説明

昇降式足場

【課題】建物の外壁とマストとの空間における作業性を向上させることができる昇降式足場を提供する。
【解決手段】建物11の外壁12に沿って鉛直方向に延在し、支持アンカー21により外壁12と所定の間隙を存して固定されたマスト2と、マスト2の配置エリアAを除いて水平方向に延在すると共に、マスト2に沿って昇降する昇降ステージ3と、外壁12とマスト2との間の配置エリアAに配設されるマスト前ステージ4と、を備え、マスト前ステージ4は、配置エリアAに臨む作業位置P1と配置エリアAから退避する非作業位置P2との間で、昇降ステージ3に移動自在に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁に面して構築される昇降式足場に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスト(架設柱)を支持アンカー(壁つなぎ)により既存建物の外壁に沿って取り付け、このマストに昇降機構を備えた昇降ステージ(上下移動ステージ)を昇降自在に設け、昇降ステージには既存建物の側に向けて補助ステージを必要に応じて設けるようにした昇降式足場が知られている(特許文献1参照)。
この昇降式足場では、既存建物と昇降ステージとの空間に補助ステージを設け、これを作業足場として使用することで、作業性および作業の安全性を確保が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−317661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の昇降式足場では、建物の外壁とマストとの空間に補助ステージが存在しないため、作業者にとって、マスト前における作業が困難となるだけでなく、安全性の確保が困難であった。また、ときには、昇降式足場の架け替えを要する場合もあり、多くの時間、労力および工費がかかっていた。
【0005】
本発明は、建物の外壁とマストとの空間における作業性を向上させることができる昇降式足場を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の昇降式足場は、建物の外壁に沿って鉛直方向に延在し、支持アンカーにより外壁と所定の間隙を存して固定されたマストと、マストの配置エリアを除いて水平方向に延在すると共に、マストに沿って昇降する昇降ステージと、外壁とマストとの間の配置エリアに配設されるマスト前ステージと、を備え、マスト前ステージは、配置エリアに臨む作業位置と配置エリアから退避する非作業位置との間で、昇降ステージに移動自在に取り付けられていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、建物の外壁とマストとの間の空間に設けられたマスト前ステージを作業足場として用いることができる。これにより、作業者にとって、マスト前における作業が行いやすくなると共に、作業時の安全性も向上する。また、作業性および安全性の観点から、昇降式足場の架け替えを行う必要もない。
さらに、マスト前ステージは、作業位置と非作業位置との間で移動可能に構成されているため、マスト前における作業時には作業位置とし、昇降ステージを昇降させる際には非作業位置とすることで、支持アンカーの固定位置を避けつつ任意の高さでマスト前の空間に作業足場を形成することができる。なお、作業位置におけるマスト前ステージは、昇降ステージに対し片側で支持されていてもよいし、両側で支持されていてもよい。
【0008】
この場合、マスト前ステージは、配置エリアを構成する昇降ステージの一対のマスト側縁端部間に掛け渡される作業位置と、一方のマスト側縁端部に退避する非作業位置と、の間で一方のマスト側縁端部に回動自在に取り付けられていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、作業位置と非作業位置との間でのマスト前ステージの回動を小さな力で簡単に行うことができると共に、作業位置におけるマスト前ステージを安定して支持することができる。また、外壁と平行な方向に回動するため、回動時にマスト前ステージが建物に接触することがない。
【0010】
また、この場合、マスト前ステージは、非作業位置において、一方のマスト側縁端部に起立した状態で維持されることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、昇降ステージの昇降動作時の振動等により、思いがけずマスト前ステージが作業位置に回動してしまうことを防止することができる。
【0012】
また、この場合、昇降ステージを昇降させる昇降機構と、マスト前ステージが作業位置にあることを検出する検出手段と、検出手段の検出結果に基づいて、昇降機構の駆動を禁止する昇降制御手段と、を更に備えたことが好ましい。
【0013】
この場合、検出手段は、リミットスイッチを有していることが好ましい。
【0014】
これらの構成によれば、マスト前ステージが作業位置にある場合、昇降ステージは昇降することができない。これにより、マスト前ステージが作業位置にある状態で昇降した際に、生じ得る支持アンカーとの衝突を確実に防止することができる。
また、検出手段が有するリミットスイッチにより、マスト前ステージが作業位置にある状態の誤検出を防止し、昇降ステージの昇降動作を確実に制御することができる。特に、機械的に作動するリミットスイッチは、光学系センサのように埃の付着等により誤作動することがない。
【0015】
また、この場合、マスト前ステージは、作業用の足場となる補助作業床と、補助作業床の外壁側およびマスト側に立設する補助手摺と、を有していることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、補助手摺を外壁側およびマスト側にのみ設けているため、マスト前ステージの上での作業者の邪魔になることがなく、かつ、安全性を確保することができる。また、補助手摺が、マスト前ステージを回動させる際の持ち手部分となり、当該回動操作が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る昇降式足場を示しており、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】マスト前ステージが作業位置にある場合の昇降式足場を示しており、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【図3】マスト前ステージが非作業位置にある場合の昇降式足場を示しており、(a)は平面図、(b)は(a)におけるB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態に係る昇降式足場について説明する。この昇降式足場は、建物の外壁に対し鉛直方向に延在して固定されたマストに沿って、昇降装置を備えた自走式の昇降ステージを昇降自在に設けたものである。
【0019】
図1に示すように、昇降式足場1は、建物11の外壁12に沿って鉛直方向に延在し、支持アンカー21により外壁12と所定の間隙を存して固定されたマスト2と、マスト2の配置エリアAを除いて水平方向に延在すると共に、マスト2に沿って昇降する自走式の昇降ステージ3と、外壁12とマスト2との間の配置エリアAに配設されるマスト前ステージ4と、昇降ステージ3を昇降させる昇降機構5と、昇降機構5等を制御する制御装置6と、を備えている。
【0020】
マスト2は、トラス構造を有する所定の長さのユニットを積み重ねて連結された架設の柱であり、地上に配設されたベース22上に立設し、建物11の最上部まで延在している。建物11の外壁12とマスト2との間には、鉛直方向に所定の間隔で複数の支持アンカー21が配設されている。マスト2は、平面視、二等辺三角形に形成されており、頂角を建物11側に向けて、複数の支持アンカー21を介して外壁12に支えられている。なお、マスト2の構成数は、建物11の大きさや昇降ステージ3の長さによって異なるが、本実施形態では、説明を簡単にするために、1本のマスト2を有する昇降式足場1について説明する。
【0021】
昇降ステージ3は、作業者の主要な足場となる作業床31と、作業床31の外周を囲むように立設する手摺32と、を有している。作業床31は、平面視矩形に形成されており、外壁12側から矩形に切り込まれ、マスト2が臨む配置エリアAとなる凹部33を有している。なお、マスト前ステージ4が配設される部分以外の凹部33の縁部分にも手摺32が立設している。
【0022】
図2および図3に示すように、マスト前ステージ4は、外壁12とマスト2との間の配置エリアAにおいて、凹部33の対向する縁部分(以下、「マスト側縁端部34」という。)の間に掛け渡すことで補助的な作業足場を構成するものである。マスト前ステージ4は、作業足場となる補助作業床41と、補助作業床41の外壁12側およびマスト2側に立設する補助手摺42と、を有している。なお、補助手摺42は、補助作業床41の全周に設けてもよいが、マスト前ステージ4の上における作業者の作業性および安全性を考慮して、本実施形態のように外壁12側およびマスト2側にのみ設けることが好ましい。
【0023】
また、マスト前ステージ4は、対向するマスト側縁端部34の間に掛け渡され、外壁12に平行な方向に作業足場を構成する作業位置P1(図2参照)と、一方のマスト側縁端部34に退避する非作業位置P2(図3参照)と、の間で一方のマスト側縁端部34に回動自在に取り付けられている。詳細に説明すると、補助作業床41は、一方のマスト側縁端部34側に固定された回動支軸部43により、その基端部分で回転自在に支持されている。また、他方のマスト側縁端部34側の作業床31の下側フレームには、マスト前ステージ4を作業位置P1に回動させた際に、補助作業床41の先端が当接する2つの掛合部44が設けられている。各掛合部44は、マスト側縁端部34からの突出する長さを調整することができるようにスライド自在に支持されており、補助作業床41の先端が当接する位置に調整されて固定されている。なお、掛合部44の配設数は任意である。また、当該掛合部44に代えて、補助作業床41の先端が補助作業床41に掛合するような構成としてもよい。
【0024】
作業者は、非作業位置P2にあるマスト前ステージ4を、回動支軸部43を回転中心として作業位置P1へと回動させ、補助作業床41の先端を各掛合部44に引っ掛ける。これにより、マスト前ステージ4が、外壁12に平行な方向に凹部33を塞ぐように渡され、高い安定性を有するマスト前の作業足場を簡単に確保することができる。他方、作業位置P1にあるマスト前ステージ4を、非作業位置P2に回動させると、補助作業床41(マスト前ステージ4)は、回動支軸部43に起立した状態で維持される。なお、マスト前ステージ4を作業位置P1と非作業位置P2との間で回動操作する際に、作業者は、補助手摺42を持ち手部分とすることで、当該回動操作を容易に行うことができる。
【0025】
このように、建物11の外壁12とマスト2との間の空間に設けられたマスト前ステージ4を作業足場として用いることができるため、作業者にとって、マスト2前における作業が行いやすくなると共に、作業時の安全性も向上する。また、作業性および安全性の観点から、昇降式足場1の架け替えを行う必要もないため、当該足場の架け替えに係る費用および時間を削減することができる。さらに、マスト2前における作業時には作業位置P1とし、昇降ステージ3を昇降させる際には非作業位置P2とすることで、支持アンカー21の固定位置を避けつつ任意の高さでマスト2前の空間に作業者のための作業足場を確保することができる。なお、本実施形態のマスト前ステージ4は、回動支軸部43と掛合部44とにより、対向するマスト側縁端部34の間で両持ち状態で支持されているが、回動支軸部43において十分な剛性および確実な回動規制を確保できるのであれば回動支軸部43側で片持ち支持するようにしてもよい。また、両マスト側縁端部34に、それぞれマスト前ステージ4を片持ち支持し、各マスト前ステージ4を観音開きとなるように構成してもよい。
【0026】
昇降ステージ3の手摺32には、非作業位置P2における補助手摺42に係合し、マスト前ステージ4の作業位置P1への回動を規制する回動規制部材45が設けられている。回動規制部材45は、矩形の板状の部材であり、その一端が、手摺32の最上部の下面に回転自在に軸支されている。マスト前ステージ4が非作業位置P2にある場合に、回動規制部材45を回動させて作業床31側に突出させ、補助手摺42と当接可能とする。これにより、マスト前ステージ4の作業位置P1への回動を規制することができるため、昇降ステージ3の昇降動作時の振動や強風等により、思いがけずマスト前ステージ4が作業位置P1に回動してしまうことを防止することができる。なお、非作業位置P2にあるマスト前ステージ4を、ベルト(バンド)等を用いて、昇降ステージ3の手摺32(または作業床31)に固定するようにしてもよい。
【0027】
図1に示すように、昇降機構5は、マスト2の昇降ステージ3側の面において鉛直方向に延在したラック51と、ラック51に噛み合うピニオン52と、ピニオン52を出力軸に軸着した昇降モーター53(ギヤードモーター)と、を有している。昇降モーター53は、作業床31の床下に組み込まれており、地上に設けられた電源設備54にケーブル55を介して接続されている。
【0028】
制御装置6は、昇降ステージ3の手摺32に取り付けられ、作業者が昇降機構5の駆動等を手動操作するための操作盤61と、マスト前ステージ4が作業位置P1にあることを検出する検出手段62と、検出手段62の検出結果に基づいて、昇降機構5(昇降モーター53)の駆動を禁止する昇降制御手段63と、を有している。なお、本実施形態では図1(b)において右寄りに操作盤61を配置しているが、操作盤61の取り付け位置は任意である。
【0029】
検出手段62は、いわゆるローラーレバー型のリミットスイッチ71であり、リミットスイッチ71は、マスト前ステージ4の回転軸部分の下側に取り付けられ、電気回路の開閉を行う内蔵スイッチを有するケース部72と、基端部をケース部72に回転自在に支持され、先端部が斜め上方に向くように付勢されたヘッド部73と、を有している。ヘッド部73の先端には、ローラー74が回転自在に取り付けられており、配置エリアAに臨んでいる。
【0030】
昇降制御手段63は、操作盤61と同一のケースに組み込まれ、操作盤61からの信号により、昇降機構5の駆動または停止を制御するものである。
【0031】
ここで、マスト前ステージ4が非作業位置P2にある場合、ヘッド部73は上方端に付勢された状態となり、ケース部72内の内蔵スイッチは「オフ」となる(図3(b)参照)。このとき、昇降制御手段63は、操作盤61からの駆動信号により、昇降機構5を駆動させる。
他方、マスト前ステージ4が作業位置P1にある場合、ヘッド部73のローラー74はマスト前ステージ4の底面に当接し、ヘッド部73は、下向きに回動し、ケース部72内の内蔵スイッチは「オン」となる(図2(b)参照)。このとき、操作盤61からの駆動信号があったとしても、昇降制御手段63は、昇降機構5を駆動させない。すなわち、マスト前ステージ4が作業位置P1にある場合、昇降ステージ3は昇降することができない。これにより、マスト前ステージ4が作業位置P1にある状態で昇降した際に、生じ得る支持アンカー21との衝突を確実に防止することができる。
【0032】
以上の構成によれば、建物11の外壁12とマスト2との間の空間においても、作業者は、効率良く、かつ、安全に所定の作業を行うことができる。また、リミットスイッチ71により、マスト前ステージ4が作業位置P1にある状態の誤検出を防止し、昇降ステージ3の昇降動作を確実に制御することができる。なお、リミットスイッチ71に代えて、防塵型のフォトセンサを用いることも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1:昇降式足場、2:マスト、3:昇降ステージ、4:マスト前ステージ、5:昇降機構、11:建物、12:外壁、21:支持アンカー、41:補助作業床、42:補助手摺、62:検出手段、63:昇降制御手段、71:リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁に沿って鉛直方向に延在し、支持アンカーにより前記外壁と所定の間隙を存して固定されたマストと、
前記マストの配置エリアを除いて水平方向に延在すると共に、前記マストに沿って昇降する昇降ステージと、
前記外壁と前記マストとの間の前記配置エリアに配設されるマスト前ステージと、を備え、
前記マスト前ステージは、前記配置エリアに臨む作業位置と前記配置エリアから退避する非作業位置との間で、前記昇降ステージに移動自在に取り付けられていることを特徴とする昇降式足場。
【請求項2】
前記マスト前ステージは、前記配置エリアを構成する前記昇降ステージの一対のマスト側縁端部間に掛け渡される前記作業位置と、一方の前記マスト側縁端部に退避する非作業位置と、の間で一方の前記マスト側縁端部に回動自在に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の昇降式足場。
【請求項3】
前記マスト前ステージは、前記非作業位置において、一方の前記マスト側縁端部に起立した状態で維持されることを特徴とする請求項2に記載の昇降式足場。
【請求項4】
前記昇降ステージを昇降させる昇降機構と、
前記マスト前ステージが前記作業位置にあることを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記昇降機構の駆動を禁止する昇降制御手段と、を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の昇降式足場。
【請求項5】
前記検出手段は、リミットスイッチを有していることを特徴とする請求項4に記載の昇降式足場。
【請求項6】
前記マスト前ステージは、作業用の足場となる補助作業床と、前記補助作業床の前記外壁側および前記マスト側に立設する補助手摺と、を有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の昇降式足場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−117242(P2012−117242A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266504(P2010−266504)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000150006)日本総合住生活株式会社 (35)
【Fターム(参考)】