる最適化はリスクが内在するという問題がある。更に直射光が存在する時間帯では、図14(c)に示すように空調エネルギ(I)が増加し、空調エネルギ(I)と照明エネルギ(II)とが均衡し、ブラインドの状態が開、閉以外に最適解を持つ場合が存在するようになる。この領域では空調エネルギ(I)と照明エネルギ(II)とのバランスを考慮した制御が有効になると考えられる。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みて為されたもので、その目的とするところは、遮蔽手段の開閉度が全閉と全開との間を変化するハンチング動作を避け、視環境に悪影響を及ぼすことがない日射遮蔽制御装置を提供することににある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、請求項1の発明では、空調機と照明装置とが備えられた対象エリアに設けられ、該対象エリアへの日光の入射を遮蔽手段の開閉度で制御する日射遮蔽制御装置において、日射状態を取得する日射状態取得部と、前記日射状態に対して前記空調機の消費する空調エネルギと前記照明装置の消費する照明エネルギとの和である総エネルギ消費量が最小となる前記遮蔽手段の開閉度を調節する制御部とを備え、該制御部は前記開閉度が全開若しくは全閉以外で前記総エネルギ消費量が最小となる前記日射状態のときにのみ前記最適開閉度となるように前記遮蔽手段の開閉度を調節することを特徴とする日射遮蔽制御装置。
【0007】
請求項1の発明によれば、日射量が少ない場合に生じる遮蔽手段の開閉度と総エネルギ消費量との関係が上に突出する関係になる不安定領域を使用しないことで、遮蔽手段の開閉度が全閉と全開との間を変化するハンチング動作を避け、視環境に悪影響を及ぼすことがない。
【0008】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記最適開閉度を取得する手段として、エネルギシミュレーション結果より予め得られた日射状態と最適開閉度との関係の内前記開閉度が全開若しくは全閉以外で前記総エネルギ消費量が最小となる前記日射状態の最小値以上の領域のデータテーブルを用いて最適開閉度を取得する手段を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明によれば、予め開閉度と総エネルギ消費量との関係が不安定領域を除いいて最適開閉度を取得するので、迅速にハンチング動作を避けた制御を行うことができる。
【0010】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、前記最適開閉度を取得する手段は、前記日射状態の最小値よりも小さい日射情報については、前記日射状態の最小値よりも大きい領域での前記開閉度と前記総エネルギ消費量との関係を統計的処理した結果に基づいて外挿した値を用いることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明によれば、不安定領域と安定領域との境を滑らかに接続するので.不安定領域についても自然な開閉度制御を行うことができる。
【0012】
請求項4の発明では、請求項1の発明において、前記最適開閉度を取得する手段としては、エネルギシミュレーション結果により予め取得した日射状態と最適開閉度との関係の内前記開閉度が全開若しくは全閉以外で前記総エネルギ消費量が最小となる前記日射状態のときに、グレアが生じない最大の開閉度とする手段を用いることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明によれば、不安定領域となる照度が低い状態において、採光するように制御することができるので、外を見たいという室内の人の要望を満たすことができる。
【0014】
請求項5の発明では、請求項1乃至4の何れかの発明において、前記最適開閉を取得する手段は、前記日射状態の変化が所定の最大変化量よりも大きい場合に 前記日射状態を当該日射状態に前記最大変化量を加えた値に制限して前記最適開閉度を取得することを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明によれば、太陽が雲に隠れてしまうような日射状態の大きな変化が生じた場合に緩やかに遮蔽手段の開閉度を制御して視環境の急激な変化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、日射量が少ない場合に生じる開閉度と総エネルギ消費量との関係が上に突出する関係になる不安定領域を使用しないで、開閉度が全閉と全開との間を変化するハンチング動作を避け、視環境に悪影響を及ぼすことがない日射遮蔽制御装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施形態により説明する。
(実施形態1)
図2は本発明の日射量遮蔽装置を備えたビルの一部を示しており、建物の壁には採光部として窓部Wが開口し、この窓部Wにはベネチャンブラインド(以下ブラインドという)1からなる遮蔽手段が装着され、更に屋内である対象エリアXの天井CEには照明システムの照明装置2及び対象エリアXに配置される机Dの上面(机上面)の照度を検出する照度センサ3と、空調システムの吹き出し口4と、対象エリアXの空調環境(温度・湿度)を検出するための温度・湿度セン5とが設けられている。また日射状態を取得するために屋上等の屋外の適所に設けられ、各方位の鉛直面照度を計測する照度計(又は日射量を計測する日射量計)6とを設けている。尚遮蔽手段としては、例えばガラス板間に介在させた液晶シートの通電を制御して光透過率を可変して遮蔽を行うスマートウィンドウやロールスクリーン等を用いても良い。
【0018】
空調システムは機械室等に設けられた空調機8と、天井CEの裏などに設けられた変風量ユニット9と、これら空調機8,変風量ユニット9を温度・湿度センサ6が検知する温度や湿度に基づいて制御する空調Icont(Intelligent Controller)7とで構成される。照明システムは、照度センサ3の検知照度に基づいて調光機能付きの照明装置2の光出力を制御する照明Icont10とで構成される。
【0019】
本実施形態の日射量遮蔽装置は、ブラインド1と、照度計(又は日射量計)6と、ブラインドIcont11とで構成されている。
【0020】
そして各Icont7,10,11及び照度計(日射量計)6からの情報収集を行う計測Icont16は建物全体の環境を統合して連携制御する上位システムを構築するフロア統合コントローラ17とに接続されており、この接続には例えばビルオートメーション専用伝送線を用い、所定規格の信号により情報を授受できるようなっている。
【0021】
さて本実施形態の日射遮蔽制御装置の中枢となるブラインドIcont11は、図1に示すように日射状態取得部12と、動作モード取得部13と、最適開閉度取得部14と、制御部15とで構成されており、その内の日射状態取得部12は、システムタイマ(図示せず)により現在の時刻を取得し、対象建物の立地条件(設置場所の緯度、経度)とに基づいて現在の太陽位置を算出する太陽位置取得手段としての機能と、照度計7aから各方位の鉛直面照度を例えば1分間隔で取得する機能と、太陽位置状態と照度計7aが測定する照度による日射状態から直射光の有無を判定する直射光判断手段としての機能と、太陽高度と鉛直面照度より天候を判定する天候判断手段としての機能とを備えている。尚照度計7の代わりに日射量計を設け、計測する日射量から照度へ変換するようにしても良い。また照度情報を計測Icont16,フロア統合コントローラ17を通じて取得するようにしても良い。
【0022】
動作モード取得部13は、空調機8の動作モード(冷房/暖房)を空調Icont7,フロア統合コントローラ17を介して取得するものである。
【0023】
最適開閉度取得部13は、ブラインド1の開閉度と、取得した照度及び太陽位置からなる日射状態に基づいて空調機8が消費する空調エネルギと照明装置2が消費する照明エネルギ量をエネルギシミュレーションによりリアルタイムで算出する。但し、ブラインド1の開閉度はブラインド1が動作する範囲の内、動作可能な開閉度であり、例えば、ブラインド1がスラット角0°〜90°の内、1°刻みに動作可能なブラインドからなる場合では、0°,1°,2°,3°,…,90°となる。
【0024】
そして最適開閉度取得部13は、シミュレーションにより算出された空調エネルギと照明エネルギとの和である総エネルギ消費量が最小となるブラインド1の開閉度を決定する。
【0025】
制御部15は最適開閉度取得部13で得られたブラインド1の開閉度が、全開及び全閉以外の場合は無条件で最適解として扱い、ブラインド1の開閉度で制御する。また最適開閉度取得部13で得られたブラインド1の開閉度が、全開又は全閉の場合には、眩しさが予め決めてある基準値以下になる範囲及び直射光が対象エリアX内に入射しない範囲でブラインド1の開閉度を開く方に保つようにブラインド1の開閉度を制御する。これは最適な開閉度が全開又は全閉に存在する日射量が低い時間帯では、省エネルギの期待が小さいことから窓部Wからの眺望を優先するためである。尚制御部15はブラインド1の開閉度を制御するに際しては、最適開閉度取得部13で得られた最適なブラインド1の開閉度と、過去のブラインド1の開閉度とを比較して、設定値以上にブラインド1が変化しないように制限を加えながら、最適なブラインド開閉度を決定する処理を行う。つまり日射量の変化が所定の最大変化量よりも大きい場合に 日射量を当該日射量に前記最大変化量を加えた値に制限して最適開閉度を取得するのである。
【0026】
次に本実施形態の動作を図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0027】
まず日射遮蔽制御装置をスタートさせると、ブラインドIcont11の日射状態取得部12は、システムタイマから10乃至30(分)の間隔で現在時刻を取得し(ステップS1)、この現在時刻と予め登録されている或いはGPSなどから取得した当該装置の設置場所の地球上の位置情報とに基づいて現在の太陽Tの位置を算出するとともに対象エリアXが面する窓部Wの位置関係を算出する(ステップS2)。このステップS2ではまず太陽位置の算出は建物の緯度及び経度と、現在時刻とに基づいて太陽高度、太陽方位角を適宜な周知の算出方法により算出する。次に窓部W面への入射角、見かけ高度(太陽高度を窓面に対して垂直方向に補正した高度)を窓部Wの位置関係として算出する。ここで窓面の入射角は、図4(a)に示すように現在の太陽高度をh[°]、方位角をA[°]、窓面の向きA0とすると、窓面への入射角i’は
i’=cos−1[cos(h)×cos(A−A0)]
となる。
【0028】
また見かけ高度h’は
h’=arc tan[tan(h)/cos(A−A0)]
となる。尚図4(a)中E,W,S,Nは東西南北の方位を示し,Zは鉛直方向を示す。
【0029】
日射状態取得部12は、算出した窓面への入射角i’より窓面に対する直射光の有無の判定を行う。この場合図4(b)に示すように太陽Tの位置と窓部W側の庇の長さL等から直射光が対象エリアXに入射する範囲βや入射しない範囲γを判断し、同時にエリアA内の机Dの位置や方向などから例えば机Dで執務する人Mの視界に直射光が入射するか否かを判定する処理を行う。
【0030】
さて上述のように日射状態取得部12で、時刻の取得と、太陽位置の算出と、直射光入射判定、更に天候判定が終了すると、次のステップS3では動作モード取得部13により空調機8の動作モード、つまり暖房運転中か冷房運転中かの状態取得を行う。
【0031】
そしてステップS4において最適開閉度取得部15は後述するエネルギシミュレーションによる省エネルギとなるブラインド1の開閉度の決定と、環境シミュレーションによるグレアを抑制する開閉度の決定を行う。
【0032】
これらシミュレーションは周知の方法(例えば宿谷 昌則 著 数値計算で学ぶ光と熱の建築環境学 「窓と自然室内照度」 丸善株式会社 出版 参照)を用いれば良い。図5はその一例を示しており、この方法では建物の窓部W、空調環境、照明(照明器具の配置情報を含む)、対象エリア(部屋)Xの各特性を格納したデータベースDBを備え、このデータベースDBの情報に基づいて建物モデルの構築において空調.照明エネルギ予測の準備を行い、上述の日射状態取得部12から現在時刻と鉛直面照度とを取り込むとともに、動作モード取得部13から空調機8の動作モードを取り込み(ステップS11)、ステップS12〜S17のループにおいて、省エネルギ最適状態候補を、例えばスラット角90°〜0°の範囲で1°ずつ変化させてシミュレーションを行うことで求める。
【0033】
このループ内ではステップS13において照明エネルギの予測、つまり外光による机上面照度の予測と照明装置2で消費する照明エネルギの予測とを行う。一方ステップS14により空調エネルギの予測、つまり外光による日射熱の予測と、照明装置2の発熱を含めた空調エネルギの予測を行う。この場合ステップS13での照明エネルギの予測情報を照明装置2の発熱の予測に用いる。また照明エネルギの予測後、ステップS15ではグレア状態の予測を環境シミュレーションにより行う。
【0034】
ここで環境シミュレーションによるグレア感の予測は、ブラインド1の開閉度にグレア感を考慮するために行うためであり、照明エネルギ算出のために、一時的な変数として求められる窓面・ブラインド面・壁面で反射する輝度を用いて予測式PGSV(Predicted Glare Sensation Vote)からグレア感を予測する。このPGSVは、昼光利用時における眩しさ感を用いて予測する式として提案(戸倉、岩田他:「窓からの昼光によるグレア感の評価方法に関する実験的研究 その1 光環境実験室を用いた実験」、日本建築学会大会学術講演梗概 ,1992.8参照)されており、窓面に対する光源と背景の輝度対比と、居住者のグレア感(眩しさ感)を関連付けた式<数1参照>で表現される。
【0035】
【数1】

【0036】
Lb:背景輝度[cd/m
Lseq:相当均一輝度(光源輝度)[cd/m
ω: 光源の立体角[sr]
但しPGSVとは元来、窓の最適設計のために提案された指標であり、ブラインドの開閉度の制御に利用される例はない。
【0037】
而してステップS15において予測されたPGSVと設定PGSV値との比較を行い、設定PSVG値より小さくなるようにブラインド1の開閉度を決定する。表1はPGSVの尺度例を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
尚本実施形態では、光源輝度としては、窓部Wを通過する天空輝度と、ブラインド1のスラット面を反射して生じる輝度の平均値を用い、背景輝度として周辺の壁面や天井面の輝度を用いる。
【0040】
さてステップS15,S14における予測が終了すると、ステップS16において空調エネルギと照明エネルギとのエネルギ総和の算出を行うのである。図6は空調エネルギ(I)と照明エネルギ(II)とブラインド1の開閉度の関係を示す。
【0041】
すべてのスラット角についての省エネルギの最適状態候補についての予測とエネルギ総和の算出が終了して、ループを抜けると、ステップS18において省エネルギになるブラインド1の開閉度の算出、つまり外界(屋外状態)とそれに対応するブラインド1の開閉度の算出を行い、次のステップS19でグレア感が基準以下となる開閉度の算出、つまり外界状態とそれに対応するブラインド1の開閉度を算出し、シミュレーションを終了するとともに、算出した開閉度を制御部15に受け渡す。制御部15は図3のステップS4において、ブラインド1の最適な開閉度のハンチング処理を行う。つまり制御部15は受け渡された開閉度と、過去のブラインド開閉度とを比較して、予め設定している所定の設定値以上にブラインド1の開閉度が変化しないように制限を加えながら最適なブラインド1の開閉度を決定し、ブラインド1のスラット1aの角度制御を行うのである。
【0042】
この制御部15での最適開閉度を決定動作を図7のフローチャートにより説明する。
【0043】
まずステップS21においてブラインド最適開閉度が全開若しくは全閉にあるのかを判定し、全開及び全閉以外の場合には、日射状態取得部12の直射光入射判定、つまり直射光がブラインド1のスラット1a間を透過して対象エリアX内に入り込むのか否かの判定結果をステップS22でチェックし、直射光が入射しなければその開閉度を最適解と採用する(ステップS23)。直射光が入射する場合には、直射光が入射しない開閉度を採用する(ステップS24)。一方ブラインド最適開閉度が全開若しくは全閉の場合には、グレア感が基準以下となる開閉度を取得し(ステップS25)、この取得した開閉度に対する日射状態取得部12の直射光入射判定が、直射光が入射しない場合にはこの取得した開閉度を採用し(ステップS26)、直射光が入射する場合には直射光が入射しない開閉度を採用する(ステップS24)。全開又は全閉の場合は日射量が低い時間帯や曇天の場合であり、省エネルギの期待が小さく、窓越の眺望を優先することが期待されるため、グレア感が基準値以下になる範囲及び直射光が入射範囲でブラインド1の開閉度を開く方に保つことを採用するのである。
【0044】
さて上述のようにして採用した開閉度と過去の開閉度と比較してブラインド1の開閉度が所定の設定値以上に変化しないように制限を加え(ステップS28)、最適開閉度を決定し(ステップS29)、この最適開閉度によりブラインド1のスラット1aの角度制御を行うのである。
【0045】
尚図8(a)は冷房モードで日射量が多い状態(晴れの状態)におけるブラインド1が全開、全閉でない場合(○位置)の空調エネルギ(I)、照明エネルギ(II)、総和エネルギ<総エネルギ消費量>(III)との関係を示し、晴れの場合にはブラインド1を全閉から全開へ開閉度を変えると、照明エネルギ(II)が段々と小さくなり、逆に空調エネルギ(I)が大きくなる。また同図(b)冷房モードで、日射量が少ない時間帯でのブラインド1の全開の場合(○位置)の空調エネルギ(I)、照明エネルギ(II)、総和エネルギ(III)を示し、この場合ブラインド1の開閉度が変わってもエネルギの変化は殆どない。同図(c)は冷房モードで日射量が多少ある場合のブラインド1の全開の場合(○)を示している。
(実施形態2)
実施形態1では最適開閉度取得部14によりリアルタイムにシミュレーションを行ってその結果から評価指標を取得していたが、本実施形態では、気象庁のアメダス<Automated Meteorological Data Acquisition System>より配布されている設置場所に対応する地域の気象データ(時刻と日射量(照度)を関係付けたデータ)の数日分を用いて、図9に示すように事前にコンピュータ等からなるエネルギシミュレーション装置18を使用してエネルギシミュレーションを行い、最適開閉度を決定しておく点に特徴がある。具体的には気象データ内にある日射量と、その気象データ日時より算出される太陽位置及びブラインド1の開閉度に対して空調機8が消費する空調エネルギと照明装置2が消費する照明エネルギとを事前に算出するのである。尚ブラインド1の開閉度は、実施形態1の場合と同様にブラインド1が動作する範囲の内、動作可能な開閉度であり、例えば、ブラインド1がスラット角0°〜90°の内、1°刻みに動作可能なブラインドからなる場合では、0°,1°,2°,3°,…,90°となる。そして事前のシミュレーションによって算出された空調エネルギと照明エネルギとの総和である総エネルギ消費量が最小となるブラインド1の開閉度を決定し、上述の日射量とブラインド1の開閉度との関係、省エネルギのブラインド1の開閉度、グレア感を考慮したブラインド1の開閉度を、ブラインドIcont11に付設する最適開閉度テーブルTBに格納し、これらを数日間のデータに関して繰り返し実施する。ここで最適開閉度テーブルTBに格納するブラインド1の開閉度が全開及び全閉以外で総エネルギ消費量が最小となる日射量の最小値以上が存在する領域を安定領域、それが存在しない領域を不安定領域と定義しておく。
【0046】
図10はエネルギシミュレーション装置18のシミュレーションのフローを示しており、実施形態1でのシミュレーションとの相違は図5のフローチャートにおけるステップS11の代わりにステップS10とステップS12との間に省エネルギ最適化演算の準備のステップS100を設けるとともに、ステップS19の代わりに最適開閉度テーブルTBに日射量(照度)の関係、省エネルギのブラインド1の開閉度、グレア感を考慮した開閉度を書き込むステップS101を設け、ステップS100とステップS101との間において各時刻の年間シミュレーションのためのループ(ステップS102−S103)を構成し、また照明エネルギの予測(ステップS13)及び空調エネルギ(S14)の予測シミュレーションに当たって、気象データ(時刻と日射量(照度)を関係付けたデータDA)を用いる点にある。
【0047】
而して日射遮蔽制御装置の稼動時において、ブラインドIcont11の最適開閉度取得部14は、日射状態取得部12で取得した現在の日射量(照度)が安定領域に存在する場合、最適開閉度テーブルTBのデータにおいて安全領域に対応した省エネルギに最適な開閉度を採用する。また不安定領域に位置する場合は、直射光が入射しない若しくはグレア感を基準値以下になるように開閉度を調整して採用する。
【0048】
尚不安定領域については図11(a)に示す丸囲い内の安定領域のデータを総エネルギ消費量との統計的処理した結果に基づいて図11(b)に示すように不安定領域まで外挿させて日射量と最適開閉度との回帰式を作成し、不安定領域に日射量が存在する場合には、その回帰式を参照し、省エネルギの最適な開閉度を決定するようにしても良い。この場合グレアを考慮した開閉度に関しては、日射量と最適開閉度の関係に特別な処理は加えない。
【0049】
而して制御部15は実施形態1と同様に最適開閉度取得部14で採用・決定されたブラインド1の開閉度と、過去のブラインドの開閉度とを比較して、予め設定している設定値以上にブラインド1の開閉度が変化しないように制限を加えながら。最適な開閉度でブラインド1のスラット1aの角度制御を行う。尚日射量とブラインド1の開閉度の関係式を用いて制御を行う場合、日射量の変化に敏感に応動する場合も想定されるため、図12に示すように過去の照度とその照度を中心とする±α[lux]を祖父度の変換に対する不感帯とし、この不感帯に存在する場合は制御を行わないようにしても良い。
(実施形態3)
実施形態1、2ではビルオートメーション専用の伝送線を用いて各Icont7,10,11,16とフロア統合コントローラ17との情報授受を行うを行うようにしているが、本実施形態では図13に示すようにイーサネット(登録商標)を用いたLAN19を用い
て接続し、例えばブラインドIcont11にWebサーバを搭載し、LAN19に接続されているパーソナルコンピュータからなる個人端末PCや、パネルスイッチ装置PSからHTTP(HyperText Transfer Protocol)を用いてWebサーバにアクセスしてWebサーバが提供するブラインドIcont11側のホームページを閲覧することができるようにし、例えば個人端末PCやパネルスイッチPSからブラインドIcont11の運転状況を変更することを可能とすることで、ユーザーが眩しさレベルを自由に設定することもできるのである。
【0050】
上述の実施形態1〜3ではベネチャンブラインドからなるブラインド1を用いた場合について説明したが、スマートウィンドウやその他の開閉度を調節できるブラインドにも本発明は適用できる。
【0051】
ところで、エミット(EMIT(Embedded Micro Internetworking Technology))と称する機器組み込み型ネットワーク技術(機器に簡単にミドルウェアを組み込んでネットワークに接続できる機能を備えるネットワーク技術、以降、EMIT技術と称する。)を用いることで、携帯電話、PC(Personal Computer)、PDA(Personal Digital Assistant)、PHS(Personal Handy phone System)等の外部端末(図示せず)から様々な設備機器(照明装置、空調機、動力装置、センサ、電気錠、Webカメラ等、以降、EMIT端末と称する。)<図示せず>にアクセスして、EMIT端末を遠隔監視・制御することができるシステムがある。
【0052】
尚、EMIT端末は、マイコン搭載の組み込み機器であり、機器組み込み型のネット接続用ミドルウェアでありEMIT技術を実現するEMITソフトウェアが搭載されている。
【0053】
上述のEMIT技術を応用したシステム(以降、EMITシステムと称する。)としては、外部端末がインターネット上に設けられたセンタサーバ(図示せず)経由でEMIT端末を遠隔監視・制御する構成のものや、センタサーバを介することなく、例えばEMITソフトウェアが搭載された外部端末から、直接各EMIT端末にアクセスしてEMIT端末を遠隔監視・制御する構成のものを挙げることができる。
【0054】
そしてEMITシステムによって、例えば、建物(戸建住宅、マンション、ビル、工場用等)<図示せず>内に上述のEMIT端末を分散配置させて、外部端末からEMIT端末の状態を遠隔から監視することで、建物全体のエネルギ管理や、建物内のガス、水道、電気の遠隔検針を行うことも可能となる。
【0055】
そこで上述の本発明の実施形態1〜3に係る日射遮蔽制御装置を上述のEMITシステムを用いて構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施形態1のブラインドIcontのブロック図である。
【図2】実施形態1の概略構成図である。
【図3】実施形態1の動作説明用フローチャートである。
【図4】(a)は実施形態1にて用いる太陽位置の算出説明図、(b)は太陽と窓面との関係説明図である。
【図5】実施形態1の最適開閉度取得部の動作説明のフローチャートである。
【図6】実施形態1の空調エネルギ及び照明エネルギとブラインドの開閉度との関係説明図である。
【図7】実施形態1のブラインドの開閉度制御の動作説明用フローチャートである。
【図8】実施形態1のブラインドの開閉度の状態における空調エネルギ、照明エネルギ及び総和エネルギとブラインドの開度との関係説明図である。
【図9】実施形態2に用いるブラインドIcontのブロック図である。
【図10】実施形態2の最適開閉度決定のシミュレーションのフローチャートである。
【図11】実施形態2の最適開閉度取得部の動作説明図である。
【図12】実施形態2の制御部の動作説明図である。
【図13】実施形態3のシステム構成図である。
【図14】従来例の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ブラインド
6 照度計
8 空調機
11 ブラインドIcont
12 日射状態取得部
13 動作モード取得部
14 最適開閉度取得部
15 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機と照明装置とが備えられた対象エリアに設けられ、該対象エリアへの日光の入射を遮蔽手段の開閉度で制御する日射遮蔽制御装置において、
日射状態を取得する日射状態取得部と、前記日射状態に対して前記空調機の消費する空調エネルギと前記照明装置の消費する照明エネルギとの和である総エネルギ消費量が最小となる前記遮蔽手段の開閉度を調節する制御部とを備え、該制御部は前記開閉度が全開若しくは全閉以外で前記総エネルギ消費量が最小となる前記日射状態のときにのみ前記最適開閉度となるように前記遮蔽手段の開閉度を調節することを特徴とする日射遮蔽制御装置。
【請求項2】
前記最適開閉度を取得する手段として、エネルギシミュレーション結果より予め得られた日射状態と最適開閉度との関係の内前記開閉度が全開若しくは全閉以外で前記総エネルギ消費量が最小となる前記日射状態の最小値以上の領域のデータテーブルを用いて最適開閉度を取得する手段を用いることを特徴とする請求項1記載の日射遮蔽制御装置。
【請求項3】
前記最適開閉度を取得する手段は、前記日射状態の最小値よりも小さい日射情報については、前記日射状態の最小値よりも大きい領域での前記開閉度と前記総エネルギ消費量との関係を統計的処理した結果に基づいて外挿した値を用いることを特徴とする請求項2記載の日射遮蔽制御装置。
【請求項4】
前記最適開閉度を取得する手段としては、エネルギシミュレーション結果により予め取得した日射状態と最適開閉度との関係の内前記開閉度が全開若しくは全閉以外で前記総エネルギ消費量が最小となる前記日射状態のときに、グレアが生じない最大の開閉度とする手段を用いることを特徴とする請求項1記載の日射遮蔽制御装置。
【請求項5】
前記最適開閉を取得する手段は、前記日射状態の変化が所定の最大変化量よりも大きい場合に 前記日射状態を当該日射状態に前記最大変化量を加えた値に制限して前記最適開閉度を取得することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の日射遮蔽制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−120089(P2007−120089A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312022(P2005−312022)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー使用合理化技術実証研究 ネットワークエージェント型ビルトータル協調制御の実証研究」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】